第伍話
レイの猛攻


シンジ達は今回学校を休んでいない。
ミサトが独房に入れられたため、シンジにはお咎め無しだったためだ。

「碇ィ、済まん!この前は知らんだとはいえ、殴りかかってもうて、せやからわしも殴ってくれ!」
トウジはいきなり土下座して叫んだ。

「頼むわぁ碇、そうせなわしの気が済まんのや」
「こういう恥ずかしいヤツなんだよ。ま、一発殴ってやったら」
ケンスケが他人事の様に言う。

「嫌だよ、この間も気が済まないとか言って僕を殴った、今度も気が済まないから殴れって?なんで僕が君の気が済む様にしなくちゃいけないのさ」

「くっ!」
トウジはシンジを睨む。
それを睨んでいる紅い瞳に怯んだ。

「それに、眼鏡の君は悪いとは思っていないんだろ?」
「え?俺?」
いきなり振られてケンスケが戸惑う。

「まぁいいさ、レイに叩かれた事だし」
シンジはそう言ってその場を離れた。

それ以来、学校ではシンジの近くに行こうとするとレイが睨むので近づけない。
尚かつ、今のレイはヒカリ達とも普通に話す。

ヒカリが「何があったの?」と聞いてきたのでレイは包み隠さず話した。
その為、トウジとケンスケは女子全員から白い眼で見られる事になってしまったのである。

男子達は、こいつらの二の舞にはならない様にしようと硬く誓うのであった。



学校の体育の時間、男子は校庭でバスケ、女子はプールである。

一人で座ってるレイをシンジはじっと見てたが今回はトウジ達に冷やかされる事はなかった。
レイが振り返ったので、シンジが手を振るとレイも小さく振り返す。

それを見ていた女の子達はきゃーきゃー騒ぎ出す。

シンジとレイは何故騒いでいるのか解らなかったし、そんな事は気にしていなかった。

「いいよねぇ綾波さん」
「碇君って大人びて格好良いもんねえ、他の男子達って子供っぽくって」
「あぁあ私も彼氏欲しいわぁ」

それが耳に入ったレイは優越感を覚えるのだった。
シンジは人である女の子達に人気がある。
シンジは幼い時から自分を見てくれていたのだ。
そしてシンジは自分の幸せのために居ると言ってくれた。

レイは何故か幸せな気分に包まれる自分に戸惑っていた。
(・・・これは何?でも嫌じゃない)

未だ幸せと言う定義が解らないレイ。

女子がきゃーきゃー騒いでいるのでトウジとケンスケが見ると、

「きゃー鈴原に見られたぁ〜お嫁に行けないぃ〜」
「相田も見てるぅ〜写真に撮られるぅ〜」

と言う声と共に色んな物が飛んで来た。

「わしが何したっちゅうねん」
「碇を敵に回したのが敗因だな」
泪を流すトウジとケンスケだった。


レイは微笑んでいる。

実はレイはシンジにくっつくのが大好きだったのだ。
以前は誰にも言えない、二人だけの楽しみだったが、今では隠す必要はない。


以前とは、レイがまだドグマに幽閉されている頃の話しだ。
一度シンジに助けられてからは独りで外に出るのは恐くなっていた。

だからシンジが来た時にこっそり一緒に遊び廻るのだが、その時にシンジにくっつくと言う行為を覚えたのだ。
シンジは何時もレイを庇う形で行動していた。
そんなシンジにレイは自然と手を繋いだり抱付いたりしていたのだ。

ダクト内はシンジとレイの遊び場の最たる物であった。
幼い二人にはダクト内を行き来する事は苦痛ではなかった。
そして、ダクト内の少し広いところは二人の隠れ家であったのだ。

レイは殆ど放置されていた。
ダミープラグの開発も行えず、レイに対する実験は殆ど行われなかったのだ。
ゲンドウが訪れる日時は決まっていた。
それはゲンドウがスケジュールに追われる生活をしていたからだろう。

