フェダーイン・横島

作:NK

第7話




「あら〜令子ちゃ〜ん。珍しいわね〜何か用〜」

 妙神山から帰った次の日、美神令子は一体東京のどこにこんな膨大な土地があるんだ〜と絶叫したくなる豪邸にやって来ていた。
 同行は師匠の唐巣神父である。

「冥子、久しぶりね。叔母様はいるかしら?」

「え〜、令子ちゃん、私に〜会いに来てくれたんじゃ〜ないの〜?」

 美神の物言いにじわっと涙を浮かべるこの家の一人娘、六道冥子。
 ぷっつんすると従えている式神12神将を暴走させて周囲を破壊し尽くす困った女性である。

「だー!!用事が終わったらアンタとも話をするから泣くのはやめなさいー!」

 こんな所でいきなり暴走され巻き込まれてはたまらん、と必死に宥める。

「あら〜私に何の用〜?」

 玄関先であーだこーだしているうちに、冥子とよく似たおっとりとした雰囲気の和服姿の女性が現れる。

「ああ、六道の叔母様。実はちょっとお尋ねしたい事がありまして」

「そうなの〜。唐巣さんまで一緒に来るとは大切な事なのね〜」

 さすがにおっとりして見えるが、娘よりは数十倍しっかりしている六道婦人は美神達を応接間へと案内した。

「それで何を訊きたいのかしら〜?」

 出されたお茶を飲みながらのほほんと尋ねる六道婦人。

「叔母様、文珠ってご存じですか?」

「文珠〜? 文献では見た事があるけど、実物は見た事がないわ〜。あれを使える人間は少なくとも
 ここ100年はいないんじゃないかしら〜」

「お母様〜、文珠ってな〜に〜?」

 首を捻りながら尋ねる冥子。

「文珠というのはね〜要するに霊力を圧縮・物質化させたものよ〜。
 でもこのアイテムの凄いところは、珠に込める念(文字)によって様々な使い方ができるという、
 とても便利なものなのよ〜」

 年の功だけあってさすがに詳しかった。

「では六道婦人、念法という武術をご存じですか?」

 今度は唐巣が尋ねる。
 彼も美神に尋ねられてわからなかったのだ。

「念法〜? さあ〜聞いた事がないわね〜。
 名前の感じでは霊能と武術を合わせたようなものなのかしら〜」

 こちらはさすがの六道婦人も知らなかったようだ。

「でも〜令子ちゃん。どうしてそんな事訊くの〜? 何かあったの〜?」

 はっきり言って話しに付いてきているとは言い難い冥子が尋ねる。

「実は一昨日私は妙神山に修業に行ったのよ。何とか無事修業は終えたんだけど、そこで凄い
 霊能者に会ったの。その人物はそこの管理人、龍神の小竜姫の弟子だって言って住み込みで
 1年近く修行しているんだって」

 そう前置きをして自分が見た事を話して聞かせる美神。
 冥子はともかくとして、六道婦人はその重大性にすぐに気が付き真剣な表情になっていく(それでも笑顔なのだが)。

「そういう事で美神君は我々の常識を覆すような人物に出会ったのだそうです。文珠を使うと言うだけ
 でも100年に1人の逸材だというのに、身体の霊的中枢であるチャクラを自分の意志で自由に操作
 できる念法を修めようとしている青年。念法については未だ良く分かりませんが、彼と試合した
 美神君の話では、基礎体術でも常人を遙かに越えており美神君が手も足も出なかったそうです」

 話を引き継いだ唐巣が話を纏める。

「え〜令子ちゃんが子供扱いなの〜? それは〜凄いわね〜」

 反応するところがずれている冥子はおいて置いて、六道婦人も何やら考えているようだ。

「家の書斎にも念法なんて物が載っている本は無いわね〜。でもそれが本当なら凄い事よ〜。
 それこそ人間が下級であれば神族や魔族相手に互角に戦えるという事ですもの〜。
 是非私も会ってみたいわね〜」

