Migraine


どうにも自分が置いてけぼりを食らっていると感じた。
シンジがいなくなって、代わりにあいつがやってきて、私はそこから逃げだして、受け入れず、そうしている間に、何かが動き出していた。
いつになく真剣なミサトに連れて行かれたネルフの最下層。
そこにあった真実。

――シンジが、生きてた。

今控え室で待機しているであろうシンジではない、私が守りたかった、私が傷つけた、私が守られた、あのシンジは、いなくなった訳ではなかった。
ミサトが私を連れて行ったのはここ最近の私の状態を察しての事だろう。
シンジが消えてから、家にも帰らず、シンクロ率も伸び悩んでいた。
彼女が生きているとわかれば、改善すると、そう踏んだのかもしれない。
悔しいがそれは間違ってはいなかった。
つい先ほどの事で未だ混乱しているが、それを含めてもなおここ最近では久しくないほど自分の中にあった苛立ちが治まっている。
エヴァに対して抱いていた不安が小さくなっている。
シンジが生きてたという、ただそれだけの事で、他の事は全部隅に追いやられてしまった。

もしかしたら思考停止しているだけかもしれない。
でも、それでも今までよりはずっとまし。
これならば、きっと戦える。
私の意味を、取り戻せる。
そのためにも。

「レイ、さっき話した事、嘘じゃないからね」
『碇さんが、初号機に』
「そうよ、だから私たちだけで、殲滅しないと」

そう言うと、零号機とのプライベート回線を閉じる。
最後の確認。
零号機に乗るレイへの、そして自分への。

――今度こそ、私が助ける番だもの。

そう、心に誓った。

発進の合図が、響き渡った。

第拾四話:終わりの始まり

失われたもの、残るもの


「いつもの事で悪いけれど、通常兵器ではお手上げよ。二人とも、慎重にね」

そう忠告の通信を入れつつも、こっそりとため息をついた。
確かにいつもの事だ、ATフィールドの前に通常兵器がまるで無力である事など。
だがわかっていても歯痒いものだ。
切り札以外に切れる札が無いというのは。

損傷を与えうる兵器であるN2爆雷は影響範囲の問題で地上では運用が著しく制限される。
もう一つの有効兵器である陽電子砲は未だに試作段階のワンオフ兵器であり、ネルフがエヴァ用の装備として独自開発した物が数丁存在するのみで、戦自研でも漸く試作二号の目処がたったところだという。
作戦部からは再三にわたって兵装ビルの強化を要請したが、実際のところこの要塞都市も戦闘により破壊された部分の修復すらままならない状況であり、改修を行うだけの予算など何処にも無いのが現実だった。

結局、我々は子供達に頼るしか無いのだ。
子供達の未来を、子供達自身に背負わせている、我々は不甲斐ない大人達だった。
だからこそできる事はすべてやっておかねばならない。

「で、解析の結果は?」
「パターン青からオレンジへ、周期的に変化しています」
「どういうこと?」

問題の対象は、町の一角を囲えるほどの巨大な輪のような形状をしている。
発光した輪を構成している紐のような部分はよく見れば二重螺旋を描いているようだった。捩れが徐々に移動していくことからゆっくりと回転運動をしつつ、第3新東京市の郊外上空で静止している。

状況に対してMAGIは回答不能を提示している。
あれが使徒であるのは十中八九間違い無いが、答えを導くにはあまりにデータ不足だった。

「あの形が固定形態でないことは確かね」

ともに司令部にあがったリツコが、そう分析した。
彼女に一瞬だけ視線をやると、また正面の主モニターを睨む。

リツコに対する感情は複雑だった。
これまでも彼女は私の友人であると同時にネルフの上層部を担う人物という一面も持っていた。
だが今ほど彼女に対する不信が深まったのは初めてだ。
シンジさんの隠蔽と隔離、秘密裏に行われた初号機への搭乗。
個人的な感情だけでなく、作戦部としても上層部を信頼できない状況といえる。

