フェダーイン・横島

作:NK

第32話




「まだ隠し技があるとは驚いたな……。では見せて貰おうか」

 そう呟くと眼を心眼モードにしてスコルピオの魔力の流れをスキャンしつつ、飛竜に霊力を込めていく。

『おかしい……ヤツの体内の魔力の流れに特に変わったところはない……。今の魔力レベルで
 それほど強力な攻撃を仕掛ける事ができるとも思えない。何を企んでいる?』

 いつでも対応できるように飛竜を構えたまま静かに相手の出方を待っている横島。
 だが横島にもスコルピオの能力の全てがわかるわけではないし、繰り出そうとしている技を見抜く事はできない。



 いきなり動きが止まった戦いを見ていた美神がヒャクメに尋ねる。
 
「ねえ、あのスコルピオとか言う魔族、本当に横島君相手に通用する大技を持っているのかしら?」

 美神が見る限り、横島とスコルピオの実力差は明らかであり、先程の言葉もハッタリにしか聞こえない。

「わからないのねー。でも、実力差はわかっているのに妙に余裕があるところが怪しいですねー」

 ヒャクメも全身の感覚器官を動員してスコルピオを探っていた。
 しかし横島同様、何ら怪しいところを見つけられない。
 横島もヒャクメも、これまでの経験からスコルピオ本体に目が向いており、後方に控えているゾンビ戦闘員に眼を向けてはいなかった。
 スコルピオは斬られた尻尾の痛みを堪えながら、後ろのゾンビにチラリと眼を向ける。
 その何気ない仕草を見逃さなかった横島は、スコルピオから少しだけ意識を分散させて後方の戦闘員へとスキャン枠を広げる。
 一番後ろに立っているゾンビの手に握られている何かの制御装置のような物体が眼に留まった横島は、それが敵の切り札だと思い当たり表情を強ばらせた。

「やれ! 戦闘員!」

「しまった! そう言う事か!」

 スコルピオが後ろの戦闘員に命令するのと同時に、横島も左掌を突き出して500マイト程の霊波砲をスコルピオに向けて発射すると、その反動を利用して一気に後ろへと跳躍する。

「危ないー! 横島さん、逃げるのねー!! そこにいてはダメー!」

 横島に僅かに遅れてスコルピオの意図を悟ったヒャクメも大声で叫ぶ。
 そんなやり取りに呆気にとられる美神達。
 彼女たちには何が何だかわからないのだ。
 直前まで横島のいた辺りの空間が微かに揺らいだように見えた事に気が付いたのはマリアだけ。

「ドクター・カオス。前方の空間に・歪み・を・検出しました。どうやら・閉鎖空間が・形成された・
 ようです」

 マリアの報告にカオスが慌ててデータのチェックを始める。

「おのれ…上手く逃げたようだね! だがこれで元始風水盤に近付く事はできないよ。私達の勝ちさね」

 遙か後方に跳躍して難を逃れた横島の姿を確認して悔しそうな表情を見せたスコルピオだが、最後の方は勝ち誇ったような表情を見せる。
 尤もその姿は、直前に横島の放った集束霊波砲の直撃を受けて少し焦げている。

「よ、横島君!? 一体どーいうことよ?」

 事態を理解できない美神がヒャクメとカオスに説明を求める。

「落ち着いてください、美神さん! あれは閉鎖空間、一種の閉じた亜空間です。あれに捕まったら
 二度と出て来れませんよ!」

「ヒャクメの言うとおりじゃ! あれは亜空間迷宮とでも言うべき閉じた空間。外からは自由に入れる
 が、中から外に出る事はできやせん」

 既にアレがなんなのか理解したヒャクメとカオスに真剣な表情で言われ、美神も少し冷静になる。



「危ないところだったな。さすがの俺もやばかった……。だがスコルピオ、残念だったな。俺は
 この通り無事だぞ」

 久しぶりに冷や汗をかく羽目になったが、そんな事はおくびにも出さずに普段通りの口調で挑発する。

「ふん……。お前を閉鎖空間に捕らえる事はできなかったけど、これでこの地下通路を通る事は
 できないだろうさ。コイツを操る装置はこっちにある。お前達では手を出せまい。
 ああ、お前達が入ってきた通路の入り口は、先程戦闘員達が爆破したから戻る事はできないよ。
 諦めて新時代の生け贄になりな」

