第拾九話
絶望の道化、嵌る助演女優


病室ではゲンドウがベッドに横たわり白衣を着たユイが対峙していた。
ほんの少し前とは逆の構図である。

「それで構いませんね?」
「・・・問題ない」

「・・・ユイ」
「何ですか?」

「・・・あれは本当にシンジなのか?」
「えぇ、ゲンドウさんの行動の結果ですわ」
そう言うとユイは病室を後にする。

そこには放心するゲンドウが独り取り残された。
その右肩から右腕は存在しない。



別な病室では、三角巾で腕を吊ったリツコがベッドに横たわるマヤを見舞っていた。
「そう、シンジ君が・・・」

「はい、もう私シンジ君とレイちゃんが恐くて・・・」
「今はゆっくり休みなさい。幸いにも貴女の右腕は処置が速くて元通りに付いたわ。これも幸いだったけど、間接からすっぽり外れていたから、腕の機能としてはリハビリで問題なく動くと思われるわ」

「はい、ありがとう御座います」
リツコは、そう良いながらも前の様なキータッチは二度と無理だろうと思っていた。
綺麗に切断されたのではなく、引き千切られたと聞いていたからだ。
上手く接合出来たこと自体が奇跡的だったらしい。



また、別な病室では延命装置を付けて横たわるミサトをマコトが見舞っていた。
先の戦闘で、ミサトは命こそ取り留めたが、神経にかなりな負担を強いられたらしく、脳が覚醒しない状態だった。

そんなミサトを目の前にし、マコトはシンジに憎悪を燃やす。
マコトの論理は、シンジはレイに危害が及んだからマヤと司令の腕をもぎ取った。
ならばミサトに危害を加えたシンジは、それ相応の報いを受けるべきだと言う物だ。
しかし、マコトは忘れている。
いや、自分の言った建前など意識にもないのだろう。
シンジが参号機を攻撃する前に零号機の右腕切断は「しかたのかった事だ」と言ったのを。



NERV内の職員達は今、混乱していた。
突然、悪鬼の如く行われたサードチルドレンの反乱。

しかし、それは正当な事だったと公式発表されたのだ。

曰く、エヴァに乗ると言う事は生死を賭けた戦いを強いられる。
それ故に自分に害をなす存在には極端に戦意を剥き出しにしてしまうと言う事。
そして、自分を護ってくれるのは、同じパイロット達であり、彼らは強固な信頼関係で結ばれている。
従って、仲間に対する危害も自分に対する物と同等に受け取ってしまうと言う事。
同じ痛みを与えたのは、彼らなりの温情であり、殲滅されてもしかたの無かった事だったと言う事。
今後も使徒を倒していかなければならない以上、彼らには最大限の協力をしなければならない。
今回の事はそんな彼らの事を度外視した敵対行動とも取れる行動だったこと。
本来なら、彼らにNERV本部自体が壊滅させられてもおかしくなかった。
しかし、直接的関与者に彼らなりの報復を行った事で彼らは収まりを付けた。
従ってNERVは今後、この様な事が無いように配慮し、彼らを今まで以上に援助する。
と言う内容だったのだ。

これに異を唱えたのは、マコトとシゲルだったが、そんな二人にユイは
「14歳の少年少女に戦いを強いている貴方達は、何を彼らにするべきなのかしら?大人だからと言って子供は黙ってろとでも?」
と言い、二人は黙らざるを得なかった。

しかし、ここにユイの計算があった。
シンジ達の事を大袈裟に取り扱い、更にそちらに強い関心を抱かせる様に、皆が驚く様な措置としたのだ。
この事により、シンジの異常性とゲンドウの右腕についての話が影を潜めていた。
生身で人の腕を引き千切る等、尋常ではない。
ゲンドウの手に融合していた物もシゲル以外は近くで見た物は居ない。

