「…あり?」

 目覚めて見ればそこは、最近になって漸く見慣れてきた、かつての自分の部屋だった。
 横島は、寝ぼけた頭を振って状況を思い返す。

 昨日は東京まで行ったのだ。
 行った先で、思いがけない出逢いと成り行きとで、半日駆けずり回っただけに、かなりの疲労が残ってる。

「今、何時だ…?
 って、もう夜中じゃねぇかっ!?

 柱の時計に目を向ければ、針が指し示しているのは午後10時半過ぎ。
 寝過ごしたどころではない事態に状況を整理しようとして、ふと横島は固まった。

「…あれ? 俺、どうやって帰ってきたんだっけか?
 まさか全部夢って事ぁないよなぁ…」

 抜け落ちた記憶に、どこか呆然と呟く。
 夢ではない筈なのだが、考え始めると帰りの新幹線に乗った記憶が無い。

「確か、神父んトコから駅に向かって…
 …あっ、そうだ」

 

 

 


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GS美神 Original Episode
  こどもチャレンジ   ──その5──

 

逢川 桐至  


 

 

 

 思いがけないエミの行動に『悶々と喜び』ながらも、照れ臭くて逃げる様に立ち去った後。
 すっかり自分の目的を忘れ果てて、達成感を胸に大阪に帰ろうと横島は駅へと急いでいた。

 あちこち記憶とは細かい所が異なっていたが、それでも慣れた近道を選んで駅まで後少し。
 その時だった。

 後ろから走ってきたスクーターに乗る、記憶に有る姿を見出したのは。

 ヘルメットもせずに、スカートの長いセーラー服を着込んだ少女。
 前に垂らした二房以外は、見慣れた長い髪をばっさりと切り落としては居た。 だが、ほぼ毎日の様に見慣れていた顔だ。 今更、多少若いくらいで見誤ろう筈も無かった。

「み、美神さん?!

 つい口に出してしまった声を、聞き咎めたのだろう。

「誰よ、アンタ?」

 スクーターを止めて、ジロリと言うより、ギロリと睨んで来る。
 その全く知らない人間を見る目が告げていた。 少なくとも、横島と同じ状態になっては居ないだろう事を。
 その為、彼は対応に困って固まるしかなかった。

 ただ。
 無言で薮睨みで見据える彼女は、この頃にはエミより若干発育が遅かったのか。 横島自身か見知ってきたボディよりも貧相で。

「そうだよな、中学生じゃ胸がばい〜んばい〜んって事ぁ無いよなぁ、やっぱ…」

 と、つい呟いてしまった。

 途端に、美神は胸を両手で隠す様にして真っ赤に染まる。
 念の為に言っておくが、別にぺたんこと言う訳ではない。 彼の記憶より、落差が激しかっただけの事。 ほんの2〜3年でも違えば、十代の成長は目覚しい変化を見せるものだ。

「な、な、なんなのよ、アンタ?!

「えっ? あ、しまった。
 思ってたより貧相だったから、つい口が滑って…」

「貧相で悪かったわねっ!!

 手慣れた様子で、拳が、脚が乱れ舞う。
 元々の身体能力に加えて、彼女自身 除霊を間近に見てきただけに、その動きはなかなか堂に入ったモノだった。 瞬く間に近隣の不良たちの間で顔になったのは、伊達ではない。

 だが。

「いやぁ〜っ、堪忍したってや〜っ

 足蹴にされながらも、何せこれまた横島にはいつもの事だった。 いや、霊力が篭ってない分だけ軽いとすら言える。
 そんなマジ泣きが入ってる癖に、どこか余裕を感じさせる様子に苛立ったか、美神の蹴り脚が更に激しさを増して行く。
 5分と経たず、ボロ雑巾が出来上がった。 小学生相手に手加減無い事この上無いが、横島の自業自得でしかないのだから仕方がない。

「ふぅ… ふぅ…
 これに懲りたら生意気な口きくんじゃないわよ、このエロ餓鬼っ!」

 ぼろぼろになった姿に、漸く気が晴れたのか。
 肩で息をしながら足を止めた彼女へ、止せばいいのにまたも口が滑る。

「…白、か…」

 いや、滑らさずに居られなかったのだ。
 横島にとっては、余りにも新鮮に過ぎて。

 かつては、ほとんど見かけた事の無い長いスカート。 翻ったソレから伸びる白くて細い脚と、その暗がりの奥だからこそ、余計に目に留まった白い下着。

「いつものアダルティーな黒もいいけど、これはこれで」

 パンティーと言うより、パンツなその面積。
 数多の枚数を見続けてきた、言わば美神のパンティー評論家たる彼にとっては、それもまた成長の跡を感じさせられて郷愁すら呼び起こす。

