第弐拾弐話
せめて使徒らしく


『総員第一種戦闘配置、対空迎撃戦用意』

「使徒を映像で確認、最大望遠です」
第二発令所ではシゲルが映像をメインモニターに出す操作を行いながら報告した。

現在MAGIが大掛かりなオーバーホール中のため、こちらが使用されている。
同じ様な作りと言っても、何となく違う所が気になって遣り辛さを感じていた。

マヤなどは椅子の堅さに文句を付けている。
普段マヤは本来の発令所でMAGIの作業を行っているため尚更気になるのだろう。

「衛星軌道から動きませんねぇ」
マコトがこれまでの使徒の動きから状況を述べた。

「ここからは一定距離を保っています」
シゲルが補足する。

「どう言う事だと思う?」
リツコは、マコトの判断を仰いだ。

戦術的な判断はミサトの居ない今、マコトに委ねるしかない。
現在ナオコとキョウコは本来の発令所で作業を行っている。

「りっちゃん任せたわ」
その一言で済まされたのだ。

MAGIのオーバーホールの担当はナオコがカスパー、キョウコがメルキオール、リツコとマヤがバルタザールを担当していた。
リツコ&マヤのペアに二人とも遅れを取っていたのが、今回、ここに顔を出していない本当の理由であった。

一応、冬月はこの場に居るが、いつもの様に戦闘時はあまり役に立たない。

「降下接近の機会を伺っているのか、その必要もなくここを破壊できるのかだと推測されます」
自分の推測を述べるマコト。

「こりゃ迂闊に動けませんね」
愚痴の様な補足も付け足した。


「チルドレンを召集、弐号機にポジトロンライフルを装備させ射出、使徒に照準を合わせて!」
「了解」
リツコは、当面の防御として弐号機でポジトロンライフルを構えさせた。

「しかし、ポジトロンライフルじゃ射程外ですよ?」
「参本の矢って知ってる?」

「えぇまぁ・・・」
リツコの解答の理解に苦しむマコト。

そんなリツコと顔を見合わせてマヤは微笑んでいた。

前回の動きよりスムーズにポジトロンライフルを構える弐号機。
その動きにリツコ、マヤ、そして冬月も満足気な表情を浮かべていた。



シンジ達は久しぶりに学校に居て警報を聞いた。

トウジは非常召集により既に呼び出されている。
シェルターで施設の子供達が居る事を確認し、安堵するシンジとレイ。

今回の使徒についてはシンジとレイは余り心配して居なかった。

最悪ロンギヌスの槍を投げれば良い事は解っているし、ナオコもそれを知っている。
出来ればロンギヌスの槍は温存したい所だが、それは状況次第だろう。

それよりも最近は困った事がある。
シェルターに居ると言う状況が燃えさせるのか、消えるカップルが多いのだ。

これにはシェルターの警備員も困っていた。
なにせ数が多いのだ。
注意しても、これで死ぬかも知れないからとか言って個々の説得にも時間が掛かるのである。
結果、ある一定以上のエリアに入らない以上は放置されているのだ。

