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黒の贖罪


『本日12時30分、東海地方を中心とした、関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい』

人一人居ない駅のホームでは無機質な機械的なアナウンスが流れている。
澄み渡った青空の上に、銀色に輝く戦闘機が一筋の白線を描いていた。

「くっくっく・・・」
不気味に笑う少年。

黒髪に黒い瞳。
どちらかと言うとひ弱な感じに見える中性的な少年だった。

そして少年は、あたかもそこに何かが現れる事を知っていたように一点を見つめている。
程なくアスファルトの上に、蜃気楼のように頼りなく立ち尽くす、中学校の制服らしい物を纏った蒼銀の髪に紅い瞳の少女が現れた。

「くっくっく・・・おいでリリスの分身、ゲンドウの肉奴隷」
少年はその蜃気楼のような少女に向かって微笑み、そう呟くと手を少女の方に差し出す。

いつのまにか少年の手に抱締められる様に寄り添わされた少女は、有り得ない現象と少年の言葉に眼を見開いていた。

少年の周りには轟音と共に降り注ぐ瓦礫や、巨大な生物によって叩き落とされた戦闘機の残骸等が降り注ぐ。

しかし、少年はそんな物は歯牙にも掛けず片手に抱締めている少女に語りかけた。

「くっくっく、君の身体はこうやって魂が彷徨ってしまうほどにボロボロだ。そんな身体を捨てて僕と一つにならないかい?」
少女は、その言葉に眼を更にまん丸く見開いた。

少女は自分がここに居る理由すら解っていなかったのだ。
少年の言葉に、自分がここに居る理由は解った。
そして、それを教えてくれた少年に興味がわく。

「・・・貴方、誰?」

「僕は、碇シンジ、僕の半身である君を迎えに来た者」
「・・・私は私、貴方じゃないわ」

「勿論だよ、綾波。大事な人を自分の半身と言うのさ。くっくっく」
「・・・何故?」
少女の言葉は語数が少なく何を尋ねているのかは計りかねる。

「僕と一つになれば、その答えは全て解るよ。おいで可愛い僕の愛しい人」
しかし、そんな事は気にも留めずシンジは答えた。

少女は困惑した。

その自分を形容している甘美な言葉に。
徐々に近付いてくる少年の顔。
少年の唇が少女の唇に触れるかと思われたその時、けたたましいブレーキ音を響かせ青いアルピーヌルノーが少年の前にドリフトで滑り込んで来た。

「お待たせっ!!」

ドアが開き、サングラスをかけて黒いチャイナスーツを着た葛城ミサトが悪びれもせず顔を出す。

「ちっ!」とあからさまに怪訝な顔をするシンジ。
少女も心地良かった逢瀬を邪魔されてミサトを睨付ける。

ミサトは、少年の姿を見ると呆気に取られた。

「どうしてレイがここに居るのよっ?!」
それはミサトの知っている綾波レイが少年に抱えられていたから。

少年はミサトを一瞥すると、レイをお姫様抱っこして踵を返しその場を離れようとする。
既にレイの両手は少年の首に回されていた。

グシャッ
思考を停止してしまったミサトの車を巨大な生物が踏み潰した。
元々、微妙なタイミングで踏みつぶされて居なかったのだ。
数瞬の躊躇が命取りとなってしまった。

「なかなかやるねサキエル。その行為は好意に値するよ。・・・くっくっく」
不気味に微笑むシンジ。

レイは、少年の胸に顔を埋め既に周りの事は見えていない。
魂を抱締められる快感に酔っていた。

レイの魂がここに有る理由。
それはATフィールドにより魂を包み、先般聞かされたサードチルドレンなる人物が気になって魂だけが飛んで来てしまっていたのだ。
勿論、レイが意識して行った訳ではない。

その時まで、サードチルドレンは自分の居場所を脅かす存在だったのである。

「明日、予備が届く」
ゲンドウから聞かされた言葉。

そのために零号機の起動実験を失敗してはならないと言う気負いが産まれていた。
そして仕組まれたとも知らずに失敗した零号機の起動実験。
その事により自分は用無しとなったのではないかと言う不安が、サードチルドレンとはどんな人物かと気にする気持ちに拍車を掛けた。

