第弐拾参話



「どうしたの?」
「・・・心配したの」
紅い眼を潤ませシンジを見つめるレイにシンジは戸惑っていた。

槍を投げ放ったレイは初号機の様子に取り乱し、慌てて零号機から降り、初号機のエントリープラグを手動で半射出させたのだ。

急に外部操作でエントリープラグが半射出されたシンジも何事かと慌てて外に出ると眼を潤ませたレイが抱付いて来たのだった。

「僕があの程度の精神攻撃に耐えられないはずないじゃない」
「・・・苦しそうな碇君を見ると胸が張り裂けそうになるの」
それがレイの本心である。

シンジが苦しむ事が何よりも辛いのだ。
願わくば、シンジが穏やかな笑みを湛え続ける事こそがレイの望みなのである。

「ごめん」
シンジはそう言うと優しくレイを抱締めた。

「・・・いい」
レイはシンジに身を委ね、その安堵感に浸る。

ロンギヌスの槍に雨雲が巻き取られ、晴れ渡った第三新東京市に佇むエヴァの麓で二人は暫く抱き合っていた。



リツコが自分の席から電話で話している。

「そう、居なくなったのあの子」

「えぇ多分ね、猫にだって寿命はあるのよ」
「もう泣かないでおばあちゃん」

「うん、時間が出来たら一度帰るわ、母さんの墓前にももう3年も立ってないし」

「今度は私から電話するから」
「・・・じゃ・・・切るわよ」

ピッ

「そう、あの子が死んだの・・・レイはどうするのかしらね」
机の上の猫の置物を指で弄びながらリツコは呟いた。

リツコは今後の事を色々とシミュレートしていた。
しかし、やはりキーとなるのはシンジ達の行動なのである。

使徒の倒し方などリツコには想像すらつかない。
特に次ぎの使徒はコアさえあるのか不明だ。

そしてレイの素体はもう無い。
3人目に移行する事は無いため、レイが自爆するとは考えられない。

何よりリリスの力を持ってすれば使徒殲滅など容易いのではないのか?
しかし、レイはエヴァを使用し続けている理由も解らない。

そこから考えられるのは、やはり大きさの問題で使徒殲滅にはエヴァが必要なのかも知れないと言うぐらいだ。

「まぁリリスだしね、問題ないわねきっと」
リツコはそう言うと煙草に火を付け大きく吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。