既にシンジとレイのバカップルぶりなど可愛い物と成り果てている。

「あぁぁ、世の中バカップルばっかりね。あんた達が可愛く見えるわ」
とはアスカの言であった。

居なくならないまでもシェルターのあちらこちらでは、二人で寄り添っている姿が目に付く。
人目を憚らず、口付けしている者や、なにやら男の手が見えない者達も居る。

人前ではせいぜい腕を組んでいるぐらいのシンジとレイは、大人しい方になってしまったのだ。

「なんか独り身が辛いわねぇ」
「・・・身体が疼くのね」

「レイ?あんたねぇもう少し違う言い方があるでしょ?」
「・・・何?解らないわ」

「こう、ボーイフレンドが欲しいとか、彼氏が欲しいとか、恋人が欲しいとかよ!」
「・・・そう、男が欲しいのね」

「アンタねぇ〜っ!」
アスカはレイの言葉に青筋を浮かべている。

その隣でヒカリはトウジの安否を気遣っていた。
ヒカリに助けを求めようと思ったアスカだったが、その姿を見て「こりゃ駄目だ」と肩を落とすのであった。

「アスカは、やっぱり加持さんが良いの?」
「そう言う訳じゃないけど、加持さん以上の男って居ないのよねぇ」

「まぁ加持さんはダブルスコアだしね」
「何よダブルスコアって?」

「歳が倍以上離れているって事だよ」
「愛があれば歳の差なんてっ!」
上を見上げギュッと拳を握り締めるアスカ。

「でも最近連絡取れないし、ミサトも行方不明だって言うし・・・あんた達何か知らない?」
「僕達もアスカもNERV関係で知り得る情報のレベルは同じだよ」

「そうよねぇ・・・」
アスカはそう言って遠い眼をした。

シンジは加持とミサトの事は知っていた。
しかし、敢えてアスカには知らせないでおくことにしている。

アスカも加持の素性については薄々感づいているはずだし、その関係で二人で逃げたのだと思ってくれるならそれで良いと思っていた。

何より、伝えたとしたなら、突っ掛られるだけだろう。
何故知ってるとか、勝手な事言わないでとか・・・

それなら知らない振りを続けた方が無難である。
アスカにしてみても別に死んでいる事を知ったからと言って、どうしようもないのだから。



「参号機パイロット到着しました」
「射出準備だけしておいて」

「了解」

「トウジ君、今回の使徒はまだ衛星軌道上に居るわ、だから貴方は使徒が迎撃範囲に入るまで待機、いいかしら?」

『了解ですわ』

「発進準備が整ったら、対空ロケットの発射準備、弾頭は試作Rを使用」
「了解」
リツコの言葉にマヤが答える。

「試作Rって何ですか?」
聞いたことが無い名前にシゲルが疑問を持った。

「ロンギヌスの槍を解析して、その性質をコピーした物よ。ロケット弾や兵装ビルの弾頭に付ける事が出来る様になっているわ。数はないけど」
「それって破壊力が凄いんですか?」

ATフィールドはATフィールドでしか破れない。
そう聞いているシゲルやマコトには、たかが弾頭を変えて何の意味があるのか解らなかった。

「見てのお楽しみよ」
リツコは笑って答えていた。

ここには、各国の技術者達も居る。
リツコも多くを語る事を控えたのだ。

「発進準備整いました」

「じゃぁ使徒のATフィールドへの到達時間を計算。全弾発射後、到達時間にポジトロンライフル発射。いいかしら?」
「了解」


「発射準備整いました」

「じゃぁ号令は日向君、お願いするわ」
「了解」

「対空ロケット弾、全弾発射!」
マコトが声高々に発射命令を発する。

「ATフィールド到達予想時刻まで、後10」
「9」
「8」
「7」
「6」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「ポジトロンライフル発射!」

