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『巡恋華』後編

大事な妹に転生したロリババァと過ごす二日間。その幕開けです。
ちなみに、以前の雑談でも書きましたが、藤堂加奈子は「まほじょッ!」のふたりと同級生です。

※2011/06/01 皐月紫龍さんに「藤堂華名・おでかけバージョン」の絵を描いていただきました。
巡恋華』後編

[其ノ五]

 「ホレホレ、兄者、何ボサッとしておるか。早く参りゃれよ!」
 「はぁはぁ……ま、待ってくれ、華名! ちょっとお前、はしゃぎ過ぎ」
 「精神年齢数百歳のクセに」とは、かろうじて口に出さない。
 この歳になって社会人として働いていれば、女性に年齢の話がタブーであることくらいは、さすがに心得ているからな。
 ……ちなみに、ただ今の日時は、あの話し合いの翌日の土曜の朝10時であり、俺達──俺とカナの身体に宿った華名は、関東最大規模のテーマパーク、「ねずみーらんど」へと遊びに来てたりする。

 いやぁ、朝起きた時、同じ布団に「カナ」が寝ているのを見た時は、一瞬マジで焦ったぞ。
 まぁ、すぐに昨晩のことを思い出し、もしかしたら一晩寝たら元に戻ってた……的なことを期待して、そっとカナを起こしてみたのだけれど。
 「ふわぁ……おぉ、おはやう兄者。気持ちのよい朝じゃのぅ」
 ──やっぱり、そんなにうまくはいかないようだ。orz
 「こらこら、いくら何でもそんなに露骨に落胆されると、妾(わらわ)も傷つくぞよ」
 「あ、あぁ、すまん」
 そうだよな。ある意味、この華名だって犠牲者と言えるんだし。

 少なくとも昨夜話した限りにおいては、華名(本来は御先祖様だし、「さんを付けろ、デコ助!」と言われるかもしれんが、まぁ今更だし)は、理性的でかつ情に厚い性格に思えたし、子孫の中に転生することをあまり歓迎してる風ではなかった。
 前世の──歴代の記憶を持ったまま転生するということは、ある意味「不老不死」に近いのかもしれない。
 それを追い求めてやまない人もいるが、少なくとも数多のフィクションに於いて「不老不死」は、「祝福」と言うより「呪い」に近い扱いを受けている。華名も、その長い生のあいだに、苦しいことや嫌なことは多々あったに違いない。
 とは言え、すべて俺の想像に過ぎないし、たとえ彼女の不憫さに思い至った今でも、薄情と言われようと、俺にとってはやはりカナの方が大事だ。

 ホテル近くの喫茶店でモーニングセットを食べた後、いったん俺達は自宅へ戻ることにした。
 ちなみに、モーニングは「トースト+ハムエッグorオムレツ+ドリンク」という組み合わせだったので、昔の人(かつババア)な華名の口に合うかやや心配だったのだが、平然とした顔で、パクついていた。
 「当たり前じゃろう? 言ったはずじゃ。妾は、ずっと加奈子の中から見ていたと。むしろ、ボンヤリとしか知覚できんかった食べ物を味わうことができて、大満足よ」
 「威張って言うようなことでもないと思うが。それと頬っぺにケチャップ付いてるぞ」
 「む……」
 「ほら、じっとしてろ。今ふいてやるから」
 ついいつものクセで、カナ──の姿をした華名の口元を紙ナプキンでフキフキと拭う。
 やったあとで、見かけはともかく実精神年齢はン百歳の華名だから、「子供扱いするな」と怒るかと思った(最近はカナですら微妙に嫌がるし)が、妙に大人しくされるがままになっている。
 「ほれ、取れたぜ」
 「うむ、感謝するぞ、兄者。知識としては知っていても、やはりこのふぉーくとないふの扱いには、慣れておらぬでな」
 「まあ、その身体の持ち主のカナも、箸以外の扱いはいまひとつ不器用だけどな」
 ふたりで顔を見合わせて苦笑する。
 「にしても、本当にコーヒーでよかったのか? カナは、こういう時いつもオレンジジュースか紅茶を頼んでるけど」
 「だからこそ、たまには違うものも口にしてはと思ぅての」
 しかし、身体と言うか舌はカナのままなのに……ブラックコーヒーなんか飲んで、大丈夫か?
 案の定、カップを口に運んだ華名は、何とも言えない珍妙な表情になり、無理矢理ゴクリと飲み干している。
 「か、過去に、職業柄、苦い薬湯なぞを口にした記憶も多々あるのじゃが、珈琲とやらは格別に苦いのぅ。兄者は、よぅもそんなに美味そうに飲めるものよ」
 「ん? そーか? この店はブレンドも結構イケるんだが……ホレ、砂糖とミルク、入れてみろよ」
 ブラックの味に懲りたのか、華名は砂糖をふた匙とミルクを多めにカップに投入している。
 「ふむ……おお、コレなら確かに妾にも旨いと感じられるぞえ」
 聞くところによると、ひとつ前の転生は明治初期の田舎の神主の娘だったらしい。都会ならカフェのひとつやふたつはあったのだろうが、生憎と生身でコーヒーを味わうのは、これが初体験だとか。

 まぁ、そんなちょっとした騒ぎの後、家に帰って着替えた後、俺達は此処ねずみーらんどに来たわけだ。
 俺は普段着に近いポロシャツとスラックス。
 華名の方は、しばらくカナのタンスをゴソゴソ漁っていたかと思うと、黒のノースリーブシャツにデニムのミニスカートを着て、下には行き先を考慮してか3分丈のスパッツを履き、水色の半袖スプリングコートを羽織っている。
kana
イラスト:皐月紫龍さん

