フェダーイン・横島

作:NK

第30話




「お待ちしておりました、美神さん。西条日本支部長から連絡を貰っています。どうぞこちらへ…」

 横島に遅れる事2時間。美神令子は香港の地を踏みしめていた。
 あれから可能な限りの事後処理を西条に任せ、唐巣神父から借り受けたピートを伴っての香港入りである。
 到着ロビーに現れた美神達の前に、スーツ姿のオカルトGメン香港支部の人間が2名出迎える。

「あら、ありがとう。タクシーを拾ってそっちに行こうと思ってたのよ」

「何しろ僕ら、地理がさっぱりわかりませんからね」

「そんなことないわ。私は旅行で何度かここには来ているから」

 日頃の生活レベルがはっきりとわかる会話をしつつ、二人はGメンの出迎えを先導に駐車場へと向かった。

「しかし、空港での賑わいを見ていると、この香港で魔族が動き回っているとは思えないわね。
 雪之丞達が保護した風水師はどうしているの?」

 歩きながら前を行くGメンに尋ねる美神。

「ウォンさんなら香港支部で保護しています。名前の通っている風水師の所には我々のエージェント
 が張り付いています。何かあれば連絡が入るでしょう」

 そう答えながらも歩みを止めずに先へ進むGメン。

「そう……ならいいんだけど。でもさぁ、行き先がちょっと怪しくない? 本当にこんな所に車を止めて
 いるのかしら?」

 そう言いながら表情を戦闘用へと切り替える美神とピート。
 その言葉を聞いて先導する二人の足がピタリと止まる。

「ほう…察しがいいな。まあ、こんな所に連れてこられたら気が付いて当たり前か」

 先程までと表情を一変させ、邪悪な笑みを浮かべて振り向く二人。
 もはや隠す必要もないのだろう、身体から魔力が滲み出ている。

「何となく雰囲気がヤバそうだったんでね。でも身分証明書は本物だったわ。本物の二人は
 どうしたの?」

 荷物を置いて神通棍を取り出しながら尋ねる。

「フフフ……。お前を迎えに来たオカルトGメンの二人は吸収させて貰ったよ。本来の目標はお前
 ではないのだが、せっかく網にかかった獲物だ。逃がしてしまうのは惜しいと思ってね」

 ニヤリと笑った右側の男の言葉と共に、グニャリと形を崩しながら一つになっていく男達。
 空港で張り込んでいたガーノルドはそれ程強くないが霊能者の二人連れを見つけたために、隙を突いて急襲し取り込んでいたのだ。

「美神さん……こいつは強いですよ!」

 こちらも戦闘態勢に入ったピートが真剣な表情で耳打ちする。

「そうみたいね。逃げるわよピート!」

 そう言いながら素早く踵を返して逃走を始める。
 実力も能力もわからない敵と、こんな不利な状況で戦闘する程美神は自惚れていない。

「フフフ……逃がすと思っているのか?」

 後ろから聞こえる嘲笑うかのような声に従い、前に立ち塞がる数名の男達。
 ゾンビ戦闘員である。

「くっ! すでに手を回していたって事ね!」

 振り返った美神の目に変化を終えた男、いや魔族が悠然と立っている姿が映し出される。

「そう言う事だ。大人しくするなら一人は生かしておいてやろう。どちらになるかは私が決めるがね」

 筋骨逞しい屈強な体格に、頭に2本の角を生やし硬そうな角張った顔をした魔族が冷たい笑みを浮かべる。
 畳んでいるが背中には蝙蝠のような翼が生えている姿は、先に日本に現れたゲランとも似て正に悪魔然をした格好と言える。
 溢れ出る魔力から、こいつの魔力レベルは日本で戦ったラフレールなどとは比較にならない程強い事が感じられた。
 尤もメドーサに比べれば低いのだが……。

「どっちにしても大人しく捕まりはしないわよ! ピート、雑魚を蹴散らして逃げるわよ!」

 その言葉と共に道をふさぐ4名に襲いかかる美神とピート。

「やれ! だが女の方は生かしておけよ。どうせ拷問するなら女の方がいいからな」

 命令に従いこちらも襲いかかるゾンビ達。

 ザシュ!
 バキッ!