しかし、銃まで用意しておきながら、わざわざ私たちをあそこまで行かせたのも、リツコだった。
彼女の行動の矛盾は、一体どういう意味なのだろうか。

――今、考えるべきことじゃない、か。

画面中央に映る光の輪を見ながら、集中を深める。
何をするにも、これを倒した後の話だ。
そう考えると、位置に付いたレイとアスカに警戒を厳にするよう伝えた。
下手に動くより、相手の出方を伺い、対応するべき。
そう考えた上での命令だった。

だが、それが引き金になった。
二人のエヴァがATフィールドを展開した次の瞬間、使徒が急激な変化を見せたのだ。
螺旋状に展開していた体が一本にまとまり、輪が一点で切れて、紐状の形態となり、その両端がそれぞれ零号機と弐号機めがけて伸びていく。

「まずい、応戦して!」

そう叫んでいる間にも、まるで物理法則を無視するかのように空中を滑る様にして使徒が恐るべき速さで二人に接近する。

――間に合わない!

甲高いATフィールドの干渉音が響く。
そして。

『う、くっ!』

零号機から、苦悶の声が漏れた。



「ちい、あっぶないわね!」

弐号機の頭部、視界のすぐ横を白く発光した紐のような使徒が通り過ぎる。
回避できたのは、以前同じような攻撃に晒されたからこそである。
だが、スピーカーから聞こえたレイの声で、零号機は避け切れなかったのだとわかった。

「レイ!放しなさいよ、こいつ!」

零号機の腹部を貫いている使徒を狙いパレットライフルを乱射する。
そもそも零号機は試験用のテストタイプの機体を転用した物で、実戦を前提として造られた弐号機と比較すれば性能的に劣っている。
このような近接戦闘は不利だといえた。
だからこそ、一刻も早く引き剥がさねばならないのだが、紐状の使徒は揺ら揺らと蠢いて弾がすり抜け、また当たってもその体には何のダメージもないようだった。
レイ自身もゼロ距離射撃を敢行しているが、劣化ウランを用いているはずの銃弾は使徒を怯ませる事すらできず、ただ消費されていくのみだった。

――埒が明かないわね。

パレットライフルに見切りをつけると、左肩のウェポンラックからプログナイフを引き出す。
刃が展開され、発生した高振動が空気を高鳴りさせる。
私はそれを目の前の零号機を貫いている物体に叩きつけるようにして斬りつけた。
耳障りな音とともにプログナイフが使徒の体と接触して火花を散らし、その一部を切り裂いてめり込んだ。

「よし、これなら!」

このまま二つに切り分けてやろうと、さらに握りに力をこめる。
ダメージに対する反応だろうか、のた打ち回るそのさまはまるで巨大なミミズのようで生理的嫌悪感を与える物だったが、そんなことに気を回すよりも、今は一刻も早くレイからこいつを引き剥がすことが先決だった。
切り進むに従って抵抗も大きくなるが、徐々にナイフの刃は使徒の体に沈んでいく。

――よし、いける!

だが、その細長い体に半分ほど切れ込みを入れたときだろうか。
唐突に、プログナイフの高振動が停止したのだ。
こんなときに故障でもしたのかと舌打ちしながら刃を見やり、驚愕した。

「なに、これ?まさか、侵食してる?」

使徒にほとんど飲み込まれたプログナイフの刃が不自然に膨れ、脈打っている。
そしてその侵食が徐々に持ち手の部分にまで迫って……。

――まずい!

とっさに刃を強制排除し、一歩下がる。
弐号機の装備するプログナイフは破損しても再使用が可能なように、ブレード部分が押し出し式になっている。
おかげで侵食が進む前に切り離すことができた。
だが、この使徒を倒す手段がさらに狭まったことには変わりない。
パレットライフルは効果が無く、プログナイフも取り込まれる。
高エネルギー兵器ならばあるいは何とかなるかもしれないが、そのような装備を使うには一旦戦線を離脱せねばならなかった。

どうするか、一瞬の迷い。
そこに、零号機からの声が、拍車をかけた。

「く、ああ!」
「レイ!」

この使徒は侵食型だ。
先ほどから長時間拘束されたままの零号機が、どれほど侵食されたのか。
そして侵食されていく零号機の感覚をその身に受けるレイの苦痛は、いかほどの物か。
そんなことが頭によぎった、瞬間の意識の空白。

私は背後からの痛みと衝撃で、我に返った。

「後ろから、ですって」

振り返ると、レイを貫いているのとは逆の端が、大きく回りこんで私の乗る弐号機の腰部を背後から貫いていた。

絶体絶命。
そんな言葉が浮かぶ。

――何やってるのよ、私は!