ミサトが使徒を横目に車中から電話で連絡を取っていた。
「後15分でそっちに付くわ、初号機を32番から地上に射出、零号機もその後方に射出、バックアップに回して」

「使徒を肉眼で確認・・・か」
NERVへ向け車を高速で走らせてながらミサトが呟く。


『初号機発進、地上直接迎撃位置へ』

『零号機、発進準備』
『零号機、第七ゲートへ、出撃位置決定次第発進せよ』

『目標接近、強羅絶対防衛戦を通過』

ライフルを構え使徒を伺っている初号機。

『目標は大枠谷上空にて滞空、定点回転を続けて居ます』

「目標のATフィールドは依然健在」

プシュー

慌ただしく情報が飛び交う発令所に漸くミサトが到着した。

「何やってたの?」
リツコが責める様に言う。

「言訳はしないわ、状況は?」

「膠着状態が続いています」
「パターン青からオレンジへ周期的に変化しています」
シゲルとマコトが端末を慌ただしく操作しながらも報告を行う。

「どういうこと?」
「MAGIは回答不能を提示しています」
マヤが答える。

「答えを導くにはデータ不足ですねぇ」
シゲルが補足した。

「ただあの形が固定形態でないことは確かだわ」
リツコが映像を眺めながら結論を述べる。

「先に手は出せないか・・・皆、暫く様子を見るわよ」

「・・・いえ、来る」
レイが呟くと共に使徒が姿を変え、零号機へと襲いかかった。

「レイ!応戦して」
「駄目です間に合いません!」
ミサトの叫びにマコトが叫ぶ。

零号機の咄嗟に張ったATフィールドを難なく突き破り零号機に接触する使徒。

『綾波!』
何時にないシンジの叫びが発令所内に木霊した。

「レイ?まさか・・・」
そのシンジの声と記憶に違わない零号機の行動にリツコは嫌な予感を走らせる。

「目標、零号機と物理的接触」
「零号機のATフィールドは?」
シゲルの言葉にミサトが確認する。

「展開中、しかし使徒に侵食されています」
マヤが状況を説明する。

使徒の侵食に伴い、ミミズ腫れの様なものがレイに広がる。

「危険です、零号機の生体部品が犯されて行きます」

「シンジ君!零号機の救出と援護!急いで!」
ミサトが指示を出す。

初号機は零号機から使徒を引き剥がそうと使徒を掴み引っ張っていた。

「目標、更に侵食」
「危険ね、既に5%以上が生体融合されている」

シンジは、使徒を掴んで零号機から引っ張り出そうとしている。
初号機の手が侵食されていく。

そこにプログナイフを突き刺す初号機。
使徒から悲鳴がレイの声で上がる。

零号機の中では、侵食した使徒がレイと接触を試みていた。

「誰?私?EVAの中の私?・・いえ、私以外の誰かを感じる・・あ なた誰?使徒?・・私たちが使徒と呼んでるヒト・・」

「私と一つにならない?」
「いえ、私は私、あなたじゃないわ」

「そ、でもだめ、もう遅いわ・・・私の心をあなたにも分けてあげる・・この気持ち、あなたにも分けてあげる・・イタイでしょ?ほら、 心がイタイでしょ?」

「痛い・・いえ違うわ・・さびしい・・そう寂しいのね・・」
「サビシイ?・・分からないわ・・」

「一人が嫌なんでしょ?・・・私たちは沢山いるのに・・一人でいるのが嫌なんでしょ?それを『寂しい』と言うのよ」

「それはあなたの心よ。悲しみに満ち満ちているあなた自身の心よ」
「ハッ・・これは・・泪?泣いてるのは・・私?」

その時、レイは初号機と融合としようとしている使徒の反対側を見た。

「レイ!」
ミサトが叫ぶ。

使徒の反対側を掴んで引っ張っている初号機に侵食が広がる。

「シンジ!」
発令所の司令塔に居たユイが叫んだ。

その姿を忌々しげに見つめるゲンドウ。

「シンジ君、プログナイフで応戦して!」
ミサトが指示を出す。

『・・・これは私の心、碇君と一緒になりたい・・』

零号機の背中から大きく何かが出てくる。

「ATフィールド反転、一気に侵食されます」
マヤが状況を報告する。

「使徒を押さえ込むつもり?」
リツコが驚愕の表情で呟く。

『駄目だ!綾波!!止めるんだ!』
シンジが叫ぶ。

一気に膨れあがる零号機のコア。

「フィールド限界、これ以上はコアが維持できません」
「レイ!機体を捨てて逃げて!」
ミサトの叫びが響く。

『だめ・・私がいなくなったらATフィールドが消えてしまう・・だから・・ダメ!』
自爆装置を引くレイ。

『止めろ!!止めるんだ!綾波!!!』
シンジは叫び続け零号機に駆寄り尚も使徒を引き剥がそうと試みる。

『・・・碇君、ありがとう、私は幸せだったわ』
シンジとの守秘回線を開きそう言ったレイは微笑んでいた。

『綾波!!綾波ぃぃぃい!!!』

「レイ!死ぬ気?」
ミサトが呟く。

その時、シンジの髪が銀色になり眼が紅くなった事に気付く者は居なかった。

「コアが潰れます、臨海突破!」
マヤの叫びが発令所内に響く。

爆発する零号機。
呆然とする発令所。

画面が真っ白になっているメインモニターを見つめユイすら呆然としている。
一人、ゲンドウだけがニヤリと笑った。


「も、目標・・・消失」
なんとか責務を全うするシゲル。

「現時刻を以て・作戦を・終了します。第一種警戒態勢へ移行」
震えながら指示を出すミサト。

「了・解、状況・イエローへ・速やかに・移行」
驚きの中、たどたどしいながらも責務を全うしようとするマコト。

「零号機は?」
「エントリープラグの射出は確認されていません」
マヤの報告に肩を震わせるミサト。

「生存者の救出・・・急いで」
「もし居たらの話ね」
リツコが呟く。

ミサトが睨み返した時、リツコも俯いていた。

「しょ、初号機は?!」
ユイが頭上から声を発した。

慌てて初号機の存在を確認するオペレータ達。

「しょ、初号機も消滅・して・います」
シゲルがあまりの出来事に、なんとか報告だけを行う。

「そ、そんな・・・」
その場にへたり込むユイ。

発令所の面々はそんなユイの姿に自分の息子を失ったショックだろうと受け止めていた。

そして唯一ニヤリと笑いを浮かべるゲンドウ。

「・・・冬月、後を頼む」
「あ、あぁ」
ゲンドウは司令室に戻ると、押し殺していた笑いを解き放つ。

「・・・くくく、これでユイも私の物だ。邪魔者は居なくなった。くっくっく」
司令室内に不気味なゲンドウの笑いが木霊する。



「赤木博士」
現場回収に来ているリツコは作業員に呼ばれエントリープラグの残骸の場所に行った。

オレンジ色の防護服を身に纏い、エントリープラグの残骸を覗き込むリツコ。

「やはりね・・・」
その呟きは誰に聞き取られる事も無かった。

「この事は極秘とします。回収を急いで」
「・・・はい」
リツコは指示を出すとその場を立ち去る。

初号機のエントリープラグも近くにあるはずだ。
別な回収班の状況を聞き、そちらに向かうリツコ。
そしてエントリープラグの中を見てリツコは確信を持つ。
何故か前方が内側から突き破られた様に破裂しているエントリープラグ。

