2012年03月30日

メア√ IF END

〜side メア〜







「……そうですか」

「あぁ、そうだ……」

私がショックを受ける場面だというのに、エヴァちゃんの方がショックを受けているじゃない。

「いつかは、そんな日が来ると思っていましたけど、実際来られると困りますね」

指で頬を掻きながら応える。たぶん顔には苦笑でも浮かべているのだろう。

「……明日の夜だ。
明日の夜、私と徹はこの村を抜ける」

改めて、それだけ言うとエヴァちゃんは踵を返し、家の中に入っていってしまった。

それは、いつか訪れると分かっていた時。だけど、出来るのなら訪れて欲しくなかった時。
それは歴史が証明している、英雄の末路だった。

物語のように、弱きを助け、強きをくじいた英雄。
けれど、『めでたしめでたし』では終わらない、醜い現実。

英雄は、その力を恐れられ去らなくてはいけなくなってしまったのだ。

出来る事なら付いて行きたい。
既に50近くにもなる、老婆が言うことではないが、それでも付いて行きたかった。
子供も居ない身だ。そういった意味では、ついて行っても問題はない。

だけど、それはダメだ。
ダメなんだ。

力も不死性もない私は邪魔になるだけ。
少しでも彼等と共に入れるのなら、この命も惜しくはないけど、彼等の重りにはなりたくないのだ。

かといって、人間に在らざるモノとなって力を手にするのも嫌なのだ。
それは私が私であるためのワガママ。

自分でも難儀な生き方をしていると思う。人は、私の事を愚かだと笑うだろう。歪んだ生き方に呆れを覚えるのかもしれない。

それは誰も求めていない生き方。
エヴァちゃんは言った。吸血鬼になれと。吸血鬼となって、共に生きようと。泣きそうになって言う。
私とも、共に生きていきたいと。
こんな私には勿体ない事を言ってくれた。

私も望んだ。
エヴァちゃんが居て、徹様が居て、そして私が居る世界を。
ずっと、一緒に居続ける世界を。

徹様は何も言わなかったから、どうかは分からない。
といっても、ずっと一緒に居たいと言ったら、喜んで力を貸してくれるのではないかと思う。
共に一生を過ごすことを喜んでくれると思う。

それは、幸せな夢。とてもとても幸せな夢で叶えてはいけない夢。
叶えてしまっては、あの言葉が嘘になってしまうから。

『エヴァちゃんや徹様から見れば一瞬かも知れません。
ですが、その一瞬を私は生涯を使って、支えていきたいのです』

自分の三分の一も生きていない小娘の言葉。

『あと、アレですよ。
例え不老不死で、化け物と呼ばれようとも、人間の私が友達で居続ける事が出来るっていう証明もしたいですしね』

30年も前の言葉に縛られるというのは愚かなのだろう。
けれど、やはりこの言葉は特別なのだ。

頬を二回叩く。
いつか来ると知っていた日が来るだけなのだ。

泣くのは後、悲しみに暮れるのも後。
いつも通りの日常を過ごし、夜には笑顔で別れるのだ。

あの二人を悲しませたいわけではないのだから。







次の日、私はいつも通りに過ごした。
朝食の支度をし、洗濯物を干す。
掃除をして、喧嘩する子供たちを怒り、皆を風呂に入れた。
ちょっとだけ贅沢な夕食を作り、そしてアッサリと別れの時がやってきたのだ。

「あれ?メアさん。
こんな遅くに、どうしたの?」

家のすぐ外。
徹様の言葉はいつもと同じモノだった。

「いえ、挨拶もしないで出て行こうとする薄情な人の見送りに来たんですよ」

「ありゃりゃ、それは手厳しい」

徹様は笑いながらも、頬を指で掻いていた。

「ほらほら、エヴァちゃん。
旅立ちの日に、そんな泣きそうな顔してちゃダメですよ?」

「な、泣きそうなんかなっていない!!」

「ふふふ、そういう事にしておきましょうか。

徹様、エヴァちゃん。
こんな老婆一人で申し訳ないですけど、村の入り口まで見送りをさせて貰います」

深く、深く礼をしていた。
沢山のお礼と、謝罪と、涙と、引き止める言葉を堪えながら。

「老婆って、十分メアさんは若いと思うけど……
まぁ、よろしくお願いします。でいいのかな?」

言うと、三人で歩き出した。

とはいえ、しょせんは小さな村。
村の入り口に着くのに、それほど長い時間はない。

別れの時間が近づけば近づくほど、頭の中がいろんな言葉で埋め尽くされていき、伝えたい事が、どんどん増えていくのだ。
増えていく言葉が焦りを呼ぶ。そして焦れば焦るほど、貼っていたメッキがボロボロと剥がれ落ちていく。