号令と共にマヤがキーボードを叩く。

「使徒のATフィールドを確認。陽電子砲無効化されます」
「ロケット弾、12発ATフィールドに阻まれました。8発ATフィールドを貫通!」

「パターン青、消滅!使徒消滅しました!」

「ご苦労様。トウジ君、ごめんなさい今回は出番無しだったわ」

『了解です』

使徒は倒された。
あまりにあっけなく、使徒らしくなく。

「12発も阻まれたのはコピーだからかしら?」
「まだ試作で完璧なコピーじゃないからでは?」

「取り敢ずデータは保存しておいて」
「はい」
リツコは戦果が余り気に入らない様であったが当然データを取る事は忘れない。



『赤木博士、今回の使徒殲滅はどういう事かね』

「と、仰いますと?」

『使徒はエヴァでなければ倒せないのではなかったのかね?』
ナンバリングのみのモノリスから次々と質問が成される。

「ヤシマ作戦と同じ超長距離からの一点突破ですわ」

『衛星上の使徒は射程外ではなかったのかね?』

「そのためにロケット弾で威力を追加したのですわ」

『通常兵器で使徒が倒せると言うのは拙い』
『そう、国連内ではエヴァ不要論まで出ている』

「通常兵器・・・ではありませんわよ」

『なんだと言うんだね』

「ロンギヌスの槍のコピー・・・と言えばお解りになりますでしょうか?」
不敵な笑いを浮かべるナオコ。

モノリスからの声が途切れた。

それは諸刃の剣。
エヴァさえも殲滅できる武器である。

老人達は絶句していたのだ。
来るべき約束の時、最後の手段は量産型エヴァによるNERV襲撃である。
しかし、それが無効化されたに等しいのだ。

『何故、今まで隠していた』

「別に隠しておりせんわ。まだ試作段階で報告する段階に至っていなかっただけですわ」

『完成の目処は?』

「今回の成果は2/5、しかも陽電子砲のサポート有りです。まだまだですわね。後一月以上必要だと思われますわ」

『解った、今回の事は不問としよう』

『『『『全てはゼーレのために』』』』

モノリス達は次々と消えて行った。



「もう、あの爺さん達の相手も疲れるわ、今度キョウコ代わってくれない?」
「それは、司令の仕事ですわよ」
作業の手を緩めず態と物々しい言い方をするキョウコ。

現在、MAGIのオーバーホール中である。

流石に、ナオコもキョウコも活き活きとしている。
まだまだ現役作業が楽しいのだろう。

その傍らではリツコとマヤも黙々と奮闘していた。

今回のMAGIのリストアは、表向き内部機材を最新にするだけの物である。
しかし、その内実は、各々が今までのMAGI相当のポテンシャルが期待できる程のオーバーホールだったのである。
つまり、このオーバーホールが終るとMAGI3台分のパフォーマンスが期待でき、その相乗効果はMAGIタイプ5台でハッキングを試みても耐えられる予定であった。

従って、こちらも作業従事者はナオコ、キョウコ、リツコ、マヤの4人だけなのである。
他の支部にその内実を漏らす事は出来ないからだ。

基礎理論は今までと同じである。
しかし、所謂マルチCPUの様に例えばカスパーであればバルタザールとメルキオールをコプロセッサの様に持っているのだ。
同様にバルタザールはカスパーとメルキオールをメルキオールはカスパーとバルタザールをと言う具合である。

それを三者決議として本来のカスパー、メルキオール、バルタザールが行うと言うわけである。
大幅なメインバスの高速化とキャッシュメモリ、メインメモリの大幅な増設が成せる技であった。

4人が4人とも顔に油を付けて所々黒くしている。

「マヤ、休憩にしましょう」
「はい、じゃぁコーヒーでも淹れてきますぅ」

「私もお願いするわ」
「私も」
ナオコとキョウコも便乗する。

「進捗はどんな物かしら?」

「そうね、90%と言うところかしら?」
リツコの解答にナオコとキョウコが引き攣る。

「母さん達は?」

「わ、私は80%ってところね、キョウコは?」
「わ、私もそれぐらいかしら」

「やっぱり流石ね、私達は二人でやってるのに、そんなに変らないなんて」
マヤからコーヒーを受け取り溜息を吐くリツコ。

「やっぱり凄いですねぇ」
マヤも純粋に感動している様だ。

「そ、そう?」
「ま、まぁねぇ」
マヤからコーヒーを受け取り引き攣ったアイコンタクトを交わすナオコとキョウコ。

本人達は引き攣っているが、本当に凄かったのである。
本人達は大目に見積もって80%と言っているが実際それに近いのであった。

何故、この時期にと言う疑問が有るかも知れないが、実は、これもシンジの暗躍であった。

まず、ゲンドウが居るうちは大幅な予算をMAGIに充てる事が出来なかった。
更にはあまりMAGIを進化させて速くしてしまうとイロウルが心配だったのである。

MAGIの計算速度の速さはイロウルの侵食の速さと比例するからだ。

そして、今は最緊急を要する事項なのである。

666プロテクトはこちらからの外部アクセスも出来ない諸刃の剣である。
出来れば使いたくないと言うのが本音であった。

その為には、全世界のMAGIタイプを相手にしても勝てるだけのパフォーマンスが必要なのである。

「さぁ後少しだわ、やっつけちゃいましょ」
「はい!」

「やっぱり歳かしら」
「見た目は若いのだけれどねぇ」
キョウコの言葉にナオコが突っ込んだが顔を合わせた二人は微笑んでいた。



非常事態宣言が解除されシンジも使徒殲滅が上手く行った事を知った。
今回の使徒は衛星軌道上の使徒である。

「僕達の仕事も成果があったのかな?」
「・・・多分」
レイも確証がないため返事は曖昧だ。

今はマヤの家で二人寛いでいるところだ。
既に、アスカと三人で食事も済ませ、風呂も入り終わっていた。

アスカは食事を済ますと、少し話しをしたら、すぐ帰って行く。
大体レイの眼が早く帰れと言っている様に思えてくるからだ。

事実レイはいつもそう思っているが・・・

「次ぎの使徒は参号機自爆でやっつけてくれると助かるんだけどね」
「・・・そうね」
言ってる事は怖いが、何もトウジに自爆しろと言っている訳ではない。

次ぎの使徒で参号機が自爆すればNERVには弐号機のみとなる。
トウジが依り代とされる事もなくなるからだ。

「まぁ弐号機自爆となったら、後はトウジに頑張って貰えばいいだけだけどね」
「・・・それは心配だわ」
本当に不安そうに言うレイ。

「大丈夫だよ、最後は僕達で参号機を動かしても良いし」
「・・・そうね」
レイはほんのり頬を染めている。

僕達と言う言葉に反応したのである。
これはダブルエントリーを指しているのでは無く一つになってと言う事を指していると思ったからだ。

「・・・最後までエヴァが無かったら?」
「そのためのロンギヌスの槍のコピーだよ」

レイはそんなシンジにピトッとくっついて来た。
シンジもそんなレイの頭を撫でる。

漸く終局が近付いている。
シンジはそう考えていた。

レイが幸せになれば良いと言いつつ何故シンジが他にも色々と暗躍しているのか?

