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『マザリーニ夫人の憂鬱』(後編)

 というわけで、年末前(って言い方もヘンだな)のテコ入れ週につき、3度めの更新!
 ……いや、単に仕事のストレス解消気味なだけだったり。
 一発ネタ派生の短編なこのお話ですが、本格的に長編化したらかなり原作と毛色や展開の異なるアナザー『ゼロ魔』が作れるかも。
 とは言え、「カオスってレベルじゃねーぞ」な誰得話なので、今のところ書く予定はありませんが(笑)。

マザリーニ夫人の憂鬱』(後)

#4.空の城

 人と人との間には、時に不可思議な引力あるいは斥力が働くことがある。
 異性間のみならず、それは同性間に対しても言えることで、たとえば、"妹"の使い魔となった少年サイトと自分とのあいだもそうだ……とワルドは感慨にふける。
 生まれや育ちはおろか身分から性格から何もかも違うにも関わらず、初対面の時から彼には不思議と好印象を覚えていた。
 サイトの方もそれは同様のようで、会ってからさほど時間が経っていないのに、自分にまるで兄に対するような敬意と親近感を持ってくれているらしい。
 多少不作法な面があるのも平民なのだから致し方あるまい。むしろ、そんな少年を"妹"の護衛として正しく導いてやろう……。
 たった二日間行動を共にしただけで、ワルドはそんな気にさえなっていた。

 ──そして。
 それとは正反対に、目の前の青年には、今わけもなく反発心を感じているのだ。

 「はは、こんな格好で失礼したね、大使どの」
 ウェールズ・テューダー。滅びつつある王国アルビオンの若き王子。

 「そうか……姫は結婚するのか。私のかわいい従妹どのは」
 客観的に見れば、身分容姿だけでなくその立ち居振る舞いも含めて、貴族として、あるいは武人として十分尊敬に値する男性だ。

 「しかし、今手元にはないんだ。空賊船に姫の手紙を連れてくるわけにはいかぬのでね」
 しかしながら、ワルドはどういうわけか目の前のこのプリンスが好きになれなかった。

 空賊に偽装した船が、秘密の穴からニューカッスルに入る。
 ルイズ達トリステインからの一行は、城内のウェールズの居室へと案内された。
 王子の私室とも思えぬ、質素な部屋であったが、ウェールズは机の引き出しの鍵を開き、中から螺鈿細工の書類箱を取り出した。
 「私的な書簡は、すべてここにとってあるんだ」
 蓋を開くと中にさほど書類の数はなく、すぐに目的のもの──アンリエッタ王女からの手紙は見つかった。

 ひととおり読み返してそれに間違いないことを確認すると、ウェールズは手紙をルイズへと手渡した。
 「確かにお返しした。それと、さしでがましいかもしれないが、今後はこのような軽率な真似は慎むように従兄(あに)が言っていた、と従妹どのに伝言してもらえるだろうか?」
 彼女に自分で伝える機会はもはやないだろうからね、と飄々と笑う。

 死を目前にしてさえ血縁者のことを思いやる、どこまでも爽やかな好男子であるはずなのに、どうして自分はこれほど王子に反発を覚えるのだろう?
 ワルドは内心首を捻ったが、つぎのサイトの質問で、その疑問は解消されることになる。

 「あれ? すみません、王子様。その隣りにある豪華な箱は何なんですか?」
 「ああ、これかい?」
 ウェールズは、慎重な手つきで宝石の散りばめられた小箱を取り出した。
 先ほどとは別の鍵を用いて蓋を開けると、はたして内張りにはひとりの貴婦人の肖像が描かれていた。