そして、今にも生命の危機に瀕している身体は容易にレイの魂を飛ばしたのである。

しかし、今の心地良さがそんな事を忘れさせていた。
魂だけの存在を抱締められているのだ。
それは、身体を抱締められる物では味わえない心地良さを味あわせていた。

サキエルと呼ばれた巨大な生物はシンジ達を一瞥すると足を先へ進めた。



発令所では指揮権の委譲劇が行われていた。

軍人達のN2地雷による効果がなかった事への落胆。
ゲンドウと冬月はほくそ笑みながら指揮権を受け取る。

「碇君、総司令部からの通達だよ。只今より本作戦の指揮権は君に移った。お手並み拝見させてもらおう」
「我々国連軍の所有兵器が目標に対し無効であった事は認めよう。だが碇君!! 君なら勝てるのかね?」

「そのためのNERVです」
右手で直したサングラスの奥の目は、不敵な自信に満ち溢れていた。

「UNもご退散か・・・どうする?碇」
「・・・初号機を起動させる」

「パイロットが居ないぞ?」
「・・・問題ない・・・もうすぐ予備が届く」

(息子を予備呼ばわりかユイ君が聞いたら何と言うかな・・・)

その予備と呼んでいる人物を迎えに行かせた者が既に踏み潰されて居る事や、その事により予備と呼んでいる人物を確保出来ていない事など全く知らない二人は、自分達のシナリオ通りだと思っていた。


「副司令!正面ゲートに子供が!」
副司令直属であるオペレータ青葉シゲルが、報告する。

「警備員を向かわせて保護しておけ」
「それが、IDカードを通して入って来ます!」

「何!誰のカードだ?!」
「はいっ!・・・碇シンジ・・・サードチルドレンですっ!」

本来、非常時は施設内の立ち入りは行えない様になっている。
しかし、要職とチルドレンは別である。
それ故に、シゲルのコンソールにその事態が通知されたのであった。

「何だとっ!葛城君は何をしている?!」
「はっ・・・それがNN爆雷の使用前から音信不通です!」
常にミサトの動向を監視していたオペレータ日向マコトが答えた。

「まさか、NN爆雷に晒されたか・・・」
冬月のその言葉にマコトは顔を青くした。

マコトは自分でも発信機の電波が途絶えた所で嫌な予感はしていたのだが、それを認めたくはなかったのだ。

「発信機の信号が途絶えたのは、その数十分前です。多分、車が何かしらの事故にあった可能性が・・・」
「それでも生きている確率は変らんな・・・」
冬月の言葉にマコトは落胆を隠せなかった。

UN軍の使用したNN爆雷。
それは街ごと吹き飛ばしたのである。

「・・・赤木博士にサードチルドレンを迎えに行く様に連絡をしろ」
ゲンドウはニヤリと口を歪ませると威圧的に指示を出す。

技術部のオペレータである伊吹マヤが急いで赤木リツコの居場所をサーチしていた。



シンジはNERVゲートを潜るとエレベータ前のベンチに腰掛けていた。

心の中では一つになり全てを知ったレイが纏わりついている。
当然、そんなレイをシンジは優しく包み込む。

「くっくっく・・・」
しかし表層上は不気味な笑みを浮かべる少年であった。

シンジの心の中では全裸でシンジに纏わりつくレイを抱擁し、唇を重ね、身体を貪っていた。
それはイメージであり、魂自体を抱締められ貪られるレイは途轍もない魂の快感を与えられている。

(・・・碇君、碇君、碇君)

シンジの中で無尽蔵にシンジを求めるレイ。
それを受け止めるため、シンジはベンチに腰掛けていたのである。


チンッと言う音と共に、エレベータの扉が開かれた。

(くっくっく・・・綾波、暫くお預けだよ)
(・・・解ったわ)
そう言いつつもシンジの首筋にくぅんと鼻を擦りつけているレイ。

シンジの中での話なので、表層上はやはり不気味な笑みを浮かべる少年のままであった。
その笑みに気圧されるも、エレベータの中から現れた何故か水着に白衣で金髪の女性はシンジに話し掛けた。

「碇シンジ君ね?」
「そうですけど、貴女は?」

「私は技術一課E計画担当博士の赤木リツコ、よろしく。リツコと呼んでもらって良いわよ」
「・・・よろしく・・・くっくっく」

(不気味な笑いをする子ね・・・)

「何故笑うのかしら?」
「ここの職員の方は水着が好きなんだなと思いまして・・・くっくっく」
そう言いながらシンジが見せた写真にリツコは唖然とし、自分の姿を思い出して赤くなった。