そして浮かぶ、もうひとつの想い。

――もう、シンジに頼るわけにはいかないのに!

私たちで何とかしなければ、いずれ初号機の凍結は解除されるだろう。
そうしたら、またシンジが、あんなに傷だらけのシンジが、また、傷つく。
なのに何故。

――なんで、こうなっちゃうのよ。

それは、もう何度目になるかもわからない、挫折と後悔だった。



「これは、侵食されて、いるの?」

使徒に貫かれた結合部分から、痛みとともにむず痒い感覚が広がっていく。

使徒の初撃は素早かったが、躱せないほどではなかった。
わかっている、アレは自分の精神が招いたミスだ。
作戦中だというのに別のことに気をとられて、使徒と正対していながらなお上の空だった。

体内を侵食される感触に吐き気を覚える。

油断していたというよりも、単に私は自分の感情を制御するすべがわからず、外界の認識が極端に甘くなっていたのだ。
アスカと葛城三佐が見たという、碇さんのこと。
私は彼女に会いに行くことはできなかった。
もし事前に碇さんがいるのだと聞いていたとしても、私は踏み出すことができたかどうかわからない。
彼女が寝かされていたという病室は、おそらくあの場所。
私が私として認知されるまで育てられた、無機質な部屋。
そこは私がどのような存在なのか、その秘密が隠された区画の一部だった。

私の存在、私の意味。
あの部屋にいた頃、そんなことは考えることもなかった。
今、それは私を苦しめる。
当然であったはずのことが、心の奥にしこりのように凝り固まっている。

零号機の内側を使徒が蝕み、葉脈のように表面に浮き出して、私から感覚を奪っていく。

何故これほど苦しくなってしまったのか。
共感と拒絶。

あの人は私に似ていた。
あの人は私を受け入れてくれた。
あの人は私を必要としてくれた。

私はあの人を必要としていた。
私はあの人に近づきたいと感じた。
私はあの人と同じでありたいと願った。

なのに私の存在が、それを許さない。

――だって、あなたは人じゃないものね?

知らない声が、頭の中で反響する。
私の声が、私の外から入ってくる。

――だから私とひとつにならない?

そうして私は見る。
私の姿をした私でない物の存在を。

――私はあなたと同じだもの。

人で無い存在、使徒という存在を。



「あなたは、誰?」

自分の内から外へと伝わる意志。
それは事実の確認だった。

――使徒、私たちが使徒と呼んでいるヒト。

内と外の意識が同じ回答を導き、私たちは対峙した。
私と同じ姿をかたどった、私以外の存在がそこにいた。

『私とひとつにならない?』
「いいえ。私は私、あなたじゃない」
『どうして?あなたはヒトだけれど、人より使徒に近い存在、私と同じ存在なのに』
「いいえ。近しい存在かもしれない。けれどあなたと私は違う存在よ」
『そう。でもだめ。もう遅いわ。あなたは私とひとつになるの』

彼女は既に、零号機の多くをその身に取り込み、ひとつになっていた。
肉体がひとつになり、心もひとつになろうと、私を侵していく。
心の一部がつながって、使徒の心が私に伝わる。

『これが私の心。痛みを感じる私の心』

分け与えられた心と意識が私に訴えてくる。

――痛い?いえ、違うわ。

確かに痛みのような物、辛さを感じる物ではあった。
だけど私は知っている、この感情を表す言葉を。

「寂しい。そう、寂しいのね」
『寂しい?わからないわ』
「一人は嫌なんでしょう。人はたくさんいるのに、一人でいるのが嫌なんでしょう。それを寂しい、というの」

そう、使徒の心は孤独に震えていた。
私と同じ、寂しさに凍えていた。
人と違うから、人とともに生きられない恐怖に怯えていた。
それが今の私の心。
これ以上近づけなくても、せめて遠くに行かないように、寂しさを押し殺して、それでもそばにいたいと思う、そんな想い。

