或いは何処にでも有り得た物語


学校からの帰り、僕と、トウジと、ケンスケと、いつもの三人。
空は間抜けなくらいに透明な青さで、ようやく勢いを失い始めた陽光がいつものように一面に照りつけていた。
街路樹の影を踏みながら、少し目を閉じる。

二人との出会い方は最悪で、再開も最悪で、でも、いい人たちだった。
僕のことで一緒になって怒ったり、悲しんだり、そして笑ってくれる、そんな人たち。
こういう関係を、友達というのかもしれない。
上辺だけじゃない、本当の友達。

そんな風に考えながら、少し遅れてしまった分を急ぎ足で追いつこうとする。
風をはらみ太ももに当たる制服のスカートの感覚は、いまだに僕に不安を抱かせるものだけど、以前のような背徳感にも似た羞恥心はずいぶんと和らいでいた。
見れば二人は僕のことを待っていてくれて、僕が追いつくと、何事もなかったかのように再び歩き始めた。
遅れてしまった僕にあきれるでもなく、ただそれが当然のことだというように。

こんなとき、僕は少し寂しくなる。
彼らは友達なんだと思う。
でも。

僕は女で、彼らは男だった。
ただそれだけのことが、僕たちに小さな距離を作ってしまう。
友達なんていなかった昔、それでも男だったその頃とは違う、距離。

もし僕が男だったら、彼らはなんと言っただろうか。
あきれた表情で僕をせかしただろうか。
それともちゃかすようにして笑わせてくれただろうか。

今また隣を歩く彼らをちらりと見やる。
ケンスケが向こうにいて、トウジが隣を歩いている。
けれど同じに歩いているのに、ほんの少しだけ違う、距離。

ほんの半歩分の距離だけ、僕は彼らより離れて歩いてる。
同性だったときならなかったはずの、ほんの少しの、だけど消えない距離。
彼らがそうしているのか、それとも僕がそうしているのか、いつの間にか開いてるその距離が少し悔しくて、わざと近づいてみても、やっぱり気がつくと離れていた。

何度試しても結果は同じで。
だから少しムキになっていただろうか。
おもいきりふみこんだ足は、トウジの足にぶつかって、僕は蹴躓いて。
倒れるようにして彼によりかかってしまった。

体に触れたトウジの腕から、彼の体温を感じる。
肩に当たったままの僕の顔が、熱を帯びるのを感じる。
ほんの少しの時間、上がり続ける体温以外に止まってしまったような世界は、ケンスケの野次で我に返る。
血が上りすぎて真っ白になってしまった思考回路。

しどろもどろに言い訳する中で、それでも考えていた。
僕たちの距離は、この先もずっとこのままだろうか。

いつの日か、気がつけばこの半分の距離も埋まっているだろうか。
それとも……それとも、もっと近い距離、同姓ではありえなかったはずの距離に、なっていることも、あるんだろうか?
今の状況が生んだだろうその考えは、僕にはまだ現実感のかけらもないものだったけれど。
僕は女で、彼らは男なのだ。
ただそれだけのことだけど、そこにある距離は、果てしない。
なんて、そこを飛び越えちゃった人間が考えることじゃないかな。



ようやく火照りがさめた頃には、彼らと別れて、自分の家のマンションの扉の前だった。
そうして冷静になって、もう一つの、彼らとの距離の可能性に気がついた。
気がついたけれど。

今は、考えたくはなかった。
考えれば、なんだかそのとおりになってしまいそうな気がして。
それは僕が存外に今の生活が気に入っているということでもあるのだろうけれど。

僕はきっと、その可能性が一番高いと、わかっていたから。
例え、考えなければ、どうにかなるものでもないとしても。

「……ただいま」

嫌な予感を振り払うように、まだ誰も帰らぬ我が家へ、僕は逃げ込んだ。