全てを飲み込む闇


「まったく…どう言うつもりかしら」

リツコは、端末の前で今日何度目になるのか解らない溜息を吐いた。
直談判に来たり、メールで知らせたり方法は様々であったのだが、シンジとマリ以外の全員が戦闘服のモデルチェンジを具申してきたのである。
しかも、その全てが今まで以上の露出と、訳の解らないデザインであったのだ。

原因は、多分マリが参戦した戦闘であろう。
マリの戦闘服のデザインは、着る必要があるのかと言える代物だったのだ。
上は、セパレートの水着とかわらず、マリの形の良い乳房が露になっており、下は、動くだけで下着が見えてしまう程のヒラヒラのミニスカートであった。

これにいち早く反応したのは、当然マナであり、自分に対する挑戦と受け取ったようだ。
そしてマリの能力が近接戦に有ったのも影響していた。
硬質化した爪で妖魔達を切り刻んでいくマリを、シンジが目で追っていたのが彼女達に危機感を覚えさせたのだ。

特に同じ様に近接戦闘を行うアスカは、露出が足らないのだと切実に思い込んでいた。
そして、特殊能力で中距離戦闘を行う、レイ、マナ、マユミや、後方支援であるヒカリについては、頭を悩ませる問題であった。
殆ど動きの無い自分達では、どうやって見せるかが問題であったのだ。

戦闘の場を、いかにセックスアピール出来るかで頭を悩ませる少女達に、それで良いのかと言いたくなるところだが、本人達は、真剣そのものである。
そのため、リツコが一番頭を悩ませたのは、全員が、もっと生地を薄くしろと言って来ている事だ。

因みに、それぞれの希望してきたデザインは、
レイが、白を基調としたレオタードの乳房と股間以外をメッシュにしたものにパレオ付き。
マナは、黄色を基調としたブラジャーと両側が網目となっているマイクロミニ。
マユミは、白を基調とした背中を大きく開け、スカートまで一体となったものだが、スカート丈は、膝上まで有るものの、両側は、腰までスリットが入ったもの。
ヒカリは、ピンクのナース服っぽい前回と変わらないデザインだが、背中を大きく開けてやはり両側のスリットを深くしている。
アスカは、細いベルトを胸と腰と股間に巻いただけに、お尻が大きく繰り抜かれたマイクロミニのようなものだった。

「もう、裸で戦闘すれば良いのに…」

アスカの希望したデザインを見て、リツコは呆れ返ってしまっていた。
しかし、アスカのデザインを見た他のメンバーが更に注文を付けるのは、目に見えている。
仕方ないと、リツコは、全員を呼び出す事にした。



シンジの性格と言うか、対人態度は以前から比べると大きく変わったと言えるだろう。
以前は、シンジ自身、周りに流され、されるがままと言うのがスタンスであったが、今は護ると思っている者達が居るのが大きい。
彼女達のために、シンジは、流される訳には行かないのだ。

学校では、シンジにちょっかいを掛ける者は、今では、皆無である。
例え、シンジ一人を呼び出しても、彼女達は放っておかない。
シンジ自身、人間など束になっても敵わないのだが、だからと言って黙って見ている彼女達では無いのだ。

しかし、未だにそれを認識していない者も居た。
惣流アスカ、ムサシ・りー・ストラスバーグ、浅利ケイタ、鈴原トウジである。
だが、相田ケンスケが戦線離脱してしまった為、彼等には情報が入って来る術が無かったので、自らの鬱憤だけが溜まっていた。

「人とは、愚かな者なのだな」
「どうしたの?アスカ」

相変わらず敵愾心丸出しで睨みつけている、惣流アスカ達を見て呟いたアスカにヒカリが尋ねた。
授業中でなければ、アスカとマナは後ろを向いているため、全員がシンジを中心に話をしている状態である。
マナは、机の上に座り椅子の背もたれに足を乗せてピラピラとスカートを捲ってシンジにアピールしている。


