Migraine


「碇さん」

コパイロットシートから抜け出し、前方の彼女のとなりへ。
気を失ったままの彼女に呼びかける。

至近距離で炸裂したN2の爆発の中でも私はなんとか意識を保っていられた。
だけど私1人では、何も出来ない。
私一人では初号機は動かせなかった。

焼き切れるほどの光芒、燃え上がる大気、大地をえぐる衝撃。
その大部分を我身の事として受け取ったのは、私ではなく彼女。
そして初号機が受け取るのも、彼女の感覚だけだった。

「碇さん」

人知を超える感覚に彼女が意識を手放すと、初号機はあっさりと私を無視してしまった。
私に出来たことは、僅かに残された神経接続を通じて、碇さんの精神が拡散していくのをただ感じることだけ、ただそれだけだった。

「碇さん」

静かに、真摯に、彼女の心に呼び掛ける。
LCLの中、エヴァの中で、思いは言葉より強く伝わる筈だった。
さっきまで、あれほどお互いを感じていたのだから。
意識は失われたのではなく、少し奥に潜ってしまっただけなのだから。
私の声は、きっと届く。

「碇さん」

焦る心とは裏腹に、やけに静かに聞こえる自分の声が恨めしい。
緊急の状況にあってどうすれば良いのか。
混乱の極みにある心を落ち着かせようと、肉体だけが冷静を装ってしまう。
自分を保つ為に身に付けた生きるための術。
だけどそんな誤魔化しも限界に近づいている。
彼女に触れる指に力が篭る。

「碇さん」

途切れがちな無線が拾う音と機械式のセンサーカメラが合成する映像が戦況を伝えてくる。
ただ一人奮戦するアスカの声と弐号機の姿。
ポジトロンライフルは既に失われて、プログナイフの刃も尽きていた。
それでも、彼女の足元には既に二体の量産型エヴァが転がっている。
そこにさらにもう一体が加わった。
頭蓋を砕かれたその機体は、ピクピクと痙攣を続けていた。

烈火の如く攻め立て、数で有利だったはずの量産機を圧倒している。
実力だけなら連中をアスカが遥かに上回っていた。
この場に残されているのは後一体のみ。
だけどそれでも、安心できる状況なんかじゃない。
時間が、なかった。

「碇さん」

彼女の唇から、小さくうめきが吐かれた。
意識が現実に戻りはじめている。
より強く、より激しく、偽りの冷静さについに綻びが生じて。
仮面のように固まっていた表情も砕けて。
私は、私のありのままを曝け出し、必死に叫んでいた。

「碇さん!」

唐突に光を感じた。
私の感覚ではなく、これはきっと彼女の感覚。
浮かび上がった彼女の意識とのシンクロが戻ってきたのだ。
同時に体の表面を焼くような痛みも私に伝わってくる。
これは初号機の感覚、強固に彼女と結びついたままの初号機とのシンクロが、彼女の感じるそのままに私にも感じられている。

そしてまた、私の心も、碇さんと強く繋がった。
想いは言葉となり、言葉は私の心そのもの。
触れた皮膚の温もりは触れられた掌の温もり。
そう、私のすべては一つとなって、彼女の心を揺り動かす。

「碇さん!」
「ん……、わたし、どうして……」

小さな呟き。
覚醒した意識の光。
ああ、ようやく、彼女が戻ってきた、戻ってきてくれた。
それだけで、涙が漏れそうになった。
大きな、大きな安堵。

しかしすぐに私の心は焦りの色で塗り替えられる。
鋭く短い電子音。
感情の変化は、言葉より先に彼女に伝わった。

「……そうだ!戦闘は!?」
「だめ、もう、時間が」

僚機の活動限界を示すカウントダウンが無情にもゼロを示していた。
その瞬間、時が止まったかのように思えた。
再び繋がった初号機の見る世界の中の赤い機体が、止まる。
量産型エヴァに拳を叩き込んだ、その姿勢のままで。

『あと、お願いね。……ふう、やれたと思ったのに……』

アスカからの、静かな無線。
悔しさを含みながらも、もっと別の何か、安堵感とでも言える溜め息が聞こえて。
それきり無音になった。
静止した弐号機と同じように、すべてが止まってしまったかのように。

と、視界の中で何かが動く。
弐号機じゃなかった。
量産型エヴァが、顔の半分を潰されたその機体が、ゆっくりとめり込んだ弐号機の腕から離れていく。
弐号機の時間だけが止まったまま、敵だけは自分の時間を取り戻していた。
少しずつ、確実に、進む事の無くなった拳から抜け出していく。
そうして、ついに完全に解放されると、それは最後の姿勢を維持したままの弐号機を蹴り倒した。

