魔法先生……? ネギ魔!
 
 
書いた人:U16
 
第26話
 
「ところでさ……」
 
 ミーティングが一区切りついた所で、ハルナが切り出した。
 
「そもそも、何でフェイト一味ってネギ先生に絡んでくるの?」
 
 その問い掛けに対して、ネギは僅かに考えると、
 
「まぁ、強いて言えば……、“紅き翼”とかいう連中の尻拭いだな。
 
 ぶっちゃけいい迷惑だ。苦情なら、そこのオッサンに言うように」
 
 とはいえ、それで納得させらない程度には、彼女達も巻き込まれている。
 
「つーわけだ。……そろそろ、コイツ等にも教えてやっても良いんじゃねぇーか? ジャック」
 
「面倒臭ぇなぁ……。とはいえ、本気で奴らとやり合うつもりなら、相手の素性や名前くらいは知っておいて損はねぇか」
 
 気怠げな仕草で取り出したのは一本の8mmフィルム。
 
 ナギとラカンの出会いから始まったそれは、少女達の野次を受けながらも進行していったが、ウェスペルタティア王国のアリカ王女が登場した辺りから雲行きが怪しくなってきた。
 
 ポップコーンとコーラを片手にノンビリと観覧していた少女達の顔色が目に見えて変わる。
 
 ……それもその筈、大ネギま団の中でも自他共に認める最強の名を冠する少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがあからさまに不機嫌なのだ。
 
 どのくらい不機嫌かというと、ナギとアリカ王女がデートしているシーンでは、自覚無しに彼女の身体から闇のオーラが噴出している程度に不機嫌だった。
 
「この……、二重眉女が……ッ!?」
 
「ヒッ!? お、落ち着いてエヴァちゃん!?」
 
 既に映画の方はクライマックスまで進んでいるのだが、誰一人として観ている余裕のあるような者は居ない状況となっていた。
 
「ちょっと、アンタも止めるの手伝いなさいよ、ネギ!」
 
 言って、明日菜が振り向いた先、何やら真剣な表情で考え込んだネギが、
 
「……もし仮に、あのアリカ王女が俺の母親だったと仮定した場合、ひょっとして俺ってば王子様? だとすると、ドサクサ紛れにクーデターでも起こして王権奪取するのも一興か」
 
「一興じゃねぇ!? いいから、エヴァンジェリンの奴止めろ!」
 
 という千雨の必死な抗議もネギの耳には届いていない。
 
 それどころか、
 
「ネギ先生。――クーデターには、是非とも悪の科学者が必要だと思わないかネ?」
 
「ふふふ、その時は、お姉ちゃんにも手伝わせてね」
 
 と煽る輩も出る始末。
 
「ぶははは! なかなか面白ぇ反応だな、オイ」
 
 そんな混沌でさえ楽しめるのは、流石、伝説の英雄といった所か。
 
 そんな感じで、結局重要な事は何も決められずにミーティングは終了した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて……、何だかんだで拳闘大会の方に話は戻る。
 
「暫く見ねぇ内に、成長してんな、あの犬」
 
 男女二人の蜘蛛魔族を相手に、目隠し+左腕一本という制約を己に掛けた小太郎が、それでもなお、相手を圧倒していく。
 
 最大攻撃力では、勝っている自信はあるものの、純粋に1対1での戦闘になった場合、勝利するのは難しいだろう。
 
 それ程までに、小太郎の成長は凄まじかった。
 
 というのも、ネギがラカンの元で修行している間、エヴァンジェリンがネギの代理として小太郎とコンビを組んでいたのだが、普通に戦っては余りにも圧倒的過ぎでつまらんと言い出した彼女が、全ての試合を小太郎一人、しかも事ある毎に何かしらの制約……、逆立ちで戦えだの、一歩も動かずに勝利しろだのと言った無理難題を彼に課したのだ。
 
