魔法先生……? ネギ魔!
 
 
書いた人:U16
 
第12話
 
 第七試合開始前、大会側の意向で、明日菜と刹那には着替えが命じられていた。
 
 これは特に売りのない二人に対し、どうにか試合を盛り上げようとする大会側の苦肉の策だ。
 
 その更衣室において、先程の試合に関し明日菜が愚痴を零していた。
 
「それにしても、やり過ぎよ……! ネギの奴、高畑先生に何かあったら、どうするつもりなのよ!?」
 
「いや、その……、お互い真剣勝負でしたし」
 
「それでもよ――!」
 
 感情を制御しきれない明日菜は暫し考えた挙げ句、
 
「……よーし、こうなったら、私このままトーナメントを勝ち上がって、あのバカをギャフンって言わせてやるわ!」
 
 拳を握りしめ、
 
「高畑先生の敵討ちよ――!!」
 
「い、いえ……、流石にそれは無理なのでは?」
 
 何しろ、この試合、万が一刹那に勝てたとしても、後に控えるのはエヴァンジェリンかネカネである。
 
 下手な真似をすれば、その時点で人生が終わりを迎えかねない。
 
 しかし、ヒートアップした明日菜は刹那の話しなど聞いてなく、
 
「だからって刹那さん、試合では手ぇ抜かないでね! 本気でやってもらわないと、私、怒るよ!?」
 
 そこには純粋に試合を楽しもうとする感情だけが見れる。
 
 だからこそ刹那も躊躇い無く頷き、
 
「……分かりました、全力でお相手させて頂きます」
 
 ――そして舞台の修復も終了し、第七試合が開始される。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 舞台脇に登場した可愛らしいメイド服姿の少女二人に観客席の男性客達から歓声が挙がる。
 
 自分達の格好に対し、明日菜と刹那は朝倉に抗議するが、それは受け入れられる事無く、そのまま試合を行う事にあいなった。
 
 何としても勝ってネギをぶっ飛ばすと息巻く明日菜だが、大方の予想は刹那有利のままだ。
 
 別荘での特訓で、大分咸卦法を制御出来るようになってきたとはいえ、それでもまだ純粋な剣技では刹那には遠く及ばない。
 
 仲間達の予想も、刹那有利というのが大半だ。
 
「つーか、気を使わないような戦闘なら、神楽坂の完全魔法無効化能力って意味ねえしなぁ……」
 
 とはいえ、魔法主体で戦闘を行うネギであっても、既に対明日菜用の攻略法を確立しているので、余り脅威とは思っていない。
 
「そうやって、余裕でいられるのも今の内だけよ! 絶対に高畑先生の仇は討つんだから!!」
 
「……お前、対戦表見てねえのか? もし万が一、仮に桜咲に勝てたとしても、次はエヴァか姉ちゃんだぞ?
 
 ――ぶっちゃけ、勝算なんてコレっくらいもありゃしねえ」
 
 親指と人差し指で極々微小な隙間を作り、明日菜に説明するネギ。
 
「何よそれ!? 1mmも空いてないじゃない!?」
 
「実際、お前の勝率なんて、そんなもんだ」
 
 言って、ネギは溜息を吐き出し、
 
「桜咲、……この馬鹿に現実の厳しさってヤツを教えてやってくれ」
 
「い、いえ……、ですがアスナさんもかなり強くなってきてますから、完勝は難しいと思うのですが」
 
 気弱な発言をする刹那。
 
「あのなー……、お前がそんなんでどうすんだよ? コイツが何かの冗談でお前に勝ってみろ? 次の試合で確実に殺されるぞ?」
 
 ネギの発言が安易に予想出来るのは何故だろう?
 
 思わず言葉に詰まる刹那にネギが悪魔の如く囁きかける。
 
「ここは、親友として神楽坂の暴走を停めてやるのが、お前の役割なんじゃねえのか?」
 
 ……あ、アスナさんにもしもの事があれば、お嬢様が悲しむ。――確かに、ネギ先生の言うとおりかも。
 
「だから……、な。全力で潰せ」
 
「は、はい!」
 
 ……洗脳完了。
 
 刹那の返事を聞き、ネギは密かにほくそ笑む。
 
 実際の所、ネギとしては明日菜よりは刹那の方が与し易い。
 
 強さという点では刹那の方が上だが、彼女には分かりやすい弱点があるし、魔法も通じる。
 
 ……その為の仕込みも終わってるしな。
 
 後は、刹那が勝利し、エヴァンジェリンとネカネが潰しあってくれる事を待つだけ。
 
 どちらが勝ち上がってこようとも、相当消耗しているであろうし、全力の刹那なら勝てないまでも更に弱らせる事が出来る筈だ。
 
 ……これで一千万とは、楽なもんだぜ!
 
