第拾九話
ワールドカップ?


本日、競技会の開始が世界的に報じられた。
内容は一月後である来月の一日までに第参から第壱拾六までの使徒を殲滅すればエントリー出来ると言う仕組みである。
つまり本戦は来月の一日から始まるのだ。
一月の間を置いたのは、遠方の参加者のためである。
国を上げて参加するにしても予算から人選からと考えると1〜2週間は掛るであろう。

仮想空間の使徒殲滅は、特に時間が掛る訳ではない。
一戦を終えれば、すぐにでも損傷の無い機体で次の使徒と対戦出来る。
一日一体としても、14体。
2週間あれば事足りる。

ナオコとリツコとマヤによりグレードアップされているMAGIは、数万人が同時稼働しても耐えられるようになっている。
グレードアップされたMAGIが元の発令所と第二発令所で並列稼働している事も大きい。

しかし予想に反して疑似エントリーシステムの稼働は、それ程でもなかった。
第三新東京市に元から居る人間は、第参使徒ですら5人掛かりでも勝つ事が出来ないのである。
それは、既に何度も行われている事であったため、再戦する者も少なかったのだ。
微弱なATフィールドだけでは、勝てないのである。

アスカがミサトを引き込んだのはこの為であった。
アスカ自身もATフィールドを張れる人間を懐柔した後、何度か使徒と対戦していたのだ。
しかし、微弱なATフィールドでは、使徒のATフィールドを中和する事もままならず、逆に自分達のATフィールドを中和してしまい、意味を成さなくなる事も屡々であった。

アスカは、ATフィールドを張れる人間を一人削ってでもミサトを引き込んだのは、戦闘に慣れていない自分以外の人間達に上手く自分を援護させる事と、戦略による使徒殲滅のためであったのだ。
そして、一月後の本戦までは、何度でも再戦出来る。
同じ使徒と何度も対戦すれば、仮にも作戦課長であるミサトであれば勝機を見出せるはずだと考えたのだ。
一月あれば行ける。
アスカは、現在の敵である仮想使徒にのみ焦点を当てていた。



アスカが使徒戦に注力している頃、NERVには再び天使達が訪れていた。
どうやって傍聴していたのか、全世界に向けて発進した競技会の開始を聞きつけて来たらしい。

「漸く始めたのだな」

サフラン色の髪をしたミカエルが口を開いた。
今回は事前に連絡があり、NERV側は万全の体勢で待ち受けている。

ナオコを始め、リツコ、マヤ、冬月と現NERVの実働部隊の長達に、カヲル、シンジ、レイ、マユミ、ヒカリと経営面でのトップ。
それに5人の少女達も同席していた。
つまり、NERVの主要人物全員である。

「遅くなって済まなかったねぇ。ところでこの計画でそちらに不都合は有るかい?何分、そちらとは連絡が取れなかったので勝手に決めさせて貰ったからねぇ」
「いや、全く不都合は無い」

「そうかい?それで、今回もそちらから一方的にやって来た訳だけれども、こちらかの連絡手段は無いのかい?」
「ふむ、そうだな。何れは融合する世界だから余り気に掛けていなかったが、不都合か?」

「そうだね、出来ればこちらからそちらにも行ってみたいのだけれど無理かい?」
「それは、今のところ無理だ。我々も今は思念体でしか来られない。同じ装置がこちらにあれば良いのだが、多分こちらでは機材から揃えられないだろう」

「君がそう言うのなら、そうなのだろうねぇ」
「そう、悲観するものでもない。我々の試算では、丁度本戦が始まる頃には実体の行き来が可能になるはずだ」

「それは朗報だねぇ。その時はこちらの者を招待してくれるのかい?」
「うむ、審議会に進言しておこう」

カヲルとミカエルの間ですんなりと話が進んでいく。
もっと難色を示されると思っていたのだが、天使達は自分達の世界との行き来をそれ程のイニシアティブと思っていないのかも知れない。
いや、何れ簡単に行き来出来るようになるのであろう。
ほんの短い時間、それを拒んでも詮無き事だと言う事らしい。

