第六話
鳴らない、電話


カツンカツンとハイヒールの音が響く、薄暗い廊下。
廊下の片側は壁であり、片側は鉄格子である。

目的の場所に辿り着いたのか、リツコは立ち止まった。
鉄格子の中には、赤いジャケットを着た女性。

「何よ。笑いに来たの?」
「司令代理が呼んでいるわ」

「はぁ〜っ。とうとう年貢の収め時かしら?」
「さぁ?」

ガチャリと重い鍵が開けられミサトが鉄格子の中から出てくる。

「う〜〜〜〜〜〜〜んっと!」

両手を上に挙げ、思いっきり伸びをするミサト。

「別に伸びが出来ない程、狭い空間じゃないわよ」
「なんとなくね。やっぱ解放されたって気がするじゃない?」

全く、この楽天的な性格は羨ましいとリツコは感じた。



「久しぶりね。ミサトちゃん。ケイジで逢ったからそれも変かしら?」

司令室に入ったミサトを迎えた第一声がこれであった。

「あの、えぇっと・・・どちら様でしたっけ?」
「やだ!忘れちゃったの?ショックだわぁ〜。一度だけリっちゃんと一緒に逢ったじゃない」

そう言われても、ミサトには思い当たる節が無い。
ショートカットの赤毛は多分染められているのだろう。
顔を見る限りは日本人。それも美人なおばさんと言うところだ。
何故か、その唇に塗られている紫の口紅が気になるが、それ程違和感があるわけでは無い。

ニコニコと微笑んでいるナオコから視線を外し、取り敢えず掛けられた言葉から推測を試みるミサト。

(リっちゃん・・・リっちゃん・・・ってリツコ!?・・・って事は・・・)

「えっと・・・ナオコさん?」
「やっと思い出してくれたのね?嬉しいわ」

ニッコリと微笑むナオコ。
ケイジでも自ら赤木ナオコと名乗っているのだが、興奮していたミサトはそんな事すら記憶に無い様子だ。

「それじゃ早速だけど、貴女には3つの選択肢があるから選んで頂戴」

(来たっ!クビと左遷と依願退職あたりかしら?まさか銃殺とかじゃないわよね?)

覚悟を決めるミサト。
この辺りの思い込みも激しい。

「休暇を取ってリフレッシュするか、NERVを退職するか、始末書を書くか。どれにする?」
「はい?」

これが選択肢なのだろうか?
そのまま受け取れば、休暇を取れば、全てお咎め無しと言う風に聞こえる。

「解り辛かったかしら?後3週間、私がここの司令代理を務めます。私が気に入らないなら3週間の休暇を取るか退職するか。このまま仕事をする気なら、リっちゃんから先の戦闘記録を見せて貰って、始末書の提出よ」
「それは一体どういう意味でしょうか?」

「私の下で働く気があるなら、ケジメを付けて始末書を書いて頂戴。でも3週間NERVを離れれば、私に会う事もないわ。勿論NERVに愛想を尽かして退職するのも可と言う事よ」

ミサトも馬鹿では無い。
いや馬鹿だが無能では無い。
いや、有る意味無能だが、咄嗟の状況判断は優れていた。

ナオコの言葉の一部がミサトの直感を刺激した。

(3週間離れれば会う事もない?ナオコさんは3週間で退職?そんなはずは無い。それじゃあ、一体どう言う意味?)

「始末書を書かせて頂きます」
「そう。じゃぁ始末書を見るまでは作戦課長の権限を凍結します。リっちゃん。後は頼んだわ」

「解ったわ。母さん」
「今日は皆で夕御飯でも食べたいわね」

「後で、言っておくわ。今日は来るんでしょ?」
「えぇ。今日から正式に本部配属よ」

リツコはミサトを伴って司令室を後にした。



リツコとミサトがリツコの執務室へ向かっていると、前方の雰囲気が何やら騒がしい。
何事かと思いながら、足を進めると、人垣を押し退けるように歩いてくる集団が居た。
いや、押し退けると言うより、皆、横に避けるのだ。
そして、通り過ぎる、その一団を目で追うため、立ち止まってしまっているのである。

