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『マザリーニ夫人の憂鬱』(前編)

久々の「ゼロ魔」物。と言っても、これまた以前余所で書いた作品のリライトですが。
「ゼロ魔」二次創作では、平賀才人の代わりに別のキャラ(オリジナル・他作品問わず)が召喚されるIF物が多いようですが(私も何作か書いた経験ありますし)、本作はそれとは異なるIF。
「もし、トリステイン宰相のマザリーニ枢機卿が女性、それも美熟女だったら」という無茶な設定。
今だから白状しますが、実は某所投下時は書き捨ての一発ネタのつもりだったんですが(なので普段と別アカで投下)、予想外に好評だったため、慌てて2話目以降を考え、何食わぬ顔で本来のアカウントから連続投下したという経緯が。今にして思えばイタい自演以外の何者でもないな~。

マザリーニ夫人の憂鬱』(前)

 世界はひとつではない。無数の選択肢や分岐点を乗り越えた果てに、現在のあるべき世界の姿が定まっているのだ。
 並行世界、パラレルワールド、世界線、運命石の選択……「あり得たかもしれない可能性」を何と呼んでもよいだろう。
 さて、とある世界──そこに住む者たちから「ハルケギニア」と呼ばれている世界においても、当然幾多の可能性は存在する。
 これは、「正史」とは異なるそんな数多の可能性の中のひとつ。とある人物の性別が、男性ではなく女性であったが故に起こる悲劇、あるいは喜劇を描いた連作掌編である。


#1.黒百合登場

 さて、トリステイン魔法学院にアンリエッタ王女が行幸する場面から、この物語は始まる。
 「アンリエッタ王女殿下のおなーりー」
 従僕の張り上げる声に、馬車の方を注目するサイト。
 「ん? アレがこの国の王女様なのか?」
 ユニコーンに引かれた貴婦人用馬車から降りたったのは、シンプルな黒のワンピースに身を包んだ女性だった。
 「確かにきれいだけど、けっこうトウが立ってるし、地味だし、お姫さまっていう感じじゃねぇなぁ」
 もちろん、「王女」という地位と年齢は直接関係はない。どこぞの鉄拳正義マニアな髭面中年王子や、なまじ終身制のせいで父が90歳近くで没するまで「皇太子」のままだった某国トップみたいな例だってある。

 「こら、バカ犬! 何失礼なこと言ってるのよ!! 大体、あの方は王女殿下じゃなくて、宰相のマザリーニ夫人よ」
 なるほど、白いドレスを着たこちらはいかにも「お姫様」という感じの美少女が、続いて馬車から降りてきた。
 「あちらが我がトリステイン王国の次期女王であらせられるアンリエッタ王女殿下よ。巷では"トリステインの白百合"とも称賛されているわ」
 「──そして、マザリーニ夫人の別名が"トリステインの黒百合"。
 敏腕の宰相としてだけでなく、王女やマリアンヌ大后の個人的な相談役としても信任が厚く、ある意味トリステインの最重要人物と言ってもよい存在」
 普段無口なタバサが、これほどの長台詞を口にするのはめったにない椿事と言えるだろう。
 (そして、どことなく…お母様に似ている人……)
 最後の感想だけは、彼女の心の内にとどめられたが。

 「ふぅん、あの女の人が、ねぇ……」 
 そこまで言われては、サイトとしても多少は注目せざるを得ない。
 確かに、よく見れば派手さはないが理知的な印象の憂い顔の美女だ。
 体つきは全体にスラリとしているが、シンプルな黒衣のおかげでなかなか胸が大きいことがよくわかる。清楚な印象に反して、その部分だけなんだか妙にエロい。
 (そういえば、マザリーニ"夫人"って呼ぶからには、人妻か未亡人ってことなんだよな)
 とくに年増趣味のないサイトだが、そこは思春期真っ盛りの男の子。"未亡人"なんていかにもなAVちっくな単語には微妙に反応してしまう。黒いドレスも喪服を連想させるし……。
 (うーん、ああいう年上のお姉さんに優しく初体験させてもらうってのもイイかも……)
 でへへと、ダラしなく顔を歪めているサイトを、ルイズは容赦なく蹴飛ばした。
 「イテッ! 何すんだよ!」
 「言っておくけど、マザリーニ夫人は、ロマリアから派遣された枢機卿猊下でもあるんだからね! 不埒なことをしようものなら、即刻処刑されるわよ」
 ルイズが釘をさしている間に、白黒ふたりの貴婦人を取り巻くように警護の騎士たちが陣形を整え、進み始める。
 「もっとも、魔法騎士隊の隊員には宰相の熱烈なシンパも多いから、アンタみたいな不審者、近づくことすら難しいと思うわ」
 「ふぇえ~、マジでスターかトップアイドルだな、そりゃ」

 ちなみに、翻訳魔法のかかったサイトの耳には「夫人」と言う風に聞こえているが、別段マザリーニ女史に結婚歴はない(ブリミル教の聖職者なのだから、ある意味当然だが)。明治時代の翻訳家が、「バロネス」と言う英単語を「男爵夫人」と訳してしまったのと同様のミスである(ただしくは「女男爵」とでも称するべき)。
 とは言え、「ミス・マザリーニ」と称するのも何となく本人の雰囲気に合致しないので、本作ではこのまま「マザリーニ夫人」と言う呼称を使用しよう。