「変にレースとか、シルクじゃないのが…」

 何時の間にか全快して、聞き捨てならない事を呟き出した彼に、美神は拳を震わせた。

「ふふ、ふふふ…
 アンタ、マジに死にたいらしいわね」

 額にぶっとく浮いた血管と、睨みつけて来る血走った視線とに、横島はまたしても口に出していた事に気付いた。

「あ、あああ…」

 ずりずりと、しゃがみ込んだままずり下がる。
 まるで台風の様にすら感じさせる威圧感。 だが、慣れ知ったソレが変に心地好い。

 …どんな変態だ、この男。

「一度 地獄にでも言ってこ〜いっっ!!」

 叫ぶなり、美神はスクーターを吹かせて、一直線に突っ走って来た。

 反射的にサイキックソーサーを展開する。
 が、しかし、ついさっきまでまともに霊力を扱えていなかった彼女が、それを物ともせずに突き抜け、そのまま横島を撥ねとばして走り去っていった。

 相手がどう見ても小学生だったなんて事は、彼女には全く関係がなかった様だ。 最前の人外の回復力を見て、気にするのも馬鹿らしいと思ったのかも知れないが。

 その瞬間、自身が初めて霊力を発揮したのだって事も、やはり気が付いていない。

 ぴくぴくと蠢いている横島だけが、その場所に残された。
 まぁ、自業自得ではある事だし、これも彼らしいと言えば彼らしい末路だろう。

 

 

 

「…で、目覚めたら、ここ、と」

 運命的と言えない事も無い出逢いの回想を終えて、独りごちる。

「どうやって帰ってきたんだ、俺?」

 美神に撥ねられてからこっち、すっぱりと記憶が無い。

「ま、いいか。
 んな事より… 何やってんだよ、俺。 とは言え、エミさんの事はしょーがないしなぁ」

 漸く、自分が本来 何をしに東京に行ったのか、思い出して頭を抱え込む。

「けど、あの分じゃ美神さんは当てになんない、よなぁ…」

 パッと見、エミの様に強い霊力を纏っている訳でもなかった。 神父の話通り、母親が死んだと知らされて暫く経った頃、くらいの、まんま霊能関係から距離の有る状況なのだろう。
 最後にこそサイキックソーサーを打ち破ってみせたが、それも勢いで出来ちゃったって感じで意図して使った物とは思われなかった。
 彼自身の様な、中身だけ戻ってるような節も無い。

 だとすると、神父より頼りになるとはとても思えないのだ。
 しかし、この時期には既に居て、且つ現役で頼りになりそうな知り合いは多くない。

「ピート……は、頼りになりそうに無いよなぁ。 大体、ブラドー島まで行く金なんか無いし。
 愛子はアレだな、頼りになるか以前に、何処に居るか判らん。
 冥子ちゃんのお母さんにはほとんど会った事が無いし、西条に頼るのは死んでもヤダし」

 六道家は東京だが、いつぞやを思うと頼りにも当てにもなる相手ではない様な気がする。
 残る面々はと言えば、愛子は所在不明で、ピートはイタリア、西条はイギリスに居るのだから、そもそも会えもしないのだが。

「となると、後は猿の師匠か小竜姫さまか」

 考えるだに、それが最良の選択肢に思えた。
 知識と言う点でも、何かに対処出来るだけのチカラが有ると言う点でも、知り合い内では飛び抜けている。
 ジークやワルキューレも当然存在している筈だが、妙神山に居ると判っている小竜姫たちと違い、何処に居るかなんて判らないのが大きい。 それに、この時分では協力して貰えるかすら定かではないのだ。

「となると、次の問題はどうやって行くかだよなぁ」

 訪れる者が滅多に居なかった事で判る様に、その所在や存在を知る者も少ない妙神山。
 とは言え、何度も登った事のある横島にとって、その道は慣れたものだった。

 だからやはり問題となるのは、今居る大阪からだとかなりの交通費が掛かるって事。

 週に1個創れるかの文珠は数が揃わない上に、そもそも今の自分では2文字制御に不安が有るから、それで『移』『動』なんてムリ。
 だが、無理を言って東京に行ったばかりなのだ。 この上 更に、となると、親たちをどう説得したものか、まるで思い浮かばない。

「けど、他にもう手は無いしなぁ。
 あぁ、どないしょ〜」

 

 

 