 フェミニンな服装が多い普段のカナとは随分違った印象だ。髪型も、後ろの少し高めの位置で結わえたポニーテイル(いわゆる侍ポニテ)にしてるので、活発な印象がある。
 「へぇ、例の術使って振袖でも作って、着てくるかと思ったぜ」
 「たわけ! 遊園地に行くのに、動きにくい格好をして何とする。
 それと誤解してるようじゃが、アレは衣服自体を変化させておるワケではないぞ? 自らの所持する、別の衣服と瞬時に交換しておるだけじゃ。
 ま、まぁ、確か箪笥の奥には昨年の十三参りで着た振袖があるから、兄者が見たいと申すのなら、着替えるのもやぶさかではないが……」
 「あー、それはまた別の機会にな。ま、いいじゃないか。その格好も可愛いし、似合ってると思うぞ」
 「!! ま、真実(まこと)かえ?」
 「いや、嘘ついても仕方なかろう。俺は確かに自他共に認めるシスコンだが、今のお前さんにカナとは違った魅力があることを認めない程、狭量ではないさ」
 「そ、そうか……」
 相手は年上の婆様(のはず)だからサラリと流されるかと思ったが、赤くなってると言うことは、もしかして褒められ慣れてないのか? いや、確かに昔の日本男児は、余程の好色男でもない限り、気安く女性を褒めたりしなかったのかもな。

 実は、このテーマパークに来るのは、実はカナの誕生日に合わせて以前から計画していたことだ。
 楽しみにしていたカナに申し訳ないという気持ちがないではないが、この土日は華名に家族──妹として接すると約束したのだ。
 華名は少なくとも嘘はつかないと思う。だからこそ、(彼女の言葉から考えると)カナを戻すために少なからず無理をするであろう華名の願いに応えるために、遊園地に付き添うぐらいの代償(こと)は俺もやるべきだろう。
 ──もっとも、(転生を経ているとは言え)精神年齢数百歳に及ぶはずの御先祖さんが、こんなにはしゃぐとは予想外だったが。
 「こ、コレは仕方ないのじゃ! 妾がこれまで生きて来た時代に、このように刺激的な娯楽施設なぞなかったし……」
 俺の生暖かい視線を感じたのか、言い訳をするロリバァさん。
 「──それに、妾にはそもそも娯楽に興じている余裕なぞ殆どなかったからのぅ」
 ? なんだろう。今、凄く寂しそうな顔をしていたような……。
 「兄者! 次は、あの”みすてりーだんじょん”とやらに入ろうぞ」
 思い切り俺の腕を引く華名の表情に、すでに翳りはない。
 だから、俺は気のせいかと、そのまま受け流してしまったのだ。


[其ノ六]

 大方の予想通り、「ミステリーダンジョン」と名付けられたお化け屋敷では、華名は恐がる素振りすら見せなかった。
 「まぁ、妾は元々、妖退治のえきすぱーとじゃからな。あの程度の児戯に心乱されたりはせぬわ」
 そう言えば、稀代の陰陽術師だっけか。
 「うむ。そうじゃのぅ、生前……という言い方もナニじゃが、当時は全長七間ほどのくちなわと対峙したことや、文字通りの「百鬼」夜行を祓ったこともあるぞよ」
 七間……って10メートル以上じゃねーか! それに、格闘技の百人組手ですら大変なのに(一応、中学時代は柔道部だったから、身に染みてる)、百体もの鬼をひとりで相手どるとは……。そりゃ、パチモン如き怖がるわけないわな。

 ──と、その時は俺も思ったんだ。しかし……。
 「うにゅ~~(@@)」
 「ほら、冷たい緑茶買って来たぞ。飲むか?」
 「か、かたじけない、兄者。いただこう」
 グッタリとベンチに横たわって目を回していた華名が、弱弱しく身を起こす。
 「しかし、まさかジェットコースターが、華名の弱点だとはなぁ」
 カナの場合は、むしろああいう絶叫系が大好きなんで、コイツも平気だと思って誘ったんだよなぁ。カナとしての記憶があるせいか、華名自身も満更嫌そうではなかったし。

 ところが。
 ガタン、ゴトンとコースターがレールを登るにつれ、隣席に座った華名の顔がひきつり始め、トップを超えて落ち始めた瞬間に早くも絶叫。以下、何度となく悲鳴を上げて、降りたときには疲労困憊でぐったりと言う有り様だったのだ。
 「し、仕方なかろう。妾がこれまで生き、転生してきた過程でも、あのような高さより高速で滑り落ちる経験なぞなかったのじゃから」
 そらそうかもしれんけどな。
 ん? でも、お前さん、確か元は龍だろ? 空を飛んだ経験くらいあるんじゃあ……。
 「うーむ、流石に人になる前、龍だった頃の記憶は少なからず曖昧でな。
 それに、兄者はくるまの運転免許を持っていたと思うが、運転がものすごく下手な者の横に座ってどらいぶに行きたいと思うかえ?」
 そいつは御免蒙る! なるほど、気持ちはおおよそ理解できた。
 「そういや華名ってさ、空を飛ぶ術とか使えるの?」
 「さすがにそれはムリじゃな。一時的に重力を軽減して清水の舞台から飛び降りても平気になる程度ならなんとかなるが」
 などと雑談しているうちに、華名の体調も回復したようなので、今度は比較的おとなしいアトラクションへ。

 さして新味のないそれらの数々に、目を輝かせてはしゃぐ華名。
 これまでは多少は距離感と遠慮もあったのだが、こういう人間臭い(というか普通の女の子っぽい)面を見せられると、眼前の少女が精神的には百歳を超える大陰陽術師だとは、認識しづらくなる。
 「ほら、キョロキョロしてるとはぐれるぞ」
 そのため、人ごみを歩く時も、ついいつもカナにしてるような態度で手を繋いで歩くことに。
 「あ……」(兄者の手……あったかい)
 「子供扱いするな!」と怒るかとも思ったのだが、意外にも華名は、そのままギュッと手を握り返してきた。