「いや、またお誘いだ」
「放っておけば良いのよ。ね?シンジ君」

「僕に振らないでよ」
「シンジ君は、最近お誘い無いね」

「漸く無意味だと解ったと言う事だろう」
「で、どうするの?」

「ちょっと相手しくるかな」
「付いて行く?」

「大丈夫だろ」
「だ、駄目だよ。何が有るか解らないじゃないか」

「ふふ、シンジは優しいな。しかし人間如きに遅れは取らんぞ?」
「それは解ってるけど…」

放課後、アスカは呼び出された体育館裏に行ったが、待ち構えていたのは間違っても告白しようと言う人間では無かった。

「それで、私を呼び出したのは、貴様か?シエル」
「えぇそうですよ」

アスカの前に立っているのは、ショートヘアーだが揉み上げのところだけを顎まで伸ばしている碧眼の少女だった。
カトリックの宣教師のような格好をした少女を、アスカはキッと睨みつけた。
その手は、今にも武器を携えようとしている。

「あぁ、勘違いしないで下さい。今日は、少し尋ねたい事が有りましたので」
「尋ねたいこと?」

「はい」
「この街にロアでも出現したか?」

「いいえ、ネロ・カオスがこの街に侵入したと言う情報を得ました」
「ネロか、誰を狙っているのだ?」

「それが解らないからの情報集めです。心当たりは有りませんか?」
「逃げ込んだ。と言う訳では無いのだな?」

「はい、少々奇怪な状況で、こちらの情報では真祖の姫君を狙っていると掴んだのですが」
「アルクェイドをか?それはまた無謀な」

「私もそう思いますが、それよりも、この街は随分と吸血種が居るようですね」
「もし、アルクェイドに会ったら教えてやってくれ」

「何をでしょう?」
「マスターを得れば吸血衝動に駆られなくて済むとな」

「マスターですか?」
「あぁ」

「それで、貴女も吸血衝動が無くなったと?」
「無いな。しかも眷属にも無いようだ」

「それでは、私の仕事が無くなってしまいますね」
「この街には、貴様の手に負える仕事は無いだろうな」

「力量的にと言う事ですか?」
「あぁ、この街は使徒と戦っている。異端狩りとしては、使徒も異端のうちか?」

「シト?吸血種の事では無く?」
「あぁ、神の使いの方だ。ん?待てよ?成る程、もしかしたらネロは妖魔、あわよくば使徒を取り込むつもりかもしれないな」

「出来るのでしょうか?」
「妖魔なら出来るかも知れないな」

「解りました。貴重な情報有難う御座いました」
「帰るのか?」

「はい、少し情報を集めに来ただけなので、私は戻ります」
「そうか、もしネロと遭遇するような事があればこちらで葬ってしまう事になるだろう」

「随分あっさりと仰るのですね」
「もし遭遇したならな」

アスカの言葉に「随分信頼されているのですね」と言う言葉を残し、シエルは、大地を蹴った。
その身体は、建物の上まで飛び上がり、まるで飛ぶようにその場を蹴って去って行く。
その姿は、あっと言う間に見えなくなってしまった。

「今のは?」
「埋葬機関の者だ」

「埋葬機関ってなんですか?」
「教会の異端狩りを行う組織だ」

「じゃぁ、私達を狩りに来たと言う事ですか?」
「いや、今回は、その気は無いらしい。まぁ今の私達では彼女は敵では無いがな」

あまり死徒について詳しくない、マナやマユミ、ヒカリが其々アスカに質問をするが、今一つ理解が出来なかった。
これは、ここで問質す話では無いと、3人は深く追求する事は無かった。
しかし、シンジとしても、これは後で聞いておく必要があるかなと今夜の予定に組み込んでいた。

「…埋葬機関…」
「レイ?何か気になるのか?」

「…いえ、問題ないわ」
「そうか」

レイの態度が気になったアスカでは有ったが、こちらもこんな所で話す事では無いと追求しなかった。
一応この中では死徒として長く生きてきたレイ、アスカ、マリは、気にしないでいられると言う話では無い。
こちらの3人についても、シンジと同様、帰ってから方針ぐらいは決める必要が有ると考えていた。



「それで、どう言ったご用件でしょうか?」

リツコに呼び出された、シンジは、機嫌が悪い。
今の生活に慣れて来ていたのと、今日は、皆で話し合いたい事があった為だ。
シンジも死徒の事については、多くを知らないためである。

「まず、これを見て頂戴」

リツコは、皆が出して来た、戦闘服のデザイン変更案をプロジェクターに映し出した。
それを見て「ちっ」と舌打ちする者や、「うんうん」と頷く者。
シンジは、特にアスカのデザインを見て、アングリと口を開けていた。