 今や任務を果たす事ができて余裕の表情のスコルピオ。
 従って横島の挑発にも乗る感じではない。

「僕のバンパイア・ミストでも無理でしょうか?」

「ダメですよー。今や空間そのものがトラップになっているんです。ピートさんでも捕まってしまいます」

「こいつはまいったのー。この地下通路はもう使えん」

「他にも通路があるかも知れないが、一旦地上に戻らないとどうにもならん! 奴らが何らかの細工
 をしたみたいだから、そんな事をしていたら日が暮れてしまう!」

 横島から離れた場所で議論している美神達。
 現状では敵の攻撃はあり得ないので余裕があるといえばあるのだ。

「亜空間迷宮とはな……。予想外のものが出てきたよ……」

 一人離れた位置に立っているせいか、思わずポケットの小竜姫と心の中のルシオラの意識に話しかけてしまう横島。

「今の私達では突破できませんね。霊力が足りません」

『そうね。ヨコシマの心眼を通して解析してみたけど、中に閉じこめられたとしても外から誰かが
 来れば、その存在が占める容積分の通路が別の場所に開くわ。タイミングを合わせれば
 そこから抜け出すことは可能ね』

「さすがルシオラ、頼りになるな。だがそれではこの通路を突破する事はできない。でもこの亜空間
 迷宮はどうやって作っているんだ? スコルピオの魔力レベルではこんな大がかりな亜空間を
 作る事は不可能だ」

「そうですね。この亜空間を作るには、少なく見積もっても10,000マイト程の魔力か霊力が必要です」

 美神や西条には物理的な距離のせいで聞かれないのを良い事に、現状打開の検討を行っているのだ。
 こういう時、技術系のルシオラの意識はその真価を発揮する。

「ルシオラ、わかんねーか?」

『そうねぇ……おそらくこれは、魔族の誰かが能力で作っているんじゃないわね。推測だけど、弱い
 ながらも稼働している元始風水盤からのエネルギーをこの通路に設置したアンプで増幅し、さっき
 ゾンビが持っていた制御装置を使って亜空間を形成・維持しているんだと思うわ』

「制御装置を破壊するには、あの亜空間迷宮の向こう側に行かなければなりません。それは無理です」

『わかっているわ。今のヨコシマだと、ハイパーモードになっても難しいでしょうね。私達の霊基構造
 の絶対量が、横島の2人分の霊基構造に比べて少ないから……』

「取り敢えず、俺にやれる事は無さそーだ。あとは打っておいた手が上手くいってくれれば
 いいけど……」

『そうね、今は少し待つしか手がないわ』

「戦いには待つ事も必要です。最後に勝てば良いんですから……」

「そうだな。でも何もしないとスコルピオが怪しむから、形だけでも何か足掻かないといけないな」

 そう言いながら苦笑すると、横島は亜空間迷宮の範囲を慎重に見極めながらヒャクメの方へと向かう。
 ヒャクメもある程度亜空間迷宮の解析を終えており、中から出る方法は見つけたがこの通路を突破する方法は見つけられない。

「横島さーん、この通路の突破は難しいのねー」

 慎重に近寄ってきた横島にガックリとした表情で話しかけるヒャクメ。

「わかってるよ。今の俺達じゃ正面突破は不可能だってな。だがもう少し待てば何とかなる」

「えっ…!? ああっ! そう、そうだったのねー」

「ストップ! 今は言えない事ぐらいわかってるだろ? 暫くは何もわかっていないふりをしないと
 いけないのさ」

「そうねー、仕方がないのねー」

 そんな会話をしていると、残りのメンバーも二人の周りに集まってきた。

「横島君、このトラップはどうにも突破できないよ」

「僕のバンパイア・ミストも駄目みたいです」

「わかってます。取り敢えずどんな物なのか、霊波砲でも撃ち込んでみましょう」

 頷く横島の言葉に、その系統の能力を持つピート、横島、ヒャクメが霊波砲を放つ。
 だがその霊波エネルギー弾は、空しく亜空間の内部に吸い込まれて爆発が起きる。

「ちっ! びくともしねーな……」

「亜空間に影響はないようじゃのう……」

「霊力ではなく物理的なエネルギーならどうなの?」

 美神が懐から手榴弾を取り出して尋ねる。

「わからないのねー。でも取り敢えず試してしましょう」

 ヒャクメの言葉にポイポイと数発の手榴弾を亜空間に投げ入れる。

 ドカ〜ン!

