2012年03月30日

第三章 世界放浪編 その4     裏

〜side 狩人〜







完全にオレの負けだった。
あの少年は、オレをただ追っ払ったのではなく、予め用意していた罠へと導くために石を投げたのだ。

普通こうはいかない。
当たり前である。

いくら、ある程度進路を予想できたとしても、こんなに上手く行く筈はないだろう。
だが、あの少年はそれをやってのけてみせた。

彼が罠を仕掛ける所を見たにもかかわらず、オレは見事に引っかかってしまった。

簡単に引っかかった理由の一つに、その罠が原始的で単純だったというのもある。
地面を見れば気付く様な、一切の魔法を使わない原始的な罠に、自分が掛るとは思わず軽視していたのだ。

オレが軽視するというのも、彼の計画の一部だったのであろう。

そして、オレが逃げようとするよりも早く、彼はオレの所へとやってくるのだった。

「うわっ、大丈夫ですか!?」

そんな、白々しい演技をしながら。

この後は、何が起こるだろうか?

とりあえず、オレの血が奪われるというのは決定事項であろう。
先ほどの少女が死徒であるのだったら、血を吸われたとしても、オレは干からびて死ぬか、死徒になるだけですむ。

だが、もし彼女が真祖だというのなら、オレは操り人形へとなり、そして…。

オレだけが死ぬのだったら、まだ良い。

だが、オレのせいで仲間達を危険にさらしたくは無かった。

とはいえども、今のオレに出来ることなど何もないというのも事実。
舌でも噛み切ってやろうかと思ったが、そんな事をしても死ねないので却下。

手持ちのナイフや、杖を出す事も考えたが、彼がソレを許すとは思えなかった。

コレから行われるであろう事を考える。

とりあえず、身につけているナイフや杖を奪い、そして縄で縛る、又は骨を折るなどして身体の自由を奪い、そして吸血鬼へと献上する。
そして、彼女が死徒であった場合は、まぁ血を吸われ続け失血死、又は死徒化。

真祖であった場合は、同じ様に血を吸われ良ければ失血死、悪ければ死徒となり操られ仲間達を襲撃。
その後は、真祖の食料として生かされ、血がなくなったら捨てらる。

まぁ、そんな所であろう。

そして、オレがやらなければいけない事と言えば、何処かで隙をついて逃げる。
それが不可能であれば、操り人形になる前に死ぬ事。

僅かな隙だとしても、見逃す事がない様、彼の観察をする。

一見すると、隙だらけである。
何処にでも居そうな幼い異人にしか見えない。

だが、それが逆に不気味であった。

オレの思考を、行動を、感情すらも読み、罠へとかけた男が、素人の様に近付いて来るのだ。




その動作の一つ一つに目が離す事が出来ず、ゆっくりと伸びてくる手に、オレは身体を強張らせた。

















「本当に、すみませんでした。」

目の前で、頭を下げる少年にオレは困惑する事しか出来ないでいた。

彼はオレの持つ武器を取るワケでもなく、拘束する事すらせずに罠を解除し、謝り続けているのだ。
一体、これは何の策略だろうか?

もし、オレを困惑させる事が目的ならば、それは十分に達せられているだろうが、わざわざオレを困惑させる意図もあるまい。

全てはオレの勘違いで、偶然罠にかかった?

いや、それこそあるまい。

「あぁ、別に気にする事はない。」

「そうは言っても…。」

本当に申し訳なさそうな顔で彼は謝っているのだ。
こちらとしても、反応に困ってしまう。

「足元を確認しなかったこちら側の落ち度だ。
気にしないでくれ。」

会話としては間違っていない筈なんだが、間抜けな発言をしているようにしか思えない。

だが、彼からこの三文芝居を始めたので、間違ってはいないだろう。

「そう言ってくれると助かります。」

「それは良かった。

ではオレは、そろそろと帰るとするよ。」

そう言い、彼から離れようとする。

「ちょっと待って下さい。

コレが落ちていたんですけど、貴方のですか?」

そう言う彼の手にはオレの杖とナイフが握られており。

「なっ。」

「やっぱりそうだったんですね。

夜の森は危ないですから、しっかりと持っていないとダメですよ。

特に今夜なんか真っ暗ですからね。」

「あっ、あぁ、ありがとう。」

震えそうになる手で彼から杖とナイフを受け取った。

命の危険など何度もあった。
異形な者に襲われた事だった何度もあった。

だが、そんなモノよりも笑顔でオレを見ている、この少年の方がずっとオレは怖ろしく感じた。
吸い込まれそうな漆黒のその眼には、情けない程に顔を歪めたオレが映っていた。


〜side エヴァンジェリン〜



徹と共に風呂へと入る。

毎日共に入り、そして毎日徹の膝の上に座っているというのに、奴のモノが反応した事は一度としてない。
最近では、なるべく密着するようにと彼の身体を背もたれにしたり、彼と向き合って座り、抱きついたとしているのに一切反応がないとはどういう事なのだ!?

もう、こうなったらスリスリペロペロ作戦しかないのか!?

だが、それをやって反応がなかったとしたら、女としてのプライドも粉々になるだろうし、徹からは痴女という不名誉な認識をされてしまうかもしれない。

そんな私の葛藤など知るよしもない徹は足を身体を伸ばしと風呂を満喫していた。

「しっかしアレだよな。

アレだけ歩いたっていうのに、オレ達は殆ど疲れていないし、足も特別はったりしないんだから、不思議だよな。」

ゆっくりと彼は漏らした。

「何を今さら言ってるんだ?」

何十年間と付き合ってきた私達の異常に対する発言。
それを今さら不思議と言うのだ。

「う〜ん、確かに今さらかもしれないけどさ、改めて考えるとね

いろいろな責任があるなって。」

「責任だと?」

「そっ、責任。」

罠を見回っていた時に何かあったのだろうか?
その言葉は、いつもの彼とは雰囲気が違っていた。

「まっ、先生からの受け売りなんだけどね。」

彼は珍しく昔の事に触れる様な発言をしてきた。
いや、珍しいというより、30年近く共にいて初めての発言だった。

『その先生とは?』
もっと、彼の事を知りたかったが、私が問いかけるよりも先に

「そろそろ出るか?」

言った瞬間、何人もの叫び声が僅かに聞こえたのだ。
どうやら、その叫び声の主達は異常なほどに混乱を起こしており、時折『吸血鬼』や『魔法』、『杖』といった単語が混ざっていた。

「お前は、一体…。」

何をしたんだ?
どうして分かったのだ?

聞きたい事は山ほどあったが、困ったような笑みを浮かべた彼を見て初めて出会った時の事を思い出した。

たった一人で教会に喧嘩を売り、そして私達を救った策略を。
そして、あの時感じた畏れにも似た何かが久しぶりに私の中を渦巻いた。


だが、昔とは違った。

あの頃は、ただ畏れしかなかったが、今ではそれ以外の物も共に渦巻いていたのだ。

それは信頼であり、頼もしさでもあった。
どうだ、私の相棒は凄いであろう。

ちょっと自慢でもあり、ちょっとした嫉妬も感じていた。


そんな私の気持ちに気付いているのか、いないのか。
私には分からなかったが、彼は優しく笑みを浮かべながら


「お風呂からだよ。」



そうやって誤魔化すのであった。


posted by まどろみ at 00:40| Comment(0) | 流れて流されてネギまへ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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