ユイの思惑通り、皆はこの事については、それ程大きく取り上げていなかった。
それよりも、これからシンジ達とどう接して行くかに神経が注がれていたのだ。
その異常性は別にして、怒らせると腕を引き千切る様な子供達との付き合い方に。

ユイは司令代理としてNERV内に席を置いた。
ユイが出てきた事によりゼーレも今まで通りの計画は見直しを計らざるを得なくなっている。
悉くユイに論破されたためだ。

現状は、ユイにNERVを任し、使徒殲滅に遂力する事で話しがついた。
一度走り出した使徒襲来は、途中で止める事ができないのだ。
ユイの出した案は、取り敢ず使徒を全て殲滅し、新たな補完計画を計画し直す事。
現状で進めても、少なくともゼーレの老人達に未来が無いことはユイの説明で明白となったためだ。
余命少ない老人達は一刻も早いユイの新たな計画立案に力を貸す事が最善と判断した。

いきなり司令代理として現れたユイに不審な声をあげる者も居たが、冬月がゲンドウ以上にユイを敬っているので、それもすぐ収まってしまった。

ユイはたった1日でNERVを掌握してしまったのだ。

そして急ピッチで零号機と弐号機の改修が行われる。
リツコは三角巾で片腕を吊りながら陣頭指揮を執っていた。

「悪いわねリっちゃん、貴女も片腕が入院しちゃって大変でしょ」
「えぇでもしかたのなかった事です」
リツコはユイが苦手だ。

天才と呼ばれた科学者、そしてゲンドウの欲して止まない女。
しかし、ユイはそんな事は歯牙にも掛けない。
ユイと対峙するとリツコは自分が酷く小さな存在に思えてしかたがないのだ。

「ねぇリっちゃん?男なんて所詮、男なのよ?ナオコさんも貴女には幸せになって貰いたいと思っているわ」
そう言って微笑むユイ。

しかし、今のリツコには、それは本妻の余裕にしか思えなかった。

「私は近いうちにエヴァに戻るわ。後の事はリっちゃんにしかお願いできないの」
「えっ?」
リツコは自分の耳を疑った。

「リっちゃんも無理しないで、身体を休めてね」
ユイはそう言ってその場を後にした。

リツコは今衝撃の中にいる。
自分より遙かに才能のある人間が、エヴァに自ら取り込まれると言うのだ。
そこに一体何があるのか?

(エヴァの中に一体何があると言うの?・・・はっ!)

何故、今まで気付かなかったのか?
東方の三賢者と言われた人間は皆、エヴァの中に居る。
希代の天才と呼ばれた人間が揃いも揃ってエヴァに取り込まれていたのだ。

言い換えればエヴァこそ現代の最高峰の頭脳を有している。
そして、事故だと聞かされていたユイの初号機起動実験。
しかし、ユイは自らエヴァに戻ると言う。
実験は本当に失敗だったのだろうか?

(私達はエヴァに踊らされていたと言うの?いえ三賢者と呼ばれた天才達に踊らされていたと・・・)

リツコは、そう思い至ったが、今はその思考に没頭している暇はなかった。
ユイの指示で零号機の右腕に、参号機の腕を付け改修している。
その接合がリツコの指示無しでは滞るのだ。

使徒に侵食されていた事などユイはおかまいなしだった。

リツコがその事を指摘すると
「今更、何を言っているの?エヴァが使徒のコピーだと言う事は知っているでしょ?初号機のブラックボックスは殆どリリスの物よ。大体、培養している生体部品だって元を正せば使徒の体組織じゃない。今までの使徒の残骸も保存しておけばエヴァに使えたのに」

