第六話
NERV崩壊


「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃かね」
渋い顔をする冬月。

「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー集束帯による一点突破しか方法はありません」
薄暗い司令室でミサトは直立不動で答える。

二人に対峙するはミサト。
その表情も厳しいものとなっている。

「MAGIはどういっている?」
「スーパーコンピューターMAGIによる解答は、賛成二、条件付き賛成が一でした」

「勝算は8.7%か」
「もっとも高い数値です」

ここでゲンドウが眼鏡を光らせ、言う。

「・・・反対する理由はない。存分にやりたまえ、葛城一尉」
「はい」



「良いのか碇?」
「・・・他に何か作戦がありますか?」

戦闘に関しては全くの素人である冬月は回答を持たなかった。
冬月の思いは、もっと前に優秀な作戦立案者または指揮者を確保するべきではなかったのかと言う事であったが、ゲンドウには通じない。

かくして、戦自からポジトロンライフルが徴収され、日本中から電力を徴収すると言うとんでもない作戦は実行される事となった。



ミサトは司令のお墨付きを貰ったと思い、準備に張り切っている。

「敵シールド、第7装甲板を突破」
「エネルギーシステムの様子は?」

無数に映し出されている小型モニターの画面では、居並ぶ架空送電鉄塔、森や街中を走る電源コードの束、巨大なドラム型のコンセントなどが動いており、それぞれ二十人以上の人がついている。

「ポジトロンライフルはどう?」
ミサトはコンピューターを介して、研究員の一人に聞いてみた。

「技術開発部第3課の意地にかけても、あと3時間で形にして見せますよ」

そして研究員の顔と入れ替わりに映し出されるライフル。
未だ組み立て中で、まるで形になっていない。

ミサトは微かに表情を曇らせると、顔も向けずにリツコへ聞いた。

「防御手段は?」
「これはもう、盾で防ぐしかないわね」

軽い操作により呼び出される盾の映像。

「原始的だけど有効な防御手段よ。こう見えてもSSTOのお下がり、超電磁コーティングされてる近代兵器だし」
リツコがそれに解説を加える。

「いくら保つ?」
「17秒よ。2課の保証書付き」

「結構。狙撃地点は?」
「目標との距離、地形、手頃な変電設備も考えると、やはりここですね」

マコトが双子山の地図を呼び出しながらそういった。

「確かにいけるわね。狙撃地点は双子山山頂。作戦開始時刻は明朝午前零時。以後、本作戦をヤシマ作戦と呼称します」
「「「了解」」」

マコトを含むオペレータ達の返事が重なる。

そうして腕組みをすると、誰にいうともなくミサトは呟いた。
「あとはシンジ君の方だけね」



レイは病院でシンジが目覚めるのを待っていた。

「ん・・・」

シンジが目覚めようとしている。

「・・・シンジ」
「レイ?」

「・・・大丈夫?」
「あぁちょっと熱かったね」

レイはスカートのポケットから手帳を取り出した。

「明日午前0時より発動されるヤシマ作戦のスケジュールを伝えます。
碇、綾波の両パイロットは本1730、ケージにて集合。
1800、エヴァンゲリオン初号機、及び零号機、起動。
1805、出動。同三十分、双子山仮設基地に到着。
以降は別命あるまで待機。
明日0000、作戦行動開始。
これ、新しいプラグスーツ」

そういってレイはシンジに袋を手渡した。
中には真新しいプラグスーツが入っている。

「ありがとう」
「・・・寝ぼけてその格好でこないでね」

シンジは苦笑いをし、レイは微笑んでる。

「・・・60分後に出発よ、食事、食べる?」
「いや、司令室に行く」

「・・・そう、私は赤木博士がケイジで待ってるから」
「うん、また後でね」



「・・・何だ?私は忙しい。要件があるなら早く言え」
司令室でゲンドウはシンジと対峙している。

冬月も同席していた。

「作戦は聞いたよ。まだ葛城さんの指揮で動けって言うの?」
「・・・作戦は決定事項だ。お前に拒否権はない」

「そう、じゃぁ一つだけ言っておくよ。使徒はここを目指して掘削している。つまり下方には、あの強烈な加粒子砲だっけ?は撃てないんじゃないの?わざわざ敵の土俵に上がって勝負する必要があるの?」
「・・・問題ない」

