第拾六話
第弐幕開演


第三新東京国際空港。
2015年に建設が開始されたこの空港に今日始めての国際便が到着する。
国内便に先駆けてのこの空港で初の旅客機到着であった。

国際便到着ゲートではリボンが張られ、最初の客を迎える準備が整えられていた。
リボンを切る役目の中心は、カヲルである。
その脇には日本政府代表や、第三新東京市長など、むさ苦しい親父共が雁首を並べている中、カヲルの容姿は一際清楚で華麗であった。
シンジ達もスーツを身に纏い、リボンの端の方を持っている。

周りにはマスコミ関係の人間がマイクとカメラを向け今か今かとその瞬間を待ち侘びている。
本来開港式典をこのような時に合わせる事は無いのだが、これもカヲルの演出であった。
何しろ、この便に乗ってくるのはヨーロッパ諸国の重鎮達なのだ。

最初の一人が自動ドアを開けると、盛大なクラッカーと紙吹雪の中、リボンが切られ開港式の幕が開けられた。



NERV発令所。
その機能は2年前と比べ物にならないぐらい格段に向上しているが、その機能が使われるかわ疑わしい。
現在は、中央総合管制室として第三新東京市全域を制御している。
ナオコとリツコは、この2年でMAGIを格段に進歩させた。
本来は使徒の研究も残っているのだが、それはマユミからの情報を元に報告書を作成すると言う形を取り殆どMAGIのグレードアップに費やしていたのだ。

そのお陰で、現在ここから第三新東京市に制御できない場所は存在しない。
公衆トイレの扉ですらここから制御可能であった。
これは、対人邀撃システムの一環である。
世界各国から人が出入りするようになるため、MAGIによる監視能力と邀撃能力を充実させたのだ。

その管制室の最上段に冬月とナオコが居た。

「2年ぶりだな」
「えぇ間違いありません。金蔓です」

中央のメインモニターには、第三新東京国際空港開港式典の様子が映し出されている。
パーティ会場では、カヲルに群がる俗議員や、戦自の高官達が目に付く。

「やはりATフィールドかね」
「えぇ今やそれを機械的に発生させれば世界的イニシアティブを取れます。そしてそれに最も近いのがNERVですから」

疑似シンクロシステム。
それに対する世界の注目度は高かった。
思考による操作。
それは、難しい訓練なくして動かせる事を意味する。
しかも思い通りに。
更にアニメに出てくるようなバリア、ATフィールドである。
この二つが実用化されれば、世界の軍事や、研究は大幅に躍進するだろう。

上層部の暢気な遣り取りの中、階下は細々とした異常を的確に処理している。
街全体が管轄のため、そこには予期しない事が多量に発生するためだ。
小さな物では、とあるトイレの電灯が切れているなど言う事に始まり、小さないざこざで交通が停滞しているなどもある。
また、狭い場所で隠れて不良が煙草を吸っていたために火災警報が鳴ったなど、本当に細かい雑多な事が多量にあるのだ。

「平和だな」
「えぇ」

上層部の二人は、そう漏らしたが、それは言い換えると暇だと言う事であった。
何事もなく過ぎるのが一番良いのは解っているが、準備した内容を思うと肩透しなのも確かなのである。



巨大なシリンダーにLCL漬けにされているエヴァンゲリオン弐号機。
その前に赤いジャケットを来た少し目元の皺が目立つようになってきたミサトと、真っ赤なプラグスーツに身を包んだアスカが居た。

「なぁんでアタシが、こんな事しなきゃ行けないのよ!」
「それが貴女の仕事でしょ?」
「アタシは弐号機の専属パイロットよ!展示場のウグイス嬢じゃないわよ!」

相変わらずちょっと誤解した日本語を叫いているアスカ。
今日は、本格的な開園とあって、ミサトもアスカも朝からエヴァ弐号機展示場勤務となっていたのだ。

アスカはこれを学校があるからとエスケープしようとしたが、リツコが「じゃぁマユミにでも頼むわ。各国のお偉いさんも実際に使徒を倒したチルドレンの方が喜ぶだろうし」と言ったところ、そこは自分の職場だし弐号機は自分専属だと主張したのだ。