そう言って溜息を吐くユイにリツコは驚愕してしまった。
次元が違う。
使徒の残骸を保存しておいてエヴァに使おう等と誰も考えなかったのだ。

リツコはその時の事を思い出しながら、作業員達に的確に指示を出していた。



薄暗いレイの部屋。
シンジとレイは裸で抱き合っていた。

既にいつもの情事は終った後だ。
レイの身体にはその痕跡が痛々しく残っている。

しかし、レイはシンジの太腿の上に座らされ、シンジの首に両腕を廻し、顔をシンジの首筋に擦りつける様に抱付いていた。

「・・・どうして?」
「どうするか見て見たかったんだ」
レイの言葉は少ない。
しかし、シンジにはそれが何を指しているのかは明白だった。

レイは何故アダムをユイに渡したのかを尋ねたのだ。

「・・・そう」
レイはユイがアダムを手に入れた事を心配していた。

ユイがアダムを取り込み、リリスのダイレクトコピーである初号機に再度取り込まれたら、それは、物理的なアダムとリリスの融合を意味する。
アダムに魂が宿るのは、第十七使徒、つまりカヲルが殲滅された後になる。

そして、その後ユイは初号機に取り込まれ自ら神になろうとしているのだろうとレイは考えたのだ。
いや、先に取り込まれ、アダムの魂が宿るのを待つだけと言う事も考えられる。

レイの心配しているのはシンジの破壊衝動である。
シンジは元々内罰的であった。
そして紅い世界で破壊行為を身に付けたのだ。

その破壊行動が元の内罰的思考によりシンジ自身に向く事をレイは一番恐れている。
今のシンジは、何をしても消滅する事はない。
例え身体が消滅しても、すぐ新しい身体を創る事ができる。
故にシンジは破壊衝動を表に向ける。
内罰的思考による自分自身の破壊。
それを満たしてくれるのが新しい神の創造、つまりシンジと同等の力を持つ者の存在なのだ。

不安になったレイはシンジにしがみつく様に抱付く。
そんなレイを優しく抱締め頭を撫でながらシンジは言った。

「僕は、現状が結構気に入っているんだ。だから綾波が心配する事はないよ」
「・・・碇君」
レイは、そう言うシンジの顔を見上げシンジの名を呼ぶと一層きつくシンジに抱付きシンジの体温を感じ取っていた。

事実、シンジは現状が気に入っていた。
ゲンドウは現在、失望の坂道を転がり落ちている。
ミサトは自らの愚考の為、生命維持装置のお世話になっている。
マヤもレイの痛みを知り入院中である。
リツコは片腕とも言えるマヤを失い、嫉妬しても仕切れないユイがNERVを仕切っている。
そして予想外にユイが自分達に配慮し、ここを追い出される事もなかった。

シンジは既に大体の報復対象に対し、既に満足していた。

「碇ユイは全ての使徒を倒してくれと言った。それはリリンも指すのだと思う。つまり未だ自分達だけエヴァと言う箱船に乗って神となることを諦めていないんだと思うよ」
「・・・そうね」
レイにはシンジが何を考えているのか解った。

シンジの一番の憎悪が向けられている人間。
それがユイであることは知っていた。
しかし、シンジは、そのユイの愚考がなければレイと逢う事は無かったため、ユイに対する行動を決めかねていたのだ。

今、シンジはきっとユイに対する態度を決めたのだろうとレイは感じ取っていた。

先程の不安に駆られた抱付きではなく、そっとシンジに抱付くレイ。
それはレイがどこまでも付いていくと意思表示を全身で現わした物だ。

そんなレイをシンジは優しく抱き返し、頭を撫でている。



昼休み、アスカがシンジの方をチラチラと見ながら食事を取っている。
アスカとしては、今回のシンジの行動は理解できるものの今後の行動が予測つかなかったのだ。
今までののアスカなら有無を言わさずシンジに問いつめていたところだが、現在のアスカにそれは出来ない。
なんと聞こうか思案しているのだ。

