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桃色の髪の乙女

例によって某所の「もしゼロの~」スレに投下したネタです。
「るいとも」ではヲタク化していたルイズですが、コチラでは……。

前提となる背景は、こんな感じ。

──春の召喚儀式の時の手違いで、未知なる土地(地球)に来てしまったルイズ。
しかも、地球に来た時、弾みで杖が壊れてしまった。当然、杖が無い=ハルケギニアに帰れないというコト。
なぜか言葉は通じるものの、異様な風体でワケのわからないコトを話す人々におびえ、路地裏に隠れて震えるルイズ。
途方に暮れた見るからに外国人な少女を助けた少年・才人は、彼女を自分の家へと連れ帰り、メイドとして雇うのだった……。

要するに、「15歳ルイズが日本に飛ばされ」、かつ「平賀家がお金持ちだったら」というIF。

──才人(と平賀家の人々)の温情でメイドとして雇われたものの、「あの」ルイズに当然、家事なんてロクにできるワケがない。ところが、「何たるドジっ子メイド! でも、そこがイイ!」と断言する才人。
才人に優しくされて「あ、あんたのことご主人様って呼んであげてもいいわよ。か、勘違いしないでよね! ヴァリエール家の娘として受けた恩義を返してるだけなんだから!」とツンデレるルイズ。
やがてふたりはラブラブに。才人の両親もルイズのことが気に入り、身寄りのない彼女を養女にしようかと思っていたため、後押し。ルイズはこちらでの教養を身につけるため、お嬢様学校に放り込まれる(つまり、「ツンデレメイド」から「女子高生&デレデレな御子息の許嫁」にクラスチェンジ)。

……という、ご都合展開です。
「そんな甘ったるいモン、読んでられるかぁ!」という人は回れ右。逆に「むしろご褒美です」と言う方だけ、続きをクリックしてください。

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『桃色の髪の乙女』

 「あ、平賀センパイ、お先ィーーす」
 道着入れと竹刀袋を担いだ、いかにも「剣道部でござい」といった風体の少年たちが、先輩らしき少し年かさの少年に挨拶して通り過ぎようとする。
 「おぅ、お疲れ……ん? 杉田は確か駅の方だよな。俺も今日は駅前の商店街に行くつもりだったから、どうせなら一緒に行こうぜ。マックくらい奢ってやるから」
 自転車の前カゴに少年たちと同様の荷物を積んでいるところからして、どうやらこの少年も剣道部所属らしいが、そのわりにはあまり体育会系な感じのしない、気さくな印象だ。
 「いいンすか!? すんません、ゴチになります!」
 「あの……それ、僕もついてっていいですか?」
 上下関係が厳しいと言われる運動部でありながら、こんな風に後輩にも気安く接するし、後輩のほうも彼を慕っているようだ……まぁ、おごりに釣られただけかもしれないが。
 「ははっ、いいぜ。最近は前野も練習頑張ってるからな。俺達3年は今度の夏の大会で引退だから、有望な先鋒&次峰候補にいまのうちに先行投資しとこう」
 やったー、と喜ぶ後輩たちの様子に苦笑しつつ、自転車を引いていた平賀少年だが、校門の方に人だかりができているのを見て、首を傾げる。
 「なんだ、ありゃ?」
 ケンカでもしてるのかと思ったが、どうも違うようだ。
 よくわからないまま近づいてみると、他校の制服を着た少女が人待ち顔で校門にもたれて佇んでおり、それをこの高校の生徒達が遠巻きに見ているらしい。
 「あぁっ、平賀センパイ! あの娘の制服って、確か景女っすよ景女!!」
 「うわぁ、あんなお嬢様学校の生徒が、ウチに何の用なんだろ……」
 後輩ふたりが騒ぐとおり、少女の制服は景女──景泉女学院という、明治以来の伝統を持ついわゆる名門女子校のものだ。
 偏差値はさほど高くないものの、小中高の12年間一貫教育で純粋培養の良妻賢母候補生を育てる、いまどき珍しい「本物のお嬢様学校」として近隣では名高い。
 最近でこそある程度以上の資産と名士の紹介状さえあれば入学資格がとれるものの、逆に言えば、それでもかなりの金持ちか名家旧家の縁者でなければ入れない。
 比較的近所にあり、一応県内ではそれなりの進学率を誇るとはいえ、ただの公立高校にそこの生徒が訪ねてくる理由は、あまり想像がつかなかった。

