2012年03月30日

幕章 麻帆良編 その7

えいっ ふぁいあー あいすすとーむ

負けられない戦いがココにはあった。
隣には、小学生になった明日菜の姿。

5年ほど前に、時の魔法が身体から抜け切り、いつの間にか身長は私を抜かしていた。

もう5年もすれば、胸も膨らみ、女らしい身体へとなるであろう。
そう考えると、肉体で明日菜に勝つと言うのは難しくなっていくんだろうな。

そんな事を考えながらも、せっせかと、色のついたスライムを重ねて行く。
互いの腕は、たいして変わらないため、決着が中々付かない。

一進一退の攻防。
そんな中、空気の読めない電話の電子音が響いた。

「エヴァ、電話。」

「えぇ〜い、そんな物無視だ。無視。」

「そういうのは、ダメ。」

「はっ、そう言いながら、私が電話をしている最中に勝手に進めるのだろ?」

もう、10年近くも共に暮らしているのだ。
そのぐらい分かるさ。

「エヴァだって、同じ状況だったらする。

でも大丈夫、絶対しないから。
早くとらないと、徹起きる。」

言いながら、ソファーを見つめる明日菜。
正確には、ソファーの上で寝ている徹をだが。

現在行っている勝負の景品だ。
どちらが、徹と共に寝るか。

ソファーと言う非常に狭い空間。
その空間であればどれだけ徹にひっ付いていようとも、全然不思議ではない。

つまり、これは徹に触れる絶好の機会なのだ!!

そんな、嗜好の景品が電子音如きに奪われるのは確かに不愉快。

「ちっ、分かった。
ただ、絶対勝手に進めるなよ。」

言いながら、電話を取りに行く。
まぁ、基本的にここに電話をかけてくる人間なんぞ、知れている。

ジジィかタカミチ、可能性は低いが、アルかもしれない。

ちっ、下らん要件だったら即刻切ってやる。
そんな事を思いながら受話器を取る。

「なんだ?」

いつもの問い掛けを(この様なやりとりをしている事が、徹にばれると少々うるさい。)すると、推測の通り電話の相手はジジィであったのだが、どうも様子が可笑しい。
電話の向こうから感じる雰囲気が、どうも切羽詰まっている。

あの飄々としているジジィが、だ。

そして、ジジィから告げられた言葉は

「徹君が、重体を負ったというのは本当なのか!?」

余りにも、予想外の事であった。
なにせ、徹なのだ。

世界最強の存在。
そんな彼がデマとはいえ、重傷を負う。
笑えない冗談である。

さらに、本人は暢気にお昼寝タイムだ。

「奴だったら、リビングで昼寝中だ。

たくっ、ジジィ。変なデマに振り回されるな。」

とっとと、電話を切り、勝負に戻らなくてわな。
何とかして、一度途切れてしまった集中力を戻さねば、私の勝利はない。

大体、明日菜が本当に勝手に進めていないかも怪しい。
まぁ、勝手に進められていたら無効試合として、もう一回初めからやれば良い。

むしろ、そっちの方が、途切れた集中を戻すことが出来、私にとってはプラスかもしれぬ。

「そうじゃな。

あの徹君が銀行強盗如きに傷を負うはずなどないのぉ……。
まぁ、重体の徹という少年には悪いが、安心してしまったようじゃ。」
ジジィの言葉でイメージが頭をよぎる。
一瞬だけ、徹がアコという少女を守る姿がよぎる。
500年程経ち、薄れながらも、けして消える事のない記憶。

彼の夢を見て、私は自身を戒めた。
不老であり、最強であるが、徹も死ぬ可能性があるという事を。
彼は、何でも出来る存在ではなく、私たちと変わらぬ存在であるという事を知った。

その戒めを忘れた事はない。
だが、夢の内容は忘れていた。
あの、当時としては不可思議な空間を私は忘れていた。

今頃になって、思い立った予測。
それが、私の胸を締め付ける。

「確かに、可哀想だとは思うが、儂の生徒ではなく、知り合いでもない。
人々を救った英雄に対して、このような感情はどうかと思うんじゃがのぉ……。

もちろん、儂としても全力を尽く」

「ジジィ。
全てを詳しく話せ。」

今、私の頭の中にある予測。
あまりにも現実離れをしており、鼻で笑われるような、そんな滑稽な物。

出来るのなら、私も鼻で笑いたい。
そんなはずがない。下らない。馬鹿馬鹿しい。
そのどれでも良い。とにかく否定したいのだ。

だが、どうしても否定出来ない自分がいる。

「ひょっ?