「惣流さん!」
「アスカ!」

私の声と、碇さんの声が重なる。
だけど、弐号機との回線はもうなんの応答も返さない。
アスカの存在を、伝えてくれない。

更にもう一撃、倒れた弐号機の顔面を狙ってボールでも蹴るように攻撃が加えられた。
それでも弐号機は動くことはない。
糸の切れた操り人形のように、されるがままに弾き飛ばされ、崩れ落ちるだけ。

そんな光景をただ黙って見ている事など、できない。
その暴力を止めようと、初号機が一歩踏み出す。
私の意志で、もしくは、碇さんの意志で。
先ほどまでが嘘のように、私の、私たちの思いに答えて前に進む。

そうだ、今まで戦っていたアスカの分まで、任された分まで。
今度は私たちが戦う。
今度は私たちが助ける。

混ざり合う意識の中で、その想いはお互いに同じ。
それぞれに発した想いをそれぞれに受け取る。
ともに重なった意志は強さを増して、初号機の肉体に力を与えた。

だけどそれだけで、願いがかなうわけじゃない。

不意に歩みが止まる。
私より早く碇さんが何かに気が付いて、そして私もまた、足を止める。
そうしてしまうだけの状況の変化。

倒れた量産型エヴァが、首を擡げていた。
およそ致命傷と言える傷をその身に刻んだままで。
ゆっくりと、立ち上がっていく。
傷口から、新たな肉を爆ぜさせながら。
切り裂かれた肉が膨れ上がり、溢れた細胞同士が結合し、傷が塞がって行く。
失われたはずの頭部が、歪な形で膨らんでゆく。
屍が蘇っていく。

「そんな、こんなの、こんなのって!」

アスカに倒されたはずの量産型エヴァの、そのうちの二体までもが、私達の前に立ち塞がった。

――使徒と、同じ。

永久機関であるS2機関を内蔵した使徒は、無尽蔵のエネルギーを糧として再生を繰り返していた。
それと同じ事を奴らはやってみせたのだ。
量産型エヴァンゲリオン、それは既に、エヴァというよりも使徒のようだと思えた。

右腕を肩まであげて、軋みながら開いたウェポンラックからプログナイフを取り出す。
手の中に確かな重みを感じながら、正面へ構えた。

――大丈夫、アスカは、やれた。私にも、私達にも、できるはず。

ナイフの柄をさらに強く握り締めて、敵を睨みつける。
不安を消し去るように、自分にいい聞かせながら。

だけどまだ絶望は終わっていなかった。

「……そんな!」

太陽を遮る影が、3つ。
見上げた空に、白い体から巨大な翼を生やした、量産型エヴァ。
大きく孤を描くように旋回すると、再生した量産型の頭上から、こちらを見下ろした。

嘲るような5つの視線、それに弐号機をいたぶり続ける一体。
滅亡を告げる天使が六体、私達の前に立ち塞がっていた。



もう、充分だろう。
自分はもう、充分やっただろう。

システムが自己保持モードとなり、インテリアの照明が落ち、計器類の光が淡く鈍いものに変わった。
外部モニタの輝きは失われ、もう弍号機との神経接続も切れてしまい、私が感じられる外側と言うものは何も無くなってしまった。
ただ、緩衝装置の限界を超えて伝わる衝撃だけが、外という物の存在を教えているだけだった。

これで、私の戦いは終わったんだ。
私の役目も、意味も、全部終わったんだ。

「あいつらになら、任せてもいいはず、そうよね、アスカ」

自分への問いかけすら、そのまま闇に消える。

結局また、私は駄目だった。
いつだってそうだった。
何だってできるつもりなのに、肝心な時には何も出来ず終い。
いや、いつもに比べればやれたのか。
もう判断できないけど、やれたんだと思っておきたい。
なんて、すがる理由もないか。


N2の炎の中から現れた一匹目は、何かを考える前に、怒りが、本能が体を突き動かして、気がついた時には消し飛ばしていた。
ATフィールドを侵食して零距離から叩き込んだ陽電子が、対消滅反応による物質崩壊と高熱量によって肉体組成の全てを破壊しつくした。
自身の生み出したエネルギーで熔解したポジトロンライフルをパージ。
ジョイントが解除されたそれを近づきつつあった別の量産型エヴァに投げつける。
そのまま殴り掛かろうとしてその時、ようやく警告音とランプに気がついた。

アンビリカルケーブル切断、活動限界まで58秒。

N2爆雷の爆発で外部電源を引きちぎられたままで、勢いに任せてライフルを使用したのが仇となった。
ATフィールドごと撃ち抜く破壊力の代償として、ポジトロンライフルはそれ相応の電力を内蔵電源から奪い去っていったのだった。