 爆音は聞こえなかったが、閃光と爆煙が収まった後には変わらぬ亜空間の存在が確認された。

「駄目か……。もっと強力な火器ならばわからないが、手榴弾程度では歯が立たないな」

 悔しそうに呟く西条の態度が端的に今の状況を表しているのだが、横島は表面に出さぬもののチャンスを待っていた。

「フフフフ………。無駄よ! 無駄、無駄ぁ〜! そんな攻撃じゃあこの亜空間迷宮はどうにも
 出来ないわよ!」

 もはや余裕の表情で高笑いをするスコルピオだったが、後ろから近付く足音に顔の向きを変える。

「おや、戻ったようだね。奴らが入った入り口は塞いだかい?」

「グ…爆破完了シタ……」

 一人が頷きながら報告すると、満足そうに頷くが人数が4人しかいないことに溜息を吐く。

「さすがにラフレールやゲランを倒しただけの事はあるね。地上に50人以上配備した戦闘員が
 これしか残らないとはね……。まっ、いくら奴らが人間にしては強くても、この亜空間迷宮の前には
 無力だって事に変わりはないけどさ」

 悔しそうな表情を見せたのも束の間、すぐに現状を思い出して満足げに顔を亜空間迷宮の向こうに見える横島達へと移す。






『おっ! やっと来たみたいだな。やれやれ、これで現状を打開できる』

 新たに現れた戦闘員を見た横島の表情が微かに嬉しそうな物へと変わったのに気が付いたのは、ポケットの小竜姫とルシオラの意識、そしてヒャクメだけだった。

『よかったわねヨコシマ。こんな時のために練っておいた作戦が役に立ったじゃない♪』

 心の中で呟いた横島に、これまたテレパシーのように横島だけに聞こえるように答えるルシオラ。
 その言葉に頷くと、ヒャクメに目配せして再び飛竜を構える横島。
 意図を理解したヒャクメも素早く横島から離れ、美神達に少し離れるように告げる。

「横島さんが最大霊力で攻撃を掛けてみます。危ないから離れて欲しいのねー」

 その言葉に横島の奥義の威力を知っている一同は後ろへと退避する。

 ゴゴゴゴゴ………

 周囲の空間が色付いて見える程霊気を練り上げ、飛竜へと込めていく横島。
 10秒程の時間を掛けて3,000マイトを超える霊力を練り上げる横島の能力に驚きと恐怖を覚えながらも、スコルピオには亜空間迷宮に対する揺るぎない自信があった。
 それでも横島から目が離せないのは、その能力を見極めようという気があったからに他ならない。
 スコルピオだけでなく、美神達の視線まで横島一人に注がれているその時、スコルピオの後ろに立っているゾンビ戦闘員の一部が不可解な動きを見せた。
 先程地上から別通路で地下へと降りてきたゾンビの一体が、いきなり亜空間迷宮制御装置を持ったゾンビに擦り寄ると、素早くその手から制御装置を取り上げたのだ。
 持っていたゾンビが慌てて振り向こうとした時、もう一体のゾンビがその手に霊力を込めてそいつの胸を手刀で貫く。

 バキャッ!

 その音に不審そうに振り返ったスコルピオの眼に、いきなり仲間の筈のゾンビ戦闘員を葬り去ったゾンビと、亜空間迷宮制御装置を持ちその手に霊力を集束させているゾンビが映る。

「お前達、一体何を……。それは霊力! まさかお前達は!?」

 怪訝そうな表情が一瞬で驚愕に彩られたのを見て、件のゾンビがその手の制御装置を集束霊波砲で破壊する。

 バシュン!!

「貴様ら! せ、制御装置が……!」

 ビュウウウウン

 自分の後ろで亜空間迷宮が崩壊する音が聞こえるが、それさえも耳に入らないかのように呆然と造反したゾンビを見詰める。

「クックックッ……迂闊だったな! 俺達の一部の姿が見えなかった事にもっと注意するんだったな!」

「これで亜空間迷宮は消滅しますわ」

 バシュウウウウ……

 そう言って変身が解かれた後には、不適に笑う雪之丞と九能市が立っていた。
 その懐には、横島より渡された『変化』の双文珠と共に『伝達』の双文珠があり、別行動を取っている時でも横島達の現状は伝えられていた。
 この『変化』の文珠は、その姿を本物そっくりに見せるだけではなく、その霊波パターンや霊波の質までも擬態する事ができる。
 そのためにスコルピオも他のゾンビ達も変装に気が付かなかったのだ。
 無論、文珠を隠すためにダミーの変化札を用いているのは言うまでもない。