「シンジ君、これは敵を調査した結果、敵のレンジ外、つまり射程外からの攻撃だから安全なんだよ」
「成功率は?逆に非成功率は、そのことを否定しているんじゃないですか?」

「・・・ふん、子供の考えなど取るに足らん」
「解ったよ、失敗しても僕を責めないでよ」
それだけを告げ踵を返し司令室を後にするシンジ。



「碇、シンジ君の案の方が安全確実だと思うのは俺だけか?」
「・・・赤木博士に計算させろ」

「・・・・・」
「・・・・・」

暫くの沈黙の後、呼び出し音が鳴る。

「碇、成功率が87.9%になるらしいぞ」
「・・・問題ない」
冬月もゲンドウも冷や汗を流していた。



学校の脇にある山がスライドして初号機と零号機が姿を現す。
学校の屋上ではケンスケを筆頭としたクラスメート達が手を振っていた。



双子山では、ミサトとリツコに向き合ってシンジとレイが立っている。

「本作戦における担当を通告します。シンジ君は初号機で砲手を担当、レイは零号機で防御を担当」

「はい」
「・・・了解」

「これはシンジ君と初号機とのシンクロ率の方が高いからよ。今回の作戦ではより精度の高いオペレーションが必要なの。陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け、直進しません。その誤差を修正するのを忘れないで。正確にコア一点のみを貫いてね」

「どうやるんですか?」
「それは大丈夫、貴方はテキスト通りにやって、真ん中にマークが揃ったら撃てば良いのよ。後は機械がやってくれるわ」

「もし1発目が外れたら?」
「2発目を撃つには冷却や再充填等に合計20秒掛かるわ。その間レイの盾に守ってもらう事になるわ」

「余計な事は考えないで、1発目を当てる事に集中して頂戴」

「私は・・・私は・・・初号機を守ればいいのね?」
「・・・そうよ」

「時間よ、二人とも準備して」

「一つだけ聞いていいですか?」
「なに?」
張り詰めた空気の中、ミサトはこいつ今度は何を言い出すつもりだと言う眼で睨みつける。

「使徒は下方に掘削しているのに、何故下方から狙撃しないんですか?わざわざ敵の土俵に上がる理由は何ですか?」
「なっ!これは綿密に計算された敵の射程外からの攻撃なのよ!あんたは黙って命令に従っていれば良いのよ!」