「君達は思念体で大丈夫なのかい?」
「それは心配無用だ」

「そうかい、じゃぁ本戦の時にはトーナメント方式となるから、対戦表等を造らなければ行けないので2〜3日前に来てくれるかい?」
「トーナメント方式とはどの様な物なのだ?」

「あぁ、それは」

カヲルは、徐に立ち上がり、ホワイトボードにトーナメント表を書いて説明した。

「成る程、一度負ければ終りと言う訳だな。しかも対戦相手はその時になるまで解らないのか」
「君達なら大した話では無いだろう?」

「うむ、大体の事は解った」
「それでは、後は本戦前に」

思いの外スムーズに話が進んだ天使達の訪問であった。



戦略自衛隊の方では、上層部がかなり慌ただしくなっていた。
様子見にマナ達に偵察に行かせ、その報告書を読んだ直属の上司は相手にもしなかったのだが、書類自体は上に上げなければいけない。
内容の荒唐無稽さに、所詮高校生に偵察させてもこの程度なのだと言うつもりで上げたのだが、上層部は違った。

一応、NERVの保安部隊として戦略自衛隊は派遣されている。
その中には当然、本来の意味での調査員も潜り込んでいるのだ。
そして、未だに公開されない情報を手に入れようとしている。

マナ達は、シンジ達と食事を共にする事により、かなり正確な情報を仕入れる事が出来たのだが、如何せん文章力の欠如により、直属の上官には荒唐無稽の幻想と取られたのだ。
しかし、かなりな部分を掴んでいる上層部は、その情報の正確さに驚愕せざるを得なかった。
長年の猛者を送り込んで漸く得られた情報が、たった16歳程度の子供に1日で手に入れられたのだ。

そして、マナ達3人は東部方面司令室に呼び出されていた。

「成る程、君達は、渚カヲルや碇シンジ達と直接会って話をする機会を得、これらの情報を直接本人達の口から聞いたと言うわけだね?」
「はい!その通りです!」

肩章がやたらと目立ち、賞詞の数も半端では無い物腰の柔らかい人物が、正面の席に座ったままマナ達に話し掛けた。
あまりの階級の差にマナ達は緊張している。
傍らには秘書なのだろうか、若い女性士官が一回り程小さい執務机に向かって端末を操作していた。

会話に関係なく書類を作っているのか、若しくはこの会話の記録を取っているのだろう。
その流れるようなキーを打ち込む音は、途絶える事がない。


「使徒とは違う、紛れもない天使達の競技会への参加。この競技会が今後の世界の在り方すら左右する・・・か。俄に信じられない話なのだが、これもその彼らが語ったと言うのかね?」
「はい!それは山岸マユミと言う人物が、そのように言っておりました」

この報告書の絞めが、直属の上官を相手にさせなかった一文である。
仮に本当にシンジ達と接触し、彼らが語ったとしても担がれた情報だと判断してしまったのだ。
一つの文が信用出来なければ、他の文も疑問に感じてしまう。
結果、マナ達直属の上官は、作り話を聞かされて帰って来たのだと判断したのである。
一般的な常識を持ってる大人の判断としては、正しい判断だろう。
しかし、裏を取らずに判断してしまったのは軽率であったようだ。
それでも、原文をきちんと提出したのだから、仕事に対しては実直と言える。

「山岸マユミ・・・元フォースチルドレン。碇シンジ、綾波レイと常に行動を共にし、自らを彼らの奴隷と言って憚らない風変わりな少女・・・か。これが最近の若い娘の感覚なのかね?」
「それは私には解りかねます」

「そうだったな。すまん。忘れてくれ」

東部方面司令は自らの失言に気が付いた。
彼女達が少年兵として幼い頃から過酷な訓練を受けており、一般の年頃の感覚など、周りの大人達が打ち砕いていたのだ。
最近の若い娘の感覚など解ろうはずもない。