シンジが見せた写真には、親友である葛城ミサトが水着で胸を強調し、更にマジックで【ここに注目】などと書いており、あまつさえキスマークまで付けていたのである。

「い、いらっしゃいシンジ君、お父さんに会わせる前に見せたい物があるの!」
「・・・くっくっく」
シンジは相変わらず不気味な笑みを浮かべながら、真っ赤になって踵を返し、先に歩き出したリツコに付いて行った。



発令所では、その様子をモニタで見ていたゲンドウが行動を起こす。

「・・・では後を頼む」
ゲンドウは、そう言って専用エレベータに乗り発令所を後にした。

「三年ぶりの対面か」

「副司令、目標が再び移動を開始しました」
「よし、総員第一種戦闘配置!」
後を頼まれた冬月が、本来ゲンドウが発令する戦闘配置の命令を下す。



けたたましく鳴り響く警報。

『繰り返す。総員第一種戦闘配置。対地迎撃戦用意』

「コレは一大事ね」
起こるべくして起こっている状況にリツコは一人呟いていた。

「ところでシンジ君?ミサトはどうしたの?」
「ミサトさんってその写真の方ですか?・・・くっくっく」

「え、えぇそうよ、貴方を迎えに行ったはずなんだけど」
「さぁ?僕は、迎えも来ないし誰も居ないのでボーッとしていたら非常事態宣言が出ているのに何をしているんだと親切な人にここまで送って貰っただけですけど?」

「そ、そうだったの」
(寝過ごしたわねミサト・・・)
リツコは親友のずぼらさを詰った。

途中、零号機の腕が壁をぶち抜いているのが見える。

「くっくっく・・・」
シンジはそれを見るとまた、不気味な笑みを浮かべる。

「何が可笑しいのかしら?」
「あそこに出ている腕みたいなのはオブジェですか?随分間抜けですね・・・くっくっく」
それは先の起動実験失敗で暴走し、壁を突き破った零号機の腕。
シンジの言葉に返す言葉は今のリツコは持ち合わせていなかった。


「着いたわ。ここよ」

何故か真っ暗なケイジ。
人の気配が無いわけではない。

「くっくっく・・・」
パチッ
シンジの不気味な笑い声が聞こえているリツコは、気味の悪さにケイジの明かりを灯した。

シンジは不気味な笑みを張付けたまま、ただじっと初号機を見つめている。

リツコはそんなシンジに、初号機を見て驚いているのだと判断し、目の前にあるものについて説明を始めた。

「人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ」
「・・・くっくっく」

「何が可笑しいのかしら?」
「人造人間にしてはやけに大きいですね。・・・くっくっく」
不気味な笑いに気分を害した物の、その言葉にリツコは得体の知れない物を感じ寒気を覚えた。

「久しぶりだな、シンジ」
頭上からゲンドウが声を発する。

ゲンドウの方を一瞥し興味を無くしたように初号機に眼を戻すシンジ。

何かが違う、そうリツコは感じていた。
しかし、ゲンドウは、ただシンジが怯えて驚いているだけだと確信している。

宴が始まる。

「ふっ・・・出撃!」
ゲンドウの開演の合図が響いた。

「・・・くっくっく」
その時密かにシンジがほくそ笑んだ事を確認する者はリツコだけだった。

「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」
「こんな見た事も聞いた事も無い物に?・・・くっくっく」
シンジはただ不気味な笑みを湛えている。

「座っていればいいわ。それ以上は望みません」
リツコは得体の知れない恐怖が自分の中で膨らんで行く事を感じていた。


「乗るなら早くしろ。でなければ帰れ!」
ミサトが居ないため喚く人間も居ない。 ゲンドウは高圧的に話を進めた。

そして、動きを見せないシンジに対し、ゲンドウは次ぎの手段に出る。

「冬月っレイを起こせ!」

『使えるのかね?』

「・・・死んでいるわけではない」
ニヤリと口元を緩ませるゲンドウ。

「もういちど初号機のシステムをレイに書き換えて、再起動よ!」
ゲンドウのシナリオを理解し、書き換える必要もないのに命令を出すリツコ。

暫くしてストレッチャーを押した数人の白衣を着た医師らしき人物達がケイジに入ってくる。

「・・・レイ、予備が使えなくなった。出撃だ」
ゲンドウが命令するも、そのストレッチャーの上に横たわる人物はピクリとも動かない。

「いつまでそこに居る!お前など必要ない!さっさと帰れ! 人類の存亡をかけた戦いに臆病者は不要だっ!!」
不審に思うもゲンドウはシンジに対し、最後の詰めとばかりに怒声を浴びせる。

