第参話
シンジ襲来


『本日12時30分、東海地方を中心とした、関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい』

誰も居ない駅のホームに無機質に流れる人工的な音声。
一陣の風が、誰も居ないホームに舞い上がると、唯一そこに佇む二人の元へと吹き流れた。

舞い上がった風にロングスカートを思いっきり押し上げられ、それを慌てて抑えている長い黒髪の少女。
その傍らに、やはり黒髪だが中学生の制服らしい半袖のカッターシャツに黒いズボンを履いた少年。
まだ二次性徴を終了していないその容姿は、喉仏も出て居らず、比較的整ったその顔立ちは中性的に感じられる。

少女の方は、長く黒い艶のあるロングヘヤーに、顔に対し少し大き目の眼鏡を掛けている。
口元の黒子が妙に艶っぽい。
薄手の白いワンピースを纏ったその姿は、セカンドインパクトの為に地軸がずれ、常夏となった日本の日差しが透けて、その歳不相応の艶っぽい肢体と下着の形状さえ透けさせていた。

少しぽっちゃり眼に見える容姿は、ふくよかであり、どこか嗜虐心を呼び起こされる。

「見えちゃいました?」
「うん。しっかりと」

顔を紅くする少女に、微笑みを湛える少年。
少女は学生鞄のような物を小脇に抱え、少年はスポーツバッグを下げている。

「もっとご覧になりますか?シンジ様」
「後でゆっくりとね。それよりマユミ。シェルターに避難しろって言ってるよ?」

マユミと呼ばれた少女は、スカートの裾を持ち上げ尋ねたが、シンジと呼ばれた少年は、指を上に向け、放送に注意を促した。

少し残念そうな表情をして、スカートを元に戻すマユミ。
シンジは、マユミの何時まで経っても恥じらいを忘れない仕種が好きであった。
そして、その仕種からは想像も出来ない大胆な行動も。

「待ち合わせは、どうされるのです?」
「迎えの人も、この状況じゃ来られないんじゃない?待ち合わせの駅までまだ二駅もあることだし」

「畏まりました」

そう言うとマユミは学生鞄に見えた物を広げる。
それは巨大な本であったのだ。
いや、本のような物と言った方が正しいだろう。

「どうやら、この辺りはNN地雷なる物が埋められているようです。安全圏には車で30分程度掛かりますね」
「相変わらず便利だね。それは」

「お褒めに預かり光栄で御座います」

そう言って顔を紅くし、微笑むマユミ。
シンジに褒められるのは余程嬉しいらしい。



「自転車でも大丈夫かな?」

シンジは駅を出ると、迷わず駐輪場へ行き、物色している。

「この辺りが戦場になるまで、後1時間程掛ります。自転車ですとギリギリと言う処でしょうか」
「じゃぁ頑張ってみるよ」

そう言ってシンジは1台の自転車の鍵を無造作に壊した。
選んだ自転車が蒼銀であったのは、偶然だろうか。

「この自転車には荷台が無いようですが?」
「このハブステップに乗っかるんだよ」

「ですが、このスカートでは・・・」
「こうすれば大丈夫じゃない?」

シンジはマユミのスカートを太腿辺りまでたくし上げ、そこでスカートを縛った。
長目で薄めのワンピースのスカート部分は、一瞬でパレオのようなミニスカートとなる。
白い物がチラリと覗いているが、マユミはシンジがしてくれた事のため直す気はないらしい。

「こ、これはまた、大胆ですね」
「本当は皆に見て貰いたいんだろうけど、生憎と非常事態宣言で見てくれる人が居ないね」

「シンジ様に見て頂けるだけで幸せです」
「僕は前を向いて自転車を漕ぐんだから、見えないよ」

「そうですか、それは残念です」

そう言ってハブステップに足を掛け、シンジにしっかりと抱付くマユミ。
その手には、先程の分厚い本は無かった。
シンジのスポーツバッグも見あたらない。
こちらは大した物も入ってないので、邪魔になると捨てて来たようだ。

必要以上にしっかりとシンジにしがみ付き、豊かな胸の膨らみをシンジの背中に押付ける事を忘れないマユミ。

「それじゃ、行くよ」
「はい」

シンジも慣れた物で、そんな事ぐらいでは動揺する事はない。
毎日のように風呂場や寝室で、全裸で同じような事をされているのだ。
しかし、そこはシンジであり、ここがもし普段の街で人が一杯歩いていたなら、盛大に狼狽えてくれただろう。
それ以前にマユミのスカートを短く縛るなんて出来ない。
実は、内弁慶なのである。

