第拾七話
這い寄る混沌


窓の下には、夜も遅いと言うのに高速道路を走る車のテールランプとヘッドライトが線になって見えている。
前方を見ると何キロから離れた位置に見える高層ビル群。
夜の闇は周りの山々を隠し、明るい電気の光に彩られた街並を浮き上がらせる。

(どうして僕はここに居るんだろう・・・)

シンジは絶景と言える夜景を眺めながら黄昏れていた。



数時間前、泣止まない少女達をなんとか部屋に入れると、マユミは即座にカヲルに連絡を入れた。
連絡を受けたカヲルは、10分程でヒカリと共に人数分のアイスクリームとケーキを持って現れた。
マユミは、その間少女達を宥めていたのだが、シンジはオロオロしているだけであった。
いくらマユミに鍛えられたり、レイと一つになっていても、訳も解らず泣く少女の対応までは流石に知識の欠片にも無かったのだ。

レイは、シンジの隣で、腕を組みじっと少女達を見詰めている。
レイだけは警戒態勢を解く事が出来なかったのだ。
彼女達はアダムの細胞を埋め込まれたハイブリッド淫魔である。
その能力は計り知れない。

実はシンジやマユミが肉体を傷付けられても問題は無い。
いや、痛みはあるのだが、魂だけ回収出来れば、後はレイの力でどうにでもなるのだ。
そのためにもレイが遅れを取る訳には行かない。

レイ自身も肉体の消滅には然したる問題もないのだが、その状態でシンジ達も肉体を消滅させられると回収が困難になるからだ。
後は、淫魔達の精神攻撃が不安材料の一つであった。

マユミは精神に干渉して、相手を幻惑の世界に閉じこめる事が出来る。
その類の強力な能力があると、これも厄介であるためだ。
しかし、レイは気付いていなかった。
所詮、リリムはリリスの子供達なのである。
覚醒しているリリスに敵う事は無かったのだ。

ただ、それを知っているからと言ってもレイは油断しなかったであろう。
それが綾波レイと言う少女なのだ。

アイスクリームとケーキでなんとか落ち着いた少女達。

「女の子を落ち着かせるには甘い物が一番なんです」

そう言って微笑むマユミに理不尽な物を感じつつもシンジは感心していた。
確かに少女達は食べている時は幸せそうであった。

「それで、どうしていきなり泣き出したのでしょうか?」

少女達が落ち着いたのを見計らってマユミが尋ねる。
少女達は顔を見合わせて困惑していたようだが、この部屋の主である少女が、怖ず怖ずと言った感じで話し始めた。

「うちらな、爺さん達に変な機械埋め込まれてるらしいねん。それで逆らわれへんねん。でもな、命令聞いたらそれを外してくれるっちゅうたんや」
「そう、それで何を命令されたのでしょうか?」

「あんな、今回は様子見やねん。でもな出来るなら元チルドレンの抹殺とエヴァの奪取。できへんでも格納状態の調査とか、疑似シンクロとか色々調査があってん」
「あらあら、随分正直なんですね」

「うちら、空港であんたらを見掛けたんや。しゃぁけどあんたらはうちらの敵う相手とちゃう」
「一目見て解ってもうてん」
「しゃぁから、今回はこそこそ調査だけして、後は遊んで帰ろうって言う事になっとってん」
「そやのに、碇シンジが来たっちゅうことは、うちらの正体がばれてもうたんやろ?」
「ほなら、うちらには、ぐすっ。うちらには、もう・・・」

5人の少女達はお互いを庇い合うように抱き合っている。

「まぁまぁ折角落ち着いたのですから、泣かないで下さいな」
「しゃぁかて・・・うっ」

マユミが宥めるものの、また眼に涙を一杯に溜め始める少女達。
背が高いのでシンジは気が付かなかったのだが、よく見ると少女達はかなり若く見える。
そう、ティーンエイジにも成ってないと思われる程に。

