「ぬぁぁんじゃあぁぁぁこりゃあぁぁぁぁっっっ!!!

 突然、声を大に叫ぶ。
 ざわざわとした周囲の目が、その瞬間、一斉に彼に注がれた。

「なんやの、横島? 太陽に○えろごっこなら、食べ終わってからにしとき」

「んなワケあるか〜っ
 って、おまえ… 夏子か?」

 掛けられた声に、振り向いて横島はピシリと固まった。

「ナニ言うとんの? 他の誰に見える言うんよ」

 そう言われて気が付けば、何事かとこちらに向けられている面々の顔が目に入る。

 …その全員が、何処か見覚えのある『小学生くらいの子供』ばかり。 勿論、目の前の夏子もまた小学生にしか見えない。
 そんな周囲の自分に注目している子供たちの中に、かつて仲が良かった友達たちの顔を見出して、混乱すると同時に横島は何となく納得した。

 

 

 


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GS美神 Original Episode
  こどもチャレンジ   ──その1──

 

逢川 桐至  


 

 

 

「…夏子」

 恋心抱く『少年』に、がしっと肩を掴まれ正面から見据えられて、思わず少女はそっぽを向いた。

 頬がうっすらと赤くなっているのはご愛敬。
 小学校高学年と言う年代は、男は大抵ガキに過ぎないのだが、女の子の場合 微妙なお年頃に差し掛かる。 まだ小学生、されど小学生。 彼女の反応は、だから無理も無い。 乙女の心は複雑だ。
 周囲から、おぉっとか、きゃとか言う声が上がるが、五月蠅いくらいに響く自身の鼓動が、それを彼女の耳に伝えない。

 上気してテンパりかけた自分を誤魔化す様に、夏子は続きを促した。

「な、なんやの、横島?」

「俺 早退すっから。
 つう事で、後は任せた」

 焦っている彼女に気付きもせずそう告げると、即座に踵を返して横島は昼休みの教室をしゅたっと飛び出して行く。 脱兎の如きとばかりの行動に、誰もが留め立てする事も出来ず見送った。

「なぁ、夏子ちゃん。 横島、どないしたん?」

「私にもナニがなんなんやら…」

 何を言われたのかも解らず、ただ立ち竦んでいた夏子は、掛けられた友達からの問い掛けに呆然と呟き返す事しか出来なかった。

 

 

 

「マジかマジかマジかぁ〜?!!

 街中を駈けながら、横島は口走る。
 見覚えのある……そう、凄く懐かしい町並みが、さっきからさっきから後ろへと流れていた。

 内心 認めたくなかったが、これはもう認めざる得ない。

「ぬぁんで俺が小学生になっとんじゃぁぁ〜〜っ!!?

 小学生になったと言うか、その頃の自分になったと言うか…

 とにかく、120を越えたかくらいの高さから見上げる周囲の光景は、自分の覚えのあるソレとは明らかに違う角度で。
 なのにその癖、流れる街並みの景色は、どこかノスタルジックを刺激して来る。

 何より。
 走っている自分の半ズボンから覗く足に、さっきから当っている風。 これは、もう何年も感じた事の無いモノだ。 東京に引っ越して中学に入ってからは、それこそ体育の授業でもない限り半ズボンなぞ終ぞ穿いた記憶は無いのだから。

 そんな実感出来る何もかもが、この異常事態が現実だと教えてくれる。
 頭の何処かでそんな事を考えられたのは、彼の非常識な日常の賜物だろう。

 何せ、夢だと思うにはあまりに現実感が在り過ぎた。
 それに、たかだか異常現象程度なら、悲しいかな彼にとってはいつもの事でしかない。
 何よりも、差し迫った命の危機ではなさそうなのが……たといそれが『少なくとも今判る範囲では』だったとしても……大きかった。

 ただそれでも、何が起こったのか、その事 自体には皆目見当が付かなくて…
 だから彼が取れる手段はただ一つ。

「こうなったらもう。 美神さんに相談するしかっ
 美神さん美神さん美神すぁあ〜ぁぁぁぁんっっ!!

 叫びながら走る足を速める。
 まだ昼過ぎだと言うのに、街中を独り疾走している小学生。 周囲の人が何事かと目を向けて来るが、今の彼にはそんな事に気を向ける余裕は無かった。
 自身ではどうしていいか判らぬ事態に混乱して、ただ助けを求めてひた走っているだけなのだから。

 小柄な小学生にしては異様な健脚だが、あっと言う間に通り過ぎてしまう為、あまり人目には残らない。
 常識外の出来事に直面すると、大した事じゃないと記憶の向こうに置こうとする人は、割と多いものなのだ。 …涙、鼻水を垂らして顔をくしゃくしゃにしながら走るその姿を、誰もが覚えておきたいなんて思わなかっただろう事も、まぁ有るかも知れないが。

 

 まだ日の高い午後2時過ぎ。
 彼が『この当時の自分が大阪在住だった』事に気が付いたのは、奈良との県境に差し掛かった時だった。

 