心配させないように、それでいながらも自分の思いが伝えられる。そんな、言葉をしっかりと考えてきたはずなのに、それすらも忘れてしまったのだ。
最後の最後でやってしまった、大ポカ。

とはいえども、時間は待ってくれるはずもない。

「それじゃ、メアさん」

村の入口へと着き、徹様は笑顔を浮かべながら言う。

「ではな、メア」

潤んだ瞳から、涙を零さぬように耐えながら、エヴァちゃんが言う。

そして、二人は去るのだろう。
最後の別れだ。こんなのでは私は永遠と後悔し続ける。

「徹様、エヴァちゃん。ありがとうございました」

それは見栄も何もない、幼い子供と全く変わらない言葉。

「お二人の幸せを願っています」

それでも、自然と出てくる言葉。

「いってらっしゃいませ」

頭は自然と深く下がっていた。

出来る事なら、もっとカッコよく言いたかった。
もっと、しっかりと徹様とエヴァちゃんに、どれほど感謝しているのか、どれほど二人と共にいた日々が輝いていたのか、伝えたかった。

「うん、行ってくるよ」
「あぁ、行ってくる」







それが、別れだった。
酷くアッサリとした物。

『昔々、大きな災害から大勢の人々を救ってくれた英雄がいました。
彼は、その身を使い、どんな災害からも村人達を守ってくれていたのです』

頭を下げているため、二人は見えないが、徐々に遠ざかって行くのが分かった。

『子供好きで、優しく、そして強い彼は、大勢に頼りにされていました。
ですが、災害が過ぎ去ると、村人の中に彼の大きすぎる力が怖くなる人達が出て来てしまいました。
それを知ると、彼は、自分と同じ様に怖がられる少女を連れて何処かに行ってしまったのです』

多分、その時になって、ようやく私は実感したのだろう。
家族との別れを。
永遠の決別を。

『内緒で出て行ったので、彼等を見送る事が出来たのは、一人の女性のみでした。
それを知った村の人達は嘆きました』

彼等を追い出した人間達に恨みがないとは言わない。

『原因となった人達を追い出そうともしました
ですが、彼はそんな事を望んでいない事も皆知っていたのです』

あの輝いていた日常が、僅かかもしれないとはいえ、もう少し長く過ごせたのかもしれないのだから。

『皆が争いにならない様に、彼は出て行ったのです。
争いをするワケにはいきませんでした』

徹様には、この村は小さすぎる。だから、別れは結局訪れていただろう。
それが、奴等のせいで少しはやくなっただけ。

恨みはすれども、それで争うのはただの八つ当たりになってしまう。

『ですが、どうしても村人は彼に対してお礼と謝罪をしたいと思うのでした』


誰も居なくなり、私は顔を上げた。

「……老化遅延の魔法も解呪してしまったほうが良いですね」

不老とまではいかないまでも、自分が老いるのを五分の一まで遅くさせる事が出来た魔法だ。
老いた自分を見せたくなかったのだが、その相手はもういない。

「ふふふ、まったく……
不老になりたければ、エヴァちゃんに頼めば良かったのに。
人間のままで居続けようとするから、こんな中途半端な不老になっちゃうんですよね」

たぶん、今の私はひどい顔だ。
口は歪んだ笑みの形を浮かべていて、声は震えている。

「まったく、私は」

必死に保っていた堤防は決壊してしまい、ボロボロと自分でも驚くくらいの涙が頬を濡らす。
まったく、もっと辛い事だってあったのに。どこか冷静に呟く自分がいながら、それでも涙は止まらず、むしろ増えていく。

