第拾弐話
新生NERV


エヴァ参号機を吊り下げた巨大な全翼機は低空飛行を強いられていた。

「エクタ64よりネオパン400へ」
「ネオパン400了解」

「前方に積乱雲を確認した。指示を請う」
「ネオパン400より、積乱雲の気圧状態は問題なし。航路変更せずに到着時間を遵守せよ」
「エクタ64了解」

全翼機は雷鳴の轟く積乱雲の中に吸い込まれるように入っていった。



薄暗い司令室。
その執務机に座る白衣の女性。
その傍らに立っているのは、白髪の長身の男性であった。

パッと司令室が明るくなる。

「やっぱりこれくらい明るくないと陰気くさくていけませんわ」
「そ、そうだな」

「「失礼しましたぁ〜」」
業者らしき人間が司令室を後にする。

彼らは司令室の電源工事と灯りの取り替えを行っていたのだ。

「ところでナオコ君、シンジ君は何者なのかね?」
人が居なくなった事で冬月はナオコに質問した。

「私も存じませんわ、ただレイを大事に思っている。それだけは確かですわね」
「そうか、しかし、碇はアダムを融合させていたはずだが・・・」
ゲンドウの右手にはアダムが融合されているはずだった。

冬月もそのおぞましい手を見た事がある。

「さぁどうだったのでしょうか」
妖艶に笑うナオコは本当の事を知っているのか本当に知らないのか冬月には判断が付かなかった。

ゲンドウがLCLとなった後、冬月はシンジに下ったのだ。
そこで、ナオコを司令とし、NERVを再建する事を約束させられた。

ゲンドウが居なくなった今、シンジを疎ましく思う人間は居ない。
精々、ケンスケの様に逆恨みしている者だけだろう。

そして老人達の人類補完計画も行う気は更々無かった。
ゲンドウの計画が潰えた今、残るは使徒殲滅と人類補完計画の阻止だけだ。

シンジはそこまで言っていない。
ナオコが司令になれば、自ずと自分達に危害を加えようとするものは居なくなる。
今のシンジにはそれで充分だったからだ。

「しかし、碇の計画は当初から瓦解していたのだな」
「そうですわね」

ゼーレの方もナオコが司令に着任する事を了承した。
ゲンドウ亡き後、冬月では荷が重く、他に適任者も居なかったためだ。

「参号機がそろそろ来ますわ」
「そうだったな」

「加持君を呼んで頂戴」
インターフォンで伝えるナオコ。

暫くして加持が司令室に現れた。

「えと、今日は何の御用でしょうか?」
加持は突然呼び出された事に戸惑っていた。

ゼーレから指令された仕事が残っているのだ。
しかし、執務室にいる所で呼び出された加持は、それを無視するわけには行かなかったのだ。

(これは、やばいな・・・)

加持の計画では、この後3箇所に小型の時限爆弾を仕掛け、どこかでアリバイを作ってNERVを停電に陥れるはずだった。
正副予備の三系統の電源を切る事。
これが今回、加持に与えられた指令であったのだ。

「うふふ、今回、司令に着任した赤木ナオコよ。宜しくね加持君」
「それはそれは、ご昇進おめでとうございます。それで元司令はどちらに?」
内心では驚きながらも加持は、自分の好奇心を満たそうとする。

ナオコとゲンドウの関係は知っていた。
だからナオコがゲンドウの執務机に腰掛けていても、巫山戯ているのだろうぐらいにしか思っていなかったのだ。

「それよりどう?この司令室。前より明るくなって良い感じじゃない?」
「えぇ、前は重厚と言うより陰気でしたからねぇ」
歯に衣を着せぬ、その言葉に冬月もヒクツいている。

「世間話でしたら、今日は少し用がありますので次回と言う事で宜しいでしょうか?」
なんの用件も言い出さないナオコに加持は、司令就任の自慢をしたいだけだったのかと判断し、仕事に戻ろうとした。

「駄目よ加持君、今日はおいたを控えて貰うわ」
「なんの事です?」
妖艶に笑うナオコに加持も引き攣った笑いを浮かべる。



実験場内では参号機の起動実験が行われていた。
実験を行う技術者は殆ど参号機の開発者だ。
四号機が無くなったため、その開発者達も今はこちらを手伝っている。

弐号機の開発者達は、現在弐号機の修復に忙しい。
マグマの噴火を一人で防いでいたのだ。

その外部消耗も著しい物だったのである。

「トウジ君、準備は良い?」
ミサトがいつもの様に明るく尋ねる。

『・・・いつでもOKですわ』

トウジも心配していない。
これまでシンクロテストを散々繰り返していたのだ。

「実験開始」
ミサトの合図か高らかに響き実験が開始された。

「第1次接続開始、主電源接続」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フェイズ2に移行」
「パイロット零号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し」
「オールナーブリンク終了」
「絶対境界線まで後2.5」