エヴァンジェリン、テレビを見ておらんのか?
今、何処もそのニュースをやっとるぞ。」

受話器を持ち、そのままリビングに向かおうとするが、出来ず、仕方なしに電話全てを持つが、電話線が届かない。
無理やりひっぱり、電話が切れた。

あぁ、もう。
これだからハイテクってやつは!!
簡単に壊れるから、いかん。

色々と慌てていたせいで、念波という便利な物に気付くまで5分ほどかかった。
どうやら、ジジィも失念していたようだ。





「明日菜。
チャンネルを変えろ。」

私の方だけ、色付きスライム+透明スライムが量産されていたが、とりあえず無視。

そして、チャンネルを変え、一番初めに出たのは


村重 徹(むらしげ てつ)重体


という、文字であった。
明日菜は、呆然とこの文字を見、徹を見て落ち着いたように息を吐き出す。
そして、そのままニュースを見るようであり、顔をテレビに向けていた。

「ジジィ、この徹という少年の傷は?」

明日菜に聞こえないよう、小声で問いながら、私はソファーで寝ている徹の服をめくる。

「……銃によるものじゃの。
主に腹部に受けたらしい。

まったく、いきなりどうしたんじゃ?

付属病院からのカルテは、確かココに……。

おぉ、あったあった。」

「腹部。

水月に一発、左の脇に2発、左胸にも一発あるな……。
この切り傷は……違う傷か。
後は、右足の付け根のすぐ上……。」

震えそうになる手で、ゆっくりと傷口に触れながら彼の傷口のある部位を言っていく。

「……エヴァンジェリン、どうし」

「多くの古傷があり、一つ一つ上げればきりがない。
が、中でも左胸を真横に走る傷、あとは背中の左上から右下にかけて大きな傷が目立つ……。

どうだ?
当たっているか?」

何も言わず、ただ聞いていたジジィの様子から、問わずとも答えなんぞ分かっていた。
だが、それでも間違いであるかもしれないという希望を捨てることが私には出来なかった。

「あっておるぞ。

銃を受けた箇所、目立つ古傷の箇所。
エヴァンジェリンの言った通りの事がカルテにも書かれておる。」

「……そうか。」

それだけを言うと、念波を切った。

まったく知らない、500年もの昔……。
しかも、全く違う国。

そんな所へ、不老という異常な体にされながら飛ばされたのだ。
不幸の比べあいなど、するつもりなど毛頭ない。

だが、それでも、私は思わずにはいられない。
どうして、徹だけが、こんなにも苦しい目にあわなくてはいけないのだ?と……。

それと同時に、自身のダメっぷりが嫌になる。

何度だってチャンスはあったのだ。
銀行に入った事だって、数度ある。
銀行強盗を題材としたドラマも見た事だってある。

そのたびに訪れる、デジャブを、よくある事と無視しなければ、気付けただろうに。



違う、そうではないだろ?

そうじゃない。
そんなんじゃないのだ。

認めろ。認めなくちゃ、いけないんだ。

ただ、気付いていなかったわけじゃない。
気付かないはずが、ないじゃないか。

いくら、夢の記憶が薄れようとも……。
あれほど強烈なデジャブが何度も来ているというのに、よくある事などと思うはずないじゃないか……。




気付いていながらも、気付かないふりをしていたのだ。

私は!!!


自分さえ偽り、無自覚に気付けないようにしていた。
もう、どうしようもない証拠が出てきてしまったから、ようやく気付けたが、これがなかったら私は間違いなく、ずっと気付けないでいたに違いない。


愚かだ。愚か過ぎる。
愚かで、浅ましく、厭らしい!!