「こいつらも強いですよ、美神さん!」

「わかってるわよ! でもあの魔族よりはいいでしょ!」

 相手の素手による攻撃(それでもバンパイアミストで霧状になったピートに傷を負わせるだけの威力を持つ)をかわしながら、神通棍、霊波砲で攻撃を仕掛けるが相手も巧みに避けるため膠着状態となった二人は徐々に追いつめられていく。
 動きが鈍くなったピート目がけて襲いかかるゾンビ達の手刀。
 だが間一髪、バンパイアミストで身体を霧状にして逃れたピートは、上空で再実体化すると唐巣から教わった攻撃を放つ。

「主よ、精霊よ! 我が敵をうち破る力を我に与えたまえ!! 願わくば悪を為す者に主の裁きを
 下したまえ…!!」

 ピートの身体に霊力が集まり出力が増大しているのを確認した美神はさっさと回避行動へと移る。

「アーメン!!」

 その言葉と同時に強力な霊力の稲妻が呆然と動きを止めたゾンビ達に襲いかかる。

「グワアアア〜!」

 強烈な光に包まれたゾンビの一体が文字通り消滅し、周りにいた2体も手傷を負って吹き飛ぶ。

「ほう……。バンパイアハーフであることを除いても大した物だ」

 眼を細めて余裕の発言をする魔族。

「チャ〜ンス!」

 手傷を負った一体に霊力を集束させた神通棍を突き刺して止めを刺した美神は、荷物を掴むと脱兎の如く逃げ出す。

「僕も離脱しなければ…」

「残念ながらお前を逃がすわけにはいかん!」

 ドンッという踏み込みの音と共に羽を広げた魔族が瞬時に彼我の距離を詰める。
 その素早さに対応できないピート。

 ギューン!

 振り返ったピートが思わず目を瞑った時、唸りを上げて空気を斬り裂き飛来するモノがあった。

「むっ!? 新手か?」

 魔族は目聡くそれを見つけると、魔力を集中してシールドを張る。
 だが飛来した薄い円盤状の霊力の塊はシールドを苦もなく斬り裂き、魔族に迫ってきた。

「バカな!? 私の魔力シールドを?」

 結果に驚きながらも、考えるより先に回避行動に入る魔族。

「ピート、今のうちに逃げろ!」

 突然の事についていけないピートの耳に懐かしい声が聞こえてきた。

「横島さん!?」

「はやく身体を霧にして逃げるんだ。お前ではアイツに勝てない」

 すぐ横に姿を現した横島の言葉に頷くと、再び身体を霧状にして離脱するピート。



「よし、全く世話を焼かすぜ。さて……お望みの目標が現れてやったぞ。名前ぐらい名乗ったら
 どうだ?」

 魔族が避けた事で下にいたゾンビ共を吹き飛ばしたサイキック・ソーサーの威力を確認すると、空中に浮かんでいる魔族に視線を戻して穏やかに話しかける横島。

「フフフ……。確かに私の真の目標が姿を現したようだ。メドーサを倒したのはお前のようだな。
 我が名はガーノルド! マンティア様の命によってお前を倒す!」

 強敵と戦う事に興奮を隠しきれないまま、嬉しそうに言い放つガーノルドの言葉を聞いた横島は冷静に呟く。

「マンティア……。それが元始風水盤作戦を指揮している魔族の名か…。メドーサに比べれば配下
 を巧みに使うようだな」

 声自体は小さなモノだったが、それを聞いたガーノルドは表情を変える。

「貴様…! なぜ我らの計画を知っている!?」

「ふん。風水師の生き血を針に吸わせるなんて事をすれば、大体のところは見当が付くさ。どうやら
 日本に現れた2鬼と合わせて配下は4鬼というところか…」

 次々と自分達の計画や陣容を看破する横島に、微かに恐れを抱くガーノルド。
 横島の言った事は半分ハッタリで半分は記憶の情報を持っているからなのだ。
 だが、この一言はガーノルドの心に疑心を生むに十分だった。