その一団の先頭を歩いているのは、真っ白な膝上まであるロングブーツに、真っ白なエナメルでルーズに締めたベルトがアクセントになっているマイクロミニ。
その間に見える太腿の白さが眩しい。
上は、黒い丈の短いタンクトップに、これまた真っ白なエナメルの丈が短いジャケットを羽織っている。
こちらも内臓が入っているのかと思える程細い、臍周りを惜しげもなく晒しており、とても眩しい。

その髪は、蒼銀、瞳は真紅。
首には、何故か黒いチョーカー。
肌は抜けるように白く、エナメルの白さえくすんでしまいそうであった。
心持ち肌の艶が良いように見える。
余談ではあるが、レイの下着は黒のシースルーである。

「あ、あれは、レイなの?イメチェン?」

ミサトが呆然と呟く。
レイの後ろには、黒のゴスロリ風メイド服姿のマユミ。
黒い服の手首やスカートの裾や襟周りには、白いフリルが付いており、しっかりと白いレースのエプロンをしている。
エプロンの白い紐が、マユミの腰の細さを際だたせており、ともすれば太目に見えるマユミの肢体をグラマラスに見せていた。
胸元はしっかりと、豊満な谷間が覗いており、その胸自体も強調されるようなデザインである。

スカートはそれ程短くは無いが、黒いストッキングは膝上まであり、何故か黒のガーターベルトが覗いている。
こちらは、太腿と言うには膝に近いのだが、そのむっちりとした質感がやはり艶っぽかった。

そして首には、紅いチョーカーとトレードマークの眼鏡。
ちょっと腰がふらついているように見えるのは、気のせいだろう。
マユミの場合、紅いチョーカーが首輪のように見える。
こちらも余談ではあるが下着は淡いブルーのシースルーである。

その隣にはシンジが居る。
黒い襟の大きい・・・ツナギの作業着であった。
沢山付いたポケットの淵には紅いアクセントがある。
実は、これはNERVの作業着、黒ヴァージョンであった。
勿論、白ヴァージョンやカーキー色ヴァージョンなどがあるが、シンジは黒を好んで着ていた。

曰く、汚れが目立たないのと、NERVの制服にサイズが無く、ツナギなら袖や裾を折れば済むからだそうである。
余談ではあるが、アメリカに居た時から普段はこの恰好であった。

擦れ違うNERV職員は、皆、唖然としている。
それは、多分に生真面目な制服姿しか見た事がなかったレイの服装に起因するのだが、マユミの姿もそれに輪を掛けているのは確かであった。
そこにシンジが居なければ、女王様とメイドである。

「ちょ、ちょっとあんた達!なんて恰好してるのよ!」

状況に対し感情で発言してしまうミサト。
レイが昨日までは、一人で歩けない程、重傷であった事など忘却してしまっている。
他の職員達は、その事実すら知らない人間が多いので致し方無いのだが、作戦課長としてはまずいだろう。

「僕は一応NERVの作業着ですけど?」
「私はシンジ様の下僕として相応しい恰好だと思いますが」
「・・・貴女には言われたくないわ」

他の二人が普通に答えたのに対し、先に歩いていたレイは、振返りミサトに冷たい視線で答えた。

「な、なんですってぇ〜っ!」
「あら、レイ。おはよう。似合っているわよ」

喚こうとするミサトを押しのけて、レイを褒めるリツコ。
リツコは、今はミサトが興奮してレイが重傷であった事を忘れているが、それを何かの拍子で喚かれると面倒だと思い、ミサトを押しのけたのだ。

リツコは既にレイに施された処置を知っている。
ナオコを交え、シンジ達はある程度話してからレイの所へ行った為だ。
レイの秘密を知っているリツコは、そんな方法があったとは驚愕したが、それでレイが治るならと、合意したのである。
流石に昨夜の痴態までは知らなかったのであるが。

「・・・おはようございます。赤木博士」
「シンジ君にマユミさんも、おはよう」
「「おはようございます」」

微笑み合って挨拶をする4人。
リツコはレイとこうやって微笑み合える日が訪れた事が嬉しかった。
これから行う事は困難を極めるだろう。
それでも、レイと二人でゲンドウに従って人形の振りをしていた間、この日を、一日千秋の思いで待ち侘びていたのだ。