 また、少女本人の容姿も衆目を集めるのに一役買っていた。
 赤毛……というよりむしろ"桃色味を帯びた金髪"と称するのがふさわしいようなゴージャスな長い髪を銀色のバレッタでまとめている。
 明るい鳶色の瞳とミルクのような白い肌もまた、純粋な日本人には見られない特徴だろう。
 そして、それらの派手な色彩に全くひけをとらない、ビスクドールのように整った顔立ち。それでいて、"お人形さん"という印象とは無縁な、活き活きとした生命力が感じられる眼の光。
 つまり要約すると、「すんごいお嬢様学校の制服を着た、超絶美少女の外人さんが、校門前で誰かを待ってる」からこそ、人だかりができていたのだろう。
 「いったいどーしたんスかね。まさか、この学校に彼氏でもいるとか……」
 「あ~、スマン、杉田、前野。駅前ブラつくのはまた今度な」
 「「は?」」
 突然の先輩の言葉に呆気にとられている後輩2名を尻目に、平賀少年──県立春風高校3年B組所属にして、剣道部の副将を務める平賀才人は、自転車を引きながらできる限りの早足で、校門へ──正確にはその少女の方へと近づいていく。
 「よぅ、どうしたんだ、ルイズ。わざわざこんなところまで」
 人ごみをあえて気にとめないフリをしつつ、彼女に声をかける。
 「!」
 いくぶん退屈そうに自分のつま先を眺めていた少女だが、才人の声にハッと顔をあげ、彼の顔を認めるとパッと花がほころぶような笑顔になった。
 「もぅ、随分待ってたんですよ──ご主人様♪」
 ふたりの様子をうかがっていた周囲の人だかりがざわつく。
 (ヲイヲイ、勘弁してくれよ~)
 心の中で悲鳴をあげつつも表情は極力平静を保つ。幼いころから、「感情そのものを殺すのでははなく、必要な時には感情を表に出さない」ことを躾られてきた彼だからこそ可能な技だ。
 ──もっとも、完全に成功したという自信はないが。
 「あのな、そのご主人様ってのはやめてくれって言っただろ」
 「え~~、でも、わたしはご主人様にお仕えしている身ですしぃ~」
 悪戯っぼい光が目に浮かんでいるのを見れば彼女の心の内など、容易に推測できる。
 (うわぁ、ルイズの奴、わかっててやりやがったな)
 大方、ここで待たされた(と言っても別に約束していたわけではないのだが)ことのちょっとした仕返しのつもりなのだろう。
 と、そこでポンと肩をたたかれて才人が振り向けば、そこには血涙を流す中学からの腐れ縁の悪友の姿が。
 「フッ、そのあたりの情報を詳しく聞かせてもらおーじゃないか、ええっ、平賀クン」
 「ええい、迫るな脅すな、土御門! この娘はウチの家で働いてたんだよ」
 「ええ、そのとおりです。わたし、平賀家に……いえ才人ぼっちゃま個人にお仕えするメイドなんです」
 ニコニコしながら、再びセンセーショナルな言葉を周囲に振りまくルイズ。
 「な…のわにぃ~! 雇い主の立場を楯にとって、こんな美少女メイドを我がものにし、毎晩くんずほぐれつの愛欲三昧の淫らな性活を送っていただと! 平賀クン、見そこなったぞ!」
 「ば、馬鹿野郎! 誰もそんなこと言ってねー!!」
 でも確かに毎晩じゃないけどスることシましたけどーと、こっそり小声でつぶやくルイズは無視。幸い、土御門に今の言葉は聞こえなかったようだ。
 「快活で頼りがいのある剣道部副将」から「高校生にあるまじき鬼畜少年」に下がった自らの評価をなんとか取り戻そうと絶望的な努力を試みる才人。
 「第一、ルイズがメイドしてたのも去年の夏までだ。その後は、ウチの両親が後見人になってキチンと高校に通ってるし、それに……」
 チロッと舌を出してる小悪魔の方を見て、何とか一矢報いてやろうと決意する。
 (ええぃ、ままよ!)
 「それに、今のルイズは俺の許嫁、フィアンセだからな! やましいことは何ひとつねぇっ!!」
 「あ……!」
 流石に才人がそこまで明かすとは思ってもみなかったのだろう。ルイズの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
 周囲に自分の言葉による波紋が広がっていく様を見極めるのも待たず、才人は自転車に飛び乗ると、ルイズの腕を引っ張った。
 「ほら、ルイズ、後ろに乗れ」
 「え……あ、はい」
 そのまま、全速力で離脱する高校生カップル。
 「うーん、青春だなぁ」
 「うわぁ、まさか平賀先輩に恋人、ってか婚約者がいたとは……おい、部活のみんなにも教えてやろーぜ!」
 「ああ。けど、女子部のヤツら、結構ショック受けるんじゃね? 平賀センパイに憧れてる子、何人かいるみたいだし」
 後輩ふたりは「先輩によるおごり」の何倍も美味しいネタに狂喜するのだった。