 そして、最後は定番の大観覧車に乗る。
 「おお、夕焼けが映えてろまんちっくじゃのぅ。さすが、兄者、わかっておる」
 「ま、デートのお約束だし、な」
 「! 今日のが「でぇと」なのか?」
 そう改まって聞かれると返答しにくいんだが……。
 「仲の良い男女が外に遊びに行くことを称してデートと言うなら、そうなんだろうさ。
 そういう意味ではカナとは何度もデートしてるし、お前さんも知ってるだろ?」
 「──兄者は女心をわかっておらぬのぅ。ほかの者がでぇとしておるところを、いくら詳細にびでおで見せられても、それででぇと経験が豊富じゃとは言わぬであろう?」
 ふむ。確かにそいつは道理だな。
 「(……それに、こういう場面で、いくら実質的に同一人物とは言え、他の女の名前を出すのも、えぬじーじゃ)」
 「ん? 何か言ったか?」
 「いーや、何も。あ、あそこが妾達のウチのあたりかの」
 「さすがに判別できんが、方角的にはそうかもな」
 ……と、言うようなのんびりした会話を楽しんで俺達は観覧車を降りた。
 そのまま遊園地を出て、途中の蕎麦屋で夕飯をとってから、俺達は家に帰ったのだった。


[其ノ七]

 「ねずみーらんど」から藤堂家に19時前に帰って来た俺達は、既に夕飯を食べてたこともあり、特に何をするでもなく居間でテレビを見ながらゴロゴロしていた。
 ウチの家は、バブル期ちょっと手前の80年代半ばに俺の父さんが退職金を会社から前借りし、残りを15年ローンで建てた木造二階建ての(一応)一軒家だ。
 とは言っても、1階がダイニングキッチンと居間とトイレ&洗面所、2階が俺とカナの部屋がひとつずつに、物置にしてる3畳程の小部屋という、吹けば飛ぶようなちんまいボロ家だけどな。
 築20年を超えるから、そろそろ色んなトコロにガタもきてるが、俺にとっては長年暮した思い出深い場所だし、家族の内ひとり生き残ったときも「帰る家がある」という事実が幾許かは心の支えになってくれた。
 また、当時まだ学生だった俺にとって、固定資産税はあるにせよ、アパートやマンションを借りて家賃を払うよりはリーズナブルという点で、懐にやさしかったのも非常に助かった。

 「む、もう八時か。兄者、そろそろ風呂に行くべきではないかのぅ?」
 身分を隠した殿様が素浪人を装って大江戸の悪を斬るドラマを、テレビの前にちょこんと正座して食い入るように観賞していた華名が、番組が終わったとたん、思い出したように話しかけてきた。
 「あぁ、そう言えばそうだな……って、一応念のため聞くけど、お前さん、銭湯の作法っつーか慣習とか、きちんと理解してるか?」
 「こらこら、馬鹿にするでない。これでも妾(わらわ)は、ふたつ前の生は江戸の生まれぞ。加奈子の知識に頼るまでもなく、湯屋の何たるかなぞ、よーく知っておるわ」
 なるへそ。江戸っ子と銭湯は切っても切れない仲だよな。

 てなワケで、洗面器に石鹸とタオルとシャンプーを入れた定番のスタイルで、俺と華名は連れ立って、家から歩いて3分ほどの場所にある銭湯へと向かった。
 「うーむ、この季節ゆえ、手拭いをマフラーにする必要がないのが残念じゃのぅ」
 「『神田川』かよ!?」
 て言うか、どうしてお前さんがソレを知ってる? カナどころか俺だって生まれてない頃の曲だぞ。
 「安心しろ。俺は基本的にカラスの行水だから、お前さんを待たせるような真似はしないから」
 「むしろ妾の方が待たせることになるじゃろうて。ま、ふるーつ牛乳でも飲みながら、ゆるりと待ちやれ」
 そう言い残して女湯の暖簾の向こうに消える華名。
 フルーツ牛乳て……いや、確かに好きだけどな、アレ。
 ちなみに、ここの銭湯は、「SPA」とか称する今風のソレとは180度方向性が違う、昔ながらの「風呂屋」って感じの店で、そのレトロさを逆に俺は気に入ってる。

 男の入浴風景なんぞ描写しても楽しくないのでスッ飛ばすが、結局俺が風呂からあがって15分ほど経過したところで、ようやく華名がロビーに戻って来た。
 髪とお肌を磨き上げ、全身をほのかに桜色に上気させてご機嫌な少女の様子は、(中身の精神年齢さえ考えなければ)十二分に愛らしいと言えるのだが……。
 「うむうむ、やはり風呂は命の洗濯よのぅ」
 「……だから、どっからそういうセリフを覚えてくるんだよ」
 「?? お主がこれくしょんしておる「でーぶいでー」とやらは、加奈子も暇な時は普通に観ておるぞ?」
 な、何ィーーーッ!?
 いや、落ち着け、俺。
 確かに居間の棚のひとつには、俺が学生時代に買い漁ったアニメや特撮などのDVDがまとめてしまってあるし、とくにカナに観るのを禁止した覚えもない。まさか、カナが興味を持つとは思わなかったからだ。
 だだだ、大丈夫だよな? 18禁とかR-15とかのヤバげな代物は、自室のカギのかかる机の引き出しに保管してあるし。
 あぁ、でも、居間に置いてある分でも、結構萌え系に振れてるアニメはあったような……。
 ある日カナが、「お兄ちゃん、あたし、コスプレしたい!」なんて嬉し…もといケシカラン趣味をカミングアウトしてきたら?
 いや、それくらいならまだいい(て言うか、そうなったら俺はカナ専属のカメコになる!)が、男性キャラ名をバッテンでつなぐような同人誌に手を出したりしたら……。
 「ま、まさか……俺の義妹がそんな腐女子(ヲタク)なはずがない!」
 「こりゃ、落ち着かぬか!」ペシッ
 思わず錯乱しかけた俺の頭を、手にしたタオルでバフンと軽くはたく華名。
 「何を考えておるのか知らぬが安心せい。加奈子のヤツは、単に暇つぶしと興味本位で観ただけよ。兄者が心配するような「おたく」とやらには、なる心配は当面ないわえ」
 「そ、そうか……すまん、取り乱した」
 「構わん。それに加奈子がそうした動機のひとつは、「お兄ちゃんの趣味や嗜好を知りたかった」からじゃぞ。愛されておるのぅ」
 うりうりと肘で突っつくのはやめてください、華名さん。こそばゆいです。

