第弐話
現実の始まり


「あらあら、こんな所まで戻されたのですね」

マユミは、時が動き出したのを感じると自分の容姿を確認する。
そこには4歳程度の自分の姿が有った。

既に両親は居らず、養父に引取られた後であるようだ。
それだけは幸いであった。

再び両親と引き離される状況は、解っているとは言え哀しい事に変わりはない。
しかも、母親を父親が刺し殺し、父親が刑務所に入ると言うヘビーな引き離され方である。

「この身体では、暫くは何も出来ませんねぇ」

ふぅっと溜息を吐くとマユミは徐に右手を翳す。
そこに現れる中学校の鞄大程の大きさで、重厚な本のような物。

「記憶があるので大丈夫だとは思っていましたが、本は開けるようですね」

現れた物を開いて眺めるとマユミは眼を細めた。

「シンジ様は、例の親戚と称される所に居る時期ですか。レイ様はナオコ女史に絞殺される前ですね。成る程・・・」

「本来であれば、今すぐシンジ様の元へ飛んでいきたい所ですが・・・」

流石に、この容姿では、能力は兎も角としても体力的に長時間の活動は困難であった。
何より、非力である。

「しかたありませんね、暫くは花嫁修業に勤しみましょう」

レイとの話し合いの時に言った通り、マユミは暫くそのままの状況を受け入れる事にした。

苛められていると言っても、この頃は、精々お医者さんごっこと称して裸にされる程度である。
今のマユミに取っては如何ほどの事でもない。

来るべきシンジとの逢瀬を思い浮かべ、微笑みながらマユミは布団に潜り込んだ。

「やっぱり折角ですから処女膜はシンジ様のために取っておいた方が良いですわね」

とても4歳の少女とは思えない呟きが布団の中から漏れていた。



LCLの漂う水槽の中で瞳を開いたレイは、僅かに唇を吊上げ微笑んだ。

マユミの言った通り戻ってこれた。
この風景には見覚えがある。
しかも、二人目には無かった一人目の記憶だ。

もう一度眼を瞑り、自分の記憶を確かめるレイ。
間違いない。
自分は全て覚えている。

シンジの笑顔もシンジの泣いた顔も全て覚えている。
そして、狂おしいまでのその想いも。
いや、その想いは明確に理解しているためか、以前にも増して強くなっていると感じる。

ふとLCLが排出されカプセルが開いていく。
目の前には、普通の眼鏡を掛け白衣を着たゲンドウが立っていた。
まだ髭も生やしていない。

「・・・言葉は理解できるか?」
「・・・はい」

「・・・お前の名前は綾波レイだ」
「・・・あやなみれい」

「・・・そうだ。お前は計画のために私に造られたのだ」
「・・・貴方に造られた」

ゲンドウの言葉を鸚鵡返しに繰り返していたレイの表情が歪む。
しかし、そんな事はゲンドウには気が付かなかった。
表情が歪むと言っても、それが解るのはシンジぐらいであろう。
今、LCLの調整槽から出たばかりのレイは、無表情であり、その表情の変化も僅か過ぎるのだ。