ナオコとマユミには、それなり以上に接する事が出来るシンジであるが、未だ他人に対しては、それ程改善された訳ではない。
言いたい事を言えるぐらいまでは改善されているのだが、本質的な性格と言う物は、中々改善されない物なのだ。

颯爽と走り出す自転車。
街は未だ静寂を保っていた。



長い上り坂をシンジは、一生懸命に自転車を漕いでいる。
18段変速のマウンテンバイクにしたのは正解だったかも知れない。
これが変速無しの自転車なら、押して上がるしか方法はなかったであろう。

漸くこれから下り坂と言う処で、シンジは一旦自転車を止めた。

「ふぅ〜っ!日頃いかに運動していないかだね」
「いえ、ここまで自転車を降りずに登っただけでも大したものです」

はぁはぁと肩で息をしているシンジが、ふと眼を向けた前方のアスファルトの上で、蜃気楼のように頼りなく立ち尽くし、シンジを見ている蒼銀の髪に紅い瞳の少女が眼に入った。

「あれ?こんな所に人が」
「レイ様!」

シンジの声に顔を上げたマユミは、そこに立ち尽くす少女を見て驚愕の声を上げる。
こんな場所に居るはずが無いのだ。
マユミはその能力により、レイが重傷で病室に居る事を、既に知っていたのである。

「あれが綾波?」
「はい、そうです」

「迎えに来てくれたのかな?」

シンジはニッコリと微笑むと手を軽く振っている。
暢気なシンジの言葉と態度に反応する事もなく、レイは陽炎のように消えて行った。

「あれ?」
「幽体離脱のようなものだと思います」

「へぇ?流石に器用なんだね」
「そのような事は無いと思うのですが・・・急ぎましょう」

峠の坂を颯爽と下る二人乗りの自転車。
かなりスピードが出ているのか、後ろにしがみ付いているマユミの長い黒髪が乱舞している。

「シ、シンジ様!も、もう少しスピードを!」
「だって下り坂だし、急ごうって言ったのはマユミじゃない!」

「そ、そうですが・・・キャァ〜ッ!」

減速を訴えていたマユミだが、カーブに差し掛かったところで絶叫に変わる。
ヘアピンカーブをかなり自転車を倒してやり過ごすシンジ。
そこにスカイブルーのスポーツカーが突っ込んできた。

シンジから見て右回りの下りヘアピンカーブのため、シンジは外側である左車線を走っていたのだが、対向車もスピードを出していたため、シンジ側の車線に膨らんでいたのだ。

シンジは、咄嗟に路肩帯まで自転車を膨らませ、迫ってくる車を避ける。
車はシンジ達を避けようとしてハンドルを更に内側に切ったのか、テールを滑らせ車線をはみ出し沫やガードレールに激突寸前で停止した。

シンジは必死のハンドル捌きと、ブレーキによりなんとか転ばずに停車させる事に成功し、後方を確認すると、ガードレール寸前で止まっている車に安堵の息を漏らした。
これで事故られでもしたら寝起きが悪くなると言うものである。

安心すると、今度は怒りが込上げてくる。
相手は対向車線まではみ出していたのだ。

文句の一つでも言ってやろうと思っている処へ、感情の爆発については一歩早い相手の罵声が飛び込んで来た。

「ちょっとあんた達!この非常時にアベックでいちゃついてサイクリングなんてやってるんじゃないわよ!」

その言い方に更にムッとするシンジ。
マユミも少しカチンと来ていた。
黒いチャイナのミニスカートタイプのドレスを着た、妙齢の女性が、ドカドカとシンジ達に近付いて来る。

サングラスを掛けた派手なその姿は、下手をすると暴力団の情婦にも見える。

「貴女なんなんですか?車線をはみ出していたのは貴女じゃないですか!」
「非常時なんだからそんな事は関係ないのよ!そんな事より非常時にシェルターに入ってないあんた達が問題なの!」

今にもシンジの胸座を掴み上げんばかりの勢いで迫って来る。
この傲慢な女性こそ、シンジ達を迎えに来る予定のNERV本部作戦課長、葛城ミサトであった。

全く自分勝手な言い方であるが、ミサトは言葉が足りないだけである。

要は、今は非常時で民間人はシェルターに入っているはずであり、自分は非常時の任務遂行のためだから、道交法は関係ないのだと言う事である。
そして、シェルターに入ると言う義務を怠った民間人により事故にでも遭えば、悪いのはそっちになると言う事だ。