 最大の難関であるタカミチ戦は勝ち抜いた。……後は刹那が妙な仏心を出して明日菜に勝ちを譲らないかが心配だったが、これでこっちの方も大丈夫だろう。 
 
「くっくっくっくっくっ――」
 
 およそ主人公らしくない笑いを浮かべながら、ネギは選手席で試合の開始を待つ。
 
 しかし、そんな彼に話し掛ける人影があった。
 
「ふふふ、そう上手くいくでしょうか?」
 
 まったく気配を感じさせない所から聞こえてきた声。
 
 ネギは動揺を押し隠しながらも平然とした態度で振り返る事無く、声を掛けてきた人物――、クウネル・サンダースに問い返す。
 
「……どういう意味だ?」
 
「いえいえ、彼女の力を甘く見ているのではないですか?」
 
 問われたネギは小首を傾げ、
 
「そうか? 身体能力は五分……、いや神楽坂の方が高いくらいだけど、剣技や実戦経験で圧倒的に桜咲の方が上回ってるぞ?」
 
「そうですか? ……では、見てみる事にしましょうか」
 
 そう告げ、クウネルはネギの傍らで観戦を決め込む事にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『それでは皆様、長らくお待たせ致しました! これより第七試合を開始します!!』
 
 舞台上で対峙する刹那と明日菜。
 
『“麻帆中3−Aのバカレッド”! 神楽坂・明日菜選手対、“剣道部所属、秘密のままで終わるであろう秘密兵器”、桜咲選手! さあ、一体どのような試合を見せてくれるのか!?
 
 第七試合――、Fight!!』
 
 朝倉の声と共に、刹那が仕掛けた。
 
 瞬動で一気に近づき、明日菜にモップの一撃を加えようとするものの、彼女には刹那の動きがしっかりと見えており、更に咸卦法で強化された身体はそれにしっかりと対応する事が出来る。
 
 ハリセンでモップを受け止め、蹴りを返す。
 
 対する刹那も、明日菜の蹴りよりも速く後退し体勢を立て直そうとするも、今度は明日菜が攻勢に出た。
 
 踏み込み、ハリセンを横薙ぎに薙ぎ払う。
 
 屈んで回避する刹那は起き上がりざまにモップを跳ね上げるが、それは明日菜のハリセンに阻まれてしまい、牽制に気を飛ばす。
 
 ――神鳴流奥義・斬空掌・散!
 
 狙うは明日菜本人ではなく、床を狙って木片と粉塵を目眩ましに再接敵し、モップの一撃で決める。
 
 だが、それは思いもよらない方法で弾かれる事になった。
 
 明日菜の足下から噴出した咸卦の気が、まるで壁のようにそそり立ち刹那の攻撃を阻んだ。
 
「こ、これは……!?」
 
「何だ、ありゃ!?」
 
 驚愕の声を挙げる刹那と選手席のネギ達。
 
 その声に答えるように、明日菜は口を開く。
 
「――咸卦法・弐式・“弾”」
 
「に、弐式……?」
 
 咸卦法使いの数が圧倒的に少ないのと、基本技の壱式・“剛”。――身体能力を大幅に向上させる技と他の流派の技を組み合わせただけでも大半の敵を倒せてしまうため、余り知られてはいないが、咸卦法には幾つかの技法が存在する。
 
 タカミチはそれをガトウから教えられる前に彼と別れざるをえなかったが、
 
「……どうやらアスナさんは、どこからかその方法を入手したようですね」
 
「入手って、そんな知識アイツにゃ――、ッ!?」
 
 言って気付く。身近に居るのだ。あらゆる知識に精通するアーティファクトを有する人物が。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「まあ、エヴァンジェリンさんの特訓で気と魔力の効率的運用を身に着けていなければ、修得は到底無理だったわけですが……」
 
 そう告げるのは、ネギの弟子の一人、綾瀬・夕映だ。
 
「この間から、二人で何かやってたと思ったら、コレかぁー」
 
「はいです。――修得まで漕ぎ着けたのは参式までで、それもまだ未完成の為、一度使用すると身体に纏った咸卦の気を全て使い尽くしてしまい、再チャージしなければなりませんが……」
 
 ともあれ、
 
「これで、面白くなってきたんじゃない?」
 
「二人共、怪我せぇへんかったら、えぇねんけど……」
 
 心配そうに木乃香が見つめる舞台上の二人。
 
 彼女達の表情は笑っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……凄い。まさか、アスナさんがこれほどまでに成長していようとは。
 
 知らずに零れる笑みに気付かず、刹那は次々と攻撃を仕掛ける。
 
 薙ぎ払い、突き、打ち下ろされるモップを明日菜はハリセンで受け、いなし、躱す。
 
 ……やっぱり、刹那さん強い! ――でも、楽しい!
 
 まるでダンスを踊るように舞台上を跳ね、滑り、走り周りながら剣戟を応酬する二人の少女に観客からは惜しみない声援が送られる。
 
「……綾瀬の野郎」
 
 見ているネギの口元にも笑みがある。
 
 明日菜の力をここまで引き出せたのは、勿論本人の努力というのも大きいだろうが、夕映の助力があってこそだ。
 
 ……味方だと最高のアドバイザーだが、敵にまわすと最高に厄介なタイプだな。
 
「どうやらアスナさんは、良い友人達に恵まれているようですね」
 
 ……私が手を貸す必要も無さそうですか。
 
「まあ、それにゃあ同意する――。何奴も此奴もお節介な事この上ねぇ」
 
 苦笑を浮かべて告げるネギ。
 
 そんな彼の視線の先、試合の方も時間が押し迫りクライマックスに突入しようとしていた。
 
 距離を置き対峙する二人。
 
 まず動いたのは明日菜だ。
 
 彼女は手にしたハリセンを投げ捨てると、腰溜めに拳を構え、
 
「……征くよ? 刹那さん」
 
 対する刹那はモップを上段に構えて、
 
「受けてたちましょう」
 
 僅かな間……、そして両者は同時に床を蹴る。
 
 咸卦の気を拳に集約――、
 
「咸卦法! 参式! ――“圧”ッ!!」
 
「――神鳴流奥義! 斬岩剣!!」
 
 拳とモップが激突!
 