#2.学院の夜

 アンリエッタ王女が魔法学院に逗留することになったその日の夜。
「……ディティクトマジック?」
「どこに、誰の耳や目が光っているか分かりませんからね」
 ルイズは自室で、とある人物の訪問を受けていた。
 言うまでもなく、王女アンリエッタによるアルビオン行イベントのフラグ構築の一環である(本人には、そういうつもりはないだろうが)。

「それでは、ルイズ、使い魔さん、大変な任務を押し付けてしまったようで誠に申し訳ありませんが……」
「──姫さん、ちょっと待った!」
 ドアを開けようとしたアンリエッタを、サイトが低い声で呼びとめる。
 扉の向こうに何者かの気配を感じたのだ。

 足音を殺してノブを掴み、扉を思い切り引き開けたサイトは……。
 「きゃっ!」

 ──ぽふっ……

 何か柔らかいものにのしかかられて床に尻もちをつくハメになった。
 「え? あれ!?」
 (俺の上で、何やら柔らかくて暖かくていい匂いのするモノがもがいている気が……?)

 「ま、マザリーニ夫人!?」「宰相閣下!?」
 女の子ふたりの悲鳴で、腕の中のそれが昼間見た美人であることを理解したサイトは、慌てて飛び起きた。
 いささか不作法ではあったが、転んだ女性を助け起こすことも忘れない。その程度の紳士らしさは、サイトとて持ち合わせている。

 「あ、ありがとう、少年」
 さすがに恥ずかしかったのか、コホンと空咳をしてから、貴婦人──トリステインの女宰相たるマザリーニ夫人は、背筋を伸ばすと左手を腰に当て、右手の人差し指をピンと立てて目の前に持ち上げる。
 (あ、ハルケギニアでも、お説教する時は、こういうポーズするんだ~)
 どうでもいいことで密かに感動するサイト。

 「さて、姫様、こんな夜更けに、供もつけずにご旧友の私室をご訪問ですか? 王族の振る舞いとも思えませんよ」
 ニッコリと笑って王女を問い詰めるマザリーニ夫人。
 アンリエッタの生まれた時にはすでに先王に仕えていたと言うから、若く見積もっても30代半ばはとうに過ぎているはずなのに、その美貌のおかげかせいぜい30歳くらいにしか見えない。
 聖職者であるはずのこの女性をめぐって、かつて各国の王が火花を散らしたと言うが、現在でも十分頷ける話だ。

 しかしながら、美人が怒ると怖いということをサイトはつくづく思い知った。
 まして、アンリエッタにとっては諸々の意味で頭の上がらない存在である。
 ほどなく王女はルイズたちに依頼した恋文の一件をあらいざらい白状するはめになった。

 「ふぅ……そういうことではないかと思いました。ワルド隊長!」
 「──御前に」
 ドアを開けた気配もなかったと言うのに、次の瞬間マザリーニ夫人の前に、ひとりの青年貴族が姿を現し、膝まづいていた。
 「話は聞いていましたね? 貴方には、ミス・ヴァリエールの護衛とサポートを命じます」
 「拝命いたしました。必ずや」
 宰相の命令に青年貴族はおごそかに頷く。

 「え!? もしかしてワルド様?」
 ルイズが信じられないという風に目を見開く。
 彼女の方をチラと見ると、青年貴族──ワルドは宰相に許可を得て立ちあがり、ルイズ達に話しかけてきた。
 「久し振りだね、ルイズ! ちいさなルイズ!」
 「あら、お知り合いですか、ルイズ?」
 興味深々といったふうなアンリエッタの問いに、ルイズは頬を染める。
 「は、はい、ヴァリエール家と領地が近いので、昔から親しくさせていただいております」
 「ははは……殿下、私にとって彼女は実の妹も同然の存在なのですよ」
 屈託のない笑顔を見せるワルドとは裏腹に、微妙にカチンときたルイズ。
 (た、確かに昔から、ワルド様は私にとってもお兄様みたいな存在だったけど……。一応、婚約者でもあるはずなのに……)
 無論、子供のころの口約束だし、長年離れていた今となって、それがどこまで有効かは怪しい。第一、ルイズ自身、ワルドに恋心を抱いているのかどうかすらわからない。
 それでも、あからさまにお子様扱いされては、年頃の乙女としては腹も立つ。

 「なるほど、では今回の護衛役は、やはり貴方が最適ですね。任務の成功を祈っておりますよ」
 「は、必ずや!」
 マザリーニ夫人に声をかけられ、一分の隙もない敬礼を返すワルド。
 下手すると王女に対するよりも丁寧かつ敬意にあふれたその態度に、こちらも微妙な表情になるアンリエッタ。