傲慢な言い分ではあるが、シンジ達が仮に民間人であり、法律で処理されるとその通りになってしまうのも事実である。

「そのシェルターに向かう途中なんですけどね?列車が途中で止まって仕方なしに自転車で向かってるところなんですけど」
「だったら、さっさと行きなさい!」

「難癖を付けて引き止めているのは、貴女です!」
「くっ!もう良いわ!」

ミサトもサードチルドレンを確保しに行くと言う重大な使命があったため、引き下がる事にした。
気に入らない餓鬼だが、ここで押し問答をしてサードチルドレンの確保に間に合わなければ本末転倒である事ぐらいはミサトにも判断出来たのである。

ミサトは寝坊したわけでも、迎えを忘れていたわけでもない。
ただ少し自分の運転技術を過信して、迎えるべき駅にギリギリで到着する時間に出ただけである。
本来なら非常事態宣言が発令された時点で、シンジの動向を確かめるべきであったのだが、自らの運転技術を最大限に駆使している最中にそれが出来なかったのだ。
そして、予定の駅に付いて初めて二駅前で運行が停止している事を知ったのだ。

二駅と言っても、ここではトンネルを抜けた二駅であったのだ。
従って車であるミサトは、こうやって峠を越えなければならない羽目になったのである。

その結果ミサトは、待ち合わせの時間から大幅に遅れた時間に辿り着く事になるのだ。

大股でドシドシと車に戻るミサト。

「ちょっとお待ち下さい」
「何!?」

引き止めたマユミの言葉に、まだなんか文句があるのかと言う、怒りの表情で振り返るミサト。

「もうちょっと冷静に状況判断した方が宜しいと思いますよ。葛城一尉」

マユミの言葉にキョトンとするミサトと、黙ってれば良いのにと苦笑するシンジが居た。

「シンジ様、お迎えも来た事ですし、乗せて頂きましょう」
「あの運転に乗る方が危険じゃない?」

「それは否定できませんが、無闇に死線に人を送り込む必要もないかと」
「相変わらず優しいねマユミは」

「シンジ様ほどでは御座いません」

何気に酷い言われ方をしているのだが、自分の階級と名前を呼ばれた事と、眼の前のラブラブフィールドに当てられて呆然としているミサト。

マユミは、スカートの縛りを解き、元のロングスカートに戻すとさっさと後部座席に乗る。
シンジもそれに続いて、マユミの横に乗り込んだ。

「何してるんですか?葛城さん。それとも僕を迎えに来る以外にも、あっちに行く用事でもあるんですか?」
「えっ?えっ?もしかして貴方が碇シンジ君?」

「はい、僕が碇シンジ、彼女が山岸マユミさんです」
「そっそう・・・だった・・・の?」

「急がなくて良いんですか?」
「そ、そうね。あっあの自転車は良いの?」

「駅の駐輪場から拝借してきた物ですから」
「あんた、それって泥棒じゃない!」

「どうせ、あそこは戦場になるんでしょ?緊急避難時の有効利用って奴ですよ」

シンジの言葉に毒気を抜かれたミサトは、なんとか復活し、運転席へと乗り込んだ。

「えぇ〜っと、葛城ミサトよ。ちょっち急いでたから、さっきはゴミン。ミサトで良いわ」

なんとか自分の中で状況を整理し、助手席に放り投げてあったサードチルドレンの書類と挟まれている写真を見て、シンジ本人である事を理解したミサトは、まずは挨拶からやり直そうと、気を取り直し声を掛けたのだ。

「存じてますよ。葛城一尉。僕が碇シンジです」
「山岸マユミです」

「そ、そう。なんで知ってるのかしら?」
「別に、それぐらいは端末からいつでも見れますよ。アメリカのNERV第二支部に居たんですから」

「そ、そうなんだ、ハハ・・・」

あまり自分に関係ない情報は調べようともしないミサトは、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
実は第二支部に居た事すら、知らなかったのである。

「じゃ、じゃぁ、山岸さんはシンジ君の彼女なのかな?」
「私は、シンジ様の下僕であり、奴隷で御座います」

フォースチルドレンであると言えば円く収まるのに、態々マユミは爆弾発言を行う。
解っていたとは言え、そんなマユミにシンジは頭痛を覚えた。

マユミはマユミで、自分がフォースチルドレンである事ぐらいは、作戦課長でシンジを迎えに来るぐらいなのだから知っていると思っている。
しかし、初対面でシンジの顔を知らなかった事から、察するべきであった。
ある意味マユミのミスである。