「僕は、君達を殺しに来た訳じゃないよ。最初に言っただろ?話がしたいって」

そう言ってシンジは精一杯穏やかに微笑み掛けたのだが、顔を引き攣らせ後ずさる少女達。
シンジの微笑みも引き攣った。

「ほ、ほんま?」
「本当だよ。まず君達の名前を教えてくれるかな?」

少女達にコクリと頷き、出来るだけ穏やかに問い掛けるシンジ。
少女達はお互いの顔を見合わせている。

「う、うちはナイアーラトテップ。ナイって呼ばれてる」
「うちは、ヨグ=ソトースや」
「クトゥグア」
「ツァトウグア」
「ハスター」

「ナイアーラトテップ・・・這い寄る混沌で御座いますか・・・」
「知ってるの?」

少女達の名前に反応したマユミの言葉、その二つ名にシンジは反応した。
所謂、二つ名が存在すると言う事は、裏の顔を持っていると言うことだからだ。
だが、マユミから返ってきた言葉は、シンジの想像したものでは無かった。

「20世紀後半のSF作家達が造り出した架空の神話体系。クトゥルー神話に出てくる旧支配者達の名前です」
「へ?」

「ご老人達もネタ切れと言う処かも知れないねぇ。使徒に勝ったNERV。それよりも高位な名前として引っ張り出して来たのじゃないかい?」
「そうであれば良いのですが」

幾らか老人達の事を知っているカヲルが、その本質を言い当てているのだが、それを鵜呑みにするには、その名前の由来元は強大過ぎる力を持っていた。
マユミは自らの能力で彼女達の事があまり調べられない事に対しかなり警戒しているのだ。

「・・・そんな事よりも」

そう呟きながらレイは少女達に近付いていく。
無表情なレイの表情は、少女達には恐怖以外のなにものでもない。
その紅い瞳に真っ直ぐに見詰められ身動きする事も出来なかった。

レイはナイアーラトテップと名乗った少女の頭に手を置く。

「ひっ!」
「・・・怖がる必要は無いわ」

首を縮めレイの手が触れる事を怖々と許容する少女。
レイは、すっと手を動かすと少女の頭から手を離す。
握られていた手を少女の前で開くレイ。
そこには、直径5ミリ程に極細の針が海栗のように出ている球体が存在した。
流石にこんな物が脳の中に埋め込まれていたなら如何なる外科手術でも取り出せないだろう。

「こ、これは?」
「・・・貴女の頭の中に埋められていた物」

「そんな手品みたいなんで取れる訳ないやんか!」
「・・・そう?」

レイは、今度は怒鳴った少女の頭に手を置く。
周りの少女達も今度は、何を行うのかじっと凝視していた。
そして眼を見開く。

レイの手が少女の頭の中に入っているように見えたからだ。
実際レイはアンチATフィールドにより自らの手を少女の頭の中に入れていたのだ。
少女の頭から握ったままの拳が抜け出てくる。
そして、その手を開くと先程と同じ物が掌に乗っていた。

5人の少女達の手の上に同じ物が乗せられている。
結局レイは5人全員から埋め込まれているチップを取り出したのだ。
少女達は複雑な気持ちでそれを眺めている。
信じて良いのか判断が付かないのだ。

天使達との出会いによりレイは自分の力を完全に認知、理解したのだ。
地球上全ての生物をLCLから再構成したレイにとって、一人の身体の一部の再構成など造作ない事なのである。
ただ、流石に全生命体となると膨大なパワーがいるらしい。
マユミ曰く、これも天使達が共存を言葉にしている大きな要因であろうとの事であった。

「潰しちゃ駄目ですよ」

マユミの言葉に「なんで?」と言う表情で5人の視線が集まる。

「それには、発信機の機能も付いているようです。潰れると死んだと思われますので」

少女達は首を傾げる。
自分達が死んだ事になるならその方が都合が良いような気がするからだ。

「貴女達は、使徒の細胞を埋め込まれているから、そちらの治療をしないと後数年しか生きられないでしょ?」
「治療って、治るん?」

「・・・貴女達が心を開くなら」
「心?」

「・・・そう心を開いて私と一つになるの」
「一つにって・・・」

レイの言葉に顔を赤らめる少女達。
一応、淫魔として覚醒しているのだから、慣れているはずなのだが、やはりその年齢からか未だ羞恥心がある様子だ。

「そんな事してあんたらに何の得があるんや?」
「・・・自分の娘達を無償で助けるのは親として当然」

「親?」
「淫魔として覚醒した貴女達は、私の姉妹であり、レイ様とシンジ様の娘ですわ」

それならマユミは父親と肉体関係を持っているのかと言う事になるのだが、シンジ達にそのような事に関するタブーは存在しない。
元々レイはユイとリリスのハイブリッドであるし、シンジとは染色体的には母子関係に近い。
シンジ達の概念としては魂の繋がりにそのようなリリン的道徳は無意味なのだ。

