魔法先生……? ネギ魔!
 
 
書いた人:U16
 
第17話(前編)
 
 巨大生体兵器の登場で、ようやく本腰を入れて動き出した学園側の魔法使い達だが、全ては遅すぎた。
 
 6カ所の魔力溜まりに向かう分隊を各個撃破すべくネギが動く。
 
「まさか、こんな大規模な術式を組んでくるなんて……」
 
「どうやら彼女は本気で魔法世界を敵に回すつもりらしいな」
 
 話ながら、屋根を駆けて現地に向かう。
 
 そんな彼らの前に立ちふさがるのは、白い外套を身にまとったネギだ。
 
「ネギ先生……?」
 
 ガンドルフィーニが不審気に名を呼ぶ。
 
 対するネギは薄い笑みを浮かべ、
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル──。悉く砕けよ狂瀾の時空! “歪曲の爆裂”!」
 
 空間を歪める事によって生じさせる爆縮魔法。
 
 その効果の程を一瞬で理解した教師達は、即座にその場を飛び退く。
 
 しかし、それこそがネギの狙いだ。
 
 バラけた魔法先生達を個別に撃破していく。
 
 カシオペアを使い、瀬流彦の懐に入り込むとゼロ距離で魔法の射手を撃ち込み昏倒させ、建物の死角から誘導性の高い魔弾“導きの光”を使ってヒゲグラこと神多羅木を攻撃する。
 
「グッ!?」
 
 それでも致命傷を免れた神多羅木が迎撃の準備に入るより速く、ネギの次弾が放たれる。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 銀嶺より来たりて、バビロンへ帰れ! “必中の魔弓”!」
 
 それはスピード、破壊力、共に魔法の射手の50倍の威力はあると言われる射出型魔法だ。
 
 神多羅木は迎撃を諦め、障壁を展開して何とか持ちこたえようとするも、ネギの魔法の前には焼け石に水程度の効果しかなく、直撃を受けて敢え無く吹っ飛ぶ。
 
「神多羅木先生!!」
 
 叫び、残されたガンドルフィーニは、拳銃を構えてネギと相対する。
 
「ネギ先生!? 君は自分が何をしているか、分かっているのか!?」
 
 という、ガンドルフィーニの叫びもネギは聞き入れない。
 
 否、聞こえてはいるのだろう。だが、聞く耳はもたないとでも言うべく、薄い笑みさえ向けてみせる。
 
 その表情から話し合いは通じないと悟ったガンドルフィーニは即座に発砲。
 
 しかし、着弾地点にネギの姿は無い。
 
「……ど、どこに!?」
 
 消えたネギの姿を探すガンドルフィーニ。
 
「……ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 
 灰燼と化せ冥界の賢者、七つの鍵をもて開け地獄の門……」
 
 遠くから聞こえてきた声に視線を向ける。
 
 そこにネギは居た。その位置はガンドルフィーニの射程外。しかし、ネギにしてみれば、充分射程距離範囲内だ。
 
「──“七つ鍵の守護神”!」
 
 放たれる極太の光条がガンドルフィーニを飲み込んだ。
 
 主戦力である魔法先生達を一掃したネギは一息を吐いて、残った封印処理班の魔法生徒達を見渡す。
 
「ヒッ!?」
 
 怯えた声を挙げる生徒達に対し、ネギは獲物を見つめる肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべ、
 
「お前等にも、少しの間、行動不能になっててもらうぞ」
 
 その言葉を聞いた生徒の一人が叫ぶ。
 
「ぜ、全員! 魔法障壁全力展開!!」
 
 その選択は正しかったのか? あるいはその場で撤退。もしくは、ネギに対し一斉に攻撃に転じていた方が良かったのか?
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル──。百重千重と重なりて走れよ稲妻。……“千の雷”」
 
 最小限に威力を抑えられた無数の雷撃が、魔法生徒達を的確に撃ち落とす。
 
 その効果範囲は、ネギの眼前だけに留まらず、他の作戦行動を開始していた者達にまで及ぶ程だ。
 
 勿論、その攻撃を耐えきった魔法使い達も居る。
 
 彼らは、即座にその発生源を見抜き、進路をネギに向けて変更。
 
 ネギを最大の障害として認識した。
 
 その光景をモニターで見ていた超・鈴音は、不審気に眉根を寄せる。
 
「……どうにも、納得出来ないネ」
 
「何がですか?」
 
 超の傍らで、儀式魔法の準備をしていた葉加瀬が問い返す。
 
 すると超は暫く考え、
 
「……ネギ老師の実力ならば、誰一人怪我をさせることなく、無力化させる事が出来た筈ネ」 
 
「……確かに」
 
 ネギの映るモニターに視線を向けつつ、
 
「……何だか、わざわざ自分から恨みを買おうとしてるみたいですね」
 
 葉加瀬の言葉で、超の脳裏に一つの仮説が閃く。
 
「一体、何を企んでいるネ? ネギ老師」
 
 しかし、それはあくまでも仮説に過ぎない。今後のネギの行動如何によっては、
 
 ……ネギ老師を停めねばならないネ。
 
 ポケットに忍ばせたスイッチを確認する。
 
 このボタンを押せば、彼に貸し与えた外套や武器は機能を停止して彼を拘束するだろうが、ネギが使えなくなると戦力的にキツイ。
 
 ……なるべく使わずに済ませてもらいたいものヨ。
 
 誰にとはなく一人ごち、葉加瀬に気付かれないよう小さく溜息を吐き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 ──同時刻。
 
 真名と楓の戦闘も開始されていた。
 
 真名の使う強制時間跳躍弾を前に、なかなか近づく事が出来ず苦戦していた楓だったが、ネギの放った“千の雷”が真名の近くに落ちてくれたお陰で、一気に距離を詰める事が出来た。
 
 否、近くに落ちたのではない。彼女を目掛けて落ちてきた落雷を、真名が躱わしたのだ。
 
 ……ネギ先生が、目標を見誤った?
 
 確かに、さっきの魔法は効果範囲が広い為、偶然間違ったという事も有り得るだろう。
 
 しかし、今の楓に、悠長に思考しているような余裕は無い。
 
 交差する銃撃と苦無。
 
 接近戦に持ち込んだからと言って、すんなりと勝たせてくれる程、龍宮・真名という少女は甘くない。
 
 しかし、だ。そこに本日二度目の妨害が入る。
 
 楓の知覚外から放たれる、50を越える光弾の弾幕。
 
 それが彼女の背後から不意を打った。
 
「グッぁ!?」
 
 その一瞬の隙を付き、楓に真名が強制時間跳躍弾を撃ち込む。
 
「クッ!? しまった!」
 
 歯噛みするが、後の祭り。
 
 最早、彼女にこの銃弾から逃れる術は無い。
 
 尋常の勝負にも関わらず背後からの強襲。
 
 武人である楓や刹那達からは考えられない卑劣極まりない罠。しかし真名は武人ではない。いうなれば仕事人だ。任務達成の為に手段は選ばない。
 
 そして、この策を考えたネギは武人とは程遠い知略家、奇策師、兵法家といった類の者。
 
 勝利の為ならば、どのようなド汚い手段も平然と使う。
 
 強敵である楓を仕留めた事にひとまず安堵の吐息を吐き出す真名。
 
 そんな彼女の一瞬の隙を付き、闇を纏った吹雪が彼女を襲う。
 
「何ッ!?」
 
 咄嗟に、防御用の護符を用いて“闇の吹雪”をガードする真名だが、それでも完全には防ぎきれずに幾分かはダメージを受けてしまう。
 
「──どういうつもりだ!? ネギ先生!!」
 
「さてな……」
 
 背後から聞こえてきた声に慌てて振り向く。
 
 直後、真名の身体はネギの魔法によって拘束された。
 
「お前もリタイアしとけ」
 
 何処か優しさを含んだ声。……しかし、そこから放たれるのは凶悪極まりない魔法だ。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。我が力の根源である夜の闇よ、月の女王を降臨させ地上を夜の光で満たせ! “魔夜に降る月光”」
 