「アスカさん?何をそんなにそわそわされているのです?」
アスカの様子を不審に思ったマユミが声を掛けた。

「あっえっとちょっとね、これからシンジはどうするつもりなのかなって・・・」
「お昼休みに身体が疼くのですか?」

「なっ!ち、違うわよ!あっ違うって!」
マユミはアスカのスカートの中に手を入れ股間を確かめる。

「確かに濡れてませんわね」
「だから違うって言ってるでしょ!」
アスカは真っ赤になりながら弁当を掻き込んだ。

今は、マユミが皆の弁当を作ってきてくれるのだ。

「催淫剤が足りませんでしたか」
「あ、あんたそんなものお弁当に入れてたの?!」

「冗談ですわ、お望みなら明日からお入れしますが」
怪しく微笑むマユミに肩を落とすアスカ。

「これからって何かあったの?」
マナが卵焼きをくわえながら話しに入ってきた。

「この間の使徒戦の後、シンジがちょっとNERVと揉めてたから・・・」
アスカは自分が発端であるものの内容をどう説明して良いのか解らず、歯切れの悪い説明をする。

「NERVが神経接続も切らないで零号機の腕を切断したんだ。だからそれを命令した人間と実施した人間に、綾波と同じ痛みを味あわせてあげただけさ」
アスカが言い淀んでいたところ、シンジがあっさりと事実を告げた。

シンジはレイの肩を優しく撫でる。
レイはここぞとばかりにシンジに身体を預けてもたれ掛かっていた。

「それは当然の報いね」
「ハムラビ法典だな」
「目には目をってやつだね」
マナ、ムサシ、ケイタがシンジの行為を肯定する。

「私はシンジ様が何をしても付いていくもん♪」
「そうですわね、わたくしも同意ですわ」
アスカの懐柔は失敗に終った。

「僕は別にどうもしないよ、NERVから追い出されるなら、それでも構わないし、その時は皆で第二にでも引っ越すかな」
「本当!?」
「お供させて頂きますわ」
シンジの言葉にマナとマユミは微笑んで応える。

「まぁ俺達はシンジに一蓮托生みたいなもんだからな」
ムサシは人一倍大きい弁当箱の中身をたいらげながら同意する。

「もう!あんた達はシンジ、シンジって!」
息巻いて、腰に手を当てていたアスカも勢いを削がれ座り込んで食事を再開した。

「あっそれだとヒカリさん達が悲しみますわね」
マユミがふと少し暗くなっているヒカリの方を見て言った。

「あんた何言ってるの?!シンジ達が居なくなるって事は第三が崩壊するって事よ。皆して疎開するしかないわよ」
「そうなの?」
ヒカリがアスカの言葉に喜びと心配が入交じった顔を向けて尋ねた。

「そうよ!」
アスカは少し機嫌悪く答えた。



「第拾四使徒を光学で捕らえました」
メインモニターに使徒が映し出される。

「1撃で第17装甲板まで貫通!!」
マコトが驚くべき報告を告げた。

「エヴァの地上迎撃は間に合いませんわね、エヴァ全機を本部の防御に回して下さい!」
ユイの命令が発令所内に響く。

ゲンドウ、ミサト、マヤは入院中。
発令所の司令席にはユイが座っている。
マヤの代りにリツコが端末を叩いてた。
即席でマヤの代りが出来る程の人材はNERVには居なかったのだ。
そのリツコも三角巾は外しているものの頭には包帯がまだ残っている。

「17枚もの装甲を一瞬にして・・・第伍使徒の加粒子砲並の破壊力ね」
リツコが呟いた。

「エヴァ全機ジオフロントに射出!」

「ジオフロント天井部破壊されました!!」

ジオフロントの天井が爆発し、そこから使徒が姿を現す。

「チルドレンの皆さん、戦闘は貴方達の判断に委ねます。何か援護出来る事があれば遠慮無く言って下さい」

『『『了解』』』
ユイの声に3人のチルドレンは抑揚の無い返事を返した。

「発令所の皆さんも、出来る援護があれば遠慮無く実施をお願いします。私は戦闘には素人です。作戦指揮は日向二尉に委ねます」
「了解」
マコトもまた色々な思いのため抑揚のない返答を行う。