 「──実は、こちらは宝箱でね」
 悪戯っぽく片目をつぶった王子は中から手紙を一通取り出した。
 「私にとって、母にも等しいご婦人からいただいた大事なお手紙なんだ」
 その言葉と王子の表情を見ただけで、ワルドは彼がどのような感情をその「ご婦人」に抱いているか推察できた。
 同時に、自身が彼に抱いている感情の正体にについても気づくことができた。
 (なるほど……嫉妬、か)
 その宝石箱に描かれている黒衣の女性は、まごうことなく「トリステインの黒百合」と称えられる美貌の宰相にほかならなかった。


#5.追想
 「そう、あれは今から10年以上前、私が10歳のころの話だ……」
 宝箱と称した小箱から取り出した、何通かの手紙を懐かしげに見つめながら、ウェールズ王子が語り出した。

 「あのころ、私は母を亡くしたばかりでふさぎこんでいてね。父も気晴らしになるだろうと思ったのか、トリステインへの訪問時に、私を連れて行ってくれたのだよ。
 確かに、初めて見る外国の地は沈んでいた私の心に幾分救いをもたらしてくれたが、本当の救いは、あの女性(ひと)に会ったこと他ならないだろうね」

 自分の従妹にあたるアンリエッタと出会い、「お兄ちゃん」としてしっかりしなければと少しは立ち直ったウェールズ。
 それでも、一朝一夕に母を喪った幼子の悲しみが癒えるはずもなく、王宮の庭でこっそり隠れて泣いていたところ、「どうしたのかしら?」と女の人から声をかけられた。
 優しい声に俯いていた顔をあげたウェールズの目に飛び込んできたのは、黒衣に身を包んだ母より少し若いくらいの年代の銀髪の女性。
 夕暮れ時の金色の光をその背にまとった彼女は、その美貌とすべてを包んでくれそうな慈愛に満ちた表情ともあいまって、あたかも天使のように見えた。

 「あの方──マザリーニ夫人は、私をその胸に抱き、涙の理由を尋ねられた。そして母を亡くしたことが原因だと聞くと、私が立ち直るまでの間、仮初の母の代りとなることを申し出てくださったのだよ」
 もっとも、私はアルビオンの王子であり、あの方はトリステインの宰相であったから、それほど長く共にいられたわけではないがね、とウェールズは苦笑する。

 「だが、それでも良かった。5年前の夏まで、わたしは毎年トリステインを訪れ、ほんのしばしのあいだ、あの方の"息子"として過ごした」
 そのことがどれだけ私の心を支え、また励ましてくれたことか、と遠い目をする王子。

 「立太子の儀を経てからは気軽に外国に行くわけにはいかなくなったが、それでも、毎年新年にあたり、必ずあの方は私信を"ウェールズ王子"宛てにではなく、"ただのウェールズ"宛てにくださったよ」
 だからこそ、この5枚の手紙は、私の「第二の母」ともいえる人からいただいた宝物なのだと、ウェールズは言う。

 聞いていたルイズやサイトも、あのマザリーニ夫人らしいと得心するが、ワルドだけは少し異なった。
 (そうか……この王子があの方の"息子"だったのか)
 5年前マザリーニ夫人に己が杖を捧げ、以来忠義を尽くしてきたことで、今ではあの宰相(かた)の懐刀だと自他とも認めるワルドだったが、たったひとつ解せない点があった。
 3年くらい前だろうか、ふとしたはずみで聖職者であるはずのマザリーニ夫人に「子供」がいると本人の口から聞いたのだ。

「もちろん、実の子ではありませんよ? 育ての母と言えるほどたいしたことをしたわけでもありませんし。
 ……それでも、生涯未婚を貫くはずのわたくしにとって、あの方は唯一"息子"と言いうる存在なのかもしれませんね」
 冗談めかしてそう言ってはいたが、ワルドには隠しきれない"母"としての情愛がのぞいていることがわかった。

 彼女に亡き母の面影を重ねているワルドとしては、まだ見ぬその人物へ狂おしいほどの羨望と嫉妬を感じたことを、ハッキリ覚えている。
 だが、その事を知った今、本人を目の前にして感じるのは、先程までの嫌悪と正反対の、深い"共感"だった。