 闇の光明とも言うべき月の力を満たした光が周囲を埋め尽くす。
 
 古来より月は死と密接な関係があると言われており、その光にも他聞に漏れず死の力を宿している。
 
 真名は懐の護符を総動員して直死から辛うじて逃れるも、少なくとも一日以上は戦闘不能な程のダメージを受け、屋根の上から転落していく。
 
 地面に落下する寸前、ネギが彼女の身に浮遊落下の魔法を掛け、転落死は免れたが、既に真名の意識は失われている。
 
 真名の無事を確認したネギは、最早その場に用は無いと次なる獲物を狩りに向かった。
 
 ……ネギの気配が消えるのを見計らい、物陰から一人の少女が現れる。
 
 満身創痍と言っていいような風体の少女。
 
 先程、真名の強制時間跳躍弾で3時間先の未来に跳ばされた筈の楓だ。
 
 彼女は痛む身体を引きづりながら真名の元まで歩み寄り、彼女の無事を確認して安堵の吐息を吐き出す。
 
「……息はあるか」
 
 あの瞬間、影分身を使って辛うじて真名の弾丸を回避する事に成功はしたが、ダメージが大き過ぎる為、皆の援護には回れそうにない。
 
「……しかし、ネギ先生の目的は一体?」
 
 何故、真名を攻撃する必要がある?
 
 ひとまず意識の無い真名を安全な場所に移し、彼女と自身の回復を待ちながら思案する。
 
 ……どうも、ネギ先生には超殿とも違う思惑があるようでござるな。
 
 とはいえ、流石にその思惑が何なのか? までは見当がつかない。
 
 仕方が無いので、楓は溜息を吐き、怪我の治療と体力の回復に務める事にした。
        
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 真名を仕留めたネギの次の目標となったのは、一人の魔法生徒だ。
 
 ネギの“千の雷”を辛うじて防御に成功した。否、彼女自身の力だけでは到底あの魔法は防げなかった。
 
 彼女が現在も行動可能なのは、偏に彼女がお姉さまと慕う人物から事前に防御力上昇の加護が施されたアミュレットを預かっていたからだ。
 
 そのアミュレットが彼女の身代わりとなってくれた。
 
 彼女と行動を共にしていた魔法生徒及び魔法先生達は、あの魔法で行動不能にさせられてしまったので、現在彼女が単独で巨大生体兵器殲滅の援護に向かっている所だ。
 
 本来ならば、一旦援軍の要請にでも戻った方が良いのだろうが、現在の学園都市には援軍を組める程の戦力は残っていない。
 
 ……でも、まるでお姉さまはこうなるのが分かっていたみたい。
 
 砕けたアミュレットを握りしめ思う。
 
 それに、
 
 ……今回の出動にお姉さまの姿が無かったのも気になるし。……一体、ここで何が起こっているんだろう?
 
 そんな彼女の思考も、眼前に現れた見知った存在によって停止させられる。
 
「……驚いた。よくあの一撃を耐えれたな? 佐倉」
 
「ね、ネギ先生……? それよりも大変なんです! 何者かの攻撃で、他の魔法使いの人達が行動不能になっていて!?」
 
「ああ、そりゃ知ってる。……何せ、俺がやった事だからな」
 
「……え?」
 
 ネギの言葉に、愛衣は一瞬己の耳を疑った。
 
 しかし、彼から自分に向けられる攻勢の強い魔力がそれが冗談の類ではない事を証明している。
 
「……悪いが、お前にも行動不能になっていてもらうぞ」
 
 告げ、愛衣に向けて無詠唱で魔法の射手を放つ。
 
 その数は全部で8本。
 
「“風楯”!!」
 
 ネギの放つ炎弾を風の障壁で防御。
 
 続いて、
 
「メイプル・ネイプル・アラモード! 目醒め現れよ燃え……」
 
「遅い……」
 
 聞こえてきた声は彼女の後方。
 
 慌てて振り向いた先、そこには巨大な氷塊を掲げたネギの姿があった。
 
「……“氷神の戦鎚”」
 
 詠唱に入っていた為、身動きのとれない愛衣に避ける術は無い。
 
 氷塊が愛衣に直撃する寸前、割って入った白い人影が氷塊を両断する。
 
 白の正体。……それは、視界一杯に広がる純白の大翼だ。
 
 翼持つ剣士の名は、桜咲・刹那。
 
 刹那は間に合わなかった事に心底悔やんだ表情でネギと対峙し、
 
「……ネギ先生。この計画から手を引いてもらうわけにはいきませんか?」
 
 無理と知りつつ、頼んでみる。
 
 対するネギは表情一つ変えないまま、
 
「聞くと思うか?」
 
 刹那の答えは一つだ。
 
 もはや力ずくで抑えるのみ。と、愛用の野太刀“夕凪”を構える。
 
「──神鳴流奥義・斬魔剣二乃太刀!」
 
 ネギの障壁に邪魔される事無く彼に直接ダメージを与える事の出来る技。
 
 ……これなら!
 
 しかし、結論から見れば、その考えは甘かったと言える。
 
 ──絶対回避!
 
 斬撃波の到達の寸前、ネギの身体が刹那の視界から消える。
 
 直後、彼の身体が現れたのは刹那の背後だ。
 
 まるで、それを見越していたように刹那が夕凪を横薙に振り抜くが、その攻撃すらネギは回避してみせる。
 
 そして、今度は刹那の懐の中に姿を現す。
 
 刹那は咄嗟の判断で手にした野太刀を捨て、無手で迎撃に入る。
 
 ネギの外套を掴み、逃げ場を封じてからの寸打。
 
 しかし、それはネギの障壁と超科学で作り出された外套の前では不発に終わった。
 
 代わりに、刹那の腹にめり込むのはネギが手にした杖の先端だ。
 
 杖の先端に魔力の光りが宿り、それが見る見る内に膨れ上がっていく。
 
「……お前もちょっと休んどけ」
 
 ──“光爆”!
 
 刹那の身体が弾け飛び、地面に叩き付けられる。
 
 それでも懸命に立ち上がろうとする刹那に対し、ネギの情け容赦無い追撃が放たれる。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……。神霊の血と盟約と祭壇を背に、我、聖霊に命ず。……雷よ、落ちよ。
 
 ──“轟雷”!!」
 
 極大の雷撃が天から刹那に降り注ぐ。
 
 もはや悲鳴すら挙げる事を許さず、戦闘不能に追い込まれた刹那。
 
 神鳴流の剣士を相手に、仏心は自らの敗北を意味する。その事を熟知しているネギは、最後まで優しさを微塵も見せず、機械的に刹那を葬る。
 
 そして、動かなくなった彼女を一瞥し、これ以上、追撃を与えずに済むことに小さく安堵の吐息を吐き出すが、それも一瞬だ。
 
 ──まだこの場には、戦闘可能な者が残っている。
 
 ネギの視線の先に居るのは、一人の少女。
 
 彼の視線を受けるだけで、愛衣は恐怖し一歩後ずさる。
 
「……抵抗しなきゃ、痛みを感じる間もなく終わらせてやるよ」
 
 そう告げるネギに対し、愛衣は気丈にも箒を向ける。
 
「ひ、引けません! 私も、この学園に所属する魔法使いです!」
 
「お前じゃ、絶対に勝てねぇぞ?」
 
「そ、それでも絶対に諦めません。わ、私はネギ先生達と一緒に修行するようになって、その事を教わりました。
 
 ……だから!」
 
 それ以上の言葉は必要無い。ネギは口元に薄い笑みを浮かべると、
 
「良い覚悟だ──」
 
 最大の敬意を表して、術式を紡ぐ。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 闇の色、闇の音、闇の呼気を纏え! 滅の波動となり我が指し示す方位を駆逐せよ! “魔滅の咆吼”!」
 