「お…おのれ……貴様ら〜!」

 全てを理解し、怒りに身を震わせているスコルピオだったが、その耳が無視できない危険情報を捕らえる。

「妙神山念法奥義! 破邪滅却!!」

 そして急速に迫り来る圧倒的な霊力を感じ、無意識に持てる魔力を掻き集めたシールドを展開しながら振り返る。
 そこには左手を前に突きだし、飛竜を持った右手を引いた半身の状態で凄まじいスピードで突っ込んでくる横島の姿が……。

「そ、そんな……。人間にこんなスピードが出せる筈……」

「人間を甘く見すぎたな! 滅せよ、スコルピオ!」

 次の瞬間、横島は腰の捻りを中心に、肉体と霊力の全てを100%攻撃に転化させた鋭い突きを繰り出す。
 その切っ先に込められた高密度の霊力が流れて、飛竜を頂点とした円錐状のスクリーンを作りだす。
 メドーサを倒した奥義の前に、メドーサより数段実力の劣る彼女が対抗し得る筈がない。

「ギャアァァァァ〜!!」

 高密度の集束霊力が形成される飛竜の切っ先は、スコルピオの硬い外殻を何の抵抗も無いかのように突き破り、一気にその身体を貫く。
 さらに円錐状に展開した霊力によってその傷口から肉体と霊体の両方を抉り、吹き飛ばされていく。
 メドーサの時のように超加速は使っていないのであの時より威力は劣るものの、横島より格下のスコルピオではこれだけで霊体諸共完全消滅してもおかしくない。

 ダンッ!!

 横島がその突きの勢いを左足で止め、振り返った時にはスコルピオの存在は殆ど消滅していた。
 さらに、周囲にいた10名ほどのゾンビ戦闘員も、余波を食らって全滅している。

「相変わらず反則だよな、その技は……。」

「凄いですわ、横島様……」

 横島が攻撃に入った事が見えていた雪之丞と九能市は、すかさず回避して影響のない場所へと退避していたのだ。

「それ程でもないさ。しかし今回は助かったよ。進む事も退く事もできない状態だったからなー」

「お前の読み通り、ワザと生き残らしたゾンビ戦闘員共は、お前達が入った後、地下への入り口を
 爆破しようとしたからな。爆破準備をしていた連中に気が付かれないように、『変化』の文珠で
 化けて近付き、作業を見守って別ルートからここに来たってワケさ」

「連中、全く気が付きませんでしたわ。おかげで潜入は楽でしたけど……。あの光学霊波迷彩コート
 は役に立ちましたわ」

「結構早く来てくれて助かったよ。おかげで亜空間迷宮を突破する事ができた。それで二人が使った
 別ルートっていうのは?」

 横島の言葉に、九能市が少し離れた位置にある地下通路を見せる。
 それはなかなか巧妙にカモフラージュしていたため、気を付けてみていなければ気が付かない。

「これで万が一の時の退路は確保した。さて、先に進みますか」

 美神達も、別行動を取っていた雪之丞と九能市が漸く合流した事に安堵の溜息を吐く。
 横島は万が一の状況に備えるのと敵の情報を探るために、二人を自らを囮とした正面ゲートからの侵攻のどさくさに紛れて潜入させていたのだ。
 スコルピオの敗因は姿が見えなかった2名のことを気にしなかった事だろう。

「思ったより時間を使ってしまったね、横島君。敵は後2鬼はいるんだったね?」

「……12時ですか。まあ、亜空間迷宮はどうしようもなかったですからね。待ち時間が殆どだった
 のが情けないですが……。残った敵ですが、増援がなければマンティアという指揮官クラスと、
 ガーノルドって言う1,000マイトを超える魔力を人界で発揮できる魔族がいるだけです」

 先頭に立つヒャクメを守るように警戒態勢で進んでいく横島に話しかける西条。
 意識のごく一部だけを向けて答える横島は、一見無愛想に見えるがこの場合は仕方がないだろう。