 気で強化された筈のモップが咸卦の気を受け、粉々に砕ける。
 
 否、砕けたのはモップだけではない。それまで刹那が居た筈の場所は、直径3m程のクレーターと化していた。
 
「……やった?」
 
 構えを解き、安堵の吐息を吐き出した明日菜の背後に突如刹那の姿が現れる。
 
「……残心がなっていませんよ? アスナさん」
 
 慌てて振り返る明日菜を迎えてくれたのは、彼女の顔を挟むようにして差し出された刹那の両足。
 
 そのまま引っこ抜かれるように投げ飛ばされ、
 
 ――神鳴流・浮雲・桜散華!
 
 空中で、二転、三転して、そのまま舞台に叩きつけられる。
 
 “圧”を使用した反動で、咸卦法の解けていた明日菜にその衝撃はとても耐えられるようなものではなく、そのまま意識を手放してしまう。
 
 明日菜の気絶を確認した朝倉は、大きく息を吸って、
 
『神楽坂選手の気絶により、この勝負、桜咲選手の勝利です!!』
 
 刹那の勝利を宣言。
 
 途端に巻き起こる大歓声と盛大な拍手。
 
 そこで目を覚ました明日菜は己の敗北を自覚し、
 
「あー……、負けちゃったのか」
 
「いえ、それでも見事でしたアスナさん」
 
 刹那が差し伸べる手を取って立ち上がる。
 
「貴女はまだまだ強くなる。――それは私が保証します。
 
 ……どうでしょう? アスナさんが望むなら、今後も修行に付き合わせて頂きますが?」
 
 握手を求め、差し出された刹那の手を、明日菜は躊躇い無く取り、
 
「うん、――今後ともよろしく、師匠」
 
「――はい」
 
 その光景に、一際大きな拍手が送られる中、少女達は舞台から退場する。
 
 それを見たネギは、大きく残念そうな溜息を吐き出し、
 
「あーぁ……」
 
 しかし、すぐに気を取り直して、
 
「――計画通り!」
 
 ガッツポーズを取るが、すでに手遅れ。
 
 先の溜息を皆に見られている。
 
 ニヤニヤとしか形容出来ない笑みを浮かべた面々がネギに視線を向ける中、初めの内は無視していたが、遂に我慢できなくなったネギは声を荒げて、
 
「……何だよ? 言いたい事があるなら言えよ」
 
「別にー……♪」
 
「素直やないなぁー」
 
「何だ、可愛い所もあるじゃないか? ぼーや」
 
 そう言って茶化す彼女達。
 
 余りの羞恥に耐えられなくなったネギは席を立ち、
 
「……ジュース買ってくる」
 
 そう言い残して、その場を去っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『それでは続きまして第八試合、“小さな身体に邪悪なパワー”“地方によってはナマハゲ扱い”麻帆中囲碁部所属のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル選手対、“微笑みの破壊神”“撲殺の女神”などの二つ名を持つ図書館島司書、ネカネ・スプリングフィールド選手の試合を開始します!!』
 
 アナウンスは笑顔で行うが、朝倉の内心では、
 
 ……か、帰りたい。
 
 もはや、半泣きだった。
 
 ……つーか、絶対死ぬ! 主に私が!?
 
 チラリと選手席に視線を向ける。
 
 ……頼むよ、ネギ先生――。
 
 この二人から自分を守れるだけの力を持っている唯一の人物である彼女の担任は、
 
 ……って、居ないしッ!!
 
 そんな朝倉の内心など、知るはずなく、選手席では少女達が興味本位に話しをしている。
 
「それで結局、この二人はどちらの方が強いアルか?」
 
 当然のような古菲の問い掛けに、他の選手達は頭を捻りながら、
 
「言ってみれば最凶対最狂の対決みたいなものだしね……。
 
 ――こればっかりは、実際に戦ってみないと分からないんじゃない?」
 
 どちらが最凶で、どちらが最狂かは敢えて言わない。  
 
『……第八試合』
 
 生唾を呑み込み、
 
『――Fight!!』
 
 試合開始の合図と共に、二人の身体から膨大な魔力が膨れ上がる。
 
「丁度、貴様とは一度、全力でやってみたいと思っていた所だ――」
 
「あら、奇遇ですね――。私も貴女がネギに怪我をさせた事を忘れていませんよ?」
 
 直後、ネカネが瞬動で仕掛ける。
 
 初撃から、巻き込むようなフック。しかしエヴァンジェリンは自らの手で受け止めると、そのまま関節を極めて投げようとする。
 
 しかし、ネカネもそのまま投げられるような輩ではない。
 
 自ら腕を引き、エヴァンジェリンの投げ技から逃れると、バックステップで距離をとる。
 
 その際、置き土産に魔法の射手を六発置いていくのを忘れない。
 
 ――着弾!
 