 これがネギならば全力でゴネただろうが、それが強くなる為の修行の一環となれば、小太郎は真摯に実行する。
 
 ――その結果、
 
『おぉ――っと!! これは凄い! 小太郎選手、目隠しをしたまま、左手一本で相手の六本腕による攻撃を全ていなしている!』
 
 この程度の芸当は、余裕で可能となっていた。
 
「……心底ムカツクけど、余裕臭ぇなぁ」
 
 そう判断したネギはその場に腰を降ろし、懐から魔導書を取り出して読み始めた。
 
 ……まだまだ、姉ちゃんやキティには及ばねぇけども、仲間内じゃあ頭一つ飛び出てんな。
 
 しかも、まだ何かしらの奥の手を隠していると推測される。
 
 そんなネギの行動が挑発に見えたのか、相手コンビの攻撃の激しさが増すものの小太郎まで届かない。
 
「つーかネギ、お前サボっとらんと手伝おうとか思わんのかい!?」
 
 言っている間に、蜘蛛魔族(男)の作り出した激流が小太郎に襲い掛かる。
 
 ――が、無駄だ。瞬時に間合いを詰めた小太郎の一撃で地面に叩きつけられて沈黙してしまう。
 
「何だ? 一人じゃ勝てないからって、もう泣き言か。……ったく、最近の犬はだらしねぇなぁ」
 
「あぁ? 寝言か? 寝言やったら……」
 
 ネギと小太郎の口論の隙を付いて、背後から小太郎に襲い掛かる蜘蛛魔族(女)だが、小太郎は最小限の動きでその攻撃を回避すると、彼女の襟首を掴み、
 
「寝てから言えやッ!!」
 
 ネギに向けて投擲した。
 
 対するネギは本から視線を上げようともせず、座したままの体勢のまま。
 
「ギャン!?」
 
 ネギを護る頑強な障壁にぶち当たり、蜘蛛魔族(女)はそのまま意識を手放した。
 
『勝負あり!! ――圧倒的! 拳闘大会本戦に入ってなおこの余裕! 誰かこのコンビを止める事が出来るのか!?』
 
 白熱する審判の魔族少女のアナウンスの元、いつも通りネギと小太郎の喧嘩が開始される。
 
「テメ……、目隠しと左手一本じゃねぇのか、コラ!?」
 
 鼻の穴に指を突っ込まれ、そのまま引っ張られながらも抗議の声を挙げるネギに対し、小太郎は股間に執拗な蹴りを受けながら、
 
「お前も、本読んどるんとちゃーうんかい!?」
 
 噛み付き、目潰しと大人気ない攻撃を繰り出す。
 
 試合よりも深刻なダメージを受けながら喧嘩を続けていると、背後から彼らを引き剥がす手が伸びた。
 
 ネギの身体を優しく引き剥がす腕と、小太郎の身体を無造作に投げる腕だ。
 
 見事な弧を描いて空中を舞った小太郎の身体が地面に叩き付けられる。
 
 辛うじて受け身だけは取れたものの、即座に背中を指で押さえられた。
 
 ……僅かに指一本。だが、それだけで小太郎の動きが完全に封じられ立ち上がる事が出来ない。
 
 蜘蛛魔族を相手に圧倒的な実力を見せた小太郎を一蹴する程の実力者。
 
「じゃれ合いも結構だが、次の試合の邪魔だ。退いていろぼーや」
 
 聞き覚えのある声。
 
 それも当然だろう。何しろ小太郎を押さえつけているのは、年齢詐称薬で大人になってはいるものの、最強の悪として魔法世界全土にその名を轟かせているエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであり、ネギの身体を優しく抱き締めているのは彼を溺愛する従姉のネカネ・スプリングフィールドだ。
 
「……なにやってんだ? キティ」
 
 今、この場に彼女達の現れる理由が分からずに小首を傾げるネギに対し、エヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべ、
 
「当然、これから試合に決まっている」
 
「……試合?」
 
 ネギの代理として出場していた拳闘大会予選のお陰で、彼女にも本戦の出場権利が大会陰の出資者から特別に与えられたのだ。
 
「それで、ついでなんで貴様の姉を誘ってみる事にした」
 
「なんですとッ!?」
 
 そんなサプライズ聞いてない。
 
 ……そんな事をされたら、優勝賞金の100万ドラクマを持って旧世界に戻らずこっちの世界で面白可笑しく暮らす計画が!?
 