「う、うちらって淫魔やったの?」
「ご存知無かったのですか?」

コクリと頷く5人の少女。

「あらあら、これは困りましたわ」
「・・・問題ないわ」

「レイ様?」

マユミの予定では、淫魔に覚醒している少女達のため、最終的には淫猥な行為により興奮状態にさせ、その勢いでレイと一つになろうと考えていたのだ。
しかし、本人達にその自覚がないと言う事は、行為自体が積極的に行われない可能性がある。
そうすると、マユミの主観では心を開く方法を他に考える必要が生じてくるのだ。

「・・・私に還りなさい・・・記憶を辿り。・・・優しさと夢の源へ・・・もう一度星に引かれ・・・産まれるために」

詠うようにそう言ったレイに5人の少女は包み込まれる。
一瞬驚いた5人だったが次の瞬間には、母に抱かれるような穏やかな表情になる。
途端、パシャンと言う音と共に5人の姿が消えた。

「綾波?」
「・・・皆にも手伝って欲しい」

そう言ったレイの手には5つの淡い光が包まれていた。
それを胸に当てると光はレイの身体に吸い込まれていく。

4人はコクンと頷くと、服を脱ぎ全裸になり、そしてレイと重なって行った。



(どうして僕はここに居るんだろう・・・)

シンジは絶景と言える夜景を眺めながら黄昏れていた。
シンジの後ろには、大量の汗で裸体を光らせた少女から女性までが横たわっている。

結局レイと融合した全員は、少女達と意識の交換が成され、少女達はシンジ達と共にNERVに所属する事となった。
少女達の情報から老人達の居場所も解り、これは後に戦自と内調経由で殲滅される。
加持に伝えたら嬉々として殲滅に乗り出したと言うだけであるが。
老人達の切り札とも言える少女達がこちらに寝返った以上、老人達に更なる隠し球は無かった。

レイから融合を解き、自らの姿を取り戻した少女達は、既に使徒の因子は無くなり、単に覚醒した淫魔、即ちマユミやカヲルと同じ存在となっていた。
そして、魂の融合による快感から自らを取り戻した時に、身体の疼きを抑えられず、全員で乱交となったのだ。
シンジ達の普段の行為の逆と言う事である。

そして、この中で唯一の男性体であるシンジは、ヒカリを除いた女性体全員に孤軍奮闘したと言う訳である。
ヒカリは、カヲルを独り占めし、カヲルもヒカリを満足させるとシンジに迫ったと言う事だ。

はっきり言ってハーレム。
男なら涙する状況なのだろうが、お相手は淫魔と魔性の女神である。
通常の男なら10秒と持たないであろう。
これを幸せな状況と言って良いのかは、甚だ疑問であり、シンジが黄昏れている原因でもあった。

マユミの予定通り、淫魔の少女達を取り込む事は成功したのだろう。
幼い彼女達の心は純粋であった。
ただ、装置による恐怖で従わされていただけであったのだ。
自らを治癒し解放してくれたレイを母と慕い、マユミやカヲルを姉と慕い、自分達を嫌悪しないリリンであるヒカリに対し懐くのは当然の成り行きであった。

シンジは、そんな事は考えていなかったのだが、マユミの算段として、これで天使達に対抗する当面の戦力増強が行えた。
何れ魔界も参入してくるだろう。
彼らは、とても打算的である。
今回も味方をするとは限らないのだ。
リリスと仲が良かった者達がいきなり反旗を翻す事も無いとは思えるが、こちらもマユミの能力を以てしても先が見えない事に変わりはない。

マユミとして、自らの姉妹を救い自分達の戦力増強も計る一石二鳥の案であったのだ。
レイはそこまで打算的では無い。
寧ろシンジに何かあれば躊躇せず殲滅していたであろう。
しかし、彼女達に触れ元の偉大な母性が発露したのだ。
人と違うと言う事に以前の綾波レイの心情を重ねてしまったのかも知れない。