どうするか。
思い悩んだのは一瞬、もう一度急加速。
ゲイン利用モードで稼動時間を伸ばすよりも、最大戦速で敵の息の根を止める。

電源ビルも先程の爆発で失われている。
回復の見込みがないなら、戦えるうちに、奴らを潰す。
それにやはり、私に待ちなんてのは似合わない。

自らの速度とラックから引き抜いた勢いのままに、プログナイフを一閃。
ろくに構えもとらずにいた量産型エヴァは、大きく胴を薙がれて大地に倒れた。

ーーやれる。

高振動を伴った刃は実にたやすく奴の肉を切り裂いた。
これまで倒してきた使徒よりはるかに脆弱な体。
所詮、人が作った存在であって、人に作り出せる以上のものではないのだと、そう思うと幾分奴らがちっぽけに思えた。
だけどやはり、人が作り出したものだからこそ、奴らは使徒とは違う物を与えられていた。
ほとんどが本能と呼べるもので行動していた使徒とは違う、小賢しい知恵。

あっさりと倒れた一体目と違い、二体目は明らかにこちらを警戒し、手に持った巨大な双頭の剣を振り回し、近づけさせないようにしている。
もう一体も同じで、私から距離を取り、防御に徹している。
積極的に攻撃する気のない連中の様子は、明らかに何かを待っていた。

何を?私の活動限界か、それとも増援の到着か。
何れにせよ時間が来れば、私の負けだった。
奴らはそれまで、漫然とやり過ごすだけでいい。

カウンタが刻々とゼロに近付き、活動限界が迫る。
これ以上時間を使わせるわけにはいかなかった。
巨大な獲物の振り終わりに合わせて、強引に踏み込む。

「舐めるんじゃ、無いわよ!」

切り返しの刃を、プログナイフで受け流す。
力を逸らせるように合わせたが、それでも質量と強度で遥かに上回っているだろう諸刃の一撃に耐えきれず、ブレードが粉々に砕け散った。
引き換えに相手の攻撃は宙を泳ぐ。
がら空きとなった量産型エヴァの懐に飛び込み、押し倒す。
武器を保持したままの相手の左腕を踏みつけたまま起き上がり、逆の足で思い切り相手の顔面を踏み抜いた。
柔らかな物を砕いて、足の裏が地面まで到達する。
肉片が泥水のように飛び散り、周囲を汚していた。

「残りは、あんただけね」

砕けたプログナイフの根本を強制排出。
内蔵された替えのブレードを引き出して、最後のエヴァと相対する。

仲間がやられたことで怖じ気ついたか、その足が一歩下がるが、それ以上の速さで大地を蹴り、距離をつめる。
相手の動きは稚拙だった。
攻撃を防ごうと手前に出された武器を保持する、その左手の指を切り飛ばす。
がら空きになった体を守ろうとした右腕の肘から先も奪いさる。

弱い。
これまでのどんな使徒より、容易かった。
ただ、時間が足りなかった。

活動限界まで、13秒。
考える時間も惜しい。
一気に距離を詰める。
垂直に振り下ろしたナイフの刃を、指の無い左手が受け止めたが、そのまま縦に両断する。
肘の辺りまで食い込んだとき、プログナイフの高周波が機能停止。
だけど相手を守る物も、もう何も無い。

あと少しだった。
あと5秒、いや、2秒もあれば。
けれど結果として、私はその機体を破壊するには至らなかった。
限界まで力を込めた拳が相手の脳髄を砕く直前に、すべてのエネルギーが、尽きた。


ーーでも、もう充分だろう。

十分とは言えないかもしれないが、それでも時間は稼いだはずだった。
初号機ももう動くことが出来る。
弍号機と違い、あれにはS2機関がある。
私はもう、充分に役目を果たしたはずだった。

「これで、あんたともお別れかしらね」

電源を使いきり、エントリープラグの非常ディスプレイの微かな発光以外に何も残されていない薄闇の中で呟く。
この戦いが終われば、エヴァはもう、必要とされなくなる。
私達が勝利しても、たとえ敗北で終わろうとも。

エヴァのパイロットである自分。
特別な存在だった自分。
そんな矜持もそれと共に失われる。

永遠に自分が今の立場であり続ける事などない事くらい、わかっていた。
それでも、エヴァのパイロットで無くなった時、私にはやっぱり何も残っていないのじゃ無いか。
自分の拠り所となるものを未だ自分の中から見つけられず、エヴァ以外に頼ることも出来なくて、だから私はこんな殺し合いに参加していた。

「いいか。今はもう、何も考えなくても」

思考はもう麻痺していて、その先など考えることなど出来ない。
自分が今までのようにいられなくなるかも知れない、そんな恐怖も、白色のまどろみに飲み込まれて行く。
今はただ、意識が消えるのを待ち望んでいた。
LCLに漂い、瞳を閉じて、時間の感覚が失われ、全てを忘れ、投げ出して、澱みに身を任せた。

もう何も思い出したくない。
先ほどまでの戦闘で何をしたのか、エヴァに乗って何をして来たのか、パイロットに選ばれる前に何があったのか。
消し去ろうとしても時の中に刻まれ、暗黒色の世界を作り出し、私を蝕み飲み込んで行く。
ああ、きっとあの中に閉じ込められれば、私はもう私でいられなくなる。
狂気と無気力の中から抜け出せなくなる。