従ってシンジが来るのをレイはいつも待ち望んでいたのだ。

レイはよくシンジの膝で眠りについていた。
安らかに眠れるのだ。

小学校の頃はレイはリツコに勉強を教えられていた。
それでシンジもリツコとよく会っていたのだ。


レイは学校に行く時もシンジと手を繋ぐ様になっていた。

家に居る時も、シンジが寛いで居る時はシンジにくっついている。
例えば、シンジが寝転がって本を読んでいると、そんなシンジを枕にしたり上に乗っかったりしている。

最近ではレイはマヤの家、つまりシンジの居る所でシャワーを浴びる。
そして下着姿で出てくるのだ。

裸で出てくるレイにマヤが何度か注意し、やっと下着を付けるまでになった。
マヤも遂にそれで妥協したのだった。
だが、シンジの前に出るレイは紅潮している。

つまり不器用なレイなりの挑発であった。
そんなレイをシンジは優しく包み込む。

下着姿で引っ付いても怒りもせず狼狽えもせず優しくレイに接するのだった。

「・・・私魅力ない?」
「魅力的過ぎるよ」
そう言ってシンジはレイに口吻る。

ポッと紅くなり、シンジの身体に顔を埋める。
シンジはそんなレイの頭を優しく撫でる。
今のレイはそれで満足だった。

レイの要望によりシンジの中のレイは何度かレイの中に入っている。
そこで何が話し合われているのかシンジは知らない。

戻ってきたレイに尋ねても、(・・・女同士の秘密)と言われてしまうのだ。



「碇、葛城君はまずいぞ」
「・・・問題ない」

「本当だな?俺はこのまま彼女に指揮を執らせると初号機が壊されかねないと思うがな」
「・・・その時は始末する」

「その時では遅いのではないのか?」
「フッ・・・エヴァは簡単には壊れませんよ」

「この前の使徒戦を見たのか?葛城君の指示通り後退していたら確実にエヴァは破壊されていたぞ」
「・・・老人達はシナリオに拘っている」

「お前は拘っていないのか?」
「・・・シナリオ通りですよ。冬月先生」

そのゲンドウの言い回しに怪訝な顔をする冬月だった。

ゲンドウは手袋を外し自分の手を見ていた。
それは22日前に行われた零号機起動実験の際に負った火傷である。


ゲンドウの声で実験が始まった。

そして、暫くして事件は起こる。

「パルス逆流!!」
「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」

「コンタクト停止!」
リツコ博士の指示で各職員が必死に現状を打開しようとする。

零号機が拘束具を引き千切った。

「実験中止!」
ゲンドウの声。

「電源を落とせ!!」
リツコが非常用のレバーのガラスを叩き割りレバーを引く。

「零号機内部電源に切り替わりました!」

零号機は壁を殴り付けている。
特殊装甲の壁がいとも簡単にへこみ破壊されていく。

「完全停止まで30秒」
「恐れていた事態が起こってしまったの!」
リツコの呟きは母から聞かされていた初号機起動実験の失敗。

そして更に追い討ちを掛けるような事に発展した。

「オートイジェクション作動!!」
「いかん!!」

「そんな!?ストッパーを掛けていたはず!」
リツコが驚愕する。

「硬化ベークライトを!」
リツコの指示で硬化ベークライトが零号機に吹き付けられた。

零号機の頚部から後方にプラグが射出された。

「何で燃料が入っているの?!」
尚も驚くリツコ。

硬化ベークライトが凝固を始め、零号機の動きが鈍くなり始めた。

プラグはそのジェット燃料の噴射により天井に叩き付けられそのまま燃料が切れるまで壁に張り付く。

「レイ!!」
ゲンドウが実験室に飛び出した。

プラグはロケットの燃料が切れ落下し、床に叩きつけられる。
ゲンドウは直ぐに駆け寄り、ハッチを開けようとした。

「ぐおっ!」

ゲンドウは余りの熱さに手を離し、同時に眼鏡が落ちた。

「救護班は何をしているの?!」
リツコが叱責する。

零号機の動きが止まった。

「くそっ!」

ゲンドウは、無理やりハッチを抉じ開ける。