全く扱いやすいとはリツコの言である。
尤も、そんな発言を出来るのはリツコならではであった。
ミサトなどは、最近のアスカの我儘振りに辟易としている。
それでも、シンジ達よりは卸し易いと感じているのか、一緒に住んでいるからか、それなりにやっているようだ。

「来たわよ。アスカ」

ミサトの声と共に姿勢を正すアスカ。
ブースの扉から、団体さんよろしく、女性職員に先導されたスーツ姿の一段が入って来た。
そのNERVの制服に身を包んだ女性職員を見てミサトとアスカは眼を細めた。
その制服は昔ながらのNERV職員の制服。
ショートカットに未だ幼さを残した童顔のその女性は、メインオペレータの一人でありリツコの片腕、伊吹マヤであった。

「こちらが現存する唯一のエヴァンゲリオン、その弐号機です。建造は当時のNERVドイツ支部でそれまでの試作機である零号機、試験機である初号機のデータを元に正式機として製造されました」

その説明をアスカは直立不動のまま満足気に聞いている。

「こちらが当時の作戦課長葛城ミサトと、弐号機専属パイロットの惣流=アスカ=ラングレーです」

その言葉と共に敬礼をする二人。
流石にマヤは現在の二人の階級を証すような事はしない。
要らぬ詮索をされないためである。

背筋を張って敬礼する二人は、それなりに絵になっていた。
少々皺が目立つようになったとは言え美人である事には変わりないミサトと、16歳になりプロポーションに磨きの掛ったアスカがボディラインも鮮明なプラグスーツ姿で居るのだ。

「それでは、実際の使徒戦をご覧頂きます。こちらをご覧下さい」

マヤが展示場に備え付けられている大型スクリーンに皆を案内する。

「「「おぉ〜っ」」」

スクリーン上では、第参使徒が映し出されていた。
UN軍の攻撃をATフィールドで防ぐ使徒。
NN爆雷によっても殲滅出来なかった使徒に、見学者達は声を失っていた。

そして侵攻を開始した使徒に対し、射出される紫の巨人。
射出口を落とし穴とした鮮やかな殲滅作戦に、見学者達はそれぞれの思いを以て溜息を漏らす。

「それでは、これより疑似シンクロシステムのデモンストレーションを行います」
「ちょっ!ちょっとマヤ!聞いてないわよ!」

説明の内容に突っ掛って来たアスカをマヤは厳しい眼で睨付けた。

「惣流技曹!場所を弁えて下さい!通達は作戦課にもちゃんと届いています!」

ピシャリと言い放つマヤ。
14歳の中学生ならいざ知らず、現在は16歳の高校生なのだ。
しかもアスカ自身、大学も卒業しているのだと言って、常に自分は大人だと主張しているのである。
階級で名前を呼び、マヤは厳しい態度を取った。
マヤの態度にアスカも引き下がらざるをえない。
マヤがそう言うなら、またミサトが言い忘れた可能性が高いからだ。
案の定、ミサトはバツの悪そうな顔をしている。

ミサトは言い忘れていたのではなく、言えなかったのだ。
アスカではなく、シンジ達がデモンストレーションをすると言う通達を見た瞬間、言えないと判断したのである。
言えばアスカが荒れるのは解っていたし、仮にそこにアスカを参加させても悪化する事はミサトにも理解出来たのである。

「こちらをご覧下さい」

マヤは何事もなかったかのように、皆をスクリーンに注視するように促す。
アスカは下を向いて唇を噛み締め、拳をブルブルと震わせていた。
そんなアスカをミサトは、哀れみを持った眼で見詰めている。

先程と同じスクリーンにMAGIの造り出した仮想空間が映し出される。
そこに現れる第参使徒。

「先程より映像がクリアに感じるのは気のせいでしょうか?」
「これはMAGIの造り出した仮想空間です。映像ですとどうしてもピントの合ってない位置が存在するのですが、こちらは、計算上造られた物であるため、ピントがずれる事がないため、クリアに見えるのです。ただ、操縦者に取っては注視した箇所がはっきりと見えるだけなので、それ程違和感はないそうです」

マヤの説明に成る程と頷く見学者達。
それは、これが仮想空間の映像であり、先程の物は実写であったことを証明するものであった。

間を置かず、紫、青、銀のエヴァが現れる。
初号機、零号機、四号機である。
それをアスカは親の敵を見るような眼で睨付けていた。



レイとマユミは機嫌が悪かった。
マユミは、それでもシンジの後ろをいつもと変わらない表情で追従しているが、レイはあからさまに不満を顔に現わしている。
元々シンジ達以外には無愛想なのだが、明かに今は誰も近付こうとはしないだろう。