「レイッ!」
そして身動きしないレイに怒鳴るゲンドウ。

その怒声にシンジの中で幸せに浸っていたレイがビクッとした。
その途端、シンジの眼が人を殺せるのではないかと思う程の殺気を持ってゲンドウを睨付ける。

ゲンドウは言い様の無い悪寒を走らせた。
しかし、それをシンジが発している殺気のせいだとは気付かないでいる。

ストレッチャーを押して来た人物の一人が、ストレッチャーの上に横たわる蒼銀の髪をした少女の脈を取った。
首を横に振る医師。
リツコが慌ててストレッチャーに駆寄った。

「無理に生命維持装置を外して来ましたから・・・」
医師はゲンドウを睨付けていた。

生命維持装置でなんとか生命活動を維持していたのに総司令の命令と言う事で、それらを外しここまで連れて来たのだ。
そして、現在レイの魂はシンジの中にある。
生命維持装置を外した身体は当然の如く生命活動を停止したのだ。

「私が蘇生処置を施します!すぐにICUに!」
リツコはそう言うと医師達を早々に引き上げさせる。

その行為を見て驚愕するゲンドウ。

レイを乗せる事は叶わなくなった。
元より乗せるつもりなどなかった。

瀕死の少女を見せ、シンジが子供っぽい安っぽい同情により乗ると言い出す事を狙っていただけである。
次ぎはどうするつもりなのかとリツコもゲンドウを見上げていた。


「その臆病者をエントリープラグに放り込め!」
ゲンドウは最後の手段、実力行使に出た。

黒服達がケイジに入ってきてシンジを拘束し、エントリープラグに放り込む。
それを確認したリツコは発令所へと向かった。



発令所では起動シーケンスが行われている。

「エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接触開始」
「LCL注入」
リツコの指揮により発信準備が進んで行く。

『水責めで殺す気ですか?・・・くっくっく』
「ごめんなさい、それはLCLと言って、吸い込めば肺から酸素を供給してくれるわ」

リツコが慌てて説明する。
『・・・そんな説明もして貰えないんですね。職務怠慢じゃないですか?くっくっく』

シンジの言葉に苦虫を噛み潰した様な顔をするも、今は起動シーケンスを行う事が先決と思考の外に追いやるリツコ。

オペレータ達もその遣り取りに違和感を感じていたが、自分の職務を遂行する事に当面打ち込んでいる。

「主電源接続」
「全回路動力伝達」
「第2次コンタクト開始」
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス!」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト全て異常なし」
「双方向回線開きます」