 ベッドの上で横島が延々と頭を捻っていた、その頃。

 横島家からそう遠くない行きつけのバーに、大樹と百合子は来ていた。
 秘密裏の話をするのに、打ってつけの個室がソコにはあるのだ。 二人はそこへ一人の青年を迎え入れていた。

「手間を掛けさせてすまなかったね、クロサキくん」

「いえ」

 大樹の慰労に、頭を下げて応える。
 言うまでもなく、横島を連れ帰って来たのは彼だ。

「で、早速だけど、忠夫がどうして居たか、聞かせて貰えるかしら」

 意識の無い息子を背負って来た事もあって、その場では詳しい話を聞いている余裕がなかったのだ。 その為、二人はまだ詳しい話を聞けていなかった。

「その前に、一つ伺いたい事が…」

 眼鏡をキラリと光らせて、クロサキが口を挟んだ。

「ん、何かね?」

「ご子息ですけど、東京には何度か行かれた事が有るんでしょうか?」

 大樹と百合子は揃って首を傾げた。

「無い筈だけど、どうしてかしら?」

「東京駅に到着するなり、迷う事なく山手線に乗り換えられました。
 まるで、見慣れた所だとでも言わんばかりの様子で」

 夫婦は、再び揃ってぴくりと目蓋を動かす。

「次に降りた……駅でも、こちらの尾行に気が付いた訳でもなさそうなのに、一時 見失いまして。
 まだ使われていないビアガーデンで発見出来た時には、高校生になるかくらいに見える長い黒髪の少女と一緒にいて…」
「忠夫の癖に生意気な」

「あなた」

「いや、すまん。 続けてくれ」

 大樹の軽口に閉じていた口が、再び開かれる。
 出てきたのは、淡々とした表情とは裏腹に物騒な話だった。

「たまたま目に入ったんで、警告する事が出来たんですが…
 狙撃され掛かっていまして」

「はぁ?」
「どう言う事かしら?」

 さすがに思いもよらない事に、あんぐりと口を開ける大樹と、すぐさま問い返す百合子だった。

「突然、何かに気付いた様に走り出したご子息を見失って、10分ほどですか。
 ちょうど私がその場の入り口に辿り着いた時、ホールのほぼ中央辺りにご子息が立っていました… 傍に居た少女を、恐らく宥めていたのではないかと。
 取り敢えず発見出来たので、接触する事もあるまいと会話が何とか聞こえる位置に隠れていんですが、真っ正面のビルの屋上に光る物が見えました。
 わたしも、見慣れたと言う程ではないですが、それがナニカはすぐピンと来まして…」

「あいつに銃創は無かった様だし、どうにか躱せたと言う事か」

「いいえ」

 眉に皺を寄せる上司夫婦に、彼は続けて答えた。

「ご子息は手から出したらしい光る盾で、全ての銃弾を弾き飛ばしました。
 恐らくですが、霊能関係の能力ではないかと」

「忠夫のヤツがか?」

「はい」

 あっさりと頷く部下に、判断に困って顔を見合わせる。
 大樹の「そんな事出来たのか?」と言う視線に、百合子は首を横に振って応えた。 少なくとも、彼女の知る限りでは、そんな節は無かった。 目の前の青年が口にしたのでなければ、冗談と笑い飛ばす様な話だ。

「その後すぐに、狙撃者を撃退。 こっちも、霊能関係だと。 で、そのまま、二人揃って動き出しました。
 今日調べられた情報と、合わせての推測ですけど。 少女はどうも警察関係者が使っている呪術師で、どうやらソレをご子息が邪魔してしまい、口封じで少女諸共に狙撃されたのではないかと」

 次から次へと荒唐無稽と言っていい内容が飛び出す。 だが、この男が調べたと言うのである。 かなり深い……ヤバい領域にまで踏み込んでの話の筈だ。 そう言った点において、どの部下よりも信頼している。
 だから、二人は居住いを改めクロサキに向き直った。

「続けてくれ」

「はい。
 その後向かった先は、神父と言う通称で知られたGS、唐巣和宏氏の教会でした。
 こちらでは盗聴の余裕が有ったので、会話はこちらに」

 そう言って、取り出したレコーダーのスイッチを入れる。

『で、私に何の用かな?』

『彼女のコトなんすけど……』

 暫く聞こえて来る話に耳を傾けた。

 グラスの氷が解けた音が響く。 誰もが黙りこくった部屋の中で、ただ横島たちの会話の一通りが流れて行った。

 聞き終えると、大樹はやおらクロサキへと向き直った。

「この小笠原エミと言う少女だが…」

「今日の内に唐巣氏は手配したようですね。
 ご子息が行った狙撃手への反撃も含め、全て無かった事になっているようです。 どうやら六道家からの圧力も有った様で、公安を始め何人か『一身上の都合』で首を飛ばされています」