私は、私は……。

怖かったのだ。
今だって怖い。

私の世界は、徹が作ってくれたのだ。

徹が未来からやってきた、時を越えてきた徹が私の世界を彩ってくれたのだ。
そんな徹が、もし時を越えなかったら?

たぶん、無意識のうちに気付いていたんだと思う。
だから、私は気付かないようにしていた。

だって、私がやろうとすれば、幼い頃の徹を守れるから。

徹の身体中にあった傷跡。
幼い頃に出来た物も多々あると言っていた。
死にかけた事も何度もあると言っていた。

守るべきなのであろう。
愛おしい相手なんだから。

助けるべきなのだろう。
自分を救ってくれた恩人だのだから。

だけど……。
もし、幼き頃の彼に関わった事によって、彼が時を越えなかったら?

逆に、彼に関わらなかった事によって、時を越えなかったら?


ギチギチと、鎖が私を縛る。

私は怖かったのだ。
気付かないように、気付かないようにとしていたが、気付いてしまった。



怖くて、自分が嫌になって、哀しくて。
気付けば、雫が頬を伝っていた。

「私は、お前と共に居ても良いのか?」

小さな呟きが漏れた。
500年もの時を共に居ながら、今更の言葉だ。

だが、私は……。




〜side 徹〜





一発で、これは夢だと分かった。
別に、頭がボーっとしているからでもなければ、視界に靄がかかっていたからでもない。
猫が空を飛んでいるのを見たからでも、6メートルほどのネズミが居たからでもない。



夢だと分かった理由。


それは、エヴァちゃんが泣いていたからだ。

しかも、オレの目の前で。

エヴァちゃんが泣かないという事ではない。
確かに、珍しいが何度も隠れて泣いていたというのも、オレは知っていた。

村を離れる事になった時も、知り合いが亡くなった時も、エヴァちゃんが泣いていたのをオレは知っている。

オレに見つからないように、コッソリと。
オレに心配させないように、すぐに笑みを浮かべていたのも、知っていた。

エヴァちゃんが、ここまで素直にオレの前で泣いてくれたのは、あのお風呂の時が最初で最後だった。

多分、この夢はオレの願望。
エヴァちゃんには甘えてほしいのだ。

別に、エヴァちゃんを子ども扱いしているワケではない。
確かに、エヴァちゃんは子供っぽいが、それでも大人だ。

一応は、その認識はある。
いや、まぁ、たまに子供扱いしちゃうんだけど……。

まっ、それは置いておいて、とにかくオレはエヴァちゃんにもうちょっとだけでも、甘えてほしい。
確かに、エヴァちゃんが可愛いからっていうのもあるよ?

こんなに可愛い子に甘えられたいって気持ちも無いとは言わない。

でもさ、それ以上に


オレにも少しぐらい支えさせて欲しいんだよ。

大人ぶって、泣き虫なのに、冷酷なふりして……。

あやふやで、ころころと変わるエヴァちゃんに、オレは救われていたんだ。

何百年っていうふざけた年月。
ワケが分からなくなるぐらいの長い時間。

それを、こうやって過ごせたのは、君が……。


「私は、お前と共に居ても良いのか?」

涙を流しながら、問いかけるエヴァちゃん。
今にも、消えてしまいそうな、震える声で、問いかけられる。

抱きしめたかった。
今にも消えそうなエヴァちゃんを。

けれど、自分の身体は動かない。

白い霧が濃くなっていき、エヴァちゃんを隠し始める。

酷く嫌な予感。
まるで、エヴァちゃんが何処か消えてしまいそうな、そんな予感。

何か、しなくちゃいけない。
そう思うのに、身体は動いてはくれなかった。

泣きそうな、彼女を抱きしめてやりたい。
遠くに行ってしまいそうな、彼女の手をとり、繋ぎ止めたい。

けど、そのどちらも、オレには出来なくて



「当たり前だよ。

むしろ、エヴァちゃんが居なくなったら、オレは泣くよ?」


唯一出来たのは、そうやって、声をかける事だけだった。



posted by まどろみ at 01:07| Comment(0) | 流れて流されてネギまへ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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