「しかし、セカンドチルドレンを除く元チルドレンは全員NERVの外交部門に所属。渚カヲルと共にその手腕を発揮していると報告されている。その中でも、なにもかも見透かしたような情報量を持っているとされる山岸マユミがそう言ったと言うなら、強ち眉唾ものとも言えないな」

独り言とも言える司令の言葉を聞いてマナ達は、そんなに凄い人には見えなかったけどなどと失礼な事を思い浮かべていた。
何しろ、ミニのメイド服に首輪のようなチョーカーを付けて、眼鏡と口元の黒子が妙に艶っぽい姿がその脳裏に焼き付いているのだ。
ケイタなど、気を抜くと鼻血を吹き出してしまいそうであった。

「状況は解った。君達の実力は兎も角、その強運と強運で掴んだ繋ぎを使わない手は無い。従って君達には、競技会への参加とNERV経営陣への接触を命じる」
「「はいっ!了解しました」」
「接触だけでしょうか?」

勢いよく返事をしたマナとムサシとは別にケイタが質問する。
本来、任務と言うなら組織に対しての諜報活動とか、何々を調べろと言う具体的なものになるはずなのだ。
単に接触だけでは、何をして良いのか解らないと言うのがケイタの正直な気持ちだった。
しかし、藪を突くなとばかりにマナの肘鉄が入る。

「その通りだ。今はコネクションを太くする事を考えてくれれば良い。そのうちそのコネクションを使う日が来る」
「了解しました!」

と言うような遣り取りがあり、マナ達は第三新東京市に住居を用意された。
3人で同じ部屋ではなく、一人一人にワンルームマンションである。

準備金も今まで見たこともない額を渡され、マナは上機嫌であった。
マナが見たことないだけで、一人暮らしを準備するには、ちょっとだけ多いぐらいの額だったのであるが。

学校は週3日、第三新東京市から通う事となった。
流石に学業を停止するのは、まずかったらしい。
と言う事で月水金は、学校、後は第三新東京市で競技会へ参加と言うのがマナ達の任務であった。
それとシンジ達への接触。
マナ達は、任務と言う名の元での処遇であったが、漸く人間らしい生活を手に入れる事が出来た。



「サイヤァー、セタメーソ、サイヤァー、フセェー」

右手の人差し指と中指を伸ばし、天を差すような姿勢を取った少女の透き通るような声が歌うように響く。
背後にマヤを庇い、緑の長い髪とエメラルドの瞳を持った少女は、怪しい黒人集団と対峙していた。訳の解らない言葉と共に少女ハスターの周りに風の壁が纏われる。


「何のおまじないだ?それは」

流暢な日本語で蔑む黒人の大男。
マヤとハスターが遭遇するのは初めてだが、ナオコやリツコも今月に入って数回襲われているらしい。
国際空港が出来たせいで第三新東京市は、日本でありながら多種多様の民族が溢れていた。
それに伴い、今までは目立つために隠密行動しか出来なかった組織、主に中東や南米の組織が表立って行動を始めたのだ。

ナイ達は、その名前と本人達の本質とは、関係が無い。
しかし、彼女達の力もまたATフィールドと同じように心の形がそのまま力となる。
未だ幼い彼女達は、更に幼い時から植え付けられた名前の意味と言うものが、自らの力と大きく結びついていたのだ。

「我が名はハスター。全ての風を統べる者」

そして言葉による内なる力の解放についてマユミからレクチャーを受けていた。
一般的に自己暗示と言われるものに近い。
言霊と言われるものだ。
言葉にする事により、それが曖昧な力をより具体的な力へと導いていく。

意味のない言葉に聞こえる呪文は一種のキーワードだ。
それを唱える事により自らのスイッチを入れるのである。

余談であるが、ハスターのこの力は仮想空間ではATフィールドで実現され、第五使徒の加粒子砲さえ防いだ。
つまり、少女達5人は既に第壱拾六使徒まで倒しており、トーナメントへのエントリー一番乗りであったのだ。
【アザトース】それが彼女達のチーム名である。