「また、それですか、リツコさん敵の下方から狙撃した場合の成功率って計算できます?」
「さっき副指令に言われて計算したわ。87.9%よ」

「なっ!」
ミサトが眼を見開く。

「これは司令も認めた作戦なの。今から狙撃地点を変える時間はないわ」
ミサトが拳を握り締めながら言う。

「はいはい、皆さん無事で帰れる事を祈りましょう」
そう言ってシンジは仮設更衣室の方へと歩いて行った。

「リツコ・・・」
ミサトはそんなシンジを忌々しげに睨み付けながらリツコに何か言おうとするが言葉が続かない。

「後は遣れるだけ遣るしかないわね。使徒を殲滅すれば確率なんて関係ないわ。勝利か敗北かよ」
「そ、そうね、うっし私の指揮を見せてあげるわ!」

リツコはここでミサトに落ち込まれては堪らないと助け舟を出しただけだ。



仮設の更衣室で二人が着替えている。

「なんでこんな何回も着替えないといけないかな?プラグスーツのままで良かったと思わない?」

レイは脱いだ服をポンポンと備付の椅子の上に置いて行く。
レイの脱いだパンツがシンジの眼に留まる。

「・・・赤木博士はプラグスーツが出来るだけ清潔な様にと言っていたわ」
「成る程、リツコさんらしいね」

プラグスーツを着込むと、スイッチを押して余計な空気を排出し、体にフィットさせる。

「行こうか」
「・・・えぇ」



双子山に急場で作られたエヴァンゲリオン搭乗タラップでは、シンジとレイが最上段でならんで座っていた。

冷却装置の水の音やライトの操作音、電源関係の車両のエンジン音などもこの高さまでは風でかき消され、静寂が二人の間を流れている。

雲一つなく、月夜の空に無数に瞬いている星は、街が停電のため何時もよりはっきりと確認できた。

「レイ?」
「・・・何?」

「本当に良いんだね?」
「・・・えぇ」

「まだ引き返す事もできるよ」
「・・・構わないわ」

シンジはレイを抱き寄せると、唇を重ねる。
レイは眼を閉じて体をシンジに委ねた。

出撃時刻を告げるアラームが鳴った。

「・・・時間よ、行きましょう」
「うん」



中央に、ミサトとリツコが立ち、2人の脇にマヤ、前にマコトとシゲルが座っている。
仮設発令所である。

ジオフロントの電力も殆どこちらに回しているため発令所の電源もMAGI以外は落としているためだ。

従って現在ジオフロントに居るのはゲンドウと冬月。
後は広報や諜報、生活課等、実戦と関係ない人員達のみであった。

つまり実戦部隊と技術部の殆どは、ここ双子山に集結していたのである。

《東京標準時00:00:00》
「作戦スタートです」

時報と共にマコトがミサトに告げる。

「シンジ君、日本中のエネルギー貴方に預けるわ」

『・・・はい』

シンジの顔にも緊張が見える。

「第一次接続、第407区まで送電完了、続いて第408区から第803区までの送電を開始します」

マコトがレバーを起こすと、付近一帯を地鳴りのような音が包んだ。

「ヤシマ作戦スタート!!」
ミサトが声高々に作戦の開始を告げる。

一斉に動き出す作業員達。

「電圧上昇中、加圧水系へ」
「全冷却機出力最大へ」
「陽電子流入順調なり」
「温度安定依然問題無し」
「第2次接続!」
「全加速器運転開始、強制収束機作動!」

エネルギーを示すメーターが順調に上がっている。

「第三接続、完了」
「全電力、ポジトロンライフルへ」
「最終安全装置、解除」

「撃鉄、起こせ」
ミサトが刻々と進んで行く準備の中、一つの通過点を示す命令を下した。

モニター上のライフルを示すマークの安全装置が『安』から『火』に変わり、撃鉄があがる。
初号機プラグ内のモニターも、マークが揃っていく。

「地球自転誤差修正、プラス0.0009」
「電圧、発射点へ上昇中。あと15秒」

緊張感が走る。

「10・・9・・・8・・・7・・」
マコトのカウントダウンの声だけが辺りに響く。

「6・・5・・4・・」

「目標に高エネルギー反応!」
シゲルの報告がマコトのカウントダウンを遮る。

急に使徒の明るさが増し、そのスリットに光が走り始めた。

「なんですって!」
有り得ない。
ここはレンジ外のはずだ。
ミサトの中でシンジの言葉がリフレインする。
(先に撃てば)ミサトの中ではそれが唯一の方法として他を考えられない。

しかし、それは一番の愚作。
第二射までには20秒、盾は計算上でも17秒しか持たないのだ。

冷静に考えれば、先に撃たせて盾で防御、再計算して撃つ。
その方が確実、安全なはずである。

マヤの悲鳴にも似たオペレートに、リツコも声を上げる。
一方、初号機のモニター内の赤いランプの真ん中のマークは揃っていく。

『撃てぇ!』

ミサトの叫びと同時にシンジはスイッチを押した。

初号機が引き金を引き、陽電子が打ち出されると同時に使徒の加粒子砲も発射され両方が交差し合い方向が反れた。
かなりの衝撃が走り陽電子は使徒の少し横のビル街に着弾しエネルギーの柱が出来ていた。

加粒子砲は山の中腹に激突し、爆風が周囲の木々を薙ぎ倒す。

(ミスった!!)
『第2射急いで!!』

ミサトが次ぎの指示を叫んでいる。

初号機は再度、弾を込めた。

『ヒューズ交換』
『再充填開始!!』

『目標内部に再び高エネルギー反応!!』

『銃身冷却開始』

『使徒加粒子砲を発射!!』

零号機が初号機の前で盾をかざし加粒子砲から初号機を守る。

『発射まで15秒』
『発射まで10秒』

『零号機、盾消失します!』
『早すぎる!』

初号機の前で両手を広げ初号機を守る零号機。

『綾波っ!リツコさん零号機のエントリープラグを緊急射出してください!』

「マヤ!」
「駄目よ!今エントリープラグを射出したらライフルに加粒子砲が当るわ」
ミサトの言葉にリツコはキッと睨みつけ自分で端末を操作し、エントリープラグを射出させる。