結果的に、シンジ達に取って最良の結果となったのは間違い無かった。

そこまで考えてシンジはベッドの上に横たわる裸体を優しげに見詰める。
その中でも一際異彩を放つ蒼銀の髪の少女の傍らに腰掛け、その頭を撫でた。
そして、何故か俯せで寝ているにも拘わらず眼鏡を付けている口元に黒子がある黒髪の少女の頭も撫でる。

この二人は、今ではシンジに取って掛替えのない半身である事を実感していた。



「さて、僕達の今後の方針としては、どうしたものかな?」

5人の新たな美少女を加え、カヲルは今後の事を纏めるべきだと切り出した。
天使達の本意も不明である。
老人達の切り札である少女達を引き込めたのは、かなり有利であろう。

枷の無くなった少女達は、躊躇なくこちら側に付く事となった。
元々、埋め込まれたチップで脅されていただけである。
それが無くなれば、自らの母や姉とも呼ぶべき存在に抗う理由は無い。

5人の生身の戦闘力は申し分無いだろう。
ともすればシンジ達の暗殺すら指令の中にあったぐらいだ。

カヲルとしては、脅威となりうる物が無くなったとも言える。
これで本格的に、天使達対応に打ち込めると言うものだ。

「・・・放っておけば良いわ」
「そうなのかい?」

「攻めて来るならとっくに攻めて来ているでしょう。某かの思惑は有るにせよ、今リリンを滅ぼそうと考えていないのは確かだと思われます」
「・・・彼女達は行き詰まったの」

「レイ様は理由が解っているのですか?」
「・・・私達は最初から解っていたわ」

「どう言う事だい?」
「生命の実を持つ彼女達は、新しい生命を育まない。穏やかな生活故に社会性が行き詰まったんじゃないかな?」

「そうですね。彼らの文明は古の文明に過ぎません。自らの強力な力と、永久的な生命。進歩と言う物から逸脱してしまったのかも知れません」
「それ故のリリンとの交流かい?」

カヲルの言葉にレイはコクリと頷いた。

「・・・魔族と呼ばれる天界の異端児達は、最初からそう考えてリリンと共にあったの」
「君もかい?」

「・・・そうよ」
「成る程ねぇ。じゃぁ純粋に文化交流を望んでいると考えて間違いないんだね?」

「・・・でも彼女達は傲慢」
「そうなのかい?」

「今はどう考えているか解りません。リリンと交流を持とうと言うのですから、某かの変化はあったのでしょう。でも彼らの戦闘力は、軽く一人でも一国を滅せます」
「気は抜けないと言う訳か。対抗しようにもエヴァはスクラップ状態だしねぇ」

「・・・問題ないわ」

レイは、紅茶を飲み干すと、シンジの横にピトッと纏わり付く。
天使の事など、交通事故のニュースぐらいにしか感じていない様子だ。

「解ったよ。でも赤木博士達とも、方針だけは摺り合わせておかないとね」
「それよりも、リツコさんなら天界への通路を開くかも知れませんね」

「そうなのかい?それは、是非お願いしたいね」
「・・・天界よりは魔界よ」

聴いていないようで聴いているレイに、苦笑するカヲルであった。



「さて、延び延びになっていた競技会の概要だけれど、これでどうかな?」

会議室にシンジ達5人とナオコ、リツコ、マヤ、冬月、そしてミサトとアスカが居た。
本来、階級的にミサトとアスカは出席出来ないのだが、プレゼンテーション担当として参加させている。
実際は、もう一つの目的のためだが、それは公にされていない。

カヲルの説明と配られた資料を見て会議の参加者が唸っていた。

競技会の概要は、
・1チーム5人
・基本は戦闘員3人、作戦指揮1人、分析要員1人だが、戦闘員の数や役割は強制では無い
(つまり5人共戦闘員でも1人だけ戦闘員でも構わないと言う事)
・予選としてNERVの用意した仮想使徒と対戦 ・全使徒を殲滅したグループ同士トーナメント戦 と簡単な物しか書かれていなかったのだ。

「チームは国毎とかにはしないのかね?」
「現状は特に考えていません。個人で出てくる程余力のある国も少ないと思いますので。まぁ参加状況により次回からそうなるかも知れませんね」