 * * * 

 かなり強引に校門の野次馬連中を振り切った才人とルイズは、才人の当初の予定どおり、駅前の繁華街まで来ていた。
 「あのぅ、ごしゅ「ゴメン、その呼び方だけは勘弁してくれ」……はい(チッ)」
 元々は、ルイズがメイドとして平賀家に厄介になるにあたって才人が冗談で「じゃあ、これからは俺のことを「御主人様」と呼んでくれ」と言ったことが元凶ではある。
 気の強いルイズをからかいたいのが半分、またリビドーあふれる青少年として男の浪漫的にそう呼ばれることに憧れていたのが半分。
 もっとも、その時はツン状態真っ盛りのルイズにすげなく断られたわけだが。
 しかしながら、現代日本の日常でリアルにこれをやられると、まったくもって洒落にならないということが、実際よーくわかった。
 しかも。
 一年前ならいざ知らず、今のルイズは「日本の女子高生」としての一般知識や常識、良識の類いは、すでにほぼ人並み程度に持ち合わせているはずなのだ。
 要するに、性質(たち)の悪いことに、彼女はわかってて才人をからかっているのである。もしかしたら、一年前の件を根に持っているのかもしれない。
 「えーーと、じゃあ「才人ぼっちゃま」?」
 「その呼び方は、もっと年上の人じゃないと似合わないよなぁ。オマケに、何だか"バカなボンボン"みたいなニュアンスも感じるし」
 確かに才人の学業成績はせいぜい中の上といったところだが、「バーカバーカ」と後ろ指さされるほどヒドいものでもない。
 むしろ理数系はかなり得意で、趣味の機械いじりやパソコンの操作に関しては、それで職を得ている社会人並みの知識と技術を有しているくらいだ。

 もっとも、これは彼の家系、平賀家の特徴とも言える。
 かの平賀源内を祖と仰ぐ(もっとも源内は子を残さなかったので、より正確には傍系ということになるが)彼の一族は、代々卓越した技術者を輩出している家系だ。
 江戸時代には、いくつかの藩で干拓や鉱山開拓の責任者、あるいは藩医、あるいは蘭学者として名を成した先祖が多い。
 さらに、その中でもとある藩の勘定方の次席家老にまで上り詰めた出世頭が、明治維新時の西洋からの技術流入の流れに乗って工場を興し、成功を収めた。
 すなわち才人の曽祖父・平賀重蔵男爵である。
 現在の日本で、平賀工業グループと言えば、日本のTOP3……とまではいかないがTOP10に入るかどうかは微妙なところに位置する相当の大企業だ。
 つまり、平賀才人という少年は、戦前でいうところの"財閥の御曹司"、陳腐な言い方をするなら、「経済界のプリンス」と呼んでも決して大げさではない存在なのだ。
 正直あまり……いや全然そうは見えないのだが。