「・・・そうだ、余計な事は何も考える必要はない。ただ私の命令に従っていれば良い」
「・・・はい」

レイの反応に満足したのか、ゲンドウは袋からガサゴソと何かを取り出す。
それは、4〜5歳児の女の子用の衣服であった。

多分、産まれて始めての行為なのだろう。
服を着る事など知らぬはずのレイに、たどたどしい動作で着せていくゲンドウ。

女性用の服は男性用とボタンの合わせが逆のため、慣れていないと着せ辛いのである。
子供のパンツなどは、どちらが前で後ろかすら解り辛い。

そう考えると、これを買ってきた時、ゲンドウは一体どんな顔をしていたのか?
極秘に自分だけで行っている行動のため、誰かに頼んだと言う事は無いであろう。

一応、用意された服を着せられ、ゲンドウに手を引かれてその場を後にするレイ。



レイが連れて来られたのは初号機のケイジであった。
拘束された紫の巨人を見上げるゲンドウとレイ。

レイの手を握るゲンドウの手に力が籠る。

「・・・これがエヴァンゲリオン初号機。お前と同じく計画の要だ」

(・・・全ての発端である紫の凶器。でも今の私には碇君を想い起させる)
(・・・あの女の狂気を取り込んだ凶器。そしてそこから産まれた私)
(・・・紅と蒼が交われば紫となる。私の髪の蒼と瞳の紅は、この紫の凶器から授けられた物)
(・・・ならば私は狂気に堕ちる。碇君と一緒になるために)
(・・・何も躊躇する必要はない。そう、この男と老人達の奸計で人類は一度滅んだのだから)

その時、初号機を見上げていたゲンドウは、レイが薄ら笑いを浮かべた事に気が付かなかった。



「・・・あれがゲヒルン本部だ」

ガラス張りの床から見える建設中のピラミッド型建物を望みながらゲンドウが言う。
そこに娘であるリツコを引き連れて赤木ナオコが通り掛った。

「所長、おはようございます。お子さん連れですか?あら?でも確か男の子」
「・・・シンジではありません。知人の子を預かる事になりましてね。綾波レイと言います」

「レイちゃん。こんにちは」

まだ若いリツコが親しげに腰を屈め声を掛けてきた。
既に金髪に黒眉であるが、どこかあどけなさを残し、ギスギスとした感じがない。

ナオコは、そのレイの容姿にユイを想起していた。



夜遅く発令所でMAGIの完成をリツコに説明するナオコ。
リツコは学生時代の友人であるミサトが来ると言う事で早々に引き上げた。

ナオコが視線を感じ、ふと顔を向けると、そこには幼いレイが立っていた。
一瞬驚くも、すぐさま優し気な顔で話し掛けるナオコ。

「ぁっ・・・何か御用?レイちゃん」
「・・・道に迷ったの」

「あらそぉっ?じゃ私と一緒に出よっか」
「・・・いい」

「でも一人じゃ帰れないでしょ?」
「大きなお世話よ。ばあさん」

「なに?」
「一人で帰れるから放っといて。ばあさん」

「ひ、人のこと、ばあさぁんなんて言うもんじゃないわ」
「だってあなた、ばあさんでしょ?」

「怒るわよ。碇所長に叱ってもらわなきゃ」
「所長がそう言っているのよ。あなたのこと」

「ぅそっ!」
「ばあさんはしつこいとか、ばあさんは用済みだとか」

レイの言葉が頭の中でレフレインするナオコ。
いつの間にかナオコはレイの首を絞めていた。

「あんたなんか、あんたなんか死んでも代わりが居るのよ。レイ・・・私と同じね」
「・・・取引しない?ばあさん」

首を絞められているはずのレイが、何ともないようにナオコに話し掛ける。
レイは首周りのATフィールドを少し強化させ、ナオコの力をはね除けていたのだ。
レイの言葉に我に返るナオコ。

「わ、私は、なんて事を・・・」
「・・・気にしないで良いわ。ばあさん」

錯乱しそうな意識をレイの「ばあさん」と言う言葉が現実に引き戻す。

「ばあさんは止めなさい」
「・・・そんな事は些細な事だわ。ばあさん」

「もう一度、首を絞められたいの?」
「・・・無駄だと理解出来ないの?ばあさん」

その日を境に、赤木ナオコはゲヒルンから姿を消した。
自殺では無く失踪である。
そして、程なくゲヒルンはNERVへと組織変更される。



「やっぱりこの歳では、あまり快感は感じませんね」

辺りに散乱した下着と服を拾いながらマユミはボソッと呟いた。
公園に一人で来て、ボーッとしている所、小学生の悪餓鬼っぽい集団に連れて行かれ悪戯されたのである。

悪戯と言っても、服を脱がされ、股を開かれて覗かれたり、お尻の穴、即ち肛門に指を突っ込まれたぐらいである。
この歳ではヴァギナを開いても、そこの穴は小さく肉が重なっているため、知識の無い子供達にはよく解らないのだ。

