第拾壱話
マグマダイバー


アスカを乗せた車はゴーストタウンの様なマンション群に入って行った。
人気のない処でゆっくりと遊ぼうと言うのだろう。

「へへ、下の毛まで金髪だぜ」
不良の一人が下卑た笑いを浮かべながらアスカの恥毛を弄ぶ。
その時、急に止まる車。

「なんだよ、荒い運転だな」
「いや、こんな処に人が・・・」

ライトに照らされているのは、中学生の制服を着た男女。
しかも少女の方はかなりの美女だ。

「これは獲物が増えたな」
男はニヤリとする。

そんな車には頓着せず歩く2人を車から降りてきた男達が阻んだ。
ライトバンの後ろを大きく開けて中から何人もの不良達が降りてくる。

「よう!ぼくちゃんはさっさと帰りな、お嬢ちゃんは俺達と少し遊ぼうぜ」
男はそう言うと、その少女の腕を掴んだ。

刹那、男が悲鳴を上げる。

「ぎゃぁ〜っ!」
男は少女を掴もうとしていた腕を押さえて転げ回っている。
その腕は途中から無くなっていた。

「な、何をしやがった!」
「・・・汚い手で触らないで」
抑揚のない、しかし鈴を鳴らす様な少女の声。

「くっ全員で掛かれ!さっきみたいに、ふん縛ってしまえばこっちのもんだ!」
馬鹿な不良達が一斉に少女に飛びかかろうとした時、少年がそれを阻んだ。

「退けよ!怪我したいのか」
一人の不良が少年に手を掛けた。

グシャッ
「ぎゃぁ〜っ!」
その不良の手は少年に握り潰されブランブランとしている。

「うわ〜っ!」
不良達が恐怖で一斉に少年に襲いかかった。

グシャッ
グチャッ
バキッ

何か骨が潰れる様な音が数秒間続いた後、そこには血まみれの不良達が夥しい血の海の中でのたうち廻っていた。

「何?こいつら?NERVの護衛って何やってるんだ?」
少年はそう言うとライトバンの方を見る。

そこには両足を各々車の取っ手に固定され大きく開いた股間が見えた。

「これはこれは、この肛門とビラビラは惣流=アスカ=ラングレーさんじゃありませんか」
少年は笑いながらその素っ裸で縛られている少女の元へ行く。

「ぐぅっ!」
少女は顔を上げると、そこにあるのは忌々しい碇シンジの顔だった。

「えっと、僕に助けられるぐらいなら死んだ方がましだったよね?失敗したなぁ、だったら彼奴らの邪魔なんかしなかったのに」
シンジは心底残念そうに言う。

「むぐぅっぐっぅっうぅっ!」
素っ裸のアスカは、くぐもった声で何か訴えているが、言葉にならない。

「まぁ人の性癖に口を出す気はないんで、精々楽しんでね」
シンジはそう言うと立ち去ろうとした。

「むっぐ!ぐぅぅうぅ!」
アスカは、このまま放置されては、どうなるか解らないと必死にシンジに縋った。

「うーん、君の罵声は聞きたくないんだけど、これじゃ何言ってるか解らないからしかたないか」
シンジはそう言うと、アスカの口を塞いでいるガムテープを剥がす。

「ぷっはぁ、はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
アスカの眼には涙が浮かんでいる。

「随分、楽しそうな性癖だね」
「んなわけないでしょ!さっさと助けなさいよ!」

「僕に助けられるより死んだ方がましなんじゃなかったの?」
シンジはそう言うと露わになっているアスカの股間に指を這わした。

「あふん、ちょっと変な所触らないでよ!あっ・・・うっ・・・ぐっ!」
シンジはアスカの股間を弄んだ。
それは不良達のように強引な物ではなくアスカの快感を誘う物だった。

「へぇ惣流さんって感じ易いんだ」
「止めてって言ってるでしょ!」

「じゃぁNERVの護衛にでも連絡するかな。でもここまでされているのに助けにこなかったって言うのは、護衛に見捨てられているんじゃない?」
「なわけないでしょ!あたしがちょっと憂さ晴らしに捲いただけよ!」