 しかし、粉塵の中から飛び出た氷の魔弾がネカネに襲い掛かった。
 
 ネカネはそれらを拳で迎撃。――全ての魔弾を叩き落とすと、間髪入れずに粉塵の中へ飛び込んで行き、雷を纏った拳でエヴァンジェリンに殴りかかる。
 
 対するエヴァンジェリンもただ見ているだけではない。
 
 そう来るだろうと予測し、予め用意しておいた氷の刃を宿した右手を躊躇い無く振り抜いた。
 
 ――“雷神の槌”!
 
 ――“処刑人の剣”!
 
 大気爆発ッ!
 
 大きく飛び退く二人は勿論無傷ではない。ネカネの左腕は骨ごと大きく切り裂かれて力無く垂れ下がり、皮だけで辛うじて繋がっているような状態であるし、エヴァンジェリンの脇腹は大きく抉れて臓物と共に大量の出血があるような有様だ。
 
 その凄惨な状況に観客席から悲鳴が挙がるが、本人達はむしろこの戦闘を楽しんでいる節がある。
 
「見事だ、我が宿敵!!」
 
 エヴァンジェリンがネカネを褒め称えれば、ネカネは歯噛みしながら、
 
「我らは神の代理人。神罰の地上代行者……。
 
 我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅する事」
 
 告げ、無事な方の右腕で殴りかかる。
 
 対するエヴァンジェリンはその小さな手でネカネの凶悪な破壊力を持つ拳を受け止めるが、
 
「何という女だ……。人の身で、よくぞここまで練り上げた」
 
 見れば、ネカネの拳を受け止めたエヴァンジェリンの手は手指が砕け有り得ない方向に曲がり、手の甲からは折れた骨が突き出している。
 
 だが、それでもエヴァンジェリンは歓喜の表情を浮かべて、
 
「敵よ! 殺してみせろ!! この心臓に拳を突き立ててみせろ!!
 
 500年前のように!! 100年前のように!! この私の夢の狭間を終わらせてみせろ!! ――愛しき怨敵よ!!」
 
 ネカネはただ一言、己の右拳を掲げて告げる。
 
「語るに及びません!!」
 
 言うと同時、魔法の射手を放つ。
 
 だが、それは身体を多量の蝙蝠へと変じたエヴァンジェリンには効果がなく、しかも次に彼女が少女の姿をとった時には、抉られたはずの腹と砕けた手は完全に再生されていた。
 
 ――“魔法の射手・連弾・氷の9矢”!!
 
 貫通力の高い魔弾がネカネの身体を貫き傷つける。
 
 エヴァンジェリンはネカネから距離を取り、余裕の表情をもって問い掛けた。
 
「――どうする? どうするんだ? 化け物はここにいるぞ!! プロテスタント!
 
 倒すんだろ? 勝機は幾らだ? ――千に一つか? ――万に一つか? 億か? 兆か? それとも京か?」
 
「それが例え那由他の彼方でも、私には充分過ぎます――!!」
 
 左腕は千切れかけ、急所こと辛うじて躱しているものの身体のそこかしこに穴が空き、もはや立つ事すら困難な状態にありながらも、それでもネカネは気丈にエヴァンジェリンを睨み付けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 血にまみれ、それでも顔に微笑みを浮かべながら戦闘を放棄しないネカネの姿に、観客席の千雨は青ざめた表情で誰にとはなく言葉を零す。
 
「あ、ありえねぇ……。普通なら、死んでてもおかしくないだろ? これ」
 
 しかし、舞台から飛んできて彼女の頬に付着した血がこれはリアルだと訴えかける。
 
「……一体、何がどうなってやがる?」
 
「あー……、やっぱりこうなったか」
 
 隣から聞こえてきた聞き覚えのある声に千雨は慌てて振り向く。
 
 そこに居たのはフードを目深に被った自分の担任だ。
 
 ネギは溜息を吐くと、
 
 ……あの二人がガチで戦ると、こうなるのは分かってたんだよなぁ。
 
 実力が拮抗している為、魔法以外での再生力を持つエヴァンジェリンが圧倒的優位に立つのは予想出来ていた。
 
 ……とはいえ、姉ちゃんもあれで結構負けず嫌いだし、エヴァの奴もあれだけしつこく攻められると、いい加減キレるだろうしな。
 
 そうなれば、ネギの計画通りに事が運ぶ。――そう思い、ほくそ笑むネギに千雨が話し掛けた。
 
「――ネギ先生」
 
 名前を呼ばれたネギは振り向いて初めて彼女の存在に気付き、
 
「ありゃ? 長谷川じゃねぇか。珍しいな、お前がこんな大会見に来るって。
 
 ――お? 茶々丸も仕事お疲れさん」
 
 ついでに傍らの茶々丸にも挨拶する。
 
 千雨はそんなネギに構うことなく、自らの疑問を彼にぶつけてみるが、
 
「少々思う所がありまして……。それより、この大会。――これは全部現実なんですか?」
 
 対して問われたネギは即座に笑みを浮かべて、
 
「現実なわけねーだろ」
 
 言って、舞台を指差し、
 
「何処の世界に、リアルでヘルシングごっこする馬鹿が存在するんだよ?」
 
 ……まあ、実際に存在してるわけだけどな。
 
 そう告げるネギの表情を見つめつつ千雨は思考する。
 
 ……駄目だな。コイツの表情からじゃ真偽は判断出来ねぇ。
 
 諦め、視線を試合会場へと向けると、そこでは試合も佳境に入っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうした? クリスチャン。
 