「これから司令室?」
「はい、辞令が出たとかで」

「そう、じゃぁ引き留めちゃ悪いわね。母さんに逢うなら母さんから聞くと思うけど、今日は夕飯を一緒したいと言っていたわよ」
「リツコさんも一緒ですか?」

「えぇ勿論」
「楽しみにしています」

そう言ってシンジはペコリと頭を下げると、少し先まで進んでいたレイの方へと歩いていく。
マユミもペコンとお辞儀すると、シンジに追従した。
それを微笑まし気に見送るリツコ。

「ちょっとリツコ。レイってば一体どうしちゃったの?」
「どうって?」

「どうってって、そのぉ、前はあんなんじゃ無かったじゃない」
「それも貴女の課題ね。調べられる権限を持っていながら何も調べず、何も見ようとしなかった。いえ、これからも果たして見ようとするのか」

「なによそれ?」
「職務怠慢ってことよ」

スタスタと先に歩き出すリツコ。
ミサトは、唇を尖らせてリツコの後を追った。



「あらレイちゃん似合うわよ」
「・・・お世辞はいいわ。ばあさん」
「くっ相変わらず可愛くないわね」

それが、シンジ、レイ、マユミが司令室に入って最初の遣り取りであった。
冬月は現在、ナオコの指示により日本政府と交渉を行いに行っており、不在である。

結局、冬月はナオコ側に寝返ったと言う事である。
伊達にゲンドウの副官を長年務めて居た訳では無かったようで、乗る船を見分ける能力は有ったようだ。

「・・・お礼を言っておくわ。ばあさん」
「あら?随分唐突ね」

「・・・約束を守ってくれた」
「私も随分良い目を見させて貰ったわ」
「・・・そう、良かったわね」

「それで、シンジ君とマユミは今日付で正式にNERV本部所属と成りました。扱いは技官。先の戦闘でシンジ君には出撃手当と危険手当が振り込まれているわ。それに移籍に伴う準備金、これはマユミにもね」
「まぁお金はどうでも良いんですが、技官って何ですか?」

「貴方達を軍属に組み込んでしまうには、日本では色々と問題があるのよ。だから技術士官として招いているって事ね。医者なんかと同じと思ってくれれば良いわ」
「・・・私は?」

「レイは、今までの不遇を訴えておいたわ。これからの扱いはシンジ君達と一緒よ。今までの分はファーストチルドレン就任に遡って振り込まれているわ」
「・・・そう」

「今後の事を考えるとお金はあっても困らないわ。今のうちにNERVから取れるだけ取っておきましょ」
「・・・ばあさんの知恵袋?」

ナオコは見事にレイの言葉をスルーする。
シンジとマユミは、笑いを必死で堪えていた。

「後、日本政府が煩くってね。明日から学校に通って貰うわ」
「そんな余裕あるんですか?」

「無いわ。でも、そんな事で横槍を入れられる事の方が面倒なのよ」
「日本政府にまで構っている暇は無いって事ですか」

「ご名答。予定は15日後、シャムシェル襲来予定日よ」
「「イエッサー!」」
「・・・了解」

何の予定か言わない事から、兼ねてから計画されていた事らしい。
レイが何も聞かないのは、昨夜シンジと一つになった事で、シンジからイメージで伝えられていたのである。
当然、詳細な補足説明はマユミから受けている。

「それと、これは個人的なお願いなんだけど、マユミ?」
「何でしょう?」

「リッちゃんに良い男、あてがってあげてくれない?」
「リツコさんに意中の人が居るなら、喜んでご助力致しますよ」

「ありがとう。お願いね」

「リツコさんが、今晩、夕飯を一緒したいってナオコさんが言っていたって聞きましたけど?」
「えぇ、今日は出来るだけ早く帰るわ」

「じゃぁ僕達で何か作っておきますね。5人分で良いですか?」
「お願いするわ。リッちゃんに聞いてみないと解らないけど、多分6人になると思うわ」
「解りました、後で聞いておきます」