彼女達が未だ幼いため、体力的な問題から時間的制限があるが、それでも鉄壁の守りである。
そして彼女達は傲らない。
自らの未熟さを知っているが故に手を抜かない。

10人近く居た黒人集団は、自分達が死んだ事も気付かないうちに細切れにされ、風に飛ばされて居た。
相手が力を見せる余裕など与えない。
第一優先。
それはマヤを護る事。
ハスターはそれを忠実にこなした。

彼女をマヤに付けたのは正解であっただろう。
死体どころか返り血すら浴びないでハスターは敵を始末する。
周りで見ている者は、一瞬で消滅したようにしか見えないのであった。



驚いた事に、トーナメントへのエントリーは続々と行われていた。
チーム名【エンジェルズ】。
なんの捻りもないが天使達のチームである。
その他にも、【崑崙】【ヴァルキリー】【オリンポス】【パンデモニウム】などが名乗りを上げている。

因みにマナ達のチーム名は【トライデント】。
ネーミングセンスは、無かったようである。

そして、その速報を聞いて焦っている者が居た。
惣流=アスカ=ラングレーその人である。

「ミサト!あれなんとかならないの?!」
「う〜ん。攻守ほぼパーペキ、まさに空中要塞よ。何か超長距離で攻撃出来るような武器でもあれば良いんだけど・・・」

アスカ達は、第五使徒を攻略出来ないで居たのだ。
今回は仮想空間のため、エヴァが敗退すればそれで終了である。
その後に敵の偵察などは出来ない。
何度かエヴァ本体で戦闘を繰り返した結果のミサトの言葉であった。

当然だが、ミサトは最初エヴァ全機を射出して、全機加粒子砲に撃ち抜かれている。
その後、兵装ビルなどを使用し弾幕を張った状態で射出したりしているが、アスカ達は近付く事さえ出来ずにいたのだ。
実は、第参使徒戦では、マコトとシンジの作戦を取り楽勝したためアスカから見直され、アスカに無理矢理引きずられている他の3人をも安堵させていた。

しかし、その後は行き当たりばったり、第四使徒戦では、辛勝、そして今に至るのである。
それでも初戦の事があり、アスカはミサトが何か作戦を考えてくれると期待していた。

何回目か解らない今回の出撃では、3人にポジトロンライフルを持たせ、アスカが隙を見て接近戦と言う、それらしい作戦で挑んだのだが、アスカは第五使徒のATフィールドを突破出来ず、結局ジリ貧で敗退したのだ。

「無い物強請りしても仕方ないでしょ!今ある物でなんとかしなさいよ!全く!もうトーナメントに何組もエントリーしてるって言うじゃない!あんた作戦課長でしょ!なんとかしなさいよ!」
「だってATフィールド中和出来ないと、どうしようもないじゃない」

「なんですってぇ!アタシが悪いって言うの?!」
「まぁ今日は、もう帰って休みなさい。私はデータを見て作戦を考えておくから」

「今度は勝てる作戦をちゃんと考えてよね!」
「はいはい」

ミサトもカチンと来ていたが、流石に切れる事は無かった。
それは、自ら信じていた能力に疑問を持ち始めていたからだ。
少なくとも、既に何組かトーナメントにエントリーしている事は、当然ミサトの耳にも入っている。
名前だけと言ってもNERVの作戦課長なのだ。
情報は入って来る。
しかし、他のチームの戦闘記録は見られなかった。

つまり、ミサトは何度かカンニングを試みたのである。
そして、それが出来なくて、そんな物は自分には必要ないと思ってみた物の現実的にミサトは勝てていないのだ。
ミサトは、仮想空間で現れる使徒が、マユミの情報からの実際に現れた使徒だとは知らない。
だから、「あんな理不尽な物を考える奴の気が知れないわ、きっとリツコね」とリツコを恨めしく思っていた。