「ラフレールが喋ったのか?」

「ああ、あの植物型魔族のことか? いや、だがあれが陽動だって事はすぐわかったさ。だから
 仲間を香港に先行させて調べたんだけどな」

「そうか。ラフレールだけではなくゲランをも倒したと言う事か。おもしろい、お前の力を見せて
 貰おう」

 そう言うと魔力を開放して戦闘態勢に入るガーノルド。

「ほう、魔力レベルは約1,300マイトといったところか……。では俺もチャクラを解放しよう」

 そう言って7つあるチャクラを全開させる横島。
 あっという間に1,000マイトまで霊力が上がる。
 さらに右手には既に愛刀飛竜が握られている。



「信じられん……、人間がそれ程の霊力を持つなど…。だがこれならラフレールやゲランを倒した事
 は無論、メドーサを倒した時に一役買ったと言う事も納得できる」

 唸るように呟くガーノルドの言葉に苦笑する横島。
 ガーノルドとしても、横島が神族に加勢したならばメドーサとて敵わないだろうと思い呟いたに違いない。
 この魔族、メドーサを俺一人で倒したと知ったら信じるかな? などと思ったのだ。

「ふっ…あまり人間を舐めない事だ。それに俺は普通のGSとはひと味違うぞ!」

 そう言って飛竜に練り上げた霊力を込めていく。

「行くぞ!」

「おおっ!」

 身体から放出される霊力と魔力によって光跡を残しながら斬り結ぶ二人。

 ギンッ! ガキッ! バキッ!

 素早く空中を飛翔しながら剣を交えるが、横島の実力に驚いているガーノルド。
 その身体が発している霊力では、自分の方が数百マイトほど上の筈なのに、その剣に込められた霊力は自分を圧倒しているのだ。

『くっ!? そんなバカな?』

 魔族のガーノルドが自ら持つ魔剣に込めている魔力は、その魔剣自体の魔力(250マイト)に自分の攻撃用魔力(650マイト)を上乗せしたモノである。
 相手の霊力を考えれば、魔族を相手にしたとしても敵を斬り捨てる自信があった。
 だがどうやら相手が持つ木刀はかなりの霊力を持つ霊刀なのだろう。
 斬り結んでも刃こぼれ一つするでもなく、こちらの魔力を吹き飛ばすような強烈な一撃を加えてくる。

「はっ!」

 斬り上げてくる横島の一撃を辛うじてかわすと、同時に後方に下がり距離を取る。

『剣の腕はまあまあか。だが久しぶりに1,000マイトを超す魔族が相手だな』

 油断無くガーノルドを見ながら冷静に分析する横島。
 横島の愛刀飛竜は、基礎となる霊力が横島の基礎霊力とほぼ同等の約150マイト。
 だが飛竜の本当の価値は、横島から供給される霊力をほぼ際限なく取り込む事ができる事なのだ。
 戦闘状態である今、飛竜は約1,200マイトの霊力が込められている。
 つまり生身での霊力差がちょうど逆転している状況なのだ。

「なかなか強いようだが……俺には勝てないぞ」

 表情を変えずに相手の心理を揺さぶりにかかる横島。
 大抵の魔族は、人間相手にこれを言われると逆上して冷静さを失う。
 さらに誘うように飛竜の切っ先を下げて呼吸を落ち着かせる。