 閑話休題。
 そのように、非凡な生まれと裏腹に、平凡な見かけと、人並みよりは多少優れた程度の学力体力を持つこの少年が、なにゆえルイズのような明らかに外国籍の美少女と知り合い、許嫁となるに至ったのか?
 その経緯については、いずれ語るべき機会もあるだろう。
 「じゃあ、何て呼べばいいんですか? 「才人さま」?」
 「うーん、メイド時代なら間違いじゃないけどさ。今となってはちょっと堅い感じがするよな。普通、俺達の年代で同年代の相手に「さま」付けはないだろ?」
 「あら、そうかしら。景泉では、同級生同士は苗字+さま、親しい友人でも名前+さまが普通ですけど」
 「げっ、流石は筋金入りのお嬢様学校」
 「ちなみに、親しい上級生は名前+お姉さま、下級生は名前+ちゃん。あ、もちろん挨拶は「ごきげんよう」ですよ」
 うわぁ、どこの少女漫画かエロゲだよ……とは思ったものの、当のその学院に通っている生徒を前に口に出さないだけの分別は、さすがの才人にもあった。
 「ああ、もう、普通でいいって!」
 「えっと……じゃ、じゃあ……「才人さん」?」

 ──ドクン!

 気丈な彼女らしくないおずおずとした、けれどとても甘い声でそう呼ばれて、才人の鼓動が半オクターブ跳ね上がる。
 「お、おう、それでいいと思うぞ。俺達は、その……こ、恋人どうしなんだしな」
 自制心の訓練の甲斐もなく、わずかに顔を赤らめて、ぶっきらぼうにそう答える才人の言葉に、ルイズの方もトマトのように赤くなる。
 どうやら、この娘、攻める側に立つと調子がいいが、いったん攻められると、とことん弱いタイプらしい。
 「やっと……」
 いや、眼尻に涙さえ滲ませている様子は、どうやらそればかりではないようだ。
 「え!?」
 「やっと、恋人だって言ってくれた……」
 少女の言葉に、彼女と出会ってからの1年あまりの日々を思い返す才人。
 (そう言えば、ハッキリ言ったことってなかったっけ)
 最初は、身元不明の怪しい外人少女とお人好しの少年として出会い、家に連れ帰ってからは、メイド見習と屋敷の坊ちゃんという関係になり……。
 季節がふたつ変わるころに、ふたりは少年の両親公認の許婚者同士となっていた。
 つまり、異性の友人、主家の息子と使用人という立場から、一気に夫婦一歩手前にランクアップしてしまったため、普通の「恋人同士」という時代がふたりには存在しなかったのだ。
 (くそぅ、俺ってヤツは!)
 その事に気づいた才人は、自分のデリカシーのなさを恥じた。
 目の前の愛しい少女は、きっと不安だったに違いない。
 見知らぬ異邦の地にひとり放り出され、突然差しのべられた救いの手に、その高いプライドを曲げざるを得ず……そうした苦労の末に勝ち得たささやかな幸福。
 けれど、許婚となった少年の心が、本当に自分の元にあるのか?
 「馬鹿だなぁ、ルイズ。俺、「好きだ」って何回も言っただろ?」
 涙ぐむ桃色の髪の少女を人目もはばからず抱き寄せる。
 「だって……才人さん、優しいから……もしかして、わたしの境遇に同情してるだけなのかも、って」
 淑やかな外見に反して(いや、実際上品で高貴なのは確かだが)普段はかなり気丈な性格の少女が、自分の前では思いきり弱みを見せて甘えてくれる。
 不謹慎かもしれないが、その事が少年はうれしかった。
 「それに俺はこれでも現実主義だからな。好きでもない女の子を嫁さんにして、生涯を共にしようなんて思わないって」
 「才人ぉ……」

