第弐拾伍話
終る世界


ケージで伍号機を静かに見上げているカヲル。

「さぁ行くよ、おいでアダムの分身、そしてリリンの僕」

伍号機の前に浮かんで行くカヲル。
眼が光り、起動する伍号機。

「エヴァ伍号機起動!」
突然の異変にマコトが叫んだ。

「そんな馬鹿な!フォースの少年は?」
ミサトも叫ぶ。

「午前中からロストしています」
シゲルが答える。

「誰が乗っているの?フォースの少年?」
「無人です、伍号機にエントリープラグは挿入されていません」
マヤの居ない発令所でマコトがその代役を果たしている。

「誰も居ない?フォースの少年ではないの?」
「セントラルドグマにATフィールドの発生を確認!」

「伍号機?」
「いえ、パータン青、間違いありません使徒です!」
マコトの報告が悲痛に発令所内に響いた。

「何ですって!使徒・・・あの少年?」
「駄目ですリニアの電源は切れません」

「セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖、少しでもいい時間を稼げ」
物言わぬゲンドウに代り冬月が命令を下した。

「まさか、ゼーレが直接送り込んで来るとはな」
「老人は予定を一つ繰り上げるつもりだ、我々の手で」
ゲンドウがいつものポーズで呟く。

その眼は何を見ているのか。

NERV内には警報が鳴り響いている。



『人は愚かさを忘れ同じ過ちを繰り返す』
『自ら贖罪を行わねば人は変わらん』

『アダムや使徒の力は借りぬ』
『我々の手で未来へと変わるしかない、NERV本部自爆による遂行を願うぞ』

キールの声と共に音声だけのモノリスは消えて行った。



「マユミさん、マヤさんに手枷を」
「へ?」
マヤは何の事か解らず、キョトンとする。

「マヤさん、リツコさんがこの時期に貴女を一人でここに来させたと言う事は、多分、貴女のためだと思います」
「それってどう言う・・・」

「その理由を理解するために、少し荒療治をさせて貰います。そのために暴れても大丈夫な様にさせて下さい」
「ちょ、ちょっと待って・・・」
マヤの言葉など意に解さず、マユミがマヤの手に手枷を嵌める。

「まぁ悪い様にしないから、大人しくしてなさいマヤ」
ニヤリとした笑いを浮かべマヤを押さえつけ、マユミが手枷を嵌めやすいようにするアスカ。
いつしかマナも手伝っていた。

見る見るうちにマヤは手枷を嵌められ、その手枷にフックが掛けられ吊上げられてしまった。
足が漸く床に着く形で両手を吊上げられたマヤは、お臍も露わに身体が伸び切っている。

「あ、あのぉ〜私、どうなるんですかぁ?」
目まぐるしく変化する自分の状況にマヤは再び涙眼になっていた。

いきなりシンジがマヤの乳房を握る。
「キャッ!」

何をするんですか?と言う暇もなく、マヤの脳裏に蘇る記憶。
「あっ!あぁあ〜!!」
叫びと共に涙を流し出すマヤ。

暫くすると、全身から力が抜け垂れ下がるマヤ。

「わ、私は・・・私は・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
譫言の様に呟いている。

「アスカ、後は頼んだよ」
「後って?」

「カヲル君が動き出した。ちょっと綾波と行って来る」
「そう、解った」
アスカはニヤリと笑いマヤを見つめた。

シンジがすっと出口に向かい、スタスタスタっとレイがその後に続いた。
以心伝心なその姿をマナ達は羨望の眼差しで見送るのだった。



発令所は喧噪としていた。

「装甲隔壁がエヴァ伍号機により突破されています」
「目標は第二コキュートスを通過」

オペレータ達の報告にもゲンドウは沈黙を守ったままだ。
使徒に対抗するために取り寄せたエヴァとそのパイロット。

そのパイロットが使徒であり、エヴァも自分達の駒ではなくなってしまった。

「如何なる方法を持ってしても目標のターミナルドグマ進入を阻止しろ」
ゲンドウは悲痛な面持ちで命令を下す。

しかし、どんな方法があると言うのだろうか。


冬月がゲンドウに小声で話し掛ける。

「もしや伍号機との融合を果たすつもりなのか?」
「・・・或いは破滅を導くためかな」


「・・・冬月、後を頼む」
「あぁ、ユイ君に宜しくな」

ターミナルドグマに使徒が目標とする物はない。
ゲンドウと冬月はユイがアダムを持ってターミナルドグマに居ると考えたのだ。
使徒殲滅には本部自爆以外に術はない。
ゲンドウは一抹の望みをユイに託すためにターミナルドグマに向かう。