「ふっ…。その揺さぶり、戦いの駆け引き、どれも恐るべきモノだ。この場でお前と戦う事は本来の
 任務から外れる行為。悔しいがここは一旦引き揚げるとしよう」

 そう言って冷静さを保っているガーノルドに、ほう、という眼差しを向ける。
 こんなに冷静な魔族は珍しいのだ。

「懸命な判断だと褒めておこう。だが俺がこのまま黙って見逃すと思うのか?」

 倒せる時に全力で倒すのが横島のモットーである。
 今回も自分から仕掛けた戦いではないが、ガーノルドを黙ってこのまま逃がすつもりはなかった。

「お前がそんなに甘くないと言う事はわかるさ。だが私も逃げ道ぐらいは用意している」

 そう言うとガーノルドはひょいと握り拳ぐらいのモノを放り投げる。

「…っ! それはスタングレネード!」

 まさか人間の武器を使うとは思っていなかった横島だが、咄嗟に後退して左腕で眼を覆う。
 さらに左手には単文珠『静』を握りしめる。

 ピカッ! ドウウゥゥン!

 強烈な閃光と爆音が響き渡る中、この漸く作りだした横島の隙をついて瞬間移動するガーノルド。
 横島としてもこの場で倒しておきたかったのだが、これではやむを得ない。
 スタングレネードをまともに食らえば気絶するのは間違いないだろう。
 通常兵器は霊波シールドで防ぐ事は難しいのだ。
 咄嗟に目を瞑った事と文珠で音を遮断したために、即座に戦闘態勢を再構築する事が可能だった横島は周囲の気配を油断無く探るが、周囲には既に魔力も敵意も感じ取れなかった。

「ちっ! どうやら上手く逃げたらしいな……。
 しかし、まさかスタングレネードを使うとは思わなかった。油断と言う事か……」

 戦闘のために高めていた気を発散させ。飛竜を自分の意識下へと仕舞い込む。

「さて、取り敢えず美神さんとピートを無事にピックアップできたかどうか確認しないとな。でも今回も
 しゃしゃり出てくるとは面倒な事になったモンだ……」

 そう呟くと、文珠を取り出して自分達の根拠地へと転移する。
 横島とガーノルドの空中戦を目撃した市民によって、空中で激しく交錯する光を見たとの噂が広まるのは後日の事……。






「危ないところだったな、美神の旦那、ピート」

 現れた雪之丞に案内されてワンボックスに乗り込んだ美神達は、戦闘によって汚れた格好のままシートに沈み込んでいた。

「はあ……助かったわ。それにしてもいいタイミングで現れたわね?」

 顔だけ向けて雪之丞に問いかける美神。
 GS試験以来、久しぶりに会ったピートはかつての対戦相手である雪之丞に対して複雑な表情を見せている。

「まあ、こっちにはヒャクメがいるからな。アンタ達が空港に着いたのを偶々見つけたんで、面倒な事
 になる前にピックアップしようとした矢先にコレさ」

「面倒な事…?」

 雪之丞の言葉に引っ掛かり問い質すピート。

「ああ、今俺達は敵の根城に強襲を掛けるために準備中なんだ。この段階でオカルトGメンに下手に
 動かれるとまずいのさ」

「そう……もうそこまで調べてあるのね。と言う事はあなた達だけで事を進める気?」

「いや、そんな事はねーよ。本当は今夜にでも横島と小竜姫が香港支部に出向いて、今回の事件の
 背景と敵の狙い、さらに攻撃への協力を依頼しに行く予定だったのさ。
 まあ、旦那達が敵に襲われたせいで夜中になっちまうけどな」

