2012年03月29日

第一章 魔女狩り編 その15     裏

〜side エヴァンジェリン〜







ゆっくりと顔をあげると、そこには心配そうな表情の男がいた。
何故か彼は泣きそうな顔になっていた。

「なんだ??貴様は??」

無感情。
だが、機械的に笑みを浮かべながら問うと

「化け物風情が、誰が喋っていいと許可した!?」

頭突きをされた男は
今度はくだらない事を叫びながら、持っていた釘を再び私の目へと付き立てようとした。

また刺される。
思ったはそれだけだった。
やはり、私は堕ちたらしい。

前の私であったら。
痛い、耐えなければ
など様々な感情を持ち、そして身を強張らせただろう。
襲いかかってくる痛みに覚悟を決めていたのであろう。

だが、今の私は違った。
全てがどうでもよく、刺さるという事実が分かっているだけ。
耐えなければならないという感情などなく、覚悟もない。
生物の本能すらも、既に無視しており
身体は強張るどころか、一切の力が入っていなかった。



だが、いくら待てど、その釘が私の目に届く事はなかった。




「てめえが黙れ。」


それは衝撃的だった。
目を抉られるよりも、よっぽど衝撃のある光景。

私を守るために、男を殴ったのだ。
地位のある、権力のある男を、吸血鬼を守るために殴り飛ばしたのだ。

何を考えているんだ?
この男は?
私を利用する気か?
吸血鬼は殺されるべき存在なのだろ??

なぜだ?
なぜなんだ??


「ちょっと待っていろよ。
今から、解放してやるからさ。」

「貴様は、一体なんだ?」

殺されるために存在するような私を、自分の身を危険にさらしてまで
どうして助けるんだ?

あったのは困惑。
この者が何だか分からなかった。

だが、こやつは私の言葉を無視して

「少し痛いだろうけど、我慢してね。」

丁寧に釘を抜いてくれた。

今まで、釘のせいで行われなかった再生が、黒い煙と共に行われる。

「ん??

って、どういう事!?」

男からあがる疑問の声。

あぁ〜、そうか。
なるほどな。
こやつは、私が吸血鬼だと、知らんかったのか。

別に、この者が悪いわけではない。
見知らぬ子供を助けるために、聖職者を殴れる、優しい男だ。

ただ、少し寂しいだけだ。

分かりきった事だろ?
私が受け入れられる事など、けしてないんだ。

自分の中にいる自分が言ってくる。

あぁ〜、分かっていたさ。
分かっていたとも。

私は吸血鬼だ。

人とは相容れない怖ろしい吸血鬼だ。
受け入れてもらえる事などないと、分かっていたさ。


だがな、だが

少しぐらい、夢を見ても良いだろ?

1人は寂しいんだ。
少しぐらい、期待したって良いじゃないか。

「吸血鬼なのだから、当たり前だろ?」

不敵にだ。
不敵に言うんだ。

自分に言い聞かせながら、震えそうになる声を無理やり抑えて言う。

この後はいつもの様に、怖がられ、罵られる。
何度も何度も経験した事だ。

優しいお婆さんも、幼いあの子も、皆そうだった。

だが、何度も経験しても馴れる事はないんだな。
こうして彼の返事を待つ僅かな時間ですら、ここまで苦しいのだからな。

「おぉ〜、なるほど〜。」

これから襲いかかってくるだろうと思われた罵倒に身を強張らせていたというのに。

思いにもよらない言葉に、思考が停止した。

だが、その言葉が、私を受け入れてくれる言葉だと
吸血鬼である私を受け入れてくれる言葉だと気付いた時。


私は泣きそうになった。


まったく、情けない事だ。

もう、既に何十年も生きている化け物だというに、幼子のように声をあげて泣いてしまいたいと思うのだからな。

本当に、情けない事だ。


「痛いだろうけど、我慢してね。
一気に全部抜いちゃうから。」

私の顔を見ず、そのまま彼は残りの釘を抜いてくれる。
素直に助かった。
今の顔を見られては、とてもじゃないが悪の吸血鬼らしくない様子を見られてしまうんだからな。

「んっ、ズズッ。」

痛みを堪えているのか、泣くのを堪えているのか分からん声が響く。
自分自身でも良く分からんのだ。

だが、痛みを堪えている声だという言い訳は出来た。
けして、こやつに泣くのを堪えているとは思われないようにしなくてはならぬ。

「よし、コレで終わりだ…。
う〜ん、お嬢ちゃん頑張ったね〜。」

全てが抜き終わると、笑みを浮かべながら私は見つめられた。
それが恥ずかしく、そして片目にこの様な煩わしい釘があるような状態では不格好であったため

「ふむ。」

全ての釘を掴むと

「くぅぅう」

全てを引き抜いた。

まったく、恥ずかしいのを誤魔化すためやら
容姿を整えるために、目に刺さった釘を抜くとは
一体私は何を考えているんだか。




だが、悪い気分ではなかった。



posted by まどろみ at 06:23| Comment(0) | 流れて流されてネギまへ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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