「1.7」
「1.2」
「1.0」
「0.7」
「0.4」
「0.2」

「絶対境界線突破します」
「参号機起動しました。シンクロ率23.3%」

「なかなかの数値ね」
リツコが珍しく感心した声を発する。

「えぇ〜?シンジ君って初搭乗で70%超えてなかったっけ?」

「ミサト?あれはシンジ君が異常なの。フィフスは20%にも届かなかったわ。それにそんな自信を無くさせる様な発言は控えて貰える?」
「うっゴミン」

しかし、その会話はトウジにはしっかりと聞こえていた。

(やっぱシンジって凄かったんやなぁ・・・)

今後の戦闘のためとトウジはこれまでの使徒戦を何度か見ていた。
そしてシンジの凄さを今更ながら思い知らされ最初に殴り掛かった事を恥じるのだった。

その時、警報が鳴り響く。

「リツコォ〜なぁんか起動実験って呪われてない?」
「全くだわ」
起動実験の度に使徒が来る。

来なかったのはケンスケの時だけだが、その時は使徒は修復中だったのである。

溜息を吐きながら発令所に向かうミサトとリツコ。

トウジはそのまま待機を言い渡されていた。



その頃、警報が響き渡る第三新東京市内では、シンジとレイが施設の子供達をシェルターに誘導していた。

「早く!こっちへ」
「・・・急がないと危ないわ」
すっかり保父さんと保母さんになっているシンジとレイ。

シェルターで、なんとなく固まっている数人。
シンジとレイ、それとヒカリやヒカリと仲の良い女友達だ。

本来なら女の子だけで固まる所だが、レイがシンジに引っ付いているためこういう体勢になっている。
シンジ自体、女の子に人気があるため、ちゃっかりそれに便乗している者もいた。

「レイ、鈴原は大丈夫かしら」
心配そうにレイに話し掛けるヒカリ。

「・・・解らない」
基本的にレイは正直だ。

含んだ言い方や気休めは言わない。
顔色が青くなるヒカリ。

「今回は大丈夫だと思うよ洞木さん」
助け船を出したのはシンジだった。

「本当?!」
「トウジは無茶だけど無謀じゃないからね」
シンジの言葉に首を傾げるヒカリとレイ。

そんな二人の動作を微笑んでシンジは見ていた。

レイは女の子達と話しをしている。
シンジはこんな時、少しだけ距離を取ってレイを微笑みながら見ている事が多かった。

そして、そんな時はシンジの中のレイがシンジに話し掛けていたりする。

(・・・碇君)
(何?)

(・・・次ぎの使徒は危険だわ)
(別に大丈夫だよ、いざとなればLCLにすれば良いだけだし)

(・・・そうじゃないの)
(綾波?)
言い辛そうな感じを受けたシンジはレイを包み込む。

(・・・ぁっ)
(何を心配しているの?)
心地良い魂の快感を与えられたレイはあっさり陥落する。

(・・・次ぎの使徒は多分、碇君を目掛けて落ちてくるわ)
(そう言う事か)

そうだった。
次ぎの使徒はNERV目掛けて落ちてくると思われていた。
しかし、実際は最強の敵、つまり初号機を目掛けて落ちてきたのだ。

そして、今、使徒に最強と認識される者。
それはシンジに他ならなかった。



何故シンジがこれ程の力を有しているのか?
それは、リリスと融合した後、シンジはドイツのアダムとも融合したのである。
つまり、シンジの中にはサードインパクトを起こせるパワーが蓄積されているのだ。

では、ゲンドウが加持から受け取ったアダムと思っていた物は?
それはシンジが残した抜け殻だったのである。

シンジがレイの為に行っていた準備の中の一つである。
他には渚カヲルのクローンを破壊した。
故にゼーレもダミーシステムに期待しているのだ。

現在ダミープラグを作る術は無い。
しかし、その為にゼーレは更なる外道な実験も行っていた。
それは薬物による洗脳を施された子供によるシンクロであった。

それもシンジがダミープラグの開発を頓挫させたために実験の頻度があがったのだ。
シンジは次ぎにこれを頓挫させに向かう。
一応、自分の行動が元であるとの罪悪感からだ。

しかし、これはイタチごっこであった。
潰しても潰しても蛆の様に湧いてくるのだ。
シンジの情報網では、その拠点を探す事ですらかなりな労力を要した。

従ってその探索にはシンジはMAGIを利用していたのだ。
それでもゼーレの資産を食い潰す事にはなった様で、今ではゼーレもダミーシステムに期待していると言うわけである。