 それが顔に出たのだろう。ネギに向け、勝ち誇った表情を浮かべたエヴァンジェリンが、
 
「おや? どうしたぼーや。随分と顔色が優れないようだが?」
 
 小太郎を解放すると、ネギに歩み寄ってその肩を叩き、
 
「抜け駆けは無しだぼーや。どうせ貴様、地球に帰るつもりなど無いのだろう?」
 
 主要ゲートポートが全て破壊されている状況で、ナギがこちらの世界に居るのだ。
 
 彼を捜すのならば、逃げ場の無い今が一番適している。
 
 こちらの世界の高官達の中には気に入らない者達も多々居るが、それでもナギに会えるのならば、多少ウザいくらいは我慢してやっても良い。
 
「連れて行け。……と言った所で、素直に言う事を聞くようなタマでは無いのだろう?
 
 ならば、交換条件だ」
 
 彼女達が優勝し、賞金をGetする。
 
 お金が欲しければ、一緒に連れて行けというエヴァンジェリン。
 
 そうなれば、間違い無くネカネも付いてくるだろう。エヴァンジェリンの従者である茶々丸も、だ。
 
 ……アーニャも来そうだな。
 
 そうなっては、自由を謳歌する事が出来ない。
 
 ……ぐぅ。――何とかしねぇと。
 
 心境としては、初めての一人暮らしにワクワクしていた学生が、親の急な転勤で家族揃って引っ越しする事になり、一人暮らしの夢が潰えてしまったようなものだ。
 
「おいおい、俺達が優勝したらどうするつもりよ?」
 
「ふん、出来るつもりでいるのか? ぼーや。
 
 ……まぁ、仮に貴様等が優勝出来たなら、麻帆良学園で待っていてやっても良いぞ。
 
 優勝出来たなら、な」
 
「まぁ、無理やろ」
 
 早々に諦める小太郎。
 
 ぶっちゃけた話、彼にしてみれば賞金さえ入ってくるのであれば、多少人数が増えた所で大差ないのだ。
 
 だが、ネギにしてみれば話は変わってくる。
 
「諦めんな馬鹿野郎! これには、俺の自由が掛かってんだぞ!」
 
 そう。これは彼が過保護な保護者から逃れる為の聖戦なのだ。
 
「心底、どーでもえぇわ。……やけど」
 
 一息。挑戦的な笑みを口元に浮かべ、
 
「今の俺等の力が、本物相手にどの程度通じるか試してみるのは面白いな」
 
「まぁ、お前が足止めに成功さえすれば、勝てる可能性もあるんだがな……」
 
 確かに、ネギの魔法の破壊力は旧世界、魔法世界合わせてもトップレベルだ。
 
 命中させる事さえ出来れば、何とかなるかもしれない。
 
 とはいえ、既にフェイトを退けている事もあり、彼女達には油断も慢心も無いだろう。
 
「そうと決まったら、とっとと帰って特訓やな!」
 
 艦の中には万が一の時を考慮してエヴァンジェリンの別荘を持ち込んである。
 
 あそこで修行すれば、一月程度の時間は稼げる筈だ。
 
 互いに頷き合い、ネギと小太郎は大急ぎで闘技場を後にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「たたた、大変だぁ――!! 大事件ッスよ、兄貴ィ――!!」
 
 ネギ達が別荘に籠もって三日ほど経過した辺りで、血相を変えたカモがやって来た。
 
 エヴァンジェリンとネカネの拳闘大会参加以上に問題があるとは思えないが、取り敢えず問うてみると、更に最悪な事にカゲタロウのパートナーとしてラカンが拳闘大会に参戦しているとの事。
 