 若き男女の抱擁は、その後ふたりが落ち着きを取り戻し、周囲の人たちから生暖かい目で見られていることに気付いて、そそくさと立ち去るまで続いたのだった。

 * * * 

 「ね、ねぇ、才人さん、これって、その……で、デート、だよね?」
 微笑ましさ7割、妬ましさ3割といった周囲の人々の温い(?)視線から逃げ出したふたりは、平日の夕方近くということで賑わっている商店街の一角を、とくにアテもなくラブラブ……もといブラブラしていた(前者でも間違いじゃない気はするが)。
 無論、逃げ出すときに才人がルイズの手を引っ張って歩き出したので、今もふたりの手がつながれたままなのはお約束だ。
 「ん? 何言ってんだ。当り前じゃ……」
 何気なく答えかけて、才人は掌の中の「彼女」の手が僅かに強張っているのを感じた。
 (そういやぁ、ふたりきりでこんな風に出かけたことって、今までなかったっけ)
 そう考えると、何やら自分の大切な恋人に対して申し訳なく思えてくる。
 無論、ふたりとも違う高校に通っているし、それぞれ部活などで忙しかったというのも事実である。ルイズに至っては、日本の学校生活に慣れるという課題もあったことだし。
 しかし、そもそも同じ家に住んでいるのだし、学校の位置も近い。今日みたいに片方がもう片方の学校に誘いにくれば、いくらでも放課後デートくらいはできたはずなのだ(休日は、残念ながら後述する理由で自由な外出はやや難しいが)。
 「──ああ、そうだな、記念すべき、ふたりの初デートだ」
 そう言って、キュッと手を握り返す。
 「♪ えへへ、そっか。そうよね」
 ルイズのちょっとだけ不安げだった顔がたちまち喜びに綻ぶ。
 頬を染めて恥じらいながらも、全身から嬉しそうな気配を発散して、右腕にしがみついてくるルイズの様子は、見事なまでに才人の煩悩にクリティカルヒットしていた。
 正直そのまま自宅の寝室までお持ち帰りするか、裏通りの「愛の宿屋」に連れ込みたいという衝動を感じないでもなかったが、今日はルイズと「普通の高校生らしいデート」をすると決めたのだ。
 (あぁ、もうっ、可愛いなぁ、コンチクショウ!)
 才人は、心の中で叫びながらも、必死で何食わぬ顔を装った。

 ちなみにルイズは、才人の母(彼女と同じく景泉の卒業生)の薦めで弓道部に在籍している。
 実際、礼節を重んじ高度な集中力を要するその武道は、ことのほかルイズの気性にあったらしく、弓道歴わずか1年にも満たないのに、いまや部では中堅クラス以上の実力と目されていた。
 才人も一度だけ、春の大会で彼女が弓を射るところを見たことがある。
 袴に胸当て姿の凛々しさもさることながら、弓を引く姿はまさに月の女神(アルテミス)もかくやというべき、普段とは一線を画する神々しさを放っており、改めて惚れ直したものだ。

