2018年03月08日

プロローグ 龍の変わり種

「え〜と……御主人様?
本当に宜しいのでしょうか?」

 困ったように眉を潜めながらクーは尋ねてきた。
 いつも通り、ピシッと執事服を着こなしているが、それとは裏腹に特徴的な大きな耳はいつもより垂れ下がり、ツインテールにしている赤い髪もどこか元気がなさそうだ。

「良いって、何度も言っているじゃん」

 何度も同じようなやり取りを行なっているのだが、どうもクーは納得してくれないようだ。汗水流して働いて、んでもって飯を食う。もちろん働かなくて良いのであれば、働くことなくダラダラとしているのだが、そういうわけにもいかない。働かざる者食うべからず、である。

 さらに言えば、クーやメイドさん達という養わなければいけない子達がいるのだ。そりゃ、しっかりと仕事しなくちゃいかんっていう気にだってなる。

「よし、それじゃ行ってくるわ」

「え、えぇ……
いってらっしゃいませ、御主人様……」

 どこか困惑したようなクーの言葉を背に受けながら、俺はドラゴンへと身体を変え、空へと舞った。
 さて、今日も1日頑張っていきましょう。



 ある日、目が覚めたら幼ドラゴンになっていた。身体は鱗で覆われ、頭から小さい角、尻の辺りからは尻尾が生え、背中には翼がある……そんな西洋竜に何故かなっていたのだ。それも、ただの西洋竜ではない。人の姿に変身できるスーパー西洋竜だ。

 部活をやり、クタクタの身体。夕飯をたっぷり食って、寝たら、幼ドラゴンだったのだ。たった一晩で俺は時代も、場所も、自分自身ですらも、全てが異なる場所へと放り投げられてしまったのだ。

 悩んだり、混乱したりもした。だが、人間の生涯の何倍もある幼年期やら青年期やらを過ごしていたら、いつしかそうした悩みはなくなっていた。

 俺もいい加減いい歳である。いや、ドラゴンの中では若輩者もいいところだけど、元人間だった身としてはバカみたいな年齢である。寿命なんかとっくに尽きて、墓石すらも風化してなくなっていても可笑しくない……そんな年齢なのだ。
 周りと比べたら最年少と言っていいほど、若いが、元人間だった頃の感性がそうさせるのか、いい加減に独り立ちをして許嫁を迎えなくちゃ……なんて思ってしまったわけ。

 そんなふうに、後先考えずに感情の赴くまま独り立ちを決めてしまったのだ。

 ドラゴンっていうのは本当に同じ種なのかと、疑問に思うほど雄よりも雌のほうが強い。そんな風に強いもんだからプライドとかも凄い。

 そんな強くて誇り高い雌ドラゴンを迎える巣が、小さく貧相だったらどうなろうだろうか?
 巣が豪華でいい雰囲気になったとしても、ベットで童貞丸出しの下手くそなエロエロをしたらどうなるだろうか?

 答え プッツンしてボコボコにされる。

 このことに思いあたった頃には、既に巣作りを開始しており後には引けない状況。独り立ちする前に、もう少し里で準備していれば、なんて思うも既に後の祭り。

 とにかく俺は財宝をたっぷりと溜め込んだ、豪華な巣を作り、さらに夜の練習をばっちりとこなして、嫁さんを迎えなくちゃいけないっというわけだ。

 そんなわけで、俺は人に紛れて一生懸命働いているのだ。全ては婚約者、リュミスを迎えるために!!
 夜の練習は……うーん、お金が貯まったあとに風俗に行けばいいのかな?

「おい、ブラッド!!
 次はこっちの積荷を向こうに運んでくれや!!」

「親方?向こうって、橋の方ですよね?」

「あぁ、そうだ。頼むわ」

 そんなこんなで、今日も俺、ブラッドは汗水垂らして頑張っています。

☆☆☆

 意気揚々と、巣から飛び立つ御主人の後ろ姿を見て、私は大きな、それは大きなため息を吐いた。

 我々の御主人様、ブラッド様の噂というのは魔界にまで広く知れ渡っていた。
 曰く、ドラゴンの変わり種。
 曰く、ドラゴンを裏で支配する者。
 曰く、最凶のドラゴンを唯一止めれる存在。

 などなど……様々な噂が聞こえてきた。そしてそれらの噂が指し示すことは、雄のドラゴンでありながらも、彼の力が非常に強いという意味合いの物であった。

 噂の中には、雌ドラゴン複数相手に、御主人様は勝利したという話すらもあった。

 ドラゴンという種は非常に珍しいのだが、雌が雄よりも圧倒的に強い。本当に同じ種なのかと疑いたくなるほど戦闘能力に差があるのだ。
 ドラゴンの雄ですら王国を滅ぼすと言われている。そんな雄よりも圧倒的に雌の方が強いのだ。雌の中でも特に突出しているリュミス様……御主人様の婚約者であれば、世界をひとつ支配出来るとまで言われている。

 それほどまでにドラゴンの雌というのは圧倒的な力を持っているのだ。そんな雌のドラゴン複数相手に御主人様は勝利したという。

 ……噂のスーパードラゴンって本当に御主人様と同じドラゴンなのでしょうか? 人間にまぎれて、普通に仕事している御主人様がそんな凄いドラゴンなんて想像出来ない。

 そもそも、ドラゴンというのは、その力を使い村を脅したりして、貢物を貰ったり、竜の財宝を狙ってくる冒険者達を撃退して身ぐるみを剥いだり、捕虜にして身代金を得たりして莫大な財宝を手に入れるのだ。
 けして人間にまぎれて共に働いて、汗水たらして賃金を得るわけではない。

 ……御主人様にドラゴンのプライドっていう物があるのだろうか?
 別に、誇り高くなって欲しいわけではないが、最低限の誇りぐらいは持ってて欲しい。

「連隊長、畑の水撒き、雑草取り、終了しました」

 頬を僅かに土で汚したメイドが報告へとやってきた。普段のメイド服とは違う姿、ズボンと丈夫なシャツ。そして頭に乗せた麦わら帽子が大分様になってきているのが物悲しい。

「お疲れ様。こっちは、丁度御主人様が出勤したところよ」

「……連隊長、私達本当にドラゴンの巣で働いているんですよね?
 私達の主な仕事が畑仕事なんですが、どうなんでしょうか?」

「言わないで、気にしない様にしているんだから……」

 畑仕事が悪いとは言わないが、その仕事というのはドラゴンの巣に相応しいものではなかった。


posted by まどろみ at 22:36| Comment(1) | 巣作れドラゴン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
やっぱ良いですわぁ〜!!(笑)これこそまどろみさんの真骨頂!!書き直しは書き直しで良い味だしてます。作業服が様になるメイド!!斬新です。次回も期待してます。
Posted by はるきよ at 2018年03月23日 21:56
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