 

 

「いかんいかん、アパートから事務所に行くんと全然距離が違うコト忘れてた」

 横島は、項垂れ独りごちた。

 そも違うとか違わないとか、そんな些細な差異ではない。 その事に2時間近くも爆走して、漸く気付いたのだ。 如何に彼が混乱していたか、それが窺えようものである。

 仕方なく一旦家へ帰ろうと、通りしなの公園を近道と突き抜けながら空を仰ぐ。

「シロだってこんくらいの距離じゃ…
 …いや、あいつならそれでも走るか」

 付き合わされた散歩と言う悪夢が、すっと脳裏に浮かび上がって思わず身体が震えた。
 朝の軽い散歩、それが20Kmの疾走だったりしたのだ。 彼女が本気で走れば200や300程度なら、余裕の距離だろう。 大阪〜東京間でも気にせず走りかねない。

 ぶるぶるっと頭を振って意識を切り替えると、改めて自身へと視線を落とす。

「それはそれとして…
 いくらなんでも俺じゃあ、しかもこのコンパスじゃ、んなコト出来んわな」

 当たり前だ。 現在の彼の身体は、小柄だった小6当時のモノ。
 いかに常人ばなれしていると言っても、東京迄の道程を走り抜けられる筈が無い。 尤も、あのペースで走り続けられるなら、余裕で名古屋くらいは越えられた気がしないでもないが。

 とにかく、我に返って考え出してみると、さすがの横島でもこの距離の壁は大きい過ぎる程に大きい。
 良い方法はないかと、首を僅かに傾げてすぐに閃いた。

「そうだ 文珠だ。
 つか、何で気が付かねぇかな、俺。 アレなら離れてたって連絡くらい…」

 思い付くなり取り出そうとする。 だが、ストックが無い時の様に出て来ない。
 まぁこんな異様な状況では仕方ないかと、新たに創り出すべく掌に霊力を溜め込んでいく。

「よしっ、イケそうだ…」

 掌の中に集まって来る感触に、コレなら大丈夫かと ほっと肩から力が抜けた。

 だが、その油断がマズかったのだろう。

 瞬間、拡がる爆風。
 力が抜けた所為でなのか、それとも本来霊力なぞ扱った事も無い身体だったからなのか。 初めて自分で創り出せた頃の様な、圧縮制御にミスっての霊力の暴走が彼を襲った。

「ののののぉあぁぁ…」

 煤汚れた右手と、吹き飛ばされた時に打ちつけた頭の痛みに、思わずおかしな言葉が漏れる。
 涙目で頭を押さえながら、それでもすくっと起き上がった。

「ちいぃ… 最近は失敗なんか全然しなかったからなぁ。
 少し油断し過ぎだな、こりゃ」

 と、なにやら周囲から聞こえて来る喧騒と、遠くから近付いて来るサイレンの音。

「って、まずいっ?! 警察沙汰は、なんぼなんでもマズ過ぎだっつーの。
 早いとこ、こっから離れないと…」

 呟くなり周囲に注意を払うと、慌てて現場を後にする。

 様子を窺いつつの怪しげな行動だったが、その見た目が小学生のソレなだけに、あまり不審は買わなかったようだ。 もし、もっと地元に近いトコであれば、イタズラ好きの小学生として有名だっただけに、余計な人目を引いたかも知れないが。

 

 

 

「すぐに集まんないくらい霊力が低いっつうんなら、増やしゃいいんだよな、うん」

 そんな事を言いながら、某女子大をぐるっと囲む塀を回り込むように徘徊する。
 母親に持たされていたハンカチを、盗人被りに周囲の人目を窺いなから。

 つまるところ、アレだ。

「この先、何が有るかも判らんしなぁ…
 煩悩エネルギーを貯めん事には話にならん。 全ては目的の為に正当化されるのだっ

 と言う事だ。
 コレが効果的な事は、既にGS試験の時に実証済みである。 彼に躊躇いは無かった。

「よっ。 はっ。 とっ」

 掛け声を掛けて、塀をよじ登ろうと悪戦苦闘。

「まだ見ぬお姉様たちよ、もちょっと待っててや〜」

 しかし、手掛かりのないつるつるの壁に阻まれ、2mちょっとの高さが登り切れない。 40cm以上縮んでいるのだ。 いつもの様に簡単に行く筈が無かった。
 どうしようかと周囲を見渡すと、目に入って来たのは、そう遠くないトコロ……表通りに近い辺りに立っている手頃な高さの街路樹。

「くくくっ… 天は我を救いたり。
 この木登り横っちを舐めんなよ」

 すぐに駆け寄ると、横島はするする登り始めた。

「何しとん?」

「見ての通り、目の前のパラダイスに直進しとるんじゃ」

 やがて、塀越しに見えてくるキャンパスの敷地。
 少し離れたコートでは、テニスをしている女子大生たちの姿も見える。 アンダースコートの下から覗く白い足が眩しい。 すぴすぴと鼻息を荒げて、ソコへと意識を集中させる。

「なぁ、やめとき。 怒られるで」

「やめられるっかって。 俺は煩悩を燃やさなぁあかんのじゃ。
 今更、ガキの色気ないパンツ見ても興奮出来んにょぉあぁっ?!