「六道さんでも聞いた事がないとすると、念法について調べる事は難しそうですね。
 しかし人間が数百マイトもの霊力を持つ事ができるとは信じられないのですよ」

 唐巣が頭を振って困惑した表情を見せる。

「その横島っていう男の子は〜そのうち下界に降りてくるって言ったのね〜?」

「ええ、そう言っていましたよ。でも念法を修めてからだとも言っていましたけどね」

「才能がある人間が妙神山に長期間修行に行けば、小竜姫様が教えてくれるかもしれないな。
 しかしどういう物なのかわからない事には適性のある人間を捜す事もできない」

 正に打つ手無しという状況に俯く一同。

「小竜姫様の弟子だと言ったのよね〜。それなら神族絡みの事件が起きれば必ず現れるわ〜。
 その時は是非コンタクトを取らないといけないわね〜。それにもしかしたらGS試験を受けに
 来るかもしれないわ〜」

 当面、神族絡みの事件が起きた際には連絡を取り合う事、GS試験の受験者をチェックすること、でコンセンサスが取れる。
 今は1月末、もう後1ヶ月もすれば美神は再び横島と会う事になる。






「小竜姫様、ここですよ」

「そうそう思い出しました。あっ! 美神除霊事務所の看板がありました。あそこですね」

 5階に「美神除霊事務所」の看板が掲げられている雑居ビルを見上げる一組の男女。
 ごく普通の格好に青いインバネスを着た横島忠夫と、腰までのジャケットとミニスカート、黒いタイツという出で立ちの小竜姫である。
 約1年前にも一度来ているのだが、小竜姫はデート気分だったので道順まで覚えていなかったようだ。
 さすがに未来での記憶があるため、妙神山にいるときのような格好はしていない。
 時代考証は面倒なので、小竜姫は未来の記憶にあった格好に変化をつけてはいない。
 横島も女性の服装をコーディネイトすることなんぞできないのと、意外に小竜姫の格好が気に入っているので口を挟んでいない。
 自分に関してはごく普通のシャツにズボンだが、何故か青いインバネスを引っ掛けている。

『私の記憶にはこの場所の思い出はないんだけど……』

 ルシオラの意識が、平行未来でも全く経験のない美神の旧事務所への戸惑いを告げる。

「そりゃそうさ。未来ではこのビルはこれから起こる天竜童子の事件でメドーサに破壊されちまう
 からなー。ルシオラが生まれる前になくなっちまったんだよ」

『ふーん。でもここが最初の美神さんの事務所なのね。雰囲気は美神さんらしいけど…』

「そうさ。でも俺も人工幽霊1号のあの屋敷の方が記憶に残ってるから、ルシオラと同じような
 ものだよ」

『まぁいいわ。どうせ今からゆっくり見る事ができるんだから』

「そうだな。それと済まないけどまだルシオラの事を他の連中に知られるわけにはいかないんだ。
 美神さん達には勿論だけど、特にメドーサを始めとするアシュタロス麾下の魔族達に俺の正体を
 知られてはまずい。だから…話しかけられてもすぐには答えられないことが多くなるかもしれない。
 ……でも……怒らないでね………」

 途中までは格好つけて話していた横島だったが、段々声が小さくなりオドオドし始める。

『…………』

「あぁ…ルシオラ! 怒ったのか!? でもこれも俺達が勝つために必要な事なんだー!
 わかってくれー!」

 黙ってしまったルシオラを前に狼狽して情けなさ爆発の横島。

『クスッ…バカねヨコシマ。そんな事わかってるわよ。ちょっと意地悪しただけだってば!
 埋め合わせは必ずして貰うけど、魔族と戦ったり美神さん達と一緒の時はなるべく
 話しかけないようにするわ』