ゲンドウの事など尋ねもしないシンジ達。
ナオコ達に取って、ここまで予定内の動きであったのであろう。



「これが前回の戦闘記録よ」

リツコの執務室で、説明を聞きながらミサトは、サキエル戦の映像を見ていた。
その前にはケイジでの映像も見せられている。
リツコに、冷えた頭で状況を第三者的に見た方が、始末書も書き易いと言われたためだ。

「日向君も堅実ねぇ。私ならこんなまどろっこしい事しないのに」
「そう言う所見も添えて始末書を書いて頂戴ね」
「了解、了解」

口調は軽いのだが、目が血走っているミサト。
あそこでナオコに突っ掛らなければ、それ以前にシンジの話をまともに取り合っていれば、この映像の中で指揮を執っているのは自分であったはずなのだ。
その内心は、爪を噛んでいる仕種でリツコにも解っていた。

カタカタと机が揺れる。
ミサトが貧乏揺すりをしているのだ。

(そろそろ限界ね・・・)

リツコは席を立つと、コーヒーを淹れる。
ミサトの分をマグカップに注ぐと、そのマグカップをミサトに差し出した。

「あっありがと」

取り敢ずミサトの貧乏揺すりが止まった事を確認し、自らもコーヒーに口を付けるリツコ。

「もし貴女が指揮を執る事になった場合、この使徒戦より無様な戦いを見せると、即、後送されるわよ」
「エヴァが動けば問題ナッシングよ。それよりパレットガンは何時出来上がるの?」

「パレットガンの製作は中止になったわ」
「なんでよ!武器が有るのとないのとじゃ作戦どころか戦闘に雲泥の差が出るわよ!」

「火薬なんかで弾を押し出すより、エヴァに鉄の塊を投げさせた方がよっぽど破壊力が有るのよ」
「んな訳ないでしょ!人間がボールを投げるのと、銃で撃つ事を比較すれば子供でも解る事よ!」

「人間とエヴァは違うわ。火薬により得られる初速は大型にする程遅くなる。エヴァはその大きさに比例して、力が強くなるのよ。実際第三使徒との戦闘から、MAGIに計算させたら第一宇宙速度すら超えさせる事が出来るわ。銃の弾が大気圏を越えるかしら?」
「んなっ!」

ミサトは白兵戦については、そこそこの実力がある。
其れが為に、銃器への依存が高いのだ。
どうしても、肉弾戦より銃器を持ってる方が感覚的に強く感じてしまう。
しかし、エヴァに関しては、その理論は通用しないのであった。

「さっ!情報は得たでしょ?始末書をさっさと書いて頂戴。私も何時までも貴女一人に構っていられないのよ」
「はいはい、ご教示有り難うございましたぁ」

これから自らの執務室で始末書を書くのだろうが、今の反応を見てリツコは諦めていた。

(ミサトは駄目ね。役に立ちそうにないわ。母さんは彼女に何をさせるつもりなのかしら?)

ミサトの背中を諦めた目で見ている所に、扉がノックされる。

「どうぞ」

入ってきたのは、シンジ達。
ミサトは出て行こうとしていたのだが、何を思ったのか扉を抜けずに、室内に向かい扉を背に凭れ掛かった。

「どうしたの?ミサト」
「そう言えば、今日から正式配属ってこの子達の事でしょ?だったら私の部下に成るって事じゃない。ちょっち話をしておこうかなって思ってね」

始末書の出来次第では、どうなるか解らないのだが、リツコもその事には触れないで好きにさせる事にした。
ここでの対応如何によっては、シンジ達と友好な関係になれるかも知れないからである。

(確率は低いけどね。それより悪化する方が高いかしら?)

そうなっても自業自得、リツコとしても踏ん切りがついて良いかも知れないと思っているのだ。

(聞かれたくない話をするならシンジ君達がそう言うだろうし、その時になって追い出せば問題ないわね)

シンジ達はそんなミサトに一瞥もくれず、リツコの方に向かう。
この時、さっさと謝罪を入れない時点で、ミサトに対する印象はかなり悪化の方向へ向かっているのだが、そんな事にはミサトは気付かない。
それよりも自分の部下になるはずだと言っているにも拘わらず、自分の方を見ようともしない事に苛立ちが湧いてきていた。

「ちょっとあんた達!正式に本部に配属されたなら、私の部下になるんだから昨日みたいな我儘は許さないから覚悟しておきなさい!」

(あらあら、これは決定的に決別かしら?)