「リリンにとって、忌むべき存在のエヴァ。それを利用してまで生き延びようとするリリン。僕には理解できないよ」
ターミナルドグマへ下降しながらカヲルは呟いた。

「シンジ君、遅いなぁ」
カヲルは上を見上げシンジの到着を待っていた。



『目標ターミナルドグマまで後20』

「使徒がターミナルドグマに辿り着いた時は・・・」
「解ってます、その時はここを自爆させるんですね、サードインパクトが起されるよりましですから」

「済まないわね」
「いいですよ、貴方と一緒なら」
「ありがと」
ミサトは、マコトと決断を下していた。



「人の定めか、人の希望は悲しみに綴られている」
カヲルが呟くと、今までにない金属音が響いた。

キーーーーーーーーーン



「どういう事?」
「これまでにない、強力なATフィールドです」

「光波、電磁波、粒子も遮断しています。何もモニタできません」
「まさに結界か・・・」
ミサトは最後の手段、本部施設の爆破を行うしかないことを決意した。

「目標、ロスト!」
シゲルが叫ぶ。

「最終安全装置解除」
「ヘブンズドアが開いて行きます」

「遂に辿り着いたのね、使徒が・・・日向君」
合図を送るミサト。

頷くマコト。

その時、衝撃が本部施設を襲う。

「状況は?」
「ATフィールドです」
「ターミナルドグマの結界周辺にさっきと同等のATフィールドが発生」
「結界の中へ進入していきます」
シゲルとマコトが交互に報告を行う。

「まさか、新たな使徒!」
ミサトが驚愕の叫びを発する。

「駄目です、確認できません、あっいえ消失しました」
シゲルが報告する。

「消えた?使徒が?」
理解不能の事態の続出に為す術がないミサトだった。

「日向君」
ミサトが再度マコトに合図を送る。

「カスパーが否決!自爆しません!」
「何ですって!」

「母さん、やはり男を選ぶのね・・・」
リツコの呟きは誰にも聞こえなかった。



「おかえりなさい」
カヲルの目の前にはリリスが張付けにされていた十字架。

その下に白衣を纏ったユイが居た。

「アダムはここに有るわ」
バサッと白衣を脱いだユイ。

そこには全裸で腹部にアダムを融合したユイの姿があった。

「僕と融合するとサードインパクトが起こるのじゃないのかい?」
「ふふ、それは老人達の誤読だわ。アダムの魂は貴方達使徒が受け継いだ。アダムに帰れば貴方達の進化が終るだけよ」

「アダムより産まれし物はアダムに帰る・・・そうかそう言う事かリリン」
「そうよ、ふふふ」
不気味な笑いを浮かべながらカヲルに全裸のユイが近付いていく。

「人の姿を取った僕が進化すると、それは人以上の物になる。それが貴女の望みですか」
「貴方は既に人を超えているわ。ふふふ」
妖艶に笑いを浮かべるユイ。


「母さんは人を超えてどうするつもりなの?」
「シンジ君!」
カヲルが背後からの声に歓喜の表情を持って答えた。

「人は進化に行き詰まったのよ。貴方達なら解るでしょ?人の脆弱さが」
「人が使徒と融合して自我を保てると思っているの?」

「私は10年もエヴァの中に居たのよ」
その言葉を聞き、悲しそうな顔をするシンジ。

レイはそんなシンジの腕を自分の胸にしっかりと抱締める。

「それならやってみれば良いよ」
「いいのかい?シンジ君」

「ユイッ!」
そこにゲンドウが現れた。

カヲルのATフィールドに阻まれていたが、シンジがそこを中和し、中に入れたのだ。

「そうか、そう言う事かシンジ君、解ったよ」
そう言うとカヲルはユイに抱付く。

「貴様っ!ユイから離れろ!」
ゲンドウが逆上し、拳銃を放つ。

しかし、ATフィールドに阻まれ、その弾がカヲルに当たる事はない。

「ゲンドウさん?私の邪魔をしないでくださいな」
「ユイ・・・」
弾の無くなった拳銃を尚も撃ち続けるゲンドウ。

ユイは妖艶な笑みを浮かべるとカヲルに抱付いた。

序々にカヲルの身体に融合していくユイ。
恍惚の表情を浮かべながらユイはカヲルに融合していく。

「ユイィぃ〜〜っ!」

「これで良かったのかい?シンジ君」
「僕と一緒に行く?」

「そうさせて貰うよ」

「父さん、人の脆弱な心では使徒との融合には耐えられない、アダムは幼態だったからなんともなかったけど、本来の使徒の虚無に耐えられるはずが無いんだ」
「・・・シンジ・・・貴様・・・」