 ともあれ、湯冷めするのもヤなので、俺達はそれから銭湯を出て家に帰った。
 居間の卓袱台に陣取り、俺が淹れた紅茶を並べてしばしの歓談の後、さて寝るかと立ち上がったところで、華名から待ったがかかった。
 「なにィ! 今夜も一緒に寝たいだと!?」
 ダメだダメだ。ホテルみたいに家の外なら、まだ「非日常なイベント」として納得できるが、自宅でソレは色々とマズ過ぎる──おもに俺の理性的な面で。
 「なにも一緒の布団でとは言わぬよ。この居間に布団を並べて寝る前に枕語りをしたいと思うただけじゃ」
 う、うーーん、それなら、一応は許容範囲内……か?
 「駄目、かのぅ……?」
 ええい、カナと同じ外見で上目づかい&涙目ウルウルはやめなさい。シスコンの俺にとってはガード不能過ぎる!
 「あ~、わかったわかった。ご先祖様孝行だと思ってつきあってやるよ!」
 「ホホホ、毎度済まぬのぅ、兄者」
 白旗をあげて降参する俺の頭を、華名が「いい子、いい子」と言わんばかりに撫でる。
 ……見た目はどうしたって年端もいかない少女(しかも妹)なのに、そんな仕草が妙に堂にいっているのが、なんだか奇妙な感じだった。

 それから、俺達は居間のちゃぶ台を片づけると、自室から持ち出した布団をほんの気持ちだけ間を空けて(俺が主張した)敷き、電灯を常夜灯だけにしてそれぞれの布団に入る。
 ねずみーらんどのこと、ご飯のこと、風呂屋でのこと、カナの日常、華名の過去などなど、とりとめないことをポツポツと語るうちに、お互いなんだかんだ言って疲れていたのか、いつの間にか眠りの世界に落ちてしまっていた。
 「──兄者、もう寝たのかえ?」
 かろうじて意識はあったのだが、もはや返事をすることさえ億劫だった。
 「そうか……おやすみ、兄者、よい夢を」
 だから、俺の耳には華名の最後の呟きは届かなかった。
 「……妾が就寝の挨拶をする機会は、これが最後じゃろうな」


[其ノ八]

 「兄者、朝じゃぞ。起きよ」
 日曜の朝にしてはエラく早い時間に俺はカナ、いや華名に叩き起こされた。
 「シクシクシク……日曜の朝はできるだけ遅起きするのが俺の数少ない楽しみなのに……」
 「一応、カナの知識としてはそれは知っておるが、こんな天気のいい日まで惰眠を貪るのは人として間違っておるぞ。ホレ、さっさと起きりゃ!」
 この家のどこから見つけてきたのか、絣の着物の上に割烹着という絵に描いたような「お手伝いさん」スタイル(まぁ、外見年齢が12歳ってのがナンだが)の華名が、両手を腰に当てて呆れたように促す。

 ふぅ、しゃーねぇか。
 「うー、わかった……」
 いかにも不承不承といった雰囲気を声音に乗せつつ、俺は布団の上に起き上がった。
 「はぁ……朝餉の支度はできておるでな。さっさと着替えて参られよ」
 「あ、ちょっと待った」
 溜息をつきながら台所に戻ろうとする、ちっちゃなご先祖様を俺は呼びとめた。
 「?」
 「おはよう、華名」
 昨日の朝は、寝ぼけてたこともあって「カナ」のつもりで挨拶しちまったからな。
 少なくとも俺自身が「ふたりが別人である」と認識している以上、こういうケジメはビシッとせねば。
 「! う、うむ。お早うございますぢゃ、兄者」
 発音のニュアンスで俺がカナではなく華名本人に呼びかけたことがわかったのだろう。
 その名の如くパッと花が咲き開くような笑みを見せて、彼女は部屋を出て行った。

 数分後、普段着に着替えてダイニングへと足を踏み入れた俺は、我が家では珍しいラインアップの朝食に鼻をひくつかせていた。
 「おぉぅ!? 炊きたてご飯&味噌汁に、丸干しと漬物とは……日本の朝食だねぇ」
 「この家の朝餉は「とーすと」と「すぅぷ」が多いようじゃが、兄者は和食も嫌いではなかろう?」
 「まぁ、な」
 実際、両親が存命中はコッチの方が朝の定番だったしな。
 独りで暮らすようになってからは、米を炊く手間と洗い物の手間を厭って、パン食に切り替えただけだし。
 カナを引き取ってからも、その習慣を変えなかったので、カナ本人は洋食が俺の基本スタイルと思ってるはずなんだが……。
 「なんでわかった?」
 「女の勘じゃ……と言いたいところじゃが、普段の夕餉における兄者の嗜好を見ておれば、何となく察しはつくわえ」
 カナの目を通して、ということだろうから、カナ本人も気づいているのだろう。
 そう言えば、確かに最近は和食系の夕飯が徐々に増えていたような気もするな。意外なところで妹の気遣いを知ることが出来たことは感謝すべきだろう。
 「もっとも、今朝に限っては、妾(わらわ)が米飯を食べたかったという理由の方が大きいがの」
 「俺のためにじゃないのかよ!? 感動台無しだよ!」
 とツッコミつつも、どこか懐かしい味(これがお袋の味というヤツか)の味噌汁に、ちょっとだけ目頭が熱くなったのは、ココだけの秘密だ!

 朝食が終わったあとの俺達は、いつもにもましてまったりとした休日を過ごした。
 昼前までは、居間の縁側に盤を持ち出して将棋を指す──予想通りボロ負けしたが。ついでに言うと、リバーシや花札でも負け越した(あ、兄の威厳が!)。
 「冷蔵庫の食材があまりないぞえ」と言う華名に引っ張られて、近所の商店街に買い物に出かける。
 元々カナは商店街では「けなげなお嬢ちゃん」として人気者なんだが、普段と違う着物ルック&言葉遣いは、「レトロ可愛い!」と妙にウケてた。
 昼食は、朝の味噌汁の残りと稲荷寿司。華名の自慢の味付けだという油揚げは確かに絶品で、10個近く平らげちまった。
 食休みの後、午後は裏の空き地でふたりでバトミントン。知識はともかく、実際にやるのは初めてだから、戸惑うかと思ったんだが……。
 「なんでそんなに上手いんだよ!?」
 「甘いぞ、兄者。道具の違いこそあれ、やってることは羽根つきとさして変わらぬ」
 むぅ、そう言われればその通りか。いや、それを考慮しても中学一年生女子と、いい歳した成人男子が互角って……。
 「まぁ、身体の使い方じゃな。とくに兄者は普段運動不足でもあるし……そろそろ老化が始まる歳じゃから、気をつけたほうがよいぞえ?」
 ──ロリババァにロートル扱いされたのは、流石に凹んだ。明日からジョギングとかするかなぁ。