「はぁ? 何考えてやがんだ、あのオッサン!? ……いや、だが待てよ。運が良ければ姉ちゃん達とジャックで潰し合いになってくれるんじゃ……」
 
「いーや、残念ながら、その可能性は0に終わったようだぜネギ先生」
 
 遅れてやって来た千雨の手には一枚の紙がある。
 
 拳闘大会のトーナメント表が書かれたそれによると、ネギ達が順当に勝ち進んだ場合、準決勝でエヴァンジェリン・ネカネ組と、もし彼女達に勝てたとしても決勝でラカン・カゲタロウ組と戦う事になる。
 
 ……ただでさえエヴァンジェリン達に対する勝率が0に近いというのに、準決勝で全力を出しすぎては疲労の蓄積や手の内をラカン達に見せる事になってしまう。
 
「くっそー……。せめて、キティか姉ちゃん一人だけだったら……。
 
 つーか誰だよ。キティの呪い解いた馬鹿」
 
「アンタだろうが……」
 
 愚痴るネギに千雨がツッコむが、そのお陰でネギの脳裏にある作戦が思いついた。
 
「いや、待てよ。……この方法なら、準決勝をほぼ無傷で勝つ事が出来る」
 
「何やて?」
 
 あの二人を相手にする場合、例え全盛期の“紅き翼”のメンバーであろうと完全勝利など不可能な筈だ。
 
「その辺は俺に任せとけ。これからは焦点を決勝だけに絞るぞ」
 
「……なんや嫌な予感しかせぇへんわ」
 
 そう零しながらも修行を再開させる小太郎だが、彼の懸念通り勝利の代償として準決勝の後、彼らは観客全てを敵に回す事になる。
 
「あの“闇の福音”と元・偉大なる魔法使いを相手に無傷で勝利とは……、随分と吠えるではないか」
 
 やって来たのは褐色の肌をしたヘラス帝国第三皇女テオドラ。
 
 否、彼女だけではない。
 
「ハハハ、面白れぇガキじゃねぇか。あの二人に加え、ラカンのバカにも勝つつもりでいやがるたぁ!」
 
「流石は、彼の息子と言った所かしら」
 
 豪快な男性はメガロメセンブリアの元老院議員リカード。
 
 妙齢の女性は、既にネギとの面識もあるアリアドネーの騎士団総長セラス。
 
「お久しぶりね、ネギ君。……彼女達も」
 
 言って、ここまで彼女等を案内してきた夕映達に視線を送り、
 
「元気そうで安心したわ」
 
 握手を求めてきたセラスの手を握り返して肩を竦めたネギは三人の顔を見渡し、
 
「それで? 世界的なVIPが雁首揃えて一体何の用だ? つーか、アンタ等揃ってると色々ヤバイんじゃね?」
 
 言ってみれば、帝国と連合それぞれの2chで売国奴スレが乱立する程にヤバイ。
 
「安心して。防諜対策は万全よ」
 
「フン、取り敢えず一つだけ質問に答えろ。……本気で、あの三人に勝つつもりがあんのか?」
 
 真剣な眼差しで問い掛けてくるリカードに対し、ネギは不敵な笑みを浮かべると、
 
「当然だ。どんなド汚ぇ手段を使ってでも勝つ!」
 
 ネギの眼光に嘘偽りが無いのを確認すると、リカードは男臭い笑みを浮かべ、
 
「良いねぇ。その貪欲なまでの勝利への執念……。気に入った」
 
 ……最近の若造共は、妙にプライドが高くて泥に塗れた勝利よりも潔い敗北と誇りを選ぶ奴らが増えてきたが、――分かってるじゃねぇか。
 
 勝てば官軍。――栄誉ある敗北よりも、後ろ指をさされようとも掴む勝利に意味がある。
 
 実際の戦場では、どれだけ騎士道精神を貫こうとも、負ければそこで全てが終わりなのだ。
 
「よーし、なら俺達が修行を見てやる。あの闇の福音やラカンの野郎がナギ以外の奴に負ける所も見てみたいしな」
 
 体術はリカードが、戦闘魔法はセラスが、更にはテオドラもサポートをしてくれるとの事。
 
 ……こうして、万全の状態でネギ達の修行が始まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうした? どうした? ガキんちょ! 我流にしては大したもんだが、無駄が多い! 三日で基礎を叩き直してやる!」
 