 じつのところ、魔法騎士隊の中には、ワルド同様の態度を示す人間は少なくない。むしろ、若くして実力のある者ほど、その傾向が強いと言えるだろう。
 確かに、王国の宰相にして枢機卿、さらに「トリステインの黒百合」とも称えられる美貌の貴婦人でもある彼女を崇拝したくなる気持ちは理解できる。
 アンリエッタ自身、マザリーニ夫人の政治手腕は尊敬しているし、厳格だがその裏に思いやりを秘めた彼女のことを叔母のように慕ってはいる。
 自分が未だ「お飾りのお姫様」でしかないことも頭ではわかっているつもりだ。
 それでも、まがりなりにもこの国の王女たる自分を蔑ろにされているようで(無論、被害妄想なのだろうが)、どことなく面白くないことも確かだ。

 (王族とか貴族とかって面倒だな~。俺、ただの平民でよかったよ)
 そんな3人の人間関係を見たサイトはつくづくそんなことを思うのだった。


#3.出立の朝

 アンリエッタ王女よりアルビオン潜入の密命を下されたルイズ&サイト、そして宰相のマザリーニ夫人からルイズの護衛と支援を命じられたワルド子爵は、夜明け前のまだ薄暗い時間から、魔法学院を出立しようとしていた。

 「……で、だ。サイト君、その時、ルイズは何て言ったと思う?」
 「いやぁ、想像もつきませんよ、ワルドさん」
 旅の準備を整えているあいだ、男性陣2名は和気藹藹と雑談(主にルイズの幼い頃の思い出話。ただしワルド視点)に興じている。

 短いあいだとはいえ、これから危険な戦地に赴く"仲間"なのだから、打ち解けるに越したことはない。それはわかる。
 ──しかしながら、主人/妹分(の恥ずかしい過去)をネタにして、そんなに盛り上がるのは止めてほしい、とゲッソリするルイズであった。

 (ワルド様は、すっかり「近所の面倒見のよいおにーちゃん」気取りだし、サイトはサイトで、わたしを見る目が何だか生暖かくなってる気がするし……)
 そもそも『ゼロの使い魔』のヒロインは自分のはずなのに、どうも扱いが悪い、とメタなことを考えるルイズ。
 もっとも、残念ながらこのお話の真のヒロインは「トリステインの黒百合」ことマザリーニ夫人にほかならないわけだが。

 学院長室の"鏡"から、3人が旅立つ様子を、ふたりの淑女がじっと見守っていた。心配そうにはらはらしているアンリエッタ王女と、半眼になり両手を組んで祈るマザリーニ夫人だ。
(始祖ブリミルよ。どうか、彼らに加護をお与えください)

 「ホッホッ、心配はご無用ですぞ、お二方」
 傍らに立つ老学院長が気楽げに笑う。
 「自信がお有りなのですね」
 「そうですなぁ……これは未確認情報ではありますが、確度の高い推測として、あの使い魔の少年が伝説の"ガンダールヴ"ではないかと我々は見ています」

 オスマンの爆弾発言に、目を見開き口を押さえる王女と、逆に目を細め沈鬱な表情を浮かべる女宰相。
 当然だろう。
 "ガンダールヴ"と言えば、始祖ブリミルが従えたとされる4体の使い魔のひとり、「神の盾」とも称される無敵の戦士なのだから。ならば、その主たる少女は?
 「もしそれが事実なら……ミス・ヴァリエールとあの少年は、大きな使命を背負っている、ということなのでしょうね」
 不憫な、という言葉はあえてマザリーニ夫人は口に出さなかった。
 大きな力を与えられたものは、同時に否応なく大きな責任を負うことになる。

 ミス・ヴァリエールに関しては、ある意味仕方がない。彼女はヴァリエール公爵家令嬢という貴族の中の貴族であるし、多少は心構えや覚悟もあるだろう。
 しかし、昨晩少し顔を合わせただけだが、あの使い魔の少年はごく普通の優しく素直な平民の男の子のように思えた。
 だが、もし彼がガンダールヴであるとすれば、これから先望むと望まざるに関わらず、敵味方の血に塗れた人生を送らざるを得ないであろう。
 この国を治める為政者の側──それもトップに近い位置に立つ者でありながら、無辜の民が傷つくのを座視するしかない状況というのは、母性愛溢れる彼女としてはひどくつらい。
 (せめて今回ぐらいは、あの子たちが無事で戻って来ますように。ワルド隊長、お願いしますね……)
 マザリーニ夫人は、腹心の騎士に思いを託すしかなかった。

-#4につづく-

[おまけ]

 「──ところで、オールドオスマン。腰の高さでわたくしのほうに突き出されたその右手は、どういうおつもりなのでしょうか?」
 セクハラ爺ぃの魔手をスルリとかわしたマザリーニ夫人は、聖母のごとき笑みを浮かべる。
 「え? あ、いや、その……なに、ちょっとした老人の悪戯心ゆえ、お気になさらないでくだされ、宰相殿」

 その後、老人が魔法学院の保健室に運び込まれ、重度の火傷と凍傷、さらに無数の切り傷による失血と、全身十数ヵ所の打撲による骨折から生死の境をさ迷ったとか。
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Author:KCA(嵐山之鬼子)
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