 ……などと、ぼんやり考えていると、ルイズがちょっと頬を膨らませた。
 「才人さん、ちゃんと聞いてますか? ……もしかして、あっちの胸のおっきな娘に見とれてた?」
 「はぁ? バーカ、ルイズと一緒にいるのにほかの女の子なんか気にするわけないだろ」
 言ってから、とても恥ずかしいセリフを口にしてしまったことに気がついたが後の祭りだ。言われた方も「はうっ」と固まっている。まぁ、満更でもなさそうなので、結果オーライだろう。
 「だ、だって、才人さん、胸の大きい女性が好みみたいだし」
 「それ、誰が情報ソースだよ? ……いや、いい、皆まで言うな!」
 かつてメイドとして何度か才人の部屋も掃除したであろうルイズなら、彼の「秘蔵コレクション」を見つけていてもおかしくはない。
(一応念入りに隠してはいるはずなのだが、なぜか母親とか恋人というのは、ソレを発見してしまうものなのだ。大宇宙の神秘である)
 「コホン! ──あ~、ともかく! 確かに鑑賞用と言うか男の習性(サガ)というか、そういう嗜好もあるけどな。
 でも、大事な恋人とデートしてる時に他に目をやるほど失礼じゃないつもりだぞ。大体そんな気にするほど、ルイズだって今は小さくないだろーが」
 そうなのである。
 かつて平賀家に拾われた頃のルイズは、白人種でありながら、身長153センチでスリーサイズが76・53・75と、日本の女子高生の平均値と比べてさえかなり小柄で貧弱な体格だった。
 しかしながら、衣食住にわたる生活環境の変化からか、この1年あまりで身長は急激に伸び、いまでは160センチに届いている。
 気にしているバストの方も、牛乳や大豆を多めにとっていること、ブラジャーを着けるようになったこと、運動部に入った(特に弓道は胸の筋肉を使う)ことなどの影響で、現在81まで成長しているのだ。
 (毎晩お風呂でバストアップマッサージを欠かさないことは、彼女だけの秘密だ!)
 つまり、巨乳とは言えないまでも、同年代の平均値には十分達していたりする。
 「で、でも……」
 まだなんとなく不満そうなルイズの耳元で、しょうがないなぁと苦笑しながら才人は囁く。
 「──大丈夫、俺の掌にちょうどいいサイズのルイズのオッパイが俺は大好きだし、それでも不満なら、これから育ててやるから」
 「な……そ、そんな調子のいいコト言ったって、誤魔化されませんからね!」
 耳どころか頭のてっぺんまで真っ赤になりながら、うれしそうな顔で拳を振り上げられても、可愛いだけだ。
 (あぁっ、もう、ほんとにメンコイなぁ~!)
 心の中で「ニヨニヨ」という擬音を自分で入れつつも、こうしてジャレていてもラチがあかないので、才人はルイズに聞いてみた。
 「えーと、ところで、せっかくの初デートでウィンドーショッピングだけってのもナンだよな。映画でも観るか?」
 「映画、ですか? うーん、そう言えば、わたし、映画館って初めてかも」
 テレビとか漫画でどういうものかは知ってるけど、と呟くルイズは、才人の提案に心惹かれているようだ。
 「そっか。じゃあ、折角だから入ろうぜ。今何上演してるのかなぁ……」
 折よくカラオケ兼シアターの建物の近くまで来ていたので、作品を確認してみる。
 「あ! わたし、これがいい!!」
 ルイズが指さすポスターを見て、一瞬カクーーンと顎が落ちかける才人。
 (ちょ、それは……)
 「Rou-shi~義に生きた47頭の狼達~」と題するそれはいわゆる赤穂浪士をモチーフにした時代映画だ。
 無論、テレビの時代劇に比べて新解釈などを盛り込んだ今風のつくりにはなっているが、よりによって初デートでこのタイトルを選ぶとは……。
 (ああ、でもそう言えば、ルイズって、爺ちゃん達の影響で、このテの話とかが大好きなんだっけ)

 平賀家のご隠居(自称)こと才人の祖父や祖母は、ルイズのことがいたくお気に入りで、ほとんど孫娘同然に可愛がっている。
 もともと才人の父も含め三人の子供がすべて男子で、才人達孫の代でも7人中女子が今度小学校にあがるひとりだけという状況だったため「娘分」に飢えていた……というのが本人達の談。
 そんな中、(嫁候補という形で間接的にだが)ようやく年頃の女の子の「孫」ができたため、それこそ猫かわいがりしているのだ。
 また、ルイズの方も、最初は困惑していたものの、打算のない好意を向けられて悪い気がするはずもない。
 元の「故郷」でも祖父母はすでに他界していたらしく、「おじいちゃん、おばあちゃん」に甘えるという初めての経験に、戸惑いながらも満更ではないようだった。
 実際、現在のルイズは、平賀邸の中でも、才人たちの住む洋風の本館ではなく、祖父母が暮らす和風建築の別館に部屋を持っているのだ。
 さらに、「花嫁修業」と称して祖母が和食や和裁、生け花、茶道などを教えているようだし、祖父も「日本の心を知るため」と休日には観劇(歌舞伎や狂言、落語など)や相撲見物によく連れ出している。
 おかげで、日本に来てまだ1年ちょっとだが、ルイズはその外見とは裏腹に、今ではかなり古風な大和撫子風の立ち居振る舞いと教養を身に着けつつけあった。
 すでに着物だって自分で着付けられるし、味噌汁だって美味しく作れるのだ!
 その裏には「才人の嫁にふさわしくなりたい」という健気な想いと、それを知って、ことさらにあおった祖父母や両親の協力・暗躍もあったようだが。
 通っているのが景泉というこれまた良家の娘さんたちが集う学校であったことも、ルイズの「大和撫子化」にプラスに働いたのだろう。