「じゃぁ呼んでみるね」
「ま、待って!」
このまま呼ばれれば多数の護衛にこの姿を見られる事になる。
それは避けたかった。

「あ、あんたの家ってこの近く?」
「そこだけど?」

「じゃぁあたしをそこに連れて行って!」
「ふ〜〜ん、いいけど足しか解かないよ」

「なんでよ!」
「君はすぐ殴り掛かってくるからね」

「そんな事するわけないでしょ!」
「今朝やったじゃない、説得力ないよ」
シンジはそう言ってアスカの足だけ解いた。

車から降りたアスカは眼を剥いた。
そこには夥しい血の海に呻いている不良達。

「これ、あんたがやったの?」
「あぁ僕の大事な綾波に手を出そうとしたからね」
その言葉にレイは頬を染め、シンジに寄り添う。

(・・・大事な綾波・・・大事な綾波・・・大事な・・・)
レイの頭の中はシンジの言葉がリフレインしていた。

裸で後ろ手にガムテープでグルグル巻きにされたままアスカは歩かされていた。
幸い、靴はあったので履かせて貰っている。
しかし前も隠せずアスカは心許なかった。

「ちょっとファースト!何か羽織る物持ってないの?!」
「・・・ないわ」
レイはジト目でアスカを睨む。

レイにとってはアスカが自分達の家に来る事すら楽しくないのだ。

シンジ達の部屋に入ったアスカは驚愕する。
打ちっ放しのコンクリートの壁、生活感のないベッドと小さなテーブルだけある部屋。

「あ、あんた達、こんな所に住んでいるの?」
「・・・そうよ」

中に入ってベッドに腰掛けたアスカは、足に当る物を見て赤面する。
それは大人の玩具だった。
よくよく見渡すと、縄や浣腸器や鞭など中学生の部屋とは思えない品がそこらかしこに見受けられた。

「あ、あんた達ってどんな生活してるのよ」

それには答えず、シンジはレイの下着と大きめのTシャツ、それとジーパンをアスカに渡し、アスカの手に巻き付いているガムテープを剥がした。

「なんか色気も何もない下着ね」
「・・・嫌なら返して」
レイはアスカを睨付けると手を出した。

「わ、悪かったわよ、借りるわ」
そう言うとそそくさとアスカはその下着を付ける。

Tシャツとジーパンはシンジの物だ。
レイの物だと細くて入らないとシンジは判断したのだ。
それもレイには気に入らなかった。

「葛城さんに電話しておいたよ、30分ぐらいで迎えに来るそうだよ」
「そっ!」
アスカは礼も言わず家の中を見回している。

「ねぇあんた達って何者なの?」
「どう言う意味?」

「あたし、ドイツに居る時、今もだけどよく夢を見るの。それは赤い世界で、そこで男の子が女の子を苛めているの。いや、拷問ねあれは。ドイツに居る時はその2人の事は解らなかったけど、あたしはその2人を知っているみたいで、いつも止めてって叫んでいたわ。 でも、こっちに来て、その2人はあんた達だった」

「ふ〜ん、君の願望に僕達が具現化して夢として現れたって事かな?」

「願望って!んな訳ないでしょ!」
アスカは真っ赤になって否定する。

「でもよく言うじゃない、君達ぐらいの年頃の女の子は強姦願望があって、男に追い掛けられる夢を見るって」
「そ、それは確かにそう言う学説はあるけど・・・」
アスカは言葉に詰まった。