「済まないルシオラ……。必ず埋め合わせするからな!」

『楽しみに待ってるわ』

 そう言い残すとルシオラの意識は奥深く潜っていく。
 寂しさを感じる横島だが、やるべき事をしなければならないと意識を切り替えた。

「お待たせしました小竜姫様。って…小竜姫様?」

 放って置かれた事でちょっと頬を膨らませて拗ねている小竜姫を見て、可愛いと思う反面どうやって機嫌を取ろうかと考える。

「あぁぁ……小竜姫様〜。機嫌直してくださいよ〜」

 どうも横島も大事な二人の女性の前では、普段見せない情けなさが全開のようだ。

「クスッ…別に機嫌が悪いわけではありませんよ。ちょっと意地悪してみただけですから」

 その言葉を聞いてどっと疲れが出てしまう横島。

「しょ〜りゅ〜き〜さま〜〜」

 涙を流しながらジト眼を向ける。
 そんな横島を見てクスクスと笑い続ける小竜姫だった。
 結局、二人に同じようにからかわれてしまった横島。
 横島は所詮、小竜姫とルシオラの掌の上なのかもしれない。

「さて、冗談はこの辺にして行きましょうか」

 口調を改めて美神の事務所を見上げる小竜姫。

「そうですね。なるべく被害を少なくするために上手くやらないと……」

 横島もシリアスモードに表情を戻し頷く。
 二人は美神に会うためにビルへと入っていった。



ピンポ〜ン

 インターホンが来客を告げる。
 美神はデスクに座って書類を片づけていたが、顔を上げると近くで浮いているおキヌに声を掛ける。

「おキヌちゃん、お客さんみたいだから出てくれない?」

『わかりましたー』

 いつも通りのほんわかした笑顔で答えると、おキヌはフヨフヨと宙を移動してドアへと向かう。

『はーい、どちら様ですかー?』

「こちら美神除霊事務所ですよね?仕事を依頼したいんですが…」

『わかりましたー。今開けますー』

 幽霊なのに器用にドアノブを廻すおキヌ。
 彼女は霊体が安定しているため、物質にさわる事ができる。

ガチャ

 ドアを開けたおキヌは目の前に見知った顔を見つける。

『あー!? 小竜姫様に横島さん。お久しぶりですー。どうなさったんですか?』

「こんにちわ、おキヌちゃん。今日は仕事の依頼に来たんだよ」

『そーなんですか。じゃあ中へどーぞ』

 奥へと向かうおキヌに続いて中に入る横島と小竜姫。

「おキヌちゃん、誰だったの?」

 先に姿を見せたおキヌに尋ねる美神。

『はい。小竜姫様と横島さんですー。お仕事の依頼に見えたそうですよー』

 ニコニコと答えるおキヌ。
 妙神山以来なので懐かしい人に会えて嬉しいのだろう。尤もあれから1ヶ月ちょっとしか経っていないのだが……。
 その答えに合わせるように姿を現す小竜姫と横島。
 さすがに妙神山での格好とあまりに異なるので一瞬目を大きくしたが、確かに修業で世話になった二人だった。

「えーっ! どうして小竜姫様がわざわざこんなところまで?」

 人物の照合は終わったが、今度は神様がこんな所に来た理由が思い当たらなくて大きな声を出す。
 取り敢えずソファに座らせておキヌと一緒に給湯室へ退避する。

「取り敢えず何だかわからないけど、お茶は一番良いのにしてよ!! あ、私が持っていくから…!」

 そんな姿の美神を見て、さすがの美神さんも神様には弱いんだなぁ…、と苦笑するおキヌだった。

「それからおキヌちゃん、唐巣先生と六道の叔母様に連絡して。密かにね」

 いきなりヒソヒソと告げられた指示に、やっぱり美神さんだなぁ、と思ったのは秘密である。

「どーもお待たせしちゃって」

 非常に珍しい事に美神自身が笑みを浮かべながらお茶を持って出てくる。

「あっ! お構いなく。今日は忍びの用で来たのですから…」

 恐縮そうに返答する小竜姫。

「いえ、仕事の依頼なんですよね? だったらお客様ですから」

 営業用スマイルを浮かべる美神。
 この辺はさすがである。

「でも横島君も一緒なんて……大変な事でも起きたんですか?
 大抵の事は彼が一緒なら何とかなるでしょう?」

 横島の実力はわかっているので、素直に疑問を口にする。

「いえ、俺一人ではどうにもならないんですよ。
 今回の仕事は無駄に終わるかもしれないけど人数が必要なんです」

 内容はともかくとして、相変わらず緊張感のない口調と表情の横島。

「お話を伺いましょう」

 美神の言葉に促されるように一枚の写真を差し出す小竜姫。
 そこには妙神山での小竜姫とよく似た衣服を着ている小さな子供の姿が写っていた。
 しかし身分的にはより高い感じがする。