「貴女が、山岸マユミさんね?」

唐突に見知らぬ女性から声を掛けられ、マユミは咄嗟に飛び跳ねた。

「そんなに警戒しなくて良いわよ。綾波レイから頼まれたと言えば貴女には解ると言われたのだけれど?」
「レイ様に?」

現状でレイとマユミの接点は無い。
その事を知っていると言う事は、マユミに記憶が無い以上、レイから聞いたと考えるのが妥当である。
少なくとも、話を聞く必要をマユミは感じた。

「まず、お洋服を着て貰えるかしら?」

微笑みながらマユミに話し掛ける女性。
ショートカットの髪に綺麗な顔立ちをしているが、何故か口紅は紫であった。



「はいっ?」

ファミリーレストランの一角でマユミはクリームソーダを飲みながら素っ頓狂な声を上げた。
目の前には、シックな出立で、先程の女性が足を組んで座っている。

その女性は、コーヒーを一口、口に含むと「まずいわね」と一言述べてチェイサーを口にした。
以後、コーヒーは机上のオブジェと化している。

「私にも理由は解らないのだけれど、これは綾波レイとの取引なのよ」
「そう言う事ですか・・・」

つまり、紫の口紅の女性は、赤木ナオコ。
レイとの取引により、マユミを引き取りに来たと言う事であった。

「それに、これを言えば貴女は確実にこの話しに乗ってくるとも言われているのだけれど」

何かを考え込んでいるようなマユミにナオコは話し掛け、その言葉にマユミも興味を示す。

「貴女の了承を得られたら、碇シンジ君も引き取りに行く予定よ」

その言葉に眼を見開くマユミ。

「全く不思議だわ。貴方達3人に接点など無いはずなのに」
「詮索なさらないのですね」

「それも取引に入っているのよ」

ナオコは、そう言うと鞄から煙草を取り出し、火を付けた。



砂場で一人、ピラミッドを造っている幼い少年。
年の頃は4〜5歳であろう。

先程までは、数人で造っていた。
少年自身も、一緒に造ろうと呼ばれて後から参加したのだ。

しかし、時が経ち日が暮れ出すと、母親達が迎えに来て一人減り、二人減り、結局少年一人が残ったのである。

黙々とピラミッドを造り続ける少年。
時々、顔を腕で拭っているのは、汗では無いだろう。

漸く完成と言う時、周りは既に真っ暗で街灯が灯っていた。
いきなり、造り終えたピラミッドを踏みつける少年。

「あらあら、勿体ないですわ。出来ればその破壊衝動を私に向けて下さると嬉しいのですが」

背後から掛けられた声に少年は振返り、眼を見開く。
その小難しい言い回しに似合わない、少年と同年代の少女がそこに立っていたからだ。

「今晩は。碇シンジさん」

少女は挨拶と共に、少年にニッコリと微笑み掛ける。
シンジと呼ばれた少年は、先程の言い回しは少女の後ろに立っている女性が発したのかと思ったが、その推測は少女の挨拶で簡単に覆された。
先程の声と少女の声が同一であったからだ。

「僕の名前を?」
「お久しぶりね、シンジ君。忘れちゃったかしら?」

少女の後ろから現れた女性が誰なのか、シンジには咄嗟に解らなかった。
記憶を思い起すが、見当が付かない。

「白衣を着ていないからかしら?赤木ナオコよ。お父さんと一緒に居た」

そこまで言われて漸く思い出した。
母がロボットに乗り込んだ時に、父達と一緒に居た白衣を着た女性である。
齢4歳の子供には、その白衣の方が印象が強かったのは致し方ない。
僅かながらに、その印象的な唇の色が蘇った。