ーーもうどうでもいいか。

私を必要としない世界なんて、もう要らない。
だからせめて、静かな場所で、私を一人にしておいて。

暗闇というのは恐ろしい物だと思っていた。
考えると、勝手に見たくないものを引きずり出すのだから。
けれど考えることさえ放棄し始めた今、このエヴァの内側の暗がりは、不思議と温かなものに感じていた。
LCLに満たされ、ぬるま湯に包まれたまま外側の全てを遮断してくれる、私だけの世界、私だけの揺かご。
その優しさに全てをゆだねて、このまま眠りたかった。

そんな私の気持ちを裏切るように、通信回線がノイズ混じりの音声を拾う。
今はもう聞きたくない、冷たい鋭さと熱い意思で形づくられた声。
作戦本部長の、ミサトの声。
一度は私を引き戻したその音も、私を浮かび上がらせることはなかったけれど。



「アスカ、聞こえてる?応答して」

リンクの安定しない非常回線に苛立ちながら、呼びかけを続ける。
だが彼女からの返答はない。
途切れ途切れエントリープラグから送られて来る生体データから、まだ意識はあるようだったが、覚醒状態と言えるほどの活動も見られなかった。

背負わせすぎたのだろうか。
使徒相手とは違う、戦争という人同士の殺し合いをさせるには、彼女はいかにも若すぎた。
狂気の中で、強い感受性はその精神ごと彼女を殺してしまうかもしれない。

避ける方法は、あの子達が戦わずに済む方法があったのではないか。
自責とともにそのような思考がもたげるのをなんとか押しとどめる。
後悔の時間より、今は作戦のための時間が必要だった。
全てが終わったら、あの子達のためにできる事は何だってやる。
私の全てで足りなければ、他からかき集めてでも彼女達を救って見せる。
だけど今は、今だけは、作戦の為の戦力として、最大の手駒の一つとして考えなくてはならない。

『ミサトさん、アスカは!?』
「心配しないで、これから私達が叩き起こしてあげるから」
『叩き起こすって……きゃっ!』

初号機の側でもこちらの通信がとらえられていたようだが、一瞬の隙も命取りだった。
格闘戦が不得手なあの二人ならば、なおの事。
振り下ろされた巨大な刃をかろうじて転がるように避けた初号機に、更に別の一体が襲いかかった。
無造作に繰り出された蹴り、これもすれすれで躱すが勢い余って尻餅をつく。
相手がまともに連携していないのが唯一の救いだが、そう長くは持たないだろう。
初号機は無事でも、中の二人は確実に疲弊していくのだから。

「そっちはとにかく逃げて!その数相手じゃ、初号機だけじゃどうにもならないわ!悪いけど、しばらく耐えて」
『はぁ、はぁ、了解っ』

返答を吐き出すとともに、初号機が跳ね退いた。
急がねばならない。
残された時間は少なかった。

「……皆、いい?これより作戦を開始します。しばらく無線は通じなくなるわ」

地上とのわずかな繋がりが断たれる。
その事実が、私に最後の通信を入れさせた。
アスカが少しでも聞いていると信じ、一方的に話を進める。
通信が途絶えるのはそう長い時間にはならないはずだが。
作戦が、成功すれば。

「アスカ、まだ諦めるにははやいし、休む時間じゃないわ。負けないで」

何に?
ここまできても、言葉は形にできなかった。

『三佐、配置と準備が完了しました。いつでもいけます』
「了解。プランはCに変更、第一から第四小隊はそのまま、第五、第六小隊は初号機の援護に向けます」

この状況で更に部隊を分ける愚行を私は選んだ。
選ぶ以外に、私にはできなかった。

「よし……ECM全周波数で最大出力。皆、行くわよ!」

返答と同時に無線機は大音量でノイズを垂れ流し始めた。
それに合わせるように遠距離からロケット砲が車両より発射され、量産型エヴァの目前で派手に爆発を起こした。
通常の攻撃ではない。
かく乱物質と大量の煙を撒き散らす特製の煙幕弾だ。
そこに更に軽車両が3方から疾走し、弾幕と粘着榴弾の雨を降らせた。

「よし、行くわよ!伊吹二尉にも覚悟を決めて貰うわ」
「ここまできて引き返せるわけありませんよ。……やってください」

覚悟と多少の恐怖の色の混じるかすれた声に、私はアクセルで答えた。
鈍重な特殊車両が重たいエンジン音を響かせて加速して行く。
私が今操縦しているのは電源中継車両だ。
アンビリカルケーブルのソケットと稼動アームを持つこの車両は、本来は作戦予定地域に先行して配備し、給電ラインを確保、接続して運用される、延長コンセントのようなものだ。
設置の際には接続されたエヴァに引きずられないよう、十分なケーブルの余裕を持たせ、地面にアンカーを打ち込んで使用される中継点であり、戦闘中に移動するのは全てをパージして緊急避難するときくらいだった。
だが、今我々は弐号機に電源を供給しなくてはならず、そのために悠長な手段をとっている場所も時間も無かった。