 で、用具を片づけてからは、ふたりで近所を散歩する。どこか目的があるワケでもなく、ふたり手を繋いで、ほんっとーにのんびりブラブラ歩くだけ。
 「一昨日の大風で桜の大半が散ってしまっておるのが残念じゃのぅ」
 堤防に植えられた桜の木を見ながら、そんなことを言う華名。
 「そう言う割には、さほど残念そうには見えないんだが」
 「そうか? フフ……そうかしれぬ。たとえ花がなくとも、妾の隣りには兄者がおるでな」
 ! また、そういう恥ずかしいコトを臆面もなく……。
 このあたりの遠慮の無さが、カナとの一番の違いだろうな。
 俺としては、カナの奥ゆかしい性格は好ましいものと受け止めているんだが、華名の率直さも決して嫌いではない。
 「──光栄だね、と言っておこうか」
 「ククク、兄者、顔が赤いぞ?」
 ほっとけ! こういう意地の悪さを見ると、相手が海千山千の女傑であると改めて理解するな。

 ──少しずつ、少しずつ、砂時計の砂が落ちるように、「残り時間」が減っていく。
 それでも俺達は、そのことには触れず、「なんでもない日常」を過ごす。
 たぶん、ソレこそが「華名」の願いだから。

 日が暮れる頃、家に帰った俺達は、ふたりで協力して夕飯の寄せ鍋の用意をした。
 ネギや白菜、えのきといった定番の野菜類はもちろん、魚屋で勧められたサワラの切り身とイワシのつみれ、それに肉屋で安かったおでん用牛筋、そしてふたりで大騒ぎしながら作った手作り餃子も入れる。
 どちらが鍋奉行をやるかでひと悶着あったりもしたが、それでも楽しく鍋をつつく。

 食後は、昨日と同じく近くの銭湯「蘇麗湯」へ。
 「何度見ても、ココのネーミングセンスには脱帽するぜ、色んな意味で」
 「ふむ、兄者よ、「それいゆ」とはどういう意味かの?」
 「えーと、確かフランス語で「太陽」とか「向日葵」だったような気が……」
 「おお、なるほど。それで風呂場の壁にひまわりの絵を描いておるのか」
 「あ、女湯はソッチなのか。男湯の方は昇る旭日がデカデカと描いてあるぜ」
 「両方の意味と、字で「麗しきが蘇る」を、引っかけておるのじゃろう」
 「だな」
 俺はいつも通りの入浴時間だったと思うが、華名の方は心なしか昨日より早かった気がする。
 「兄者よ、やはり牛乳を飲む際は、こう腰に手を当ててじゃな」
 「だから、いつの人間なんだよ、おまいは!?」

 ──嗚呼、糞。駄目だ。
 コイツといる事を、まさかこんなに心地よいと思うようになるなんて、一昨日の晩には夢にも思わなかったのに。
 俺の価値観では、加奈子が一番大切で、二番目が俺自身。その事にはいささかも揺らぎはない。
 けれど。
 たった二日、たかだか50時間足らず、起きてた時間はもっと短いにも関わらず、コイツは凄い勢いで三位にランクインしてきやがった。
 それでも……約束は約束だ。

 風呂屋から帰って、ふたりで居間の卓袱台の前に座り、俺が入れた紅茶を味わいながら、ぼんやりテレビのロードショーを眺めていると、唐突に華名が切り出した。

 「兄者よ、今夜十一時になったら加奈子を「覚醒(おこ)す」儀式を始める。兄者にも手伝ってもらうぞよ」


[其ノ九]

 「では……始めるぞえ、兄者」
 最初の夜と同じ白い着物に身を包んだ華名が、厳粛な面持ちで俺の方を見る。
 「──ああ、やってくれ」
 俺が頷いたのを確認すると、華名は何か呪文のようなものを唱えながら、俺の部屋の四方の壁に、和紙に墨で何やら文様を描いた呪符らしきものを貼っていく。
 ラノベ好き的観点から予想すると、たぶんこの部屋に結界でも張っているんだろう。
 「ほぼ正解じゃ。外部からの干渉を遮断すると同時に、この加奈子の心身を活性化し、加奈子本人の意識を目覚めやすくする式じゃな」
 わかるようなわからんような……。

 「ところで兄者、妾(わらわ)が、一昨日の晩に、「加奈子を戻すには三つの条件が必要」と言うたことを覚えておるかえ?」
 そう言えば、確かにそんな事言ってたな。
 「二つ目がこの儀式だとして、三つ目の条件って一体何なんだ?」
 「うむ、それは──兄者の協力じゃ」
 華名いわく、現在の主体である華名が交替に同意し、この結界内の術式で交替をより起こりやすくしているが、もう一手、加奈子本人を呼び覚ます手段が必要らしい。

 「それはわかったが……俺は何を?」
 俺が続きを促したところで、ついと華名は視線を逸らす。
 「兄者よ、今更な話ではあるが妾は感謝しておる。
 魂に刻まれた宿業と言うべきか、妾は何度生まれ変わっても、常にひとりっ子じゃ。
 加えて、妾の転生する人物は、成長するにつれて備わるその特異な能力故か、人並みの幸せな暮らしとは縁が遠い。
 あるいは排斥迫害され、あるいは化生との戦いなどに駆り出されて、天寿をまっとうすることなくその短い生を終える。
 もしくは、逆に「生神」「聖なる巫女」として奉られた籠の鳥として一生を過ごす。
 フフフ……笑ぅてくれ。妾は、人に生まれ変わってから、転生に転生を重ね、のべ400年近くの時を生きていながら、「人の優しさ」や「暖かさ」なぞと言うモノに満足に触れた記憶は、最初の生──藤堂華名の時だけなのじゃ。
 お主は実の兄ではないが──それでも加奈子を、そして妾を「妹」として慈しみ、接してくれた。こんなことは、長い時を刻んできた妾の記憶の中でも、初めてと言ってよい」
 時折華名が見せる、飄々とした性格に似合わぬ暗い影には、俺も気づいてはいた。いたが……まさか、そこまで重い話だったとは。
 頭で理解はしていたが、やはり「彼女」の持つ疑似的な不死性は、呪いと呼んで然るべきだろう。