(下手をするとシェルターが巻き込まれるね)
(・・・えぇ)

「・・・シンジ」
少し悩んだ顔をしているとレイが話し掛けてきた。

「何?」
「・・・私にも話して」
レイはシンジがこう言う顔をしている時はシンジの中のレイと相談している事を知っていた。

「うん、次ぎの使徒の事なんだ」
そんなレイをシンジは邪険に扱ったりしない。

そしてそう言う時はレイと3人で解決策を練るのだった。



「使徒の状況は?!」
発令所に入るなりミサトは状況の説明を求める。

「現在、ここに向けて侵攻中です。形状は蜘蛛のような足と多数の眼を持っています」
「おぞましい形ね、身の毛がよだつわ」

メインスクリーンに映し出された、蜘蛛の様なその形状を見てミサトは愚か、リツコとナオコ以外の女子職員全員が身震いした。
それを見たマヤは(流石先輩ですぅ)と頬を染めていた。

「強羅防衛ラインに入ったら即、兵装ビルから砲撃。敵の攻撃手段を確認して!」
「了解」
ここに来てミサトも漸く、いきなりエヴァを出さずに偵察する事を身に付けた様だ。

「総員、第一種戦闘配置。迎撃用意」
冬月が戦闘命令を下す。

ナオコはゲンドウの席でゲンドウポーズを取っていた。
「・・・問題ない」

ギャグのつもりだろうか?
それを見た発令所の人間は冷や汗を流していた。

「迎撃用意」
「第三新東京市、戦闘形態に入ります」

自動的にシャッターがおり、道路にバリケードが作られていく。

「中央ブロック、収容開始」

不要なビルは地下に収納され、高層ビルには防御壁が覆っていく。
逆にジオフロント天井へ姿を見せる、ビル群。
天蓋を覆っていく装甲シャッター。
次々と天井から出続けるビル群。

「第6ブロック、閉鎖。全館収容完了」
「政府及び関係各省へ通達終了」

「第5から第7管区まで、迎撃システム、スタートします」

ホロディスプレイ上では道路から次々とミサイル・ランチャーが顔を出し、ミサイル群が偽装ビルへと装填されている。
続いて山林の山肌からもミサイル・ランチャーが現れ、来るべき目標へ向け方向修正に入っていく。

突如山肌から現れる使徒。
その足の長さに驚愕する発令所の面々。

山間部からの迎撃に対し、使徒は一足でその真上に到達すると、黄色い液を垂らす。

「節操ないわねぇ涎垂らしちゃって」
ミサトの呟きに誰も反応しない。

「強酸性の液体の様です。迎撃システムが溶かされています!」
マコトが被害状況を説明した。

「アスカ!聞こえた?準備は良い?」

『何時でもいいわよ!』

「トウジ君も出撃して貰うわ、訓練通りアスカの後ろから援護射撃をして頂戴!」

『任せたってください!』

リツコはそんな遣り取りに少し満足したのか、頬を緩ませていた。

「エヴァンゲリオン、弐号機、参号機発進!」
ミサトの号令と共に、強烈なGを受け発進される弐号機と参号機。

トウジは初めてのため、その衝撃に苦痛の表情を浮かべた。

『行くわよぉ〜!ジャージ!ちゃんと援護してよ!』
『おぉ、任せとけ!』

アスカがソニックブレイブを持って使徒に突進する。
トウジは、横から援護射撃を行った。

使徒の長い足が弐号機の横を掠める。

『くっ!』

使徒はその長い足を弐号機の遙か後方に付けると一気に弐号機の頭上に位置した。

『これじゃぁ接近戦が出来ない!ジャージ!パレットガンを投げて!』
『よっしゃ!受け取れ!』

トウジはパレットガンを弐号機の方に投げるが、かなり外れた所にパレットガンは落ちる。

『このノーコン!何処に投げてるのよ!』

使徒は弐号機の頭上から強酸性の液を垂らす。

『くっ!』

アスカは横に転がりながらトウジの投げたパレットガンを掴むと使徒に向かって一斉射を行う。

崩れ落ちる使徒。

マトリエルはあっけなく倒された。

『眼鏡よりは全然、役に立ったわよジャージ!』

アスカに褒められたが、一応親友であったケンスケを比喩に出されて苦笑するトウジだった。

「パターン青消滅。使徒沈黙しました」
「お疲れ様」
シゲルの報告を受けミサトもパイロットを労う。

然したる被害もなく殲滅された使徒。
NERV発令所内は、久しぶりに明るい雰囲気に包まれていた。

エヴァの回収が完了したその時、発令所内の電源が落ちた。

「あらあら停電?困ったわねぇリっちゃん大丈夫?」
「ダメです。予備回線繋がりません」
リツコの代りにシゲルが答えた。

「生き残っている回線は全部で1.2%。2567番からの旧回線だけです。残った電源をマギに優先的に回しますか?」
「そうして頂戴、リっちゃんとマヤちゃんは外部との接触回線の復旧を優先的にお願い」
ナオコが躊躇なく指示を出す。