 肩をすくめながら答える雪之丞。

「そりゃあ悪かったわね。でも横島君には逐一報告をしていたんでしょ?」

 言葉とは裏腹に口調はつまらなそうだ。
 やはり自分達が蚊帳の外に置かれていたのは悔しいのだろう。

「当たり前だろう。俺達は情報収集のためにわざわざ香港に先行したんだぜ。まあ実際に報告する
 ような事が起きたのは昨晩だけどな」

「その事は西条さんから聞いたわ。それで…私達はどこに向かっているの?」

「俺達の滞在先さ。まあ裏関係の俺の知り合いの所だけどな」

 そんな会話をしながらも、車は順調にネオンが瞬く町中を走り抜けていく。

「それで、小竜姫様とヒャクメさん、九能市さんもそこにいるのか?」

 身体を起こし、未だに取るべき態度を決めかねながら尋ねるピート。

「ああ、敵本拠地攻撃のために最終ミーティング中だったからな。全員そこにいるさ」



「やっぱり来てしまったんですね、美神さん」

「来た早々ピンチだったのねー」

 部屋に入ってきた美神とピートを出迎える小竜姫、ヒャクメ。

「まあ無事に辿り着いたんだから良しとしましょう」

 転移で先に戻ってきた横島も苦笑しながら言う。

「まさかGメンの身体を吸収して化けているとは思わなかったわ……。あんな能力を持つ魔族なんて
 始めてよ」

 忌々しそうに言う美神。
 思い出しても悔しいのだろう、パシッと自分の掌を拳で叩く。

「憑依というわけでもなかったし、あれはちょっと予想外でしたよ」

 ピートも疲れたように答える。

「でもあそこで捕まっていたら、おそらく拷問に掛けられた末に妖魔と融合させられるか、身体を
 乗っ取られるか、きっとろくでもない未来が待っていたのねー」

 ヒャクメが言うとなかなかに真実味がある。
 ひょっとしたら敵の本拠でそういう光景を見たのかも知れない。

「えっ…! そんな連中なの、今回の敵って?」

 ちょっとギョッとしたように尋ねる美神に悪戯っぽそうな笑顔を向けるヒャクメ。

「別にそんな事実はないのねー。でも拷問に掛けられる可能性が高いのは本当ですよー。その後
 ゾンビにされる可能性もね」

 その答えに一瞬怒った美神だったが、あの魔族が拷問に掛けると言っていた事を思い出し思わず唾を飲み込む。

「ヒャクメも人が悪いなー。そんなに美神さんを怯えさせなくてもいいじゃないか」

 楽しそうに美神を苛めるヒャクメを窘める横島。

「いえ、捕まればただでは済まない事は事実ですから。それぐらいの心構えはしなければ
 なりません」

 戦いを前に本来の生真面目モードに入った小竜姫がやけにきっぱりと告げる。

「そうね、小竜姫様の言う事は正しいわ。気持ちを切り替えましょう。ここは敵地なんですもの」

「そうですね」

 二人が頷き合っていると、姿を消していた雪之丞と九能市が自分の装備他を抱えて戻ってきた。

「用意は完了ですわ。いつでも乗り込めますわよ」

「フッフッフッ……腕が鳴るぜ…」

 九能市の表情は、少し硬い声音と同様に戦いを前にやや緊張気味であり、雪之丞は不適な台詞同様に眼が少しヤバメだ。

「あら、死津喪比女の時の装備を持ってきているの?」

 持ってきた物を確認して驚く美神。

「それはそうですよ。今回は複数の魔族相手の戦いです。装備はしっかりと準備しておかないと
 命に関わりますしね」

 横島が真面目な表情で答える。

「横島君達はそれでいいとして、私とピートはどうしようかしら? 取り敢えず私はフル装備でいく
 しかないけど、ピートはどうするの?」

「そうですね……。元々僕はあまり道具を使いませんから、霊力さえ回復すれば問題ありません」

 話しながらも準備に余念のない美神と、静かにして回復に勤めるピートが対照的ではあるが、そんな二人が落ち着くのを待ってミーティングが開始される。

「これが目標である李王冥の屋敷です。これは航空写真ですが、見たとおりかなり広大な敷地を
 持った豪邸なのねー。さらに霊的な結界が張られ、屋敷の中心からは放射状に無数のセンサー網
 が伸びています。忍び込む事はまず無理ですねー」

