第七話
三十路の決戦


発令所のメインモニターには第三新東京市付近の上空が映し出されていた。
正八面体の形態をした巨大な飛行物体が、その姿を現す。

ミサトがその様相を見て呟く。
「いきなり現れるとはね、迎撃システムの稼働率は?」

「余り芳しくありません20%強ってところです」
「どうせ通常兵器では役に立たないわ、エヴァで直接調べるわ」
ミサトはそう言うとバッと羽織っていたジャケットを脱ぎ颯爽と発令所を後にする。

そんな姿をマコトは頬を赤らめ尊敬の眼差しで見詰めていた。

『エヴァ初号機、発進!』
ミサトからの号令が通信を伝わり発令所に響く。

「使徒内部に高エネルギー反応を確認、収束中です」

『何ですって!』
シゲルの報告にミサトは叫んだ。

「まさかっ・・・加粒子砲!?」
プラグスーツに白衣を羽織っただけのリツコの口から不可思議な兵器の名前が飛び出てくる。

『ロックボルトで動けない!』
避けようとしたミサトが叫んだ。

次の瞬間、オペレータが機転を利かし初号機前方に遮蔽壁を出したが一瞬で溶け、加粒子砲が胸部に直撃、ミサトの叫び声が発令所を埋め尽くす。

『ぎゃああああああ!!!!!!!』

唖然とする発令所。
シンジだけはニヤリと笑っている。
そんなシンジをレイは辛そうな表情で見ていた。

「早く下げてっ!!」

リツコが喚く。

『あああああああああああああ!!!!!!』
下がっていく時に胸から顔にかけて加粒子砲を浴びる。

『あうううぅぅぅぅ・・・』

ミサトは意識を失った。

「パイロット心音微弱」
「心臓停止しました!」
「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」
オペレータの報告にリツコが急いで指示を出す。
良くも悪くもミサトは未だ親友なのだ。

(死なせない)
リツコはそう心の中で呟いていた。

「駄目です!」
「もう一度!」
リツコの声は大きくなる。

「パルス確認!」
「心臓活動を開始しました!」
「プラグの強制排除急いで!」
ケイジに着いた初号機からエントリープラグが排出される。

「LCL緊急排水」
「はい」

「日向君、敵生体の調査をダミーバルーンや兵装ビルを使って調べておいて」
ミサトが救護班に担ぎ出されたのをモニターで確認したリツコはマコトに指示を与えミサトの元へと向かった。


「・・・シンジ、初号機に乗って使徒を殲滅しろ」
「作戦が決まったらね」
「・・・何?」
「だって今見た様にそのまま出撃したら狙い撃ちだろ?」
シンジは馬鹿かこいつと言う様な蔑んだ眼でゲンドウを睨み言い放つ。

「碇、ここはシンジ君の言う通りだぞ」
「・・・日向二尉、敵生体の調査を終えたら作戦を立案しろ」

「はいっ」
突然振られたマコトは慌てて返事をした。



ICUに横たわるミサト。
リツコは計器をチェックすると生命には異常がないと判断した。

投薬の状況から目覚めるのは夕方頃になるだろう。
リツコはミサトの酸素マスクを付けた寝顔を見ながら

「何をやっているのかしらね、私達は」
と呟くのだった。



「これまでに採取したデーターによりますと目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと思われます。」
マコトはミサトの病室で報告していた。
ミサトはベッドで起き上がり、報告書を眺めながらマコトの話を聞いている。

作戦立案を言い渡されたマコトだが、どうにもならず、気が付いたと報告があったミサトの病室に一目散に相談に来ていたのだった。

「エリア進入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち・・・エヴァぁによる近接戦闘は危険過ぎるわね」
ミサトは相当不利な状況にいる事が分かり額に汗を浮かべた。

「ATフィールドは?」
「健在です。相転移空間が肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています」

独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したビデオが再生された。
マコトは敵生体の調査を行った時の映像も持ち込んでいたのだ。

「爆撃、誘導火砲のような生半可な攻撃では、痛い目を見るだけですね。こりゃ」
「攻守ほぼパーペキ、まさに空中要塞ねぇ・・・で、問題のシールドは?」

「現在、目標は我々の直上、第三新東京市Oエリアに侵攻、直径17・5メートルの巨大シールドがジオフロント内のネルフ本部へ向かい、穿孔中です」
使徒とシールドの図解をミサトに見せる。

「敵はここ、ネルフ本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」
「しゃらくさいわね。で、到達予想時刻は?」