「この方は?」

「はい、我が主君・龍神王さまのご子息、天竜童子様です」

 言葉の意味はわかったが、話の展開がわからない美神。
 何故ここで龍神王の子供が出てくるのだろう?

「あのー、話が良く分からないんですけどー」

 美神の反応は当たり前の物だったろう。

「実は…数日後に龍神王様は地上の竜族達との会議のため、地上にやってまいります。ご降臨に
 際して今回はご子息を連れてこられる旨、連絡がありました。おそらく会議の間、殿下を私がいる
 妙神山に預けていかれることになると思うのですが、殿下は俗界に大いに興味をお持ちで大人しく
 待っているとは思えないのです」

「それって…こっそり抜け出して遊びに行こうとするってこと?」

「まぁ簡単に言えばそんなところです。妙神山には強力な結界が張ってありますから滅多な事では
 抜け出せないと思うんスけど、子供は時々思いもかけない方法を見つけたりしますからね」

 横島は美神の問いを肯定しながら砕けた口調で答える。

「ふーん、それで私達に何を依頼したいのかしら?」

「俗な言い方をすれば警備です。妙神山修業場の中は小竜姫様が、外は俺が警戒しますが、町中に
 潜り込まれると厄介なんですよ。だから美神さんには妙神山から下界に降りるルートを見張って
 貰うか、中で外に通じる場所を見張って貰い、万が一の時殿下を保護して頂きたいんス」

「地上の龍神族の中には、仏道に帰依した龍神王陛下を疎ましく思っている者もおります。
 特に未確認ですが、今回のご降臨に際しては殿下のお命を狙う計画もあると聞き及んでいます。
 私も万全の備えをしたいと思うのです」

 小竜姫が身内の恥を晒すような内情を話す。

「暗殺計画があるのなら、息子を連れてこなければいいじゃない」

 一番簡単な解決法を提示する美神。

「それができれば苦労はしません。
 確証がない以上、一度決まった公式スケジュールは変更できないんです」

「この辺は神界もお役所みたいなモンですからねー。結局とばっちりは下の者に来るんですよ。
 俺だって小竜姫様に修行でお世話になってなければ関わらないっスよ」

 そう言って肩をすくめる横島。

「最初は護衛をきちんと付けて、遊びに行きたいと言う所に連れて行こうという選択肢もあったんです
 が、襲撃があった時に周囲の人々に被害や迷惑を掛けるわけにはいきませんから……」

「確かにそうね。それに護衛する場合、対象に勝手に動き回られると守りきれないしね」

 美神も考えながら小竜姫の考えを肯定する。

「まぁ、一番良いのはこの子を抜け出させない事よねー。いくら襲撃を計画している連中でも妙神山に
 侵入はしないでしょうから」

「こちらも手は尽くしますが、子供っていうのはこっちの思いも付かない方法を使いますからね。
 ただ小竜姫様が言うには、天竜童子は未だ神通力に目覚めていないんで空を飛んだり、瞬間移動
 したりはできないそうです。だから麓に通じる道を見張れば何とかなると思うんスよ」

 横島も出し抜かれるつもりはないが、時空の修復力を侮っている訳ではない。
 何とか被害を最小限に食い止めてメドーサを排除しようと考えているが、天竜童子の脱走と町中での戦闘は避けられないのではないかとも思っていた。