「皆が個性を主張したいのは、解るけど私もこればっかりに掛かっている訳にはいかないのよ」

「心労、お察しします」とシンジは、思わず言ってしまいそうになっていた。

「それでね、出来れば2パターンぐらいにして貰いたいの。マヤ、見せて上げて頂戴」
「はい、先輩!」

そして、マヤが出して来たものは、NERVってデザイナー雇ってるの?と言う程、斬新なデザインであった。
色は、好きに出来ると言う事で、線だけのラフ画なのだが、今までのデザインとは一線を画していた。

一つは、ブラジャーの肩紐が革ベルトになっている物で、乳首ははみ出ない程の大きさである。
その肩紐のベルトのラインでスカートまで繋がっており、スカートはミニのタイトスカートであった。
スリットは、深く、ベルトの位置まで有る。
スカートの両側は、スリットになっており、スリットの上がやはり革ベルトでブラジャーまで繋がっている。

次は、首輪の様なところから前に伸びており、背中は全く開いている。
首から腰に掛けて二つの楕円が有るような感じで、お臍は丸見えとなる。
スカートは、ロングスカートに見えるが、両脇のスリットは裾に行く程広く、前と後ろに足首までの三角の布が有るような感じだ。

そして最後は、ホットパンツ型だが、隠しているのは乳首と陰部と言う感じで、後は網目となっている。
メッシュではなく、大きな網目なのだ。
こちらは、ブラジャー部に肩紐が無い。
下着は、どうするのだろうと言うデザインである。

シンジを除く女性陣は、うーんと感嘆の息を漏らしていた。
ヒカリは、看護婦っぽいのが無いので少し不満らしいが、これも良いかもとか言っている。
リツコは、女性陣が真剣に見ている事で安心したのか、ホッとした顔をしていた。

「後、これはオプションよ」

そう言って出されたのは、大き目の網のストッキングと手袋であった。
ストッキングは、ガーターベルト式らしい。
手袋は、二の腕まで有る。

ストッキングと手袋は、既に人数分出来ていたらしく、女性陣全員に配られた。
色は、黒である。
これは、後で何着か色違いを作る予定だとリツコは説明した。

「あの〜、僕のは無いのですか?」
「え?ストッキング?」

「いえ、戦闘服の方ですけど」
「貴方も露出したいの?」

「いえ、換えが欲しいかなって」
「解ったわ」

シンジの要求をリツコは、快諾した。
同じ物なら、それ程手間は掛からないのだ。

「全部作るって出来ないんですか?」
「時間が掛かるわね。それに要らないデザインも有るでしょ?」

リツコの言葉に6人は、シンクロして頷く。
マナは、ロングは要らないし、マユミやヒカリはホットパンツは要らないのだ。
勿論、シンジがそれが良いと言えば、その限りでは無い。

結局、マナとレイがミニスカート、マユミとヒカリがロング、アスカとマリがホットパンツと綺麗に分かれる事となった。
次点として、マナがホットパンツ、レイがロング、その他がミニスカートと言う事であった。
と言う事で、ミニスカートがまず6着作られる事になり、その後ホットパンツとロングが作られると言う事で、話は落ち着いた。

これで、シンジ以外は、3着ずつと言う事になる。
取り敢えず、全員満足したようで、リツコもホッと胸を撫で下ろしていた。
全く違うデザインで6着作るのは、かなりな浪費であり、労力も必要なのだ。
結局3種類と言う事なので、労力が半分程度に収まるのでリツコは、この結果に満足していた。



今日は、マヤも一緒に帰る事となった。
普段、マヤは皆より帰りが遅いため、殆どNERVの食堂で夕飯を取って帰って来るのだが、今日は皆と一緒に食事となる。
家に着くと、皆、思い思いの格好となるが、マヤは、依然決められたコスチュームだ。

普段、食事時は、メイド達が給仕を行うためそれなりの服装である事が多い。
それでも、下着が見える事に頓着はしていないのだが、マヤだけは、家の中では常時全裸に近い。
マヤが家で食事を取る時は、何時もの格好で犬の様に食べさせられている。

そして、全員で食べる今日は、マヤは、テーブルの下で、椅子に座るシンジの足元で犬の様にお座りをしていた。
既に、潤んだ瞳でシンジを見上げるマヤに、シンジは食べ易い大きさにした物を手で与えている。
マヤがシンジの手から、食べ物を口だけで取ると、シンジはマヤの頭を撫でる。
それを、マヤは嬉しそうに食べていた。