確かに夢は願望の現れである事もある。
しかし、自分が拷問される願望なんてあるはずがない。

「それでさっきもあんな遊びをしていたんだ」
「あれは襲われたのよ!」
アスカは、またも真っ赤になって否定する。
シンジに股間を触られた事を思い出したのだ。



その頃、ミサトは車でこのマンション群の所まで来ていた。
そこにはシンジが殲滅した不良達の後始末をするNERVの護衛達が居た。

「これは?」
「ファーストとサードがやりました」

「なんでまた・・・」
「ファーストを拉致して襲おうとしたようです」

「貴方達は何をしていたの?!」
「ファーストとサードについては、監視のみで干渉するなと言われています」

「それで何でアスカまでここに居るの?」
「セカンドは既にこの不良達に拉致されて、その車でここまで連れてこられた模様です」

「貴方達、何のために居るの?!」
「セカンドは故意に我々を捲き、消息を眩ませました」

「中学生に捲かれてどうするのよ」
「セカンドは加持一尉に仕込まれております」

「ぐっ!あの馬鹿!碌な事しないわね!」
そしてミサトは目的のレイの部屋を目指した。



ピンポーン

シンジが居るため、呼び鈴は修理していた。
玄関にアスカが出てくる。
ミサトは中を覗き、唖然とした。

そこは打ちっ放しのコンクリート剥き出しで生活感が感じられなかったのだ。

「じゃ、じゃぁアスカは連れて帰るわね」
「どうぞ」
ミサトの言葉にシンジの声だけの返事が返ってきた。

帰り道、ミサトは溜息を付く。

「あの2人はなんなのかしら?」
そう言って見たアスカの顔は酷くあおざめていた。

「アスカ?」
「何?」

「いや、ゴメン気分悪いのね」
不良達に拉致され、服を着替えて荷物が無い。
それは、服が持って帰れない程になっていたと言う事だ。

ミサトは自分の迂闊さに唇を噛み締めた。

「その、アスカ?病院に行かなくて大丈夫?」
「病院?」

「その、そう言う事されてないかなって、ちょっち思って・・・」
「大丈夫、そこまでされてないわ」

「そう、それは不幸中の幸いだったわね」
ミサトはそう言ったが、アスカの顔色からリツコにでも検査させようと考えていた。

そしてシンジとレイの尋常ならざる行為。
ミサトは2人に使徒に通じる物を感じだしていた。



アスカは結局ミサトの家で同居している。
その時はアスカは穴蔵から出て生活できると喜んだのだが、今では後悔していた。

はっきり言ってアスカの部屋以外はゴミだらけなのである。
そしてアスカも自分が散らかした訳でもないので片付ける気にはなれなかった。

「修学旅行?別にいいわよ、そんな物行かなくても」
アスカは簡単に了承した。

先の事件の後、アスカの元気がない。
ミサトは出来ればアスカは修学旅行ぐらい行かせて遣りたかったが、そうも行かなかった。

この事をアスカに告げるのがミサトには途轍もなく重荷だったのだ。

(なんか私って馬鹿みたい・・・)

悩んでいた自分が馬鹿らしくなるミサトだった。



浅間山でミサトは調査作業を行っている。

『限界深度、オーバー』

「続けて」
研究所内の研究員達の間でざわめきが起る。
まだ使徒は発見されない。

「もう限界です!」
「いえ、後500、お願いします」

『深度1200、耐圧隔壁に亀裂発生』

「葛城さん!」
「壊れたらウチで弁償します。後200」
まだ問題の影は発見されない。

「モニターに反応」
「解析開始」
「はい」

『観測機、圧壊』

「観測結果は」
「ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青、使徒です」

「これより当研究所は、完全閉鎖。NERVの管轄下に入ります。今後別命あるまで、研究所における一切の入退室を禁止。現在より、過去6時間での全ての情報を部外秘とします」

ミサトが携帯で話す。
『碇指令あてにA-17を要請。大至急』

『気をつけてください。これは通常回線です』
『わかってるわよ、さっさと守秘回線に切り替えて!』
シゲルの忠告もあっさり叱責へと代わった。



人類補完委員会で会議が行われていた。

「A-17・・・こちらから、討って出るのか」

男の声が、小さな驚きを含んで、言葉を発する。

「使徒を捕獲するつもりか」
「しかし、その危険は大き過ぎるのではないか?」
「左様、セカンドインパクトの二の舞とも成りかねない」

「生きた使徒のサンプル、これが如何に重大な物であるかは自明の理です」
ゲンドウは、低い声で答えた。

「いずれにせよ、失敗は許されんぞ」
キールの言葉と同時に、老人達は、闇に消えた。

「・・・失敗か・・その時は人類は消えているよ・・」
冬月が、呟くように言う。

「ああ、失敗しても我々は責任を取る必要は無い、我々も、そして責任を追及する老人達も消えているのだからな」



ブリーフィングルームでは使徒捕獲の説明が行われていた。

浅間山のマグマの中で発見された使徒のサナギの映像を映しながら、リツコが今回の作戦に関する詳細の説明を始めた。

「出来うる限り原形をとどめ、生きたまま回収する事」
「出来なかった時は?」
アスカが質問する。

「即時殲滅、いいわね」
「了解」
アスカは、淡々と答えた。

「担当だけど・・・」
「あたしがやるわ」
アスカが手を挙げる。

「そうね、アスカ、弐号機で担当して」
D型装備は弐号機にしか装着できない。
リツコは何と言ってアスカを説得するか考えていたところアスカから志願してきたためこれ幸いと指名した。

「・・・私は?」
「レイは本部で待機よ」

「僕は?」
「シンジ君は、一緒に行ってアスカのサポート」

「・・・私から碇君を引き離すのね」
レイの眼が絶対零度の視線を持ってリツコを射抜く。

「ちょ、ちょっと待ってくれる」
リツコは慌てて司令室に連絡を入れた。

「はい、そうです。レイが「私から碇君を引き離すのね」と・・・いえ、私には無理です。それでしたらレイを司令室に向かわせます・・・はい、はい解りました」

「レイも一緒に出動よ」
リツコは電話を切るとホッとした顔でそう告げた。


「格好悪いけど、我慢してね」
アスカはケイジで弐号機を見上げ呟いた。



浅間山で準備が整おうとしていた。

何も言わずマグマに入っていくアスカ。

『限界深度オーバー』
『アスカ、どう?』
「まだ持ちそう。さっさと終わらせてシャワー浴びたい」

(やっぱりサウナスーツね)

アスカは呟いた。

『近くに良い温泉があるわ。終わったら行きましょう。もう少し頑張って』

ビシッ!

