或いは何処にでも有り得た物語


「シンちゃーん、お風呂あがったわよー」
「はい」

適当にバスタオル一枚を巻いただけの格好でお風呂場から出てくるミサトさんをできるだけみないようにしながら、交代でそこに入る。
と、同時に頭を抱えたくなる光景が目に入った。
まったく、彼女ときたら、見事というしか無いほどに一般的な生活能力という物を欠いているようで、目の前の脱ぎ散らかされた衣服もその一例と言えるだろう。
いくら美人でスタイルがよくて仕事もできる人物だとしても、この状況を見てしまえばそれこそ百年の恋も覚めるのではないだろうか。

軽くため息をつき、覚悟を決めると彼女の洗濯物を一つずつかき集める。
少々顔が紅潮するのは仕方の無いところだろう。
幸いというべきか、女になってしまって自分の下着で女物と言う奴をようやく見慣れてきたとはいえ、他の女性の物をどうこうするというのはまだ羞恥心を感じるわけで。
そもそも彼女は僕が男であった事を知っているはずなのに、よくもまあこんな事をやらせられる物だ、などと思ってから、あの人ならば男のままでもやらされかねないのではないかという考えに至ってしまい更に悲しくなった。

さて、そうやっている時、ふと手に取った彼女の下着がなぜか気になった。
それはブラジャーと呼ばれる、要は女性特有のふくらみを保護し、整えるための物であるのだが、この時問題になったのはそのサイズである。

――大きい。BIGだ。でかすぎる。

これが女体の神秘という物なのか。
いや今は自分もその女体であるが、だがしかしAカップにすら到達しない自分の体のふくらみからは想像もできないサイズなのである。
もっと成長すればこんな風になるのかと考えても、そんな風に成長した自分を想像できないし、想像したくもないものではあったが、それにしてもこのサイズは少々刺激的だった。

「こんなの、どういう感じなんだろ……」

自分が何かずれた事をしているのは解っている。
だがわき起こった好奇心を抑える事はできなかった。
ささっと上着を脱ぎ捨て、飾り気の無い白のジュニアブラも脱いでしまうと、膨らみ始めと言った感じの自分自身の胸が露になった。
そうして、クラスメイトと比較しても下から数えた方が早いだろう程度の発育具合のその部分――さすがに最下位ではないと信じたいが――に、ミサトさんのブラを当ててみた。
その結果は予想以上の物であった。
まず胴回りのサイズが違いすぎるためにカップ自体が大きくはみ出す、これはまあ仕方のないところだろう。
だが握りこぶし一つを入れても悠々とスペースが余っているとは、何事だろうか。
その余りっぷりは、ティッシュでも詰め込んでみようかという考えを、その予想されうる使用量から断念せざるを得ないほどのものという、圧倒的な空間であった。
人間、何をどうすればここまで膨らむものなのか。
これほどのものを満たすほどのボリュームならば、そちらの趣向の人間ならば、冷めた恋もまた燃え上がってもおかしくなかろう。

左右のカップをそれぞれの手で支えて、無理やりにその形状を再現してみる。
洗面台の鏡に映った自分の姿。
裸の上半身にあてがわれたブラの膨らみは、やっぱりどうにも大きすぎて自分には不釣合いに思えた。
そんなものがついていて、なお似つかわしく美人と見えるミサトさんは色々とすごい人なんだと改めて思ったその時。

「……あの……見てました?」
「もうバッチリ」

鏡の奥に見えるカーテンの不自然な揺らめき、そしてその隙間から覗いていた瞳の主は、気付かれたと解ると悪びれる様子もなく、いやむしろいかにも面白くてたまらないといった様子で顔を覗かせた。

「もう、シンちゃんたら興味なさそうな振りして、やっぱり気にしてたのね?」
「なんのことですか!大体、僕は男だったんですから、そういうのは関係ないでしょう」
「またまた、今は女の子なんだから、意地張らなくたっていいのよー?」
「ちがいますってば!」

意地、なのだろうか。
男だった自分の、女になってしまった自分への。
もしかしたら、女になりつつある自分への。
そうではないと、そう思いたかった。
少なくとも、自分の胸の大きさを気にしてなんか、いないはずだ。

でもとりあえず。
にまにまと笑っているミサトさんをみて思う。
しばらく、彼女のお酒を減らすことは難しくなりそうだな、と。