2012年03月30日

3話目

才人の腹は既に限界であった。
かめはめ波を撃った反動か、それとも元から効率が悪いのかは分からないが、朝食が圧倒的に足りなかったのだ。

いつもであれば、米を山盛り、卵焼き、納豆、味噌汁、ベーコン、牛乳と、贅沢な朝食を楽しむのだが、今日は楽しめなかった。
パン一つとスープ、肉を3切れ。
朝食として、多いか少ないかは、人によって違うだろうが、才人にとっては圧倒的に足りなかったのである。
それは、もう涙を流してしまうほどに。

だが、それが不当だとは思わなかった。
何も仕事をしていないのに、朝食を食べさせて貰ったのだ。
文句どころか、御礼を言うべき立場であるのだ。

故に才人は考えた。
食事の量を増やす方法を。

そして、考え付いたのが、『自分で掴まえてくる。』であった。

苦労の末、捕まえたウサギを片手に厨房へと向かう。
途中、手伝わされた教室の片づけを終え、くたくたになりながら、向かった。

とりあえず、このウサギと食べ物を交換してもらうつもりなのだ。
厨房までの距離まで、残り50m弱。
目的地を見据え、才人は歩く。

片手にぶら下がっているウサギが、つぶらな瞳で才人を見続けているが、飢えている才人は気付かない。
隣の少年のポケットから、小壜が落ちた事にも、飢えている才人は気付かない。

そして、その小壜は足元へと転がっていき、それを踏む才人。

才人は転んだ。それは、もう見事に。
そして、離れる手。

ウサギは、一目散に逃げ出した。明日という未来に向かって。

「あっ……。うさぎ……。」

泣きそうになる才人。
お腹を空かせながら、馴れない狩りで、ようやく捕まえた獲物なのだ。

それが、自分が転んだという理由で一目散に逃げてしまった。
元から涙腺の弱い才人の目には一気に涙が溜まる。

だけど、泣かない。男の子だから。

「おい、それはモンモラシーの香水じゃないか。
そうか、ギーシュ。君はモンモラシ−と付き合ってるんだな。」

「ふふふ、やめてくれよ。
薔薇は、多くの女性を楽しませるものだよ。
特定の女性と付き合っては、その娘(こ)がトゲで傷ついてしまうじゃないか。」

ウサギの後ろ姿を見ながら、黄昏れる才人。

「ギーシュ様……。酷い。」

「ケ、ケティ。
違うんだよ。」

「もう知らないわ。さようなら。」

才人の心中は、ぽっかりと穴が空いてしまったようだった。
ポキリと、何かが折れてしまった。

必死に涙を堪え、袖で拭く。

「……ギーシュ?」

「モ、モンモラシ−!?

いや、コレはだ……うぐぅ!!」

「あらやだ。粗末な物を蹴ってしまったわね。ごめんあそばせ。」

「ぼ、僕の玉と竿が……。」

「大丈夫か?潰れてないか??」

だが、13年間も『かめはめ波』の練習をしてきた才人の立ち直りの早さは、かなりの物である。

「き、きみぃ!!
どうしてくれるんだ!?

君のせいで、可憐なレディ達を傷付けてしまったではないか!?」

ゆらりと、才人は立ち上がる。
こうやって、座り続ける事は、何時でも出来る。
だが、それで事態が好転するはずもない。
だから、立ち上がる。

「君!?
何か、返事をしたらどうだね!?

君のその口は飾りなのかね??」

才人の思考は、プラスの方へどんどんと進んでいた。

(考えてみれば、ルイズに頼めば少量だけど食べ物はくれるだろうし
さらに、厨房の人にも手伝いを申し出たりしたら、食べ物をくれるかもしれない。)

「うん。そうだね。」

(何とかなる!!)

「なっ!!