そこまで行って、オペレーターの報告が途切れていることにリツコは気付いた。

「どうしたの?マヤ、続けなさい」
重々しい空気が漂う中、リツコが先を促す。

呆然と目の前のモニタを見つめていたショートカットで黒髪の女性は、リツコの声に我に返った。

「あっはい、あの・・・」
「?」
「・・・シンクロ率・・・0%」
発令所は、今度は静まり返った。

『本当に僕がこれに乗らないと人類が滅びるんですか?それにしては悠長ですね?・・・くっくっく』

「そ、そんな・・・有り得ないわプラスやマイナスじゃなくって0なんて・・・」
リツコは呆然としている。


「碇・・・これはシナリオにはないぞ」
「・・・くっ役立たずめ」
ゲンドウは苦虫を噛み潰した様な顔となっている。


「もう一度、最初から起動シーケンスをやり直して!」
叫んだリツコがモニターに映るシンジを見てふと気付く。

そして自分の白衣のポケットをまさぐった。

そこに有るヘッドセット。
黒服に無理矢理放り込ませたためシンジに渡すのを失念していたのだ。

「マヤ!エントリープラグを半射出!ケイジに行くわ」
「へ?先輩?」

「彼、ヘッドセットを付けていないのよ!」
「「「あっ!」」」
オペレータ達の声が重なる。


「ふぅっ・・・そう言う事か」
冬月も冷や汗を拭った。

「・・・問題ない」
ほんの数秒前に自分が詰った事も忘れ、自分が無理矢理放り込んだからだと言う事など微塵も気付かずニヤリと唇を歪ませるゲンドウ。


「使徒、ジオフロントに侵入!」
シゲルの報告が発令所内に響く。

「先輩、急いで下さい」
マヤはリツコの行動をモニターに映し両手を合わせて祈っていた。


「使徒、セントラルドグマに向かっています!」
シゲルが振り返り頭上の司令と副司令に報告する。

「いかん!セントラルドグマの全隔壁を緊急閉鎖、少しでもいい時間を稼げ!」
冬月が慌てて、命令を下した。

ゲンドウは両手を顔の前で組んだポーズで沈黙を保っている。


その頃、漸くエントリープラグに辿り着いたリツコがシンジにインタフェースヘッドセットを手渡していた。

「きゃぁ〜っ!」
その時ケイジが激しく揺れ動き、リツコがエントリープラグから滑り落ちる。

「マヤ!起動シーケンス急いで!」
お尻をさすりながらもモニターで見ているであろう愛弟子にリツコは指示を出した。


「シンクロ率76.89%ハーモニクス、全て正常位置。暴走、ありません!」
リツコが発令所に戻った時に起動シーケンスが完了したマヤの報告が響いていた。

「そんな・・・訓練もプラグスーツもなしに、イキナリ・・・ありえないわ」
ゼェゼェ言いながらもリツコはモニター計測器をみて驚く。

「すごいわ!シンクロ誤差0.3%以内よ!」
そこに居るはずの親友である作戦課長に対し、ここからは貴女の仕事よとばかりに振り返ったが、そこに親友の姿はなかった。


「碇・・・これはシナリオにはないぞ」
「計画以上にシンジが母親を求めているだけだ」

「レイはどうする?」
「・・・問題ない。3人目になるだけだ」

頭上の男達は、既に初号機が起動した事で勝利を確信していた。


「エヴァンゲリオン初号機!発進準備!!」
一刻を争うためリツコが指示を出す。

『第一ロックボルト解除!』
『解除確認!アンビリカルブリッジ移動開始!』
『第2ロックボルト解除!』
『第一拘束具を除去!』
『同じく第2拘束具を除去!』
『1番から15番までの安全装置を解除!』
『内部電源充電完了!』
『外部電源用コンセント異常なし!』


「装甲隔壁が使徒により突破されています」
「目標は第二コキュートスを通過」

「エヴァ初号機に追撃させろ」
ゲンドウが指示を出した。


「EVA初号機をターミナルドグマへ!」
ターミナルドグマへの通路へ移動していく初号機。

『ゲートスタンバイ!』

「進路クリア!オールグリーン!」
「発進準備完了!」

「司令、かまいませんね?」
「・・・勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い」

「エヴァンゲリオン初号機発進!!」

リツコの声と共に初号機はターミナルドグマへと放たれた。

『くっ!』

その突然の行動にシンジも呻き声を上げる。
初号機はターミナルドグマへ使徒が開けた穴に放り込まれる形となったのだ。

落ちていく初号機。
目の前に使徒の姿。その姿は発令所にも送られる。


「エヴァ初号機、最下層に到達」
「目標ターミナルドグマまで後20」


「間に合うのか?碇」
「・・・問題ない、あれはリリスだ」
そっと耳打ちする冬月にだけ聞こえるくらい小さな声でゲンドウが呟いた。



ターミナルドグマに辿り着いた初号機。
初号機からの映像が発令所に流れる。

そこに映っているのは、巨大な十字架に張付けられている胸から下が無い七つ目の仮面を被せられた真っ白い巨人。
そして、その巨人を前に佇む使徒。


「くっ!」
ゲンドウはこの映像についての処置を考え唇を噛み締めた。

初号機を素通りし、暴れ回る使徒。

「シンジ!使徒を殲滅しろ!」

『座ってるだけで良かったんじゃないの?・・・くっくっく』

「使徒を倒さねば人類が滅びる、殲滅するんだ!」
ゲンドウが焦って命令している間にも使徒は暴れてその周りを破壊している。

そこに綾波レイの姿をした者が大量に映し出された。
使徒がダミープラントの壁を破壊したために、レイの素体達が流れ出て来たのだ。

「「「「なんだあれは?!」」」」
発令所の全員が息を飲む。

『くっくっく・・・さしずめ髭と電信柱のダッチワイフと言う所か?くっくっく』

シンジの言葉は聞こえている物の、発令所の人間は反応できない。

「これはまずいぞ碇」
「くっ!映像を止めろ!保存してはならん!」
ゲンドウは、この映像が記録として残る事を防ごうと命令を下す。


その頃シンジはエントリープラグから出ていた。
初号機は現在、十字架に張付けられている巨人と使徒の間に位置している。

そして初号機は使徒の方を向いているため、巨人は映し出されていない。

(さぁ綾波、自らの身体を取り戻すんだ)
(・・・もう駄目なのね)
(違うよ、あいつらから僕の愛しい綾波の身体を取り戻すだけさ)
(・・・解ったわ)