デモンストレーションでA10神経に刺激を受けた二人は、火照った身体をシンジに鎮めて貰おうと嬉々としていたところ、ナオコ達に呼び出されたのだ。
実際には、カヲルのところにシンジ達のデモンストレーションが終ったらすぐに来て欲しいと言う懇願にも取れる要請だった。
カヲルも普段落ち着いているナオコが、焦っている感じを受け取り、それを受けたのだ。

NERVの元司令室、現ナオコの執務室に入った5人は、その光景に言葉を失った。
そこに居たのは、ナオコとリツコ、冬月、そして背中に白い羽を付けた正しく天使としか呼べない者達であった。
何故なら、その背中に湛える羽は、コスプレなどとは思えない、余りにも神々しく光り輝く物であったからだ。

現在では3人で使っているとは言え、元々無駄に広い司令室であったため、手狭さは感じないし、無駄に暗くもない。
しかし、そこに居る天使達は異様であった。
あまりに美しいとしか表現出来ない容姿。
唖然としている5人の中で最初に口を開いたのはレイであった。

「・・・ミカエル」
「久しいなリリス」

レイの声も鈴を鳴らすような声であるが、ミカエルと呼ばれたサフラン色をした長い髪の天使の声はそれ以上であった。
聞いている者を安らかにさせるような、そんな声である。
しかし、途端にその場に緊張が走る。
レイの纏った雰囲気が臨戦態勢へと変わったからだ。

「まぁ落ち着けリリス」

ミカエルとレイが呼んだ美しい天使の背中から羽が消える。
それと共に、他の天使達も羽を収めた。
その様子に、レイも眼を見開く。
天使が羽を収めるのは、攻撃する意志がないと言う事であるからだ。
潜伏するような時以外、如何なる時も羽を収める事が無いのが天使なのである。

「我らは断罪を行いに来た訳ではない。羽を出したのは、この者達がなかなか信用しなかったためだ」
「・・・じゃぁ何をしに来たと言うの?」

未だにレイの眼からは、敵意が消えてはいない。
余程深い因縁があるのだろう。

「簡単に言えば、競技会への参加だ」
「「「はぁ?!」」」

素っ頓狂な声を上げてしまったのは、ナオコや冬月である。

「競技会は予定しているけど、その草案すらまだ出来ていないのだけれどもねぇ」
「解っているのであろう?リリスの娘リリムよ」

カヲルの言葉に答えたミカエルの言葉は、マユミに向けられていた。
一斉に、その場に居る者の眼がマユミに向く。

「それ以前に、何故、貴女達がこちらに来られるのでしょうか?」
「それはリリン達が言うサードインパクトの影響だ」

マユミに答えたミカエルの言葉は、少なからずその場に居た者全員に衝撃を与えた。
時を遡らせたと思っているレイとマユミは、その言葉を理解した。
その知識を得ているシンジとカヲルは、困惑する。
サードインパクトは防げたと思っている冬月やナオコとリツコ。
言葉だけは知っているヒカリ。

「サードインパクトは阻止されたはずだが?」

沈黙を破ったのは冬月の疑問であった。
この中で唯一、ただ強い者に従っていただけの彼だけが、そう信じていた。
ナオコやリツコは、レイやマユミから話を聞いているが故にその可能性が今、頭の中で回っている最中であったのだ。

「サードインパクトは起こされたのだよ。だから再構築したのだろう?リリス」
「・・・そう、そうなのね」

「話は遠くリリン達の言う天界とアダムとの抗争にまで遡る事になる。
我らは神を敬わないリリンに断罪を行った。
リリン達の伝承ではソドムとゴモラなどと言われておるな。
それに反発したアダムとリリスが、我らの住む地とこの地を隔離したのだ。
リリン達の言葉では、そう多層世界とでも言えばよいのかな。
しかし、その異相空間に歪みができて我らが介入出来るようになった。
それがサードインパクトと呼ばれる物の膨大なエネルギーによる影響だと解ったのは最近だ。
ただ、介入出来ると言っても、精々覗き見る事と、このように思念体を送り込むのが今の限界だがな。
そしてリリスが時の逆行と言う過程を以て再構築したのがこの世界だ」