「父さんにも記憶を戻してあげるよ」
そう言うとシンジはゲンドウの旨に腕を突き刺す。

「ぐはっ!ぐぅっ・・・」
「元々、エヴァの中に10年も居て正常な精神が保てる訳が無いんだ」

シンジはユイをサルベージする時に、正常な精神を保てる様細工を施していたのだ。
ユイはその事に気が付かず、自分の精神が強固なのだと誤認していた。

シンジはそれが自分のせいだと感じていたのだ。
そんなシンジの心境をレイは感じ取り、シンジの腕を抱締めるのだった。

「・・・碇君のせいじゃないわ」
「ありがとう、綾波」

「ユ、ユイはどうなったのだ」
「彼女は苦痛に打ち拉がれて僕の中で消滅したよ」
カヲルがあっさりと述べる。

戻された記憶に困惑せず、尚もユイの事を尋ねるあたりは流石と言う処だ。

シンジ達はゲンドウを伴い、ターミナルドグマを離れ伍号機を自爆させるとゲンドウを発令所の入り口に置き去りにし、NERVを去って行った。



壮絶な揺れを受ける発令所。

「今度は何?!」

「ターミナルドグマで大規模な爆発です!」
「使徒は?!」

「反応は消滅しています!」
「そう、サードインパクトは起きなかった・・・」
ミサトは何かを考える様に親指の爪を噛む。

「司令!」
何も言わず発令所を出ようとしたリツコが、扉の前で呆然と座り込んでいるゲンドウを発見した。

「碇!何があった?!」
「・・・冬月・・・」
見上げるゲンドウの眼には絶望しか浮かんでいない。

常に傲慢なゲンドウしか見たことのない冬月は、今のゲンドウの姿に自分達の希望が絶たれた事を悟った。

「救護班を、それと第一種警戒態勢に移行だ」

理解できない現象にも訓練された職員達は、冬月の命令を遂行していく。

「・・・使徒は伍号機の自爆により殲滅。委員会にはそう報告しろ」
「解った」
冬月はゲンドウに頷く。



「こ、これがリリンの営みなのかい?」
シンジの家に入ったカヲルの第一声は冷や汗を伴った物だった。

そこには、中学生とは思えない阿鼻叫喚の図が展開している。

3人の男の子と4人の美少女、それと1人の可愛い大人の女性が全裸で居るのだ。

ヒカリとトウジは疲れたのか裸で抱き合って眠っている。
マナとマユミとムサシとケイタも全裸で絡み合ったまま眠っている。

アスカはソファーに眠っており、その足下にマヤが全裸で縛り上げられて眠っている。
マヤは眠っていると言うより失神したと言う方が正しいだろう。
マヤの股間には二本のバイブが蠢いていた。

ズリュッ
ヌポッ
レイが無造作にマヤの股間からバイブを抜き取る。

全員をベッドに運ぶシンジとレイ。
カヲルは置き去りにされた二本のバイブを両手に持って不思議そうに眺めていた。



マヤはふかふかのベッドで目覚めた。

「ここは・・・」
見たこともない場所で、かなり高価そうなベッドに寝ている自分に、何があったのかを思い出そうとする。

窓からは、レースのカーテン越しに柔らかい日差しが差し込んでいる。

羽毛布団の心地よさにもう一度くるまるマヤ。
漸く、自分が全裸である事に気付き、身体を見回す。

序々に赤面していくマヤ。
アスカ達によっぽど恥ずかしい目に会ったのだろう。

あちらこちらに付いている縄や鞭の跡らしき物がそれが夢では無かった事を語っていた。

周りを見渡すと自分の服とバッグが傍らのテーブルとソファに置かれている事に気付いた。
下着も丁寧に畳まれている。
それを見て、自分がお漏らしをしてしまった事を思い出し、更に顔を赤くした。

衣服を着て、部屋を出るマヤ。
扉を開けると階下の方で笑い声が聞こえる。
マヤはそちらに向かって歩いて行った。

「おはようございます。マヤさん」
最初に気が付いたのはマユミだった。

「おはようマヤ」
「「おはようございます」」
「おはよう」
「おはようございます」
「・・・おはようございます」
口々に朝の挨拶をマヤに向ける子供達。

昨日の事など何もなかったように思える。
「あっ、お、おはようございます」

「コーヒーと紅茶とどちらが宜しいですか?」
「あっ、じゃ、じゃぁ紅茶を」
マユミに話し掛けられ、何とか答えた物の現状が認識できない。

「マヤったら昨日は凄かったわね」
「ア、アスカちゃん・・・」
アスカの言葉に顔から火が飛び出るぐらい真っ赤になるマヤ。

「昨日の事は置いておいて、マヤさんリツコさんに連絡した方が良くないですか?」
「そ、そうね」
マヤは未だここに来た目的を達していない。
シンジの言葉にその事を思い出した。