「リツコ!」
「私はレイを殺させない」

射出されたエントリープラグを初号機は片手で受け止めそっと地面に置く。
「・・5・・4・・3・・2・・1」

『くっ発射!!』

シンジはスイッチを押し陽電子砲を発射させた。
眼の前にある零号機を貫き陽電子砲が使徒に向かう。

「ATフィールド!」
初号機の放った陽電子砲は使徒のATフィールドに阻まれる。

「どう言う事?!ATフィールドを貫ける出力だったはずよ!」
「使徒は加粒子砲のエネルギーをもATフィールドに回したのよ」

『くっ第3射急いで!!』

「駄目です!今の発射で電源ケーブルが半分以上断線しています!」

『目標内部に再び高エネルギー反応!!』

「終わったわね」

『使徒加粒子砲を発射!!』

閃光が初号機を襲う。
初号機を漏れた、エネルギーは付近一帯を薙ぎ払って行く。

初号機の影となっている零号機のエントリープラグと仮設発令所だけは、その被害を免れていた。
それ以外の変電施設や、途中の増幅器等はそこの作業員と共に吹き飛ばされて行く。

『初号機から強力なATフィールド発生!』

「なんですって!」
ミサトの叫びと共に、初号機は咆哮を上げATフィールドで加粒子砲を塞き止めながら使徒に向かって走って行く。

「シンジ君!死ぬ気?!」
リツコの叫びが仮設発令所内に木霊する。

走って行く初号機は加粒子砲の光で、光の玉の様に見える。
その光の玉が、使徒と接触した瞬間、使徒が大爆発を起こした。

『パターン青、しょ、消滅。使徒消滅しました』

シゲルの報告に安堵の息を漏らす仮設発令所内。

「初号機は?」
『しょ、初号機の反応・・・あ、ありません』

リツコの問にシゲルは必死になって反応を探すも無い物は無かった。

「そう・・・」
項垂れるリツコ。

マヤは泣き崩れている。

声を掛けれないミサト。
そこに何かが飛んでくる音が聞こえてきた。

我知らずそちらを向く仮設発令所内の全員。

隕石の様に落ちてくるそれは、零号機のエントリープラグの脇に落ちた。

少しの地響きと共に突き刺さる初号機のエントリープラグ。
真っ黒に焼け焦げているそれが、何なのかその場に居る人間達も暫く解らなかった。

ハッチがこじ開けられ、中から出てくるなにか。
それが零号機のエントリープラグに近づくとハッチをこじ開けている。

「シンジ君!」
いち早く状況を理解したのはやはりリツコだった。

「救護班を二人のところへ!急いで!」



電源の点る発令所。

「終わったな」
「・・・あぁ」

安堵の息を二人が漏らす中鳴り響く直通回線。
冬月が顔を綻ばせながら受話器を取る。

「あぁ赤木君か、ご苦労さん、使徒は殲滅したようだね」
「・・・・・」

「何!それは本当かね?!」
「・・・・・」

「解った、至急戻って詳細の報告を頼む」

電話を切った冬月は暫く俯いて黙り込んでいた。

流石のゲンドウも冬月の尋常でない反応を訝しむ。

「・・・冬月」
「碇、初号機と零号機は消滅、シンジ君とレイは重体、NERV本部の人員は80%壊滅だそうだ」

「何!ぐっ・・・シンジの奴め」
「碇!」

「・・・な、なんだ冬月」
「シンジ君は最初から葛城君の指揮を疑っていた。それを推し進めたのはお前だ!」

「・・・なっ!」
「今回の作戦も、より良い提言を行っていた!何故、お前は息子の言葉に耳を傾けてやらなかったのだ!これがその結果だ!」

「・・・子供の戯れ言には・・・」
「お前はシンジ君の言葉より、葛城君を取った!その結末がこれだ!」
ゲンドウに最後まで言わせず冬月が怒鳴る。

「言っておくが、今回の作戦はお前が承認したのだ。葛城君はその結果使徒を殲滅した。被害がエヴァ二体とNERV本部職員80%だがな!」
「・・・・・」

「彼女に責任を負わせた場合、お前も責任を取る必要があることを覚えておけ!」
「・・・冬月先生」

「もうユイ君の望んだ未来を見る事はできない」
「・・・ユイ」

言いたいだけ叫んだ冬月と自分の失策だと怒鳴られたゲンドウ。
普段の二人からは想像も出来ない程、酷く沈み込んだ二人がそこに佇んでいた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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