 調子はどうだ? 満身創痍だな。腕が千切れて落ちるぞ。――どうするんだ? お前は犬か? それとも人間か?」
 
 その問い掛けへの答えとばかりに、ネカネは笑う膝を堪えて立ち上がり、千切れ掛けた左腕を口にくわえ、
 
「それがどうしたのかしら? 吸血鬼。まだ腕が千切れただけですよ。
 
 ――能書き垂れてないで来なさい。――かかって来なさい。早く! 早く!!」
 
 満身創痍でありながらも、それだけの台詞を吐けるネカネにエヴァンジェリンは一瞬驚いた表情を見せるものの、次の瞬間には心底感心した表情で……、否、それに含まれる感情は憧憬か、
 
「素敵だ。――やはり人間は素晴らしい」 
 
 その言葉を皮切りに、再度ネカネの侵攻が始まる。
 
 作戦や駆け引きなど有りはしない。
 
 ただ愚直に前進し、障害があれば力業で押し通す。
 
 ちまちました魔法ではネカネを仕留められないと悟ったエヴァンジェリンは遂に封印を解く。
 
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――!
 
 契約に従い、我に従え、氷の女王。
 
 来たれ、永久の闇、永遠の氷河! 全ての命ある者に等しき死を。――其は、安らぎ也」
 
 エヴァンジェリンの最も得意とする氷結呪文。
 
 対するネカネは笑みを挑戦的なものに変え、
 
「リリカル・トカレフ・キルゼムオール――!!
 
 黄昏よりも昏きもの、血の流れよりも赤きもの、時の流れに埋もれし偉大な汝の名において、我ここに闇に誓わん!
 
 我等が前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに、我と汝が力もて等しく滅びを与えん事を――!!」
 
 術の発動は僅かにネカネの方が遅いが、威力は彼女の方が上だ。
 
 ……また派手なの行くなぁ。
 
「いや――!? 止めてぇ――!!」
 
 絶叫する朝倉。
 
 半ば呆れながらも、ネギは朝倉を守る為の術式を構成する。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……。
 
 ──昨夜覚し真人に、何くれとも触ればいかを柵んばかち落えん。“艮の鎧”」
 
 朝倉の周囲に風の鎧が形成される。
 
 自分の周囲の大気が変質した事に気付いた朝倉がネギに視線を向けた。
 
 ――直後、
 
「――“終わる世界”!!」
 
「――“竜の咆吼”!!」
 
 凶悪な冷気の嵐と強大な光条が拮抗する。
 
 余波で生まれた爆圧が会場内を荒れ狂う。
 
 至近距離で余波を受けた朝倉は、ネギの施してくれた障壁のお陰で事なきを得たが、観客達まではそうはいかない。
 
 図書館組は夕映の展開した風障壁のお陰で無事だったが、未だまともに魔法を使えない裕奈しか居ない運動部組の方は他の観客達同様、風圧に翻弄され派手に転がりまくった。
 
 そんな中、当然の如く無事であったネギとその傍らに居た千雨は目を凝らして試合会場を確認する。
 
 一応、舞台上にいる人影は二つあるので、二人とも無事のようだ。――が、
 
「……あの二人にも脱げ女病が!?」
 
 ネギの言葉通り、舞台上の二人は一糸纏わぬ姿となっていた。
 
 舌打ちし、ローブを脱いで舞台上へ飛び移るネギは即座に疑似時間停止を発動。
 
 二人をかっさらい、舞台裏へと連れ去った。
 
 ――幸い、観客達の殆どは爆圧の余波で倒れていて、二人の裸は衆目に晒さずに済んだようだ。
 
 その一部始終を見送った朝倉は、いち早く気を取り直すと、
 
『りょ、両選手! 大会規定違反(詠唱呪文の使用)により、失格となります!!』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 控え室でネカネの怪我の治療を施し、取り敢えず服の代わりに己のローブを着せて、そこでやっと安堵の吐息を吐く。
 
「二人共やり過ぎだ。――血が飛び散りまくりで、観客引いてたぞ」
 
「知った事か――。私は別に魔法の事が世間にバレようと関係が無いしな」
 
 とは、毛布で身体を包んだエヴァンジェリンの弁だ。
 
「ぶっちゃけ、その考えには同意するけどな――」
 
 ネギにしても、魔法の隠匿などを守秘するつもりは毛頭無い。
 
 面倒臭い事に巻き込まれるのはごめんだが、そのような規則に縛られて使い所を誤り、救えるはずの者を救えない事の方がバカバカしいという考えを持っている。
 
 すると、障子が開き紙袋を持ったアーニャと高音が控え室を訪れた。
 
「ネカネさん! 大丈夫ですか!?」
 
「あらアーニャ。……えぇ、ネギの回復魔法のお陰で、もうスッカリ」
 
 言って、千切れかけていた左腕を掲げてみせる。
 
 完全に治療が終わっている事を確認したアーニャ達は安堵の吐息を吐き出し、着替えの入った紙袋を手渡す。
 
 高音に背中を押され、部屋から追い出されたネギは、障子を背に預けてネカネ達の着替えを待つ。
 
「……私の時と随分、対応が違うように思えますが?」
 
 若干拗ねたような態度で睨んでくる高音に対し、ネギは面倒臭そうに溜息を吐き出し、
 
「お前ならまだ良識があるからいいけど、姉ちゃんとエヴァだぞ?
 