 「え、えーと……好印象を抱いてくれるのは有難いが、結局俺はどうすればいいんだ?」
 「ふむ。至極簡単なことじゃ。兄者は下穿きを脱いで布団に横たわり、天井の染みでも数えておればよい」
 え、えーと……その言い方だと、限りなく嫌な予感がするんですけど……。
 「──それって、もしかして……ドラマとかでツバキの花がハラリ、と散るシーンなのか?」
 いくら精神年齢数百歳のご先祖様とは言え、姿形は年若い女の子に「セックスするの?」とは聞きづらいので、遠回しにほのめかす。
 「うむ、大丈夫じゃ。問題ない」
 そう言いながら、顔をそむけてんじゃねーよ!
 「却下だ却下! だいたい、心はともかく、その身体はカナのモンだろうが!?」
 ついさっきまでの「ちょっといい話」的な雰囲気が台無しだぁ!
 「その点は心配せんでよい。コトが終わった際に自動的に発動する復元呪術を、この身体にかけておくでな。加奈子の純潔そのものはすぐに元通りじゃ」
 あ、そうなのか?
 いや、しかし……うーーむ。
 「要するに俺に華名を抱け、と。それしか手がないのか?」
 「可能性を考慮し、かつ時間を考慮に入れなければ、いくつか案はある。しかし、今すぐ執り行え、確実性が高い方法となると、妾にはコレくらいしか思い浮かばぬよ」
 このテのオカルティックな事柄の専門家で大陰陽術師(自称)である華名が言うのだから、その点は間違いないのだろうが……。
 「それにしたって、なんでその、セックス、なんだよ?」
 「男女の交わりの際に神秘学的な意味での膨大な力──えねるぎーが発生するという事柄は、兄者も聞いたことがあるであろう?」
 クンダリニとかシャクティとか立川流とかのアレか。そういや某PCゲームでも魔力を繋げる手段として使用してたな。
 「うむ。しかも、兄者は藤堂家の血を引く男子であり、潜在的に強い霊力を持っておる。さらに言えば、加奈子の想い人であり、妾自身も憎からず思ぅておる故、この術の協力者として最適なのじゃ」
 なるほどー、そーなのかー……じゃなくて! 今、無視し得ないような情報をサラッと言ったな、ヲイ!
 「霊力のコト以外は、全く気付いていなかった、とは言わせぬぞ」
 う゛っ……。そりゃ、まぁ、何となくは感じてないワケでもなかったけどな。
 そもそも、俺はシスコン、カナはブラコンであることは自他共に認めてはいたんだし。
 加奈子、そして華名から、俺に向けられる好意の何パーセントかには、純粋に兄に対するもでなく「好ましい異性」に対するものも含まれてることも、まぁ、自覚が無かったと言えば嘘になる。

 となると、結局は俺自身の気持ちに帰結するワケか。
 「なに、そう難しく考えるコトはない。コレはあくまで儀式じゃ。先程も言うた通り、兄者は黙って仰向けになって、天井の染みでも……」
 「馬鹿言え。そんなもったいないコトできるか!」
 あぁ、認めよう。
 俺は妹に──加奈子、そして華名に欲情しているスケベなロリコン兄貴さ。
 愛しているから……と言うのはひとつの言い訳にはなるだろうが、それでも俺が20代後半のいい歳した大人で、相手が(少なくとも身体は)中学に上がったばかりの未成熟な少女であることは間違いない。
 本来なら、せめてカナがもっと成長するまで待つのが筋なのだろうが、思いがけずこういう機会を得て俺は、少なくとも俺の本心の何割かは、喜んでいるんだ。
 その証拠に……さっきから俺のアソコは猛りっぱなしなんだから。

 「──わかった。俺はこれから俺の意思でカナを元に戻すための儀式に協力する」
 「うむ。それでは……」
 「待て、これだけは言わせてくれ」
 早速儀式に入ろうとする華名を手で押しとどめて、その華奢な両肩に手を置き、真正面から華名の瞳を覗き込む。
 「けどな、それとは無関係に、華名、今お前を抱きたいという気持ちも確かにあるし、差し支えなければ、そうさせてもらおう」
 「ほ、本当かえ!?」
 まさか、ここまで俺が開き直るとは思っていなかったのか、一瞬呆気にとられたような表情になったかと思うと、みるみるうちに、華名の頬が紅潮し、目に涙が浮かんでくる。
 「うれしい……兄者」
 嬉し泣きする華名を抱き締めると、華名もまた両手を俺の身体に回し、思い切り強く抱きついてくる。
 そのままでは身長差があり過ぎるので、華名をお姫様抱っこの姿勢で抱き上げて、ぐっと顔を近づける。
 華名の髪からは、ふわっと石鹸の香りが漂っていた。彼女が目を閉じるのを確認しつつ、桜色の唇を奪う。
 「んんっ……」
 瞬間、華名の体が俺の腕の中でピクリと身を震わせ、合わせた口元から熱っぽい吐息がこぼれた。
 しばしの後、俺が唇を離そうとしたところ。

 ──ぎゅ……

 華名の手が俺の首の後ろに回され、強く絡み付いてきた。その小さな腕が精一杯力を込めて俺を縛り付け、そのまま触れ合った唇から、華名の舌が俺の口内に侵入してくる。
 「んっ、ちゅ……」
 唇を触れるだけのキスよりも、さらに深く互いを貪ぼりあうようなディープキス。
 「あむ……れろ、んん……」
 無論、俺の方も、差し出された舌に自らのものを絡める。
 舌上にぬらりと熱をもったモノを感じる。
 「……ぷはぁ」
 口元を離しても、名残惜しそうに銀糸が一条、俺達の間に伸びていた。
 「大人の接吻を教えてやろうと思ぅたのに……兄者、どこでこんな?」
 「内緒だ。イイ男の過去を詮索しないのがイイ女の不文律ってヤツだろ?」