 「えーと、マジでそれ観るの? ラブストーリーとかもやってるみたいだけど……」
 と言うか、デートでこの台詞言うのって、彼氏がアクションやホラー見たいと言って駄々こねたときの彼女の役目じゃね? と、才人は内心苦笑する。
 「え? うーん、確かにそちらも気にはなるんですけど……」
 さすがに年頃の乙女らしく、興味は惹かれたようだが、あくまで本命は「Rou-shi」らしい。視線の動きでわかる。
 「(ま、いっか。俺も嫌いじゃねーし)うん、じゃあ入ろう。すみません、学生2枚で」
 ──ちなみに映画の感想はまあまあだったと言っておこう。
 ルイズはご満悦だったし、才人の方もとくに眠たくなることなく1時間半あまりを過ごせた。もっとも、彼は大半の時間、暗闇の中でスクリーンの光景に一喜一憂するルイズの方ばかり窺っていて「可愛いなぁ」と呆けていた、という説もある。

 シアターを出ると、時刻は6時を少し回った頃合い。平賀家まで帰る時間を考えても、ちょっとお茶するくらいの余裕はあった。
 才人も最初はそうしようかと思っていたのだが、ふと思い立って、ルイズを通りのはずれに連れて行った。
 「ルイズ、そういえば、お前、まだ駄菓子って食べたことないだろ?」
 「駄菓子、ですか? うーん、聞いた記憶はありますけど、実物は知らないですね」
 まあ、日本人でも今どきの小学生なら知らない子も多いかもしれない。
 もっとも、富豪といってよい家柄にも関わらず庶民的な育て方をされた才人は、子供のころは100円玉を握りしめて駄菓子屋に日参した経験があった。
 「確か中学のころまではやってたと思うんだけど……あ、あった!」
 そのころ通った店のひとつを訪ねると、幸いまだ営業していたようだ。
 「こんちわ~」「お、お邪魔します」
 「はい、いらっしゃい……おや、これはまた懐かしい顔を見たねぇ」
 声をかけながらふたりが狭い店内に入ると、店番をしている柔和な顔つきの老婆がニコニコしながら迎えてくれた。
 「あ、ばぁちゃん、お久しぶりでーす」
 「ほんに、久し振りだねぇ、サイ坊。そっちは、”がーるふれんど”かい?」
 「ん、まぁ、そう。俺の彼女の……」
 才人に目で促され、一歩進み出てペコリとお辞儀をするルイズ。
 「才人さんとお付き合いさせていただいております、ルイズ・フランソワーズ・ヴァリエールと申します。以後、お見知りおきください、おばさま」
 「ホッホッ、今どき珍しい、礼儀正しい娘さんだねぇ。あたしは、このおらんだ堂の主人の長崎滝。おタキさんとでも、ばぁちゃんとでも好きに呼んでおくれ」
 皺だらけの顔を一層皺深くさせながら、老婆は才人とルイズを好ましげに見やった。
 「それにしても、あの鼻たれサイ坊が、こんな立派になって、恋人さんまで連れてくるとはねぇ。あたしも歳をとるわけだ。
 ……ん、サイ坊、今日は久しぶりに顔見せてくれたお礼だ。好きなモン持って行っていいよ」
 「えっ、そりゃ悪いよ、ばぁちゃん。俺ももう高校生なんだし、多少の小遣いくらい持ってるんだし」
 ちなみに、現在の才人が親からもらっている一か月の私的な小遣いは10000円。高校生としては少なくはないものの、富豪の息子とは思えない庶民的な額だ。若いうちから大金を与えるとロクなことはないという教育方針らしい。
 それで足りない分は、昼食代として別にもらっている金(月6000円。学食のAセット300円×20食分という計算らしい)を削ったり、長期休みに臨時のバイトなどをして賄っている。
 とはいえ、さすがに駄菓子屋の支払いに困窮するほどではない。
 「なぁに、いいのさ。アンタに彼女ができたお祝い代わりだよ。ホレ、そちらのルイズちゃんも、好きなのを選びなされ」
 ここまで言われて固辞するのも逆に失礼だろう。
 才人は「コーラ飴」と「うま●棒」を、ルイズは「あんずジャム」と「麦チョコ」をもらうことにした。
 「これ以上は流石に悪い」と金を払ったラムネの瓶2本ともらった駄菓子を抱え、ばぁちゃんに見守られつつ、店先にしつらえられたベンチにふたりは腰掛ける。
 「ん……懐かしい味だなぁ。ルイズはどう?」
 「ええ、素朴で優しい感じ……食べたことないはずなのに、確かに「懐かしい」って言うのがわかるかも」
 もの珍しさもあるだろうが、ルイズも喜んでくれたようで、才人はホッと胸をなでおろした。