 裸見た奴らの目玉抉り出しかねないだろうが……」
 
「……幾らなんでもそこまではしないでしょうが」
 
 ……いーや、絶対やるな。
 
 高音の反応に、内心でツッコミを入れる。
 
「それよりも2回戦ですが……」
 
 ネギに身体ごと向き直ると、決意を秘めた瞳で彼を見つめ、
 
「本気でやって下さい。――私の力がどこまで通用するのか? 試させて頂きます!」
 
 その言葉に、ネギは一瞬呆気に取られながらも、次の瞬間には意地の悪い笑みを浮かべ、
 
「――良いけど、瞬殺されても泣くなよ?」
 
 ……試合後、別の意味で高音は泣きを見る事になるのだが、神の身ならぬ彼女には当然知る由も無かった。
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 試合会場の修繕も終わり、第二回戦の第一試合が行われようとしていた。
 
「おー、間に合った間に合った」
 
 ネカネ達を引き連れ、何とか試合開始前に選手席に戻ってこれたネギは安堵の吐息を吐き出し、
 
「これで小太郎の負けっぷりをじっくりと観賞出来るってもんだな」
 
「誰が負けるかい!?」
 
 告げ、拳を突き出し、
 
「決勝まで一気に駆け上がったる。せやから、お前も絶対に負けんなや」
 
「お前に出来んのかー?」
 
 からかいながらも小太郎の拳に己の拳を合わせる。
 
「上がって来てみせろ。俺の居る所まで」
 
「……なに見下しとんねん」
 
 呆れながらも、小太郎は試合会場へ向かう。
 
 続いてクウネルがネギの元を訪れ、
 
「申し訳ありませんが、その約束は守られる事はないでしょう」
 
 そう告げるクウネルに対し、ネギは唇を僅かに吊り上げて挑戦的な笑みを浮かべると、
 
「なに、ちょっとでもアンタの情報を引き出せたら充分だよ」
 
 それを聞いたクウネルは微かに眉を顰め、
 
「おや? 意外と冷酷なのですね? ――お友達ではないのですか?」
 
「全然違うね――。言うならば使い勝手の良い手駒って所か」
 
 言った瞬間、背後から強い力で頭を押さえられた。
 
「あらあら……、ゴメンなさいね。この子ったら、素直に友達って言うのが恥ずかしいらしくって」
 
「ね、姉ちゃん」
 
 ネカネはポケットから飴玉を取り出してクウネルに手渡し、
 
「良かったら、コレどうぞ」
 
 今後もネギと仲良くしてやってくれと頼み、そのまま他の選手達にも飴玉を配り歩く。
 
「ちょッ!? 何処でそんな芸当覚えてきたんだよ、姉ちゃん!」
 
 それを眺めていたクウネルは唇の端に微笑みを浮かべて、
 
「なるほど、――性格が悪く、ひねくれていて素直ではない。
 
 ……ナギの息子なだけはありますね」
 
 その言葉を聞いたネギはクウネルの襟首を掴み、食らい付くように、
 
「アンタ、親父の事、知ってんのか!?」
 
 だが次の瞬間、彼の姿はネギの手の内から零れるように消え、
 
「どうやら、試合が始まるようですね……」
 
 何時の間にやら舞台へと進んでいた。
 
「……何者だ? あの野郎」
 
 ネギの疑問に答えたのはエヴァンジェリンだ。
 
 彼女は何かを知っているような口振りで、
 
「奴の本名はアルビレオ・イマ。――ぼーやの父親の友人の一人だ。
 
 ――そして奴からの伝言だ。決勝まで勝ち上がって来れれば、褒美に貴様の父親に会わせてやろう。との事だ」
 
 だが、それを聞いてもネギは食いついてこない。
 
 その事を不審に思ったエヴァンジェリンは問い掛けてみるが、ネギの答えは、
 
「胡散臭ぇ……。大体、そんな事が可能なら、真っ先にお前が食いついてる筈だろうが――」
 
 警戒心を露わにするネギに対し、エヴァンジェリンは、……どういう育て方をすれば、ここまで捻くれて育つ? と内心で舌を巻きながら、
 
「トリックを知っているだけだ。
 
 奴の会わせられるナギは、私の求めるナギではない」
 
 ……最も、だからといって会いたくないわけではないがな。
 
 とは思っていても絶対に口には出さない。
 
 一応の納得を見せるネギだが、彼の関心は既に試合会場の方へと向いている。
 
 ……親父に会わせる。……ね。
 
 表面的にはクールな素振りを装っていても、彼の心は既に決勝戦へ飛んでいた。
 
 ……会わせて貰おうじゃねぇか。サウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールドに。
 
 その為の障害となる高音と刹那には悪いが、速攻で決着を着けさせて貰う。
 
 そう思考していると、観客席の方から一際大きな歓声が挙がったので視線をそちらに向けてみる。
 
 いつの間にか始まっていた試合では、小太郎の縮地を見切りクウネルがカウンターの一撃を彼の背中に叩き込んだ所だった。
 