「宗旨変えでも成されたのでしょうか?」
「あぁ、我らも長い時の間に色々あったのだ」

マユミの言葉にミカエルは遠い眼をする。
まるで過去に大事な物を置き忘れて来たような、そんな哀しい眼であった。

「取り敢ず過去の事は良いよ、君達の目的を教えてくれるかな?」

意外にも、話の流れを正そうとしたのはシンジだった。
ここ数年カヲルと共に外交部門で働いていたのが功を奏したのだろう。

「我々の目的は、リリン達との共存だ」
「そのために競技会に参加したいと?」
「そうだ。今の我々ではそれぐらいでしか存在をアピール出来ないからな。今もなお異相空間の歪みは大きくなっている。いずれこの世界との融合は免れん。我々も戦いを好む訳では無いのだ」
「・・・エヴァね」

「強ち間違いでは無い。アダムの魂は今、リリスにこの世界を任せ、この世界に漂っている。しかし、この世界に再び危機が訪れるならアダムもまたその本体を現わすだろう。何より、我々が一番恐れるルシフェル様の魂がそこにあるではないか」
「そう言う事でしたか」

流石に天使達の言葉をいち早く理解したのはマユミであった。



結局リリン側が混乱していると言う事で天使達は、近いうちにまた訪れると言い去って行った。
今は、レイとマユミが状況を整理しながら説明しているところだ。

「そう、あのサフラン色の髪がミカエル、後ろに控えていたのがウリエル、ラファエル、ガブリエル、それにラジエルと言う名なのね」

リツコの言葉にコクリと頷くレイ。

「アダムはイヴを使って天界とこの世界を隔離した。と言うよりこの世界だけをイヴにより覆ったと言う方が正しいですね」
「イヴってアダムの妻じゃないの?」

「イヴとはアダムの分身です。そう言う意味ではエヴァもイヴですね。霊的な分身と言う意味でエヴァとは異質な物ですが」
「そう、じゃぁアダムが消滅したからその隔壁みたいな物が機能しなくなったのかしら?」

「有る意味そうですが、ミカエルの言う通りサードインパクトのエネルギー放出が原因なのでしょう」
「それでどうなったの?」

「人は疎か、全ての生命体がLCLとなった世界でした。ただ一人シンジ様を除いて」
「どうしてシンジ君だけ?」

「シンジ様の心を壊し、シンジ様を依り代としてサードインパクトは起こされたのです。それ故にレイ様も見誤ったのでしょう。シンジ様を基準として自らの心で自分自身をイメージできれば、誰もが人の形に戻れると感じてしまった」
「どう言う事かしら?」

「私もミカエルの言葉で気が付きました。シンジ様の魂はルシファー様そのものだったと言う事です」
「ルシフェルじゃなくて?」

「同一です。天使達の呼び名がルシフェル様、天使達を見限ったルシフェル様はルシファー様と名乗っておられました。眠りに付いたアダムとリリス様を残し、ルシファー様は魂だけの転生を選択されたのです」
「想像も付かない話だけれど、依り代の魂の力が強すぎたと言う事ね?」

「そう言う事です」
「それで時を遡らせたと言う訳ね」

「ミカエルの言葉を使えば再構築ですね。時間軸上は延長線上にありますから」
「私達は遣り直していると言う訳ね。サードインパクトが起こされた世界の事は聞かないわ。なんとなく嫌な予感がするから」

「賢明です」とマユミは微笑んだ。
主にリツコが質問し、マユミが答えると言う形で状況が整理されていく。

「科学的興味は尽きないけれど、大体の経緯は解ったわ。問題はこれからどうするかね」

一旦区切りを付けたのはナオコである。
冬月は話に付いていけないのか、ゲンドウとの陰謀を思い出しているのか、沈黙を保っている。
レイはシンジにベッタリと引っ付いていた。
元々シンジに対しての思い入れも大きい物であるのだが、その理由が魂の思い人であったからである事が発覚したためである。