「げ、下僕に奴隷って何よそれ!シンジ君!貴方まさか脅迫して彼女を」
「な、なんでそんな話になるんですか!」

「だっておかしいじゃない!貴方と同じ年頃の娘が、自分の事を奴隷だなんて!」
「それは私の意志です。シンジ様から強制された訳では御座いません」

興奮しているミサトとは対照的にマユミは、おっとりと答える。

「御座いませんって、貴女それで良いの?今は男女平等の時代よ」
「別に男尊女卑と言う思想と言うわけではありません。ただ私はシンジ様のために存在しシンジ様に隷属しているだけで御座います」

「はぁ〜っここまで惚れられると男冥利に尽きるんじゃない?」
「そうなんでしょうね。僕もそう思ってますよ」

下手に逆らうとまた暴走しそうだと感じたシンジは、同意することでこの話は流そうと考えたのだが甘かった。
ミサトは更なる地雷を踏む事となる。

「まっちょっと変わってるけど、恋人同士って訳ね」
「違います!シンジ様の恋人となられる方は既に決まっておられます。勿論シンジ様のお気持ち次第ではあるのですが」

「こ、恋人が決まってるって!じゃぁ貴女は恋人でもないのに奴隷だとか言ってるわけ?」
「当然です!恋人なら恋人と言っています!」

(ジェネレーションギャップを感じるわ。これが最近の若い娘の考えなのかしら)

今のシンジ達の年頃の知り合いと言えばレイしか居ないミサトには、判断が付かなかった。
少なくとも平均的な、この年頃の感覚ではないのだが、比較対象がレイしか居ないため、時代の違いを感じる事となったのである。

(レイも理解に苦しむし、私ももう年なのかしら)

勘違いから落ち込むミサト。
マユミは漸く静かになったと、狭いスポーツカーの後部座席の特性を遺憾なく発揮し、ベッタリとシンジに引っ付いていた。



「ええ。心配ご無用。彼は最優先で保護してるわよ。だから、直通のカートレインを用意しといて。そっ、迎えに行くのは私が言い出したことですもの。ちゃんと責任持つわよ。じゃ!!」

ミサトは漸く後部座席の二人をからかう事を諦め、本部に連絡を取っていた。

(最優先で保護?これが?)
(迎えは自分が言い出した?何のために?)
(責任持つ?どうやって?)

シンジとマユミの頭の中は疑問符で満たされていた。



『ゲートが閉まりますご注意下さい。発車します』

漸くカートレインに到着し、一息吐くミサト。
マユミが居るせいもあるが、どうも調子が狂うのである。
思惑としてはフレンドリーな綺麗なお姉さんと言う設定で印象を良くし、友好関係を築こうと考えていたのだ。

ミサトは自分の容姿を自覚している。
中学生の男の子なら、ちょっとフレンドリーに接すればイチコロだと思っていたのだ。

確かに、普通の男の子ならイチコロであっただろう。
黙っていれば結構美人ではあるし、今は露出の高い服を来ている。
胸は言うに及ばずかなりボリュームがあるし、スタイルだって良い方だ。

しかし、シンジは普通の男の子ではなかった。
まず性格が極端に内向的なため、他人の容姿に頓着しない。
ナオコとマユミのお陰で、他人との接し方もましにはなっているが、本質的なものはあまり変わっていないのだ。
そして、毎日、同じ歳で平均よりかなり高いレベルのマユミと寝食を共にしている。
裸で風呂には一緒に入るし、ベッドでも裸で抱き合っている。
この歳では珍しく、性的欲求が必要以上に満たされているのである。

尚且つ、マユミとの性行為はノーマルからアブノーマルまで幅が広い。
ちょっとやそっとの魅力では、シンジを女性的魅力で振り向かせる事は不可能なのである。
そんなもので懐かせることなんて夢のまた夢であったのだ。