「……やっぱ、コタローじゃあ厳しいか?」
 
 ネギの視線の先、小太郎は辛うじて立ち上がるも、先程の攻撃が膝にきているのか? すぐには攻撃に移れずにいる。
 
 そんな小太郎に対し、クウネルは接近戦を仕掛けようとはせず、離れた場所から重力魔法で攻めた。
 
「チッ!?」
 
 短く舌打ちし、その場を飛び退く小太郎。
 
 しかしクウネルの攻撃は単発では終わらず、第二派、第三派と間断を入れずに小太郎を責め立てる。
 
 小太郎は踏ん張りの効かない足に拳を叩きつけて、強引に感覚を取り戻すと縮地で一気に間合いを詰め、
 
 ――犬上流・狼牙双掌打!
 
 しかし、その攻撃もクウネルにダメージを入れる事が出来ない。
 
「――ふむ、なかなかに良い攻撃です。
 
 ……ですが、それでは私には勝てない」
 
 告げ、トドメの一撃を放とうと腕を振り上げるクウネルの耳に別の角度から小太郎の声が聞こえてきた。
 
「やろな……。せやったら、こんなんはどうや?」
 
 ――滅牙得救世!
 
 気を乗せた拳を叩きつける。
 
「ぬぅ!?」
 
 二つの技をほぼ同時に喰らい、その余波だけでクウネルを中心に舞台が大きく陥没する。
 
 しかし、それでもクウネルに傷らしい傷は見当たらない。
 
「……予想以上ですよ、小太郎君」
 
 言って、クウネルがローブの裾から取り出したのは一枚のカードだ。
 
「……仮契約カードッ!?」
 
「来たれ――!」
 
 クウネルの声と同時、彼を取り巻くように無数の本が召喚される。
 
 彼はその中から一冊の本を無造作にも見える手つきで選別し、ページを捲るとそこに栞を挟み、一気に引き抜く。
 
 ――発動!
 
 舞台上に現れたのは、一振りの木刀……、正確には納刀された白鞘の野太刀を携えた長身の男性。
 
「……詠春のオッサン?」
 
 ネギの呟き通り、そこに居たのは間違いなく近衛・木乃香の父親、近衛・詠春だ。
 
 但し、その年齢はネギの知る詠春よりも数段若い。
 
 詠春が手にした木刀を構えると、小太郎は最大限の警戒を見せる。
 
 ……クウネルとかいう奴とは、また違う種類の強さやな。
 
 肌で詠春の強さを感じ取った小太郎は頬を弛ませ、
 
 ……まだ名前すら決まっとらん未完成な技なんやけど、仕方ないか。
 
 僅かな停滞の後、詠春と小太郎の視線が絡み合い、両者が同時に動いた。
 
 小太郎が両手に気を集約させて、それを変質させる。
 
 ……いつまでも気をぶつけるだけの技やと、進歩無いからな!
 
 両手が陽炎のように揺らいで見えるそれは、
 
「――震動破砕か!?」
 
 破壊力は十二分に期待出来る。
 
「おおぉぉぉ!!」
 
 双掌を詠春に叩き突けた。
 
 余波で小太郎を中心とした周辺一帯が粉々に砕け散る。
 
 勿論、未完成というだけあって、小太郎の両腕も技の反動で毛細血管が破裂し血みどろの状態なのだが、それよりも問題は――、
 
 ……大気を断ち切って、震動の伝播を防いだ!?
 
 その証拠に、詠春の周りの舞台には傷一つ無い。
 
 小太郎は奥歯を噛み締め、
 
 ……反撃が来る! ――耐えるんや!? これに耐えて、技後の隙にカウンターを叩き込んだる!
 
 ――神鳴流奥義・極大雷鳴剣!!
 
 轟雷と共に放たれる斬撃が小太郎を討つ。
 
 全盛期の詠春が放つ、常人ならば屍すら残らないであろうその技に、小太郎は耐えてみせた。
 
 変身が解け、元の姿に戻ったクウネルは、心底感心した風に、
 
「その勝利への執念は見事です――」
 
 告げ、人差し指で小太郎の額を押す。
 
 既に意識を途切れさせていた小太郎は、それだけで倒れ伏した。
 
『だ、ダウン! ……いや、気絶しております!! よってこの試合、クウネル選手の勝利!!』
 
 沸き上がる歓声に見送られて、担架に乗って退場する小太郎。
 
 それを見送ったネギは重い腰を上げ、
 
「……ちょっと、小太郎の様子見てくる」
 
 神妙な顔付きで言ったつもりだったのだが、その場に居た少女達によって停められた。
 
「ちょっと待ちなさい! 行ってどうするつもりよ?」
 
 皆を代表して問い掛けるアーニャに対し、ネギは心底嬉しそうに口元を綻ばせながら、
 
「……どう? って……、そら勿論二度と立ち直れないように、精神的にもボロクソになるくらい罵ってやろうか、と。――ハッ!? つい本音が!?」
 
「ここで、大人しくしているでござるよ」
 
「次はネギ老師の試合なんだから、待機していた方が良いアルよ?」
 
 皆に窘められ、仕方なく自分の出番を待つネギだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その頃、観客席の千雨は……、
 
