第拾話
ロボット対決


学校では、トウジとケンスケが顔を腫らしていた。
親にこっぴどく怒られたらしい。

ケンスケは、何とも思っていないがトウジはシンジを殴った事を後悔していた。
NERVで説教を受けている所にリツコがやって来て、トウジ達が何をしたのか、懇々と説明されたのだ。
そして、その時シンジがATフィールドというバリアのような物を背後に展開していてトウジ達は助かったのだと教えられていた。
その為、初号機を護る物はなくシンジが非常に危険だったと、言われていたのだ。

実際、トウジ達が助かったのは、シンジが背後にATフィールドを展開し、戦闘の衝撃から護ったからであった。
それは、単に、それでトウジ達が死んでしまえば寝覚めが悪いからと言う軽い気持ちであったのだが、トウジ達は疎かリツコでさえ、そんな事は知らなかった。

因みに、今回の件はクラスメート全員が知っていた。
NERVは、学校側に避難時に眼を離して何をやっていたのかと抗議され、学校側も全校集会を開き事の顛末を話して注意を促したのである。
流石に名前は挙げられなかったが、クラスメートは、トウジ達が居なくなっていた事を知っていたし、避難警報が解除された時に居なかった事も知っていたのである。

それで翌日、二人が顔を腫らして登校してくれば、誰でも解ると言うものであろう。

トウジは、シンジに謝ろうとしたのだが、シンジに近付く事が出来なかった。
近付こうとするとレイとマユミの冷たい視線と、物理的な壁に阻まれる。
それに気が付くとヒカリ達も壁に加わるのだ。

既に人間的に見限られたトウジとケンスケは、クラスの中で孤立した存在になって行った。
最初は、罪悪感を持っていたトウジであったが、その鬱憤は、最初に八つ当たりしたように、またシンジを悪者にする事で決着を付けてしまった。

「なんやねん、ちょっと殴ったぐらいで人を除けもんにしおって、皆、あいつが悪いんや」
「そうだよ、俺なんてカメラもビデオも没収されちゃうしさ。あぁあ折角のスクープが皆おじゃんだよ」

「謝ろうと思たわいが間ちごうとった。あいつは、やっぱり殴って正解やったんや」
「そうそう、御陰で最近注文も全くなくなっちゃったし。お小遣いもこの間の事で、無しにされちゃったし、全部あいつのせいだよ」

こうして、トウジは責任転嫁から、ケンスケは妬みから、シンジに対する恨みを膨らませて行った。

美女がいつも傍にいる、巨大ロボットのパイロット。
それはケンスケが夢見るヒーローの姿そのものであった。
ケンスケは、エヴァのパイロットでありレイやマユミが常に傍に居るシンジが羨ましかったのだ。
しかも、そのレイやマユミは、ケンスケの眼から見て美少女であり、憧れであったのである。
他の者は、レイの容姿を気持ち悪がっていたり、マユミを根暗な危ない女だと思っている者も少なくない。
そこは、審美眼だけは長けているケンスケである。
しかも、レイは高値の花だが、マユミなら自分でもと失礼な事すら考えていた。



「加持君だったかしら?」

『えっ?この回線は司令直通だったはずでは?それより貴女は?』

ナオコの持つ電話の向こうでは、相手がゲンドウと思い込んだ加持リョウジが勝手に話を進めていたのだ。

「司令代理の赤木ナオコよ。ゲンドウさんは多分、死んだわ」

『それはご愁傷様です。で、どうです?例のものは。こっちで手、打ちましょうか?』

「ゲンドウさんから受けてた指示通りにして頂戴」

『では、シナリオ通りに』

「命を大事にね」

『碇司令がお亡くなりになったと言う事は、そちらの方が大変なのでは?』

「老人倶楽部も潰えたから、こちらは国連の指示待ちよ」

『まさか!』

「早くミサトちゃんを引き取りに帰ってきなさい」

『はは、その話は、また何れと言う事で、では』



コツコツと踵の音が響く、薄暗い廊下。
廊下の片側は壁であり、片側は鉄格子である。
足音が止まった鉄格子の中には、赤いジャケットを着た女性。

「出ろ」

流石のミサトも、食って掛かる事はしなかった。
今度こそ、年貢の収め時だと思っていた。

手錠を掛けられ連行されるミサト。

これから行く先は、軍事法廷か、有無を言わせず銃殺か。
ゲンドウが司令であれば後者であっただろうと思える。
今回は、リツコも来てくれなかった。

(流石に見捨てられたかしら・・・はは・・・)