勢いよく踏み込んだアクセルとは裏腹に、実に鈍重な滑り出しで車体が移動を始めた。
それに連動し、後方に強引にへばりつけた高馬力の軍用列車が唸りを上げ、さらに後方に接続された巨大な貨物車が車輪を動かし始めた。
その荷台には、巨大な箱の固まりといった感のある無骨な物体が乗せられていた。

確かに、都市からの電源の供給手段は失われた。
だが、何もアンビリカルケーブルだけがエネルギーの供給源という訳ではない。
我々が今運んでいるのは、エヴァ専用超大型増漕バッテリー、その技術検証試作品だった。

生体部のブラックボックス的な蓄電機構を併用した内蔵電源とは違い、純化学的に徹底的に効率を向上し高密度のエネルギーを蓄えることに成功した巨大電池は、それでも大喰らいのエヴァに十分な活動時間を与えるために想像を絶する重量となっていた。
専用のリニアレールと事前装備を前提とした超重量物を、戦場のただ中、N2の爆発で不整地と化した場所へ運び込もうというのだから、普通に考えれば無茶苦茶だった。
高電圧大容量コンデンサと超励起反応体の塊を乗せた車両に運動性など無きに等しい物だったが、そんな物でもこの短時間に動かせる状態にして見せた技術部の面々には感謝せねばならないだろう。
ケーブルだけでなく、戦自の工作と先の爆発により生き残っている電源設備自体が皆無であって、再充電の頼みの綱はこれだけだった。

「原案はあったんです。先輩が作業までデータを先に送ってくれていたから、すぐに組み上げられたんです」

そう嬉しそうに話していた伊吹二尉も、制御用シートに身を埋めている。
おびえつつも、自分はオペレーターだからと、そう言って自ら進み出たのだ。
奇麗事が過ぎる子だと思っていたが、なかなかどうしてリツコの見込んだだけの事はある。
今の彼女は、戦う人間の熱を帯びていた。

徐々に加速が乗り始め、車体は不整地と化した第3新東京市をひどい振動を伴いながら猛進して行く。
巨大な質量の物体に一度スピードが乗ってしまうと、今度は止まる方が難しくなる。
もとより曲がる事など考えていなかった。
ただ一直線に弐号機に向けて突き進む。
それは同時に、量産型エヴァに接近して行くことでもあった。
大型かつ奇異な形状をした車体は目立つ。
未だにアスカをいたぶり続けていた一体が、こちらへと狂暴な視線を向けた。

そこへ、ほぼ計算通りの位置とタイミング。
無線封鎖の中、更なる攪乱と陽動が至近にいる識別番号5番の量産型エヴァに仕掛けられた。
ATフィールドは万能ではない。
我々の携行火器が豆鉄砲と何ら変わらない効果しか無くとも、壁のこちら側の空間は別だ。
視覚とセンサーの全域に渡って大量のノイズをばら撒かれれば、いかに鋭敏な感覚を持つエヴァといえどもこちらを察知するのは難しくなる。
そうして陽動部隊を邪魔な存在だと思わせることが出来れば、こんな奇異な車両であっても弐号機に接近するチャンスとなる。

その攻撃で発生した粉塵が弐号機ごと周辺を包む。
断続的に撃ち込まれるロケット砲が、量産型エヴァの視界を此方から遠ざけて行く。

「よし、今よ、ブレーキ最大!」
「了解!」

倒れている弐号機に突撃するかの勢いまで加速していた特殊車両が最大限に効かせた後方車両の回生ブレーキに引き止められ、筐体のそこかしこを軋ませて急速に速度を落としていく。
私は強烈な逆向きの加速にシートベルトを体に食い込ませつつも、停止位置の微調整の為にアクセルとブレーキを絶え間なく変化させ続けた。
減速で生じた電力が中継車の平衡補助フライホイールの回転を限界まで上昇させ、バッファコンデンサが耐圧一杯まで充填されて行く。
窓の外は、弐号機の赤い特殊装甲が見る見る視界を埋め尽くし、だがそれでも減速はまだ終わらなかった。

歯を食いしばる。
物凄い衝撃が前後から伝わり、強化ガラスが砕け散った。
正面を弐号機にめり込ませ、後ろから他の車両に押しつぶされながら、電源中継車はなんとかその機能を生き長らえさせていた。

「つっ、生きてるわよね?」
「死んではいないみたい、です。魂が抜けるかと思いましたけど」
「ふん、……保持アーム展開、電源接続急いでちょうだい。グズグズしてられないわよ」