シンジの身体から出る青白い光。
それは巨人の中に入ると巨人が十字架から滑り落ちていく。

床に落ちる事なく、空中に浮かんだままのその白い物体は七つ目の仮面だけを床に落とし徐々に形を整えていく。

そして初号機の頸部に居るシンジの元へと辿り着いた光り輝くそれは、6対12枚の羽を携えた蒼銀の髪に紅い眼の綾波レイであった。
その姿は神々しく蒼く光を発しているが、その顔は紅潮していた。

シンジはその天使を優しく抱締めると濃厚な口付けを交わす。

「さぁ行こう、綾波。僕と共に」
コクンと頷く、レイ。

青白く輝く天使は再びシンジと重なり、シンジの中へと入って行った。



激しく揺れ動く発令所。

「何が起こったのだ?!」
「初号機の反応が消えました!初号機が爆発した物と思われます!」

「「何!!」」
頭上の二人が叫ぶ。

ゲンドウは頭を抱えていた。
レイの素体が破壊され、初号機も破壊された。

ゲンドウの計画は完全に瓦解したのだ。

「・・・ユイ」
呟くゲンドウを冬月も呆然と見つめる事しかできなかった。

再び揺れ動く発令所。

「今度は何だ?!」
冬月も、もう確認する事しかできない。

「浮上した使徒が零号機を破壊した模様!」

「リリスの波動のする物を破壊しながら進んでいるのか・・・」
ここに来て、もう使徒を倒す術が全て失われた事を冬月は理解した。

そして眩い閃光が発令所内に溢れる。

阿鼻叫喚の叫び声が発令所内に木霊した。
使徒の光線が発令所を直撃したのだ。

冬月とゲンドウも吹き飛ばされている。
生き残った者は数名だろう。
今、生きていても助かる見込みは少ない。

「失敗だったな」
「・・・あぁ」
冬月とゲンドウは、その言葉を最後に気を失った。






「エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接触開始」
「LCL注入」
「主電源接続」
「全回路動力伝達」
「第2次コンタクト開始」
「思考形態はドイツ語を基礎原則としてフィックス!」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト全て異常なし」
「双方向回線開きます」

NERVドイツ支部では弐号機の発進準備が行われていた。
NERV本部を壊滅させた使徒は、その微弱なアダムの波動を求めてドイツ支部へと侵攻したのである。

『エヴァンゲリオン弐号機!発進準備!!』
NERVドイツ支部長の号令が響く。

『第一ロックボルト解除!』
『解除確認!アンビリカルブリッジ移動開始!』
『第2ロックボルト解除!』
『第一拘束具を除去!』
『同じく第2拘束具を除去!』
『1番から15番までの安全装置を解除!』
『内部電源充電完了!』
『外部電源用コンセント異常なし!』

「EVA弐号機射出口へ!」
射出口へ移動していく弐号機。

『ゲートスタンバイ!』

「進路クリア!オールグリーン!」
「発進準備完了!」

『エヴァンゲリオン弐号機発進!!』

ジオフロントとは違い、地下からゆっくりと持ち上げられるだけのエヴァンゲリオン弐号機。

『セカンド!日本の間抜け共とは違う所を見せてやれ!最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン弐号機、リフト・オフ!!』

あからさまにゲンドウを馬鹿にしたドイツ支部長の号令と共に弐号機は解き放たれた。

『任せなさいって!サードなんて言う素人とは違うんだから!』

セカンドと呼ばれたエヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、惣流=アスカ=ラングレーは、迫り来る使徒に対峙する。