 さらに曲がりくねった地下通路を進んでいくと、ヒャクメがハッとした面持ちで歩みを止めた。

「どうしました、ヒャクメ様?」

 横島と共に警戒していた西条がすかさず尋ねる。

「この先にまた巨大な地下洞があって、敵が集まっているのねー。恐らくガーノルドって言う魔族と
 最後のゾンビ兵みたいなのねー」

「数は? それに何か装備をしているか?」

 即座に状況確認を行う横島。

「全部でゾンビが12体に魔族が1体ですね。でも厄介な事に魔族正規軍装備のライフルを持って
 いて、銃口をこっちに向けて待ちかまえているのねー」

「飛び道具か……。ちっ! 厄介だな」

「いくらなんでも弾丸より速く動く事はできませんわ。しかも集団で弾幕を張られたら歯が立ちません」

 ヒャクメのもたらした情報に思わず舌打ちする雪之丞と、あくまで現実的に彼我の戦力差と状況を判断する九能市。

「二人の言う通りよ。このまま進んだら敵の的になってしまうわ」

 美神も忌々しげに吐き捨てる。

「じゃが、ここで足止めを食えば連中の思うつぼじゃろう。何しろ敵は時間を稼げればよいんじゃからな」

「月が・風水盤に・影響を与える・レベルに・昇るまで・後4時間14分35秒・です」

 何となく人ごと風に(実際に戦うのは自分ではないし)言うカオスだったが、彼の言葉は正しい。
 敵は時間まで横島達を元始風水盤に近付けなければいいのだ。

「どうやら私も姿を元に戻して戦う時が来たようですね。横島さん、私をポケットから出してください」

 角に姿を変えた小竜姫の声が聞こえ、横島はソッと胸の内ポケットから小竜姫を取り出すと地面に置いた。

 シュウウウウ〜

 光と共にいつもの下界ルック姿に戻る小竜姫。
 いつもと違ってその首には、横島から貰ったネックレス(設計:ルシオラの意識)が掛けられている。
 これによって本来妙神山に括られているにもかかわらず、小竜姫は遠く離れたここ、香港でも普段通り戦闘が可能なのだ。

「やっぱり小竜姫様はその姿の方がいいですね」

「あら、ありがと」

 笑顔を向ける横島に軽い調子で返す小竜姫だが、角の状態でずっと横島の胸に抱かれていたのが心地よく、本当は出て来たくなかったのは内緒である。

「香港では急激にエネルギーを消耗するんじゃなかったの?」

 意外に元気そうな小竜姫に、聞いていた事との違いを感じて尋ねる。

「ええ、本来なら私は妙神山に括られている神なので、山から離れて長くは活動できません。こんな
 外国では尚更で、3分も戦えば暫く休まないといけません」

「どうやら、そのネックレスに秘密があるようじゃの。ふーむ……、それはひょっとして!?」

「ストップ! これは機密事項なんでここで話して魔族に聞かれるわけにはいかないんスよ。まあ、
 カオスのおっさんの考えたとおりでしょうけどね」

「いや、すまんすまん。こういう面白い物を見ると、つい…な…。しかしこれは凄いのう。これさえ
 あれば小竜姫もいつも通りに戦えるじゃろう」

 軽く睨んだ横島に謝りながらも、いまだ好奇心に満ちた視線を注ぐカオス。
 カオスの性質をよく知っている横島は、苦笑しつつも話を元に戻す。

「ということで、俺と小竜姫様が超加速で敵の陣地に突っ込んでライフルを無力化する。そうしたら
 出てきてくれ。それと…ガーノルドは強い。俺か小竜姫様以外では絶対に単独で相対するなよ」

「ちょっと待って二人とも! よくわからないけど、他にも敵がいるみたいなのねー」

 戦いを始めようとする横島達に、さらなるスキャンで得た情報を伝えるヒャクメ。

「他の敵?」

「そうです。うまく気配を隠しているけど、下級魔族が数体隠れているみたいなのねー」

「どうやら増援を呼んだようですね……」

 忌々しげに呟く小竜姫だったが、ポンと肩を叩かれて振り向くと横島が笑顔を見せていた。

「久しぶりに全力で戦いましょう、小竜姫様。ガーノルドって奴はどっちが相手をしますか?」

「横島さんから聞いた話では、相手は魔剣を使うとか。ならば私が相手をして構いませんか?」

「OKです。じゃあそういうことで、魔族相手に絶対単独で戦わないでくれよ」

 そう残る面々に声を掛けると、小竜姫とアイコンタクトを交わして角まで進み、精神の集中を行う。
 ハイパーモードになれば、超加速をも上回る意識加速(速度を自由にコントロール可能)を使える横島だが、チャクラ全開時にはそこまで出来はしない。
 龍神の防具を装着しているからこそ可能なのだ。



