2013年05月25日

幕章 ヘルマン編 後編

〜side ネギ〜







無詠唱での射手の性質変化、方向転換、さらに身体のあらゆる部位から射手を出すことも可能になった。
発動までの時間がかかるから、まだまだ研究の余地はあるけど、幅が広くなったのは間違いない。

最近では風楯の研究も進めている。
これが無詠唱で使える様になったら、防御、応用すれば他にも色々な事に使えるだろう。

相手の虚を尽き、死角からの攻撃、意識の外からの攻撃……
手は広くなり、相手からは予想がしにくくなる……と思う。

頭の中で、京都のアンチクショウを相手にシミュレーションをしてるけど勝率としては4割ほど……負けている回数の方が多いのだ。
脳内でやっているシミュレーションですら負け越しているのだ。

実戦となると、勝率は更に下がるだろう。


そう考えると、ループ型結界が僕に上手く作用したとはいえ、アイツを相手にあそこまで食いついていけたのは出来すぎの結果。
マーキングしようとしている所からは想像がつかないが、アイツはプロなのだ。


恋する乙女には似合わない、そんな物騒な事を考えながら下校していると、犬が倒れていた。
お腹の辺りだけ白で、他は真っ黒な大きな犬。

と言っても、ドロやらなんやらで汚れちゃっていて、白は茶色に近い白。
毛もパサパサで、本来だったら綺麗な漆黒であろう黒色も鈍い黒へと成り果ててしまっていた。

もう立ち上がる事すら出来ないのだろう。
弱々しく息を吐くだけで、意識もないのかもしれない。

触れてみると、体温もかなり落ちてしまっているようで、かなり冷たい。

「……見て見ぬふりなんて出来ないよね」

何箇所かに、怪我もあるみたい。
あまり回復系の魔法は得意じゃないんだけど、やらないよりはマシなはず。

焼け石に水。
気休めにしかならないだろうと思っていた魔法だけど、どうやら効果は思った以上にあったみたいで、弱々しかった呼吸が僅かながらも落ち着いた。
これは僕の魔法の効果というよりも、この子の生命力の高さのおかげだろう。



屈み込み、持ち上げる。

「お前、意外と大きいんだな」

自分の身体の半分以上あるんじゃないかな?
魔法で補助をしなかったら運べなかったかもしれない。

なるべく揺らさない様に、それでいながらも急いで。
相反する2つを両立させながら急いで、家へと向かう。

ポツリポツリと雨が降り始め、雫がコイツの体温を奪う。
強く、強く抱きしめながら、僕は走った。





            ☆☆☆




「ふぅ、ひとまずはこれでよし」

比較的汚れたタオルの上に寝る犬っころを見ながら一息。
消毒汚れ落としの魔法を使い、清潔に。

前足や胸にあった怪我への対処も完了。
いざという時のために、簡易な医学書を読んでいたけど、これからも続けていく方が良さそうだね。

「くしゅん」

あぁそういえば、僕も雨に濡れていたんだっけ。

気が緩んだせいか、急に寒くなってきた。
まだ肌寒いぐらいだけど、このままだと本格的に風邪を引いちゃうかもしれない。

上着スカートを脱ぎながら洗面所へと移動。
水を吸い重くなってしまっているソレを洗濯機へと入れる。

本降りになる前に家に着いたとはいえ、かなり濡れてしまったようで、パンツの方まで僅かに湿ってしまっていた。
さっきまで気付いてすらいなかったけど、こうやって認識してしまうともうダメだ。
冷たく、肌に張り付く、あの独特の感触が気持ち悪い。

下着も脱ぎ、そのまま洗濯機の中に入れてしまおう。
少しばかり下の方がスースーとするけど、なんと言うか気持ちいい朝の目覚めの様な爽快感がある。

とはいえども、ずっとこの格好のままというのは一淑女として、よろしくない。
戸棚の中に置いてある下着を取ろうと手を伸ばすが……

「あれ?ない?」

ココにないとなると、もしかして僕の下着ない?
そういえば梅雨入りし、洗濯物が乾かないみたいな事言っていたっけ。

さらに言うと、コッチに来る時、下着をあまり持って来なかったりして……
うん、無いみたいだね。これ……

ぱっと見てあるのは、徹さんのトランクスにエヴァンジェリンさんの見た目に合わないアダルティーな下着、そして茶々丸さんも何とその性格に似合わないアダルティーな下着(間違いなくエヴァンジェリンさんの趣味だ)

……どうしよ。
正直、あんまり他の人の下着を借りるっていうのは避けたい。
別に良いかな?とか少し思ってしまう部分があるけど、相手がどう思うか分からないし。

かと言って、濡れた下着を履き直すというのは論外だ。
あのペタペタと張り付く下着から開放されたっていうのに、もう一度履き直すなんて嫌だ。

とりあえず、一度探してみよ。
もしかしたら、戸棚に入れて無いだけで、洗濯済みの下着があるかもしれないし。

えーと、あるとしたら二階かな?
下着を求め、リビングを横切ると、クーンクーンと何処か甘えるような犬の鳴き声が聞こえてきた。
「あっ、お前起きたんだね」

近くによってみると、まだ完全ではないようだけど、意識は回復したみたい。
そっと手を出すと少し擦り寄せて来る。

ふと思い出すのは、高熱を出した時の事。
心細くて、寂しくて、暗い場所に独り放り出された様な孤独感。
でも、オデコに少し冷たく手が乗せられた。
ただそれだけで、酷く安心したのだ。