引き連れて行かれた先は、司令室であった。
司令室に入ると手錠を外されたものの、どの様な処罰が言い渡されるのかミサトは緊張していた。

ナオコが話出すまでの数秒が、とても長く感じられる。
ミサトのコメカミに脂汗が浮かび始めた頃、漸くナオコが口を開いた。

「ごめんなさいねミサトちゃん」

ミサトは、ナオコのいきなりの言葉にキョトンとする。
それは、そうであろう。
ミサトとしては今度こそ年貢の収め時と腹を括って来たのだ。
良くて懲戒免職、悪ければ軍事裁判の後、銃殺も有り得ると思っていた。
利敵行為と言われれば、それも考えられない事では無かった。
しかし、ナオコの口から出てきたのは謝罪の言葉である。

「3週間って言ってたけど、まだ後任の司令が決まらないのよ。いえNERVの処遇が決まらないのね」
「そ、それは一体どういう意味でしょうか?」

NERVの処遇と言う言葉にミサトは、反応した。
そう言えば、第四使徒戦の後、ミサトには理解出来ない行動が取られていた事をミサトは思い出した。

「つまり、貴女の処遇については、まだ私に決定権があるって事よ」
「いえ、それは構わないのですが、NERVの処遇が決まらないと言うのは?」

「そっちの話ね。貴女、書類を何も読んでいなかったみたいだから、説明してあげるわ。お座りなさい、長い話になるわ」

そう言ってナオコは、ミサトに椅子を勧めた。
怖ず怖ずと座るミサト。
ここで椅子に座るなどと言う事は、無かったため、違和感を感じるのだ。
そもそもこの椅子は何処から出したのだろう?常備されていたのか?などと場違いな事を考えていた。

「そうね、どこから話せば良いかしら?セカンドインパクトや使徒によるサードインパクトの危険と言うのはゼーレの自作自演だったのよ」
「はっ?」

「ゼーレって言うのは、もう何百年も世界経済を裏から支配している組織で、人類補完委員会なんてここの人間で占められているのよ。そしてゼーレはスーパーソレノイド機関を提唱している葛城博士に眼を付けたの」

「南極に存在する、人類の遺産では無い古き遺産。そこに眠るアダムと呼ばれる巨人。それに博士の提唱するスーパーソレノイド機関に酷似する物があるからと調査を依頼したのがゼーレ」

「博士はゼーレから渡された資料を解析し、それを起動し制御する方法を見つけ出した。それが人を媒介にし制御するシンクロシステム。貴女が発見された時に乗っていたのは脱出ポッドなどでは無く、初期のエントリープラグよ」
「そんなっ!私は父にあの脱出ポッドに乗せられて・・・」

喚きだそうとしたミサトだったが、ナオコの眼を見て声が萎んでいく。
そこには、哀れみを以て自分を見詰める瞳があった。
卑下でも侮蔑でもなく、ただの哀れみ。

「貴女の記憶はねじ曲げられているわ。私の話を信用する必要は無い。ただ聞く気が無いのなら、この話はここでお終いよ」
「い、いえ、申し訳有りませんでした。続けて下さい」

「そう?貴女も知っている通り、シンクロは誰でも出来る物では無いわ。でもロンギヌスの槍と呼ばれる物で制御出来ると博士は考えていたの。それも、それが制御棒の役目をするとゼーレに与えられていたのだけれどもね」