 純粋な戦闘力では、リカードにそれほど劣っていない筈の小太郎が手も足も出ないのは、偏に経験値と戦闘方法の差だろう。
 
 小太郎が純粋に戦闘力の向上を目指す中、ネギといえば、
 
「……それで、あの男に対してどうやって対抗するつもり?」
 
 何しろ、ナギの“千の雷”でさえ気合いで防ぎきるような男なのだ。
 
 セラスに問い掛けられたネギは小さく頷き、
 
「火力だな」
 
 ネギの対ラカン攻略法。そのヒントはあの映画にあった。
 
 確かに、ナギの“千の雷”でさえ防いだラカンであるが、敵の親玉である造物主の攻撃の前には両腕を持って行かれている。
 
「……つまり、どれだけ出鱈目でも不死身でもなけりゃ、無敵でもないって事だ」
 
「まぁ、確かに一理あるでしょうけど、それだけの威力の魔法。――詠唱時間が半端じゃないわよ。
 
 一応、遅延魔法って手もあるでしょうけども……」
 
 消費魔力が大きいので、そうそう何度も使えるようなものではない。
 
「その点に関しては考えがあるから大丈夫。
 
 他にも切り札は幾つか用意してるしな……」
 
 とはいえ、それでも勝ち目が薄いのも事実。
 
 ……以前考えた“新しい魔法”をベースに発展させたネタもあるんだけども。
 
「――試してみるか」
 
 他に出来そうな事といえば、魔力の効率的な運用方法の実践や詠唱の短縮化、食事管理を含めた最大魔力量の底上げなどと言った地味なものばかりだ。
 
「……面倒臭そうだな」
 
「ほら、ぼやいてないで始めるわよ」
 
 そうぼやいていても始まらないのだ。
 
「うし、やるか!」
 
 頬を叩いて気合いを入れ直し、ネギもセラス指導も元、修行を開始した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 色々とシミュレートしてみた結果、ラカン・カゲタロウ組が勝ち上がってくると思われる決勝戦で鍵を握るのは小太郎という結論が出た。
 