既にターミナルドグマもセントラルドグマも維持する必要はない。
全電源をMAGIに回し全館の生命維持を最優先とさせた」

「これで加持君も面目が立つのかしら?」
ナオコの呟きを聞いて冬月は苦笑した。



停電から回復するまでに小一時間。
その間シェルターから出ることもままならなかった。

幸いシェルターは自家発電装置も備えている。

空調が止まると言う事もなかったが、外部への出入り口は外の電源が通っていないと開かないのだった。
シェルターに居る者達は、特に避難警報が解除された訳ではなかったので停電については知らなかった。

シンジ達も後からマヤに聞いて知ったのであった。

シェルターから出てヒカリは施設に戻ると、トウジの御飯仕度を行った。
無事かどうか解らない。
しかし、何の連絡も来て居ない今、帰って来たらお腹を空かしているだろうからと、準備をする事で不安を紛らわせていたのだ。

既に使徒殲滅から小一時間経っている事はヒカリも知らない。

「委員長、飯あるか?」
そこへトウジが帰って来た。

「鈴原!」
ヒカリは思わず眼に泪を溜めトウジに抱付く。

「な、なんや?委員長、どないしたんや?まさか誰か死んだんか?」
オロオロするトウジ。

ヒカリは首を横に振ると、泪を拭ってニッコリと微笑んだ。

「おかえりなさい」
「あ、あぁただいま。なんで泣いとんねん?」

「なんでもないわ馬鹿」
「馬鹿言うな!そう言う時はアホって言うんや!」

そして食事をがっつくトウジを微笑んで見ているヒカリ。

「な、なんや?委員長、なんか今日、変やで?」
目の前で頬杖を付いてトウジの食べっぷりを見て微笑んでいるヒカリにトウジも赤くなる。

「今日は出撃したの?」
「あぁバッチリや!まぁ惣流の援護やけどな。初戦にしたら上出来やろ。しゃぁけどほんまシンジは凄かったんやなぁって思い知らされるわ」

「碇君が?」
「あぁ、使徒の事を知るためにちゅうて何回か前のを見せてもろたんやけど、最初の時なんかシンジも初めてやったちゅうのに一撃やで?」

「そうだったんだ」
「綾波かて、最初に起動した時にちゃっちゃと動いとったしな」

「へぇ〜レイがねぇ」
トウジの話しをニコニコして聞いているヒカリ。

「あの二人のエヴァが壊れた、あん時の使徒っちゅうのはホンマ強かったんやろなぁ」
トウジはブルッと身体を震わす。

「鈴原・・・」
「ん?なんや委員長」

「死なないでね」
眼に泪を溜めて言うヒカリ。

「お、おぅ任しとけ!わいは死なへん!ゴホッゴホッ」
ポンっと胸を叩いたトウジは、その勢いで咽せる。

ヒカリは慌ててお茶を差し出すのだった。



「街の灯りが綺麗だね」
「・・・そうね」
(・・・人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきた)
苦笑するシンジ。

シンジとレイは施設から家路についている。
あれから子供達をシェルターから施設まで連れて帰っていたのだ。

手を繋いで歩く二人。

「・・・シンジ」
「どうしたの?」

「・・・私、今が幸せだと思う」
「そう?それは良かった」
本当に嬉しそうに微笑むシンジ。

レイは一瞬風に靡くシンジの長い髪と、そこにある微笑みに見入ってしまった。

「・・・だからこの先が怖い」
「この先?」

「・・・シンジの言う通りこのまま使徒が倒されて、サードインパクトが起こされると、この幸せがなくなる」
「じゃぁサードインパクトは阻止する?」
まるで、ゲームの電源を切るように簡単に言うシンジ。

「・・・出来るの?」
「起こそうと思えば今でもサードインパクトは起こせるよ。レイが望むならね」

「・・・シンジ」
「だからゆっくり考えればいいよ。使徒が全て倒されてサードインパクトを阻止した後にサードインパクトを起こす事も可能だしね」
シンジはレイの頭を撫でながら恐ろしい事を軽く口にするのだった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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