漸く振返りミサトの方を向くシンジ達。
しかし、その目に浮かぶ物は侮蔑。

当然であろう。
自らの行動を顧みず、力で従わせようとしているのだ。

その目を見て一瞬怯むミサト。
シンジとマユミのみならず、命令に従順であったレイの紅い瞳までも侮蔑を浮かべた目で自分を見ているのだ。

「な!なによ!その目は?!あんた達解ってるの?!私はあんた達の上司なのよ!チルドレンは私の命令に従う義務があるのよ!」

「葛城一尉。昨日の事の謝罪は無いのですね?」
「あまつさえ権力で僕達を従わせるつもりですか?」
「・・・理解していないのね」

「煩い!子供の我儘に付合ってる暇は無いのよ!」

「ところでリツコさん。彼女は現在どのような権限があるのでしょうか?」
「始末書を書き上げるまでは、作戦課長の権限は凍結されているわ」

マユミの問い掛けに、そう言えばと言う感じで答えるリツコ。
ミサトは、今ここでそんな事を言う必要は無いだろうとばかりにリツコを睨付ける。

「と言う事ですので、お引き取り下さいませ。権限が戻ってからお話を伺いますよ」

リツコの回答を受け、マユミは丁寧な口調でミサトに告げるが、ミサトはそれを馬鹿にした態度と感じ、憤慨する。

「ふっ!ふざけんじゃ無いわよ!」
「ミサト!」

「な、何よリツコ」

今にもシンジ達に掴みかかろうとするところをリツコの怒気を含んだ声が制した。

「さっさと始末書を書き上げなさい。でないと何時まで経っても権限の凍結は解除されないわよ」
「権限なんて関係ないわよ!この生意気な糞餓鬼共に教育してやるわ!」

「そう、なら私は保安部を呼ばなければならないわね。貴重なチルドレンに危害を加えようとしている人間が居ると」
「くっ!解ったわよ!あんた達!覚えてなさい!」

ミサトは捨て科白を投げつけ、ドカドカと大股でリツコの執務室を出て行く。
それを見送るシンジ達は、肩を竦めて溜息を吐いていた。

「それで、何かしら?」
「ナオコさんが、人数をリツコさんに確かめてくれって言っていたので」

「そうね、ミサトは無理みたいだから、後はマヤぐらいね」
「解りました。全部で6人ですね」

「多分、そんな物だと思うわ」
「じゃぁ6人分+αで用意しておきますよ」

「あら?シンジ君が用意してくれるの?」
「まさか。殆どマユミですよ。僕は手伝うだけ」

「そう、楽しみにしてるわ」
「それじゃ、今日は、何もないようなんで、先に帰りますね」

「あっ、ちょっと付合って頂戴。発令所のメンバーに紹介するわ」
「解りました」

ミサトの居なくなった執務室は、穏やかな会話が弾んでいた。



「こちらが、技術部のオペレータ伊吹マヤ二尉よ」
「宜しく」

リツコに紹介されたマヤは、作業を止め、3人の方に正対するとニッコリと微笑んで、会釈する。

「こちらが作戦課の日向マコト二尉」
「昨日はご苦労様、宜しく」

「そして、このロン毛が司令部付きのオペレータ青葉シゲル二尉よ」
「宜しくな」

リツコの紹介に、ウィンクで返すシゲル。
その行動にリツコは引き攣り、シンジとマユミは少し引いた。
レイは我関せずと言う処である。

「本日付けで、本部に配属になった碇シンジ君に山岸マユミさん。技官扱いよ」
「技官ですか?」
「そう、レイも同じ待遇に変更されたわ。元々未成年を軍属に組み込む事が難しいのよ。エヴァ操縦の特殊な技術を持ってる技術士官として、招待している形になるわ」

「じゃぁ作戦課の指揮下に入る訳ではないと言う事ですか?」
「戦闘時は戦闘下の指揮系統に組み込まれる事になるわ。でも、技術士官としての判断を進言する事が出来るし、それはかなり優先される事になるわ」