多分、辛い時に甘えたくなるのは人も犬もあまり変わりないんだと思う。
僕に何を見ているのかは分からないけど、この子が安心するんだったら……



二階に上がっていくと、幸い乾かされた下着があった。
綺麗に畳まれ、籠の中に入っている様子から、あとは戸棚に入れるだけだったのだろう。

キャミソール、パンツを身に付ける。
流石に裸でウロウロするのは淑女として、あまりよろしくない。

いや下着姿も淑女としてはどうかと思うけど、ちょっとぐらい許してほしい。

なにせ我が家なのだから。




〜side 小太郎〜





心地いいまどろみの中。
雨が降る音が微かに、そして一定のリズムで紙が擦れる音が落ち着かせる。

僅かに身動ぎ。
徐々に意識が戻り始めとった。

どうやら側に人が居るらしく、自分へと何かが向かってくる気配した。

それは野生の反応。
睡眠という最も己の大きな隙を知らぬ人間に見せてしまったのだ。
意識が朦朧とするなか、脳が四肢に動けと命令を出そうとする。
己の安全を守れと命令する。

だが、その命令はあっさりと霧散してしまうのだ。
体温の高い、小さな手で撫でられる事によって。

あってはいけない事だった。
知らない人間に身体を触れられているにも関わらず、落ち着いてしまうなど。
一匹で育ってきた自分にはあってはならない事なのだ。

だが、どうしても抗えない。

ゆっくりと紡がれるのは、異国の歌だった。
調子は外れ、けして上手いとは言えない歌。

だが、その調子外れの歌と、背中全体に感じる体温に俺の意識はさらに落ちていく。

全くしらない言語。
内容なんて全く分かるはずもないのに、分かってしまったのだ。

ただただ、意味なく俺を守ると。
優しく暖かく包み込まれ、害するもの全てから俺を守ると。

あぁ、俺は世界中の誰よりも贅沢な時を過ごしている。
どんだけ金があろうと、権力があろうと味わえない、それでいながら誰でも味わえる贅沢を、俺は味わっている。

俺の意識はその調子の外れた優しく暖かい歌を聞きながら、深い闇へと落ちた。
暖かく、柔らかい闇の中に。




〜side ネギ〜





「これは、育て方を間違えたか?」

「マスターが徹様と週に3回もいたしていれば、この様になるのも仕方ないかと……」

意識が覚醒していく。
どうやら、いつの間にか寝てしまった様だ。

「いや、そこはバレぬよう気を使っているぞ?
見せてしまうのは教育に悪いだろうし、貴様に見張りを頼んでいるしな」

「いや、ですがマスター。子供は敏感と良いますし……」

……なにか困った事があったのかな?
2人の声には困惑の色が見え隠れしている。

「……エヴァンジェリンさん、茶々丸さんおかえりなさい」

上半身を起こしながらの挨拶。
眠い目をこすりながら、あくびを一つ。

「あぁ……そのだな……
うむ、私は比較的古い人間だからな、理解はあるさ。
だがな、やはり生きる時代にあった行動をだな」

「マスター、幼い身体で徹様といたしている時点で説得力は皆無かと……」

……?
 
「えぇ〜と、お二方共どうしたのですか?」

どうも、はっきりとしない物の言いよう。
比較的ズバズバと物を言うエヴァンジェリンさんらしくなかった。

「いや、お前、男を連れ込んでいたらだな……」

エヴァンジェリンさんの視線を追うと、裸の男の子が……
え?いや、なんで?

寝る前の記憶を辿ってみるけど、こんな人いなかったはずだ。

ココで嫌な予感が一つ。
非常に見覚えのある犬耳と黒い尻尾。
適当に切られたであろうボサボサの髪……

コイツ、もしかしてさっきの犬?
そういえば僕、コイツに裸を見られ……

「ただいまーっと。
いやー、雨にやられてびっしょりだよ。

あっ、タカミチ今日夕飯食べて行きなよ。
こうやって付き合わせちゃったわけだしさ」

「それじゃ、お言葉に甘えて……
あっ、お邪魔します」

えっ、タカミチ?
いや、ちょっと待って、今は色々とまず

「ほれほれ、聞いてよ。
商店街の福引で、ドックフード一年分が当たってさぁ。

あまりに多いから、タカミチに手伝って……もら……て?」

「徹さん、これ何処に置けばいいで……」

視線の先には徹さんとタカミチの姿。
2人共どこか呆然と口を開けていた。


カチカチと妙に時計の秒針が響き渡る中

「あぁ、うん……
ネギ君。ちょっとソレは君には早いかな?」

タカミチが戸惑った様に声を発した。
それを皮切りに僕達の時間は動き出し


「キャァァアアアアアア」


僕はようやく、悲鳴を上げる事が出来たのだった。





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posted by まどろみ at 15:58| Comment(0) | 流れて流されてネギまへ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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