 やがてふたりが遅めのおやつを食べ終わり、ばぁちゃんに別れを告げるころには、辺りの光景もすっかり夕暮れ時の淡いオレンジ色の光に包まれていた。
 「じゃあ、ルイズ、ちょっと飛ばすから、しっかりつかまってろよ」
 「はい、才人さん」
 商店街の入り口近くにとめておいた自転車にまたがった才人は、後ろの荷台にルイズを乗せて家へと走り出した。
 しばらくすると、腰に回されたルイズの腕がぎゅっとしまる。
 「ん、どーした? 速過ぎたか?」
 「……いいえ、何でもないの」
 そう、特に何かあったわけではない。ただ……大好きな少年と過ごす何気ないこんな時間が幸せすぎて、もしかしてこれが夢なんじゃないかと不安になっただけ。
 才人はもとより、彼の両親も祖父母も優しいし、ルイズを娘/孫同然に可愛がってくれる。
 学校の勉強はおもしろいし、部活や稽古事で上達していくのも楽しい。
 仲の良い友達だっていっぱいできた。

 それなのに、ふと思うのだ。
 もしかして、これは夢で、目が覚めたら自分は魔法学院女子寮の自分の部屋にいるんじゃないか、と。
 まともに相手してくれる友人もおらず、魔法もまるで成功せず、周囲からバカにされ、家族からさえ困ったような眼で見られる、やせっぽちで気位ばかり高い嫌な女の子。
 そして……何よりそこには最愛の少年もいない。
 自分の想像にゾッとする。

 思わず、これが現実なんだと確かめたくて、この世界でのいちばんの絆──才人に体を寄せずにはいられなかったのだ。
 「──何を悩んでるかは知らないけどさ。俺はずっとルイズの味方だから。
 相談にならいつでも乗るし、泣きたいなら胸は貸すぜ?
 もっとも……できればルイズにはずっと笑っててほしいけどな!」
 「うん……うん」
 優しい、やさしすぎる少年の言葉に思わず涙がこぼれる。無論、それは先ほどまでの心細さに涙ぐむそれではなく、喜びの涙だ。
 「才人ぉ……大好き」
 脳天をとろかすような甘い囁きに少年が思わずハンドルをきり損ねそうになったのは……まぁ、無理もないだろう。

-終わり-

-------------------------------
#以上。初掲載した先では「砂糖大盛り」「スイカに蜂蜜シロップかけたような甘さ」と評されましたが、いかがでしょうか? 当初の構想では、

ルイズの高校卒業(※学年は才人のひとつ下)を待って結婚。結婚式で誓いのキスをした瞬間、銀色の鏡が教会の扉の外側に出現。
ブーケトスをしようと教会から出ようとした新平賀夫妻はトリステイン魔法学院に転移し、花嫁衣裳のルイズをお姫様だっこしたサイトが草原に出現。
しかも、なぜか、ハルケギニアでは時間がほとんど経過しておらず、ルイズがゲートに消えた直後にふたりが現れる

……なんて展開も想像してたのですが、「鬱になるからヤメレ~!」と言われて撤回しました。

「るいとも」同様、「日常風景」を書きたい作品ではあるのですが、このふたりときたら、私の作品内糖度限界を軽くブッちぎってくれやがりますので……。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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>みやみや さん
ええ。ですが、残念ながら、また不調みたいですね。
プロフィール

KCA(嵐山之鬼子)

Author:KCA(嵐山之鬼子)
Pixiv、なろう、カクヨムなど色々書いてます。感想などもらえると大変うれしいです。
mail:kcrcm@tkm.att.ne.jp

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