「明日午前0時6分54秒。その時刻には、全ての装甲防御を貫通してジオフロントに到達するものと、思われます」
壁に掛かっている時計を見るミサト。

「後10時間足らずか・・・初号機の状況は?」
ミサトはケイジに居ると聞いたリツコに携帯で電話を掛ける。

『胸部第3装甲まで見事に融解、でも機能中枢をやられなかったのは不幸中の幸いね』
『後3秒照射されていたらアウトでした』
リツコの解説に続けてマヤが付け足す。

『3時間後には換装作業終了予定よ』

「零号機は?」

『再起動自体には問題は有りませんが、フィードバックにまだ若干の誤差が残っています』
『実戦は・・・』

「まだ無理か・・・」
ミサトは大きく息をつき、携帯を切った。

「如何します?白旗でも揚げますか?」
マコトが冗談を言う。

「ナイス・アイデア!・・でもその前にチョッチやってみたい事があるの」
「やってみたい事ですか・・・」

ミサトの顔には少し笑みが浮かんでいた。



司令室で、ゲンドウと冬月の前にマコトは立っていた。

「目標のレンジ外、長々距離からの直接射撃かね」
「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー集束帯による一点突破しか方法はありません」

二人に対峙するはマコト。 ミサトから授かったその作戦を認めて貰わなければならないためその表情も厳しいものとなっている。

「MAGIはどういっている?」
「MAGIによる解答は、賛成二、条件付き賛成が一です」

「勝算は8.7%か」
「もっとも高い数値です」

ここでゲンドウが眼鏡を光らせ、言う。

「反対する理由はない。存分にやりたまえ、日向二尉」
「はい」

「エヴァにはサードを乗せろ」
「はっしかし、葛城一尉が既に準備しておりますが」

「碇、今は無理にシンジ君は乗せられないぞ、何よりシンジ君は射撃の訓練すら受けておらん」
「・・・くっ解った、パイロットは現状で構わん」
「はいっ」



「しかしまた、無茶な作戦立てたものね、葛城作戦課長さん」
「無茶とはまた失礼ね、残り九時間以内で実現可能。おまけにもっとも確実な作戦なのよ」
「これがねぇ」
リツコはミサトの脈を取りながらそう言った。
その目線にはミサトの考案した作戦要項が置かれている。

「8.7%がねぇ?あの使徒のATフィールドを撃ち抜くのに要する出力は最低1億8000万キロワット・・・そんな出力、うちのポジトロンライフルじゃ持たないわよ。いったいどうする気?」

「決まってるじゃない。借りるのよ」
「借りるって、まさか?!」
「そ、戦自研のプロトタイプ」
ミサトはベッドに起き上がった体勢のままリツコにウィンクした。



その頃、マコトは輸送班を引き連れ筑波にある戦略自衛隊研究所に来ていた。

「以上の理由により、この自走陽電子砲は本日15時より、特務機関ネルフが徴用いたします」
「だがしかし、かといってそんな・・・」
あまりに突然なことにしどろもどろの責任者。回りには白衣の研究員。

「可能な限り原形をとどめて返却するよう努めますので。では、ご協力感謝いたします」
マコトはそう言うと、連れてきた作業員に指示を出し自走陽電子砲を徴収して行った。



「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えいたします。今夜午後11時30分より明日未明にかけて、全国で大規模な停電があります。みなさまのご協力をよろしくお願い致します。繰り返しお伝えいたします・・・」

ピンポンパンポン、という調子外れの音と共にテレビに映った映像を見て、トウジはヒカリと顔を見合わせた。
ヒカリはトウジの家に来ていたのだ。
ケンスケはそれを留置場で見る事になった。
未だ取り調べ中なのである。

駅前の電光掲示板には停電のお知らせが流され、街中では政府広報車がメガホンを使って停電をしきりと知らせてまわっている



「敵シールド、第7装甲板を突破」
「エネルギーシステムの様子は?」

無数に映し出されている小型モニターの画面では、居並ぶ架空送電鉄塔、森や街中を走る電源コードの束、巨大なドラム型のコンセントなどが動いており、それぞれ二十人以上の人がついている。

「ポジトロンライフルはどう?」
ミサトはコンピューターを介して、研究員の一人に聞いてみた。
その姿は所々包帯が巻かれており痛々しい。

「技術開発部第3課の意地にかけても、あと3時間で形にして見せますよ」
そして研究員の顔と入れ替わりに映し出されるライフル。
未だ組み立て中で、まるで形になっていない。

