2012年03月30日

キュゥべえ、本気になる

梅子は、縁側でのひなたぼっこ、季節に関係なくコタツに入る、軽く畑を耕す等。見ている此方側が眠くなるような生活を気が向くままに続けていた。

ただ、彼女が朝と夕に必ず行なっている事がある。

仏壇の前で手を合わせ、むにゃむにゃしているのだ。

すでに、キュゥべえが梅子と出会い5年の歳月が経っているが、この仏壇の前でむにゃむにゃするのは、ほぼ欠かしたことはなかったのだ。

それは、死者への鎮魂を意味するのか、それとも先祖への感謝を意味するのか、全く意味などないのか。
キュゥべえには分からなかった。

「ねぇ、梅子。
それにはどんな意味があるんだい?」

「意味?
ないですよ」

ふんわりとした笑みを浮かべながらの言葉。
だが、それがいつもの彼女の笑みと同じかというと、否であろう。

だてに、5年も共に暮らしていは居ない。
キュゥべえも、すぐに気が付いていた。

「戦争で死んだ家族が関係しているのかい?」

梅子の事を5年も世話し、調べてきたのだ。
キュゥべえほど、彼女の事を知っているモノはそうそういないであろう。

「えぇ、それもありますね」

笑みを浮かべながら、答える梅子。
その笑みが何時ものとは違う物であったが、それでも無理をしているわけでもないようだ。

「梅子。
キミは、死んだ夫、息子と会いたいかい?」

「えぇ、会いたいですね」

キュゥべえの表情が動いたのなら、どんな表情だっただろうか?
笑みを浮かべていたのだろうか?
それとも、細く口の端を上げていた、いわゆる『悪そうな笑み』を浮かべていたかもしれない。


もしかしたら、眉を歪ませ、泣きそうだったかもしれない。






キュルと、尻尾をならし、そして問う。
随分と久しぶりの問い。

「君の夫と息子を生き返らせてあげるよ。
だから、僕と契約して魔法少女になってよ」

それは悪魔の誘いだった。
甘い、甘い誘惑であった。

人の生き死にという、人間では絶対に犯せない領域を、キュゥべえは無視するというのだ。

あまたの人間が、その甘言に乗るであろう。
そのキュゥべえの姿に神を見出すであろう。





そして、梅子は……


「夕食お願いしますね。
シュガーレットさん」


先ほど食べたはずの夕食を再度要求するのだった。

「……梅子。
今回の僕はちょっと本気だよ」

「あらあら」

「ボケたふりはもう効かないよ。

まぁ、4回に3回ぐらいは本当にボケていたみたいだけど」

ニコニコと笑みを浮かべ、眺めている梅子に朗々とキュゥべえは語る。

「さぁ、梅子。
君だって感じたはずだよ?

僕は一度もあったことのない、夫と息子が死んだ時に。
世の中の不条理を」

人によって、殺された。
確かに夫は戦場で、何人も殺したであろう。

だが、息子は?
何も知らない、我が子は?

「そんな不条理な世界から君は救われるべきなんだ。
幸せにもなっていいんだ。


だから、梅子。



契約しよ?」


「ふふふ。そんな不安気に、必死に言われるとキュゥべえの言う事を聞いてあげたくなりますね。

だけどね、ごめんなさい。契約する気はないの」

やはり梅子は笑みを浮かべたままだった。

「梅子!!
いい加減契約をしてよ!!

僕は、もう我慢の限界なんだ。

君は、君は……



何度倒れていると思っているんだ。

もう、身体だってボロボロじゃないかい。
僕と契約すれば、延命出来るんだよ?

大変な事だってあるけど、それでも延命は出来るんだよ?」

「キュゥべえ、こちらへおいで」

ポンポンと、自分の膝の上を叩く梅子に従う。
尻尾を使い、梅子の手を自分の背中へと導く。

「キュゥべえ。
私は君のお陰でとっても救われたんですよ?
そのとっても素敵な力で、こんな穏やかな気持ちになれているんですよ?」

「素敵な力?
僕は梅子と契約していないよ」

キュゥべえの疑問の声に梅子はただただ微笑を浮かべるだけだった。
穏やかに、ゆっくりと。
それでいながら、確実に時は過ぎていくのであった。


posted by まどろみ at 02:06| Comment(0) | 魔法老婆 うめこ☆マギカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。