 無論一瞬抱いた羨望や、先ほどまでの不快感が完全になくなったわけではない。
 しかし、今の王子に対しては、それよりも同じ女性を"母"と仰いだという同志めいた感慨のほうを強く感じていたのだ。

 (だからこそ……確かめねば)
 ワルドは意を決して口を開いた。
 「殿下、明後日の総攻撃の前にひとつお願いがあるのですが」
 続く彼の言葉に、その場にいたものは全員驚愕させられることとなった。


#6.試合
 「えーと……」
 いったいどうして、俺は、剣を握ってこんなところに立ってるんでしょうか?
 サイトは自問するが、当然答えてくれる者はいない。それどころか……。

 「フッ、さすがに音に聞こえた"トリステインの閃光"! 2対1のハンデをモノともしないとはね!!」
 「なんの! 殿下のその戦い方こそ、温室育ちの王族とは思えませんよ。本当にトライアングルなのですか!?」
 風の魔法と魔法がぶつかりあい、雷が火花を散らす"真剣勝負"の場に当事者のひとりとして巻き込まれていたりするのだ。

 なぜに、某少年漫画誌のバトルマンガもどきな展開に、サイトが参加するハメになったかと言えば、昨夜ワルドがウェールズ王子に願い出た一言が原因だった。
 すなわち、「一度、自分と杖を交えてほしい」と、彼は申し入れたのだ。

 もちろん、その場にいた者は全員驚愕した。
 王子は、明後日に玉砕覚悟の総攻撃を控えた身。本当なら、明日一日は十分な休養にでも費やすべきなのだから。
 それでなくとも、友好国からの大使の護衛が、滅びを目前にしているとは言え、一国の王子に戦いを挑むとは、正気とは思えない。

 しかし、その驚きからいち早く立ち直ったのも、またウェールズ王子その人だった。
 「ふむ。理由を尋ねてもいいいかな?」
 「──同じ女性(かた)に、心を救われた身だから、と言えばよろしいでしょうか?」
 ルイズやサイト、あるいはウェールズの侍従といった面々はわけがわからず、けげんな顔をしていたが、王子本人には、それだけで通じたようだ。
 「なるほど、では君があの宰相(かた)の腹心、か。それなら、試合に応じないわけにはいかないな」
 つい先ほどまでの叙情的(リリカル)な雰囲気が一転し、漢と書いて「おとこ」と読むよう熱い(暑苦しい?)空気が漂っている。

 「試合は明日の早朝、でよいかな?」
 「結構です。それと、私から条件が2点。私はスクウェアですが、"偏在"は使用しません。そして……」
 チラとサイトの方を見るワルド。
 「トライアングルであらせられる殿下は、彼とふたりで挑んでいただいて構いません」
 「え? お、俺っスか!?」
 いきなり話を振られて困惑するサイト。
 「おや、彼は大使殿の使い魔の平民だと聞いていたが……」
 「ええ。ですが、その剣の腕はなかなかのものです。今はまだ経験不足が目立ちますが、このまま修練を続ければ、数年とたたず"メイジ殺し"の域にまで辿りつけるでしょう」
 いや、たしかにアルビオン(ここ)に来る前に、一度ワルドに稽古をつけてもらい、「筋がいい」と誉められたが、そんな過大評価はしないでほしい、と心底願うサイト。

 「ふむ。それなら背中を預けるのに不足はないかな」
 ウェールズはやおらサイトの方を向きなおり、まっすぐに彼の目を見つめてきた。
 「サイトくん、と言ったね。どうだろう。無理強いはできないが、できれば助勢をお願いできないだろうか?」
 そう言って軽く頭を下げさえする。

 王族だの貴族だのの礼儀には未だ疎いサイトだが、日本でたとえれば皇族の皇太子にあたる人物に面と向かってお願いされたようなものだと言うことはわかる。
 さらに言えば、ここで断るとヘタレ扱いされるだろうことも。
 (う……ま、まぁ、あくまで"試合"だって言うし……)
 「わかりました。大したことはできないでしょうけど、助太刀させていただきます」