 その為、彼の修行を優先させ、その間の試合は全てネギ一人で行う事になったのだが……。
 
「……ホンマに一人で大丈夫なんやろなアイツ」
 
 流石に今日の試合……、エヴァンジェリン・ネカネ組との試合くらいは二人で出た方が良いのではないか? という提案に対し、ネギは自信満々の態度で、
 
「超余裕だ。つーか、俺一人の方がやりやすい」
 
 と告げて、本当に一人で試合に出掛けて行った。
 
「あー……、滅茶苦茶心配や……」
 
「このガキ……」
 
 ネギの心配をしている小太郎自身、現在リカードと組み手の最中なのだが、一度コツを掴んでからの彼の成長は凄まじかった。
 
 元々、今が一番成長する時期なのもあり、確実にレベルアップを果たした小太郎は、片手間にリカードの攻撃を凌げる程に成長していた。
 
「ふん……、暫く見ない間に随分と面白い化け方をしたじゃないか」
 
 現れたのは小柄な人影。
 
 やって来た人物に、小太郎とリカードの二人は目を見開いて驚きを示す。
 
 それもその筈、彼らの前に姿を見せたのは、今、試合をしている筈のエヴァンジェリンだったからだ。
 
 その後ろにはネカネを首にぶら下げた状態のネギと、彼の応援に行った少女達がいる。
 
「なんや? もう試合終わったんか?」
 
 余りにも早すぎる。……それに、戦闘を行ったにしては誰からも血の臭いがしない。
 
 不審に思って問い掛けた小太郎に対し、あからさまに不機嫌なエヴァンジェリンはキツイ眼差しで彼を睨み付けると、
 
「思い出させるな、胸くその悪い! いいか犬、これから決勝戦まで私が直々に八つ当たり込みで鍛えてやる。
 
 ありがたく思え」
 
「何やそれ!?」
 
「五月蠅い。ガタガタぬかすな」
 
 言いながらも、無造作に投げられた。
 
 それに対し、辛うじて空中で反転し足から着地することに成功した小太郎。
 
「ほう……、思ったよりも成長の度合いが早いようだな。
 
 なら、これからは投げ技と関節技をメインに教えてやろう」
 
 嗜虐的な笑みを浮かべるエヴァンジェリンに、早くも後悔を始める小太郎。
 
 ……つーか、ホンマに何したねん。
 
「……で? 本当の所はどうやったんだよ、ぼーず」
 
 手持ち無沙汰になったリカードがネギに問い掛けると、ネギは邪悪な笑みを浮かべて、
 
「なに、主人として使い魔に命令しただけだ」
 
 エヴァンジェリンはナギの掛けた“登校地獄”の呪いを解いて解放されたわけではなく、呪いの上からネギが新たに契約を上書きする形で誤魔化しているだけだ。
 
 そして、その際に彼とエヴァンジェリンとの間で交わされた契約というのが――、
 
「使い魔の契約ってか……」
 
 主人権限で、エヴァンジェリンに負けを認めろと命令したらしい。
 
 当然、それを阻止しようとネカネが攻撃を仕掛けようとしたのだが、ネギはそれを予測した上で自らに年齢詐称薬を用い、5,6歳程の幼児形態になるとネカネに甘えだした。
 
 彼を溺愛するネカネが、そんな愛くるしいネギに攻撃など出来よう筈もなく、呆気なく敗退。
 
 試合に納得のいかない観客席から凄まじいブーイングが起こったのだが、ネギが涙目で「お姉ちゃん、怖い」と言った瞬間、ネカネは“闇の魔法”を発動させて、一撃で観客席を守る魔法障壁を破壊。
 
 艦載砲すら防ぐと言われる障壁が呆気なく破壊された挙げ句、それを成した者の殺気が自分達に向けられているとなれば、観客達はブーイング所の騒ぎではなく、騒ぎは一気に沈静化し、それを満足そうに見渡したネカネはネギと一緒に手を繋いで闘技場を後にした。
 
 一通りの説明を受けたリカードは幻痛の走るこめかみを押さえつつ、
 
「いや、その勝ちへの執念は買うが、……聞いてた以上に、手段を選ばねぇなお前」
 
 十二分な実力があるくせに、平気で卑怯な手段を用いる。
 
 巨悪である筈のエヴァンジェリンさえ出し抜く小悪党。
 
 ネギ自身、正義であるつもりは毛頭無いだろう。
 
 ……だからこそ、“完全なる世界”に対抗出来るってか。
 
 なまじっか正義などを掲げていると、相手の理論に論破された場合や世界を人質に取られた場合に手が出せなくなる可能性が高い。
 
 ナギがどういうつもりでネギを育ててきたのかは分からないが、彼に期待しているのは間違い無いだろう。
 
「親馬鹿なこった」
 
 誰にとはなく零し、リカードはポケットから煙草を取り出すと火を付けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 決勝戦まで、現実時間で後3日。
 
 ――本来ならば、準決勝から決勝まで一日しか開きはなかったのだが、ネカネが闘技場を破壊してくれたお陰で、大闘技場の魔法障壁が強化される事となり、その作業に思ったよりも時間が掛かる事になったのは嬉しい誤算である。
 