『こんのぉ〜!!』
アスカがATフィールドを中和しつつありったけの銃器で使徒を牽制する。

初号機、零号機もそれに続いた。

零号機の腕は、参号機の腕により修復されている。
蒼い機体に黒い腕は異様な感じを受けるが、レイ自身は頓着していない。

弐号機に伸びる使徒の帯状の触手。

『ぐはっ!』
解っていたものの使徒の速い攻撃に片腕を持って行かれた。

「急いで神経接続を切って」
ユイの声が響く。

同じ轍は踏まない。
リツコは眼にも止まらぬキータッチで弐号機の切り落とされた腕の神経接続を切断した。

その間も零号機と初号機による牽制は行われていた。

使徒の口が発光している。

『拙い!』

使徒はエネルギーを収束させて、零号機に向けて放った。
零号機に覆い被さる初号機。

辛くも使徒の攻撃は避ける事ができた初号機と零号機。

しかし、帯状の触手が初号機を襲う。
それを転がりながら避ける初号機。

『碇君!』
レイが叫びと共に、ポジトロンライフルで使徒の触手の付け根を撃ち抜く。

初号機はその機を逃さず、使徒のもう片方の触手を引き千切った。

ユイとその場に居なかったリツコ以外の発令所の面々は、その光景に前回のシンジの行動を思い起こさせられる。
シゲルは冷や汗を流し、マコトは苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。

自暴自棄に光線を放つ使徒。

シンジ達も避けるのに精一杯で近寄る事が出来ない。

今まで静観していた弐号機が、片腕で使徒を後ろから羽交い締めにした。

『シンジ!』

機を逃さず初号機が使徒の顔面にプログナイフを突き刺す。
光線は封じた。

『綾波!』

零号機は、使徒のコアに零距離射撃でポジトロンライフルを撃ち込む。

蠢く使徒。

二発、三発と打ち込んだところで使徒は動きを停止する。
とその時、第三使徒のように弐号機に使徒が纏わり憑いた。

『アスカ!緊急射出!』
「弐号機のエントリープラグを緊急射出!」
シンジの声とユイの命令は同時だった。

自力で行ったのか、発令所からの命令か緊急射出されるエントリープラグ。
それを零号機が受け取り、転がる様にその場から離れる。
その零号機を庇う様に覆い被さる初号機。