「一緒に帰りましょう。シンジ君」

そう言うとシンジと手を繋ぐマユミ。
シンジには抗う術は無かった。
その事はナオコは重々承知していたのだ。
だからマユミと違い承諾を得るような話はしない。

所詮4歳の子供に、自分の将来についての判断など出来るはずもないのである。
しかも父に置き去りにされ、身も知らぬ人間に連れて行かれた直後である。

また、自分は捨てられたのだとシンジは思った。

「シンジさん?私達はシンジさんを迎えに来たのです。これから一緒に暮らすために」
「これから?ずっと?」

シンジの問いに頷くナオコとマユミ。

「君は?」
「山岸マユミと申します。シンジ様の下僕であり、奴隷で御座います」

「げぼく?どれい?」
「はい、シンジ様が望めば、出来うる限りの事をさせて頂く者と思って下さい」

幼いシンジには、その意味は解らなかったが、繋がれた手の暖かさが嬉しかった。

「僕が望めば?」
「はい」

「じゃぁ僕と一緒に居てくれる?」
「勿論で御座います。シンジ様が望む限り、ご一緒させて頂きます」

マユミの言葉にシンジは泣き出してしまった。
そんなシンジを抱締めるマユミ。
周りから見ていると、泣いている子供を友達があやしているようにしか見えない。
あらあらとナオコも微笑ましくその情景を見ていた。

碇シンジロストの報告が届いたのは、それから1週間以上、後の事であった。
未だNERVを立ち上げたばかりで、ゲンドウも忙しくシンジの監視にまで手が回っていなかったのである。
預け先も、帰って来ない事の連絡は入れたのだが、ゲンドウから指示が無かったため何もしなかったのだ。
もし、ゲンドウの仕業で有った場合、警察に知らせる訳にも行かなかったからである。



「碇、シンジ君をロストしたと言う報告が上がって来ているぞ」
「・・・問題ない」

この時、ゲンドウは正しくシンジを捨てていたのだ。
エヴァに取り込まれたユイと再会する為に、シンジが必要だとは現時点で考えては居ない。
良心の呵責が無いわけでは無い。
しかし、自らを子供を捨てた外道と位置付けているゲンドウは、そこで狼狽える訳には行かなかったのだ。

冬月は、机の上で手を組み顔を隠しているゲンドウが、ピクリと引き攣った事を見逃さなかったが、敢えてその事には触れなかった。

「良いのか?」
「・・・構わん」

「一応、捜索願いと諜報部への捜索は指示しておくぞ。何もしなかったでは人格を疑われるからな」
「ふっ・・・今更ですよ。冬月先生」

「一応、お前は非公開とは言え、国連下位組織の長なのだぞ?それが自らの息子が行方不明で何もしなかったと有っては、要らぬ詮索を受ける事になる」
「・・・冬月。後は任せた」

そう言って司令室を後にするゲンドウ。

「全く、面倒を押付けおって」

冬月は、照れ隠しにゲンドウがこの場を後にしたのだろうと考えていた。
だから、ゲンドウの机にあるディスプレイに初号機ケイジが映っている事に気付かなかった。
例え気付いたとしても、取り込まれた妻を偲んでいるのだろうと考えただろう。

しかし、そこに映っているのは、作業員一人居ないケイジで、一人っきりで何か作業を行っているリツコであった。



初号機ケイジでデータを取っている所、扉の開く音がして振返るリツコ。

「あら司令。こんな時間にどうしました?」
「・・・・・」

無言で近付いてくるゲンドウに怪訝な表情をするリツコ。
普通に話をするよりも近付いて来たゲンドウに、リツコは危険を感じ後ずさった。
そこに有る操作盤に背中を阻まれ、それ以上、下がる事が出来ないリツコ。
ゲンドウの手が、リツコに掛ろうとした時、鈴の鳴るような声が掛った。

「・・・何をしているの?」
「・・・レイ!何故ここに居る。ドグマに戻れ。これは命令だ」

ふいに現れたレイに、ゲンドウは狼狽えた。
自ら造り出した人では無い物とは思っているが、その容姿は幼い少女である。
流石のゲンドウも、レイの見ている前でリツコを犯す訳には行かなかった。