だが、実際に突破したチームが存在する事は、ミサトに酷い劣等感を起こさせてていたのだ。
今、ミサトはなんとか他のチームの戦闘記録を見ようと、自らの情報と能力を全てMAGIへのハッキングへ向けていた。
自分の男から得た物も総動員し、端末に向かうミサト。
それを行ってしまえば、後は堕ちるだけだと知らずに。

一度禁忌を犯した人間は、その甘美な誘惑に逆らえず同じ事を繰り返す。
これで攻略法を手に入れたなら、再び困った時に同じ様に攻略法を得るだろう。
それは、ミサト本来の能力をスポイルしていく。
自ら考える事を放棄し、他人の考えた物で済ます事は、自らの成長すら止めてしまう。
そして、咄嗟の判断など出来なくなって行くだろう。

照明の落とされた暗い部屋、モニターの明りだけが煌々と照らされる机でミサトはニヤリと唇を歪めていた。



マナ達のチームには戦自の若い作戦指揮官と参謀が付いていた。

「本郷タケシだ」
「一文字ハヤト」

「霧島マナです!」
「ムサシ=リー=ストラスバーグ」
「浅利ケイタです」

3人対2人は、お互いに敬礼し自己紹介を行う。

「俺は、東部方面隊第一空挺団特科大隊所属だ」
「私は、防衛庁直轄情報処理諜報部の者だ」

「情報処理諜報部?」

マナ達は、最初に所属を述べたタケシとは違い、聞いた事もないような部署に首を傾げた。

「あぁ、一般には余り知られていない部署だ。今回の戦闘は仮想空間と言う事で情報収集解析のために私が派遣された」
「そして俺が、実際の指揮を執る」

「何故、空挺特科が?」

これはケイタの疑問である。
特科とは所謂、大砲部隊。
その昔は戦場の女神とまで言われた長距離砲撃部隊だが、空挺部隊におけるそれは少々異質だ。
何しろ、戦場の真ん中に大砲と人員をパラシュートで投下する部隊なのだ。

「まぁエヴァとか言う兵器を使用するからかな?俺も詳しい事は、よく解らない。上からの命令・・・と言ってしまえば実も蓋もないがな」
「志願したと正直に言えば良いだろ?」

「ぐっ、ハヤト・・・」

どうやらこの二人は旧知の仲らしい。

「聞いてるぜ。団長を脅したんだって?まぁあそこの団長も面白い人間だからな」
「おぃおぃ、人聞きの悪い事を言うな。俺は空挺は最初か最後に出るもの、今を逃せば出る幕が無くなるかも知れないって言っただけだぜ?」

「それは戦争の話だろ?これは戦争とは違うぞ?」
「そんな事言うなら、お前だって統幕を脅したって聞いたぞ?」

「当たり前だろ?今をときめくNERVのMAGIに直接アクセス出来るんだ。この機会を逃してどうする」

マナ達をそっちのけで漫才のような話を繰り広げる二人。
どうやらハヤトの方が口では上のようだ。
マナ達は、これで大丈夫かと不安に駆られていた。

しかし、マナ達の不安を余所に、チームトライデントは順調に勝ち進んで行った。
ハヤトの的確な情報収集と分析。
そして剛胆と言えるタケシの作戦指揮。
チームトライデントは、マナのATフィールドに頼らず、戦略により確実に使徒を殲滅していった。

このチームが、最も軍隊らしい戦術を取ったと言える。
他のチームは多かれ少なかれ、チーム内に居るATフィールドの強い者が中心となり、使徒を殲滅していったのに対し、このチームは周りの兵装ビルを有効に使い、使徒の力を削いで倒すと言う方法を確実に執っていたのだ。

このチームの戦術がミサトの眼に止まる。
ミサトのチームは、強力なATフィールドを張れる者が居なかったからだ。
従って、ATフィールドに頼らない戦術は、ミサトのチームに取って都合が良かった。