「そろそろ来るか? まあ、私と戦った人間相手ではこの備えも歯が立たないだろうが……。
 これならなかなか近寄れないだろうからな」

 遮蔽物に隠れて銃を構える戦闘員を眺めながら呟いたガーノルドだったが、不意に前方から強力な霊圧を感じて表情を引き締める。

「来たか……。だが強力な反応は最低でも3つ。これは一体…?」

 そこまで呟いた時、ガーノルドは強力な霊力が弾けるような感覚を感じた。
 慌てて意識を戦闘状態に持っていったが、その眼は大きく見開かれる。

「バカな! いつの間に……!?」

 一瞬前には完璧だった迎撃陣地は完全に崩壊していたのだ。
 ライフルを持つゾンビ戦闘員は全員致命傷を受けて活動を停止しており、自分の前には初めて見る神族の女性が、そして倒れているゾンビ戦闘員の横には前回戦った男が立っている。

「私の名は小竜姫! 仏道を乱し、この世界に仇為す者はこの私が許しません!! 私が来た
 以上、もはや往く事も退く事も敵わぬと心得よ!!」

 正々堂々と名乗り、正面から戦うのが彼女のスタイルとはいえ、律儀な事である。
 しかし今の小竜姫はそれに昔程拘ってはいない。

「成る程、神族が手を貸していたのか。それならこの素早い対応も納得できる。しかし我々と直接
 戦っても良いのか? デタントがご破算になるぞ?」

「その心配は無用です。すでに神族上層部には今回の詳細を報告し、魔族上層部との協議の
 結果、討伐しても問題なしとの上意を受けています」

 その手回しの良さに感服しつつも、事が露見すれば十分想定できた結果である。
 自分達は魔族でも現体制に反対する過激分子なのだから……。

「では力づくで事を為すしかないな。言っておくがあの男の援護は期待できないぞ?」

 ガーノルドがそう言うと同時に、地中から2体の魔族が現れ横島を挟み込む。

 ボゴッ! ズシャアァァ

 横島の横の地面が盛り上がり、そこから剛毛に身体を覆われた巨躯を誇るゴリラと蝙蝠を合わせたような容貌の魔族が現れる。
 さらに挟み込むように、手に槍を持つ羊のような角を持ち、チェーンメイルを纏った目つきの鋭い青白い肌の人間型魔族が現れる。

「ほう……増援か?」

 状況に少しも慌てずに呟く横島。

「ふんっ! 気にくわねえな。俺達を見ても驚きもしねえ」

「さすがは、ガーノルドを圧倒した人間と言う事ですか」

 その姿形同様に荒々しい口調のパワータイプ・魔族と、妙に柔らかい物腰の人間型魔族。
 彼の超感覚は、人間型の魔族がより厄介な相手であるとわからせる。

「そちらの脳筋タイプは約700マイト、槍を持っている方は約1,000マイトってところか。それで、
 どっちが相手だ? 両方一緒でも俺は構わんぞ」

 その言い方にカッとなるパワータイプを制して、人間型魔族が穏やかな口調で答える。

「その挑発、見事ですね。危うくガーブルが乗せられそうになりましたよ。申し遅れましたが、私の
 名はメラン。短い間ですが覚えて置いて貰いましょう」

「冷静だな。俺は横島という。それでどうするんだ?」

 挑発して激発させ、一体を速攻で倒そういう横島の考えは失敗に終わったが、それを表情には出さずに再度尋ねる。

「ガーブルにはあちらの団体さんの相手をして貰いましょう。貴方の相手は私がしますよ。
 いいですね、ガーブル?」

「まあ、それで構わん! だがこの野郎、むかつくな」

 忌々しげに美神達の方を向くガーブル。

「聞いての通りだ。俺はこのメランって魔族と戦うから、全員でコイツの相手をしてくれ。でも無理は
 しないでくれよ」

「わかったぜ! やっと楽しい時間がやって来たってな!」

「ちょっと! そんな事言って負けたら洒落になりませんわよ!」

「仕方がないな。でも我々も仕事をしないといけないから任せてくれ」

「一人一人では敵いませんけど、力を合わせれば何とかなります」

「予定外よね〜。でも赤字になんないからいいわよ」

「こっちのサポートは任せてね」

 意外に軽い口調で返事が来た事に僅かに戸惑いを感じたが、時間がないので任せる事にする。

「そういうことで始めようか、メラン。小竜姫様達も始めたようだしな」

 向こうではそれぞれの剣で応酬を始めた小竜姫とガーノルドの姿が見える。

「そうですね。始めましょうか」

 そう言いながらも横島は飛竜を構え、メランは槍の穂先をビシッと横島目がけて構える。
 その構えには隙が無く、その腕前を知る事ができる。
 地下での戦いの第2幕が開始されようとしていた。



BACK/INDEX/NEXT

inserted by FC2 system