「結果は、暴走。最後の手段として知らされていた方法を博士は取らざるを得なかった。それがアダムを卵に還元する方法だった。でも、その結果は知っての通りのセカンドインパクトよ」
「じゃ、じゃぁセカンドインパクトは父が起こしたと?!」

「それもゼーレのシナリオだったのよ。そして、ゼーレが持ち帰ったアダムの残骸。それに生ある物を融合させる事により出来る物体。それが使徒だったの」
「それじゃぁ使徒って言うのは?!」

「そう、造られた生命体。制御出来ない生物兵器って所ね」

「ゼーレは壊滅し、使徒はもう来ないわ。それが、この間の作戦。その辺りの詳しい情報はMAGIにアクセスして見て頂戴。一応NERVは現状維持のため、貴女の階級も役職も変更は無いわ」
「何故、私には知らされなかったのでしょうか?」

「何を?」
「この間の作戦は皆知っていて進めているように見えました。私は知らなかった」

「それは、貴女が書類を見ていなかっただけでしょ?今話した事は全職員に通達してあるわよ。勿論ゼーレのスパイはとっくに掃除したし、賛同出来ない者の退職も認めていたわ」
「私は、今まで一体何を・・・」

ミサトは、手を膝の上で握り、震えている。
膝の上にはポタポタと水滴が落ちていた。



見渡す限りの海面。
その上を、NERVのヘリが飛んでいる。

乗っているのはパイロット達の他にはミサトとリツコ、それにシンジ、レイ、マユミの3人も一緒だった。
旧東京跡地で行われる株式会社日本重化学工業が主催し行われるJA完成式典に参加するためである。

何故かマユミばかりかレイまでメイド服を着ている。
普段のゴスロリ風ではなく、濃紺の地味でまんまお手伝いさんと言う感じが不気味だ。
シンジはグレーのスーツに黒の蝶ネクタイ。
こちらも、見ようによってはボーイに見えなくも無い。

ミサトは3人に視線を合わせないようにしていた。
3人は搭乗するエヴァは無くなったがNERVの体制が現状維持のためチルドレンのままであり、技官扱いのため技術部に出入りしていた。
シンジはそうでもないのだが、話し掛けようとするとレイとマユミは露骨に敵意を持った眼で睨んで来るのだ。

対人対応にあまり長けていないミサトは、遣り辛い3人に近付く事を最近では避けていたのである。

「ここがかつて、花の都と呼ばれていた大都会とはね・・・」
「眠らない街、とも言われていたみたいですよ」

ミサトの呟きにパイロット席から返事が返ってくる。
ヘリと言えど、これはVIP用であり、その防音性は高く、中で会話が出来る程なのである。

「眠らない街、か、悪いわね、こんな事まで頼んじゃって」
「いえ、これも仕事ですから」

ミサトは、軽くパイロットの言葉に答えると、眼下に見える海原を見つめていた。
先の初号機自爆により、微かに残っていた嘗ての名残であったインテリジェントビル群なども無くなり全くの海面となってしまった旧東京。
それが、ミサトの仇と思っていた物の消滅を物語っており、ミサトは未だ整理が付かない自分の気持ちを持て余していた。

埋没した旧東京の端に、何とか残っている施設を利用して今日の式典は行われる事になっている。

「見えたわよ」

リツコの声に促され全員が前を見ると、そこには巨大な箱状の建物が見えた。

「何もこんなところでやらなくてもいいのに・・・で、その計画、戦自はからんでるの?」
「戦略自衛隊?いいえ、介入は認められずよ」
「どうりで好きにやってるわけね」



記念パーティー会場では、先程から延々とJA(ジェットアローン)に関する説明が行われている。
会場真ん中に置かれたNERVの招待席には、他の席と違い料理は無く、真ん中にビールが数本置かれているだけだった。
しかし、メイド姿をしたレイとマユミが何処からともなく豪勢な食事を運んで並べていく。
ホストっぽいシンジが、これまた何処からともなく高そうなワインやシャンパンを並べていた。