 指向性を持たせた高震動波。
 
 破壊の力を秘めた波が愛衣の身体を飲み込む。
 
 しかし、愛衣は薄い笑みを浮かべると、その身体を紙の人形に変え、そのまま消滅する。
 
「身代わり人形!? ……桜咲か!?」
 
 今日、初めて見せるネギの動揺。
 
 その一瞬の隙を付いて、上空から愛衣が襲いかかる。
 
「──ものみな焼き尽くす浄化の炎! 破壊の王にして再生の徴よ! 我が手に宿りて敵を喰らえ!!」
 
 ネギの背後に降り立った愛衣が、彼の背中に手を添え、ゼロ距離からの魔法を放つ。
 
「──“紅き焔”!」
 
 しかし悲しいかな、刹那の助けを得たその一撃でさえ、ネギには届かない。
 
 ──絶対回避!
 
 カシオペアを用いた絶対回避。
 
 一瞬の隙に眼前から姿を消したネギに愛衣は驚愕に目を見開く。
 
「……今のは良い攻撃だった」
 
 背後から聞こえてくる声に、背筋に冷たい汗が流れた。
 
 背中越しに向ける視線の先、既にネギの詠唱は終了し、その手には雷が宿っている。
 
「……“白き雷”!」
 
 結論から言えば、その攻撃は愛衣に届かなかった。
 
 飛来した多数の十字架と斬撃波がネギを襲ったからだ。
 
 咄嗟の判断で、“白き雷”を迎撃に使い、衝突の爆煙を煙幕代わりにして距離を取る。
 
 煙の晴れた向こう側。
 
 そこに居たのは4つの人影。
 
 シスター・シャークティ、葛葉・刀子、弐集院・光、そして高畑・T・タカミチ。
 
「超君の側についたようだね、ネギ君」
 
 以前、超に捕らえられた時に、五月から超が計画を推し進める理由を聞かされていたタカミチは、ネギが超側に付くことを予測していたような口振りで彼に話しかける。
 
「説明の手間、省けて助かるなぁ……」
 
 元よりするつもりもないが、
 
「じゃあ、後がつかえてるんで、ちゃっちゃか終わらせるか」
 
 口ではそう言うが、内心ではウンザリ気な溜息を吐きながら、
 
 ……つーか、せめてタカミチ一人で来いよな。と思いつつも、気持ちを戦闘に切り替える。
 
「ブラスターシステム・リミット1・リリース」
 
 ネギの言葉と共に、彼の魔力が異常な膨れ上がりをみせる。
 
 それは超が開発したシステム。
 
 周囲の魔力を吸収してオーバーロードさせることなく強力な自己ブーストを掛け続け、限界突破の魔力を使用可能とするもの。
 
 本来は別の名称であったらしいが、ネギがこっちの方がドスが利いていると言って、強引に名前を変更させた代物だ。
 
 爆発的に魔力が高まる反面、その反動で術者の身体に掛かる負担はかなりのものになるらしいが、それでも術者の生命を削ったりしない辺り、本家の物に比べると随分術者には優しい設計のようだ。
 
 ……“加速の羽”。
 
 魔法による加速で、一気に距離を取る。
 
 しかし、敵も瞬動使いが二人いる。
 
 ネギの後退に追いついてくるタカミチと刀子。だが、それこそがネギの狙いだ。
 
 ──これで、4対1が2対1になった。
 
 追ってくる敵は、どちらも強敵ではあるが十二分に打つ手はある。
 
 更に戦力を分断する為、ネギは一言を零す。
 
「……嫁き遅れ」
 
「ぬぅわんですってぇ──!!」
 
 逆鱗に触れられた刀子が更に加速。
 
 タカミチとの距離が開いていく。
 
「いかん!? 落ち着くんだ! 刀子先生!」
 
 そこでネギの狙いを悟ったタカミチが刀子に自制するよう、声を掛けるが、
 
「これが落ち着いていられますか!?」
 
 抜刀し、ネギに襲い掛かる。
 
 1対1で、今のネギが負ける道理が無い。
 
 刀子の一撃を障壁で受け止めると、更に後退しながら術を紡ぐ。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……。闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ、彼の者に驟雨の如く打ち付けよ! ──“重神の圧槌”!」
 
 ゼロ距離からの重力魔法。成す術も無く刀子の身体が押し潰され、そのまま地面に叩き付けられる。
 
 魔法を使用した事により、一瞬速度の落ちたネギにタカミチが追い付いてきた。
 
「ネギ君!」
 
 既に、タカミチの技の射程距離内。
 
 ──豪殺・居合い拳ッ!!
 
 放たれる極大の拳圧を前に、ネギは詠唱を開始。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 闇の長子に告ぐ、魔王の持つ光りの斧と化し
全てを薙ぎ倒せ! “光魔の戦斧”!」
 
 迫り来る拳圧を斬り裂こうとするも、相殺に終わった。
 
 ……クソッ!? 何て攻撃力してんだよ。
 
 しかも、呪文の詠唱や溜めを殆ど必要としないのだ。
 
 ……改めて対峙すると、反則みたいな技だな。
 
 そう思いながらも、次の詠唱に入る。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! さまよう風よ、その力もて魔界の扉を開け、吹けよ、悪魔の吐息!! “氷結の吐息”!」
 
 凍てついた霧が発生し、タカミチを凍りつかさんとする。
 
 しかし、それは無駄に終わる。
 
 咸卦法には耐寒作用もあるのだ。気温操作系の魔法は効果が無い。
 
 本来ならば、明日菜を相手にその事を熟知している筈のネギにしては有り得ない凡ミス。
 
 ──否、ミスではない。彼には別の目的がある。
 
「どうした!? ネギ君。僕にこの類の魔法は通用しないぞ!」
 
「まあ、そう慌てんなよタカミチ」
 
 声に含まれた余裕に危険を感じ、タカミチは咸卦の気を使って周囲に充満する冷気の霧を吹き飛ばす。
 
 ……が、そこにネギの姿が見当たらない。
 
「──命運尽きし星の欠片たちよ。今こそ我が新たなる命吹き込まん。
 
 なれば我が意に従いて空を舞い、敵を掃滅せよ……」 
 
 ただ朗々と聞こえてくる呪文詠唱の声。
 
 顔に射す影に視線を上げ、そこで初めてネギの居場所を知る事になるも、その光景の前に唖然としてしまい、戦闘中にも関わらず攻撃を忘れて棒立ちになってしまう程だ。
 
 そこに展開される光景──。
 
 ダンプカーやパワーショベルを始めとした数種の建設用機械。
 
 それら大型の重機が少なくとも10機以上が空に浮いていた。
 
「……本当なら、瓦礫や岩塊なんかでやる魔法なんだけどな。見当たらなかったんで、コイツらで代用してみた」
 
 代用などという代物ではない。
 
 大きさ、重量、どれをとっても凶器と呼ぶには充分過ぎる存在ばかりだ。
 
「じゃあ、行くぞ……」
 
 杖を振り下ろし、
 
「──“星屑の乱舞”!!」
 
 真っ先に、タカミチに向かって突っ込んでくるのは最重量を誇る重機。
 
「ロードローラーだ!?」
 
 ロードローラーを持ち上げる何処ぞの吸血鬼の幻影が見えたような気がしたが、気のせいだろう。
 
 対するタカミチは素早くポケットに両手を突っ込み、
 
「おおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
 
 ──豪殺・居合い拳!!
 