ミサトは微かに表情を曇らせると、顔も向けずにリツコへ聞いた。
「防御手段は?」

「これはもう、盾で防ぐしかないわね」
軽い操作により呼び出される盾の映像。

リツコがそれに解説を加える。
「原始的だけど有効な防御手段よ。こう見えてもSSTOのお下がり、超電磁コーティングされてる近代兵器だし」

「いくら保つ?」
「17秒よ。2課の保証書付き」
そう言いながらもリツコの顔は曇っていた。

「結構。狙撃地点は?」
「目標との距離、地形、手頃な変電設備も考えると、やはりここですね」
マコトが双子山の地図を呼び出しながらそういった。

「確かにいけるわね。狙撃地点は双子山山頂。作戦開始時刻は明朝午前零時。以後、本作戦をヤシマ作戦と呼称します」
「了解」
マコトはそう答えると、また作業に没頭していく。

そうして腕組みをすると、誰にいうともなくミサトは呟いた。
「あとはリツコの気持ちだけね」



NERVの休憩所でシンジとレイは缶ジュースを飲んでいた。
その表情はあまり芳しい物ではない。
NERVの職員達はヤシマ作戦に向け大忙しで休憩所は二人しか居ない。

突然レイが立ち上がる。
レイはスカートのポケットから手帳を取り出した。

「明日午前0時より発動されるヤシマ作戦のスケジュールを伝えます。碇、綾波の両パイロットは本1730、ケージにて集合。1800、エヴァンゲリオン初号機、及び零号機、起動。1805、出動。同三十分、双子山仮設基地に到着。以降は別命あるまで待機。明日0000、作戦行動開始」

「綾波?」
レイはシンジを抱きしめる。

レイには今、シンジが内罰的思考に走っていることが手に取るように解っていた。
「・・・碇君は悪くないわ」

「ありがとう、綾波」
シンジもレイを抱き返した。

シンジはレイの手帳を取って見る。
それは白紙だった。

「よく覚えていたね」
「・・・あの日は私の大事な想い出」
そう言ってレイはシンジを抱きしめる手に力を込める。

シンジは、これで二人が死ぬかも知れないと考えていたのだった。
前回のヤシマ作戦もギリギリだった。
少なくとも盾が耐えられる時間は同じだろう。



トウジ、ヒカリと他十数名の、シンジのクラスメート達が中学校の屋上で佇んでいた。

「えらい遅いのぅ。もう避難せなあかん時間やで」
「パパのデータからチョロまかしてみたんだ。この時間に間違いないよ」
「せやけど、出てけーへんなぁ」

ケンスケが居なくてもこの手のデータは漏洩してたようだ。

と、一斉に鳥が飛び立つ音。思わず驚く一同。
山がスライドして、発進口が見えてくる。

「山が動きよる」
「エヴァンゲリオンだ!」

発進口から姿を現す、エヴァ初号機。
続いて姿を現す、エヴァ零号機。
夕日をバックに進む二体のエヴァを、一同は声援を送りながら見送った。

『あの子達ったら・・・』
ミサトはそれを見て嬉しそうに微笑んだ。



双子山に急場で作られたエヴァンゲリオン搭乗タラップでは、ミサトとリツコが最上段でならんで座っていた。

冷却装置の水の音やライトの操作音、電源関係の車両のエンジン音などもこの高さまでは風でかき消され、静寂が二人の間を流れている。

雲一つなく、月夜の空に星が無数に瞬いている。
この二人で作戦を煮詰めたため、今更説明する必要もなかったのだ。

エヴァをここに持って来た際にプラグスーツを着ていて、それから着替えていないので、着替えの時間も必要なかった。

「いつの間に私達がエヴァに乗るように成ってしまったのかしらね」
「そうね、でも貴方は嬉しいんじゃない?」
ミサトの言葉にリツコが答える。

「こんな事を子供達にさせようとしてた事を思えば、確かに自分で乗った方が気が楽だわ」
「それだけ?」

「そうね、自分自身で使徒を倒せるのは嬉しいと思ったわ・・・でも」
「でも?」

「何か解らないけど違和感がある」
「そうね、私も感じるわ」

それは、時を遡らせたからと言って、一度経験した事であるためのデジャブにも似た感覚であった。
そう、魂は何か違うと感じていたのだ。
それは、前回と違う経験をしている者達は皆、個人差はあれ、感じていた。
前回と同じ経験をしているものはデジャブを感じる事が屡々しばしばあったのだった。