「この事は極秘とします。回収を急いで」
「・・・はい」
リツコは零号機のエントリープラグと同様の指示を出すとその場を立ち去った。



『碇、これはどういう事だ?』
『ロンギヌスの槍に続きエヴァ初号機並びに零号機の損失、君の解任には充分すぎる理由だよ』

「・・・使徒殲滅を優先させました。やむを得ない事情です」
音声だけのモノリスからの重圧に微塵も悪びれずゲンドウは言い放つ。

『やむを得ないか、言訳にはもっと説得力を持たせたまえ』
『最近の君の行動には眼に余る物がある』

『何れにせよ遂に第十六までの使徒は倒された』
『これでゼーレの死海文書に記述されている使徒は後ひとつ』

『約束の時は近い、その道のりは長く犠牲も大きかった』

「・・・その使徒殲滅のためにもドイツの伍号機を委譲して頂きたい」

『なんと!まだエヴァを要求するのかね』
『一体、エヴァを何機壊せば気が済むのかね』

「・・・現在、本部にエヴァは存在しません。ここに最後の使徒が現れればサードインパクトです」

『確かに使徒は殲滅せねばならん、伍号機については早急に手を打とう。碇、裏切るなよ』

01のモノリスがそう言い残して消え去ると他のモノリス達も消えて行った。

「・・・くっくっく」
暗闇の中ゲンドウは一人愉悦に浸っている。



第三新東京市は、零号機並びに初号機の爆発により壊滅的ダメージを受けた。
従って殆どの民間人は疎開する事となった。

疎開すると言ってもNERV関係の者が多かった街であり、遠くの田舎に引っ込む者は親を失った子供ぐらいであり、殆どは隣の第二新東京市へと移動するのみである。

親がNERV勤めの者達は親戚の家などへ行く者達も居たが、元々シンジのクラス2−Aは、チルドレン候補であった事から片親が多い。
それでも親戚ではなく親元に居たと言う事は、既に行く当てのある親戚も居ないのである。

従って、2−Aの殆どは隣の第二新東京市に親が住居を与え避難させると言う形になっていた。
トウジとヒカリもその中の一人である。

ヒカリもトウジも兄弟や姉妹が居たため、同じような広さの家と言う事で同じマンションと言う偶然も付いて来た。

マナ達は、シンジの計らいで既に前よりも広いマンションが買い与えられており、そちらに移住する事となっていた。
こちらは、かなり広い。

アスカは、初めてその部屋に入った時、「やっと兎小屋から解放されたわ」とご満悦であった。
それは2階建ての洋館風マンションを一棟まるまる買い占め改造した物で、寝室と言えるのは10部屋程あった。

それぞれに部屋が与えられ、各々十畳以上の部屋とウォーキングクローゼットがあり、アスカの荷物でさえ楽々と収納できたのである。

そして地下室に案内された5人は驚愕する。

有りとあらゆる性行為を行ってきた5人であったが、そこにある器具の多さに驚いたのである。
それは、ナチスの拷問部屋か、はたまた中世での魔女狩りの拷問部屋を思わせる程の拷問具に溢れていた。
マナでさえ、その光景に生唾を飲み込んだ。



