或いは何処にでも有り得た物語


「今日は降らないんじゃ無かったの!?」
「僕に言われたってわかんないよ!文句なら天気予報に言ってよね」

下校途中、突然の大雨。
今の季節にはままある、スコールと呼べる類いのそれは、現在の観測技術でも予測しきれないものらしい。
経験上そう言うものだと分かっているから、普段なら折り畳みの傘位は用意しているのだけど。
こないだの雨で使ったのを、運悪く仕舞い忘れていたのだった。
こういった生活用品の管理は結局僕がやっているから、当然のようにアスカの鞄にも入っているはずなど無く。
二人揃ってバケツを引っくり返した様な豪雨であっという間にびしょ濡れになってしまった。

「ダッシュで帰ってお風呂よ。あーもう、下着までビショビショ」
「ホントにね。洗濯物も全滅だなあ」

そう嘆きつつ、アスカの後から小走りについて行く。
肌に張り付く濡れた下着はうごく度にヒヤリと嫌な冷たさを残すし、ビチャビチャと太ももに当たるスカートも不快な上に動きづらい。
全部脱ぎ捨てて湯舟に浸かりたいのは僕も同じだった。

でも、そんな中で目に入った人物に、足を止める。

「あれ、ファースト?」

アスカの言う通り、綾波がコンビニの軒下で佇んでいた。
やはり彼女も傘を持って来なかったのだろうか、雨宿りしているようだ。
あそこで雨が止むまで待つつもりだろうか。

「アスカ、先帰ってて」
「いいけど、どうするつもり?まさか連れてくる気じゃないでしょうね」
「うん、でも」

何だか放っておけないし、という言葉は繋がずに、僕は綾波のいるそのコンビニへ足を向けた。
チラリとアスカの方を振り向けば、不満げな表情のままやれやれといった溜息をついていたけれど。
そのままくるりと踵を返してミサトさんのマンションへ向かうのを確認して。
視線を前に戻すと、こちらに気付いた綾波と目が合った。
パチクリと瞬きする紅い瞳。
その傍で、濡れた前髪から一雫。

「あ、綾波、大丈夫?」
「……ええ、濡れただけだもの」

そう言う彼女の声が心なしか暗い気がした。
それもそのはず、こうして近くでみれば、綾波もまた、見事にずぶ濡れで。
色素の薄い髪の毛はしっとりと濡れて頬に張り付いている。
白いブラウスもすっかり濡れてしまって、その下の白い肌を、質素な下着までを透けさせている。
本来、彼女の体の隠されているべき部分が所々に現れている、そう思うと、残りの部分までが頭の中で補われていく。
白く透き通る肌色で構成された、滑らかな曲線。
その上に張り付く下着、臀部を伝う雨の雫。
ゴクリと生唾を飲み込んだ僕に、綾波から怪訝な視線が返された。
慌てて正気に戻る。

「ね、ねえ、うちに、よっていかない?ほら、濡れたままじゃ気持ち悪いでしょ?」
「ええ。でもいいわ。直ぐに止むもの」

彼女の言うとおり、こんな土砂降り長くは続かない。
これもやはり経験上良くわかっている事だ。
けれど、少々目に毒な格好のまま、綾波をここに置いておく気にはなれなかった。

「そう言わずにさ。すぐ近くだし。ここだとどうしても目立っちゃうし」

最後の一言を低く抑えて言うと、おもむろに綾波は周囲を見渡した。
重たい雨雲で暗くなった中で、コンビニの照明は彼女の姿を浮き上がらせていて。
生来の容姿もあって、まばらに駆けていく人々も、コンビニに出入りする人も、皆一度は此方を振り向く。
それを見てようやく理解したのだろうか。
こちらに顔を向けると、今度は頷いてくれた。

「そうね。見られるのも好きじゃないわ。それに」
「それに?」
「あなたが見られてるのも不快だもの。いきましょう」

そう言うと、躊躇せずに雨の中に彼女は飛び出したのだけど。
今度は僕の方が固まってしまった。
自分も見られているのだと、今更ながら気付かされたせいで。
身体が火照るのを感じながら、僕は隠れる様にして綾波の後を追いかけた。