「・・・元々私は貴方の物だったのね」
「僕にはその記憶は無いんだけどね」
「・・・問題ないわ」

などとイチャついて居るのだが、周りはいつもの事と見て見ぬ振りを決め込んでいた。

「じゃぁ彼女達が競技会に参加しようとする目的ね」
「目的は共存と言っていましたよね?それを議論するのは答えの出ない議論だと思いますよ」

リツコの言葉に異議を唱えたのは、シンジである。
やはり外交部門に所属しているが所以であろう。
実りの無い事は行わないようだ。

「言い方が悪かったわ。何故競技会なのかと言う事よ」
「実は、疑似シンクロシステムは世界的に注目を集めています。何れ世界の軍事バランスを司る程に」

「どう言う意味かしら?」
「仮想空間上でATフィールドを張れると言う事は、エヴァを建造すればATフィールドを張れると言う事です。そしてそれはエヴァ自体が必要な訳では無い」

「そこまで情報が漏れていると言うの?」
「諜報部は内調、保安部は戦自に委ねましたから」

「だからと言って、ATフィールドがすぐ張れるとも思えないけど?」
「現状のNERVが貧乏である事は知られています。各国はまずATフィールドを張れる人間を育て、その後NERVに交渉するつもりのようです」

「でも現状のリアクターではATフィールドを張れる程電力を確保できないと思うわよ」
「局地戦で問題ないのです。自国にATフィールドを張れる人間が居る事をアピールする事により、他の国は攻めあぐねます」

「確かにそうね。通常兵器が役に立たないなら侵攻しても無駄だわね」
「天使達は確実にATフィールドを展開出来るでしょう」

「確かに目立つけど、それだけでは競技会で有る必要は無いわ」
「多分疑似シンクロシステムその物が、鍵だと思われます」

「どういう事かしら?」
「彼女達のこちらに来るシステムに有効なのでは無いでしょうか?」

「取り敢ず、彼女達は何らかの有用性を疑似シンクロシステムに見出していると言う事ね。それはこちらに取って不利なのかしら?」
「それは何とも言えません。彼女達の言葉を信ずるなら、彼女達と友好的に接するべきかと思いますが・・・」

「信用出来ない?」
「正直なところ、判断しかねます」

「どちらにしても、現状は友好的に接するしか無いんじゃないかな?彼女達が霊体で来る以上、物理攻撃は無意味だしね」

シンジの言葉で、天使達との付き合い方は、次回彼女達からアクセスが有った時に話し合う事となった。
大凡の背景も解ったので次は混乱せずに話し合いが出来るだろうと言う結論である。

「一つだけ聞いておきたいのだけれど?」
「何でしょう?」

「天界があるなら魔界もあるの?」
「そうですね。リリン達の言う魔族が住む世界があるかと言うのならば存在します」

「その人達は介入して来ないのかしら?」
「して来ないとは言い切れませんが、彼らは天使達より友好的ですから」

「魔族の方が人の味方だと言うの?」
「呼び方はリリン達が勝手に付けて勝手に伝承しているだけですからね。天使達の攻撃から助けてくれたのも魔族と呼んでいる方達ですよ」

「常識を捨てる必要がありそうね」
「例えれば、天使達は厳格な修道士、魔族は任侠道の人達と言うところでしょうか」

「何となくニュアンスは解るわ」

リツコは聞いたのは間違いだったとでも言いそうな複雑な顔をしていた。



ナオコ達との会議を終えたシンジ達であったが、もう一つ厄介な問題が浮かび上がっていた。
ゼーレの残党が送り込んできたハイブリッド淫魔達である。

「さて、こっちはどうした物かな?」
「既に第三新東京市には潜入している模様です」

「その割には静かだね」
「はい、疑似シンクロシステムを試したようですが、それ以後は目立った動きをしておりません」

「こっちも疑似シンクロシステムに何か求める物があるのかな?」
「ATフィールドが展開出来るか試しただけのようですね」

シンジの質問にマユミは本を開いて答えている。
こちらの動きは天界の動きと違い、かなり詳細に調べる事が可能であった。
アカシアブックが全ての知識を持っていると言っても、それを引き出す者が意識しないと引き出せない。
例えるなら巨大な図書館で必要な情報を探すような物である。
その索引としての能力を持っているのが司書なのだ。
その為、意識していなかった天界の動きに気が付かなかったのである。

