2018年03月06日

その3 昔話の化け物

〜side 徹〜


「魔女と言われたかと思えば、化け物と言われ、悪魔とも言われる……
 俺としてはどれでもいいんだけどね。全部正しいと言えば正しいし、間違っていると言えば間違っている」

 とりあえず、適当に意味深なことを言って混乱させよう作戦である。もう俺も何言っているのか分からない。自信を持って言えるけど、一番混乱しているの俺だからね!

 俺を囲んでいる人たちは顔を真っ青にしており、すぐに襲ってくる様子はなかった。

 とはいえども、逃げる算段が付いたわけでもない。先ほどの転ばせたパフォーマンスが上手く行き過ぎてしまったのだ。
 確かに襲ってくる様子はないが、大きすぎる恐怖のせいで騒乱も起きないのだ。つまり、逃げる余地がない。

「な、なんでまた、化け物がくるんだ……
 ようやく、幼い身なりをした化け物を捕まえたかと思ったら、また現れるんだよ」

 ただの小さな呟きのつもりだったのだろう。だが、沈黙が支配しているこの場では、その声が妙に響いた。

「……幼い身なりの化け物?」

 あぁ、そうか……

 当たり前といえば当たり前の話。自分以外の人間が同様に疑われ、狩られている。例えそれが男だろうが、女だろうが……幼い子供だろうが、関係ないのだ。

 当たり前のこと。その当たり前のことが目の前で示され、伝えられただけだ。

「そ、そうだ! あぁ、そうか。貴様その化け物を助けに来たんだな!?」

 動きだ。沈黙が支配し、互いに動けなかった場に動きが起きた。ここは、俺も動くべきところ。

「あぁ、そうだとも。
 伝染病をまき散らし、誰もいなくなった中探すつもりでいたが……」

「な、なんて恐ろしいことを!」

 お、後付けにしては意外といい設定かもしれない。

「ただ、そうだな……
 その化け物を助けられたのなら、俺は何もせずに去ろうか」
 別に俺はどちらでもいいんだけどね?」

 お願いします。その子を助けてさっさと逃がしてください。
 内心を隠しながらも伝える。

 どうやら、俺の内心は上手く隠せているようだ。いい具合に、周りは悩み、混乱している。
 後ひと押し。もうひと押しさえすれば、この人達は折れる。

「疑っているみたいだね。
 とはいっても、俺は、口に出したら縛られる。約束は守るよ」

 悪魔っぽい設定を勝手に考えて、適当な事を言ってみる。
 ちなみに、先程の言葉を訳すと

『逃してください。お願いします。
 死を撒き散らすとかしないから、できないから。
 さっさと逃げるから、ほんと逃してください』

 という意味になる。いや、本当に逃して。もう色々と限界だから。
 糞尿の上で死を覚悟して慣れない演技するとか、ホント限界だから。

「分かった。
 ただ、約束しろ。今後一切人を襲わず、死を撒き散らさないと……
 口に出して誓え」

 随分と刃が長い、包丁を持った壮年の男が言ってきた。ぶっとい腕に、ギラギラとした目。そして助けを求めるかのように、男を見つめる人々の視線を見れば、この人がリーダー格だと分かる。

「分かった。誓うよ」

 そんなこと言われたら飛びつくに決っているじゃん!
 誓っちゃう、誓っちゃう! もう、何度だって誓っちゃう。

「今後一切人を襲わず、死を撒き散らさないと、口に出して、誓うんだ!」

「分かった、分かった。
 今後、」

 この状況から逃げたい一心で、誓いを口にしようとするが違和感を覚える。昔、どこかで見たような、聞いたような、そんなデジャブを感じたのだ。

 ……あれ?
 これ誓っちゃだめじゃない?

 もしだ、もし俺が今後一切人を襲わない、死を撒き散らさないって誓ったとしよう。
 ……誓ったらさ、もしかして襲われる?

 よし、これでコイツは何もできないぞ! さぁ、化け物退治だ!