彼女の手が、私に触れる。
使徒が私に、入り込んでくる。
それを拒否する力は弱々しく、受け入れすらしている自分がいる。
同じ寂しさに触れて、私の意志は弱くなった。

だけど、使徒は突然、進むのをやめた。
もう少しで私とひとつになれるのに、そうするのをやめてしまった。

いや、違う、そうではない。
使徒は進むことができなくなったのだ。
私と使徒の間に、何かが割り込み、邪魔をしている。

「あんたバカァ?」

その何かが振り向き、そう言った。

「私達のこと、もっと信じなさいよね」

燃え上がる赤いイメージ、広がる金色の髪の毛。
アスカがそこにいた。



そんなことをいきなり言ってしまったのは何故だろう。

プログナイフの替え刃も尽き、引き抜こうと使徒を握りしめた掌からも侵食されて。
エヴァからのフィードバックを失い始めた時だ。
『声』が聞こえるようになったのは。

始めは零号機と勝手に回線が繋がったのかと思った。
聞こえてくるのはレイの声のようだったから。
だけど心をたくさんの針で刺されるような感覚を感じて、閉じ込め続けた恐怖という底の無い穴を覗き込んだとき、これがただ機械で変換されて音として再構成された独り言などではないとわかった。

――なによ、やっぱり隠してたんだ。

寂しい。
怖い。
近づきたい。
遠ざけたい。

自分の心の闇、思い出さないように、忘れるようにして、それでも消えない記憶。
消せない事実。
それを隠すために仮面を付ける。
仮面を隠すために塗りたくる。
いつのまにか凝り固まった仮面が自分になっている。

これはレイの心?それとも私の心?
わからない。
けれどわかる。
とても良く似ているから。
表に出てきたのはまるで正反対の物だったけれど、それは同じ物の裏返しでしかなかったのだ。

初めてレイのことを知ったのは資料の上でだった。
まるで人形みたいな奴だと感じていた。
初めて会った時もやっぱり人形みたいだった。
言われたことを言われた通りにする、誰かと打ち解けることもなく、ただ淡々と与えられた仕事をこなす人形。
だけどそんな奴が、シンジがかかわると途端に表情が現れることに気がついた。
シンジと話すたびにレイの仮面は剥がれ落ちていった。
そして気がつくと、その仮面は普段から取り繕うこともできなくなっていた。
そこにいたのは、不器用な14歳の少女だった。

本当に私たちはよく似ていた。
あまりに似すぎていて、だから私は彼女を何処かで嫌ってた。
嫌な自分まで見えてしまいそうで。
だけど放っておく事もできなかった。
自分も同じ苦しみを味わうようで。

だから今だけは言える。
お互いの心が赤裸々にされた今なら。
他人を信じろと。
私を信じろと。

あんたがどんな秘密を持ってたって、私はあんたへの態度を変えてやる事など無いと。

繋がった心の中で、想いは言葉と同じに伝わる。
声に出さなくても、意味が形になる。
だからわかった。
レイが受け入れた事。
レイが微笑んだ事。
レイが選んだ事。

「バカ!何するつもり!?」

叫んだ声が、自分の耳に届く。
使徒の拘束が外れ、半ば支配下にあった弐号機ががくんと膝をつく。
かろうじて動く頭部を必死に動かし、零号機を視界にとらえた。

「レイ、何してんのよ、バカ、レイ!」

侵食していた使徒が、零号機に取り込まれていく。
加速度的に侵食が進み、使徒のすべてが飲み込まれていく。

つなげられた心が最後に見せたレイの選択。
悲しみと、理解と、恐怖と、覚悟。
守ろうとする意志。

自らの死の、選択。



「初号機の凍結を現時刻をもって解除。直ちに出撃させろ」
「出すのですね?」
「そうだ、出撃だ」

それまでモニターを注視しているだけだった碇司令が、動いた。
ミサトがその指示に従い、初号機の出撃を命ずる。

――出さないのかと思っていたのに。

零号機はATフィールドを反転し、使徒を自らの内側へと抑え込もうとしている。
強引に引きずり込むことで弐号機との融合を阻止し、動きを封じる。
そういえば聞こえはよいが、要は零号機は使徒と心中しようとしているのだ。
完全に融合される前に自爆し、零号機もろともこの世から消し去る。
もちろん、パイロットのレイも。