 ヒャクメの説明と共に、PCのディスプレイに映し出された屋敷の全景にセンサーを現す赤い線や、結界を現す青い円が現れる。

「なかなか厳重なセンサー網だな……」

「これは軍事基地並みね……。とても潜入なんて無理だわ……」

「無理矢理忍び込んでも、屋敷の中に入る前に補足されてしまいますわ……」

 ヒャクメよりもたらされた情報に基づいてああでもない、こうでもないと議論が戦わされる。
 しかし効果的な案は一向に出てこない。

「大体意見は出尽くしたと思うけど、俺と小竜姫様が考えた作戦を話していいかな?」

 有効な作戦を打ち立てられなかった雪之丞達に否はない。
 全員が横島に注目する。

「密かに潜入することは不可能だ。ならば正面から堂々と攻撃しようと思う」

 まるで簡単な事のように言う横島。

「そんな! 無茶よ! あれだけの警戒網なのよ!!」

「横島さん、特攻する気ですか!?」

 即座に声を上げる美神とピート。

「でも潜入は不可能だって言うのは、全員が認識している筈。それなら正面から進むしかない
 でしょう?」

「それじゃあ、敵の警備システムを丸ごと相手にするじゃない!」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。正直に攻めるワケじゃないですから」

 悪巧みを考えている時の邪な笑みを浮かべる横島。

「えっ!? …だって正面から攻撃するって……?」

「ええ、それはその通りです。正面からは俺とヒャクメ、美神さんとピートで行こうと思います。
 小竜姫様は敵の親玉と対決する時まで休眠モードになってエネルギーの消費を防いで
 もらいます。ヒャクメが同行するのは、敵の霊的防御システムを見破るためです。捕縛魔法陣
 なんかに捕まったら間抜けですからね」

 その言葉に頷きつつも、雪之丞と九能市がなぜ抜けているのかわからず首を捻る美神。

「俺と美神さんは『結界破り』を持ちます。万が一、敵の火角結界みたいな物に捕らえられても、
 コレがあれば脱出できますからね。大丈夫ですよ、俺が敵の殆どの戦闘員を引き受けますから、
 美神さん達の負担はかなり軽いはずです。まあ派手にやろうと思ってますよ」

 最後は人の悪い笑みを浮かべる横島にピンと来る美神。

「成る程! 横島君や私達は囮なのね!? 正面から侵攻して敵の警備戦力を引きつけて殲滅。
 しかる後に退路を確保しつつ屋敷内に侵入するということか」

「正解です、美神さん。でもそれだけじゃ無いんですよ……」

 額を寄せ合ってヒソヒソと続けられる打ち合わせ。
 最後には全員が納得し、決行は明日の正午と決まった。

「そういえば美神さん、ひょっとして西条さんもこっちに来る気じゃないでしょうね?」

 打ち合わせ終了後、ふと思い出したように尋ねる横島。

「あっ! そう言えば来るはずね。でも私が到着の連絡を入れてないから早く来るかも……」

 色々あってすっかり忘れ去っていた事を思い出す美神。

「早く連絡しないと、美神さん達の二の舞になりかねませんわ! 何ならまた空港に迎えに行き
 ましょうか?」

 九能市の申し出に少し考えた横島は決断する。

「今度は俺と氷雅さんで行こう。後を付けられると嫌だから、文珠を使った転移で行く事にしよう」

 そう言って小竜姫に視線を向ける。
 黙って頷く小竜姫。

「美神さん、至急連絡を取ってみてください。通じなかったら空港を張り込まなきゃいけない」

「わ、わかったわ!」

 国際携帯電話を取り出して西条を呼び出す美神。

「あっ! 西条さん、今どこ?」

 どうやら連絡が取れたようで暫く話してから横島の方を向く。

「明朝8時に成田を出発する予定ですって」

「そうですか。作戦開始は10時からですから間に合わないですね。小竜姫様、鬼門に今すぐ連れて
 きて貰いましょうか?」

「そうですね。単独行動は危険ですから……。ついでにドクター・カオスも連れてきて貰いましょう」

 その一言に一瞬眼を細める横島。
 今回の敵であるマンティアという魔族はなかなかに狡猾だ。
 ひょっとすると間に合わずに元始風水盤が作動するかもしれない。
 そうなるとドクター・カオスの知力が必要となるのだ。