「こっちは先に打って出た方が良いのかな?」
「どうでしょう?不思議な事に余り敵意が無いようなのですが・・・」

「元々嫌々だからじゃないのかい?」
「同族だから掴み辛いのかも知れません」

カヲルも決定するに至らない様子である。
攻めてくるなら迎え撃つのだが、どうも今のところその様子も無いとなれば、こちらから打って出るのも気が引けるのだ。

「魔界の方は?」
「実は異相空間の歪みが歪なようで、今は干渉出来ないようです。ただ、天界の動きは察知しているようで、やはりベルゼバブ様を筆頭に思案しておられるようです」

「・・・ビレトやペイモン達に逢えるのかしら」
「きっとこちらに来られるようになれば、飛んで来られると思いますよ」

懐かしそうなレイにマユミも微笑んで答える。

「綾波はそっちにも知り合いが居るんだ」
「何を仰っているんですか、皆ルシファー様のファンです。きっとシンジ様に逢いに来られるんですよ」

「えっ?でも僕はそんな記憶ないし」
「大丈夫です。これから融合してレイ様からその知識を貰えば良いのです」

「・・・問題ないわ」
「折角シンジ様に鎮めて貰おうと思っていたのに、天使達に邪魔されましたからね」

ニヤリと笑いながら擦り寄ってくるレイとマユミ。
シンジはカヲルの方に助けを求めようとしたが、カヲルは既にヒカリと睦み合っている。

「ま、まだ話は終ってないと思うんだけど?」
「・・・一つになった方が話は早いわ」

言うが早いかシンジの唇はレイの唇で塞がれる。
マユミは既にシンジのベルトを外しに掛っている。
シンジの抵抗はティッシュ程の厚さも無かった。



「で、ここに居る訳だ」

シンジ、レイ、マユミは、第三新東京市に新設されたホテルの前に居た。
あの後、結局、他の国の高官達を淫魔の力で引き込まれたりするのも不味いと言う事で、ハイブリッド淫魔達に接触する事になったのだ。
下手をすると戦闘になる可能性があるのでヒカリとカヲルは留守番である。
どちらにしろヒカリは失神しており、付いて来るのは不可能であった。
ヒカリ一人置いて来る訳にも行かないので、当然カヲルはヒカリに付いている訳である。

「何号室?」
「はい、2405から2407号室ですね」

外国からの客が多いためか、かなり際どいレイとマユミの恰好も咎められる事は無くホテルの中を進む。

「流石に最上階じゃないか」
「・・・それでも24階」

レイがそう言いながらエレベータのボタンを押す。
NERVとは違った近代的なエレベータの中、無言の時が流れる。
静かに、現在階を示す電光が動いていく。
24階と言う高層にも拘わらず驚くほど静かに、そして速く到着した。

チンと言う音と共に開かれる扉。
シンジ達は無言で2407号室へ向かった。

5人で来ているのだがツインの部屋を3部屋取っている。
一人で一部屋使っている者が、リーダ格であろうと当りをつけたのだ。

コンコンとシンジがノックをする。

「はぁ〜ぃ。今開けるからちょい待っててなぁ〜」

やけに脳天気な関西弁が返ってきた。
シンジは、部屋番号に間違いがないか確かめるとマユミの方を向く。
マユミも困惑した顔で首を横に振るだけであった。

「はぁ〜ぃ」

ガチャッと言う音と共に開いた扉から現れたのは、金髪碧眼だが、アスカとは正反対の優しげな顔をした少女だった。

「ゲッ!碇シンジ!」

少女はそう言うと扉を半開きのまま固まっている。
シンジは自分の名前をいきなりフルネームで呼ばれた事に驚いたが、知っていると言う事は間違いないと確信した。

「ちょっと話がしたいんだけど良いかな?」

少女はまだ固まっている。

「あのぉ〜?」
「うっうっうっ・・・」

ヤバイ!。
シンジの中で警鐘が鳴り響いた。

「ぅわぁ〜〜〜〜〜ん!」
「ちょっ、ちょっとなんでいきなり泣くのさ!」

「「「なんやなんや!どないしたんや?!」」」

泣声に反応して周りの部屋から続々と少女達が出てくる。

「ゲッ!碇シンジ!」

出てきた少女達も同じ反応をする。
またしてもシンジの中で警鐘が鳴り響いた。

出てきた少女達も最初の少女と同じように泣き出す。
24階は少女達の泣声の大合唱となっていた。

(一体何なのさ・・・)

シンジも泣きたくなって来た。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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