 そんなある日の事、朝になってもネギ、小太郎の両名が起きてこないので不審に思って起こしにきた茶々丸妹は、ダブルノックダウン状態でぶっ倒れている二人を発見した。
 
「まったく……。明け方辺りから、ドタバタしてるかと思ったら、何をしていたのだか……」
 
 事情を聞いたテオドラが呆れ混じりに告げる。
 
 ネギ、小太郎双方共に血が出るまで念入りに歯磨きを繰り返していたが、やがて満足したのか口を濯ぎ、
 
「取り敢えず、死ぬ程嫌だったが新しい切り札を用意した」
 
 言ってネギが懐から取り出したのは、
 
「仮契約カード」
 
 裏面に描かれているのは小太郎の姿。
 
「も、もしかして……、さっきから二人が執拗に歯磨きしてるのって……」
 
「思い出させんな!」
 
 一応、他にも方法はあるのだが、時間が掛かるので一番手っ取り早い方法を選んだ。
 
「なんで!? どうして、その時に呼んでくれなかったの!!」
 
 本気で残念がっているのはハルナだ。
 
 取り敢えず、想像図としてスケッチブックに二人が絡み合う絵を描いたので、速攻で燃やしておいた。
 
「つーわけで、アスナ、それと綾瀬」
 
「へ? 私」
 
「私もですか?」
 
 突然名を呼ばれ、意味が分からない二人の少女に対し、ネギは小太郎の頭に手を添えると、
 
「今日から決勝戦当日までは、お前等がこの犬の師匠な」
 
 何か考えがあるのか? まるで悪戯を思いついた悪餓鬼のような表情でネギが笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 更に時は流れ……、遂に決勝戦当日。
 
 別荘から現実世界に姿を現したネギと小太郎を少女達が待ち構えていた。
 
「ネギ老師、注文のあった代物、完成してるヨ」
 
「おう、ご苦労」
 
 超からネギに手渡されたのは純白の外套だ。
 
「何それ?」
 
 試合用の新しい衣装なら、リカードが用意してくれると言ってくれたのに、それを断りネギは自前で用意した。
 
 勿論、ネギがそんな行動に出る辺り、まともな代物ではないのだろう。
 
 そう思い、不審げに問い掛ける明日菜に向け、ネギは不敵な笑みを浮かべると、
 
「切り札だ」
 
「切り札ばかりですね」
 
「あの化け物相手にゃ、これでもまだ少ないくれぇだ」
 
 ともあれ、
 
「首尾は? ちゃんと出来るようになったんだろうな?」
 
「当然や。つーか、お前の方はどないやねん?」
 
 問い掛ける小太郎に対し、ネギは自信に満ちた表情で自身を指すと、
 
「ふん……、今日から俺の事は“千の呪文の男”と呼べ」
 
 一拍。
 
 彼の言葉の意味を理解出来た者達が感嘆の声を挙げた。
 
「マジか!? ナギみたいな吹かしじゃなくて、ホントに!?」
 
「えぇ、片っ端から禁呪の巻物を読み漁ってくれたわ」
 
 中には“世界の始まりと終わりの魔法”とかいうある条件を満たした上でならば世界を滅ぼせるという危険極まりないものも混じっていたが、流石にそれは今回の試合では使わないだろう。
 
 というか、使って欲しくない。
 
「これで日頃の行いがよければ、“偉大なる魔法使い”も夢ではないというのに……」
 
「むしろ、お尋ね者ですから……」
 
「……いえ、まだ手遅れではありません。ちゃんと更正してもらえれば、まだ手遅れではない筈!」
 
 決意新たにネギの更正を誓う高音だが、肝心のネギ本人にそのつもりは毛頭無い。
 
「そんじゃまぁ……、ちょっくら優勝してくるか」
 
「そやな」
 
 ネギと小太郎は拳を軽く合わせ、ラカンとカゲタロウの待つ大闘技場へと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 収容人数12万人。中央アリーナ部分の直径300mを誇る大闘技場。
 