「保険ですか……。それがいいでしょうね」

 瞬時に小竜姫の言いたい事を悟った横島は同意して頷く。



 そうして待つ事30分。

 ヴュウウウウ

「お待たせしました姫さま! 」

 部屋に光が迸り、2体の鬼が空中から現れる。

「妙神山守護鬼神、右の鬼門!」

「同じく左の鬼門!」

「「姫さまの命によりただ今見参!!」」

 ズシャッと音を立てて着地を決める鬼門達。
 久しぶりの出番に嬉しさを隠せないようだ。

「よー、お疲れさま。待ってたぞ二人とも。それで荷物の方は?」

 横島が友人にでも話しかけるように気軽に手を上げて労う。

「おお、横島! 大丈夫、ちゃんと持ってきたわ」

「小竜姫様、お変わり無いようで……」

「私は大丈夫ですよ。それより早く西条さんを」

 苦笑しながらも、自分を心配する鬼門に安心するように伝える小竜姫。

「はい。では確かにお届けしました。では我らはこれで」

 いきなり空中にピラミッドを上下に張り付けたようなコンテナを出現させると、鬼門達は再び瞬間移動で戻っていった。

 バシュッ!!

 コンテナが吹き飛ぶように解体され、中から現れる西条。

「ふーむ、早いな……」

 そう言って辺りを見回すが、やや状況に付いていけていないようにも見える。

「西条さん、無事に着いたわね」

 そんな西条に近付いて嬉しそうに手を取る美神。

「ああ、令子ちゃん。着いた早々襲われたそうだね。大丈夫かい?」

「ええ、横島君達に助けられたから……。これで明日の攻撃に西条さんも参加できるわね」

「もう少ししたらドクター・カオスも着くでしょう。そうしたら作戦を説明します」

 そう言った横島の言葉が終わるや否や、マリアに掴まったカオスが天井を突き破って墜落してきたのはお約束だろう。

 こうしてGS側の陣容は整ったのだった。






「何!? メドーサを倒すのに力を貸したという人間が現れたと?」

「はっ! その実力は恐るべき物で、霊力は1,000マイトを超え神族の装具を身に着けております。
 攻撃力も強力で私が圧倒されました」

 李王冥の屋敷の一室で椅子に座って報告を聞くマンティアと、恭しく頭を下げて報告をするガーノルド。
 どちらも魔族本来の姿ではなく人間形態だ。

「ラフレールが倒された事は私にも伝わった。遅かれ早かれ姿を現すと思ったが、思ったより
 早かったというわけか……。奴らは間違いなくここを突き止めて攻撃してくるだろう。
 その前に針を完成させて元始風水盤を作動させなければならん!」

「では私が陽動をかけますか?」

 時間を稼ぐべく、こちらからオカルトGメンのビルに攻撃を仕掛ける事を考えていたガーノルドが提案する。
 だがその提案を首を振って却下するマンティア。

「明日の夜は満月だ。元始風水盤は月の力で作動する。今、スコルピオがこんな時のために
 捕らえておいた二流の風水師を使って、針を完成させるべく作業中だ。針さえ完成すれば即座に
 作動させなければならない。屋敷の警備体勢を固め、トラップを仕掛けて時間を稼ぐのだ。私は
 万が一に備え増援を呼ぶ」

「わかりました。では私は屋敷の警護にあたります」

「うむ、明日こそアジアで神族と魔族の立場が交代する記念すべき日となるのだ」

 そう言って眼を細めるマンティア。
 ガーノルドは下がって屋敷内の防備体勢を固めるべく指示を出していく。

『奴らも明日が満月である以上、昼間から攻撃を仕掛けてくるに違いない。だがこちらにも作戦が
 ある……。必ず作動させてみせるぞ』

 魔族側も可能な範囲で万全の体勢を整える中、決戦の時は刻一刻と迫っていた。



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