 思わず言葉を途切れさせる痛みを伴って、ガシッとばかりに足首を掴まれる。
 事ここに至って、漸く横島は自身が誰かと会話していた事に気が付いた。

「色気ないパンツって、誰のコトやねん?」

 同じ様に半ば木に登りかけての夏子が、伸ばした右手に力を篭めて問い掛けてくる。

 満面の笑顔なのに、目が全く笑っていないのが異様に恐い。 苛立った時の美神のプレッシャーもかくやと言うほどだ。
 ミシミシッと軋む足首の痛みに、冷や汗が流れ出してきた。

「え、えぇと、その…
 だ、誰やろなぁ、アハハハ…」

 なんとか作った笑顔が、しかし更に篭められたチカラに歪んだ。

「とっとと降りて帰るで」

「ちょっ… うぎゃっ」

 飛び降りながら ぐいっと力一杯引かれて、木の上から下へと引き摺り下ろされる。
 当然、受身が取れる筈も無い。 なす術なく地面に頭をぶつけ、横島は痛みを抱えてただ呻く。

「ぅあたた… なんちゅう乱暴な女じゃ」

「ふぅん、そんなコト言うんや…?」

 毒づく横島に、夏子の目が座った。

 その光に、さすがにマズイと感じる。 だが、それでこの場をどうこう出来るような横島ではない。
 取り繕う様な愛想笑いへの応えは、当然彼の望まない方向のソレだった。

「うぎゃっ?!
 ちょ、いた、痛いっ イタタタタッ!!

 むんずりと耳たぶを力一杯摘まむと、夏子はそのまま彼を引き摺り始めた。

「ホントいてぇって、夏子、やめっ…」

「なぁ、横島」

 低く抑えられた声に、思わず上げた悲鳴が途切れた。

 やはり美神のところで何度も体験した様な、そんな魂を揺さぶる恐怖が背筋を走る。
 夏子ってこんなに狂暴だったっけかなぁと、逃避する思考がらちも無い方向へ向かったのも、またお約束なのだろうか。

 だが、そんなココロの余裕は、ほんの一瞬で終わった。

 終わらされてしまった、彼女の一言で。

「今日の昼からンこと、今から一緒に横島ンちに行ってなぁ。 おばさんにちゃあんと説明したるわ」

 ビシリと、横島の額に縦線が走る。

 思い返せば、自分の今日1日の行動は、傍目にはエスケープした揚げ句の覗き未遂の現行犯としか写るまい。 言ってしまえば、その物ズバリ。
 少なくとも彼以外の他人の目には、それ以外のナニモノにも見えないだろう。

 もし、それをあの母親が聞いたら、どう言う行動に出るか…
 これまた、考えるまでもなく判り切った事である。

「…い。
 いややややぁぁぁっ 折檻は、折檻はいやなんやぁぁぁぁっっっ!!!

 魂に刻まれた幼い日々の折檻の数々が、走馬灯の様に脳裏を巡る。
 まぁ、現在の状況においては、それは彼の日常の良くある1ページに過ぎない。 と言うか、ほんの数日前にもイタイ目に遭った記憶が、頭の中には残っていた。

「ほら、とっとと行くで」

「いややぁ、カンニンしてくれぇ…」

 じたばたと暴れる彼を、しかし意にも介さず彼女は引き摺って行く。

 夏子は怒っていたのだ。

 昼休みに不意に叫び出したかと思えば、横島はドキッとするほど真剣な顔をして飛び出して行ったのだ。
 そんないつもと違う様子の彼を心配して、帰宅途中に訪ねていったのである、彼女は。

 言うまでもなく、横島は家に戻っている筈も無く。 その事で更に不安に駆られて、夏子はあちらこちらを捜し回った。
 そうしてやっと見付けたかと思えば、当人は覗きをしようと不法侵入の真っ最中。 そこへ持ってきてのさっきのセリフである。
 これでは、いくらなんでも怒るのが当然だろう。

「カンニンや、カンニンしてぇなぁ…」

 傾き始めた陽が、大阪の街を赤く染めていく。
 ドナドナをBGMに引き摺られて行く横島の声が、暮れ行く町並みに悲しく響き渡った。

 

 

 

 【つづく】

 


 ぽすとすくりぷつ

 と言う事で、こちらでの掲載を始めます(__)

 ホント何年滞らせて居たのやら…
 でもって、色々滞っているので順次公開にする私。 ホントに、もう、ね(^^;
 色々気になっている部分もありますんで、元々ちょこちょこ弄るつもりではいたんですが、その辺 ご容赦頂ければ(__)

 それはそれとして。
 本作中で横島が小柄だったとしているのは、原作を読んでの勝手な私の想像であって、原作に明記されている事ではない事を、予めご注意させて頂きます。


 

  
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