無茶をしただけの甲斐はあったといえるだろうか。
車両は横たわった弐号機の背中から突き刺さるように衝突していた。

「肩部アタッチメントポイントは使用不可能か。けどね」

ひしゃげてしまい使い物にならなくなった武装ラックの背面増設レール。
この追加電源は本来その位置にマウントされるものだった。

「この位は、折込済みなのよ!」

そう言うと同時に伊吹ニ尉が操作パネルに指を走らせた。
機会音が響き、外部カメラの映像が彼女の目の前のディスプレイに表示される。
それはケーブル保持アームからのものだった。

先頭車両として電源中継車が用いられたのは、まさにこの為だった。
現在この車両の電源ラインは後部のバッテリーに繋がっており、つまりたとえハードポイントが破損していても二号機を復活させる手段が、直接給電と言う手段が取れるということだった。

私達が衝突した場所はまさしくアンビリカルケーブル接続ジャックの目の前であり、給電用動作を開始したロボットアームは見事に滑らかな動作で伸び上がり、接続ポイントの目の前で停止する。
そこで数瞬、変位調整を済ませたかと思えば、巨大なバネのはじける音とともにあっさりと接続は完了した。
正規手順など欠片も守らない、おそらくはフルマニュアルオペレーションでの接続を伊吹二尉は完璧にこなしてみせた。

「やった!」
「はい!」

接続と同時に後部車両が唸り始める。
大電力が生み出され、アンビリカルケーブルに送り込まれていく。
強烈な化学反応の生み出すエネルギーが取り出され、コンデンサが放電を開始し、補助システムのホイールも回転力を電力へと還元して、そのすべてが弐号機の内蔵電源へと供給されていく。
作戦の第一段階は、成功した。

そしてもうひとつ。
いまなら、ケーブルと直結しているここならば、無線封鎖の中でも可能なこと。
それが弐号機との通信だった。

「アスカ、まだへばってもらうわけにはいかないわ。こっから先、全部レイとシンちゃんに背負わせるつもり?」

彼女の返答はない。
わかっている。
もう充分、アスカは背負いすぎるくらいに人の負の部分の業を背負っており、その重みに耐えきれずにいることくらいは。
業を背負うことに意味を見出し、生きる力としてきた彼女が、その意味を失うことに恐怖していることも。
散々考え続け、それでも私にはどうにもできなかった問題。
闇にのまれつつある彼女をどうやれば救えるのか。

私が出した答えは、もっとも残酷で、許されざる行為。

彼女を、戦わせること。

「あなたが苦しんでることはわかってるわ。だけどね、今は悩むときじゃない。
まだ何も終わってない、あなたはまだ、勝っても、負けてすらいないの。
エヴァの中は悩むための場所じゃないし、逃げ込む場所でもないわ。
そこはあなたが、戦うためにいる場所よ。
いい、アスカ。
あなたは、戦って、闘って、全部終わらせて、それから悩みなさい。
それまで、私があなたを戦わせてあげる」

戦いこそ生きる意味だった彼女に、戦うことを強要している。
彼女の精神はすでに戦いなど望んでいないだろうに、その彼女の精神がつぶれてしまわないように、戦わせようとしている。
それは、もしかしたら彼女をさらに追い込むかもしれないのに。

――なにをしたって、もう許してもらえないわね。

覚悟してきたことだ。
彼女たちの保護者となった、その時から。
心の奥を抉りつづける痛みも、裏切りの重みも、覚悟していたことだ。

「だから、さっさと起きなさい!」
『……煩いわね、せっかく、楽になれそうだったのに……』

小さな、小さな呟きだった。
だが、ようやくアスカの声が、聞こえた。

「やっと、起きたわね。……やれるか、なんて聞かないわ。やってもらうわよ、アスカ」

安堵の色が混じってしまったかもしれないが、おそらく私は、冷徹に言い放つことができたはずだ。
そうでないと、彼女を迷わせてしまう。

「後一分、起動レベルのゲインを取り戻すのにそれだけかかるわ。それまで、私があなたを守ってあげる。その後は、あなた次第」
『なによ、どうするつもり?』
「言ったでしょ、あんたを戦わせてあげるって」

そう言って通信を切り、歪んだ入口を蹴り飛ばすと、積み込んであったオフロードバイクに跨る。

「あなたも予定通り、脱出して」
「了解です。三佐もご無事で」

伊吹二尉の正式な敬礼に、私も敬礼で答えた。
ぐずぐずしてはいられない。
別動隊からの赤い信号弾の光が煙幕の外から漏れていた。
支援継続不可能の合図だ。
部隊を分けたぶん、当初の予定より早い。
初号機の支援に向かった部隊もそろそろ弾切れだろう。
ここからが正念場だ。