運ばれた料理をシンジは、5皿分の小皿に盛り分け配っていく。

リツコとミサトは、その様子に唖然としているが、説明を聞いている来賓の人間は、メイド服の人間が運んでいるため、気にしていない。

いつの間にか、周りのテーブルより数段豪華になったNERV招待席。
そこに着替えた3人が入って来て、席に座ると何食わぬ顔で料理を食べ始めた。

リツコも気を取り直したのか、注がれたシャンパンを飲み「いけるわね」とか呟いている。
それを見たミサトも、目の前に盛られた料理とビールに手を出した。

着替えたと言ってもシンジは、いつもの黒のツナギ、マユミは先程のメイド服とは違った黒いゴスロリ調のメイド服、レイは、白のエナメルを基調とした少々奇抜な女王様風味である。
何故かミサトは、その見慣れた恰好にホッとするのだが、壇上で説明を行っていたものは我慢の限界に達したらしい。
自分の説明を無視したようなNERVの席に苛立ちを覚え、コメカミをヒクヒクさせていた。

「質問を宜しいですか?」

説明が一段落したと感じたリツコは、律儀に挙手を行い壇上の男に声を掛ける。
既に、食事も一通り終えたのか、ナプキンで口を拭う仕種が艶っぽい。

「これは、これは、御高名な赤木リツコ博士、どうぞ」

壇上の男は下卑た笑いを浮かべてこれに答えた。
この為にNERVの事やエヴァの事を色々と情報を集めさせていたのだ。
そして男には確信があった。
嘲り、馬鹿にしてやる事が出来ると。

「先程の説明ですと、内燃機関を内蔵とありますが」
「ええ、本機の大きな特徴です。連続150日間の作戦行動が保証されております」

「しかし、格闘戦を前提とした陸戦兵器にリアクターを内蔵することは、安全性の点から見てもリスクが大き過ぎると思われますが?」
「5分も動けない決戦兵器よりは、より役に立つと思いますよ」

男は、わくわくしていた。
軽いジャブを決めた気になっていたのだ。
会場から湧いた小さな失笑は、男にその成果を感じさせるのに充分であった。

「そうですか、ところで、想定敵は一体なんなのでしょうか?」
「なっ!それは使徒と呼ばれる未知の生命体に決まっている!その事はNERVが一番よく知っているのでは無いのかね!」

「成る程、貴方の得ている情報は国連からでは無いと言う事ですね。国連には既に使徒襲来の危険性が去った旨を報告済みですが?」
「な、な、な、何を言っている・・・」

壇上の男は顔を真っ赤にし、言葉を失った。
使徒戦を想定して造った人型兵器。
それの存在意義が無いと言われたのだ。

周囲に居る軍隊の高官らしき者達もざわめいている。
まさに寝耳に水な話であったのだ。
NERVの決戦兵器を上回る兵器の開発として出資していたスポンサー達も顔色を青くしている。