しかし、シンジから記憶を戻され、記憶通りなら既に第壱拾七使徒が現れているはずだ。
バッグから携帯を出したマヤが固まる。

今回は、まだフォースチルドレンの資料を見る前にここに来た。
しかし、そこに居るのは記憶にあるフィフスの少年、第壱拾七使徒。

「やぁ初めましてかな?僕はカヲル。渚カヲル。よろしく」
アルカイックスマイルを浮かべたカヲルの自己紹介にガクガクと震え出すマヤ。

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ」
そんなマヤを後ろから抱締めたのはマナだった。

「それより早く連絡した方が良いんじゃないのか?」
コーヒーを飲みながらムサシが声を掛ける。

あまりにも平静な周りの雰囲気がマヤの恐怖を鎮めて行く。

「お茶でも飲んで落ち着いて下さいな」
マユミがマヤに紅茶を奨めた。

暖かい紅茶を口に運び、なんとか平静を取り戻すと、バッグから携帯を取り出すマヤ。
リツコが忙しくなければ、繋がる携帯への直通番号を打つ。

『あら、マヤ。無事だったのね』
「せんぱぁ〜い」
マヤはリツコの声を久しぶりに聞いた様な気がして安堵の息を漏らした。

『NERVは第一種警戒態勢のままよ。つまり、貴女は戻れないし、内部の者が出る事も出来ないわ』
「せ、先輩はどうするんですか?」

『私は良いのよ、ミサトとなんとかするわ。貴女はシンジ君のところに居なさい。その方が安全だわ』
「えっでもここにフィフスの少年が居ますけど」
声を潜めて言うが、皆微笑みながら聞いている。

『フィフス?そう貴女も記憶を戻して貰ったのね』
「え?」

『委員会から送られて来た少年はフォースよ』
「あっ!」

『使徒は殲滅したと委員会には報告したわ、ここが占拠されるのも時間の問題ね』
「せ、先輩!」
リツコの安穏な言葉に今まで気が付かなかったが、後ろで慌ただしい音と声が響いている事にマヤは今更ながら気がついた。

『MAGIは666プロテクトを張るまでもなく用意していたプログラムでハッキングは撃退したわ。貴女が手伝ってくれた御陰よ』
「先輩・・・」

『そこにシンジ君が居るんでしょ?代わってくれる?』
マヤはシンジに携帯を差し出す。

「シンジです」
『ありがとうシンジ君』
リツコの言葉に流石のシンジも眼を見開いた。

『マヤをお願いするわ』
「最初からそのつもりだったのですね」

『賭けただけよ。あの娘を引き込むのは忍びなかったの』
「それはマヤさんが決める事です」

『そうね、ユイさんはどうなったのか教えて貰えるかしら?』
「使徒との融合を果たし消滅しました」

『そう、アダムと使徒が融合するとサードインパクトと言うのは嘘だったのね』
「誤読と言った方が正しいと思います。老人達は信じていますから」

『そうね、ありがとう。もしまた逢えたら話しを聞かせて貰えるかしら?』
「ええ」

『ありがとう。それとレイにごめんなさいと伝えて貰えれば嬉しいわ』
「代わりますよ。自分で伝えて下さい」
シンジはそう言うとレイに携帯を差し出す。

「・・・はい、レイです」
『レイ・・・許してとは言わないわ。でも・・・ごめんなさい』

「・・・貴女のせいじゃないわ」
『あ、ありがとう・・・レイ・・・』
リツコが電話の向こうで泣いている事が解る。

レイは携帯をマヤに差し出した。
「先輩?」

『マヤ、これからの事をよく考えて決めなさい。NERVの中から貴女のデータは抹消しておいたわ』
「先輩、それって・・・」

『ごめんなさいねマヤ。貴女をこんな事に巻き込んで』
「私は先輩に憧れてNERVに入ったんです!先輩のせいじゃありません!」
マヤも眼に涙を一杯浮かべている。

『ありがとうマヤ。もう時間がないわ。それじゃぁね』
「先輩!」
電話は向こうから切れた。

テーブルに突っ伏して泣き崩れるマヤ。
マユミ、マナ、アスカがマナを抱締めていた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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