 真正面から迎え撃った。
 
 鋼鉄が拉げ、砕ける。
 
 次々と自分を襲う超重量の塊達を前に一歩も引かないタカミチ。
 
 勿論、ネギもこれでタカミチが倒されてくれるとは思っていない。 
 
 ネギはこの隙に新たな呪文の詠唱を開始する。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。この血に宿りし大いなる力よ、今ここにその全てを解き放たん。我が意志となりて異界の果てまで届け! ……“旅の門”」
 
 転移魔法を発動。
 
 ネギの姿が一瞬でタカミチの前から消え失せた。
   
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 転移したネギが姿を現した先に居たのは二人の男女。
 
 シスター・シャークティと弐集院・光の二人だ。
 
 驚愕に目を見開く二人を前に、ネギは前振りもなく詠唱を開始する。
 
 何しろこれは時間との勝負だ。
 
 タカミチが帰ってくるまでに、この二人を倒しておかなければならい。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! ──契約に従い、我に従え、炎の覇王! 来れ、浄化の炎、燃え盛る大剣。
 
 ほとばしれよ、ソドムを焼きし火と硫黄。罪ありし者を死の塵に!! ──“燃える天空”!!」
 
 人二人を呑み込んで、尚有り余る程の爆炎と熱。
 
 いかな魔法先生といえど、それを喰らって無傷でいられる筈がない。
 
 ……そう、確かに無傷でいられる筈はない。……だが、それでも二人の教師は耐えきってみせた。
 
 身体の各所に火傷を負いながらも、未だ戦闘不能には至っていない。
 
「やるなぁ……」
 
 口元に挑戦的な笑みを浮かべる。
 
「ハァハァ、……大丈夫か!? シスター・シャークティ」
 
「は、はい……、なんとか。──しかし、あの若さでこのクラスの魔法を扱うなんて、末恐ろしい人材ですね」
 
 おそらく、正面からぶつかって勝てる相手ではないだろう。
 
「……時間稼ぎを頼む。……その隙に僕が彼を封印する」
 
 とはいえ、チャンスは一度、あるか? といった所だろう。
 
 ……こうなってしまうと、佐倉君に増援を呼びに行ってもらったのは正解だったか。
 
 もっとも、増援と言っても学園側には、もうロクな戦力が残っていないのだが。
 
 視線を傍らにシャークティに向けると、彼女は真剣な表情で、
 
「正直、余り自信はありませんが──」
 
 言いつつ、シスターの両手には十を越える数の十字架が握られている。
 
「出来る限りは粘らせてもらいます──」
 
「すまない」
 
 無理を承知で依頼する事に弐集院は彼女に謝罪を入れた。
 
 対するネギとしては、そんなに粘られるわけにはいかない。
 
「ブラスター2!!」
 
 更に飛躍的に高まる魔力。そして、
 
「──“戦いの歌”!」
 
 声を挙げる余裕もありはしない。
 
 “加速の羽根”で一気に弐集院との間合いを詰め、
 
「フタエノキワミッ、ア──ッ!!」
 
 奇声を挙げながら、弐集院の胸に拳を叩き込む。
 
 勿論、二重の極みなどではなく、型もクソもない喧嘩パンチだ。
 
 但し、そこに込められた魔力の桁が違う。半端な防御など役に立たない程の魔力任せのパンチ。
 
 悲鳴を挙げる間もなく、吹っ飛ばされる弐集院。
 
 完全に予想外の行動をされ、次の一手を完全に逃したシャークティ。そんな彼女の隙を逃さず、ネギは間髪入れずに蹴りを放つ。
 
 不意を付かれた形になったシャークティは弐集院同様に吹き飛び、ネギは追い打ちとばかりに、壁に衝突し意識の朦朧としているであろう弐集院とシャークティに向けて魔法の射手を叩き込んだ。
 
 粉塵と瓦礫が二人の姿を完全に覆い隠す。
 
 そこに、僅かに遅れて到着したのはタカミチだ。
 
 彼は周囲の状況からおおよその事を予測すると、ネギに対して一切の油断を見せぬ仕草で、ポケットに手を突っ込むという独特な構えを取る。
 
「…………」
 
「…………」
 
 両者共に無言。
 
 何かの切欠があれば、双方同時に動くと思われたその膠着は、意外な形で崩れる事になった。
 
「その勝負、少し待ってもらえるカナ? 高畑先生、ネギ老師」
 
 そこに現れたのは、本来ラスボスとなる筈の少女、超・鈴音だ。
 
 彼女はネギに視線を向けると、
 
「さて、ネギ老師。……聞きたい事は二つネ」
 
 一息、
 
「何故、命令に背き魔法先生達を攻撃スルカ? 本来の計画では、ここまでダメージを与える必要は無かた筈ネ。
 
 それともう一つ。……どして、龍宮さんを襲ったカ?」
 
 ネギは無言。
 
 対する超は、それで全てを理解したと頷き、
 
「答えられないような理由カ?
 
 ……例えば、自らが皆の恨みを一身に受ける事で、計画が失敗した時の仲間に対する風当たりを緩和するタメ。
 
 そして、龍宮さんを攻撃したは、全てをネギ老師が裏から操って私達を利用し、必要無くなたから切り捨てたように見せかけるタメ。
 
 ……それにより、計画が成功しても失敗しても、恨みを買うのはネギ老師一人となるネ。
 
 どかな? 当たらずとも、遠からずと言った所違うカ?」
 
 超としては、侮るな、と言いたい気分だ。
 
 皆に恨まれる覚悟くらいは、とうの昔に完了している。
 
 だがネギは、口元に嘲笑を浮かべると、
 
「俺がそんな善人に見えるか?」
 
 言って、超に魔法の射手を放つ。
 
 しかし、それはネギと同じく航時機使いである超には無駄な行為だ。
 
 彼女は何の危なげもなく、魔法の射手を回避すると、ネギから僅かに離れた位置に現れ、
 
「それが答えカ? ネギ老師」
 
 告げ、小型のスイッチを取り出す。
 
「非常に残念な結果ネ」
 
 ボタンを押した。
 
 ──瞬間、超の背中に仕込まれたカシオペア参号機が爆発し、それに連動するように彼女の周囲に漂っていた思念誘導型の小型兵器も爆砕。
 
 更には、彼女の身に纏う強化装甲服さえも機能を停止してしまった。
 
「ば、馬鹿な!? ……一体、何が!?」
 
 仰天する超。答えは彼女の眼前にいる少年が知っている。
 
「おいおい、お前が俺に首輪付けてる事くらい気付かないとでも思ったか?」
 
 ネギは勝ち誇った顔で、
 
「ちょっとばかり、プログラムを改変させてもらった」
 
 何しろ彼には、ウィル子という電子精霊がついているのだ。
 
 茶々丸はウィル子の暗躍に気付いていたようであるが、ハイマスター権限で黙らせた。
 
「俺の目的はただ一つ。──お前がお膳立てしたこの計画を乗っ取り、世界中に魔法を認識させる。
 
 そして、世界が混乱している隙に乗じて、世界征服を成し遂げ、俺が世界の王になる!」
 
 余りにも突拍子の無い目的。
 
 勿論、言ったネギでさえ、実現出来るとは微塵も思っていない。
 
 ただ超に図星をつかれて悔しいのと恥ずかしいので、取り敢えず言ってみただけだ。
 
 しかし、ネギとの付き合いの長いタカミチ、そして彼の生徒である超にはそれが照れ隠しである事は即座にバレた。
 
「まったく……、バカだねネギ君」
 
 その言葉は世界征服宣言に対して言ったものか? それとも超の言ったネギの本心に対して言ったものか? どちらであったとしても、その言葉に含まれる優しさはネギに向けられたものだ。
 