耐熱装備が軋み始め足に巻いて装備していたプログナイフが脱落してマグマの底へと消えて行く。

『エヴァ弐号機、プログナイフ、焼失』

(くっ!そうだった。まずいわね・・・)

アスカは歯噛みした。

『限界深度プラス200』
『葛城さん、もうこれ以上は!今度は人が乗っているんですよ!』
『この作戦の責任者は私です。続けて下さい』
ミサトが画面から眼を話さず言った。

弐号機は着々とマグマの中へ降りて行く。
暫くしてアスカから通信が入った。

「居た!」

『お互い対流に流されているから、接触のチャンスは一度しかないわよ』
リツコが素早く弾きだした計算による情報をアスカに与えた。

「わかってる」
そう答える映像のアスカは、汗だくだった。

『目標接触まであと30』

電磁柵で使徒を慎重に捕獲するアスカ。

「電磁柵展開、問題無し。目標、捕獲しました」

『ナイス、アスカ!』
仮設の発令所から、ミサトを含めて一斉に安堵の溜息が漏れた。

「あなたもホントは今回の作戦、怖かったんでしょ」
「当然よ。下手に使徒に手を出せば、あれの二の舞ですからね」
「そうね。セカンドインパクト・・・二度とごめんだわ」
リツコとミサトがもう成功した気になっている。

使徒のサナギを捕獲した弐号機は、冷却パイプに引き上げられるように浮上を開始した。
ビーーーッ!

突然、仮設の発令所内に警報音が鳴り響いた。

『まずいわ、羽化をはじめたのよ!計算より早過ぎるわ』

「シンジ!ナイフを投げて!!」
アスカが叫ぶ。

「命令がないからね」
シンジは、そう言って動こうとしなかった。

『シンジ君ナイフを投げて!・・・捕獲中止、キャッチャーを破棄。作戦変更、使徒殲滅を最優先!』

アスカの通信に一瞬気を取られていたミサトだったが即座に作戦変更の指示を出した。
「くっ!間に合わないか」
使徒が目視できるのだが、ナイフがまだ来ない事に焦りを感じるアスカ。
そこに使徒が突っ込んできた。

「くっ、バラスト放出!」

アスカは、バラストを切り離して軽くなった分だけ浮かび上がる事で使徒との衝突を回避した。

「見失ったか・・・」
使徒はマグマの対流に乗って弐号機から離れて行き視界から消えた。

「来た!」
アスカは落ちてきたナイフを装備した。
それとほぼ同時に対流で回遊してきた使徒が、正面に姿を現す。

アスカは冷却パイプの1本をプログナイフで切り、使徒の口に突き刺した。

「冷却液の圧力を全て3番にまわして、早く!!」

『熱膨張ね!アスカ凄いわ、急いで!』
リツコはアスカの咄嗟の判断に賞賛した。

内側と外側の圧力差で使徒の皮膚が微妙に歪んだところに、突き立てたナイフは内部に食い込み始め、使徒はそこからボロボロと崩れ落ちるように消えていった。

しかし、使徒の最後の攻撃で命綱とも言える冷却パイプの殆どを引き裂かれていた。

「やっぱり、ここまでなの・・・シンジィ死にたくない。助けて」
アスカは涙眼でそう訴えていた。

しかしアスカの胸中には、もう助けてくれないだろうと言う思いがあった。
絶望を感じた時、急に襟首を捕まれて引き上げられるような感覚にアスカは顔を上に向ける。

そこにはマグマの熱で表面が泡立ち塗装が溶け始めながらも、片手は冷却パイプを掴み、もう片方の手で弐号機の襟のあたりを掴んでいる初号機の姿があった。

「シンジィ・・・」
アスカは涙眼で微笑んでいた。



運営が停止されているはずの浅間山が見えるロープウェイに加持と女性が話しをしていた。

「A-17、何故止めなかったの?」
「私にそんな権限はありませんよ。発令は正式な物でしたんでね」

「A-17、それには現有資産の凍結も含まれていた」
「お困りの方も、さぞ多かったと?」

「失敗していればセカンドインパクトの二の舞だったわ」
「彼らはそこまで傲慢じゃありませんよ」

そう言うと加持はじっと浅間山の火口を見ていた。



「・・・何故助けたの?」
旅館でレイはシンジに尋ねていた。

「泣いて助けてって言っていたからね。もう少し楽しませて貰う事にした」
「・・・そう」
レイは少し悲しそうな顔をした。

「僕には綾波が一番大事な事に変わりはないよ」
「・・・いい」
レイはそう言ってシンジの腕にしがみつく。

シンジはそんなレイの頭を優しく撫でていた。



続きを読む
前を読む
戻る


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
inserted by FC2 system