「・・・赤木博士に治療を施して貰う予定でしたが」
「・・・そうか、赤木博士、宜しく頼む」

そう言ってゲンドウは、踵を返した。
機会は、また訪れる。今はまずいとでも考えたのであろう。

ゲンドウが扉を閉めるのを確認するとリツコは、へなへなと崩れ落ちる。
漸く緊張が解けたのだ。

「・・・大丈夫?」
「あ、ありがとうレイ。危なかったわ」

「・・・問題ないわ」

当然だが、レイは治療の予定など入って居なかった。
故に、リツコはレイに助けられたのだと自覚する。

これはレイとナオコの取引内容の一つであったのだ。

要約すると、ゲンドウはナオコを亡き者にしようと自分を差し向けた。
ゲンドウの思惑通り、ナオコは錯乱した。そのままであれば、自殺したであろう。
今、助かっても処分されることは免れない。
だから、逃がしてあげる。その代り保護して欲しい人物が居る。
ナオコが居なくなるとリツコが狙われるであろう。
リツコは自分が護ってあげる。だから協力しろ。
と言うような感じである。

当然だが、一長一短にナオコが話を信じる訳もなく、その際は結構な労力を要したらしい。
ただ、レイはその際、終始一貫してナオコの事をばあさんと呼んでいた。

レイも色々考えたのだが、強引に自分がシンジの所に行っても、後が問題であったのだ。
自分は兎も角、シンジは普通の子供である。
それに、NERVを離れ放っておくとサードインパクトが起こるであろう。
他の人間など、どうでも良いが、それではシンジが悲しむ事は目に見えている。
そう考えると、レイはNERVでシンジが呼び出されるのを待つのが無難であった。

しかし、そうなるとシンジの境遇が気になる。
そこで、亡き者にされる運命であるナオコを引き込む事を思いついたのだ。

マユミならば、シンジを護ってくれるであろう。
マユミの感覚は理解し難いが、その一途な想いは信用できた。
少なくとも、今の世界で一番信用に足る人物である事は間違いない。

レイは自分がシンジに逢える日までのシンジの事を、マユミに託したのである。

「ち、治療だったわね。行きましょう」

どこでゲンドウが見ているか解らない。
気を取り直したリツコは、辻褄を合わすための行動を起こした。

ナオコが無事な事は、レイからリツコに伝わっている。
どのようにしているのかリツコには解らないが、MAGIを誤魔化して時々メールも送られてくる。
レイから話を聞いていなければ、誰かの罠と考えて読みもしなかっただろう。



「お背中を、御流し致しますわ」

シンジがシャワーを浴びているとマユミが一糸纏わぬ姿で浴室に入ってくる。
シンジとマユミは、あの日からお風呂はずっと一緒に入っている。

寝る時も、同じベッドで抱き合って眠っている。
最初の頃は、幼い上に寂しかったシンジは、恥ずかしいなどと言う感情もなく同衾していた。
10歳にも成れば恥ずかしさが先立つものであるが、それまでにマユミに施された色々な経験のために、今もシンジは拒絶する事なく一緒に寝ている。

しかし、風呂は別である。
二次性徴を始め、膨らんで来た胸やお尻が裸で引っ付いて来るのだ。
目のやり場にも困ると言う物だ。

ジュニアハイスクールに上がった時、そろそろ一緒に入るのはまずいのでは無いかとシンジが言うと、マユミは眼に泪を一杯溜めて、「もう私は要らないのですね」と言ったのだ。
そんなマユミにシンジが抗えるはずがなく、今ではシンジも諦めていた。

居直れば、それは、同年代の少年からすれば羨望の眼差しを受ける環境である。
純和風な体型をしているマユミは、足こそそれ程長くはないが、胸とお尻は歳不相応に発達している。
そのマユミが、惜しげもなくシンジに裸体を晒すのだ。
裸体だけでは無く、シンジが望めば、内臓の奥まで晒しだしてくれる。