「君の想いは分かった……」
 
 彼は教師として、生徒である超の罪と恨みを肩代わりするつもりなのだ。
 
 だからこそ、
 
「ここで止めさせてもらう」
 
 これまで、ネギの凶行に対して若干の迷いのあった彼だが、超からネギの凶行の理由を聞いて全てが吹っ切れた。
 
 この優しくてバカな少年は、誰かが止めないと、いずれ自滅してしまうだろう。
 
 本来ならば、その役目は彼の側に居る少女達の役割の筈であろうが……、
 
「流石に、今のネギ君を止めるのは難しいだろうからねえ」
 
 だから、この場は彼女達の代わりにタカミチが止める。
 
「悪いが、俺も止まるつもりはねえ!!」
 
 宣言し、叫ぶ。
 
「出ろ! ブラスタービット!!」
 
 ネギの影から金色の機影が飛び出す。
 
 それは中央に真紅の宝玉を据え、周囲を攻撃的で鋭角な外殻で構成された金色に輝く小型の思念誘導兵器。
 
 それが4つ。
 
 元々、デザインは超の使用していた物と同じだったのだが、ネギが我が侭を言って改造させた代物だ。
 
「……行け!」
 
 ネギの命令に従い、ブラスタービットがタカミチの周囲を飛び交い隙を見て彼に砲撃を浴びせかける。
 
 対するタカミチも“偉大なる魔法使い”ではないとはいえ、それに匹敵する力を有する猛者。
 
 ブラスタービットから放たれる砲撃を全て回避しつつ、ネギへ攻撃を仕掛けようと試みる。
 
 だが、それがネギの罠だ。
 
 ブラスタービットが単調な砲撃しか出来ないと思わせておいて、密かにタカミチの周囲に時限式の拘束魔法を仕込んでおく。
 
 ……貰ったぞ、ネギ君!
 
 タカミチがネギに特大の一撃を放とうとした瞬間、ブラスタービットによって仕組まれていた拘束魔法が発動。タカミチの身体を絡め取る。
 
「……クッ!?」
 
 何とか拘束から逃れようと足掻くタカミチの耳に、ネギの詠唱が聞こえてくる。
 
「──ラス・テル・マ・スキル・マギステル。
 
 灼熱の王子よ! 極寒の皇女よ! 等価なる汝ら、競いて優れたるを我に示せ。
 
 燃やせよ凍嵐、氷柱となせ獄焔──! “対滅たる地獄”!!」
 
 炎と冷気が螺旋を描きながらタカミチに襲いかかる。
 
 極端な温度差をもって目的物を粉砕する魔法だ。
 
 拘束され、身動きを封じられている今のタカミチに回避する手だてはない。
 
「グッ……、おぉッ!?」
 
 成す術もなくネギの放つ術に飲まれるタカミチ。
 
 いかな彼とはいえ、あの魔法の直撃を喰らって立ってはいられなかった。
 
 倒れ伏し動かなくなったタカミチを確認すると、ネギは視線を超へと向ける。
 
「……さて、お前には今後も色々と俺の為に働いて貰わねぇといかないんでな。
 
 学祭が終わるまではおとなしくしていてもらおうか」
 
 告げ、拘束魔法を発動しようとするも、超の顔に浮かぶ余裕ともとれる笑みを見て僅かに躊躇う。
 
 ……まだ何か隠し球があるのか?
 
「コード、■■■■■■■■
 
 呪文回路解放、封印解除。
 
 ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル──」
 
 超の身体に呪紋が浮かび上がる。
 
「始動キー!? ……魔法だと!?」
 
「──契約に従い、我に従え、炎の覇王! 来れ、浄化の炎、燃え盛る大剣。
 
 ほとばしれよ、ソドムを焼きし火と硫黄。罪ありし者を死の塵に!! ──“燃える天空”!!」
 
 途轍もない規模の爆発がネギを呑み込まんとする。
 
 しかし、カシオペアを有するネギにとってどれ程強大な威力を持った魔法であろうと意味はない。
 
 絶対回避によって、その一撃を危なげもなく避けたネギは超の背後に姿を現し、
 
「大した隠し球だ。
 
 ……だが、航時機使いの俺には何の役にも立たない事は、お前が一番良く知ってるだろう?」
 
 超が振り向き様に拳を突き出すも、ネギの手により簡単に受け止められてしまう。
 
「掛かって来るなら、この如何ともしがたい実力の差を、ちったぁ埋めてから掛かって来い!」
 
 告げ、超の額に拳を叩き付けて吹き飛ばした。
 
「グッ……、うぅ……」
 
 全身傷だらけになりながらも、懸命に立ち上がろうとする超。
 
 そんな彼女に向け、ネギは情け容赦無く追い打ちの魔法の射手を放つ。
 
「あぁ──ッ!?」
 
 20を越える魔弾が、超の身体を再度吹き飛ばす。
 
 それでも辛うじて意識を繋ぎ止めた超は、再度立ち上がろうとするが、ネギはそれを許しはしない。
 
 彼女の元まで歩み寄り、その背中を踏みつける。
 
「クァッ!?」
 
 悲鳴を挙げる超を冷徹な眼差しで見下ろし、
 
「──“爆裂”」
 
 彼女に向けてトドメとなる一撃を喰らわした。
 
 至近距離で爆発を受け、ようやく気を失った超。
 
 それを確認し、ネギはこれ以上、彼女を攻撃しないですむ事に安堵の吐息を吐き出すが、次の瞬間にはその顔に憤怒の表情を浮かべる。
 
 ……どこの何奴だ? コイツの身体にこんなえげつねえ呪紋仕込みやがったクソ野郎は!?
 
 あれは魔法使いではない者の命を削り魔法を使用可能とさせる呪紋だ。
 
 そして、そうまでして計画を成功させようとした超にも怒りを覚える。
 
 ……自分一人で全部背負い込もうとしてんじゃねえぞ、馬鹿野郎が。
 
 それは自身にも言える事なのだが、彼は気付いているのだろうか?
 
 ともあれ、重体の超に治癒魔法を施し、ネギは視線を次なる目的地へと向ける。
 
「……余計な時間食っちまったな」
 
 ……間に合うか?
 
 彼が気にしているのは、6カ所の魔力溜まりにおける侵攻の具合だ。
 
 おそらく、あの機械制御された鬼神達では、彼の生徒達には勝てないだろう。
 
 最悪、封印処理されてない事を祈るまでだ。
 
 ネギは杖に乗るとその場を飛び去った。
 
    
 
 
  
   
 
 
 