「そ、それでは、起動テストまでの間、今暫くご歓談下さい」

取り乱した男女の男からマイクを取り、別な男が場を取り繕った。
壇上から引き擦られて行く男。

「大した事ないわね・・・ただ、誉めてもらいたいだけのつまらない男」

リツコは、小皿に残っていたローストビーフを一口で頬張る。

「どうせうちの利権にあぶれた奴らの嫌がらせでしょ」

ミサトは既に全て食べ終えて、ビールを飲んでいた。
どうでも良いと言う感じである。

その傍らでは、マユミがシンジに何か耳打ちし、レイを含めた3人は渋い顔をしていた。



「これより、起動テストを始めます。なんら危険は伴いません。そちらの窓から安心してご覧ください」

皆、一斉に双眼鏡等を顔に当てる。
冷めた目で見ているリツコ。

壇上で顔を真っ赤にしていた男、開発主任である時田は、気を取り直して来たのか、平然と指令を下した。

「テスト開始」

その声と同時に管制員達が忙しなくコンソールキーを叩き始める。

「全動力開放」
「圧力、正常」
「冷却機の循環、異常なし」

「制御棒、全開へ」

「動力、臨界点を突破」
「出力問題なし」

「歩行開始」

「歩行、前進微速。右脚、前へ」
「了解。歩行、前進微速。右脚、前へ」

右足を前に出し、二足歩行を始めるJA。
トーチカ内に感嘆の声が上がる。

「バランス、正常」
「動力、循環、異常なし」
「了解。引き続き、左脚、前へ。ヨーソロー」

ゆっくりと歩行を続けるJA。

「へ〜ぇ、ちゃんと歩いてるじゃん」
「自慢するだけのことは、あるようね」

ミサトとリツコの嘲り笑うような会話の中、突如、警告音がなり始める。

「なんだ、どうした?」
「変です。リアクターの内圧が上昇していきます」
「一次冷却水の温度も上昇中」

「減速材は!?」
「駄目です!!ポンプ出力低下!」
「そんな馬鹿な!?」

前進を続けるJAが真っ直ぐ、トーチカに向かってくる。
マユミは、いち早くリツコを引っ張り、レイはシンジを引っ張って安全な場所を確保する。

「ちょっと、まずいんじゃない?」

取り残されていると気付かないミサトの暢気な言葉。
見物していた一同も、既に慌てて軌道上から蜘蛛の子を散らすように逃げている。

「いかん!リアクター閉鎖。緊急停止!」
「停止信号、発進を確認」

「受信されず!」
「無線回線も不通です。制御不能!」

目前に迫るJA。

「うわあああっ!!」

トーチカを踏みつぶし、なおもJAは前進を続ける。

「造った人と同じで礼儀知らずなロボットね」

辛うじて踏みつぶされなかったミサトは、埃まみれになりながら嫌味を言う。
シンジ達は、こっそりレイが張ったATフィールドにより埃すら被っていなかった。

「ありがとう」

リツコは、小さな声でレイにお礼を述べる。
レイも、微笑んで頷く。

実は、シンジ達は、この時のためだけに随行していたと言っても過言では無かった。
元々、旧東京で行われるはずであったイベントのため、マユミが危険だと言ったためである。
JAが暴走する事は、解っていた。
これはゲンドウの残した遺産とも言うべき加持に対する指令の一つであったのだ。
加持を止めても良かったのだが、そうすると加持が他のことに手を出す危険性があったため放置していたのである。

しかし、その事により、リツコが確実に助かると言う保証が無くなったのだ。
今、リツコを失う事は、シンジ達に取っても看過出来る事では無かった。
レイに取っては、取引の為とは言え、リツコと共に10年をお互い助け合って来たのだ。
シンジやマユミに取っては10年一緒に住んでいた人間の娘なのである。
そして誰が行くかと言う話で揉めた結果3人で来る事になったのだ。