君。貴族をなんだと思っているのだね!?」

唐突に、大声をあげられ横を見ると、そこには内股気味の少年が立っていた。

「はぁ?」

才人は理解出来ていない。
なにせ、唐突に叫ばれ、いきなり喧嘩腰なのだ。
ワケが分からなかった。

「君のせいで、僕の股間は……ゴホン。」

そして、いきなり股間の話しをし始める金髪少年。
よけいワケが分からなくなった。

現在の状況として

1、内股少年が喧嘩腰で才人に話しかけてきた。
2、なぜか、いきなり股間の話をし始めた。

以上の2点である。
非常に少ない情報の中で、才人は現在の状況を導き出そうとする。

脳みそは一気に回転し、そして恐ろしい答えを導きだしてしまった。
だが、それであれば辻褄があうのだ。

いきなり、自分に声をかけ、股間の話しをし始めるという奇特な状況に陥る理由。

『彼に、男色の気がある。』

いきなり、話しかけてきた理由は、ナンパ。
そして、股間について……まぁ、そういうワケである。

ナンパをされたのは、初めでである才人。
しかも、同性からのナンパである。
非常に貴重な経験だ。

そんな、経験した事のない才人としては、反応に困ってしまう。

「だんまりか。
なるほど、君は態度を改めないようだね。

よろしい、ならば決闘だ!!

ヴェストリ広場で待ってる。後で来たまえ。」

そう言い、内股少年はマントを翻し、歩いて行った。
その歩みは、非常に奇妙な物であった。

それを才人は呆然と見つめる。
ただ、一方的に言われ、そのまま内股君は何処かに行ってしまったのだ。
状況も分からなければ、自分がどうすれば良いのかも分からない。

まず、内股君の言葉について、思考してみる。

『態度を改めない。』

これは、才人が内股君のナンパに困惑している事を示しているのだろう。
つまり、意訳すると

『いつまで、困惑してるんだ?
早く、OKをくれよ。』

という事になる。
ちなみに、彼が貰いたいOKとは、股間に関わる事であろう。つまりは、そういう事である。

そして、次

『よろしい、ならばけっとうだ。』

この『けっとう』という言葉。
これが、何を示すのか才人には理解出来ていない。
とりあえず、思いつくだけの漢字を当てはめて行く。

血統、決闘、血糖

ぐらいであろうか?
とりあえず、思いついたのは3つである。

この、どれもが相応しいとは思えない物ばかり。

ここで、才人の頭の中に数式が出てきた。

股間+血糖=糖尿病

どうやら、内股君は糖尿病らしい。

糖尿病。
結構、軽い病気だと思われがちだが、意外と危険な病気である。
無症状の状態も確かにあるが、意識障害などに至る場合も存在する。
さらに、目や腎臓などといった様々な臓器にも障害を及ぼす原因となる事だってあるのだ。

そして、最後に言った言葉。

『ヴェストリ広場で待ってる。後で来たまえ。』

その広場が何処にあるかは不明だが、そこで内股君は待っているという事だ。
つまり、彼が何を言いたかったかというと

『そこの、君。
僕と、良い仲にならないか?
非常に、君がおいし……ごほん、なんでもない。

それはそうと、どうだい?
あぁ、どうやら随分と悩んでいるみたいだね。

あっ、そうそう実は僕、糖尿病なんだ。

あははは、ゴメン。
どうやら僕も慌てているみたいだ。
すまないね。変なカミングアウトしてしまった。

とりあえず、僕はヴェストリ広場にいるよ。
もし良かったら、そこで返事を聞かせてくれないか?』

という事である。完璧だった。

どうやら、内股君はかなり口下手のようだ。下手すれば喧嘩を売っている様なない様に聞こえてしまう。
もし、血糖を正確に訳せず、決闘などと訳してしまっては、もう目も当てられない。