実は、それも全てレイの為であった。

まず、第壱拾七使徒まで倒すと、NERVはA−801を発令されるだろう。
それでNERV内のデータからレイの素性が公になる事が看過できない。
そうなるとレイが狙われるのは目に見えているからだ。

ならば、データを消してしまうと言う手もあるが、それでも逃亡生活は免れないだろう。
なんと言っても目立つ容姿だ。

それならばNERVを存続させるのが一番安全なのである。
その力を保持したままNERVを存続させる事が出来たなら、レイもNERVが保護出来るからである。

しかし、ゲンドウが居たならそれは、ままならなかったであろう。
シンジはNERVに来てからそれを痛感したのである。

初号機を失ってもシナリオに拘るゲンドウ。
シンジはゲンドウがレイに取って害とならないのなら別に殺すつもりはなかった。
シンジに取って全人類などどうでも良い話であり、それはゲンドウに通じる物がある。

しかし、ゲンドウは初号機が無くなってもレイを道具として使おうと考えていた。
それがシンジには許せなかったのだ。

では、何故、今は周りを護る様なスタンスを取っているのか?
それもレイの為に他ならない。
レイの知り合いが死ぬ事になればレイが悲しむからだ。

赤木親子やマヤについても同様である。



2006年、シンジが一人目のレイの元を訪れて1年が過ぎようとしていた。

最近、レイのお気に入りであるダクト内の少し広いところで二人は遊んでいた。
この場所は、下に人が通る事もない建物の配管通路にある。
大きな音をたてなければ、誰にも気付かれない場所だった。

レイのためにシンジは御菓子を一杯持ってきている。
それに懐中電灯の大きい物を数個。
携帯テレビに、TVゲームやマンガ、人形や玩具も結構持ち込んでいた。

シンジが来なくてもレイが一人で退屈しないように。

しかし、レイはシンジが来ない時に、そこに行く事は無かった。
レイなりにその秘密の場所が他人に見つからない様に気を付けていたのだ。

そしてシンジが来るとずっとシンジに引っ付いていた。

「・・・シンジ」
「何?」

「・・・どうしてここに来るの?」
「嫌だった?」

「・・・嫌じゃないわ、でもここに来るのは危険」
「だってレイ一人じゃ寂しくない?」

「・・・寂しい?解らない」
「そう?僕が来るのが嫌じゃなければ僕は来るよ」

「・・・どうして?」
「レイと居ると楽しいから」

「・・・楽しい・・・そうこれを楽しいと言うのね」
「僕はね」
そう言って微笑むシンジを見るとレイも我知らず微笑んでいた。

「・・・この前、所長に頭を撫でられたわ」
「こんな感じ?」
そう言ってシンジはレイの頭を撫でる。

気持ちよさそうに眼を細めるレイ。

「・・・この気持ちは楽しいではない?」
「どうだろう?気持ち良いかな?」

「・・・そう、私、気持ち良いのね」
「嬉しい?」

「・・・そうかも知れない」
レイはシンジの太腿に頭を付ける。

そんなレイの頭をシンジは優しく撫でていた。



(あの頃から頭を撫でられるのが好きだったな・・・)

シンジはそんな昔の事を思い出しながらレイの頭を撫で続ける。
レイはシンジの膝の上で寝てしまったようだ。

(あの頃もよくこうやって寝ていたな・・・)

そう思い出して思わず微笑むシンジ。

使徒は後2体のはず。
シンジは、ここまで上手く行っていると思っている。

準備も順調に進んでいる。

MAGIのオーバーホールにロンギヌスの槍のコピー。

政治的調整はナオコに任してある。
見た目中学生のシンジが交渉できるはずもないからであった。

できればA−801で攻め込まれないのが望ましい。
戦自に攻め込まれると、その被害も大きいからである。

(後、遣り残してる事はないかなぁ・・・)

(カヲル君がまた来るんだろうか?・・・)
(今度もきっと僕が殺してあげるよカヲル君・・・)

シンジは割り切っているつもりだったが、その顔は苦しそうであった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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