NERV名物の長いエスカレータでミサトとリツコが移動していた。
「しっかし、初号機まで爆発しちゃうとはねぇ」
「エヴァ無しで使徒と戦える?」

「解らないわ、でも有る物でなんとかしないとね」
「随分、前向きね」

「今の私に出来るのはそれぐらいだからね」
「助かるわ、貴女のそう言う所」

「シンちゃんやレイは死んじゃったの?」
「遺体は確認していないわ」

「それって?!」
「多分ね」

話しながらリツコの執務室に入るミサトとリツコ。

「これ見て頂戴」
リツコが開いたディスプレイ。

そこには中学校に通う、シンジとレイ、それにアスカやマナ達が映っていた。

「こんな物見せてどう言うつもり?」
ミサトが懐かしい写真を見せて想い出にでも浸るつもりかと問い質す。

「これ、昨日の映像よ」
「えっ!?」

「堂々と第二新東京市の第一中学校に通っているわ」
「諜報部は何してるの?」

「疎開した人間の行方まで追っていないわ、これはMAGIの映像よ」
「MAGIって第二新東京市も掌握していたの?」

「まさか、でも回線が繋がっていれば監視カメラの映像を持ってくるぐらいは訳ないわ」
「わざわざ探したの?」

「いいえ、アスカの行方から見る事ができる監視カメラを探して映像を落としただけよ」
「成る程、しっかし大胆ねえ」

「例え、連れ戻しても乗るエヴァは無い、連れ戻す理由も無いわね」
「最初から計画していたのかしら」

プシューッ

「せ、先輩!大変です!ユイ博士が!」
「ユイさんがどうしたの?」

「じ、自殺して、今NERVの病院で緊急蘇生が行われてます!」
「「なんですって!」」



3人が病室に着くとベッドで身体を起こしているユイに縋るゲンドウが居た。

「ユイ!ユイィ〜」
「もう、ゲンドウさんたら大袈裟なんですから」
そう言いながらユイはゲンドウの頭を撫でている。

異様な光景に硬直する3人。

「あら?皆さんお揃いで、本当、すみません。ちょっと実験を失敗して手首を切っただけですのよ。ゲンドウさん、ほら皆さんがいらっしゃってますよ恥ずかしいですわ」

「そ、そうだったんですか、そ、それではお大事に・・・」
何とか冷や汗を流しながらもリツコがそう言うと後退りしながら病室を後にする3人。

「ひっ!」
「「マヤ〜」」
振り返ったリツコとミサトの形相にマヤは般若を見た。

「わ、私も報告を受けて、そ、それをお伝えしただけなんですぅ〜」
それだけを言うと踵を返し走り出すマヤ。

「「待てぇ〜!」」
「ごめんなさぁいぃ〜」
走り去るマヤを追い掛けるミサトとリツコ。

それを見ていたユイの顔は一瞬、眉を顰ると、再びゲンドウに話し掛けていた。



影に隠れた3人は打って変わって真剣な顔つきになる。

「マヤ、確か緊急蘇生を受けているって言っていたわよね」
「はい、間違いありません」

「どう言う事かしら?」
「考えられる事はひとつ」
リツコの言葉にリツコの顔を見つめるミサトとマヤ。

「ちょ、ちょっと照れるじゃない」
リツコは赤面していた。

「今更照れる歳でも無いでしょ」
「せんぱぁい、巫山戯てないで早く教えてくださぁい」
マヤは頬を膨らませている。

「こ、コホン、多分、使徒と同様の回復力を手に入れた」
「「それって!?」」

「実はアダムの行方が定かではなかったの、多分アダムを取り込んだのね」
「司令の右手にあった物ですね」
マヤはそう言うとブルッと身体を震わせ、自らの両肩を抱締めた。

右手を千切り取られた時の事を思い出したのだ。

「その線が一番濃厚ね、後はエヴァに取り込まれていた副作用とも考えられるけど現実的ではないわ」
「一体、何のために・・・」

「神になるためか、億単位の集団自殺を図るためか」
「集団自殺って?!」

「次ぎの使徒がユイさんと融合するとサードインパクトよ」
「それは阻止しなければならないわね」
ミサトがギュッと右手を握り締める。

「神になるには何をするんですか?」
「リリスとの融合か、私の知らない方法があるのかも知れないわ」

暫くブツブツと独り言を言いながら思考に耽るリツコ。
それをミサトとマヤは訝しみながら見ていた。

「マヤ!特命よ」
「はい!」
ふと顔を上げ発せられたリツコの言葉にマヤは反射的に返事をしてしまった。



「「「「「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」」」」」
暗い地下室で5人の少女が喘いでいる。

どの娘も飛びっきりの美少女達だ。
茶髪のショートカットの少女は両手を縛られ、吊られた状態で男二人に前後の穴を同時に貫かれている。

お下げに雀斑が残る少女は、縛り上げた男の股間をアナルに受け入れ自ら腰を動かしている。

金髪に青眼の少女は、縛り上げられ黒く長い髪に黒い眼の大和撫子風少女に責められている。

蒼銀の髪に紅い眼の少女は、黒髪に黒い眼の中性的男の子に跨り、少年に抱付いていた。

「シンジィ、NERVは大丈夫なのぉ?ぁんっ」
金髪の少女が黒髪の少年に問い質した。

「多分、リツコさんか母さんが接触してくると思うよ、それまで待っていればいいさ」
「・・・くふぅん」
蒼銀の髪に紅い眼の少女が仰け反り小さく呻いた。
その目尻には泪が零れている。

「・・・こう言う時も泪は出るのね」
蒼銀の髪に紅い眼の少女は、そう言うと少年に抱付いた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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