掌は焼け爛れ、感覚は殆ど無い。

「レイ!」

ゲンドウは、プラグの中のシートに横たわるレイに呼んだ。

レイはうっすらと目を開け美しく透き通る赤い瞳がゲンドウに見える。

「大丈夫か!?レイ!」

レイはゆっくりと頷いた。

「そうか・・・」
微笑むゲンドウ。

レイの表情はいつにも増して無表情。
しかし、ゲンドウは無表情なレイに慣れているため何も感じなかった。

高温のLCLによって眼鏡のレンズが割れフレームが歪む。


ゲンドウはレイに楔を打ち付けたと思っている。
それが、最大の過ちであったとも知らずに。



シンジがシンクロテストを終えるとレイがエントリープラグの調整をしていた。
明日は零号機の起動実験である。
レイは念入りに自分で調整を行っていたのだ。

そこにゲンドウが近寄る。

レイに何かを話しかけるが、レイは作業を行いながら返事をしている。
ゲンドウは微笑みかけながら話をしていた。


モニターの1つには、シンジの視線、つまり、ゲンドウとレイの姿が映っていた。

「シンジ君・・・辛いでしょうね」
マヤは少し涙ぐんでいる。

「ねえ、リツコ?何で司令は、レイをあんなに大事にしてるわけ?実の息子を放って置いて」
「さぁもしかしたらロリコンなのかしら」
リツコの答えに「まさかぁ〜でも有り得るかも」と考えるミサトだった。

「ねぇマヤちゃぁん、私もたまにはマヤちゃんのおうちにご招待してくれなぁい」
マヤ相手にシナを作って言い寄るミサト。

「そ、それは先輩に聞いて下さい」
ミサトの思惑が解っているマヤはリツコに助けを求める。

「ミサト?貴女シンジ君に謝ったの?」
「だからさぁ〜ちょっち軽いのりでお食事会でもしてくれると嬉しいなぁなんて思っちゃったりして」
てへへと笑うミサトにリツコは目眩を覚えた。

「明日は零号機の起動実験があるわ。レイもナイーブになっていると思うからまたにしてちょうだい」
「なんで零号機の起動実験が関係あるわけ?」
ミサトは体の良い理由を付けられて断られた様な気がして膨れている。

「貴女とシンジ君が喧嘩でもする様な事があれば、レイの精神衛生上良くないのよ」
「なぁんで私がシンジ君と喧嘩するわけ?」

「貴女がシンジ君を快く思っていないからよ」
「そんな訳ないでしょ!」

「じゃぁ「貴方は私の命令を聞いていればいいの」とか言わないと約束できる?」
「うっ!そりは・・・」
それは言ってしまいそうだと言う事はミサトにも解った。



そして翌日、シンジとレイはNERVに向かっていた。

NERV名物の長いエスカレータ。

「レイ?恐くない?」
「・・・どうしてそう言う事言うの?」

「恐いなら抱締めてあげようかなって思って」
「・・・少し恐い」
シンジは冗談のつもりで言ったのだが、レイは間髪入れず返してきた。

レイを優しく抱締め、頭を撫でてあげるシンジ。
レイは眼を細めシンジに身を委ねていた。

「今日はきっと大丈夫だよ」
コクンと頷くレイ。

シンジがそう言うとそんな気になるのだ。

「嫌なら止めても良いんだよ?」
フルフルと首を横に振るレイ。

「気をつけてね」
エスカレータから降りて、コクンと頷いてレイは更衣室へ向かう。

そんなレイを優しく見送るとシンジも実験場へ向かった。



零号機が実験場内に配置されレイが乗り込んだ。

「これより、零号機再起動実験を行う」
ゲンドウの声が実験場内に響く。

「レイ、準備は良いか?」
何時もとは打って変わった優しげな声で尋ねるゲンドウ。

『・・・はい』

何時も通り抑揚のない返事を返すレイ。

「・・・実験開始」
ゲンドウの言葉で実験が始まった。

「第1次接続開始、主電源接続」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フェイズ2に移行」

「パイロット零号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し」
「オールナーブリンク終了」
「絶対境界線まで後2.5」