「貴女も?」
「ええ、思い込みかも知れないけど・・・」

実際の記憶があるわけではない。
それは漠然とした感覚。
説明したなら勘とでも言うしかない感覚であった。

「でも、今回は勝つ」
「随分な意気込みね」

「三十前には死ねないわ」
「あら?私は三十に成ったわよ」

「私はまだ二十九よ!」
そんなミサトにリツコは笑みが零れる。

「時間よ、行きましょう」
「ええ」

二人はエヴァに乗り込んだ。


《東京標準時00:00:00》

「作戦スタートです」
マコトがミサトに告げる。

『日本中のエネルギー私が預かるわ』

「第一次接続、第407区まで送電完了、続いて第408区から第803区までの送電を開始します」
マコトがレバーを起こすと、付近一帯を地鳴りのような音が包んだ。

『ヤシマ作戦スタート!!』

ミサトが作戦の開始を声高々に通信で告げた。

「電圧上昇中、加圧水系へ」
「全冷却機出力最大へ」
「陽電子流入順調なり」
「温度安定依然問題無し」
「第2次接続!」
「全加速器運転開始、強制収束機作動!」

エネルギーを示すメーターが順調に上がっている。

「第三接続、完了」
「全電力、ポジトロンライフルへ」
「最終安全装置、解除」

ミサトは撃鉄を起こす

モニター上のライフルを示すマークの安全装置が『安』から『火』に変わり、撃鉄があがる。
初号機プラグ内のモニターも、マークが揃っていく。

「地球自転誤差修正、プラス0.0009」
「電圧、発射点へ上昇中。あと15秒」

「10・・9・・・8・・・7・・」

マコトのカウントが静まりかえった仮設発令所に響く。

「6・・5・・4・・」

その時、急に使徒の明るさが増した。
そのスリットに光が走り始める。

「目標に高エネルギー反応!」

『なんですって!』

マヤの悲鳴にも似たオペレートに、リツコも声を上げた。

一方、初号機のモニター内の赤いランプの真ん中のマークは揃っていく。 ミサトはマークが揃うと同時にスイッチを押した。

初号機が引き金を引き、陽電子が打ち出されると同時に使徒の加粒子砲も発射され両方が交差し合い方向が反れた。

かなりの衝撃が走る。
陽電子は使徒の少し横のビル街に着弾しエネルギーの柱が出来ていた。
加粒子砲は山の中腹に激突し、爆風が周囲の木々を薙ぎ倒した。

(ミスった!!)
『第2射急いで!!』

ミサトが次ぎの指示を叫ぶ。

初号機は再度、弾を込めた。

「ヒューズ交換」
「再充填開始!!」
「目標内部に再び高エネルギー反応!!」

零号機が初号機の前に移動した。

「銃身冷却開始」
「使徒加粒子砲を発射!!」
零号機が初号機の前で盾をかざし加粒子砲から初号機を守る。

「発射まで15秒」
「発射まで10秒」

「零号機、盾消失します!先輩!」
『くっ早すぎる!』

初号機の前で両手を広げ初号機を守る零号機。

「・・8・・7・・6・・5」

『リツコ!』
ミサトは零号機を押しのけ加粒子砲を受けながら照準を合わせる。

『ぐぅっ!発射!!』
ミサトはスイッチを押し陽電子砲を発射させた。

使徒を貫き陽電子が上空へと上がって行く。

「パターン青消滅、使徒沈黙しました」

零号機、初号機共に崩れ落ちる。

「先輩!」
「葛城さん!」
マヤとマコトが叫び、エントリープラグを緊急射出させた。

半分射出させたエントリープラグから吹き出るLCL。

「救護班!急いで!」

マヤの怒声が響く。

救護班が駆付けたてエントリープラグを開けようとしたが、熱くて開けられない。
道具を使いこじ開ける救護班。

開けられたハッチから見えるミサトとリツコは項垂れて気絶していた。

「急いでICUに!」

救護班が慌てて二人を担架に乗せ、救護車まで運び、緊急措置を行いながら病院へ急行した。

「先輩・・・」
「葛城さん・・・」
マヤとマコトは呆然としているためシゲルが後処理を一手に引き受けていた。

「二人共、病院に行っていいぞ」
「悪い」
「ありがとう」

動かない二人に業を煮やしてシゲルが言ったのだが、二人はそれを真に受けて病院へ急行した。
自分が言ったため引っ込みがつかなくなり、結局、全ての後始末はシゲルが行う事になってしまった。



「葛城君と赤木君は病院に運ばれたそうだ。命に別状は無いそうだ」
電話を置き冬月がゲンドウに告げる。

「・・・・・」
いつものポーズで沈黙しているゲンドウ。
今回はエヴァ二機が消滅してしまうかも知れなかったのだ。

「レイ君と交渉すべきではないかね」
「・・・冬月、頼む」
ゲンドウは簡単に冬月にその任を振った。

「全く、面倒事ばかり押しつけおって」
冬月は溜息をついた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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