 それがナギ・スプリングフィールド杯の決勝戦を行う舞台だ。
 
 現在、前座として魔法世界で人気沸騰中のアイドル。柿崎・美砂によるミニライブが行われており、VIP用の観覧席では、その様子を眺めていたリカードが、
 
「誰だ? あの娘は……」
 
「知らないの?」
 
 相変わらず、そっち方面には鈍いわね、と零しつつ、
 
「彼女こそ、代役からチャンスを掴みスターの座を駆け上がっている、超時空シンデレラ美砂ちゃんじゃない!」
 
 と力説するセラス。
 
 むしろ、試合よりも柿崎のミニライブを見に来ている客も居るくらいだ。
 
 ちなみにプロデュースは千雨。ネギが手広く経営している業務の一角を担っている。
 
 やがてミニライブも終了し、通路に戻ってきた柿崎を迎えたのは、ネギと小太郎だ。
 
「前座、ご苦労」
 
 言って、タオルとスポーツドリンクの入ったペットボトルを渡してやる。
 
 対する柿崎はタオルで汗を拭いながら、
 
「会場の方は暖めておいたけど、――先生、勝てる見込みはあるの?」
 
 ラカンの出鱈目な強さは嫌でも耳に入ってくる。
 
「あぁ、余裕余裕」
 
 そう嘯いてはいるが、何時もの彼と比べると若干表情が硬い。
 
 それ程までに厄介な相手。……否、常人ならばまかり間違っても立ち向かおうと思わない程に異常な強さを持った相手なのだ。そんな相手に挑もうというのは、どれだけの恐怖心があるというのだろう。
 
 ――正直な話、逃げ出したとしてもおかしくはない。
 
 だと言うのに、ネギと小太郎の口元にはうっすらと笑みすらある。
 
 ……なんだかんだ言っても、熱血好きな男の子ってわけか。……そういうのも、結構好きかも、ね。
 
「そ。……それじゃ、がんばって」
 
 言って、擦れ違いざま、ネギと小太郎の頬に触れるだけの軽いキスを送る。
 
「超時空シンデレラ様の御利益付き。かっこいい所、見せてよ先生」
 
「俺は常にかっこいいだろ」
 
「準決勝の録画見たけど、最高にかっこ悪かったわ」
 
 小太郎のツッコミに対し、どちらからともなく笑い、
 
「んじゃ征くか」
 
「おう!」
 
 気合いを入れて駆け出した。
 
 まず、勢いよくアリーナに飛び出して来たのは、ネギ・小太郎組。
 
 彼らが姿を現した途端、ブーイングが巻き起こる。
 
「どんなけ嫌われとんねん、お前」
 
「ツンデレなんだろ」
 
 とはいえ、当の本人達は気にした様子は微塵も無いが。
 
 そんな二人の試合用の衣装はこれまでの物と異なっていた。
 
 袖を捲った黒の長衣の背中には狗一文字という衣装の小太郎に対し、袖口に青の意匠を施した純白の外套姿のネギ。
 
 その背中に埋め込まれている大型の懐中時計のような物が僅かに違和感を感じさせるものの、それに気付く事が出来た者は何人居ただろうか?
 
 そんなネギ・小太郎組に対し、悠々と王者の風格を持って入場してきたのはラカン・カゲタロウ組だ。
 
「よく来たなぼーず。……言っとくが、俺に準決勝のような小細工は通用しねぇと思え」
 
 獰猛な笑みを見せるラカンに対し、ネギも口元を吊り上げ、
 
「心配すんなジャック。アレは、決勝を万全の状態で戦う為の策略だ。――この試合は、正々堂々真っ正面から戦ってやるよ」
 
 一息、
 
「小太郎がな!」
 
 相棒を前面に差し出しつつ宣言する。
 
「お前じゃねぇのかよ!?」
 
「バカ野郎。このインテリ系好青年な俺が、何で暑苦しいマッチョと正面からやり合わなきゃならねぇんだよ」
 
 そもそも、そういう戦闘スタイルのキャラではないのだ。
 
「まぁ、安心しろ。良い具合に修行つけてやったからな!」
 
「別に、お前に修行つけてもろたわけちゃうけどな!」
 
 それを聞いたラカンは口元を歪め、
 
「なるほどな……、オーソドックススタイルを貫くわけか」
 
「ふん、付け焼き刃で勝てるような甘い相手でもねぇからな……、全力全開! ありとあらゆる手段を使って勝ちにいく!」
 
「良いねぇ。――やってみせろ、ぼーず!」
 
 ……やってやるさ。
 
 小太郎との一瞬の目配せ、――次の瞬間、試合開始のゴングが大闘技場に鳴り響いた。
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