才人でなければ、この様に正確な理解は出来なかったであろう。

ようやく、謎が解け才人の頭はすっきりした。
それと、同時に鳴るお腹。

「とりあえず、飯頼も。」

才人はそのまま、厨房へと向かった。







「諸君!決闘だ!!」

薔薇の造花を掲げながら、ギーシュは宣言した。
それを聞き、彼と才人を中心に輪を描くように集まった生徒達は大きな声を上げる。

相手となる平民が50分も遅れてきたのだ。
その不満もあり、周りの生徒達は大いに盛り上がった。

血の気が多い少年も、『野蛮だわ』等言う少女も、コレから行われる喜劇を楽しみにしていた。
平民という、自分より力の弱い存在を圧倒的にいたぶり、己と言う存在が”ソレ”よりも上に居る事をみたいのだ。

自分達の様な、高貴な血に反逆しようとする生意気な平民を跪かせる。
それは、自身がより高位の存在である事の証明であり、嗜虐心を大いに刺激する遊びでもあるのだ。

故に、何でもないかのように、笑みを浮かべる平民は観客にとって、面白くない物であった。
そもそも、平民は何でもないかのように、ココに来たのだ。

その顔に、死の決意や、青ざめた様子もない。
ただただ、何でもないかのように、平然とやってきたのだ。

その後、ギーシュを挑発するような言葉まで紡いできた。

何も持っていない、『絶望的であるはずの平民が』である。
全員が全員、高揚し、騒ぎ立てていた。
まるで、彼の不気味さを認めないかのように。







お腹がいっぱいになった才人。
厨房で会ったシエスタというメイドさんは非常に優しかった。

なにせ、タダで料理をくれると言ってくれたのだ。
それじゃ悪いため、皿洗いや薪割りと言った雑用をやらせて貰ったのだ。

一通り、終わらせた後、腹ごなしに散歩していたら、何か大勢の人が集まっているではないか。
野次馬根性で、何を見ているのか、人を掻き分けながら覗くと、内股君の姿があった。

どうやら、あれからずっと待っていたようだ。

才人は、無視するつもりだったのだ。
なにせ、いきなりナンパしてきた同性である。

しかも、いきなり自分が糖尿病とカミングアウトしてきた人間だ。
出来れば関わりたくない。

とはいえども、ちょっぴり罪悪感が出てきてしまった。
才人が感じる必要もないような罪悪感。

勝手に言って、勝手に待っている人間に罪悪感を感じる必要などない。


それでも、才人は感じてしまった。
見世物の様に、なりながらも自身を待つ内股君の姿を見て……。

良く良く見れば、内股君はイケてるメンズ(略してイケメン)である。
周りの女性が放っておかなさそうな顔つきをしているにも関わらず、残念ながら彼の興味の対象は同性……。

なんとなしに、虚しさを感じながら、才人はイケメン内股君へと声を掛けるのだった。

「ごめん。待たせたね。」

「逃げたかと思ったよ。」

またまた、内股の口下手スキルが発動した様であった。
ちなみに、訳は。

『待たせ過ぎだ。
今の、僕はちょっと怒ってるぞ!!

き、来てくれて嬉しいとか思っているワケじゃないんだからね!!』

どうやら、内股はツンデレの要素を持っているようだった。

「ごめん、ごめん。

それで、先ほどの返答何だけど、非常に心苦しいけど君の好意は受け取れません。
あぁ〜……。こう言っては何ですが、男色の気が俺にはないので……。」

内股の好意を蹴るのだ。
才人は馴れない敬語を使い、誠実に応えようとした。

「き、君は何を言っているのかね!?

そんなの、こちらから願いさげだ!!」

内股君は、顔を真っ赤にしながら、叫んだ。
そして、その勢いのまま言うのだ。

「諸君!決闘だ!!」

どうやら、今回の『けっとう』は、血糖ではないらしい。
多分、『決闘』

そこで、才人は自分の愚かしい間違いに気付いたのだ。
内股君はツンデレなんかではないと。


彼は……。

ヤンデレだったのだ……。

ナンパを断られ、いきなりの決闘。
ヤンデレに間違いなかった。

会ったばかりだというのに、内股君の愛が重すぎた。



posted by まどろみ at 02:32| Comment(0) | ザ・使い魔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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