 
−世界樹広場前−
 
 現れた巨大生体兵器に対し、裕奈が手にした魔法銃に魔法の込められた弾丸を挿入する。
 
「……征くよ、“唱える者”」
 
「いいから、早くしてゆーな! もう限界だよぉ!!」
 
 裕奈を守護するように展開した運動部のメンバー達だが、流石に数の違いが如実に出てきて、田中の侵攻を抑えるので一杯になってきていた。
 
 まき絵の悲鳴を受け、裕奈は魔法銃を構え照準を合わせる。
 
「喰らえ!! “竜の咆吼”!」
 
 魔法銃から伸びる極太の光条が鬼神の上半身を捉えた。
 
 ……かに見えたが、粉煙が晴れてみるとそこには無傷なままの巨人の姿がある。
 
「嘘……、なんで!?」
 
 完全に煙が晴れると、その原因が判明した。
 
「……ネギ先生」
 
 間一髪、間に合ったネギが、防御に成功したのだ。
 
「──こちらスターズ1、ギリギリセーフでヘリの防御成功!」
 
「いや、スターズ1って誰よ!? そもそもヘリなんて無いし!」
 
 裕奈の抗議も虚しく、ネギは彼女達の殲滅に入る。
 
 否、別に全員を倒す必要は無い。この中で鬼神を倒せる力を有している裕奈一人を無力化させれば済むだけの話だ。
 
 それに全員を相手にしているだけの時間の余裕は彼には無い。
 
 だが、裕奈を守るように亜子達がネギの前に立ちふさがる。
 
「お願いです、ネギ先生! もう、こんな事止めて下さい!」
 
 亜子が悲鳴に近い叫びを挙げるが、それはネギには届かない。
 
 ネギの見たところ、彼女達は武器さえ奪ってしまえば戦闘力が激減するだろう。
 
 だからネギは封印を解く。
 
 余りにも強力過ぎる為、自ら封印したあの魔法を──。
 
「……“風花・武装解除”!」
 
 突風が彼女達から全ての武器・防具・衣服・下着を問わず剥ぎ取り、一糸纏わぬ姿へと変える。
 
「きゃぁ──!!」
 
 羞恥に身体を抱えてその場に蹲る運動部4人組。
 
 それを後目にネギは地上に降り立つと一歩を強く踏み込んだ。
 
 彼の爪先が向く方向、それは麻帆良国際大学附属高等学校がある。
 
 彼は予め放っておいた広範囲偵察用の光球からの情報で目標の位置を確定し、最後のリミッターを解除した。
 
「ブラスター3!!」
 
 4機のブラスタービットが彼の周囲で砲口を同一方向へと向ける。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 灰燼と化せ冥界の賢者、七つの鍵をもて開け地獄の門! “七つ鍵の守護神”!!」
 
 本日二度目の“七つ鍵の守護神”。
 
 放たれる光条が、建物を次々とブチ抜き目標へと一直線に迫る。
 
 
 
 
 
 
 
   
 
 
−麻帆良国際大学附属高等学校−
 
 この場に現れた鬼神を殲滅すべく呪紋の詠唱を開始しようとしたエヴァンジェリンの視界に、奇妙な光球が現れた。
 
「……コイツは」
 
 どう見ても、魔法による物だ。
 
 ……確か、コレは。
 
「御主人、ソリャ広範囲索敵用ノ魔法ジャネェノカ?」
 
 チャチャゼロの言葉で思い出す。
 
「……そう言えば、ぼーやが偶に使っていたな」
 
 視界の外にいる敵に対して、この魔法で位置を特定し、障害物ごと砲撃魔法で殲滅する。
 
「とはいえ、近くにぼーやの魔力は感じな……」
 
 そこで、気付く。
 
 世界樹広場の方。無視出来ない程に大きく膨れ上がっていく魔力がある事に。
 
「……正気か!? あそこからここまで、どれだけの距離が! 幾つの障害物が存在すると思っている!?」
 
 普段のネギではまず届かない。
 
 否、仮に届いたとしても、その魔法は減衰していて殺傷力は皆無といった所だろう。
 
 そこにエヴァンジェリンの油断があった。
 
 今のネギは超のオーバーテクノロジーと世界樹の魔力によって、彼の限界以上の力を引き出せる状態なのだ。
 
 校舎をブチ抜き現れた特大の光熱波がエヴァンジェリンに迫る。
 
「なッ!?」
 
 逃げる事は疎か、悲鳴を挙げる暇も有りはしない。
 
 エヴァンジェリンはそのまま光に呑み込まれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
−世界樹広場前−
 
 麻帆良国際大学附属高等学校の方は、取り敢えずこれで良し、と安堵の吐息を吐き出す。
 
 ……まぁ、エヴァは倒せなかっただろうけども、取り敢えずは良しとするか。
 
 今は不意打ちをマトモに喰らって気を失っているようであるが、気が付けばそれはもう悪鬼の如き形相でネギを追ってくるだろう。
 
 その時の事を思うと、非常にウンザリさせられるが、今は成さねばならない事がある。
 
 ネギは近くの瓦礫と化した店からカーテンを引っぱり出してくると、それを四人組に投げ渡す。
 
 それに対する返答は、罵倒だ。
 
「せ、セクハラ教師ぃ! 訴えてやるんだからぁ!!」
 
 身体の各所を隠しながら吠えるまき絵。
 
 対してネギは軽く溜息を吐き出し、
 
「あのな……、そんな台詞は、せめて大河内くらい乳がデカくなってから言え。
 
 お前みたいな貧乳見ても、全然嬉しくねぇ」
 
 その言葉で、真っ赤になるまき絵とアキラ。
 
 但し、その内実は、怒りと羞恥で真逆であるが……。
 
 その場を飛び立とうとするネギ。
 
 その彼を呼び止めるように、亜子が声を掛ける。
 
「あ、あの……、先生!」
 
 僅かに躊躇い、しかしこれは重要な事だと自分に言い聞かせて羞恥を耐え問い掛ける。
 
「先生は、やっぱり大きな胸の方が好きなんですか!?」
 
「いや、今聞くとこそれ!?」
 
 裕奈達の声もテンパッた亜子には届いていない。
 
 真剣な表情で問う亜子に対し、ネギは暫く思案した後、
 
「んー……、どうだろうな? ……実は余り、こだわりとかは無いかもしれん。
 
 つーか、むしろ胸よりは尻だな」
 
 その言葉に、安堵の吐息を吐き出す亜子。
 
 サッカー部であるだけあって(マネージャーだが)、自分のお尻は結構引き締まっている筈だ。
 
 取り敢えず、これでこの場に用は無くなったと判断したネギは、今度こそ、その場を飛び立った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
−女子普通科付属礼拝堂−
 
 この地を守護するヘルマン達の眼前にも鬼神の巨大な姿があった。
 
「京都のスクナに比べたら、大したことあらへんな」
 
 余裕の態度で告げる小太郎。
 
 そのリョウメンスクナノカミを木乃香の力を利用したとはいえ、御した事のある千草も若干の余裕が見える。
 
「ま、あの程度やったら、何とかなるやろ」
 
 ちなみに彼女は封印処理を施そうなどとは微塵も思っていない。
 
 隙を見て、この鬼神を自分の手札に加えようと画策している最中だった。
 
 無論、鬼神を配下に加えたとして、何をするか? と問われれば、速攻でネギへの復讐と答えるだろうが、そんな考えは、ネギが彼女に施した呪いが許しはしない。
 
「いだだだだだだ!!」
 
 いきなり、右手を押さえて痛がりだした千草を小太郎は呆れた眼差しで見つめ、
 
「……千草姉ちゃん、ええ加減に諦めたらどうや? ネギやったら、俺がコテンパンにノしたるさかい」
 
 ……こ、こればっかりは、人任せで満足できへん!
 
