或いは何処にでも有り得た物語


僕はただ、父さんに会いたかっただけなのに。

どうして僕はこんなものに乗ったのだろう。
どうして僕はこんなもので戦っているのだろう。
どうして僕はこんなに痛い思いをしているのだろう。

僕にこんな事ができる訳がない。
ああ、左の手首が砕けたように痛い。
右目がはじけた、痛い、暗い、痛い、痛い。
脳がほじられてる、焼けてる、壊れてく。

僕は死ぬのか。

怖い。
怖い。
怖い。

誰か、助けて。



あまりの恐怖に、飛び跳ねるように起き上がって。
それで自分が目覚めたのだとわかった。

「知らない天井だ」

白で統一された内装、嫌みなくらい青白い蛍光灯の光、うっすらと漂う消毒用アルコールの匂い。
どうやらここは病院のようだった。
いつの間に着替えさせられたのか、病院の患者用のものらしき服を着せられているが、寝汗でぐっしょりとしていて気持ちが悪い。

――なにがあったのだっけ。

入院している理由を思い出そうとして。
しかし何かとても怖い事のようで、やめておく。
気怠くて、少し違和感こそあったが、幸い何処にも怪我などはしていないようだった。
もう一度寝ようと言う気にはならなかった。
だから、そっと立ち上がって、病室を出ようとする。
そのときに感じる、またかすかな違和感。

――何かが、何がおかしい?

原因もわからぬまま病室を抜け出して、廊下へと出る。
外に目を向けると、豊かな森が広がっていた。
そういえば、自分はジオフロントへ連れてこられたのだった。
地下空間に存在する不可思議な自然、その風景に少し心が安らぐ。

その時カラカラと硬いものが転がる音がしてきて、廊下の向こうから誰かが運ばれてきた。
ストレッチャーに乗せられていたのは一人の少女。
青白い髪、透き通るほどの白い肌、そして一瞬見つめられた赤い瞳。

思い出した。

僕はあの子を守るために、戦ったのだ。
どうなったのかはわからない。
自分はここにいて、彼女もここにいると言う事は、もうすべて終わったのだろうか。
あの時自分の手にこびり付いた赤い液体を思い出し、彼女は無事だったのだとほっとした。
そうしている間にもうストレッチャーはどこかの病室に運ばれて、消えてしまった。

とにかく僕の心は油断してしまって、それでいて緊張していて、だからだろうか。
致命的なまでに気がつくのが遅れたのは。

その行動をとったのは、いろいろと重なった結果の生理現象にすぎない。
つまり僕は催して、案内の先に入って、いつも通りに用を足そうとしたのだ。
だけど取り出そうとしたものは捕まらずに空を切って。
まさぐってみて感じた異変に驚き、下着の中を覗いた、そのときにはもうすべてが後の祭り。

何もなくなっていたそこから溢れたものが下着を、服を、下半身を濡らして、僕はそれどころでなく恐慌に陥っていて。
鼻につくアンモニア臭の中、どうも大変なことが起きたらしいとだけ認識して、僕は意識を失った。