 ニヤリと笑うと、そのまま華名の身体をベッドに横たえ、着物の合わせ目から指先を忍ばせて、華名の素肌を撫で回す。
 「んんっ……はぁはぁ……」
 胸の敏感な部分に触れると、華名は切なげにため息を洩らした。
「んくっ……兄者、やはり、女に……なれて……はぁん」
 「はいはい。ま、俺も学生時代は一応、な。ま、この話はココまでだ」
 俺の手の動きにつれて、華名の着ている白い着物が少しずつはだけ、今やその愛らしい乳房をほとんど隠していない。
 さらに裾の方も乱れて、股間の淡い陰りが見え隠れしている。
 (おぉ! 和服の時に下着付けないって、本当だったんだなぁ……)
 「……何を考えておるか大体わかるが、兄者。コレは儀式に備えておったからで、特別じゃぞ?」
 タハハ、表情を読まれたらしい。
 苦笑しながら、俺もいったん身体を離して、部屋着にしているトレーナーの上下を脱ぎ捨てた。勢いあまってトランクスまで脱げちまったが、まぁいいだろう。
 「あ、兄者、そそそ、ソレは……」
 真っ赤になりながら、俺の股間を見つめる華名の様子に、ちょっとだけSっ気が刺激される。
 「おいおい、まがりなりにも過去に結婚&出産を経験した女性が、男のモノを見たくらいで動揺するなよ。馬並みってほどデカいわけじゃあるまいし」
 粗品ってワケじゃないが、俺のアレはせいぜい平均レベルだ。
 「ば、馬鹿者! それは、妾とて夫のモノぐらい見たコトはあるが……記憶にあるソレより三割方大きいぞえ」
 マジで!? ……あ、なるほど。
 「たぶん、体格の問題だろうな。俺は178センチで、カナは身長145ぐらいだろ。かつての華名が150センチ前後でそう変わらないとしても、日本人男子の身長はここ100年くらいで急激に伸びたし、当然各部位も相応に、な」
 「な、なるほど……」
 頷きつつソレから目を離せないらしい華名の様子に苦笑しながら、再びベッドの上で彼女に覆いかぶさる。
 ほとんどあらわになった胸に手を伸ばし、かすかに表面の皮膚だけをなぞる。
 「ひぃあッ! あ、兄者、もっとキチンと……くふぅん」
 言いながら華名は切なげな喘ぎ声をあげて、自分から胸全体を押しつけてくる。
 再び少し意地悪したい気分になって、わざと触れるか触れらないかといった程度に掌で乳首を擦ってやった。
 「ふぅ……あああン!」
 ピンク色の蕾がツンと硬く尖った。
 すかさずその先端を吸うと、華名は「ヒュウッ」と笛の音にも似た甲高い悲鳴を漏らした。
 「強すぎたか?」
 「い、いや……そんなことはない。もっと吸ってたもれ……」
 「ん、了解」

……
…………
………………

 「最初で最後の交わり」で、俺達ふたりは同時に頂点を極めた。
 「あ……あとのことは、任されよ、兄者ぁ………」
 ぐったりと力が抜け、カナの身体の上に崩れ落ちた俺の耳に、優しく囁く華名の声を聞きながら、俺は心地よい疲労とけだるさに負け、そのまま眠りに落ちたのだった。


[其ノ拾]

 「じゃ、お兄ちゃん、いってきまーす!」
 今朝も元気に、カナは中学校に通っている。
 「おぅ、クルマに気をつけてな。それと、知らない人にお菓子とかもらっても、ついてくんじゃないぞ?」
 「ヤダ、幼稚園児じゃあるまいし……お兄ちゃん、あたし、もぅ子供じゃないんだからね!!」
 口を尖らせるカナの顔に、ほんの一瞬だけ誰かの面影がダブる。
 (うん、知ってるよ……)
 そう心の中で呟きつつ、俺は明るく笑い飛ばす。
 「ハハハ、こいつは、「りっぱなれでー」に失礼だったな」
 「──お兄ちゃん?」
 僅かに何か言いたげな表情になったカナだったが……。
 「ん? なんだ、カナ
 「……ううん、何でもない。それじゃあ、いってきます!」
 結局何も言わずに、そのまま出かけて行った。

 ──俺が華名の身体を抱いた時から、およそ3週間ほどの時が流れていた。
 あのあと、目を覚ますとベッドからは華名の姿は消えており、代わりに枕元にメモ書きの手紙が残されていた。
 約束通り、このまま加奈子の意識を戻すこと。また、加奈子の純潔も、すでに元通りにしてあること。ただし、加奈子の身体は深い眠りについているため、明日はたぶん寝坊するだろうこと。
 そういった諸々の伝達事項の最後に、簡潔にこう書き添えられていた。

 『この二日間、楽しかった。ありがとう、兄者。加奈子と幸せにな
  追伸 老婆心ながら一言。加奈子を不必要に子供扱いするのは控えたほうがよい。幼くともすでに「女」じゃぞ?』

 「……なんでだよ、クソッ!」
 俺はアイツに……華名に、たいしたこともしてやれなかったのに……。
 どうして、こんな最後まで気を使ってくれるんだ!?