「着くまでに、読んどいて」

ダッシュボードから【ようこそNERV江】と書かれた表紙のパンフレットを取り出しシンジの方を振り返りもせず、ピラピラと渡すミサト。

それを見たシンジとマユミは苦笑する。
仕方ないかと言う表情をしてシンジはパンフレットを受け取った。

ざっと眼を通すが、当たり障りのない事が書かれているだけで、使徒と言う言葉すら出てこない、一般向けに取り繕った何の意味もないパンフレットであった。

「第二支部に居た私達に、このパンフレットは何か意味があるんですか?」
「なっ!本部と支部は違うのよ!あんた達だって本部の事は何も知らないでしょ!」

「確かに知りませんが、このパンフレットにも何も書かれてないようですけど」
「屁理屈ばっかり言ってないで、言われた通り見てれば良いのよ!」

ミサトは既に二人に苦手意識が出来ており、強引に力で言う事を聞かせるしか行動がなかったのである。
はっきり言ってミサトの行動パターンは2つしかないのだ。

馴れ馴れしい態度で接して、冗談のように全てを済ますか、強引に力で言う通りにさせるかである。
それは、14歳の時にセカンドインパクトの中心から唯一生還し、そのショックで失語症となり、1年以上隔離されていたものの、現役で日本の最高学府に入学出来る程の努力によって、正当な人間関係構築に必要な感性が抜け落ちているためであった。

なまじ、半端に優秀なのが仇となったのであろう。
その対人能力のまま、今の地位まで上り詰めれたのだ。
それが間違ってるとも、他の方法を考えなければいけないとも気が付かない程、順調に自分の願い通りに進んでこれたのである。

厳密に言うともう1パターンある。
これは自らの失敗を自虐的に述べ、誰かから免罪符を貰うのを待つと言う物であるが、これは行動パターンではなく、自分の精神安定のための処世術なので別物であろう。

「そんな事より、お父さんからID受け取ってない?」
「これですか?」

シンジは封筒に同封されていたカードをミサトに渡す。

「そうそう、これが無いと入れないからね」
「でも今更そんなビジター用のカードが必要なんですか?僕達正式なカード持ってますけど」

そう言ってシンジは自分のカードを見せる。
それは顔写真も印刷されThird Childrenとしっかりと刻印されている物であった。
その衝撃にミサトはシンジの言った「僕達」と言う言葉を聞き逃す。

「ほ、本部のセキュリティーは強固だから・・・」
「正式なカードがビジターのカードよりセキュリティが低いと?」

冷や汗を流しているミサトと、それをからかって遊んでいるシンジとは別に、マユミは初めて見るジオフロントに感激していた。

「シンジ様、シンジ様!本物のジオフロントですよ!」
「うわぁ〜っ!凄いねぇ〜」

今までの態度が嘘のように子供らしい反応を見せる二人。
眼の前に開けている空間は、人工では有り得ない程の広さを持った地底空間であった。

そこに科学を駆使して、自然光が降り注がれている。
天井には、ビル郡が逆さまに生えているが、遠くてビル郡とはパッと見て認識できない。
チカチカと点滅していて、オブジェのようにも見える。
そして、その広い空間に走る道路や線路は、空中を走っているように見え、近未来的な幻想空間のようであった。

「そうジオフロント。これが私達の秘密基地NERV本部。世界再建の要。人類の砦となるところよ」

子供っぽい反応に気を良くしたミサトが、誇らし気に述べたが、それがまずかった。

「人類の砦ですか?その上に街を作って、まるで人は石垣、人は城とでも言いたいようですね」
「護るべき物を盾にする砦ですか。訳解りませんね」

(可愛くねぇ〜)

辛辣なマユミとシンジの言葉に、ミサトは内心で毒吐くしかなかった。



ガコンと言う音と共にカートレインが停止した。

車から降りたミサトは、眼を見開く事となる。
そこにはハイレグの水着姿に白衣を纏った、金髪の親友が立っていたからだ。

ミサトが到着したら連絡を入れるようにと、リツコはマヤに指示を出していたのである。
そしてカートレインの使用要請が入った時に、マヤはリツコの携帯端末に連絡を入れていたのだ。
ケイジのLCLから上がったリツコは、携帯端末のメールを見てそのままここに向かったのである。

実は、ナオコからメールで「ミサトちゃんが迎えに来るらしいけど、大丈夫?出来れば本部内は、迷わない人を付けるべきよ」と助言が入っていたのだ。
そう言われればミサトは、本部に着任してから何度か迷い、リツコに助けを求めていた。