「なぁ〜んか、マヤさんって結構良い思いしてない?」
「羨ましいです」

マナがジト目でシンジの方を見、マユミは本当に羨ましそうにフォークを咥えて見ていた。

「難しいところだな」
「何が?」

「全員がマヤの様にシンジに食べさせて貰うと、シンジが食べる暇がない。かと言って順番と言うのもどうかと思うしな」
「私は、口移しが良いなぁ。租借した物を流し込んで貰うの」

「そ、それは、またコアですね。私は普通に咥えているのを口移しが良いかな」
「成る程、口移し派と、犬派が居ると言うことか」

なんかシンジとしては、嫌な方向へ話が進みそうだったので「そんな事、論議しないでよ」と中断したつもりだったが、「じゃぁ君はどんなのが良いの?」とマリに駄目押しを食らってしまった。

「ぼ、僕は、皆が望むようにしてあげたいと思っているよ」

サクサクと墓穴を掘ってしまったシンジに、「じゃぁ問題が無いだろう」とアスカは、ニヤリと笑うのだった。
一応結論から言うと、レイ、ヒカリが口移し派で、マリがコアな口移し、マナ、マユミ、アスカは犬派であった。
何か意見が分かれても綺麗に3:3になるなぁとシンジは、変な処で感心していた。

皆がエスカレートしなかったのは、昼間の出来事があったためだが、それを知らないマヤは、何か何時もと違う雰囲気を感じていた。
それでもマヤは、シンジに頭を撫でられたり、胸を触られたりするのが嬉しくてシンジの脚にゴロゴロとしている。
食後のお茶で一服した後、シンジが切り出した。

「それで、今日アスカが会ってた人の事を教えて貰いたいんだけど」
「うむ、その話をする前に、死徒と呼ばれる物の成り立ちを、説明しないといけないだろうな」

そう言ってアスカは、語り始めた。
この世界には、人間と呼ばれる以外の異端と呼ばれる者が存在すると言う事を。
魔術師が属する協会と言われる物の存在。
旧教の教会のなかで、人に害成する人以外の者を異端と呼び、排除する事を目的とした埋葬機関の存在。

死徒と呼ばれる者の中には、真祖と呼ばれる産まれた時からの死徒と、死徒に血を吸われて死徒となった者がおり、その中で、二十七祖と呼ばれる真祖がいたが、それは真祖の姫君と呼ばれる処刑人アルクェイド=ブリュンスタッドが殆ど殲滅してしまっている事。 レイ、アスカ、マリは、真祖には違いないが、そちらの系列では無い事。

シンジ、マナ、マユミは、それらの話を聞いて頭が飽和状態となっていた。
そして、今日会ったのは異端狩りを単独で行う権限を持った、教会の埋葬者と言う事だった。
カソックを着て、火葬式典と鉄甲作用を複合させた黒鍵と言う武器を使う彼女は、妖魔すら倒せるだろうと言う事であった。

「800年〜っ!!」

アルクェイドが800年前から存在すると聞いて、マナ、マユミ、ヒカリは大声を出して驚いた。
そこで、シンジは、ふと疑問を感じ、止せば良いのにレイに声を掛けた。

「じゃぁ、綾波って幾つなの?」
「シンジ…女性に歳を聞くのは失礼と言うものだぞ」

「あっ、その、ごめん」
「…構わない。でも私が何歳なのかは解らない」

「そ、そうだよね」
「…神々との戦闘で傷ついた私は、この極東の地まで逃げ延びて眠りに付いた。ただ、以前起きた時は、邪馬台国と言われていたわ」

レイの言葉を聞いて、マリとアスカ以外は、ポカンと口を開けていた。
邪馬台国と言えば1000年以上前だし、神々との戦闘と言うならキリスト誕生以前どころか紀元前何年と言う話しになる。
そもそも神々などの存在は、神話以外に残っている記録など無いのだ。

「と、取り敢えず歳の話は、置いておいて、それで僕達に取ってその人は問題なのかな?」

なんとか話を元に戻そうとしたシンジだが、アスカからは、解らないと返って来た。
異端狩りと言う意味では、自分達も当然対象とされるだろうが、シエルと言う女性の行動原理はよく解らないと言うことだった。
ロアと言う者には、執着しているようだが、人に害なさなければそれほど積極的に死徒を狩っているようには見えないと言う話である。