 翌朝、目を覚ました義妹がいつものカナ──加奈子に戻っていることに安堵しつつ、俺は胸のどこかに穴が空いたような寂しさも感じていた。
 時間が経てば、この寂しさも忘れられるかと思ったんだが……。
 「まぁ、しょうがねぇわな」
 俺にとって最愛で最優先事項である、妹のカナ。目の中に入れても痛くないその娘の姿は、(同一人物なのだからあたり前だが)嫌が応でも、もうひとりの少女──と呼べるかは微妙だが、あの古めかしい言葉づかいをする御先祖様を思い起こさせるのだから。

 無論、あの時の選択を後悔する気はない。
 俺にとってカナは、ことによったら自分の命以上に大事な存在だ。
 以前なら、それは単に「妹に対する兄の感情だ」と誤魔化していただろうが、華名のおかげで自分があの子を「女」として意識していることも否応なく自覚、いや認めさせられた。
 もっとも、カナのほうが俺を恋愛対象として意識してくれるかは、また別の問題だけどな。
 けれど──あのもうひとりのカナ「藤堂華名」が、俺の心の一部を確実にかっさらって行っちまったことも事実なんだよな。
 「ま、二度と会えない人のことを思って、溜め息ばかりついてても仕方ねーか」
 生きている人間は、たとえ辛くても去った人のことを思い出に変え、日々を懸命に生きていくしかない。それは、9年前に家族を喪った時に、嫌と言うほど思い知っていた。

 「ねぇ、お兄ちゃん……何か、あたしに隠し事してない?」
 だから、その晩、カナにそう聞かれた時も、笑顔で嘘をつけてたはずだった。
 「ふふふ……さすがだね、加奈子くん。冷蔵庫の奥に隠してあるファミーユのシュークリームのことを、これほど早く嗅ぎつけるとは!」
 「え、ホント!? ラッキー♪ ……じゃなくて!」
 一瞬だけ素で喜んだカナが、すぐに真顔になる。
 「──お兄ちゃん、あたしの顔を見て、時々哀しそうな表情してる」
 「!!」
 迂闊だった。表面に出してはいないつもりだったのに。
 「そんなコトは……」
 「あるもん! いつもじゃないけど、あたしを通して誰か別の人のこと考えてるんでしょ?」
 ──参った。これが「女の勘」と言うヤツなのだろうか。
 華名の伝言にあった「幼くともすでに女」という言葉の意味を、しみじみ再確認していると、珍しくカナが目を吊り上げて怒る。
 「ホラ、また! 今も、あたしが目の前にいるのに、その女性(ひと)のこと考えてる!」
 何も言えないでいる俺の胸に、ドンッ! と体当たりするかのように飛び込んでくるカナ。

 「……ずっとね、考えてた。
 お兄ちゃんはお兄ちゃん、あたしより年上の大人の男の人なんだからって。
 これまで5年間、あたしを守ってくれてたんだから、もし恋人とかができても、笑って祝福してあげようって。
 でもね……ダメなの! あたし、自分で思ってた以上に悪い子だったみたい。
 お兄ちゃんが誰かほかの女の人と抱き合ったり、キスしてたり、せ…せっくすしてたりしたらって考えると、すごく悲しくて嫌な気分になるの。
 あたし……お兄ちゃんのコトが好きなの!!」

 それは、あの入学式の夜にカナから聞いた「大好き」と似て非なる言葉だった。
 あの時の言葉は兄としての俺に投げられたものだが、今のそれは明らかに「男」としての俺に対するものだ。
 カナに対して単なる「妹」以上の意識を抱いている俺にとって、それが嬉しくなかったはずがない。

 ──だから油断していたのだろう。
 「はむッ……」
 胸の中のカナに何か言おうと俯いた瞬間、カナに口づけをされてしまったのは。
 (ちゅ、中学生の女の子に唇を奪われるとは、この藤堂陣八、一生の不覚……あぁ、でもやわらかいし、いいにおいがするし、きもちいーなぁ)
 不意打ちとは言え、元より最愛の女性とのキスなのだ。後半に少々ダメダメな思考が混じってしまうのも、ご寛恕願いたい。
 だがしかし。

 ──バチッッッ!!

 カナと触れ合っている唇から静電気のような感覚が発生したかと思うと、何か空気の壁のようなモノに、俺の身体ははじき飛ばされた。
 「ってぇ……何だ、何があったんだ、一体!?」
 尻もちついた姿勢から立ち上がろうとすると、涼やかな声がかけられた。
 「あいかわらず、ボケボケした顔をしておるのぅ、兄者」
 眼の前のカナの表情は、先ほどまでの「恋する女の子」から一転、呆れたようなモノに変わっている。
 「!! ま、まさか……」
 華名、なのか?
 「ほほぅ、たったひと言葉で見破ってくれるとは、さすが兄者よ。コレも妾(わらわ)と加奈子への愛故、と思ぅてよいのかの?」
 ……まぁ、ソレは今更否定しない。
 「じゃが、こんな早くに加奈子に手を出したのは軽率じゃったのぅ」
 手を出したって……さっきのキスのことか? いや、でもアレはカナの方から……。
 「とは言え、兄者も拒絶はしておらなんだじゃろ? あまつさえ、舌まで入れてきよってからに……13歳の処女(おとめ)相手にやり過ぎじゃ!」
 そう言われると言い返せねーな。
 華名いわく、カナが性的な刺激を受けて意識がオーバーフローして、かつ相手が潜在的霊力者である俺だったため、再度「揺り返し」のようなモノが発生して、再び華名の人格が表面に出て来たらしい。

 「まったく……確かに子供扱いするなとは書いたが、まさか中学も出ぬウチに手を出すとは」
 華名の叱責にぐぅの音も出ない。
 「え、えーと、それで元には……?」
 「無論、前回と同様の方法で戻れる。じゃが」
 そこで言葉を切り、ニヤリと笑う華名。
 「せっかく出られたのに、そのまますぐに元に……と言うのは少々味気ないでな。
 幸い、明日からはごーるでんうぃーくの連休じゃて、その間、妾も羽を伸ばさせてもらうぞえ?」
 あー、やっぱり。いや、そうなるんじゃないかとは思ってたけどさ。
 「それでは、兄者、またしばしのあいだじゃが、よろしく頼むわえ」
 それでも律儀にペコリと頭を下げる華名に──愛しいちっちゃな御先祖様に俺が言うべき言葉は、ただひとつだ。
 「うん、よろしくな。それと……お帰り、華名」


-終-

#はい、とりあえずは完結。無論、続きは書こうと思えばいくらでも書ける形ですが(笑)。
#こちらの完全版(其ノ九の「儀式」の部分)については、後ほどPIXIVの方に投下します。
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