「一応仕事料は一人100両を考えていますが、足りますでしょうか?」

 小竜姫がいきなり現在では使われていない貨幣単位で料金の提示を行う。

「はい? 小判かなんかで支払うんですか?」

「はい、そのつもりですがまずいですか?」

「いえ構いませんが、今の世の中小判はそのままでは使えないんです。両替しないといけないんで
 手取りが減るんですよ。もう一声上げて頂けません?」

 この辺は商売上手な美神の本領発揮である。

「はい。ではお一人200両でよろしいですか? それで…後数人、信用ができて腕の確かな方を
 お願いしたいんですけど心当たりはありますか?」

 さすが美神さん、と思っている横島だが小竜姫に任せて話しに参加してはいない。

「そうですねー。唐巣先生とこの前会ったピート、式神を使うGSが1人います。それぐらいで
 足りるでしょう」

「わかりました。人選は任せます。陛下がご降臨されるのは2日後です。明日には妙神山の方へ
 来ていただけるとありがたいのですが」

「お任せ下さい。精鋭を連れて行きますから」

 そう言って立ち上がった小竜姫と横島に営業用スマイルを見せて送り出す美神。

『ふふふ……他の連中のギャラは少しピンハネしましょう』

 尤も心の中ではこんな事を考えていたが……。



「こうやって色々手を打ってますけど、やっぱり天竜童子は結界破って逃げだすんスかね?」

 鬼門の運転する車にて妙神山へ帰還中、防音ガラスで仕切られた後部座席で小竜姫に話しかける横島。

「さぁ……? 私の記憶では、殿下は龍神王陛下の武器庫から天界最強の結界破りをくすねて使った
 んです。さすがに今回はボディーチェックを行って没収する予定ですけど……」

「俺は前から不思議だったんスけど、元々天竜童子の命を狙う計画があったんでしょう? もし妙神山
 から抜け出さなかったらどうするつもりだったんスかね? それにどうやって天竜童子が逃げ出した
 事を知ったんでしょう?」

 そう言われて眉を寄せる小竜姫。彼女も何か気が付いたのだろう。

「メドーサはプロです。最初から見張っていたならもっと早く見つけ出して殺しているでしょう。
 わざわざイームやヤームを雇って探させたのはヤツにとっても天竜が抜け出したのが予想外だった
 からです。天竜童子が妙神山を抜け出して小竜姫様が美神さんの所に行くまでどのくらいの時間が
 空いたんです?」

「えーと……確か一旦追いかけたのですが、東京まで電車に乗ったという事がわかったので取り敢え
 ず終点の駅近くの唐巣神父を訪ねたんです。美神さんは後が怖そうだったので最後の手段でした」

 一生懸命思い出しながら答える小竜姫。

「ということは、メドーサが抜け出した事を知って動き出したのは4〜5時間後って事ですね。となると
 小竜姫様達の動きを見て天竜が抜け出した事を知った事になる。ヤーム達が雇われたのがその前
 なのか後なのかはわからんが、メドーサかその仲間がその時妙神山の傍にいたという事か……」

 最後の方を自分の世界に入り込みブツブツと呟くように言う横島。

『じゃあ当初の暗殺計画では、メドーサは元々妙神山に侵入するか、何らかの形で天竜童子を誘い
 出そうとしていた可能性が高いわね』

 横島の首からかけた『伝達』と込められた双文珠(ネックレスのようにしてある)を通して、ルシオラの意識が代わりに横島の考えを口にする。
 小竜姫の意識はこの世界の小竜姫とリンクしているので、普段はあまり表面に出てこなくなっているため横島の考えが読みにくくなっているのだ。
 未来の世界では、ルシオラの意識も小竜姫の意識も同じように滅多に表には出てこなかったので、それに倣っているのだろう。

「成る程、言われてみれば確かにその通りですね。メドーサも殿下を探していたのですから、最初の
 計画にはなかったイレギュラーが発生したと考えるのが妥当ですね」

『じゃあヨコシマ! もし今回私達が天竜童子を抜け出せないようにすれば、本来の襲撃計画が実行
 されると考えているのね?』

「そうとしか考えられん。脱走を手引きするんでもない限り、隠密理に妙神山にいる天竜をどうにか
 する事などできない。もしかしたら龍神王が天竜を連れて会議に出ると考えていたのかもしれない
 が、それならメドーサの初動が遅すぎると思うんだ。ヤツの事だから会議場に天竜がいない時の
 方策ぐらい事前に立てていただろうし…」