「いくわよアスカ!」
自分を奮い立たせると一気に使徒に向かって走った。

自分はエリート、だから負けるはずがない。
その思いだけを胸に、恐怖を押さえ込み突進する。

しかし、いきなりオレンジの壁に阻まれた。

『何よぉこれぇ〜っ!』

「「「ATフィールド!!」」」
その存在だけを聞いていたドイツ支部のスタッフは、そのあまりな理不尽さに驚愕する。

『どうすれば良いのよっ!』

「ATフィールドはATフィールドで中和できるって聞いているわ」
唯一、日本からの情報を調べていたらしい技術スタッフが述べた。

「セカンド!なんとかしろ!日本の奴らに負けるわけには行かん!」
プライドだけで怒鳴り立てるドイツ支部長。

しかし、張り方も解明されて居ないATフィールドを今の時点ではアスカも張る事は出来なかった。

そして、攻め倦ねている所で腕を掴まれる弐号機。

『きゃぁ〜っ!』

「セカンド!掴まれているのはお前の腕ではないっ!」

その時、使徒はもう一方の手で弐号機の頭を掴みパイルを打ち込む。

『ぎゃぁ〜っ!』

吹き飛ばされる弐号機は地上に存在する発令所に突っ込んだ。

「「「ぎゃぁ〜っ!!」」」
発令所内に悲鳴が響き渡る。

『殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!』

使徒にパイルを刺された右目を押さえながら腕を伸ばし呪詛を唱えるアスカ。

そこに使徒の光線が注ぎ込まれた。
発令所ごと爆発する弐号機。

十字の形をした爆発が起こる。



ドイツ支部を中心としたサードインパクトが起こった。
ドイツ支部にあったアダムと接触した使徒が引き起こした物だ。

南極と同様に赤い海がドイツを中心に広がった。

ヨーロッパと隣接する北アメリカ西部、ロシアや地中海湾岸、アフリカの半分までの人類は滅んだ。
従ってゼーレは全滅である。
国連も最早、その権威はない。
人類補完委員会も常任理事国も消滅してしまったためだ。

しかし、セカンドインパクト級の被害で済み、人類は数少ないまでも全滅を逃れていた。
極東の島国である日本もその余波は受けたものの人類が生き残っていて且つ国家を保っている数少ない国の一つであった。

戦略自衛隊と言う軍隊を持っていたため、暴動の鎮圧に成功したのだ。

NERV本部で生き残った者達は現在、戦略自衛隊で尋問を受けている。

そこで行われていたのは尋問と言う名の拷問であった。
今までのNERVの無謀なやり方に煮え湯を飲まされて来ていた人間が尋問するのである。

生き残った女性職員には、尋問と言う名の陵辱が行われていた。
人の尊厳を無視し、全裸で施設内を引き回される女性職員達。
身体中の穴を性欲の捌け口として使用された。
鎖に繋がれたその姿はあたかも中世の奴隷を思わせる。

マヤなどは、発令所に居て尚生き残ったと言うのに、その拷問に耐えきれず精神崩壊し、現在は病棟に隔離されている。



「・・・人は愚かさを忘れ同じ過ちを繰り返す」
「人の定めか、人の希望は悲しみに綴られている。くっくっく」

青白い光に包まれた蒼銀の髪に紅い瞳を持つ少女は6対12枚の羽を広げた。
黒い闇を纏った黒髪に漆黒の瞳を持つ少年は12対24枚の黒い羽を広げる。

「この世界は良い、生も死も混沌も光も闇も全て揃っている。くっくっく」
「・・・そうね。ウフフ」
不気味に笑う碇シンジと呼ばれた者と妖艶に微笑む綾波レイと呼ばれた者は寄り添うように闇に消えて行った。




戻る

――――――――――――――――――――――――――――――
後書き

ここまで読んで頂きありがとうございました。
気が付いたら奈落も10万ヒット超え。
表よりもカウンタの伸び率が高い様な気がする今日この頃です。

皆様へのお礼代りに、以前練っていた構想で一話完結物を書いて見ました。

突っ込み所満載かと思われますが、生暖かくスルーしてやって下さい。
夢魔はレイさえ幸せならそれで良いのです。

それにしても最近、ウィルスメールが多量に来ます。
ここは奈落の世界。
注意書きに同意しない人は入らないで欲しいものです。

自己責任と言う言葉を知らないケンスケの様な輩が多量に存在する事に落胆を覚えてしかたありません。
そんな不毛な事をするくらいなら夢魔のHPに張ってある広告でもクリックして貰いたい物です。

青年よ迸るパトスを発散するのは不毛な行為ではなくこちらに(爆


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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