「じゃぁ臨機応変とするしか無いって事かな?」
「そうだな。しかし、全員の意識を合わせた事は有意義であっただろう」
「じゃぁ、今日のお話は、もうお終いですね」

そう言うとマユミは、そそくさと服を脱ぎ始めている。
話の最中でも、シンジに頭を撫でられているマヤを羨ましそうに見ていたので、我慢出来なくなっていたのであろう。

「うむ、そう言う事だな」

アスカの言葉と、全員が全裸になってシンジに抱きつくのは、同時だった。



「久しぶりの戦闘だね」

現在、妖魔が出現したと言うことで、シンジ達は、現場へ移動中である。
女性陣は、新しい戦闘服をあれやこれやと批評している最中で、全く緊迫感が無い。
マリは、元の方が良かったかもと言っている。

スカートの長さが気に入らないらしい。
他の者達は、概ね好評なようだ。
ただ、全員でシンジに向けて下着を見せつけるのは、止めて欲しいと思っていた。

例のオプションのため、全体的にかなり扇情的になっているのだ。
最近では、皆、下着が殆どシースルーか薄いシルク物である。
これは、シンジが前にアスカの下着を見て、「水着みたい」と言ったのが原因であった。

リツコでは無いが、シンジも「だったら履かなきゃいいのに」と思っているのは、口が裂けても言えない。
言えば、確実に全員下着を脱ぎだす事は、目に見えているためだ。
シンジは、「似合ってるよ」と言うのが精一杯であった。

「あれってこの間の?」
「そうみたいだな」

シンジ達が到着すると、例のカソックを着た少女が、飛び回っている。
確かに戦闘力は、高いようだ。
投げつけた黒鍵一つ一つが、直径3メータ程のクレータを作っている。

「なんか妖魔じゃ無いのが混ざってるみたいだけど」
「あれがネロだ」

それは、フランケンシュタインの様に大きく顔中傷だらけの男だった。
ただ、その男が戦闘しているようには見えない。
自身から伸びている黒い染みのようなものを妖魔の方まで広げ、妖魔がそれに抗っているように見える。

夜でも更に黒く見えるその染みは、所々獣の形を取っていた。
黒い獣達は、妖魔を黒い染みに引きずり込もうとしているが、妖魔も触手を伸ばし、本体である男に攻撃を行っている。
だが、その攻撃が当たってもネロは、少しも怯んだ様子もなく立っていた。

シエルの方は、飛び回って妖魔の攻撃を避けながら、妖魔に攻撃を浴びせているのだが、致命傷には成っていない様子だ。
黒いカソックがボロボロに敗れているのは、妖魔からの攻撃を受けたか、ネロからの攻撃を受けたかなのだろう。
少なくとも二人が共闘しているようには、見えない。

不思議なのは、それ程ボロボロになっているのに、そこから覗く素肌に傷が見えない事だった。
暫く見ていると、ボロボロになったカソックが邪魔になったのかスカート部分を自ら破り捨てる。
そこには、傷一つない素足が見て取れた。

「シエル!」

アスカが、シエルを呼ぶと、シエルはそれに気付いたのか、妖魔達の攻撃を掻い潜りシンジ達の下へ逃げて来た 。
その期を逃さず、シンジが指示を出す。

「綾波!マユミ!お願い!」
「畏まりました」
「…解ったわ」

レイの冷気の刃と、マユミの風の刃が大量に要る妖魔を一閃する。

「皆!使徒が居るかも知れないから気をつけて!」

その言葉に頷くと、ヒカリとシンジを残し、皆、妖魔の群れの中へ突っ込んで行った。
シンジは、聞いておきたい事があるとシエルの方を向いたが、その扇情的な容姿に顔を背け、自らのコートを渡した。
シエルのカソックは遠目で見るより、はるかにボロボロで、胸や腹部も露になっており、下着も丸見えであったのだ。

「怪我、なされてないのですね」
「えぇ、私は死神さんに嫌われてますから」

ヒカリの言葉に、ニッコリと微笑みながら答えるシエルに、シンジは、何故か不条理なものを感じていた。
怪我と死神と何の関係があるの?と言うところなのだろう。
しかし、実際シエルは、人であれば致命傷となる攻撃を受けていたのだ。