 その後のメドーサの作戦を思い出してみると、天竜童子の事件は随分出たとこ勝負的な要素が多いように思われるのだ。
 小竜姫も理解して頷く。

「言われてみれば確かにその通りですね。私だって暗殺計画があるという情報を持っていたとしても、殿下が妙神山にいらっしゃれば何もできやしないと考えるでしょう」

「俺達の考えが当たってるとすれば、未来で起きた天竜童子の事件って結果的に最小限の被害で終わったのかもしれないっスね」

『そうねぇ……。何らかの形で結界を破られて密かに潜入でもされたら奇襲もいいとこよね』

「最初は妙神山に潜入するためにヤーム達を雇ったのかもしれませんね。竜族なら潜入しやすいとかあるんですか?」

 妙神山の結界や防御システムのことを詳しく知らない横島が尋ねる。

「いえ。そんな事はありません。あの二人を雇ったのは、メドーサが同じ竜神族故に龍神王陛下のこと
 を恨んでいる者の情報を持っていたせいだと思います」

「なら最初は実際に天竜を殺そうとは思ってなかったかもしれないという事か? 元々龍神王が天竜
 を連れてくると聞いて圧力を掛ける事を狙っただけということは………。いや、あのメドーサが
 そんな事で出てくるはずはない。では最初は会議場所の竜宮で襲撃する予定だったのか……?」

『それって希望的観測なんじゃない、ヨコシマ?』

「そうかもしれないが、どうも天竜を殺そうとしたときにメドーサ一人だったのが妙に思えてな。
 最初に俺達が考えたように妙神山を襲撃しようとしたなら、メドーサは一人でそれができると思った
 のかな? 妙神山には普段、小竜姫様しかいないから一人で充分だと考えるような甘いヤツとも
 思えなくて……」

 横島は悩んでいた。
 あの時のメドーサの作戦というか行動に整合性を見いだせないのだ。

「一番こちらに都合良く考えるのなら、実際は暗殺計画などなかった。何らかの手段で天竜童子の
 抜け出しを知ったメドーサが急遽作戦を考え行動に移った、ということですね」

「えぇ、そうも考えられます。ただこれは俺の勘ですが、やはり何らかの手段で天竜を殺そうとする
 ような気がします。堅牢な要塞の中にいる程、人は油断しますから。侵入する方法なら霊波迷彩服
 でも何でも着て自分の霊力を隠し、結界破りを使えば何とかなるんじゃないかな? 俺達はどうして
 も魔力や霊力を頼りに相手を見つけようとしますからね。
 問題は天竜を誘き出すのだとすると方法がわからない事ですね」

『天竜童子が逃げだそうとするのを防ぐのと、メドーサ等の魔族が侵入するのを防ぐ体勢を整えない
 といけないわね』

 車内での対策会議は妙神山に到着するまで続けられたが、天竜童子が抜け出さない場合のメドーサの作戦を読む事ができないまま一時中断を余儀なくされる。
 止まった車から降りる横島と小竜姫。
 今の横島ならば、文珠を使って鬼門の前まで一瞬で転移できる。
 自室へと戻った横島は、必ずメドーサが何かを仕掛けて来ると予想していた。
 それは確信にも近い物だ。
 前回は運が良かっただけなのだと、様々な可能性を考えれば考える程思えてくるのだ。
 そして色々と考えていた横島は一瞬その瞳に剣呑な光を宿し呟く。

「もう一つの問題は……今回でメドーサを倒してしまうか否か、か……」

 相手を殺すなら躊躇無く始末してしまわなければならない。

「もし……ヤツをここで殺した場合、GS試験の時に白竜寺に乗り込む魔族は誰になるんだろう……」

 暗闇の中でジッと天井を見据えながら思考を巡らす横島。
 そこには未来で特命課の鬼課長と呼ばれた横島を彷彿させる闘気が微かに滲み出ていた。



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