「はぁ、それは葛城さんが怒りそうだなぁ」
「そこは日向君が、ちゃんと面倒見て頂戴」

「マコトも苦労が絶えないな」
「憧れの人の面倒なんだから、喜んでるんじゃないんですか?」

シゲルとマヤの突っ込みに勘弁してよと頭を掻くマコト。
オペレータ達は、かなりまともな様子だ。
実は、ミサトが本部に配属されたのも最近なのである。
リツコとオペレータ達の間は、マヤを媒介として既にかなり良い関係が築き上げられていたのだ。

リツコは大学時代からの友人と言う事でミサトの相手をしているが、現在、ミサトとオペレータ達とどっちを取るかと言われれば躊躇無くミサトを切り捨てるだろう。

「じゃぁ、マヤ、今晩はうちでお食事会だけど出れるかしら?」
「勿論です!」

「いいなぁマヤちゃん」
「お二人もご一緒されますか?」

羨ましそうなシゲルとマコトにマユミが声を掛けた。

「お誘いは嬉しいんだけど、俺達は今日、夜勤なんだ」
「今度、また誘ってくれると嬉しいな」
「はい、解りました、是非、次回に」

軽く会釈をするマユミ。

「それにしてもレイちゃんが、そんな恰好をするとはな」
「あら?似合っていて恰好良いと私は思いますよぉ」
「確かに似合ってる」

「マユミさんの恰好も可愛くて素敵だと思いますぅ」
「あら?マヤってそう言う趣味だったの?」

発令所での雰囲気も和気藹々としたものであった。



薄暗い発令所。
殆どの灯りが消され、今はマコトが一人でモニターに向かってマンガを読んでいた。
夜勤で現在シゲルが仮眠中であるのだ。

そこにプシュッと言う音と共に扉が開かれ、入ってくる人物が居る。
シゲルとの交代にはまだ早いのになぁと思いながら顔を上げた目の前にはミサトが立っていた。

「どうしたんですか?葛城さん、こんな時間に」
「やぁっと始末書が書けたのよ。日向君に推敲して貰おうと思ってね」
「あっ構いませんよ。見せて下さい」

そう言ってプリントアウトされた始末書を受け取り、読み始めるマコト。
ミサトは、空いているマヤの席にドカッと腰掛けた。

「しっかし、花の20代なのに、デートのお誘いもないってのも寂しいものね」
「葛城さんなら引く手数多じゃ無いんですか?」

始末書を読みながらもミサトの言葉に返事をするマコト。
かなり優秀なのだろう。

「こんな所に居たら出会いもないわよ。日向君は彼女居ないの?」
「僕に言い寄る物好きの方が居ないですよ」

「あぁあ、私の携帯の履歴は、仕事の電話ばっかりよ」
「僕なんて掛ってくる事すらないですよ。精々シゲルの飲みに行く誘いぐらいですね」

「あんた達も哀しい青春ね」
「それより葛城さん、僕の作戦の批判は良いんですが、これはまずいですよ」

「どれ?」
「シンジ君達の言動の批判です」

マコト達、発令所の人間も、ゲンドウが拘束された理由を説明すると、ケイジでの遣り取りをナオコに見せられていたのだ。
普通の人間が見たら、あまりにも稚拙な遣り取りである事を否めない。
特にミサトなど、理論も道理もない単なる感情論による恫喝でしかなかった。

「どこがよ?餓鬼が自分の責任も考えないで我儘言っていただけじゃない」
「彼らの言動は、組織として当然の理論ですよ。例えそれがこちらの事情を考えない物であっても彼らを責める事は出来ません」

「なんでよ!あの餓鬼がエヴァに乗らなかったら人類は滅亡してたのよ!そんなの関係無いじゃない!」
「葛城さん、作戦課長を辞めたいんですか?その時ならいざ知らず、後で顧みても理論的に説明できないなら、やばいですよ?」

「くっ!日向君、助けて」
「一応、僕が書き直して見ますから、それを直して下さい」
「ありがとう、助かるわ」

その後も数々のミサトの怒声が発令所に木霊する事となる。
脇には、先程ミサトが嘆いていた携帯が、沈黙を以て佇んでいた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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