2012年03月30日

5話目

激しい乱舞。
その両手にはギーシュのワルキューレの足が片方ずつ握られていた。
新たに作り出した6体のゴーレムも彼にはかすりもしなかった。
それどころか、ゴーレムを行動不能へとしていったのだ!!

使い魔の持つ、ワルキューレの両足はただの鈍器にすぎない。
だというのに、ゴーレムの足は砕け、胴体を薙げば、ワルキューレは吹き飛ぶ。
ただの平民。しかも無手だった平民だ。
牙を持たないはずの平民に、ギーシュは追い詰められていたのだ。

両手に持つ足は光りの反射で煌びやかに輝き、そして彼特有の目は、戦う前とは比べ物にならないほど鋭かった。
ギーシュにとっての美しさと言うものは、薔薇や宝石といった、煌びやかなものであるはずだった。
故に、泥臭く、汗臭い彼の事は美しいとは正反対の感想を抱くはずであった。否抱かなければいけなかった。

だが、ギーシュは魅せられた。薔薇とは違う、どちらかと言えば雑草のような、そんな美しさを魅い出してしまったのだ。

すっと、首元に置かれた真剣。
一瞬硬直し、ゆっくりと肩を覗けば、肩の重みは、鈍い光沢を放つワルキューレの足であった。

「ま、まいった」

何とか、声を絞りだすと、彼はニカっと笑みを浮かべ




朝の光りを浴び、ギーシュは目を覚ました。

「夢か……」

あの決闘から、すでに3日が過ぎていた。にも関わらず、彼の胸の内はあの決闘から離れれない。
寝て、見る夢は全てあの決闘の内容であり、気付けばずっとあの時の事を考えていた。
寝ても覚めても思い浮かべるのは、決闘の事ばかり。
そう、それはまるで

「……恋?」

言葉に出した瞬間、びっしりと背中に汗をかき、手には鳥肌が立っていた。さらに動悸まで不規則になる。そんな症状が一斉に襲ってきたのだ。
恋に間違いなかった。

しかも、とびっきりな物のようで、今まで感じた事がないような症状ばかりなのだ。

(これが、本当の恋というやつなのか……)

だが、彼にはモンモラシーという心に誓った相手が居た。とはいえ、この前振られたばかりだが。
しかも、かなりのヒドイ振られ方をしたのだ。元はといえば、ギーシュ自身の浮気性が原因であったため、彼には弁解の余地はないであろう。
ただ、あのような振られ方をしたのでは、修復なんて、夢のまた夢という事ぐらい、ギーシュは分かっていた。

だからといって、いきなり別の人間に鞍替えするというのも、男としてどうなのだろうか?と思ってしまう。だが、それでも思いというものはどうしようもないのだ。

どんなにダメだと考えていたとしても、思ってしまうというのはどうしようもないのだ。
だから、彼は自分の思いに素直になろうと決意してしまったのだ。

さて、そんな素直になってしまったギーシュが才人と結ばれるためには、一つだけ大きな壁がある。

普通であれば、その壁は身分の差であるはずだ。いざとなれば"かこる"という手もあるが、『本当の恋』をしてしまったギーシュとしては、それは避けたい事態である。
だが、そこはギーシュが目をつけるほどの器の持ち主である。トリステインでは無理かもしれないが、身を立てるぐらいやってのけそうだと、感じていた。

故に、そこに関しては気にしていなかった。
ギーシュが問題視していたのは、一方的な片思いであるという点であった。
なにせ、ギーシュは一方的に決闘をふかっけた立場なのだ。つまり、スタート地点がマイナスからとなるのだ。全く余裕なんてないのだ。

人間というのは、第一印象は基本的に見た目で決まる。見た目は平均以上であった彼にとっては、スタート地点が常にプラスの状態にあったのだ。
こういった不利な状況からのアプローチなんて、ギーシュには経験のないどころか、想像すらした事のない事態であった。

さらに、ギーシュは基本的に歯の浮くようなセリフでアプローチをしてきていた。
ギーシュは本心からそのセリフを言っており、ある意味天然で褒め殺していたのだ。
そして、そういったセリフを言うと、何故か女性が自分に好意的になると学習して、その様なセリフを良く使うようになったという経緯があるのだが、それが使えなくなるのだ。

今までの『宝石のような瞳』や『君の美しさに女神も裸足で逃げるさ』といったセリフは才人には似合わないし、ギーシュ自身本心ではない。
どちらかというと、『君は雑草のよう』や『泥みたい』といったセリフの方が才人に似合っているのだが、正直にそう褒めたとしても喧嘩を売っているようにしか思われない。
ギーシュは馬鹿ではないので、はすぐ気付いた。