 と思うが、思うだけで激痛が彼女を苦しめる。
 
 ともあれ、ヘルマンが鬼神を迎撃しようと悪魔モードに切り替わった所で、遠くから灼熱した何かが彼らの方へ接近してきた。
 
「……何や? アレ」
 
 目を凝らした小太郎の視界に映るのは、全身に炎を纏い高速で飛翔するネギの姿だ。
 
 ネギは杖の石突きをまるで槍のように突き出しながら、彼らに吶喊していく。
 
「貫けぇ! 俺の武装錬金!!」
 
 意味不明な事を叫びながら更に加速し、停まる気配など微塵も見せない彼は、勢いそのままに彼らを轢き飛ばす。
 
 その質量と加速エネルギーの前では防御など役に立たず、また逃げようとした千草も余波で吹き飛ばされる始末。
 
 結局、ネギは最後まで立ち止まる事なく、そのまま飛び去って行った。
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
−龍宮神社・神門−
 
 そこに現れた鬼神に対し、ハルナは“落書帝国”の簡易ゴーレムを召喚する。
 
 開かれたページに描かれているのは一人の男だ。
 
 金色の髪を逆立てた最強の格闘家。
 
 名を……、
 
「オッス! オラ、悟空」
 
 眼前に現れた憧れのスーパーサイヤ人に目を輝かせる古菲。
 
「ハルナ、ハルナ! 早く戦ってもらうアルよ!」
 
 急かしてみるが、ハルナからの返事は無い。
 
 不審に思って振り向いてみる。
 
 そこに居たのは、胸から腕を生やしたハルナの姿。
 
 ハルナの身体から伸びる腕に握られているのは、彼女の魔力の源とも言うべき結晶体。
 
 慌てて、彼女の背後に回り込む古菲。
 
 しかし、そこには人影は見当たらない。
 
 ……そういえば、腕の突き出たハルナの身体からは一滴の血も出てなかったアル。
 
 だとすれば、コレも魔法の一種なのだろう。
 
 そうなると犯人も決まってくる。
 
「……ネギ老師アルか!?」
 
「御名答。……悪いが、早乙女の能力は厄介なんでな。こういう方法で、決着をつけさせてもらう」
 
 一息、
 
「──臓物をブチ撒けろ!」
 
 叫び、彼女の魔力の源たる結晶を握り潰した。
 
 悲鳴を挙げる事さえ出来ず、その場に崩れ落ちるハルナ。
 
 傍らに居た古菲が慌てて彼女の身体を支える。
 
「ハルナ!? ハルナ!? ──大丈夫アルか!?」
 
 揺すってみるが、返答は無い。
 
 駆け寄って来たココネがハルナの脈を確認し、
 
「大丈夫……。意識は無いケド、命に別状はナイ……」
 
 それを聞いて安堵の吐息を吐き出す古菲。
 
 しかし、安心するにはまだ早い。
 
「来た来た来た来たよ──ッ!!」
 
 悲鳴に近い声を挙げながら、美空がやって来る。
 
 彼女が指さす方向。そこには田中の大群と巨大な鬼神がすぐそこまで押し迫っていた。
 
 それを見た古菲は、短い逡巡の後、ハルナの身体をココネに預ける。
 
「さて……、三人共、下がるといいネ。
 
 ──この場は私が引き受けたアル」
 
 どのような状況であろうと、彼女は諦めるわけにはいかない。
 
 何せ、この戦いには、彼女の親友である超・鈴音の進退も掛かっているのだ。
 
 例え、この身が砕けようとも、引くわけにはいかない。
 
 悲壮とも言える決意の元、古菲は駆け出した。   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
−フィアテル・アム・ゼー広場−
 
 無数の田中達と巨大な鬼神を引き連れ、姿を現したネギと対峙するアーニャ達。
 
 彼らを前に、少女達は焦りを感じていた。
 
「……ど、どうすんの!?」
 
 問い掛ける明日菜に対し、アーニャはむしろ予測通りといった表情で、
 
「……まぁ、こうなるんじゃないかなぁ、とは薄々思っていたんだけどね」
 
 諦めの混じった溜息を吐き出し、眼前で倒れ伏す女性に視線を投げかける。
 
 そこに倒れているのは、金髪の女性。
 
 彼女達の切り札とも言うべき存在。ネカネ・スプリングフィールドだ。
 
 ネカネはネギと対峙して早々、
 
「あーれー(はぁ〜と)」
 
 とか言って、態とらしく倒れてしまった。
 
 彼女にしてみれば、ネギと敵対するつもりなど、更々無い。
 
 ネカネにとって、ネギが全ての中心であり、彼こそが彼女の全てと言っても過言でもないのだ。
 
 ネギが学園を追放されたら、勿論付いていくし、その為に何人もの女の子が泣く事になろうとも知った事ではない。
 
 そんなに一緒に居たいのならば、付いてくれば良い。否、……その程度の覚悟も無いような者はむしろ彼女の方からお断りだった。
 
 ……ともあれ、そんな状況で鬼神も迫る中、彼女達はネギと対峙する事になったのだが、
 
「……私と明日菜はネギの相手で一杯一杯。高音、雑魚を掃討しながら、あのデカブツ落とせる?」
 
 ハッキリ言って、自信は無い。……そもそも、彼女の使う操影術は人間大の相手を想定された物であり、鬼神のような巨大な物を相手にするような術式は無いのだ。
 
 だが、それでも、ここでNoと言える状況でもないのは確かだ。
 
「任せておいて下さいな」
 
 強がる高音。しかし、ネギも黙って見ているわけではない。
 
 彼が一歩を踏み出し、街灯によって長く伸びたアーニャの影を踏む。
 
 それで、彼女の動きは完全に封じられた。
 
「な、何これ? ……身体が動かない!?」
 
 動揺するアーニャを捨て置き、ネギの手が虚空を掴む。
 
 否、ネギの手ではなく、彼の影がアーニャの影を掴んでいる。
 
「ほらよッ!」
 
 気合い共に、ネギの影がアーニャの影を投げ飛ばし、それに引っ張られるようにして、アーニャの本体も投げ飛ばされ、壁にぶつけられた。
 
「ウッ!? ……あぁ」
 
 突然、アーニャが吹っ飛んだ事に理解出来ず、目を白黒させる明日菜。
 
「ちょ、ちょっと!? アーニャさん! 一体何が、どうしたっていうのよ!?」
 
 だが、アーニャに答えられる余裕などありはしない。
 
 壁に叩き付けられた衝撃で、軽い脳震盪を起こしている。
 
 そんなアーニャに変わって、先程のネギの術を見抜いたのは高音だ。
 
「……今のは、操影術なのですか?」
 
 対するネギは薄い笑みを浮かべ、
 
「ちょっとした応用だよ。
 
 ……操影術を上手く使えば今のような事も、また影の中に武器を忍ばせておくことも可能だ」
 
 それを使ってネギは、修学旅行時に親書を千草の目から隠し通した。ブラスタービットの収納場所に関しても同様だ。
 
 大体、高音のように一々素っ裸になってから黒衣を纏わなくても、着ている服に影を浸食させて防御力を向上させる事も可能なのだ。
 
「つーわけで、後が混んでるんでな。
 
 ──お前らもここで休んどけ」
 
 告げ、術式を構成する。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル──」
 
 それを見た明日菜が高音の前に回り、自らの身体を盾とした。
 
 対するネギは詠唱を変更。
 
「……“光よ”」
 
 小さく呟き、明日菜達の目を眩ませる。
 
「クッ!?」
 
 いかな魔法完全無効化能力者とはいえ、これは無効化出来ない。
 
 明日菜の視界を奪った一瞬の隙を付いて、ネギは彼女の懐に入り込み、その腹に拳を叩き込む。
 
 その一撃で明日菜は意識を刈り取られ、その場に崩れ落ちた。
 
 ……そして、
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル──。 
 
 伝承にありしは聖なる鐘を携えし御使い。
 
 古の誓約に基づき、今こそ滅びの音を打ち鳴らせ!
 