刹那、使徒が爆発する。

「パターン青消滅、使徒消滅しました」
シゲルの報告にほっと安堵の息を漏らすユイ。

発令所の面々も緊張の糸が解れたようだ。

「弐号機パイロットは?」
『・・・エントリープラグは無事です』

レイが淡々と答える。

「ママ、ごめんね」
エントリープラグの中で呟いたアスカの声を聞く者は居なかった。



「これは少々拙くないかね」
司令室で冬月がユイに話し掛ける。

「そうですわね、でも失ってしまったものは仕方ないですわ」
「確かにどうしようも無いな」

「キョウコさん・・・」
ユイは窓から外を見ながら呟いた。

そこには使徒と弐号機が爆発したために出来た大きな穴が見えている。
弐号機のコアは使徒の爆発と共に爆発してしまった様子だ。

「アスカ君はどうするのかね」
「暫くはそのままですわ、いきなりチルドレン剥奪として放り出す訳にも行きませんでしょ?」

「それもそうだな」



珍しくシンジがリツコに捕まった。
ミサトが居ない今、リツコは礼を持って接するため、シンジも其れなりに対応したためだ。

参号機の起動実験に失敗したとはいえ、今のリツコには余裕があった。
零号機と初号機の損傷は軽微だ。
弐号機は木っ端微塵となり修復は不可能と判断されたためだ。

リツコの執務室でコーヒーを淹れるリツコ。
焦る必要はない、ゆっくりと聞きたい事を纏めて聞くつもりだ。

「ここに来て話をしてくれるのは初めてね」
「そうですね、いつもは敵対心剥き出しの人が居ましたから」

シンジは世間話の様にリツコに受け答え、その脇にはレイがしっかりと寄り添っている。

「まず、貴方は何者なの?」
「碇シンジですけど?」
リツコは漸くシンジへの最も不可思議であった質問を行えた。

まともな回答が返ってくるとはリツコも考えていない。
しかし、切り口はここからだとリツコは考えていた。

「あまりにも色んな事がありすぎて、延び延びになっていたけど、貴方の性格はあからさまに報告書と違うのよ」
溜息交じりに言うリツコ。
最初に突っ込み、ほとほと困っていると言う雰囲気で話を運ぶ。

「そう言われましても、自分の性格なんてよく解ってませんし」
「それもそうね、では、質問を変えるわ、普通の人間に人の腕を引き千切るなんて芸当はできないわ。貴方はどこかで訓練を受けたの?」

「訓練は受けてませんね、強いて言えばエヴァに乗ってる感覚が残ってたとでも言いますか・・・」
「エヴァに乗ってる感覚って?」
リツコは身を乗り出した。

「凄く強くなった感じがしますよ、自分が攻撃的になるのが解ります。リツコさんはどうでした?」
「確かにそんな感じはあったわね、力が溢れてくるような。でも私はエヴァを降りてまでそんな力は無いわよ」

「そこは僕にも解りませんよ」
「そう、じゃぁエヴァに乗って他に感じた事はない?」

「う〜ん、体が大きくなるような外側に自分の体があるような感じかな?」
「それも解るわ、でも貴方は他の人とシンクロの方法が違うのよ」

「どう言う事です?」
「他の人はコアに居る近親者に対し、シンクロするわ、貴方の場合、お母さんは外に出てしまった。本来なら取り込まれるはずなのよ」
リツコはあっさりとシンクロの秘密を話す。

この程度の事はレイから聞いているであろうと考えての事だ。
何より、零号機にナオコが居る事はシンジの居る眼の前でレイが告げている。

「随分と簡単に話しますねぇ」
「そうかしら?でも貴方にはもっと深い何かを感じるわ」

「くっくっく、面白いですよリツコさん。もう父さんの事は吹っ切れたのですか?」
「!!貴方、何を知っているの?」

「父さんに犯され、母親へのコンプレックスにより愛情だと自分に言い聞かせ母親と同じ道を歩もうとし、綾波を嫉妬心から人形の様に扱っていた」
「!!どこでそれを?!」

「暫く冷めてた感情に本妻が出てきた来た事によって嫉妬心から焼けぼっくいに火が付きましたか?くっくっく」
「レイから聞いたの?」

「くっくっく、綾波がリツコさんの情事に関心があると思いますか?」
「有り得ないわね」

シンジが思い描いていた少年ではなく、悪魔のような笑いを発しているのを見てリツコは旋律を覚えた。
しかし、そんなシンジに恍惚の表情を浮かべピトッと張り付いているレイ。

二人を見てリツコは自分が居るのは現世でないかの様な錯覚を受けた。

「リツコさんは面白い、その明晰な頭脳で何を考えるのか見てみたくなりましたよ」
シンジはそう言うとリツコの左胸をむんずと掴んだ。

「きゃっ何するの!きゃぁ〜っ!」
リツコらしからぬ悲鳴を上げた数瞬後、リツコは呆然とする。

リツコの胸から腕を抜き去るシンジ。

「い、今のは一体何なの?」
信じられないと言う顔でリツコが問う。

「それを明晰な頭脳で考えてください」
そう言うとシンジとレイはリツコの執務室を後にする。

今見た物、それは映像ではなく記憶だと自分の直感が告げている。
残されたリツコは思考の淵に落ち込んで行った。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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