他には、『錬金』を使っての小物を送ったりする程度だろうか?
だが、それもすぐにギーシュは否定する事になる。
彼が作ってきた小物は繊細で、細かい物ばかりであった。そういった物は才人に合わないのだ。
そもそも才人は渡したとしてしっかりと付けてくれるかどうかも疑問である。

常に飾りっけのないシンプルな格好なのだ。もしかしたら小物はつけない主義なのかもしれない。

そうなってしまうと、ギーシュはいよいよ困ってしまった。
周りよりは女性関係に強いとはいえども、まだ学生。そこまで凄い技があるわけではないのだ。

つまり、今までの経験は全て使えない物となり、ギーシュは手探りで才人にアプローチをかける事となった。


何をするかは決まってはいなかったが、とにかく才人が喜ぶ事をするつもりであった。
相手がしかめっ面よりも、笑顔で居てくれた方が良いのだ。

そうなってくると問題は才人が喜ぶ事である。
女性の場合は、歯の浮く言葉を吐いたり、手作りの小物をプレゼントしたりしたら、恥ずかしがりながらも喜んでくれた。
だが、相手は才人である。
歯の浮くセリフを言えば引かれ、手作りの小物をプレゼントしても、全く付けずになくしたり、数日で壊してしまいそうだ。

才人が喜ぶ事。又は才人が好きな事。
とはいえ、出会ってまだ数日なのだ。

知っている事といえば、ルイズに起こされる。そしてルイズの衣類の洗濯(どうやらコレは苦手らしい)。そしてルイズから与えられた食事をした後、厨房に行き賄いを貰い、ルイズを授業に送り出した後、厨房での手伝い(主に巻き割り)、その後、部屋の掃除、鍛錬を行う。夕食を食べ、再び鍛錬、身体を水で流し、ルイズに用意された藁の上で寝るという生活を送っている。
何故かルイズから自分より遅くに起きるという意味不明かつ理解不能の命令が下されている。
なお彼の好きな食べ物は肉類全般、嫌いな食べ物はない。食事の量はギーシュのおよそ2.3倍ほどであり、かなり良く食べる。

たった、これだけしか知らないのだ。ギーシュが持つ才人の知識は圧倒的に少ないと言わざるを得ないであろう。
だが、それでも才人が好きな事、又は喜ぶ事というのは分かる。
まず基本的に才人の生活は鍛錬に大部分が占められているといっても過言ではないであろう。

ただ、鍛錬といっても型を行ったり、腕立て腹筋、背筋といった筋トレ、走りこみ、イメトレ程度しか出来ていないのだ。
まだまだやりたい事、やるべき事があるはずなのだが、それが彼には出来ていない。

まず問題点として挙げられるのは、第一に器具が全くない。結果、何処でも出来るような事しか出来なくなる。

第二に、場所がない。才人が鍛錬を行っているのは外である。
ギーシュは知らない事であるが、基本的に格闘技と言うものは室内でやるものであるのだ。もちろん外国では外でやっている所も存在しているが、それは投げが存在しない格闘技であり、さらに戦う時には、リングぐらいは使っていた。
せめて畳ぐらいあれば受身ぐらいは出来るのだが、外でやるとなるとやはり怪我の心配が出てくるのだ。

もちろん、外で受身をしなくてはいけない場面もあるだろうが、才人がやっているのは鍛錬である。出来る限りリスクを減らすというのは当たり前である。

第三。これが最も問題なのかもしれないが相手がいない。
技をかける事はもちろん、互いに高めあう事も、相談すらも出来ない状況なのだ。

と、まぁこれだけ才人は不便していた。
そして、器具に関しては得意の錬金を用いれば大分解決されたのだろうが、先日の決闘が唯一といっていい喧嘩であったギーシュにはその様な事を思いつくはずない。
結果的に大きくアピール出来る唯一の手段を、彼は気付かないままに捨ててしまう事となった。

そうなってくると、次に考えられるのは食事である。
才人は食事を愛しているといっても過言ではないほどであり、主に動物性タンパク質を常に求めている傾向がある。

そうなってくると、ギーシュがやるべき事は一つ。

クッキーを焼く事である。

「……一応僕は男なのだが、やはりそれしか方法はないのか?」

男のプライドを取るか、愛を取るか。
大いに悩むはずの、究極の2択なのだが、ギーシュは常に愛に生きる男であった。

大して悩むことなく、ギーシュは愛を取ったのである。


posted by まどろみ at 02:34| Comment(2) | ザ・使い魔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
待てそれはおかしいww
Posted by JohnDoe at 2012年04月21日 09:13
これが、愛に生きる漢の生き方という奴ですよ。
Posted by まどろみ at 2012年04月22日 12:36
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