どうせ、誰かに見られているワケでもないのだ。
だから、今だけは泣こう。あと少ししたら、皆が起きてくる頃にはしっかりとするから、それまでの間だけ泣こう。

今は、泣いても良いんだから。
涙を流すと、止めにくる、おせっかいで心優しいヒーローはもう居ないんだから。






















「う〜ん、この空気も久しぶりだねぇ」

「お前なぁ、もうちょっと緊張感って物を持て」

顔を上げた。
もう、彼等は旅立ったのだから。帰ってくるはずなどない。
後で落ち込むだけだろうに、私は期待を込めてしまった。

やはり、思った通り、違う二人組。
徹様とエヴァちゃんにしては、背の高すぎる二人組。

まだ遠くで、よく見えないが、それでも背の大きさで違うと分かる。

「とは言っても、故郷に帰ってきたのと似たような物だよ。
緊張感なんて、そんなの必要ないでしょ?」

「時代が時代だろうが」

だけど、どうしても目が離せなかった。
違うと、絶対に違うと分かっているのに、目が離せなかった。

彼等の背後から昇る朝日が、女の金髪をキラキラと輝かし、男の黒髪を魅せる。
女の釣り上がった目が、男の優しく、吸い込まれそうな瞳が、どうしても二人を彷彿させる。

でも、そんなはずはないのだ。
先程別れた二人が、不老の二人が、成長して自分の前にいるなんて。

だけど、だけど

「て、てつ、さま?」

「ん?
おぉ〜、メアさん。久しぶり。
流石、超ちゃん。しっかりと会えた。

ほらほら、エヴァちゃんも、恥ずかしがっていないで」

男の笑みは、確かに徹様の笑みと同じ物で……

「て、徹。
私は恥ずかしがってなど……

そもそも、しっかりと説明をしないか。
メアが困惑しているぞ」

コクコクと首を縦に振る。

「あっ、そりゃそうか。
とはいっても、時間があんまりないんだよなぁ〜」

男は困ったように笑みを浮かべながら、人差し指で頬を掻いた。

「う〜ん……

俺達の異端は全部消えちゃったんだよ。
つまり、メアさんが俺達の事を気にして、遠慮の必要は全くなし。


だからさ、メアさん。

俺達と一緒に来ない?
来てくれると、エヴァちゃんも……その〜、俺も、とっても嬉しい」


私の好きな笑みを浮かべながら、男は手を差し伸べた。
考えてみたら、初めてだったかもしれない。
徹様の個人的なお願いは。

それが、とても嬉しかった。


「はい、よろこんで。徹様」


このヒーローは、本当に優しくておせっかいだ。
だって、ほら。もう涙が止まってしまったのだから。


「よし、メアさん確保。
行くぞ。エヴァちゃん」

そう言うと、徹様は片手に私を抱き、もう片方の手でエヴァちゃんを抱いた。

「はぁ、まったく……
もう少し、しっかりと説明するべきじゃないのか?」

ため息を吐きながらも、エヴァちゃんは大きくなった胸の谷間から何か丸く平べったい物を取り出す

「大丈夫だって。
帰ってこようと思ったら、帰ってこれるんだから。
それじゃ、行こうか」

「え〜と、何処に行くんですか?」

「ん?800年後」

その言葉と同時に、私達三人は光の粒と共に宙へと浮く。

「800年後って、いや、え?」

戸惑う私に関係なく、光は集まり輝く。



二人が成長し戻ってきたわけも、800年後の世界も、分からない事だらけだ。
実際、あまりの急展開に頭が全然動かない。

だけど、1つだけ分かる事があった。

今、自分の周りで輝いているような、いやそれ以上の日々が、これからずっと続いていくのだと……








『めでたしめでたし』





〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜

メア√移行条件
@メアに子供が出来ない
Aメアの『生涯を賭けた証明』のセリフを徹が聞く


以上、2つの条件がなされていると、メア√に入ります。

この場合、組織『ナイトメア』は結成されていない事となり、本編のアルも居なくなります。


posted by まどろみ at 01:43| Comment(2) | 流れて流されてネギまへ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おひさしぶりです。まどろみさんは元気してますか〜?いやぁ、ちょいちょい読み返しているのですが、やっぱ一番自分にとってグッとくるのがこの話なんですよね〜。涙腺にくるというか、後、エヴァと老婆の話ですね。ワンピースのチョッパー(奇跡の桜)並みにきます。メアの矜持というかそういうものに感動します。忙しいと思いますが、次回作を楽しみにしています。
Posted by はるきよ at 2017年08月14日 23:21
はるきよ様、コメントありがとうございます。

元気にしているはずです……
流々を書き始めた頃は高校生だったのですが、気付けば社畜に……元気に頑張っています。

そして見続けてくださり、ありがとうございます。
本日更新した記事の通り、流々の修正verを近日中……
というよりも、明日更新しますので、楽しみにしていただけたらと思います。
Posted by まどろみ at 2017年08月28日 23:07
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