 (ワルドさんも、決戦を前にした王子様に全力で挑むほどKYじゃないだろ。仮にも、一国の騎士で隊長なんてやってるんだしな)
 ──そんなことを考えていた時期が、俺にもありました。
 ボロボロになったサイトは、城の修練場にヘタレ込みながら、生きていることの素晴らしさをしみじみ噛みしめていた。

 少年とは対照的に、決闘の当事者たちは、一転和気藹藹とした雰囲気で互いの健闘を讃えあっている。
 そのせいか、試合前にふたりのあいだに僅かに見られた緊張感が霧散しているし、まぁ、結果オーライか……と溜息をついて、サイトはよっこらせと立ち上がった。

 「もぅ、いいとこなしねぇ、アンタ」
 「トリステイン大使」の肩書を背負いながら、蚊帳の外に置かれていたルイズが膨れっ面で愚痴るが、知ったことか、とサイトは思う。
 (こちとら、この世界に来るまで、剣なんて握ったことなんかなかった、シロートなんだぞ!)
 もっとも、あの魔法のぶつかり合いのただ中にいて、ほとんど無傷でいられたことは、ふたりが多少加減していたことを差し引いても、十分すごいと言えるのだが。

 「ははは、やっぱり負けてしまったか。スクウェアの壁は厚いね」
 「なんの、最後のアレは引き分けでしょう。確かに私の魔法のほうが一瞬早く発動したでしょうが、到達する前に殿下の魔法も発動したはず」
 「"トリステインの閃光"にそう言ってもらえるとは光栄だね。うん、これで思い残すことはひとつ減ったかな……あの方を頼んだよ」
 「言われるまでもありませんが……ええ、任されましょう。僭越ながら、殿下も、あの方の"息子"として恥じない、立派な戦いぶりをお示しください」

 その日の夕刻に催された「最後の宴」の半ばにして、トリステインからの一行はニューキャッスルを離れた。
 ゆえに、ルイズとサイト……そしてワルドも、その後王子がどのような運命を迎えたのかは正確にはわからない。しかし、想像はついた。
 ルイズは、アンリエッタの叶わなかった恋心(おもい)と城の人たちの運命を思って、深く悲しみ──
 サイトは、ただ一度肩を並べて戦っただけの自分を「戦友(とも)」と呼んでくれた王子の笑顔と誇り高さを胸に刻み──
 ワルドは、「義兄弟(はらから)」から託された使命の重みに、決意を新たにしていた。

 そしてトリステインでは──
 「あ……」
 「どうかなさいましたか、姫様?」
 「今、まだ昼間なのに星が流れたような気が……いえ、きっと気のせいですわね」
 「殿下……」
 やや不自然な笑顔で笑うアンリエッタの顔を痛ましげに見守った後、マザリーニ夫人もまた、遠くアルビオンが浮く方角の空へと目をやった。
 (殿下……)
 口に出した言葉と字面は同じだが、呼びかける相手は違う。

 (結局、わたくしは"母親"失格ですね)
 もし、本物の母なら、たとえいかなるモノを犠牲にしてでも、なりふり構わず我が子を守ろうとしただろう。
 そして、このトリステインの宰相であり枢機卿の地位をも併せ持つ彼女には、義息子(むすこ)ひとりを匿う程度の力は、確かにあったのだ。
 ──それがトリステインの命運を危うくするとわかっていたが故に、彼女にその道は選べなかったのだが。
 「どうか無事で、とは口が裂けても言えません。せめて誇り高く。いえ……」
 (せめて、最期の時は、貴方に思い残すことがありませんように)
 偽善と罵られることを覚悟で、銀髪の麗人は"我が子"の魂の平穏ために、そう祈らずにはいられなかった。

-FIN-
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