 “光の章・第二の神畏”」
 
 ネギが呪文を唱えると、純白の大翼を持ち、全身を白いローブで覆い隠した人物……、“偉大なりし者の代理人”が現れ、その手に持った鐘を掻き鳴らす。
 
 その耳障りで甲高い、まるで断末魔のような音が物理的に収束され、高音の身体を撃ち抜いた。
 
「くっ……、ぁ!」
 
 その場に頽れ、前のめりに倒れ伏す高音。
 
 それを確認したネギは、視線を倒れたまま動かないネカネに視線を向け、
 
「じゃあ姉ちゃん。後の事頼む」
 
 告げるが返事は無い。
 
 代わりに『お姉ちゃん、気絶中』と書かれたテロップが掲げられた。
 
 ……つまり、気絶してるから話掛けるな、と。
 
 ネギは溜息を吐き出し、その場を後にした。
 
    
 
 
 
 
 
 
 
 
−麻帆良大学工学部・キャンパス中央公園−
 
 現れた鬼神を前に、夕映が懐から取り出した複製ではない、本物の仮契約カードを掲げて詠唱を開始する。
 
「リリカル・マジカル! ……蒼穹を走る白き閃光 我が翼となり天を駆けよ、……こよ我が竜ウィーペラ!! ──“竜魂召喚”」
 
 仮委任状により、夕映の手によって封印を解かれたウィーペラが真の姿を現す。
 
 それは全長10m超過の巨大な飛竜。
 
「うわ……、あのチビ、こんなにでっかくなれたの?」
 
「つーか、コレがホントの姿らしで?」
 
 ウィーペラの眼下で釘宮と木乃香の会話が交わされる中、その背に乗った夕映は、攻撃目標を鬼神に定めた。
 
「……征くです!」
 
 ──咆吼をもって夕映に応える。
 
「──“光条の咆吼”!」
 
 ウィーペラの顎から破壊の力を宿した光りが放たれようとした瞬間、鬼神の前に立ちふさがる影が現れる。
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル──」
 
 その影は素早く術式を展開すると、
 
「誰もがそのままで、……ずっとずっと、そのままでいられるために──」
 
 ネギの持つ杖の先端から黒の刃が伸びる。
 
「──“運命の刃”!」
 
 その刃に直接的な殺傷能力は無い。……但し、その刃はあらゆる運命を切り開く。
 
「《我が運命は未だ死を告げず》」
 
 言葉と共に振るわれる黒刃。
 
 それはウィーペラの砲撃による死という運命を切り裂いた。
 
 直後、ウィーペラから放たれた光条がネギ達を直撃する。
 
 しかし、光はネギ達に当たる事無く、鬼神の背後へとすり抜けた。
 
「……え?」
 
 信じがたい出来事に目を見開く女生徒達。
 
 ネギはそのまま新たな呪文の詠唱を開始、
 
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル──。
 
 其は忌むべき芳名にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ、招かれざる者よ……。
 
 “熾天使の矢”!」
 
 ネギの杖から光条が放たれると同時、
 
「ウィーペラ!」
 
 いち早く立ち直った夕映が命を下し、翼竜からも光条が放たる。
 
 二つの光条は空中でぶつかり拮抗。
 
「……やるじゃねえか、綾瀬」
 
 若干、押されつつも余裕を見せるネギ。
 
 そんな彼に対し、夕映は懐から掌大の八角形をした魔導具を取り出す。
 
 それはミニ八卦炉と呼ばれる代物だ。僅かな魔力を流すだけでバカみたいな威力の砲撃を放つ事が出来る。
 
 その事を知っているネギは顔を青ざめさせ、
 
「エヴァの野郎、俺がくれって言っても絶対くれなかったのに!?」
 
 訂正、悔しかっただけらしい。
 
 そんなネギに構うことなく、夕映はミニ八卦炉を起動させる。
 
「“マスター・スパーク”!!」
 
 放たれた光条は黄色に近い白の閃光。
 
 それがウィーペラの竜砲と重なり、一気にネギを呑みこまんとする。
 
 だがネギはそれでも余裕の笑みを浮かべて、
 
「にわか仕込みの砲撃で、俺と張り合おうなんざ、56億7千万年早ぇ!」
 
 ネギの周囲に浮遊するブラスタービットの砲口に光が宿る。
 
「ぶっ放せぇ!!」
 
 ブラスタービットからの援護射撃を得たネギの“熾天使の矢”は、相乗効果でその威力を数倍へと高め、一気に形勢を逆転した。
 
「一度、直に味わってみろ。──人生観変わるぞ?」
 
 直後、夕映とウィーペラは光の奔流に呑まれた。
 
 ……刹那と夕映を失い、戦力的に残った者達では鬼神を倒す事は不可能だろう。
 
 そう判断したネギは、踵を返し視線を上空に向ける。
 
 向かうは天空に浮かぶ飛行船。そこでは葉加瀬が儀式魔法の準備を整えている筈だ。
 
 ……もう、俺の裏切りは気付いてる筈だからな。ハカセには、力ずくでも協力してもらわねえといけねえし。
 
 そんな事を考えながら、空へと飛び立つネギ。
 
 それを成す術なく見送る事しか出来なかったチア部の面々。そんな彼女達に田中達の軍団が迫る。
 
「ど、どうすんのよ?」
 
「ど……、どうするって言っても、わ、私達じゃどうしようもないじゃない!?」
 
 タダでさえ、圧倒的に不利な状況下であるにも関わらず、更に向こう側には援軍まで到着する始末。
 
 どうやら援軍は茶々丸(妹)らしいのだが、一体一体改造されているらしく微妙に装備が異なる。
 
「茶々丸(妹)Mk−2と申します。以後、お見知り置きを……」
 
「Z茶々丸(妹)と申します。以後、お見知り置きを……」
 
「茶々丸(妹)ZZと申します。以後、お見知り置きを……」
 
 続々と登場する茶々丸(妹)シリーズ。
 
 その他には茶々丸(妹)GP03−デントロビウムやストライクフリーダム茶々丸(妹)など、多種多様な茶々丸(妹)が登場した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
−麻帆良学園上空・飛行船−
 
「待たせたな、葉加瀬。じゃあ、ちゃっちゃっと、詠唱始めてくれ」
 
 眼前に姿を見せ、そんな事を言い始めたネギに対して、葉加瀬はさして慌てる事なく、
 
「事情の説明とかも、一切無しですか?」
 
「面倒臭ぇからな。全部終わってから説明してやるよ」
 
 そう告げるネギ。対する葉加瀬だが、大方の事情は通信を通して知ってはいる。
 
 自らが悪を行い、例え何人もの人に恨まれる事になろうとも、より多くの人達を救える道を絶えず選択し続ける孤高とも言うべき気高い意思。
 
 その事から、彼女の導き出した結論は、
 
 ……流石、超さんのご先祖様といった所ですか。
 
 超からネギとの関係を聞かされている葉加瀬はネギと超の共通点に苦笑を浮かべざるをえない。
 
「分かりました。……計画通り、儀式魔法の詠唱を開始します」
 
 ネギの予想よりもすんなりと同意した葉加瀬に対し、彼は訝しげな視線を投げかけ、
 
「……随分と素直だな?」
 
 警戒心を露わにして、思わず問い掛けてしまった。
 
 対する葉加瀬は肩を竦め、
 
「ご不満ですか?」
 
「つーか、拍子抜けした……」
 
 告げ、いざという時の為に用意しておいた遅延魔法を解放する。
 
「“剣の王”……、解放」
 
 刹那の後、葉加瀬の周囲を取り囲むように、20を越える真紅の短剣が出現した。
 
 そしてネギは溜息を吐き出し、
 
「折角用意したんだから、そのままで作業しとけ」
 
「……余計、集中出来ないような気もするんですが」
 
 とは言いつつも、ネギの本心を見抜き、余計な事は言わないでおく。
 
 ……こうしておけば、傍目から見れば、私は脅されて協力させられているようにしか見えないんですよね。
 
 これならば、万一計画が失敗したとしても、葉加瀬に被害が及ぶ事も無いだろう。
 
 ネギの心遣いを汲み、敢えて何も言わず、葉加瀬は詠唱を開始した。
 
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