結局、ミサト達はマナ達の戦術をなぞるように勝ち上がっていく。
チーム【トゥルーエヴァ】
アスカに言わせれば【真のエヴァ】と言う事であろう。

マナのチームのお陰で、それをカンニングしているミサトの指揮により、苦もなく使徒に勝ち進んで行けるようになったアスカは上機嫌である。

「流石、ミサトね」
「そう?へへへ」

アスカが機嫌が良いために、他の3人は八つ当たりを受けなくてホッとしている。
そしてアスカは、ミサトが戦術を盗んで居る事を知らない。

その報いは、トーナメント初戦で受ける事となる。
この事に関してアスカに非は無いのだが、自らがエースだと自負しているにしては自堕落な生活に身を落とし、訓練を行わなかったり、見ようと思えば見える物を見なかったツケと言えば自業自得と言っても差し支えないだろう。



「へぇ、アスカ達も使徒に勝ったんだ」

シンジは、リツコに差し出されたトーナメントエントリー状況を見てそう呟いた。

「一応使徒戦には勝ったのだけれど、少し問題があるのよ」

それを持ってきたリツコが溜息混じりに仄めかす。
実は、シンジ達はミサトが何をしてアスカ達が使徒戦に勝ってこれたのかを知っていた。
マユミが居るから当然なのだが、取り敢ずシンジ達は傍観を決め込んでいる。

トーナメントには、ナイ達も出るし天使達も居る。
そんなカンニング紛いの戦術では、勝ち上がる事は不可能なのだ。
しかし、わざわざそれを持ってきたリツコに対し、その事なのだろうと当りを付けたシンジの発言であった。

「どのような?」
「アスカ達の少し前にエントリーしているトライデントって言うチームがあるでしょ?それと戦術が全く同じなのよ」

トーナメントへエントリーするための使徒戦は、普段の仮想空間と別な空間で行われる。
普段は、疑似エントリーを行った全員が同じ仮想空間に入るのだが、使徒戦がメインであるため、他の参加者とは隔離するためである。
使徒にはそれぞれ攻略法がある。
それを全員が知ってしまえば、今回の予選の意味がなくなる。
従って、トーナメントエントリーのための使徒戦は、それを行った者以外には見られないようになっていた。

しかし、これも今回限りの事である。
使徒など、攻略法を見付けてしまえばゲームと変わらない。
誰も彼もが参加すると収拾が付かなくなるために考えた、今回限りの振いでしかなかった。
今回で参加単位が解れば、次回から各国のMAGIコピーを稼働させ、予選を行ってから、ここ第三新東京市で本戦を行う手はずだ。

「つまり、カンニングを行ったと?」
「えぇ、それもMAGIにハッキングを行ってね」

リツコの懸念は2つである。
まずカンニングであるが、こちらは公に行ってはいけないと唱っていない。
しかし、今現在では敵に塩を送るような輩は居ないだろう。
即ち隔離した空間で予選を行っている以上、攻略法が漏れる確率は低いのだ。

もう一つはMAGIへのハッキングである。
これはNERVの要職としては処罰せずに放置と言うのは、あまりに不味い問題である。
そして、どちらもNERVの作戦課長が行ったとあれば、恥っ晒し以外の何者でもない。

「かと言って、彼女達を今処分して競技会に出られなくすると、アスカ君は『自分に敵わないから逃げた』とか言い出しかねないと言うところかい?」
「全くその通りよ」

カヲルの状況分析に、大きく頷くリツコ。
実は、リツコとしてミサトは兎も角アスカの処遇は、頭が痛いところなのだ。
大卒を理由にもっと勉強してくれれば、技術部に所属させる事も出来た。
しかし、今のままでは到底無理な話である。

かといって今NERVを放逐すると、アスカには行き場所が無いのである。
それよりもエヴァパイロットとしてどこかの組織にすかさず誘拐され、モルモットにされるのが目に見えているのだ。
アスカは、そんな自分の境遇すら理解していなかった。

「まぁカンニングについては、良いでしょう。どうせ次からは皆知る事になる。問題はハッキングと言うよりそれを行う意識ですね。これはどうしようも有りません」
「つまり、葛城さんには辞めて貰うと?」