先程よりも派手な警告音が鳴り響く。
真っ赤に変わる周辺のモニター。

「加圧器に異常発生!」
「制御棒、作動しません!」
「このままでは、炉心融解の危険もあります」

「そんな馬鹿な・・・JAにはあらゆるミスを想定し、全てに対処すべく、プログラムは組まれているのに。このような事態は有り得ないはずだ」

「だけど今、現に炉心融解の危機が迫っているのよ!」

ミサトは時田に突っかかっている。
だが時田はただ首を横に振るだけである。

「こうなっては自然に停止するのを待つしか方法は・・・」

「自然停止の確率は?」

「0.0000002%。まさに奇跡です」

管制員の一人が答えない時田に代わり答えた。
ミサトはそれを聞くと、再び時田に詰め寄る。

「奇跡を待つより捨て身の努力よっ!停止手段を教えなさい」
「方法は全て試した」

「いいえ、まだ全てを白紙に戻す、最後の手段が残ってるはずよ。そのパスワードを教えなさい」
「全プログラムのデリートは最高機密、私の管轄外だ。口外の権限はない」

「だったら命令を貰いなさい!今すぐっ!」

フラフラとしながら部下の一人に差し出されたボロボロの電話を使う時田。

「熱いねぇ」
「直情型なのよ」
「・・・喚くだけで事態は改善しないわ」
「どうされるお積りなのでしょうか?」

4人は、マユミが何処から出したのか、水筒式のポットからお茶を注いだ物を飲みながら、ミサトの行動を傍観していた。

「第2東京市の万田さんを頼む。そう内務省長官だ」

時田は賢明に電話で問い合わせるが、話は進んでいないようだ。

『ああ、その件は八杉君に任せてある。彼に聞いてくれ』
『そういう重要な決定事項は口頭ではねぇ。正式に書簡で回してもらえる?』

「くそっ!」
「たらい回しか」

やがて電話を置く時田。
その顔は疲れ切っていた。

「今から命令書が届く。作業は正式なものだ」
「そんな、間に合わないわ!爆発してからじゃ、何もかも遅いのよ!」

そうこうしている間にもモニターには、廃墟の街を進むJAの姿が映っている。

「JAは厚木方面に向かい、進行中」

新たな警告音。
赤ランプの警告灯がまた一つ増える。

「時間がない。これより先は私の独断で行動します。悪しからず!」
「希望」

「えっ?」
「パスワードは希望だ」

時田の投げ捨てるような言葉にミサトはニッコリと微笑んだ。

「無駄よ!おやめなさい、葛城一尉。第一どうやって止めるつもりなの」
「人間の手で、直接」

対放射能防護服を着込むミサト。
どうやら送って貰ったヘリでJAの背中に乗り込むつもりらしい。

「無茶ですよ葛城さん!近付いたら風圧で吹き飛ばされます!手で縄梯子なんて掴んでいられませんよ!」
「じゃぁ指をくわえて見てろって言うの!」

案の定ヘリのパイロットと揉めているミサト。
パイロットの方は、当たり前の事を言っている。
ホバーリングしているヘリからリペリングするのとは、訳が違う。
相手もこちらも時速100km近い速度で動いている中、命綱無しで飛び移ろうと言うのだ。
明らかに自殺行為であった。

「葛城一尉、貴女の出番はなさそうよ」
「えっ?」

リツコの言葉に振り向いたミサトは、JAに対峙する3機の大型のロボットが見えた。
恐竜型をしたそれらは、JAより遙かに大きい。

「あれは?」
「戦自のトライデント。厚木に基地があるから戦自も黙っていられなかったみたいね」

「くっどうりで戦自が介入しなかった訳ね」
「民間企業ばかりか日本政府もと言う事ね。皆、エヴァが恐いのよ」

「でも、もうエヴァは無いじゃない?」
「あら?忘れたの?弐号機は今輸送中よ」

「あっ!」
「貴女、ドイツで彼女と一緒だったんでしょ?」

「ま、まぁね」
「それに、彼女の護衛は彼よ」

「うぞっ!」
「母さんは、貴女に迎えに行って貰うって言っていたわよ」

「げっ!リツコ代わってくれない?」
「嫌よ、それでなくても忙しいのに仕事を増やさないで頂戴」

ミサトとリツコが馬鹿話をしている間に、JAとトライデントの対決は進んでいた。
JAを正面から押し戻すトライデント。
他の2機がJAの足にバルカン砲を打ち込む。

崩れ落ちるJA。
JA1機に対し、3機で当るそれは、JAの四肢を粉々に打ち砕き、JAの活動を止めた。
あっと言う間に引き上げていく戦自のトライデント達。

「私達も引き上げましょう。爆発したら被爆するわよ」

そう言ってヘリに乗り込むリツコと、当然のように乗り込むシンジ達。
ミサトは、パイロットに押し込まれるようにヘリに乗せられた。

急速運行により離脱するNERVのヘリ。
見ている限り、JAは爆発する様子を見せなかった。

活動を停止したJAをヘリの窓から溜息混じりに見詰める一同。
レイだけは、トライデントの去った方向を睨付けていた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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