冬月の質問にカヲルは無難な回答を行う。
結局第三新東京市に来て疑似エントリーシステムを使わなければチームも組めないので、個人チームと言うのは少ないだろうと考えているのだ。

「NERVとしてチームは出すのかしら?」
「出す予定は無いよ。ただ、NERVの人間がチームを組んで出場する事に制限を設ける気もないけどね」

リツコの質問に対するカヲルの回答にアスカがニヤリとする。

「聞き方を変えるわ。シンジ君達は出場するつもりなのかしら?」
「僕達は出場するつもりは有りませんよ」
「どう言うつもりよ!」

リツコの質問に答えたシンジの回答にいきなりアスカが目の前の机を両手で叩き突っ掛る。
アスカに取って、シンジ達を叩きのめす事。
それだけが自分の方が優秀だと認めさせる唯一の手段だと思っており、それこそ自分の存在意義だと位置付けているのだ。
シンジの言葉は看過出来るものでは無かった。

「惣流君、落ち着いてくれないかい?まず、この競技会には、天使達が参加表明をしている事は既にご存知だと思います」
「天使達って使徒って事!」

説明を始めたカヲルの言葉を遮ったミサトに対し、カヲルはギロッと睨付けた。

「葛城曹長?惣流君は兎も角、貴女は作戦課長ではありませんでしたか?会議の場で一々感情に任せて叫くのは如何な物かと思いますが」
「うっさいわね!餓鬼が生言ってんじゃないわよ!さっさと説明しなさい!」

「その説明の邪魔をしているのが、貴女だと気がつかないのですか?それに貴女は使徒と呼ばれていた者がゼーレの造り出した生物兵器だとご存知だったはずですが」
「だから、それと同じ物かって聞いてるんでしょっ!つべこべ言わずにさっさと答えなさい!」

その言葉に呆れた顔をしてカヲルは保安部員を呼び出した。
扉から入ってくる黒服達。

「葛城曹長を上官侮辱罪で拘禁して下さい」
「「「はっ!」」」

「ちょっ!ちょっと離しなさい!こんな事して只で済むと思っているの!」
「葛城曹長?貴女こそ自らの身分と職分を理解なされていないのでは無いですか?使徒と天使とは全く別です。近々天使達がNERVに来ますが、その時までに頭を冷やしておいてください」

更に叫きながら会議室を連れ去られるミサト。
アスカですら、そんなミサトを白い眼で見ていた。

ナオコ達は既にミサトを見限っている。
何より、現時点の最高責任者はカヲルなのだ。
自分達が口を出さずともカヲルは滞りなく処理する。
それは解りきっている事であった。
理解していないのは、ミサトとアスカぐらいなものであろう。

「さて、天使達の目的は、彼女たちの言葉を信じるならリリン、人間達との共存です。そのアプローチのために競技会に参加すると言う事でした」

カヲルはそこまで話してアスカの顔を見る。
流石にアスカは、そこで喚き散らす事は行わず、しっかりと話を聞いている。
それを確認し、カヲルは言葉を続けた。

「彼女達がもし、優勝したならシンジ君達との模擬戦を予定しています」
「其奴らなら勝てるって言うの?」

「それは解りません。それまでに誰かに負ければ良し。最後のカードと言う訳です。切り札は多いに越した事はありませんからね」
「じゃぁアタシが優勝したら、其奴らと戦えるのね?」

そう言ってアスカはニヤリとする。
経過がどうであれシンジ達と戦えれば良いらしい。
自尊心の強いアスカは、ATフィールドさえ克服すればシンジ達に負けるはずは無いと思っているのだ。
アタシ達ではなくアタシと複数形でないところがなんともアスカらしい。

「そうなりますね」
「ならアタシは文句は無いわ」

ドッカと椅子に凭れるアスカ。
その後は、大きな反論も無く会議は終了し、競技会についてかなり詳細まで決定された。

会議が終了し、カヲルが5人の少女達を招き入れた。
何れも劣らぬ美少女達。

「彼女達に一人ずつ護衛に付いて貰う事にしました」
「「「え?」」」

アスカ以外の人間が叫声を上げたが、アスカはその5人を睨付けている。
いかにも強そうに見えないので、自分に対する監視だと考えたのだ。

「冬月さん、ナオコさん、リツコさん、マヤさん、そして惣流さんに一人ずつ付いて貰います」
「はん!そんな餓鬼の護衛なんて必要ないわよ」

少し考えれば解る事だが、アスカは最初に思い浮かんだ直感で拒否する。
冬月やナオコにも付けるのだから、その能力は保証されていると言う事だが、そんな事に気は回らない。
それよりも、四六時中付き纏われるに違いないと拒否する。