「いや、作戦課長を降りて貰う。アスカ達が敗戦した事を理由にすれば彼女も抗えないでしょう。NERVの作戦課長がエヴァのパイロットを使って負けた。これは当然責任問題でしょう?」
「そうね、じゃぁ第一戦にチームトライデントと当てる?」

ニヤリと笑いながら言うリツコ。
かなり意地が悪い。

「別に何処でも構いません。そんな事に手を煩わす必要はありませんよ。それより葛城さんの配属先と処遇の方をお願いします」
「あら?それは経営陣の仕事じゃない?」

「心配になってわざわざこちらまで来たんだから、最後まで責任を持ってくださいよ」
「はいはい、全くなんでもお見通しなんだから」

リツコはチュッとシンジに投げキスをするとくるりと白衣を翻し部屋を後にした。
ミサトが既に小皺が目立つようになってきたのに対し、リツコは若返っているとさえ言える。
マユミ達の影響もあるが、根本的に仕事にも私生活にも充実しているのが大きな理由だろう。



競技場を模した特設会場に、満員の観客の声援の中、競技会出場者達が行進している。

結局本戦にエントリーしたのは8チームであった。
何れは国単位ぐらいには、なるだろうと思われるが、流石にこれでは少な過ぎる。
全部で6戦で終了だ。

経営陣のトップであるカヲルは少々頭が痛かった。
少なくとも14戦、上手くすれば30戦を見込んでいたのだ。

「リーグ戦にすべきだったねぇ」
「結果論だろ?来年に期待しようよ」

つまり興行収入が大幅に下降修正なのである。
1戦辺り1万人の収容を見込んでいたので、この差は大きい。
単純計算で8万人分、少なく見積もっても約4億円の収益減である。
現地に訪れる交通機関や、そのための宿泊施設などを累積すると数十億の見込み減であろう。

そんな経営陣の憂いとは裏腹に、颯爽とエントリーチームは行進していた。
その一角を見てレイが眉を顰める。

「あらあら、チームパンデモニウムですか。まぁ予想出来た事ではありますね」

そんなマユミの言葉に応えるかのようにチームパンデモニウムの最後尾に居た緑の髪の少女がこちらに向かって手を振っている。
特設会場の更に最上段に位置するこの席が、行進している人間に見える訳はない。

「・・・ビレトね」
「間違いありません」

言葉とは裏腹にレイも手を振り替えしていた。

「これは、ナイ達も勝ち残れるか危ういかな?」
「そうですね。後、チーム崑崙。彼らは所謂仙人ですね」

「浮き世を離れたはずの仙人が何故?」
「申し訳ありません。彼らの行動も私には計り知れませんので」

「そろそろ開幕の挨拶だね。僕は行ってくるよ」
「うん、気を付けてね」

「ありがとう、やはりシンジ君は優しいね」
「やっぱり僕達も一緒に行こうか?」

「それには及ばないよ。下にはナイ達も居る。ここでいきなり僕をどうこうしようと言う輩は居ないと思うよ?」
「うん、マユミも大丈夫だって言ってるから大丈夫だとは思っているんだけどね」

「フフフ。じゃぁ行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ」
「気を付けて」

マユミとヒカリに見送られカヲルは下へと降りて行った。

「・・・何か心配?」
「いや、なんか落ち着かなくて」

シンジの言葉にレイは、ふわりとシンジを抱締める。

「多分、娘の運動会を見る父親の心境だと思いますわ」
「父親?」

「はい、シンジ様はナイ達の父親代わりと言うより父親そのものですから」
「ぼ、僕は娘と・・・って事?」

「あら?私も厳密に言えばシンジ様の娘ですが?」
「ま、マユミィ〜」

「・・・問題ないわ」

レイに抱えられていた頭をレイの方に向けると、優しい笑みを以てシンジを見詰めている。
その手は、シンジの髪の毛を梳くように撫でていた。

「そ、そうかな?」

心地良さにそう言ってしまったシンジをヒカリとマユミは微笑んで見ていた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。
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