 って、なるよね。

 そうだ、何度も何度も聞かされたことがあるじゃないか。
 力の弱い人間が化け物を倒すために、知恵を使って倒す昔話。幾つもの本を通じて、おばあちゃんから聞かされたお話。
 古くから使われ続け、語られ続ける、英雄譚も、化け物側からしてみればたまらない。

「はやく誓え!」

 急かしてくるし。間違いない。

「今後……幼い化け物を助けて、何もされずにここを去れたのであれば、誓おう」

 俺が言った瞬間リーダーっぽい男の顔が歪む。もう、間違いないのであろう。

「人が俺達化け物達を襲ってこない限り、俺は人を襲わない、死を撒き散らさない」

 どうだ! 完璧な解答だろ!?

「ちっ、着いてこい」

 あっぶねぇぇええええ。なにこれ。綱渡り過ぎて怖いんだけど。


☆☆☆



 男に連れられ、辿り着いたのは牢獄であった。地下深くに掘られた牢獄。
 通路を歩けば鉄格子越しに、死んだような表情で佇む、老若男女の姿が見える。ただただ、じっと光のない瞳で彼女たちは俺を見つめ続けていた。

「入れ」

 言われるがまま、男の指し示す部屋に入ていく。

 暗く、カビ臭い部屋の中、幼い少女がポツリと部屋の真ん中に居た。

 裸で椅子に座り、俯く少女。薄暗い地下でも光る金の髪、シミ一つない白い身体と、赤黒い血。
 肘掛け部分に置かれた指、その左右の全てに釘が打ち付けられた。そんな少女が、居たのだ。

「おい、大丈夫か?」

 慌てて近付きながら漏れた声に反応し、少女がゆっくりと顔を上げる。今まで見えなかった少女の顔が……左目に打ち付けられた3本の捻れ、曲げられた釘が、見えてしまった。

「……なんだ? 貴様は」

 少女は不敵な笑みを浮かべながら聞いてきた。
 意思の強さを示すような、つり上がった目尻。このような状況にいながらも光を灯し俺を見つめる右目。

 正直に言おう。俺はこの子に見惚れてしまった。
 痛々しい姿、残酷な姿になってしまっているにも関わらず、残った右目に光を灯し、笑みを浮かべる彼女が、見惚れてしまうほどカッコよかったのだ。

「ちょっと待っててね。
 今から、全部外すから」

 不幸中の幸い……とでも言えばいいのか。机の上に置かれていたペンチを手に取る。このペンチが何に使われたのか、錆びついたペンチについているヌメリとした感触の液体等々を全部無視して、少女の指先にある釘を挟み込む。

「痛いだろうけど、我慢してね。」

 なるべく痛まないように、できるかぎり丁寧に釘を持ち上げていく。
 徐々に釘は持ち上がっていき、抜けると同時に傷口から黒い煙が昇る。

 しばらく経ったら、あら不思議、傷口がきれいさっぱり。

「って、どういう事!?」

「……吸血鬼なのだから、当たり前だろ?」

「おぉ、なるほど」

 吸血鬼についてとか、どのあたりが当たり前なのか等々、聞きたいことは色々とあった。
 だけど、それ以上に、彼女の指に打ち付けられた傷がすぐに治る。

 その事実の方が重要で、大切で……少し安心した。

「痛いだろうけど、我慢してね。
 一気に全部抜いちゃうから。」

 言うと、釘を抜いていった。時折、押し殺した声が聞こえたが、聞こえないふりをし抜いて行く。

「これで終わり。
 よく頑張ったね」

 余裕があるようにしているが、精神的ダメージは限界近くである。
 未だに左目には釘が刺さっており、その姿が痛々しく泣きたくなる。

「ふむ」

 頑張ったご褒美に撫でてあげようかな?
 なんて思っていると、彼女は自由になった、その手で左目に刺さっている釘をまとめて握りしめると……

「くっ……」

 一気に引き抜いたのだった。
 精神的ダメージが半端ないです。


posted by まどろみ at 23:53| Comment(0) | 流れて流されてネギまへ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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