マユミの股間に恥毛は生えていない。
生えてくると、シンジに抜かせるのである。
それは、マユミの趣味なのか、シンジが未だ生えていない事へのマユミの配慮なのかは、解らない。
そんなシンジはマユミの手引きで、色々な精技を教え込まれていた。
最近では、性行為を行ってから寝るのが日課となっている。

当然の事だが、ナオコはマユミの行動に口を出さない。
その代り、ナオコもマユミの力で良い思いをさせて貰っていた。
淫魔であるマユミには、素でナオコを満足させる事も、若い男をナオコに宛う事も容易な事であったのだ。

説明が遅くなったが、ナオコ達は現在アメリカに住んでいる。
ネバダにあるNERV第二支部。
そこの副支部長が今のナオコの肩書きである。

そして四号機に対しフォースチルドレンとしてマユミが登録されていた。
ゲンドウと冬月は、レイではユイが覚醒しない可能性が有る事を感じた時、急遽シンジをサードチルドレンに登録したのである。
そしてサードチルドレンとしてシンジの捜索を行わせたのだ。
つまりNERVぐるみで、あわよくば国連まで巻き込んでシンジを捜索させたのである。

その報告を受けたナオコは、自分が保護している事を公にした。
その時初めて、ゲンドウと冬月はナオコが第二支部に居る事を知ったのだ。

これは、ナオコが第二支部長経由でゼーレに直接働き掛けた結果である。
ここの支部長は有る意味ゲンドウよりゼーレに近かったのだ。
故にSS機関の搭載実験を任されたりしていた。
マユミの助言から、上手く立ち回りゲンドウの危険性をゼーレに示唆する事により、四号機の建造を早める事を条件に、ナオコはゲンドウ達に知れないように第二支部に食い込んでいたのだ。

「シンジ様、こんな物が届きましたが」

マユミが持ってきたのは1枚の封筒。
差出人も書かれておらず、何の印刷もされていない粗末な封筒であった。

封を切り、中身を見たシンジは、クスクスと笑い出す。

「どうされました?」

シンジの見ている手紙を覗き込みマユミは絶句した。
そこには、

【来い。ゲンドウ】

としか書かれていなかったのだ。
それも手書きでは無くワープロである。

封筒の中には、日本行きの飛行機のチケットと第三新東京市までの切符。
それと、ポラロイドカメラで取られたような、胸を強調したポーズを取っている女性の写真と赤地に無花果の葉が描かれたIDカード。
写真には【ここに注目】とか【私が迎えに行くから待っててね】とかキスマークとかが付いている。

「行かれるのですか?」
「総司令の命令だからね。一応僕はサードチルドレンとか言うNERVの一員らしいし。何よりこれで綾波に逢えるんだろ?」

シンジは、これまでの間、マユミからレイの事を聞いていたのだ。
シンジを愛し、シンジを待っている女性が居ると。
その出生なども既に聞いており、だからと言ってシンジは拒絶する事も無かった。
寧ろ、そこまで自分を想ってくれる存在が居る事に感激していたほどだ。

「私もお供させて頂きます」
「えっ?でも四号機はどうするの?」

「シンジ様が呼び出されると言う事は、使徒戦が始まります。ナオコさんに話せば四号機毎、本部に移籍になるはずです」
「そうなんだ」

結局、四号機の輸送はシンジが第三新東京市に行く当日には間に合わないため、マユミとシンジが先行して行く事になった。
四号機はナオコ直々に本部に持って行くらしい。

「この爛れた生活とも暫くお別れですね」
「すぐに向こうで、同居出来る場所を見付けるよ」

ベッドで、裸でシンジに纏わり付いているマユミは少し汗ばんでおり、息も上がっている。
そんなマユミの頭を撫でながらシンジは、これからの事を考えていた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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