「1.7」
「1.2」
「1.0」
「0.7」
「0.4」
「0.2」

「絶対境界線突破します」
「零号機起動しました」

『引き続き連動試験に入ります』

レイの鈴の鳴る様な声の中、直通電話が鳴り響く。
冬月が電話を取った。

「そうか、分かった」

「未確認飛行物体がここに接近中だ。恐らく使徒だな」
電話を置いた冬月がゲンドウに告げる。

「テスト中断、総員第一種警戒体制」

「零号機はこのまま使わないのか?」
「未だ、戦闘には耐えん。初号機を使う」

「初号機380秒で出撃できます」
「良し、出撃だ」

「レイ、起動は成功した。戻れ」

『・・・はい』

緊張しているレイ。
気泡が一つレイの口からLCLの中に溶けていく。

ゲンドウの中でゲンドウのシナリオは完璧だった。
最初の起動実験失敗により、いち早く救助する自分。
そして今回、起動成功を分かち合う。

これでレイはゲンドウだけを見るようになるはずだったのだ。



ディスプレイ上では第三新東京市付近の上空が映し出されている。
正八面体の形態をした巨大な飛行物体が姿を現す。

「シンジ君いいわね?」

『駄目です。使徒の攻撃手段は?』

「それを調べに初号機を出すのよっ!」


「良いのか碇?」
「フッ・・・問題ない」
壇上ではゲンドウに冬月が進言していた。

しかし、ゲンドウも聞く耳を持たない。


「エヴァ初号機、発進!」

「使徒内部に高エネルギー反応を確認、収束中です」
「何ですって!」

「まさかっ・・・加粒子砲!?」
リツコの口から不可思議な兵器の名前が飛び出てくる。

「ダメッ!シンジ君避けて!」

『ロックボルト外せっ!!』

次の瞬間、オペレータが機転を利かし初号機前方に遮蔽壁を出したが一瞬で貫かれ、加粒子砲が胸部に直撃、シンジの叫び声が発令所を埋め尽くす。

『わああああああ!!!!!!!』

唖然とする発令所。

「早く下げてっ!!」
ミサトが喚く。

ミサトの声より早くマヤは操作していた。

『あああああああああああああ!!!!!!』

『あうううぅぅぅぅ・・・』

胸から顔へと加粒子砲の洗礼を受け、シンジは意識を失った。

「ケージに行くわ!」
ミサトは走って発令所を出て行った。


「問題ないのか?碇」
「・・・この使徒が倒せなければ処分する」

「使徒が倒せなければ我々も居ないと思うがな」
「・・・・・」


司令と副司令がそんな会話をしている中、オペレータ達はシンジの容態の変化に慌てていた。

「パイロット心音微弱」
「心臓停止しました!」

「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」
「駄目です!」

「もう一度!」
「パルス確認!」

「心臓活動を開始しました!」
「プラグの強制排除急いで!」

初号機からエントリープラグが取り出された。

「LCL緊急排水」
「はい」
リツコの的確な指示でシンジは一命を取り留めた様に見えていた。

それら一連のやり取りをレイは静かに心配そうに見つめていた。

ケージに着いたミサトが見たのは救護班に担ぎ出されて行くシンジだった。

「シンジ君!」

ミサトの叫びがケイジに木霊する。



とぼとぼとミサトが発令所に戻ると、使徒の攻撃方法の調査が既に開始されていた。

「日向君!何をしているの?!」
思わず叫ぶミサト。

「葛城君、使徒は侵攻しているのだよ。君こそ何をしていたのかね」
マコトの回答の代わりに冬月の冷たい言葉が浴びせられる。

「えっ?それはパイロットの無事を確認しに・・・」
「侵攻している使徒を放り出してかね」

「も、申し訳ありません」
「・・・葛城一尉、使徒を倒せる作戦を立案したまえ。これが最後のチャンスだ」
ゲンドウが最後通告と取れる命令を言い渡す。

「はい!」
元気良く返事するミサト。

冬月は、眩暈を覚えた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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