別の車両で後方へ戻る彼女を見送りつつ、装備を確認する。
アスカを戦わせる、その約束は守らねばならない。
足りなくなった分は動けるものがカバーしなければならない。
未来をつなぐために。

『ミサト』

出す直前に、アスカから車両に通信がつなげられた。

『無理しなくて、いいわ。私だって、子供じゃないもの』

見透かされていた。
やはり私は、保護者としても、指揮官としても失格らしい。

だけど迷いはない。
すべて理解して、それでも答えてくれた彼女のために。
開いたアクセルに合わせて、バイクは私の意志を受け取り、走り出す。
白いエヴァへと向かって。

彼女たちを、生かすために。


 
内蔵電源の残量が徐々に回復していく。
それに伴い、システムが戦闘モードへ向けて準備を開始し始めた。
動けない間に負わされたダメージはそれなりだったが、エヴァの行動に支障が出るほどではない。
弐号機を起動できるだけの電力の回復にはまだしばらくかかるが、機械的なハードウェアで構成された部品は早くも復旧を始めていた。
未だ眠りから覚めていないような状態でも、そんなことを確認している自分に気がつく。
戦わせてあげる、ミサトの言葉は私の中の矛盾を揺さぶり、解決しない思考の袋小路に陥らせた。
発生した新たな苛立ちの種、そんなものが辛うじて私を闇に沈み込む手前でたちどまらせていた。
システムが再起動し、神経接続が回復していく。
麻痺しかかっている感覚器官を揺さぶり起こしていく。
微睡む闇に包まれていたエントリープラグはいまや計器類のパイロットランプとディスプレイの放つ淡い光によって照らされ、私の視覚を刺激していた。

緩やかに繋がったエヴァからのフィードバック、その視界の中に、あの量産型のエヴァが映る。
二股に分かれた左腕、醜くケロイド状に膨らんだ傷跡は確かに私がつけたものだ。
その機体の表面で、何かが弾ける。
小さな火花が無数に散っている。

五月蝿い羽虫が群がっているようにも見える細かな光の集団はしかし、ネルフによる必死の作戦行動だった。
軽車両に機銃を積んだだけの兵器と呼ぶにはいかにも貧弱な装備で、不整地と化した第3新東京市を駆け回り、機動力だけを頼りに攻撃を仕掛ける。
エヴァ相手に通常兵器は無意味だ。
彼等の攻撃はATフィールドを展開しなくとも痛覚を刺激することすら無いだろう。
だけど煽るような動きと死角からの銃撃は明らかに挑発しているのであり、無秩序に駆け回っているようでも確実に相手の意識を向こう側、弐号機から遠ざける方向に向けさせていた。
それはまさしく時間稼ぎであって、私と弐号機の回復を狙っているのだと分かるものだった。

エヴァにとって彼等が蝿以下の存在であっても、やはりまとわりつかれるのは苛立つのだろうか、振り払うような散逸的な行動が、ついに明確な排除の意志を含んだものに変わった。
大地を刳り、土砂を撒き散らしながら蹴り出された左足を狙われた車両がぎりぎりで回避する。
その太さだけでも車両の幅と大差ない大質量の一撃に巻き込まれれば、あんな車などただの金属の塊となるか、粉々に粉砕されるかのどちらかしかない。
何とか逃げ切ったのを見て思わず安堵の溜息が漏れた。
もしあの攻撃がかすりでもしていたら。
そんな想像が、先程の戦闘での自分の行為の記憶と混ざり、爆ぜた。

踏み付けられる足の裏側が自分の拳の外側と重なる。
砕けたアスファルトの残骸が鉄屑となった兵器の成れの果てと見えて、気付けばそれはネルフのマークをつけた車両へと変わっていた。
スローモーションで過去の幻燈が巡る。
苛立ちに任せて振るわれた一撃が軽車両の運転席をえぐり、中の存在を別の何かに変える。
ミンチ状の物体は、しかし生が永遠に失われたにも関わらず、握り締めた指の隙間に肉をねじ込み、赤黒い液体で濡らしてゆく。
弐号機に張り付いた塗装とは違う赤が、私の両手も覆ってゆく。
落ちることのない死者の色が、私の肉に食い込み、侵食し、内側から腐らせていく。

吐いた。
そして、何度か目の胃液の匂いと肺の痛みが私を現実にひきもどす。
絶望的な光景を見せ付ける為に。

復活した弐号機とのダイレクトな視覚接続が捉えたのは一台のモーターサイクル。
それが、撥ね上げられ、宙を舞う。
操縦者が咄嗟に飛び降り、見捨てられた車体はそのまま何もない空間に激突し、ひしゃげて、炎上した。
勢いに任せて転がるようにしていた脱出者が体勢を整える。
猫のようにしなやかな動作で立ち上がり、あの状況でも手放さなかった腕の中のマシンガンを構え、撃つ。