「……絶対、ありえねぇ」
 
 試合もそうだが、先程のネギの行動だ。
 
 ……いきなり、目の前から消えやがった。
 
 それに、あの呪文のような呟き。
 
 ……ネットで流れてる魔法って言葉と何か関係があんのか?
 
 そう思うが、一方でそのようなファンタジーな出来事はありえないと自分を納得させようとする。
 
 ……ちょっと探り入れてみるか。
 
 手元のPDAを操作し、ネットを漂ってみると出てくるは出てくるは、胡散臭い噂から科学的なデータを元にした検証まで。
 
 ……3−Aの幽霊に去年の夏からの吸血鬼事件。それに図書館島の地下にいるらしい巨大な怪物。……胡散臭さ爆発じゃねぇか!?
 
 ちなみに、それら全てが現在ではネギの使い魔と化している。
 
 ……しかし誰だ? こんな噂流してんのは?
 
 一見不自然さは見当たらないが、それでも何処か意図的な物を感じる。
 
 ……もうちょっと、観察してみっか。
 
 そんな千雨の様子を、傍らの茶々丸は興味深げに観察していた事に、彼女は気付いていなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『それでは皆様お待たせ致しました! 第二回戦第二試合は長瀬・楓選手の不戦勝の為、これより第三試合を行います!!
 
 片や、麻帆良学園女子中等部生徒人気bP教師、ネギ・スプリングフィールド選手。
 
 片や、聖ウルスラ女子高等学校、お姉さまにしたい生徒bP、高音・D・グッドマン選手の対決です!』
 
 対峙する二人。
 
『二回戦第二試合……、Fight!!』
 
 朝倉の声と同時に、高音が身に纏っていたローブを脱ぎ捨てる。
 
 その下に着込まれているのは彼女の影使いの能力で作られた黒衣だ。
 
 そして彼女の背後に巨大な影法師が顕現する。
 
 ――“黒衣の夜想曲”!
 
 初っ端からの操影術近接戦闘最強奥義に対して、ネギは慌てる事なく懐へ手を伸ばしカシオペアを起動させた。
 
 ――疑似時間停止。
 
 そして素早く高音の背後に回り込み、
 
「まずはその邪魔ッ気なデカブツからな……」
 
 ――魔法の射手・連弾・風の7矢!
 
 同じ風系の魔法の射手でも、戒めの風矢のように捕縛目的ではなく、切断を主目的とした魔弾だ。
 
 真空の刃が影法師を切り裂き、巨大影法師は大気に溶けるように消滅した。
 
 その事で、ネギが背後に回っていると気付いた高音は、慌てて振り向くが、その際、先程の魔法の射手の余波で切れ込みの入っていたのか? 高音の身に纏う黒衣がバラけてしまい、次の攻撃を放とうとして差し伸ばしたネギの手に弾力の有る感触が伝わってくる。
 
「あれ……?」
 
「…………」
 
『…………』
 
 カシオペアを使用してもいないのに時間が停止した。
 
 そんな中、いち早く正気に立ち返ったネギが慌てて自らのローブを脱いで高音に着せる。
 
 そして未だ呆然としている高音に対し、何か慰めのコメントを言おうとして考え、2秒で結論。
 
「大丈夫だ。大きさ、形、張り、色、全てにおいて平均以上。――人に自慢して良いと思うぞ?」
 
 その言葉で正気に返ったのか? 目尻に涙を浮かべた高音は泣きながら、
 
「せ、責任とってくださぁ――いっ!!」
 
 そう言い残して、その場を走り去ってしまった。
 
 後に残されたネギは呆然としていたが、審判の朝倉に腕を上げられ、
 
『高音選手試合放棄の為、勝者ネギ・スプリングフィールド選手!!』
 
 途端に巻き上がる大ブーイング。
 
 女性客からは『女の敵』『痴漢』など、男性客からは嫉妬の罵詈雑言が吐き出され、更には選手席に戻ってからも、ネカネや明日菜に説教を喰らう始末。
 
 ……何か、勝った気がしねぇ。
 
 うんざり気な溜息を吐き出しながらも、次の試合は刹那の不戦勝である為、これで準決勝進出の4人が決定した事になる。
 
『えー……、大変なハプニングがありましたが、これで学園最強ベスト4が出揃いました!!
 
 10分の休憩を挟み、いよいよ準決勝に入ります!』
 
 
 
 
 
 
 
 
    
 
 そんな中、捕らわれの身となったタカミチとちびせつなを救出する為、会場に向かっていたシスター・シャークティと美空、ココネの三人は超の雇った用心棒の真名と対峙していた。
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