それを思い出したリツコは、マヤに指示を出していたと言う訳である。

「あ、あらリツコ・・・」

ミサトが言葉に詰まったのは、親友であるリツコがここに居たからでは無く、その格好に絶句したのであろう。
そんなミサトを一瞥するとリツコはシンジに近寄った。

「ようこそシンジ君。噂は母から聞いているわ。レイも待ち侘びていたようだけど、今は事情があって迎えには出れなかったの。ごめんなさい」
「いえ、事情は解ってるつもりですよ。初めましてでもないですね。お久しぶりですリツコさん」

「あら?覚えていてくれたの?」
「勿論ですよ。ナオコさんの部屋には未だにリツコさんの写真が飾ってありますから」

「母さんったら・・・」
「私は、初めましてですね。山岸マユミです。赤木博士」

「初めまして。貴女の事も母からきいているわ。赤木リツコよ。よろしく」

和気藹々と友好的な挨拶をする3人に取り残された気になり、気分が良くないミサト。

「ちょ、ちょっとぉ。なんでリツコが知ってるのよぉ〜」
「二人共アメリカの第二支部の所属よ。貴女の権限なら充分身上書ぐらい見れるはずだけど?」

「えっマユミちゃんもそうなの?」
「はぁ〜っ・・・行きましょうシンジ君。お父さんに逢わせる前に見せたい物があるの」

「初号機ですか」
「よく解ったわね」

「この状況ですから。それより父さんは解っているのでしょうか?僕は第二支部の所属で本部の所属ではありませんよ」
「どう言う意味かしら?」

「いくら総司令と言っても、こんな手紙一枚で正式には召喚出来ないと言う事ですよ」

そう言ってシンジがみせた手紙は【来い。ゲンドウ】とだけ書かれた手紙。

「最大限に好意的に見ても、ただ親が子供を呼んだだけにしか見えませんよね。とても十年以上放置していた子供に出す手紙とも思えませんが」

リツコはその手紙を見て、目頭を押さえ頭を振った。
ミサトも流石にアッチャーと言う表情をしている。

「実は、これはコピーで原物は、第二支部長経由で国連に正式に抗議文が発行され、それに添付されています」
「何ですって!」

シンジの言葉に反応したのはミサトである。
リツコはシンジの言葉の意味を考えていた。
第二支部長経由と言う事は当然ゼーレに届いていると言う事である。
いや、国連に対する抗議文ではなくゼーレに対する抗議文となっている可能性がある。

各支部長は、自分が総司令にと虎視眈々と狙っているのだ。
ドイツの支部長などあからさまに、ゲンドウに敵対している。
それが使徒襲来時期が解っているのに、未だに弐号機が委譲されない理由でもある。

「当然でしょ?貴重なチルドレンを正式な召喚を依頼するでもなく、こんな手紙1枚で呼びつけたんですから。もしこれでエヴァに乗れなんて命令を下したら、多分、司令解任でしょうね」
「それも良いかも知れないわね」

シンジの言葉に微笑みかけるリツコ。

リツコは、あの強姦未遂事件以来、ゲンドウに距離を置いている。
女性は一度嫌いになった男は、生理的に受け付けず、その男の一挙手一挙動に背筋に毛虫が這い回るような嫌悪を覚えるのである。
現在、レイの管理を任されている身としては、レイの処遇にしても、レイを物のように扱うゲンドウの態度にしても、憎らしくて仕方ないのだ。

そしてこれからのシナリオを知っているリツコは、内心喜びが湧き上がっていた。

「あんた何言ってるのよ!司令が解任されたらここはどうなるのよ!」
「新しい司令が来るだけじゃないですか?」

ミサトの言葉に何を怒っているのかとマユミが平然と答える。

「なっ!シンジ君?貴方のお父さんなんでしょ?その司令を陥れるような事をして良いと思っているの?」
「葛城さん?陥れるってなんですか?理不尽な行動に正当な対応をしただけじゃないですか。それに父と言いますが10年以上前に僕は捨てられていますよ」

「そ、それは事情があったのよ」
「どんな?少なくとも僕を捨てた直後に、僕と同い年の女の子を引き取って保護者をやってるようですし、子供一人養えなかったと言う事情ではなさそうですね?」

「同い年の女の子って・・・」
「レイの事よ」

今度はミサトの言葉に答えたのはリツコであった。

持ち前の偽善でシンジに説教しようとしていたミサトだが、どうも旗色が悪い。
本来、どっちかと言えばミサトが擁護するのは、シンジのような立場の方だ。
勢いでシンジに詰め寄って自ら破綻してしまったミサトは、思考の淵に落ち込んでしまった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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