「そうかい?じゃぁ惣流さんは今まで通りで良いかい?」
「今までのも要らないぐらいよ!」

「解った、本人が要らないと言うなら仕方無いね。でも空港も出来た事だしどんな人間が入り込んで来るか解らないからね。今まで通りの護衛は付けさせて貰うよ」
「勝手にすれば」

「冬月さん達は宜しいですか?」
「あぁ、宜しくお願いするよ」
「「よろしくね」」

何故この5人なのか?
アスカは兎も角、他の4人さえ居ればNERVは稼働出来ると言う事である。
因みに内部評価は兎も角、外部から見ればアスカは唯一の現役エヴァパイロットだ。
アスカが狙われる可能性だけは、他の4人に匹敵するので、護衛を付けようと考えたのだが、本人が拒否するなら、幼い彼女達と上手く行く訳もないので、それは仕方ない。
カヲルは、この辺りはドライである。

アスカの護衛に付く予定だった、ナイはこっそりと安堵の息を漏らしていた。



「ところで、リツコ博士?天界との通路と言うか、魔界でも構わないんだけど、何か考えられるかい?」

アスカが退室した会議室で、解散しようとしていたリツコに向かってカヲルが切り出した。

「今のところは手掛かり無しね。それが解らない事には、向こうにイニシアティブがあるわね」
「イメージ的には多層世界。すぐ隣に彼女達は居るけども干渉しないと言うイメージです。通路は力場の関係でATフィールドなどの異相空間が近い物があります」

「理論的にはなんとなく理解出来るわ。でもね、どうやればその力場が通路になるか、向こうとの接点が見たことも無いために推論も立てられないのよ」
「では、彼女達が今度来た時に、それを条件に出してみましょう」

シンジの提案に、リツコ達は眼を見開いた。
リツコとナオコは「やっぱり血は争えないわね」とか失礼な事まで考えていたりする。

「それで教えて貰えるかね?」
「教えて貰う必要はありませんよ。連れて行って貰うんです」

そう言ってニヤリと笑うシンジに冬月も嫌な汗を久しぶりにかく事になった。
(碇に似てきたな)と思っていたが、流石に口には出さない。
シンジ達の前で、ゲンドウとユイの話はタブーなのだ。
別にシンジ達は、既になんとも思っていない。
ただ比べられたり、親子だとか言われると冷たい視線が返って来るのだ。

ゼーレの残党は、少女達の情報を加持に引き渡していた。
後は内調が、何かするだろう。
自らの諜報部を持たないNERVとしては、これで結果を聴くだけである。

相手は単なる年寄りだ。
リリン同士で殺し合えば良いと言うのが、シンジ達の考えなのである。
少女達にも自ら手を掛けるまでも無いと言ってあった。

それよりも、固まって身に掛る火の粉だけを祓っている方が楽なのだ。
ここ第三新東京市に居る限り、対リリンであれば、殆ど戦自が始末してくれる。
その網を潜って来た者だけを気を付ければ良い。

シンジ達が現在危険視しているのは天使達と、何れ来るであろう魔族であった。
それすらも、レイに取っては大した事が無いようである。



カツカツカツと薄暗い廊下にヒールの音が響く。

「ミサト?もう一度戦闘指揮を執ってみない?」
「どう言う事?」

鉄の扉越しに、赤の少女と赤の熟女が対峙している。

「天使達が競技会に参加するらしいわよ」
「仮想空間での戦闘?アタシだったら、その間に疑似エントリープラグを爆破するわ」

「仮想空間と言えども、それは使徒戦と変わらないわよ。下手に奴等の命を狙うより建設的じゃない?」
「なんか健康的過ぎる気がするけどね」

鉄の扉越しに、赤の少女と赤の熟女がニヤリとした笑みを交わす。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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