いまさら初号機を出したところで、零号機とあそこまで融合した使徒を単独で撃破する方法など存在しない。
初号機を出した理由はひとつ、レイの救出だろう。

――あれには代わりがあるというのに。

「いい?零号機のコアが圧壊する前にレイをエントリープラグごと救出して」
『ご期待に沿えるよう、善処しますよ』
「善処?無理でもやるのよ、いいわね」

ミサトもなかなかに無茶な注文をしている。
放っておけばいいのだ。
零号機は既に自爆シークエンスに入っている。
そして使徒を殲滅可能な状態で零号機にとどめておくにはレイの存在は必須だ。
魂の抜けたエヴァに使徒が価値を見出すとは思えず、もしレイが脱出してしまえば標的はすぐにアスカに向かうだろう。
だからといって自爆の瞬間に脱出しても、零号機の爆発のエネルギーはエントリープラグで保護できるレベルを超越している。
レイは既に外部からの救援なしには生き残れない状況にあった。

だが、それが、どうしたというのだ。
肉体が滅んでも、綾波レイという存在は消えることは無い。
ただ魂が開放され、次の器に移るだけのことだ。

危険度が高いからこその予備ではなかったのか。
いざというとき、切り捨てるための予備ではなかったのか。
何故、危険を冒してまで初号機を出さねばならないのか。
決定を下した碇司令を仰ぎ見る。
その視線はどうしても険しい物にならざるを得なかった。

『これは……どうやるかな』

呟きが聞こえて、主モニターに視線を戻す。
零号機に一度に取り込まれた使徒は、自らの体積を確保できないのか零号機の腹部を大きく膨れ上がらせている。
その姿に一瞬、初号機が足を止めるそぶりを見せた。
だがすぐにまた駆け出し、零号機との距離をつめる。

実際、猶予はない。
膨れ上がっていた零号機の生体部は自らが発した逆向きのATフィールドに抗えず、潰れ始めていた。
圧縮され、コアがその圧力で崩壊するまで、あとわずかの時間しか無い。
爆発ぎりぎりの爆弾と化した零号機に飛び込んでいく初号機は無謀とも思えた。
自分ならばやれるとでも思っているのか、そうだとすればずいぶんと自意識過剰なパイロットだと言えるが、それで救出できるというならそれでもいいだろう。

けれどそうではなかったら。
私の中の予感めいた物は、すぐに確信に変わる。

『……まさか、僕をすら拒絶するというのかい?』

フィフスチルドレンの独白めいたつぶやきが、初号機が既に彼の意志の下にないのだと教えていた。
あれほどの力を持っていても、彼女を押さえつける事はできなかったのだ。
それは、初号機がゼーレの手に落ちるのを防ぐという意味において、我々の勝ちを意味していた。
しかしそれはまた、私の願いが水泡に帰した瞬間でもあった。

『ふふ、そうか、君はこんなところにいたんだね』

フィフスの少年の言葉を無視するように、初号機は零号機に飛びつく。
サブモニターに表示された臨界予測時間はもう残されていない。

「臨界突破!コアがつぶれます!」

マヤの悲痛な叫び声が響く。
零号機はその構成物質すべてをエネルギーへと変え、全身を輝かせた。

――もう、間に合わないわ。

プラグを引き抜く時間などありはしない。
この綾波レイはもう、助からない。

間近にいても、そのくらいわかるだろうに。
それでも初号機は、諦めなかった。
すべてがエネルギーへと変わる直前、その両腕を零号機のコア、その奥にあるエントリープラグへ向けて、零号機の胸を貫くように突き入れたのだ。
確認できたのはそこまで。

「レイ!」

爆音が響く前、最後に聞こえた司令の叫び。
モニター越しに発令所を白く染めあげて、零号機は光の粒子となって、散った。