「それで、あれがネロ?ですよね?」
「はい、そうです。アスカさんの仰ったようにやはり、妖魔を取り込むつもりだったようです」

「妖魔を取り込む?」
「ネロは、666の獣達を内包した複合体です。しかし、上手く行かなかったようですね」

「あの染みみたいなのが?」
「はい、あれこそが、ネロが他を取り込むための「創生の土」です」

そのネロは、レイ達の介入により「興がそがれたな」と言いながら逃げていくところであった。
劣勢と見えていたが、本人は、そのつもりでは無かったらしい。

「赤木さん、使徒は?」
『居るわ』

「位置は解りますか?」
『それが、シンジ君達から北西約2キロ先に直径680メートルで反応があるのよ』

「そんなに大きいって事ですか?」
『解らないわ、ATフィールドだけが大きいのだとこちらでは予測しているわ』

そう言われて、北西の方を見ると、先ほどのネロの創生の土のような漆黒が広がっている。
だが、シンジにはそこに攻撃される気配が感じられなかった。
寧ろ、レイ達が対応している妖魔の方が、敵意と言う意味では大きい物を発していた。
「皆、聞いたね?北西には近付かないように」
『『了解』』
『ラジャー』
『イエッサー』
『…解ったわ』

誰が誰か解り易いと言えば解り易いが、シンジが苦笑していると、ヒカリもそれが解ったのか曖昧な笑いを浮かべていた。
未知の物に、愛しい人達を向かわせる訳には行かない。
自分が、行って見るしかないかとシンジは考え、行動に移した。

「じゃぁ、僕は、そっちに行ってみるよ」
「気を付けてね。シンジ君」

ヒカリの言葉に一つ頷くと、シンジは妖魔の屍の中を、北西に向かって歩き出した。

「あの方が、マスターさんですか?」
「マスターさん?あぁ、アスカさんが、そんな事を言ってましたね」

「貴女は?」
「私は、シンジ君に隷属する者です」

「吸血衝動は、無いのですか?」
「何ですか?それ」

「血を吸いたくは、成りませんか?」
「えぇえ?考えた事もないですよぉ」

そう言ってケラケラ笑うヒカリに、シエルは不条理なものを感じていた。
自分の認識する吸血種は、多かれ少なかれ血を吸う事が前提なのだ。
ネロの様に食べ散らかす者も居るが、人間を殺すと言う意味で同じ者と捕らえていた。

(私の価値観が壊れて行きますねぇ)

自分が苦戦していた妖魔の群れを、いとも容易く殲滅していくアスカ達を見ながら、シエルがカルチャーショックを受けている頃、シンジは目の前の状況に困惑していた。
前方10メートル程先から向こうは、500メートル程の平坦な空間が広がっていたのだ。
周りには、瓦礫や、崩れたビルなどが散乱していると言うのに、その空間だけ平らで何も無い。

リツコの言っていた680メートルと言うのが、ここなのだろう。
シンジの目には、その中心辺りの空中に人型が浮かんでいる様に見えている。
多分立っているのだろうが、全体が黒いため浮かんでいるように見えるあれが、本体なのだろうと思ったが、この異様な空間を進むことが躊躇われた。

「何をしているのだ?」

妖魔達を殲滅し終えたアスカが横に来て、シンジの様子に声を掛けた。
レイ達も、シンジの横に次々と寄って来る。

「うん、今までの様に攻撃的な物を感じないんだ」
「…でも異常」

「なんか、気味悪いですねぇ」
「待っている?」

「では、ちょっちマナちゃんが牽制を!きゃぁ」
「「「「「「マナ!」」」」」」

マナが前に走り出て、中心に居る人型に向かって炎を叩きつけようとしたその時、マナの足元に黒い影が浮かび上がり、マナがその中へ吸い込まれて行こうとしていた。
マユミが風で浮かび上がらせようとしたが、黒い影の下に風を入れる事が出来ず沈み込む速度を緩めたものの、浮かび上がらせるに至らない。
シンジも拒絶しようとしたが、マナが真っ二つになってしまうかも知れないと、力を使えなかった。

マユミが必死に風により浮かび上がらせようとしているのか、マユミの顔には汗が浮かび上がっている。
シンジは、マナを飲み込もうとしている黒い影が自分達の方へ広がって来ている事に気が付いた。

「皆!下がるんだ!」
「でもマナが!」

「マユミは、僕が抱えていく!マユミ!出来るだけマナを浮かび上がらす事に集中して!」
「はいっ!」

シンジは、マユミを抱えて下がっていく。
レイ、アスカ、マリもそれに続いた。




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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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