「何、やってるのよ……逃げなさいよ!」

プラグ内に叫びが残響する。
だが外部スピーカーのスイッチは入っておらず、それはただ無為にLCLに吸収されただけだった。
無謀な抵抗を続けているのは、間違いない、ミサトだった。
戦闘服に身を包み、防護ヘルメットで顔が隠れていようとも、それが彼女以外の誰かだとは思えなかった。

逃げてくれ、助かってくれと、そう思ってももう彼女にはその為の手段は残されていないのだと気付く。
ミサトには今、ああして抵抗するか、そうでなければ何とかして身を隠す位しかやれる事は残されていないのだ。
だけどなぜ、後者の選択をしてくれなかったのか。
生きる努力をしてくれなかったのか。

その決断の意味を私の中の無機的な部分は既に悟っていたが、理性と本能の両方がそれを認めることを拒否していた。

「初号機は……!」

もう一つの可能性を探した瞳が、すぐに絶望的な状況を知らせてくる。
四体のエヴァに遮られ、進むことすら出来ずに辛うじて持ちこたえているといった状態。
あそこからミサトを助けるなど不可能だった。

先程のイメージが、更に鮮明になって現れる。
鮮血に染まった弐号機の指の隙間に長い髪の毛が絡んでいる。
よく見知った人物が、手の内側で握り潰されて 、歪んだ頭蓋から覗く目玉が私を見つめている。
余りにリアルなイメージだった。
そして現実が、同じ光景に急激に近づいている。

LCLを吸い込んでいるのか、それとも飲み込んでいるのか。
呼吸はもう無茶苦茶で、鼓動は恐怖とともにばくばくと早くなり、張り裂けそうだった。
起動プロセスを強制的に開始する。
最短シークエンスでの全回路接続。
いきなりの高負荷による強烈な頭痛すら、どうでもよかった。
私しか、私しかいないのだ。

体よ、起きろ。
足よ、踏み出せ。
腕よ、伸びろ。

一秒でも、一瞬でも早く。

既に敵のエヴァはミサトに狙いを定めてそちらへ一歩近づいている。
その腕を彼女のいる地面へと伸ばし始めている。

ようやく一歩、前に進む。
だけど、まだ遠い。
すぐそこだと言うのに、余りに遠い。

間に合わない。
また、間に合わない。

あの振り子のような分離する使徒の時と同じに。
あの特殊装甲を潜り抜けてきた寸胴の使徒の時と同じに。
あの光の紐のような使徒の時と同じに。

今度もまた、私は間に合わないのか。

弐号機が爆発するような勢いで地面を蹴り飛ばし、本来有り得ないような距離を一歩で移動する。
それでも、届かない。
エヴァの力を出し切っただろう動きでも間に合わない。
もう、パイロットとしてやれる事など、残っていない。
そうであっても、私は足掻いた。
知識が、訓練が、本能が、持てる全てが、ただ、ミサトを助けるために、刹那の一瞬に激しく活動し、可能性を模索し、全ての解が否定されて行く。
純粋に、時間と距離がすべてを遮っていた。

私は祈った。
自分以外のものの力を、初めて、心から切望した。
倍率もあやふやな視界の中で、ミサトと彼女に迫る巨大な掌だけが奇妙に鮮明に映る。
その彼女の顔がこちらを振り向いた。
その表情に恐れの色は無い。
抵抗の意志を示す引き締まった口元と、優しくて暗い光を放つ静かな瞳がアンバランスな雰囲気を醸し出していた。

コンマ数秒の視線の交錯。
その中で私は感じてしまった。
彼女が既に死を受け入れたのだと。

だけど私は認めない。
全てがもう遅いと告げていても、私はがむしゃらにエヴァを駆った。
量産型エヴァが彼女に触れる寸前まで、ミサトに向けられた敵意の塊を睨み続けた。

唐突に、時が止まったと感じた。
敵のエヴァの白い手が、ミサトの命を奪うまさにギリギリの位置で静止した。
最後の瞬間の限界の感覚がもたらした錯覚かと思ったが、その時間の中で私は確かに動いていたし、奴は確かに止まっていた。

天啓を感じ、そして、弐号機が呼応した。

最後の跳躍は私の知る機体の限界すら超えたものとなり、伸ばされた腕がムチのようにしなり、敵の拳を跳ねあげ、そして弾丸のような加速力のまま突撃して、諸共に機体ごと吹き飛ばした。
その巨体を数十メートルも移動させる衝突に、エントリープラグの衝撃緩衝機構が限界を迎え、私自身を激しく揺さぶる。

その振動を押さえ込んで、更に相手の首に手を掛ける。
瞬時に沸点まで達した怒りに任せ、指先に力を込めた。
首を絞めると言った範疇を超えた圧力。
肉のつぶれる感触を残して、量産型エヴァの趣味の悪いうなぎ顔が括り切られ、落ちた。

第拾伍話:真心を君に。

終わる世界 前編