 肩を竦めて手を挙げる。

「六道が?」

 裏でも表でも、厳然とした存在なのだ、六道と言う名は。
 GS界のみならず、各界に顔が利く。

「唐巣氏自身、六道門下でも有る様で」

「ふむ…」

 顎に手を当てて、少し考え込む。
 どうやら、その件では息子に関して手は打たなくても良さそうだ。 この部下が、これといった提言をして来ない所からして、根回しは しっかりとなされているのだろうし。

「この忠夫が言ってる、美神と言うGSだが…」

「前々からの病で、先月末に亡くなった様です」

「…そう」

 だとすると、息子の様子がおかしくなるよりも、かなり前に顔を合わせていた事になる。
 その出逢いが原因では無さそうだ。

「とすると、アイツはなんで寝込んでたんだ?」

 そんな大樹の問い掛けに、淡々とした報告が再開される。

「少女を残しての帰り道、また撒かれてしまいました」

「ほう」

「…すぐに見付けたものの、なにやら地元の不良少女と諍いを起こしていまして。
 何故か一方的にのされたんですが、理由はちょっと判りません」

 銃撃すら撥ね除けるチカラが有るのに、まるで無抵抗だったのだ。
 日に発動出来る回数が限られるのか、それとも別に何らかの理由が有るのか。 直接その様子を見ていたクロサキにしても、それは判らない事だった。

 何せ、何故頭が上がらないのか、横島本人にもちゃんとは判っていないのだ。 まして彼の現状も知らない以上、判る方がどうかしていると言うものだろう。

「すぐに軽く診た限り、周囲の状況も合わせ見て大事にするまでもないと思いまして。
 それで、そのままお連れした訳です」

「なんだなんだぁ? 女の子にのされたってのか…
 俺の息子の癖に不甲斐ない」

 つまらなそうにグラスを煽る。
 まぁ、反撃して傷付けたなんて事になったら、すぐにでも折檻している所だが。

「それはともかく…
 あなたが2度も見失った。 つまり、忠夫に土地勘があったんじゃないか、って事ね?」

「はい」

 頷くクロサキに、百合子もまた考え込んだ。

「どうやら、一度 この唐巣氏とも、連絡を取って見る必要が有りそうだな」

「そうね。
 クロサキくんの調べてくれた事と合わせても、忠夫が何故、何をしに東京に行ったのか、まるで判らないもの。 ただ、霊能関係だって可能性は大きそうだけど…」 

 百合子の困惑も仕方有るまい。
 何せ、横島自身からして目的地に辿り着くまで、自分の目的をすっかり忘れ去って行動しているのだから。 これもまた、事情を逐次把握していなければ、判る筈が無い事だった。

「そうだな。 取り敢えず、アイツの事はそれから考えてみるしかないな。
 ご苦労だったね、クロサキくん」

「いえ。 この程度ならいつでも」

「これは少ないけど調査費用よ。
 また何か有るかも知れないし、受け取っておいてちょうだい」

 厚みのある封筒を渡されて、素直に懐に収めるとクロサキは一礼して立ち上がる。

「…これは私の勘なんですけど。 予知か何かで、先に情報を得ていた可能性も考慮した方がいいんじゃないかと。
 部長たちのお子さんですし、それぐらい出来ても不思議ないでしょうから」

 最後にそう締括って、彼は立ち去った。

 暫くの間、二人揃って残されたレポートをぱらぱらとめくる。
 それらを共に頭に入れ終わると、百合子がぽつりと呟いた。

「…けど、霊能絡みってのは厄介ね」

「そうだな。
 唐巣氏の他に、信頼出来そうなこっちの人間にも当っておいた方が、いいかも知れんな」

 さすがに専門外の事。
 顎に手をやりつつ、思い馳せる。

 それでも愛する息子の為だ。
 二人はそれぞれグラスを空けると、大した事じゃないとばかりに顔を見合わせて笑った。

 

 

 

 【つづく】

 


 ぽすとすくりぷつ

 調子崩したり詰ったりしてる内に放置プレイ状態だったので、とっととこうかいせにゃなぁと思いまして(^^;
 ちょうどいい具合に1〜8,9〜14,15〜20でそれぞれ区切りが付いてるんで、その3以降なら3話ずつ上げるのが良いんじゃないかなぁ、と。
 まぁ、8まではあまり弄るとこ多くないんで、投稿分とそんなに差は無いんですが(^^;

 色々遅らせてる他のに関しては、どうにもすいません(__)


 

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